このノートでは、幾何学の専門的な話に入っていくための準備として多様体論の基礎的なことをまとめていきます。代数、解析、位相空間に関する知識は既知とし、位相幾何学や関数解析に関する知識もいくらか使用します。いずれも他のページでまとめています。
できるだけ簡潔にまとめていきたいとは思っていますが、一方で内容を詰め込んで行きたいとも思っていて、必ずしも読みやすいものにはならないのでは?と思います。
あと、しっかりとした勉強のためにはやはり市販の教科書を読むことを勧めたいと思います。そのうえで、部分的にでもこのノートの記述を参考にするとかしてもらえたら幸いです。
今のところは次のようになっています。
この章では可微分多様体の導入と先々使う事実の整備を行います。可微分多様体とはベースとなる位相多様体に座標近傍系を与えることで解析的な取り扱いを可能としたもので、種々の多様体の中でも最も重要な対象になります。このノートでも基本的に可微分多様体を中心にまとめていくことになります。
内容としては、$C^{r}$ 級写像や $C^{r}$ 級同相の定義・基本性質の解説から始め、滑らかな $1$ の分割のような技術的によく使われる重要な補題の整備が中心になります。また、(滑らかな)ベクトル束についてもこの章でまとめてしまいます。あと、多様体の境界や角のことも込みで整備します。
ベクトル場と微分形式を導入し、それらの基本事項を手短にまとめます。
ベクトル場は可微分多様体 $M$ の各点に対して接空間と呼ばれる線形空間(例えば、平面 $\R^{2}$ 内の曲線に対する接線や空間 $\R^{3}$ 内の曲面に対する接平面を一般化したもの)を対応させることで得られるベクトル束(接束) $TM$ の切断であり、Euclid空間におけるベクトル場の一般化になります。
微分形式は接束の双対束(余接束) $T^{*}M$ から構成される外積束 $\bigwedge T^{*}M$ の切断のことで、それら全体からなる次数付き環 $\Omega^{\bullet}(M)$ が可微分多様体 $M$ の大域的性質を調べるうえで重要となります。ここではその準備として、微分形式や次数付き環 $\Omega^{\bullet}(M)$ の基本的な性質と $\Omega^{\bullet}(M)$ 上で定義される作用素である外微分、Lie微分、内部積の関係をまとめます。また、関連してStokesの定理(多様体上での積分に関する定理)を紹介します。
可微分多様体のはめ込みと埋め込みについてまとめます。これらは可微分多様体 $M$ の中に別の可微分多様体 $N$ を「上手く」配置する写像 $f : N\to M$ のことで、特に像がその各点の近傍での様子が標準的な埋め込み $\R^{n}\subset\R^{m}$ をモデルとして表現できるものを埋め込みといいます。埋め込みの像は部分多様体(名前の通り、多様体の中に実現された多様体のこと)となり、これについてもまとめます。
この章ではまず、部分多様体の構成や種々の近似定理のために用いられるSardの定理を $C^{\infty}$ 級写像に対して(Lebesgue積分論を既知として)証明し、その後にはめ込み、埋め込みや部分多様体についてよく使われる事実を(多様体の境界も考慮しながら)整備していきます。$C^{\infty}$ 級写像と部分多様体の間(特に部分多様体どうし)の横断性についてもまとめています。Whitneyの埋め込み定理、管状近傍定理、連結和についても整備。特にこのあたりの話はテクニカルで重め。
Lie群・Lie環とRiemann多様体についてはある程度きちんと書きたいとは思っています。あと、趣味でHirzebruchの符号数定理は証明しておきたいなーと思っています。それからは、一応はAtiyah-Singerの指数定理を目標にとは考えていますが、まあ、時間的にそこまできちんと書くのは無理かなと思います。
正直、別にあれこれ深く知っているわけではないので、よく知られていることをまとめるだけになりそうですが、気長に整備していきたいなと思います。
多様体論ノート全体に関する更新履歴です。