始めに、この節は[田村 微分位相幾何学]の該当箇所を参考にしています。話の流れだけならばそちらとほぼ同じです。管状近傍やカラー近傍に関する基本的な事実をまとめ、その応用として多様体をその境界どうしで貼り合わせる操作、さらにその重要な例として連結和を記述することが目標になります。証明はそこそこ技巧的なので読むのは大変だろうということと、このあたりのことは事実として知っておくことがまず重要(もちろん個人的な見解ですが…)だということは始めに言っておきます。
以下、部分多様体などは基本的に境界に適合したものであることを仮定して整備していきます(が、一応条件としては明示します)。
部分多様体 $N^{n}\subset M^{m}$ が与えられたとき、その部分多様体の各点の近傍において局所平坦性を与えるようなよい座標近傍 $($可微分多様体の対 $(M, N)$ と対 $(\R^{m}, \R^{n}\times \{0\}^{m - n})$ の間の局所的な $C^{\infty}$ 級同相写像$)$ が取れましたが、ここで説明する管状近傍とはその大域版にあたる概念になります。もう少し具体的には、この後で定める部分多様体 $N$ から構成される法束と呼ばれるベクトル束 $\nu N$ における零切断としての $N$ の近傍と $M$ の部分多様体としての $N$ の近傍の間の $C^{\infty}$ 級同相写像が大体それにあたります。
では、まずは部分多様体の近傍のモデルとなる法束を定義します。
$M, N$ を可微分多様体、$f : N\to M$ をはめ込みとする。$N$ の接束 $TN$ を $M$ の接束 $TM$ の $f$ による引き戻し $f^{*}TM$ の部分束とみなすことによる商ベクトル束 $f^{*}TM/TN$ を $f$ の法束といい $\nu f$ と書く。$N$ が $M$ の部分多様体の場合は包含写像に対する法束を部分多様体 $N$ の法束といい $\nu N$ と書く。全空間 $M$ を明示する場合は $\nu (N ; M)$ などと書くことにする。
部分多様体 $N\subset M$ の法束は $N$ の各点 $p$ における接空間 $T_{p}N\subset T_{p}M$ の補空間を束ねたものであり、実際に $TM|_{N}$ の部分束としても実現できます。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、ある束写像 $f : \nu N\to TM|_{N}$ が存在して
を満たす。
$TM$ のRiemann計量を各 $p\in \partial N$ において $(T_{p}(\partial M))^{\bot}\subset T_{p}N$ であるように取りいつものように局所的なRiemann計量を $1$ の分割を用いて貼り合わせることで作ります。$p\in \partial N$ の近傍では命題3.2.20の形の座標近傍との同一視のもとで標準的なRiemann計量を与えておけば、その計量に対しては $(T_{p}(\partial M))^{\bot}\subset T_{p}N$ であり、また、このようなRiemann計量の $($重み付きの$)$ 和として得られるRiemann計量はこの条件を保ちます。また、この条件は $(T_{p}N)^{\bot}\subset T_{p}(\partial M)$ と同値であるので、これで(ii)が成立します。、$TN\subset TM|_{N}$ の直交補空間を像とするように束写像 $\nu N\to TM|_{N}$ を取ればよいです。
管状近傍を定義します。記号の準備として、一般に階数 $r$ の $C^{\infty}$ 級ベクトル束 $E\to N$ に対し、$N$ 上の $D^{r}$ ファイバー束 $\mathcal{N}(E)$ を、あらかじめ $E$ にRiemann計量 $g$ を与えたうえで\[\mathcal{N}(E) = \left\{(p, v)\in E\relmid |v| = \sqrt{g_{p}(v, v)} \leq 1\right\}\subset E\]と定めておきます。零切断により $N\subset \mathcal{N}(E)$ と同一視をしたうえで、空間対 $(\mathcal{N}(E), N)$ がRiemann計量の取り方によらずに $C^{\infty}$ 級同相の違いを除いて一意であることは容易です$2$ つのRiemann計量 $g, h$ が与えられたとき、束同型 $\varphi : E\to E$ であって $g = \varphi^{*}h$ を満たすものを構成すればよいですが、これは局所的にSchmidtの正規直交化法を適用していけばできます。もう少しだけ詳しく書くと、Riemann計量 $g$ に関する $E$ の局所的な正規直交枠 $e_{1}, \dots, e_{r}$ のRiemann計量 $h$ に関する正規直交化を行い正規直交枠 $e'_{1}, \dots, e'_{r}$ を構成し、各 $e_{i}$ を $e'_{i}$ に移すような変換を考えることによります。また、束同型 $\varphi$ は恒等写像にisotopicにできることには注意。。