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数学ノートについて
B.2 同相だが $C^{0}$ 級同相でない例
B.2.1 前提

[田村 微分位相幾何学]ではEuclid空間の一般の部分集合 $A\subset \R^{n}$ 上で定義された実ベクトル値写像 $f : A\to \R^{m}$ が $C^{r}$ 級であることを、各 $x\in A$ に対してその $\R^{n}$ における開近傍 $U_{x}$ 上定義された $($通常の意味の$)$ $C^{r}$ 級写像 $g_{x} : U_{x}\to \R^{m}$ であって $g_{x}|_{A\cap U_{x}} = f|_{A\cap U_{x}}$ を満たすものが存在することと定め、部分集合 $A\subset \R^{n}$ と $B\subset \R^{m}$ が $C^{r}$ 級同相であることを互いに逆を与える $C^{r}$ 級写像 $f : A\to B$, $g : B\to A$ が存在することで定義しています。

そして、解説の中で「 $C^{0}$ 同相とは同相のことである」と書いてあるのですが、それには反例があるので紹介します。

B.2.2 補題

$1$ つ補題を用意します。

補題B.2.1

閉包が区間になる部分集合 $A\subset \R$ 上で定義された狭義単調増加な連続写像 $f : A\to \R$ は $($位相的な$)$ 埋め込みである。

証明

$B := \Img f$ として逆写像 $g: B\to A\subset \R$ の連続性を示せばよいです。$y_{0}\in B$ を取り、その点における連続性を確かめます。任意に正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。実数 $s\in \R$ を $y_{0}\in B$ が最小元であれば $s := y_{0} - 1$ に取り、最小元でなければ $g(y_{0}) - \varepsilon < x < g(y_{0})$ である $x\in A$ を取って $s := f(x)$ と定めますここで $x$ を取るために閉包 $\overline{A}$ が区間になること $($この範囲で $A$ が稠密であること$)$ を使用。。また、実数 $t\in \R$ を $y_{0}\in B$ が最大元であれば $t := y_{0} + 1$ に取り、最大元でなければ $g(y_{0}) < x < g(y_{0}) + \varepsilon$ である $x\in A$ を取って $t := f(x)$ と定めます。$\delta := \min \{|s - y_{0}|, |t - y_{0}|\}$ とすれば $|y - y_{0}| < \delta$ である任意の $y\in B$ に対して $|g(y) - g(y_{0})| < \varepsilon$ であるので $g$ は $y_{0}$ において連続です。よって、$g$ は連続であり、$f$ は埋め込みです。

B.2.3 反例の構成

反例を構成します。

定理B.2.2
(同相だが $C^{0}$ 級同相でない部分集合)

開区間 $(0, 1)$ から正整数 $p, q$ を用いて $\tfrac{p}{2^{q}}$ の形で表される有理数全てを取り除いた集合を $A$ と定め、写像 $f : A\to \R$ を二進展開を用いて\[f(0.x_{1}x_{2}x_{3}\dots) := \sum_{n = 1}^{\infty}3^{-n}x_{n}\]と定める。また、$B := \Img f$ と定める。次が成立する。

(1) 制限 $f : A\to B$ は同相写像である。つまり、$A$ と $B$ は同相である。
(2) 任意の全単射 $g : A\to B$ は $C^{0}$ 級写像ではない。よって、$A$ と $B$ は $C^{0}$ 級同相ではない。
証明

(1) 閉包 $\overline{A}$ は明らかに単位区間です。$f$ が狭義単調増加であることも明らか。あとは $f$ が連続であることを示せば補題B.2.1よりこれが同相写像と分かります。点 $x = 0.x_{1}x_{2}x_{3}\dots\in A$ における連続性を確かめます。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$A$ の取り方からあるところから先の $x_{n}$ が全て $0$ になることも全て $1$ になることも無く、つまり、列 $x_{1}, x_{2}, x_{3}, \dots$ には $0, 1$ がそれぞれ無数に現れます。そこで、正整数 $m$ を $x_{m} = 1$ かつ $x_{m + 1} = 0$ かつ $2^{-m} < \varepsilon$ に取ります。正実数 $\delta := 2^{-(m + 1)}$ を取れば、$|y - x| < \delta$ を満たす任意の $y = 0.y_{1}y_{2}y_{3}\dots\in A$ に対し、$y_{n}\neq x_{n}$ となるのが $n\geq m$ に限ることに注意して、\[|f(y) - f(x)|\leq \sum_{n = 1}^{\infty}3^{-n}|y_{n} - x_{n}|\leq \sum_{n = m}^{\infty}3^{-n} = 2^{-1}3^{-(m - 1)}\leq 2^{-m} < \varepsilon\]が成立します。よって、$f$ は $x$ において連続です。

(2) 全単射 $g$ が $C^{0}$ 級として矛盾を導きます。点 $x_{0}\in A$ を取り、その開近傍 $U$ への連続拡張 $h : U\to \R$ を取ります。ただし、$U$ は開区間とします。$(\Int B^{c})\cap \Img h\neq \varnothing$ を示します。もしこれが示されれば、$h(x)\in \Int B^{c}$ となる点 $x\in U$ が存在し、その点おいて $h$ の不連続性が従い$x\in U$ のいくらでも近くに $A$ の点が取れるが、その $h$ による像は $B$ に属すため、$h(x)\in \Int B^{c}$ とは一定の差があり不連続。、矛盾が導かれます。

適当に $A\cap U$ の相異なる $2$ 点 $p, q$ を取ります。$h(p) = g(p)\neq g(q) = h(q)$ であり、中間値の定理より $\Img h$ は $B$ の相異なる $2$ 点 $s < t$ を端点とする閉区間 $J$ を含みます。$(\Int B^{c})\cap J\neq \varnothing$ を示せばよいです。$s$ は無数に $0$ が現れる $0, 1$ の列 $x_{1}, x_{2}, \dots$ を用いて $s = \sum_{n = 1}^{\infty}3^{-n}x_{n}$ と表すことができ、$s < t$ よりある正整数 $N$ が存在して $x_{N} = 0$ かつ\[s < \sum_{n = 1}^{N - 1}3^{-n}x_{n} + \sum_{n = N + 1}^{\infty}3^{-n} < \sum_{n = 1}^{N - 1}3^{-n}x_{n} + 3^{-N} < t\]です。ここで、$\sum_{n = 1}^{N - 1}3^{-n}x_{n} + \sum_{n = N + 1}^{\infty}3^{-n}$ から $\sum_{n = 1}^{N - 1}3^{-n}x_{n} + 3^{-N}$ までの開区間は $B$ と交わりを持たずかつ $J$ に含まれます。これは $(\Int B^{c})\cap J\neq \varnothing$ を意味します。

以上です。

メモ

特になし。

参考文献

[1] 田村一郎 微分位相幾何学Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1977-1978)
[2] John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds Second Edition, Springer-Verlag, New York, GTM 218 (2012)

更新履歴

2024/11/02
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