$M, N$ を可微分多様体とし、$f : M\to N$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。
可微分多様体 $M$ 上の任意の $C^{\infty}$ 級関数 $f\in C^{\infty}(M)$ に対し、その臨界点集合 $\Crit f$ は $1$ 階外微分 $df$ の零点集合に等しい。特に、$f$ の最大値および最小値を取る点は内点であれば臨界点である。よって、$1$ 次元以上の可微分閉多様体上の $C^{\infty}$ 級関数の臨界点集合は必ず $2$ 点以上からなる。
$\R$ の標準的な $1$ 次微分形式を $dt$ とすれば $df = f^{*}dt$ であり例えば、座標近傍を取って直接計算することで分かります。、\[(f^{*}dt)_{p} = 0 \Leftrightarrow {}^{\forall}v\in T_{p}M, \, dt(f_{*}v) = 0 \Leftrightarrow {}^{\forall}v\in T_{p}M, \, f_{*}v = 0 \Leftrightarrow (f_{*})_{p} = 0\]なので分かります。
内点であるような正則点 $p\in \Reg f$ において $f$ が最大値を取らないことを示します。まず、$v\in T_{p}M$ であって $df_{p}(v) \neq 0$ であるものを取り、さらに $v$ を代表する曲線 $c : (-\varepsilon, \varepsilon)\to M$ を取ります。このとき、$\tfrac{d(f\circ c)}{dt}(0) \neq 0$ なのである $a\in (-\varepsilon, \varepsilon)$ であって $f(c(a)) > f(c(0)) = f(p)$ となるものが取れます。よって、$f$ は $p\in M$ において最大値を取りません。同様に $p$ において最小値も取りません。
$1$ 次元以上の可微分閉多様体上の $C^{\infty}$ 級関数 $f$ に対し、もし $f$ が定数関数ならば $\# \Crit f = \# M \geq 2$ であり、定数関数でないならば最大値と最小値を取る点が必ず異なるので $\# \Crit f \geq 2$ となります。
以下では可微分多様体間の $C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ の臨界値集合 $f(\Crit f)$ がLebesgue測度 $\mu$Lebesgue測度 $\mu$ とは、Lebesgue可測集合と呼ばれるEuclid空間の部分集合たちからなる族の上で定義された非負値関数であって、各Lebesgue可測集合に対してその体積と呼ぶべき値を返すものです。事実として、Riemann積分の意味での体積確定集合 $A$ はLebesgue可測集合であって、そのRiemann積分論における体積 $\vol(A)$ とLebesgue測度 $\mu(A)$ は等しくなります。の意味で十分小さいことを主張するSardの定理を示します。Legesgue積分論を既知として話を進めるので、その詳細については[伊藤 ルベーグ積分入門]などを参照してください。
Euclid空間 $\R^{n}$ の部分集合 $A$ が零集合であるとは、$A$ がLebesgue可測集合でありかつその測度 $\mu(A)$ が $0$ であることをいう。
可微分多様体 $M$ の部分集合 $A$ が零集合であるとは、任意の局所座標系 $\varphi : U\to V$ に対して $\varphi(U\cap A)\subset V\subset \R^{n}$ が零集合であることと定める。
Lebesgue可測集合、Legesgue測度に関する基本的な性質をまとめておきます。
以下では $C^{\infty}$ 級関数 $f : \R^{n}\to \R$ の $x\in\R^{n}$ における $k$ 次微分を $D^{k}f(x)$ と書き[杉浦 解析入門]では $(d^{k}f)_{x}$ と書いています。、$f$ の $x$ におけるTaylor展開は\[f(x + h) = \sum_{k = 0}^{r - 1}\dfrac{1}{k!}D^{k}f(x)h^{k} + \dfrac{1}{r!}D^{r}f(x + \theta h)h^{r}\]のように書くとします。ただし、$0 < \theta < 1$ は $x, h$ に依存する値です。
また、$k$ 階偏微分に関する項 $(\partial^{k}f/{\partial x_{1}}^{k_{1}}\dots {\partial x_{n}}^{k_{n}})(x)h_{1}^{k_{1}}\dots h_{n}^{k_{n}}$ を多重指数 $\alpha = (k_{1}, \dots, k_{n})\in \N^{n}$ を用いて単に $D^{\alpha}f(x)h^{\alpha}$ と表すことにします。また、$|\alpha| = k = \sum_{i = 1}^{n}k_{i}$ を全次数とします。
可微分多様体 $M, N$ に対し、$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ の臨界値集合 $f(\Crit f)\subset N$ の零集合である。