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を部分多様体とする。埋め込み $g : \nu N\to M$ であって $($諸々の同一視の下で$)$ $N$ への制限 $g|_{N} : N\to M$ が包含写像に一致するもの、およびその像を部分多様体 $N$ の開管状近傍という。また、$N$ が境界に適合した部分多様体である場合、その開管状近傍 $g : \nu N\to M$ であって、境界への制限として埋め込み\[g : \nu N|_{\partial N}\to \partial M\]が定まり、これが $\partial M$ における部分多様体 $\partial N$ の開管状近傍となっているものを境界に適合した開管状近傍というあらかじめ $\nu (N; M)|_{\partial N}\cong \nu (\partial N; \partial M)$ と同一視しておく。。
開管状近傍 $g : \nu N\to M$ の $\mathcal{N}(\nu N)$ への制限により定まる埋め込み、およびその像を管状近傍といい、境界に適合した開管状近傍の制限として定まるものは境界に適合した管状近傍という。
以下、境界に適合した部分多様体に対する境界に適合した管状近傍の存在を示しますが、そのためにスプレイと呼ばれる接束 $TM$ 上のベクトル場 $Y$ を構成します。これは、Ehresmannの定理 $($命題3.2.12$)$ の証明の(step 4)において定めた $C^{\infty}$ 級写像 $\varPhi : F\times \R^{n}\to M$ の構成のために作った $M\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $Z$ に相当するもので、$\varPhi$ と同様にそのフローの制限と射影の合成として $N\subset \nu N$ の近傍 $\mathcal{V}'$ において定義された $C^{\infty}$ 級写像 $\exp : \mathcal{V}'\to M$ が構成されます。$($そして、この写像 $\exp : \mathcal{V}'\to M$ の適切な制限が埋め込みとなることを示すことで管状近傍の存在が分かります。$)$
可微分多様体 $M$ の接束 $TM$ 上のベクトル場 $Y\in\mathfrak{X}(TM)$ であって次の条件を満たすものを $M$ のスプレイという。
また、スプレイ $Y$ の境界の接空間 $T(\partial M)\subset TM$ への制限がまた $\partial M$ のスプレイとなっているとき、このスプレイ $Y$ を境界に適合したスプレイという。
接束 $T(TM)$ の各ファイバーを $T_{(p, v)}(TM)\cong T_{p}M\oplus T_{v}(T_{p}M)$ のように底空間接成分とファイバー接成分に分解して考えるとき、この定義における $1$ つ目の条件は底空間接成分が $v$ であることを意味し、つまり、これは底空間接成分を統制するための条件と解釈できます。もう少し具体的なことを言うと、$(p, v)\in TM$ を始点とする積分曲線 $c_{(p, v)} : (-a, a)\to TM$ が定義されているならば、射影 $\pi : TM\to M$ との合成により得られる $M$ の曲線 $\pi\circ c_{(p, v)}$ の各時刻 $t\in (-a, a)$ における接ベクトルが $c_{(p, v)}(t)$ に等しいということを意味しています言い換えると、曲線 $\pi\circ c_{(p, v)}$ に対してその各時刻における接ベクトルを対応させることで定まる標準的なリフト $(-a, a)\to TM$ が $c_{(p, v)}$ であるという意味です。。
また、$2$ つ目の条件の直接の目的は $TM$ の各点を始点とする積分曲線たちを統制するためであり、例えば、$(p, v)\in TM$ を始点とする積分曲線 $c_{(p, v)} : (-a, a)\to TM$ が定義されているならば $(p, sv)\in TM$ を始点とする積分曲線 $c_{(p, v)} : (-|s|^{-1}a, |s|^{-1}a)\to TM$ が存在し、任意の $t\in (-|s|^{-1}a, |s|^{-1}a)$ に対して\[c_{(p, sv)}(t) = \mu_{s}(c_{(p, v)}(st))\]が成立していることが分かります右辺を $t$ に関して微分し、積分曲線となっていることを確かめるだけです。。よって、射影 $\pi$ が $\pi\circ \mu_{s} = \pi$ を満たすことから\[\pi\circ c_{(p, sv)}(t) = \pi\circ c_{(p, v)}(st)\]が成立します。
では、境界に適合したスプレイを構成します。
可微分多様体 $M$ に対し、その境界に適合したスプレイ $Y$ が存在する。
