位相多様体とは空でない第二可算公理を満たすHausdorff空間であって局所的にEuclid空間の上半空間 $\Rp^{n} = \{(x_{1}, \dots, x_{n})\in \R^{n}\mid x_{n}\geq 0\}$ に同相であるものです。そして、その局所的な同相において上半空間の境界 $\partial \Rp^{n} = \R^{n - 1}\times \{0\}$ に対応する部分が位相多様体の境界です。
ここでは位相多様体のコンパクトな境界について、次に定義するカラー近傍の存在とそのambient isotopy埋め込み $f_{0}, f_{1} : A\to X$ がambient isotopicであるとは、$X$ の自己同相によるisotopy $H : X\times I\to X$ であって $H_{0} = \Id_{X}$ かつ $f_{1} = H_{1}\circ f_{0}$ を満たすものが存在するということです。そして、この $H$ が $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐambient isotopyです。の違いを除いた一意性を示します。
$M$ を境界 $\partial M$ を持つ位相多様体とする。埋め込み $g : \partial M\times [0, +\infty)\to M$ であって制限 $g|_{\partial M\times \{0\}} : \partial M\to M$ が包含写像に一致するもの、およびその像を境界 $\partial M$ の開カラー近傍という。開カラー近傍の $\partial M\times [0, 1]$ への制限として得られる埋め込み、およびその像をカラー近傍という。また、境界の開集合についても全く同様に開カラー近傍を定める。
定義に現れた区間 $[0, +\infty)$ や $[0, 1]$ は特にこう取らないといけない理由はなく、半開区間および閉区間に取っていれば適当な同相を通じて本質的な差はなく開カラー近傍とカラー近傍が定まります。カラー近傍 $g : \partial M\times [0, 1]$ を包含写像と思って $\partial M \times [0, 1]\subset M$ とみなすこともあります。
補題として、境界についての次の性質を使います。証明は境界における座標近傍を取ってそれを上手く整えるだけです(なので省略)。
$M$ を境界 $\partial M$ を持つ位相多様体とする。各 $q\in \partial M$ に対し、そのある開近傍 $W$ についての開カラー近傍 $h : W\times [0, +\infty)\to M$ が存在する。
$M$ をコンパクトな境界 $\partial M$ を持つ位相多様体とする。境界 $\partial M$ にはカラー近傍が存在し、それは $\partial M$ を保つambient isotopyの違いを除いて一意である。
明らかな同相写像 $\psi : \partial M\to \partial M\times \{0\}$ を用いて $M^{+} := M\cup_{\psi}(\partial M\times [-1, 0])$ と定義します。同相写像 $F : M\to M^{+}$ であって任意の $q\in \partial M$ に対して $F(q) = (q, -1)\in \partial M\times [-1, 0]$ を満たすものを構成します。もしこのような同相写像 $F$ が構成できれば $F^{-1}(\partial M\times [-1, 0))$ が開カラー近傍を与え、その制限としてカラー近傍が得られます。
各点 $q\in \partial M$ に対してその開近傍 $W_{q}$ の開カラー近傍 $h_{q} : W_{q}\times [0, +\infty)\to M$ を取ります。ただし、$W_{q}$ は $\Int D_{3}^{n - 1}$ に同相であり、$q$ を原点に移す同相写像 $\varphi_{q} : W_{q}\to \Int D_{3}^{n - 1}$ が固定されているとします。境界 $\partial M$ のコンパクト性から有限個の点 $q_{1}, \dots q_{m}\in \partial M$ であって $\partial M = \bigcup_{i = 1}^{m}\varphi_{q_{i}}^{-1}(\Int D_{1}^{n - 1})$ を満たすものが取れます。以下、この $q_{1}, \dots, q_{m}$ のみを考えるので、添字を軽くして $\varphi_{q_{i}}, W_{q_{i}}$ は $\varphi_{i}, W_{i}$ と書くことにします。
いま、埋め込み $F_{i} : M\to M^{+}$ であって
という条件を満たすものが得られているとして、同様の条件を満たす埋め込み $F_{i + 1} : M\to M^{+}$ を構成します。この構成ができれば、包含写像 $F_{0} : M\to M^{+}$ から始めてこの構成を繰り返すことで $F_{m}$ が目的の同相写像として得られます。