局所座標系を固定して示せばよいので最初から $N = \R^{p}$ としてよく、また、$M$ は高々可算個の座標近傍で覆えるので $M = \R^{n}$ としてよいですあまり細かく気にする必要もない境界の扱いについてですが、例えば、$N$ については $\Rp^{p}\subset\R^{p}$ であること、$M$ ついては $M = \partial M \sqcup \Int M$ と境界を持たない多様体に分けられることを考え、最初から境界を持たないとします。。そこで最初から $f : \R^{n}\to \R^{p}$ に対して示します。$i \geq 1$ に対して\[C_{i} = \{x\in\R^{n}\mid D^{\alpha}f(x) = 0 \text{ for all } \alpha \text{ with } 1 \leq |\alpha| \leq i.\}\]と定め、写像 $f$ を明示するときは $C_{i}(f)$ と書くことにします。以下の流れで示します。
(step 1) $\R^{n}$ は可算個の閉立方体により被覆できるので、$n$ 次元閉立方体 $Q\in\R^{n}$ に対して $\mu(f(C_{r}\cap Q)) = 0$ を示せば十分です。つまり、$f(C_{r})$ は高々可算個の零集合 $f(C_{r}\cap Q)$ の和集合なので零集合です。$Q$ の $1$ 辺の長さは $R > 0$ としておきます。
いま、Taylorの定理より $f$ は各 $x\in Q$ において\[f(x + h) = \sum_{k = 0}^{r}\dfrac{1}{k!}D^{k}f(x)h^{k} + \dfrac{1}{(r + 1)!}D^{r + 1}f(x + \theta h)h^{r + 1} \, (0 < {}^{\exists}\theta < 1)\]と展開され、その剰余項は $D^{r + 1}f$ の連続性と $Q$ のコンパクト性によりある正実数 $K > 0$ を用いて\[\left\|\dfrac{1}{(r + 1)!}D^{r + 1}f(x + \theta h)h^{r + 1}\right\|_{\infty} < K\|h\|_{\infty}^{r + 1}\]と $x$ に関して一様に評価されます。特に $x = a\in C_{r}$ とすれば\[\|f(a + h) - f(a)\|_{\infty} < K\|h\|_{\infty}^{r + 1}\]です。
立方体 $Q$ の各辺を $l$ 等分することで $l^{n}$ 個の小立方体 $Q_{1}, \dots, Q_{l^{n}}$ に分割し、そのうちで $C_{r}$ と交わる小立方体全体からなる族を $A$ とおきます。各 $Q'\in A$ に対し $a\in C_{r}\cap Q'$ なる点を取れば任意の $x\in Q'$ に対して\[\|f(x) - f(a)\|_{\infty} < K\|x - a\|_{\infty}^{r + 1} < K(R/l)^{r + 1}\]なので $f(Q')$ は $f(a)$ を中心とする $L^{\infty}$-normに関する $K(R/l)^{r + 1}$ 近傍に含まれ\[\mu(f(Q')) < (2K)^{p}(R/l)^{p(r + 1)}\]が分かります。$f(C_{r}\cap Q)$ は高々 $l^{n}$ 個のこのような $f(Q')$ たちによりおおわれるので\[\mu(f(C_{r}\cap Q)) \leq l^{n}\cdot (2K)^{p}(R/l)^{rp + p} < (2K)^{p}R^{p(r + 1)}l^{-p}\xrightarrow{l\to\infty} 0 \]となり $\mu(f(C_{r}\cap Q)) = 0$ です。途中、$f(Q')$ や $f(C_{r}\cap Q)$ が $\R^{p}$ の閉集合、よって、Lebesgue可測集合であるために $\mu(f(Q'))$ や $\mu(f(C_{r}\cap Q))$ が定義されていることには注意します。
(step 2) $n \leq p$ のときは(step 1)より $\mu(f(C_{k}\setminus C_{k + 1}))\leq \mu(f(C_{1})) = 0$ なのでよいです。$n > p$ に対しては $n$ に関する帰納法により示すため、$n - 1$ まではよいとしておきます。
$a\in C_{k}\setminus C_{k + 1}$ とし、その開近傍 $U_{a}$ であって $\mu(f(C_{k}\cap U_{a})) = 0$ となるものの存在を示します。もしこれが示されれば、このような $U_{a}$ たちから高々可算個を取って $C_{k}\setminus C_{k + 1}$ の開被覆を得られるいったんこのような $U_{a}$ たち全体を考え、$\R^{n}$ のLindelöf性を使って高々可算な被覆を構成する。ので $f(C_{k}\setminus C_{k + 1})$ は高々可算個の零集合 $f(C_{k}\cap U_{a})$ たちの和集合、よって、零集合になります。