$M$ の座標近傍系 $\{(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in \Lambda}$ に従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。各 $U_{\lambda}$ に対し、局所座標系 $\varphi_{\lambda}$ の定める標準的な局所自明化 $\psi_{\lambda} : TU_{\lambda}\to U_{\lambda}\times \R^{n}$ が存在するので、これによる同一視の下、$TU_{\lambda}$ の各点 $(p, v)\in TU_{\lambda}$ における接空間の標準的直和分解\[T_{(p, v)}(TU_{\lambda})\cong T_{p}U_{\lambda}\oplus T_{v}(T_{p}U_{\lambda})\]を与えます。$TU_{\lambda}$ 上のベクトル場 $Y^{\lambda}$ を各点 $(p, v)\in TU_{\lambda}$ について\[Y_{(p, v)}^{\lambda} = v \oplus 0\in T_{p}U_{\lambda}\oplus T_{v}(T_{p}U_{\lambda})\]とすることにより定めれば、これは $U_{\lambda}$ の境界に適合したスプレイです自明なスプレイといいます。。$TM$ 上のベクトル場 $Y$ を\[Y = \sum_{\lambda\in\Lambda}(h_{\lambda}\circ \pi|_{U_{\lambda}})Y^{\lambda}\]と定め、これが $M$ の境界に適合したスプレイであることを示します。
まず、各 $(p, v)\in TM$ に対して $\pi_{*}Y_{(p, v)} = v$ であることは\[\pi_{*}Y_{(p, v)} = \pi_{*}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}h_{\lambda}(p)Y_{(p, v)}^{\lambda}\right) = \sum_{\lambda\in\Lambda}h_{\lambda}(p)v = v\]から分かります。そして、各 $(p, v)\in TM$, $s\in \R$ に対して $s\cdot(\mu_{s})_{*}(Y_{(p, v)}) = Y_{(p, sv)}$ であることは\begin{eqnarray*}s\cdot (\mu_{s})_{*}(Y_{(p, v)}) & = & s\cdot (\mu_{s})_{*}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}h_{\lambda}(p)Y_{(p, v)}^{\lambda}\right) \\& = & \sum_{\lambda\in\Lambda}(h_{\lambda}(p)s\cdot (\mu_{s})_{*}(Y_{(p, v)}^{\lambda})) \\& = & \sum_{\lambda\in\Lambda}(h_{\lambda}(p)Y_{(p, sv)}^{\lambda}) = Y_{(p, sv)}\end{eqnarray*}から分かり、$Y$ は $M$ のスプレイです。最後にスプレイ $Y$ が境界に適合していることですが、これは各 $Y^{\lambda}$ がそうなのでそうです。
以下、境界に適合した管状近傍の存在を示します。まずは管状近傍の原型となる $C^{\infty}$ 級写像 $\exp$ の構成から。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合した部分多様体、$Y$ を $M$ の境界に適合したスプレイとする。$Y$ に関する積分曲線が区間 $[-1, 1]$ において存在するような始点全体からなる $TM$ の部分集合を $\mathcal{V}$ とするとき、命題3.4.2のように取った法束 $\nu N\subset TM$ に対して $\mathcal{V}' = \nu N\cap \mathcal{V}$ は $N$ の $\nu N$ における近傍になっている。
$Y$ の生成するフロー $\mathcal{V}\times [-1, 1]\to TM$ と射影 $\pi : TM\to M$ の合成の $\mathcal{V}'\times \{1\}\subset \nu N\times [-1, 1]$ への制限を $\exp : \mathcal{V}'\to M$ と表すとき、$\exp|_{N} : N\to M$ は包含写像に一致し、$N\subset \Reg(\exp)$ を満たす。さらに、$($$\mathcal{V}'$ を $N$ の適当な開近傍で取り換えれば$)$ $\exp$ は境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像である。
まず、各 $p\in N$ に対して $Y_{(p, 0)} = 0$ なので $N\subset \mathcal{V}'$ と $\exp|_{N} : N\to M$ が包含写像に一致することは明らかです。各 $p\in N$ に対して $(p, 0)\in \nu N$ のある近傍が $\mathcal{V}'$ に含まれていることと $(p, 0)\in \Reg(\exp)$ であることを示します。
