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数学ノートについて
第4章 Lie群

Lie群とLie代数についてまとめます。あまり深入りはしません。

4.1 Lie群の定義
目次

Lie群を定義し、いくつか基本的な用語を準備します。

定義4.1.1

$G$ を群構造の与えられた位相空間とする。群構造から定まる写像\[G\times G\to G : (g, h)\mapsto gh,\]\[G\to G : g\mapsto g^{-1}\]がともに連続であるとき $G$ を位相群という。

位相群 $G$ が可微分多様体であり、さらに、これらの写像が $C^{\infty}$ 級写像であるとき $G$ をLie群という。

Lie群の基本的な例として次のようなものがあります。

例4.1.2

(a) $n$ 次元Euclid空間 $\R^{n}$ は通常の加法に関してLie群になります。
(b) $S^{1} = \{z\in \C\mid |z| = 1\}$ は通常の積に関してLie群になります。また、これらの直積である $n$ 次元トーラス $T^{n}$ もLie群になります。
(c) $S^{3} = \{q\in \mathbb{H}\mid |q| = 1\}$ は通常の積に関してLie群になります。
(d) $($実$)$ 一般線型群 $GL(n; \R)$、$($実$)$ 特殊線型群 $SL(n; \R)$、直交群 $O(n)$、特殊直交群 $SO(n)$ はLie群です。それぞれ\[GL(n; \R) = \{A\in M(n; \R)\mid \det A\neq 0\}\]\[SL(n; \R) = \{A\in M(n; \R)\mid \det A = 1\}\]\[O(n) = \{A\in M(n; \R)\mid A^{T}A = I_{n}\}\]\[SO(n) = \{A\in M(n; \R)\mid \det A = 1, \ A^{T}A = I_{n}\}\]により定義されます。
(e) $($複素$)$ 一般線型群 $GL(n; \C)$、$($複素$)$ 特殊線型群 $SL(n; \C)$、ユニタリ群 $U(n)$、特殊ユニタリ群 $SU(n)$ はLie群です。それぞれ\[GL(n; \C) = \{A\in M(n; \C)\mid \det A\neq 0\}\]\[SL(n; \C) = \{A\in M(n; \C)\mid \det A = 1\}\]\[U(n) = \{A\in M(n; \C)\mid A^{*}A = I_{n}\}\]\[SU(n) = \{A\in M(n; \C)\mid \det A = 1, \ A^{*}A = I_{n}\}\]により定義されます。

他にも次のようなLie群もあります。

例4.1.3

(a) 特殊直交群 $SO(n)$ の連結二重被覆空間 $Spin(n)$ には群構造を与えることができLie群になります。これをスピン群といいます。
(b) symplectic群 $Sp(2n; \R)$ はLie群です。これは $\Omega = \left[\begin{array}{cc}O_{n} & I_{n} \\ -I_{n} & O_{n}\end{array}\right]$ とおくとして\[Sp(2n; \R) = \{A\in M(2n; \R)\mid A^{T}\Omega A = \Omega\}\]により定義されるもので、意味合いとしてはsymplectic形式偶数次元線形空間 $V$ 上に定義された双線型形式 $V\times V\to \R$ であって、適当な基底に関する表示が上の $\Omega$ になるもの。を保つ線型変換全体からなる群になります。$($直交群が正値対称形式を保つ線型変換であったことに注意。$)$
(c) 射影特殊線型群 $PSL(n; \K)$ はLie群です。これは特殊線型群 $SL(n; \K)$ のその中心による剰余群として定義されます。
(d) $3\times 3$ の上三角行列であって対各成分が全て $1$ であるもの全体からなる群\[\left\{\left[\begin{array}{ccc}1 & x & y \\0 & 1 & z \\0 & 0 & 1\end{array}\right]\in M(3; \R)\relmid x, y, z\in \R\right\}\]はHeizenberg群と呼ばれるLie群です。