$\alpha = (k_{1}, \dots, k_{n})\in \N^{n}$ であって $|\alpha| = k + 1$ かつ $D^{\alpha}f(a)\neq 0$ となるものを取り、簡単のために $k_{1} > 0$ かつ $D^{\alpha}f_{1}(a)\neq 0$、ただし $f_{1}$ は $f$ の第 $1$ 成分、としておきます。$\beta = (k_{1} - 1, k_{2}, \dots, k_{n})$ とし、$h = D^{\beta}f_{1}$ とおきます。$C^{\infty}$ 級写像 $\psi : \R^{n}\to \R^{n}$ を\[\psi(x_{1}, \dots, x_{n}) = (h(x), x_{2}, \dots, x_{n})\]により定めれば $\psi$ は $a$ において正則であり、逆関数定理から $a$ の開近傍 $U$ と $\psi(a)$ の近傍 $V$ であって $\psi : U\to V$ が $C^{\infty}$ 級同相となるものが取れます。$\psi(C_{k}\cap U)\subset V\cap (h(C_{k}\cap U)\times \R^{n - 1}) = V\cap (\{0\}\times \R^{n - 1})$ となることに注意します。
$\varphi : V\to \R^{p}$ を $\varphi = f\circ \psi^{-1}$ により定めるとき\[\psi(C_{k}\cap U) \subset \psi(C_{1}\cap U)\cap (\{0\}\times \R^{n - 1}) \subset C_{1}(\varphi)\cap (\{0\}\times \R^{n - 1})\]であり、さらに、$g = \varphi|_{V\cap (\{0\}\times \R^{n - 1})}$ とすれば $C_{1}(\varphi)\cap(\{0\}\times \R^{n - 1})\subset C_{1}(g)$ です。よって、$f(C_{k}\cap U)\subset g(C_{1}(g))$ ですが、帰納法の仮定より $g(C_{1}(g))$ は零集合なので $f(C_{k}\cap U)$ もそうです。
(step 3) まず、$p = 1$ の場合は $\Crit f = C_{1}$ なのですでに示しています。以降、$p$ に関する帰納法により示すため、$p - 1$ まではよいとしておきます。
$a\in \Crit f\setminus C_{1}$ とし、その開近傍 $U_{a}$ であって $\mu(f(\Crit f\cap U_{a})) = 0$ となるものの存在を示せば十分です。簡単のために $\partial_{x_{1}}f_{1}(a)\neq 0$ とし、$C^{r}$ 級関数 $\psi : \R^{n}\to \R^{n}$ を\[\psi(x_{1}, \dots, x_{n}) = (f_{1}(x), x_{2}, \dots, x_{n})\]により定めます。逆関数定理より $a$ の開近傍 $U$ と $\psi(a)$ の近傍 $V$ であって $\psi : U\to V$ が $C^{\infty}$ 級同相となるものが取れます。いま、$C^{\infty}$ 級関数 $\varphi : V\to \R^{p}$ を $\varphi = f\circ \psi^{-1}$ により定めれば、
が成立します。$g_{t} = \varphi|_{V\cap(\{t\}\times \R^{n - 1})} : V\cap(\{t\}\times \R^{n - 1})\to \{t\}\times \R^{p - 1}$ とおけば $\varphi$, $g_{t}$ のJacobi行列について\[J_{\varphi}(t, x_{2}, \dots, x_{n}) = \left[\begin{array}{cc}1 & O_{1,n - 1} \\* & J_{g_{t}}(x_{2}, \dots, x_{n})\end{array}\right]\]となっているので $\Crit g_{t} = \Crit \varphi\cap(\{t\}\times \R^{n - 1})$ が成立します。帰納法の仮定より $\mu(\varphi(\Crit\varphi)\cap (\{t\}\times \R^{p - 1})) = \mu(g_{t}(\Crit g_{t})) = 0$ なので、あとは $f(\Crit f\cap U)$ がLebesgue可測集合であればFubiniの定理から $\mu(f(\Crit f\cap U)) = \mu(\varphi(\Crit\varphi)) = 0$ が分かります。しかし、これは $U$ が可算個のコンパクト集合で被覆されること、よって、$\Crit f\cap U$ が可算個のコンパクト集合で被覆されることから $f(\Crit f\cap U)$ もそうなので分かります。
微分可能性について、以下のように条件を課しても成立することが知られています。
$M^{n}, N^{p}$ を可微分多様体とし、$r \geq \max\{n - p + 1, 1\}$ とする。このとき、$C^{r}$ 級写像 $f : M\to N$ の臨界値集合 $f(\Crit f)\subset N$ は $N$ の零集合である。
以上です。
特になし。
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