(i) $p\in \Int N$ の場合
$\mathcal{V}$ が $(p, 0)\in TM$ の近傍を含むことを示せば $\mathcal{V}'$ が $(p, 0)\in \nu N$ の近傍であることは明らかなのでそうします。$(p, 0)\in TM$ の相対コンパクト開近傍 $\mathcal{U}$ を取るとき、ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在して $\mathcal{U}$ の各点でその点を始点とする区間 $[-\varepsilon, \varepsilon]$ において定義された積分曲線が存在します。上で行った考察により、$\mu_{\varepsilon}(\mathcal{U})$ の各点に対して区間 $[-1, 1]$ において定義された積分曲線が取れるので $(p, 0)$ の開近傍である $\mu_{\varepsilon}(\mathcal{U})$ は $\mathcal{V}$ に含まれます。
$(p, 0)\in \Reg(\exp)$ であることは\[\exp_{*}(T_{(p, 0)}\mathcal{V}') = \exp_{*}(\nu_{p} N)\oplus T_{p}N = \nu_{p} N\oplus T_{p}N = T_{p}M\]から従います。
(ii) $p\in \partial N$ の場合
$p\in M$ の適当な開近傍を $\Rp^{m}$ の開集合 $U$ と同一視し、$Y$ を $U$ の境界に適合したスプレイ、$N$ を $U$ の境界に適合した部分多様体と考えることにします。$Y$ を $\R^{m}$ の開集合 $U'$ におけるスプレイに拡張し、部分多様体 $N$ も $U'$ の境界を持たない部分多様体 $N'$ に拡張、合わせて法束 $\nu N\subset TU$ も $\nu N'\subset TU'$ に拡張しておきます。$p\in \Int N'$ なので(i)の場合の結果から、$(p, 0)\in \nu N'$ の十分小さい近傍 $\mathcal{U}'$ において $C^{\infty}$ 級写像 $\exp : \mathcal{U}'\to U'$ が定まり、$(p, 0)\in \Reg(\exp)$ です。そこで、必要であれば $\mathcal{U}'$ を小さく取り直すことで $\exp$ は埋め込みとしてよいです。いま、$Y$ が $U$ の境界に適合したスプレイであることと各 $q\in \partial N$ に対して $\nu_{q}N\subset T(\partial U)$ であることから、制限として埋め込み $\exp : \nu N'|_{\partial N}\cap \mathcal{U}'\to \partial U$ が得られます。よって、必要ならば再び $\mathcal{U}'$ を小さく取り直すことで制限として境界に適合した埋め込み $\exp : \nu N\cap \mathcal{U}'\to U$ が得られ、これは $\nu N\cap \mathcal{U}'\subset \mathcal{V}'$ を意味します。$(p, 0)\in \Reg(\exp)$ であることは制限しても変わりません。
ここで構成した $C^{\infty}$ 級写像 $\exp$ の制限として管状近傍を構成します。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、$N$ には境界に適合した管状近傍が存在する。
命題3.4.6より $\nu N$ における零切断 $N$ の開近傍 $\mathcal{V}'$ で定義された境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像 $\exp : \mathcal{V}'\to TM$ であって $\exp|_{N}$ が包含写像に一致し、さらに $N\subset \Reg(\exp)$ を満たすものが存在します。
$N$ の相対コンパクト開集合による局所有限開被覆 $\{U_{i}\}_{i\in \N}$ と正実数の族 $\{\varepsilon_{i}\}_{i\in \N}$ を各 $i\in \N$ について $\nu N$ の開集合\[V_{i} = \{(p, v)\in \nu N\mid p\in U_{i}, v\in \nu_{p}N, |v| < \varepsilon_{i}\}\]が条件