Lie群の間の準同型と同型を定義します。

定義4.1.4

$G, H$ をLie群とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : G\to H$ が群準同型であるときLie群の準同型という。Lie群の準同型が $C^{\infty}$ 級同相写像でもあるときLie群の同型といい、$G$ と $H$ は $($Lie群として$)$ 同型であるという。

続いてLie部分群を定義します。

定義4.1.5

Lie群 $G$ の部分群 $H\subset G$ であって、単射はめ込みであるようなLie群の準同型の像となるものを $G$ のLie部分群という。連結Lie群からの単射はめ込みであるようなLie群の準同型の像となるものを $G$ の連結Lie部分群という。Lie部分群が $G$ の閉集合であれば閉Lie部分群という。

Lie群の可微分多様体への作用を考えることも多いので、そのための用語を準備しておきます。

定義4.1.6

可微分多様体 $M$ とLie群 $G$ が与えられているとする。$C^{\infty}$ 級写像 $G\times M\to M : (g, p)\mapsto g\cdot p$ が任意の $p\in M$ と $g, h\in G$ に対して $(gh)\cdot p = g\cdot (h\cdot p)$ を満たしているとき、これを $G$ の $M$ への $C^{\infty}$ 級左作用という。同様に $C^{\infty}$ 級右作用を定義する。

また、通常の群作用のように、作用 $G\times M\to M$ が自由であるとは任意の $g\in G\setminus\{e\}$ と $p\in M$ に対して $g\cdot p\neq p$ が成立することをいい、作用が推移的であるとは任意の $p, q\in M$ に対して $g\cdot p = q$ となる $g\in G$ が存在することをいいます。

補足4.1.7

Lie群が一般に持つ明らかな性質を並べておきます。

(a) Lie群 $G$ の座標近傍 $(U, \varphi)$ と $g\in G$ に対し、写像 $L_{g} : G\to G : h\mapsto gh$ を用いて表される対 $(L_{g}(U), \varphi\circ L_{g}^{-1})$ はまた座標近傍を定めます。よって、内点の開近傍を境界の開近傍に同相で写せないことからLie群は境界を持ちません。
(b) Lie群の単位元の属する連結成分はLie部分群です。というのは、単位元の連結開近傍 $U$ を固定してその元どうしを任意有限回掛けて得られる $G$ の元全体からなる集合を $\tilde{U}$ とすれば、これは部分群であり、集合として単位元の属す連結成分に一致するからです部分群になっていることは明らか。あとは $\tilde{U}$ が連結かつ閉かつ開であることを示せばよいです。連結性は、一般に単位元 $e$ の連結開近傍 $U, V\subset G$ に対して $U\cdot V = \{uv\in G\mid u\in U, \ v\in V\}$ が連結であることを示せば十分ですが、これは任意の $u \in U$ と $v\in V$ に対して曲線 $c_{u} : [0, 1]\to U$ を $c_{u}(0) = 1$ かつ $c_{u}(1) = u$ に、曲線 $c_{v} : [1, 2]\to V$ を $c_{v}(1) = e$ かつ $c_{v}(2) = v$ に取って $c_{u}$ と $u\cdot c_{v}$ をつなげれば $U\cdot V$ の中で $e$ を $uv$ につなぐ曲線を与えるのでよいです。$\tilde{U}$ が開集合であることは明らか。最後に閉集合であることですが、$g\in \Cl(\tilde{U})\setminus \tilde{U}$ が存在したとすると、$g\cdot U\cap\tilde{U}\neq \emptyset$ から矛盾を導けるので分かります。

以上です。

メモ

Lie部分群の定義について、それを像にもつ単射はめ込みであるLie群の準同型は同型の違いを除いて一意です。多様体の定義として第二可算であることを課していたのが効いてきます。パラコンパクトを認めていると成立しないです。

更新履歴

2021/08/02
新規追加
2021/09/02
記号の誤りを修正。他微修正。