非負値連続関数 $h : \Int D_{3}^{n - 1}\to [0, 1]$ を\[h(x) = \left\{\begin{array}{ll}1 & (|x|\leq 1) \\2 - |x| & (1\leq |x|\leq 2) \\0 & (2\leq |x|)\end{array}\right.\]により定義し、同一視 $h_{i + 1} : W_{i + 1}\times [0, +\infty)\subset M$, $\varphi_{i + 1} : W_{i + 1}\cong \Int D_{3}^{n - 1}$ のもとで埋め込み $G_{i + 1} : D_{2}^{n - 1}\times [0, 2]\to M^{+}$ を\[G_{i + 1}(q, s) = \left\{\begin{array}{ll}(q, g_{i}(q) + s - h(q)(g_{i}(q) + 1)) & (0\leq s\leq h(q)(g_{i}(q) + 1)) \\F_{i}(q, 2\tfrac{s - h(q)(g_{i}(q) + 1)}{2 - h(q)(g_{i}(q) + 1)}) & (h(q)(g_{i}(q) + 1)\leq s\leq 2)\end{array}\right.\]と定めます。$G_{i + 1}$ は $(\partial D_{2}^{n - 1}\times [0, 2])\cup (D_{2}^{n - 1}\times \{2\})$ において $F_{i}$ に一致するので、$D_{2}^{n - 1}\times [0, 2]$ 以外では $F_{i}$ に等しいように拡張して連続写像 $F_{i + 1} : M\to M^{+}$ を取ります。この $F_{i + 1}$ が埋め込みであることと条件(i)から(iv)を満たすことは容易です。
$g_{0}, g_{1} : \partial M\times [0, 1]\to M$ をカラー近傍とします。これらの開カラー近傍 $h_{0}, h_{1} : \partial M\times [0, +\infty)\to M$ への拡張を取ります。また、isotopy $R : \partial M\times [0, +\infty)\times I\to \partial M\times [-1, +\infty)$ を\[R(q, s, t) = \left\{\begin{array}{ll}(q, s - t) & (s\in [0, 1]) \\(q, (t + 1)(s - 2)+ 2) & (s\in [1, 2]) \\(q, s) & (s\in [2, +\infty)) \\\end{array}\right.\]により定めます。開カラー近傍 $h_{0}, h_{1}$ それぞれによる同一視
のもと、$R$ のisotopy $G_{0}, G_{1} : M\times I\to M^{+}$ への拡張が得られます。各レベルの像について常に $G_{0}(M\times \{t\}) = G_{1}(M\times \{t\})$ が成立し、また、$G_{0}|_{M\times \{1\}}\circ g_{0} = G_{1}|_{M\times \{1\}}\circ g_{1}$ が成立しています。よって、$M$ のambient isotopy $H : M\times I\to M$ を $H_{t} = (G_{1}|_{M\times \{t\}})^{-1}\circ (G_{0}|_{M\times \{t\}})$ により定めることができ、これがカラー近傍 $g_{0}$ を $g_{1}$ につないでいます。
次が系として従います。
$M, N$ を位相多様体とし、その境界 $\partial M, \partial N$ はコンパクトかつ互いに同相とする。同相写像 $f : \partial M\to \partial N$ により貼り合わせて得られる位相空間 $M\cup_{f} N$ は再び位相多様体であり、その同相類は同相写像 $f$ のisotopy類により決まる。
可微分多様体についてほぼ同じことをしているのでそちら $($多様体論 3.4.3節$)$ を参照。
境界 $\partial M$ がコンパクトという仮定のもと、その閉集合 $A$ においてカラー近傍 $g' : A\times [0, 1]\to M$ が構成できている、つまり、
という条件が満たされているとします。このとき、境界 $\partial M$ のカラー近傍 $g : \partial M\times [0, 1]\to M$ であって $g'$ の拡張になっているものが構成されます。例えば、存在の証明における同相写像 $F : M\to M^{+}$ を任意の $(q, s)\in A\times [0, 1]\subset M$ に対して $F(q, s) = (q, \tfrac{1}{2}s - 1)$ が成立するように注意して構成すればよいです。また、$g'$ の拡張が互いに $\partial M\cup (A\times [0, 1])\subset M$ を保ってambient isotopicであることが一意性の証明におけるambient isotopyの構成から分かります。
(ここではいくつかの用語を説明なしに使用します。)
カラー近傍は開カラー近傍の制限として定義していますが、これは制限 $g|_{\partial M\times \{1\}}$ の局所平坦性を担保するためです。もし最初から埋め込み $g : \partial M\times [0, 1]\to M$ であって制限 $g|_{\partial M\times \{0\}}$ が包含写像に一致するものとしてカラー近傍を定義すると、制限 $g|_{\partial M\times \{1\}}$ の局所平坦性が崩れるものも含まれてしまい扱いが悪い $($ambient isotopyの違いを除いた一意性が成立しないなど$)$ ためです。例えば、Alexanderの角付き球面の境界含む内側から開球体を除いたものがそのような埋め込み $g : S^{2}\times [0, 1]\to D^{3}$ を与えます。
境界に課したコンパクト性はなくともカラー近傍の存在までは確かめられます。これはよくやるパラコンパクト性を用いた局所的な構成を全域へ拡張する議論によります。
以上です。
なし
参考文献
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