を満たすように取ります。さらに、開被覆 $\{U_{i}\}_{i\in \N}$ の細分である開被覆 $\{U'_{i}\}_{i\in \N}$ であって各 $i\in \N$ について $\overline{U'}_{i}\subset U_{i}$ となるものを取り、$\mathcal{V}'$ の閉集合 $A_{i}$ と $B_{i, j}$ を各 $i < j\in \N$ に対して\[A_{i} = \{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U'}_{i}, v\in \nu_{p}N, |v| \leq \varepsilon_{i}\},\]\[B_{i, j} = \{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U'}_{j}\setminus U_{i}, v\in \nu_{p}N, |v| \leq \varepsilon_{j}\}\]により定義します。以下、必要であれば $\varepsilon_{i}$ たちを小さく取り直すことで常に\[\exp(A_{i})\cap \exp(B_{i, j}) = \emptyset\]を満たすようにできることを示します。
$i\in \N$ を $\exp(A_{i})\cap \exp(B_{i, j}) \neq \emptyset$ となる $j > i$ が存在する最小の $i$ とします。まず、必要であれば $\varepsilon_{i}$ を小さく取り直すことで $A_{i}\cap N\subset U_{i}$ となるようにします。$\exp(A_{i})\cap \exp(B_{i, j}) \neq \emptyset$ となる各 $j > i$ に対し、$\overline{U'}_{j}\setminus U_{i}\subset \nu N \setminus A_{i}$ であることから正実数 $\varepsilon'_{j} > 0$ であって\[\{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U'}_{j}\setminus U_{i}, v\in \nu_{p}N, |v| \leq \varepsilon'_{j}\}\subset \mathcal{V}'\setminus A_{i}\]となるものが存在するので、各 $\varepsilon_{j}$ を $\varepsilon'_{j}$ で置き換えます必ず $\varepsilon'_{j} < \varepsilon_{j}$ であることには注意。。このとき、この $i$ について全ての $j > i$ で $\exp(A_{i})\cap \exp(B_{i, j}) \neq \emptyset$ を満たすようになります。この操作を高々可算回繰り返すことで欲しかった $\varepsilon_{i}$ たちが得られます。
さて、必要であればさらに小さく取り直して $\varepsilon_{i}$ たちは単調減少とした後、$N\subset\mathcal{V}'$ の開近傍 $\mathcal{V}''\subset \mathcal{V}'$ を\[\mathcal{V}'' = \bigcup_{i\in \N}\{(p, v)\in \nu N\mid p\in U_{i}', v\in \nu_{p}N, |v| < \varepsilon_{i}\}\left(\subset \bigcup_{i\in \N}\Int A_{i}\right)\]と定めれば $\exp|_{\mathcal{V}''}$ が $($境界に適合した$)$ 埋め込みを与えることを示します。そのためには単射性を示せば十分です。ある $2$ 点 $(p, v), (q, w)\in \mathcal{V}''$ が存在して $\exp(p, v) = \exp(q, w)$ であったとします。$(p, v)\in \Int A_{i}$, $(q, w)\in \Int A_{j}$ となる $i, j$ を取り、必要であれば $2$ 点を入れ換えて $i \leq j$ とします。$i = j$ のときは $\exp$ の $\Int A_{i}\subset V_{i}$ における単射性から $(p, v) = (q, w)$ です。$i < j$ のとき、$\exp(A_{i})\cap \exp(B_{i, j}) = \emptyset$ から $q\in \overline{U'}_{j}\setminus U_{i}$ ではありえないので $q\in U_{i}$ となりますが、$\varepsilon_{j} < \varepsilon_{i}$ より $(q, w)\in V_{i}$ なので $\exp$ の $V_{i}$ における単射性から $(p, v) = (q, w)$ となります。以上より $\exp$ は $\mathcal{V}''$ 上で単射です。
境界に適合した開管状近傍を構成します。開被覆 $\{U'_{i}\}_{i\in \N}$ に従属する $1$ の分割 $\{h_{i}\}_{i\in \N}$ を用いて定義される $N$ 上の正値 $C^{\infty}$ 級関数\[R = \sum_{i\in \N}\varepsilon_{i}h_{i} : N\to (0, \infty)\]と、もう一つ、原点の近傍において恒等的写像 $G$ が $N\subset \nu N$ の各点で $C^{\infty}$ 級写像となっていることが明らかになるのでこうしておきます。な $C^{\infty}$ 級同相写像 $h : [0, \infty)\to [0, 1)$ を用いて埋め込み $G : \nu N\to \nu N$ を\[G : (p, v)\mapsto \left\{\begin{array}{ll}\left(p, R(p)h(|v|)\dfrac{v}{|v|}\right) & (v\neq 0) \\(p, 0) & (v = 0)\end{array}\right.\]により定めます。$\Img G\subset \mathcal{V''}$ に注意して、埋め込み $g = \exp\circ G : \nu N\to M$ が $N\subset M$ の境界に適合した開管状近傍です。その制限として境界に適合した管状近傍が得られます。
可微分多様体の境界に対してはカラー近傍と呼ばれる管状近傍の類似が存在します。
$M$ を可微分多様体とする。埋め込み $g : \partial M\times [0, \infty)\to M$ であって制限 $g|_{\partial M\times \{0\}}\partial M\to M$ が包含写像に一致するもの、およびその像を境界 $\partial M$ の開カラー近傍という。開カラー近傍の $\partial M\times [0, 1]$ への制限として得られる埋め込み、およびその像をカラー近傍という。
$M$ を可微分多様体とする。$M$ の境界 $\partial M$ にはカラー近傍が存在する。
境界において常に内側を向くベクトル場を構成してその生成するフローを考えればよいです。そのフローは $\partial M\times \{0\}\subset \partial M\times [0, \infty)$ の開近傍 $\mathcal{V}'$ で定義され $\partial M\times \{0\}$ の各点で正則なので $($開$)$ 管状近傍の存在と同様に $($開$)$ カラー近傍の存在が示されます。
もちろん管状近傍 $($およびカラー近傍$)$ は一意とは限りませんが、境界に適合したコンパクト部分多様体に対する境界に適合した管状近傍はambient isotopyによるの違いを除いて一意になり、以下ではそのことを示します。簡単のため、境界に適合した部分多様体 $N\subset M$ に対し、isotopy $F : \nu N\times I\to M$ であって各 $F_{t}$ が $N$ の境界に適合した開管状近傍であるものを $N$ の境界に適合した開管状近傍のisotopyと呼ぶことにします。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合したコンパクト部分多様体、$g_{0}, g_{1} : \nu N\to M$ を境界に適合した開管状近傍とする。このとき、ある束同型 $\varphi : \nu N\to \nu N$ と $N\subset \nu N$ を保つ境界に適合した開管状近傍のisotopy $F : \nu N\times I\to M$ が存在して $F_{1}\circ g_{0} = g_{1}\circ \varphi$ が成立する。
各 $p\in N$ に対して線形同型\[\psi_{p} : ((g_{1})_{*})_{(p, 0)}^{-1}\circ ((g_{0})_{*})_{(p, 0)} : T_{(p, 0)}(\nu N)\to T_{p}M\to T_{(p, 0)}(\nu N)\]は $T_{p}N\subset T_{(p, 0)}(\nu N)$ を保つのでファイバー成分の同型\[\varphi_{p} : T_{0}(\nu_{p} N)\to T_{0}(\nu_{p} N)\]を誘導します。標準的に $T_{0}(\nu_{p} N)\cong \nu_{p} N$ なので、この $\varphi_{p}$ たちにより束同型 $\varphi : \nu N\to \nu N$ が誘導されます。
この $\varphi$ に対して境界に適合した開管状近傍のisotopyを構成します。$($開管状近傍 $g_{0}$, $g_{1}\circ\varphi$ に対して同様の手続きで定まる束同型 $\nu N\to \nu N$ は恒等写像です。そこで、$g_{1}$ を $g_{1}\circ \varphi$ で取り換えておくことで最初から $\psi = (g_{1})_{*}^{-1}\circ (g_{0})_{*}$ が恒等写像 $\varphi$ を誘導するとして議論します。$)$
境界に適合した開管状近傍のisotopyの存在を次の流れで示します。
(step 1) $N$ の相対コンパクト開近傍による開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。$\nu N$ にRiemann計量を与え、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して正実数 $R_{\lambda} > 0$ を\[g_{0}(\{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U_{\lambda}}, |v| \leq R_{\lambda}\})\subset \Img g_{1}\]となるように取ります。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取り、$N$ 上の正値 $C^{\infty}$ 級関数 $R$ を $\sum_{\lambda\in \Lambda}R_{\lambda}h_{\lambda}$ として定めます。このとき、\[g_{0}(\{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U_{\lambda}}, |v| \leq R(p)\})\subset \Img g_{1}\]です。原点の近傍で恒等的な $C^{\infty}$ 級同相写像 $h : [0, \infty)\to [0, 1)$ を用いてisotopy $G : \nu N\times I\to \nu N$ をファイバーごとに\[(v, t)\mapsto \left\{\begin{array}{ll}((1 - t)|v| + tR(p)h(R(p)^{-1}|v|))\dfrac{v}{|v|} & (v\neq 0) \\0 & (v = 0)\end{array}\right.\]と定めれば $G_{0} = \Id_{\nu N}$ かつ\[\Img G_{1}\subset \{(p, v)\in \nu N\mid p\in \overline{U_{\lambda}}, |v| \leq R(p)\}\]なので $F_{t} = g_{0}\circ G_{t}$ をisotopyとして取ることで $\Img F_{1}\subset \Img g_{1}$ です。isotopy $G$ が $N$ の近傍を動かさないことから $(G_{0})_{*}|_{N} = (G_{1})_{*}|_{N}$、よって、$(F_{1})_{*}|_{N} = (g_{0})_{*}|_{N}$ です。
(step 2) 各点 $(p_{0}, v_{0})\in \nu N$ に対し、その近傍において\[\lim_{t\to 0}H(p, v, t) = (p, v)\]であることを示します。$p_{0}\in N$ の開近傍 $U$ 上の局所座標系と $U$ 上の $\nu N$ の局所自明化を固定し $\nu N|_{U}\cong V\times \R^{r}\subset \R^{n}\times \R^{r}$ と同一視しておきます。$(p_{0}, v_{0})$ の $\nu N|_{U}$ における相対コンパクト開近傍 $W$ を取るとき、$T\in (0, 1]$ を十分小さく取れば $H(W\times (0, T])\subset \nu N|_{U}$ です。よって、同一視 $\nu N|_{U}\cong V\times \R^{r}$ の下で $W\times (0, T]$ における $H$ の底空間成分とファイバー成分への分解 $H = (A, B)$ を考えることができ、また、同じく $g_{1}^{-1}\circ g_{0}$ の $(g_{1}^{-1}\circ g_{0})^{-1}(\nu N|_{U})\cap\nu N|_{U}$ における同様の分解 $g_{1}^{-1}\circ g_{0} = (\alpha, \beta)$ を取ることができます。このとき、\[A(p, v, t) = \alpha(p, tv),\]\[B(p, v, t) = t^{-1}\cdot \beta(p, tv)\]です。成分ごとに極限を取れば\[\lim_{t\to 0}H(p, v, t) = (\alpha(p, 0), d\beta_{(p, 0)}(0, v)) = (p, \varphi_{p}(v)) = (p, v)\]です。この極限により $H$ を $W\times [0, T]$ の写像に拡張します。このとき、$A$ が $W\times [0, T]$ において $C^{\infty}$ 級であることは明らかであり、$B$ が $W\times [0, T]$ において $C^{\infty}$ 級であることは十分小さな正実数 $\varepsilon > 0$ について $W\times (-\varepsilon, T + \varepsilon)$ における $C^{\infty}$ 級写像\[\bar{\beta}(p, v, t) = \beta(p, tv)\]が $C^{\infty}$ 級写像 $\gamma$ を用いて\[\bar{\beta}(p, v, t) = t\gamma(p, v, t)\]の形で表されること $($予備知識 補題4.2.72$)$ から分かります。よって、$H$ は $\Id_{\nu N}$ を $g_{1}^{-1}\circ g_{0}$ につなぐisotopyです。
(step 3) $\Img g_{0}\subset \Img g_{1}$ であったとして、(step 2)におけるisotopy $F$ を取ります。$F_{t} = g_{1}\circ H_{1 - t}$ とすれば $F$ が欲しかったisotopyです。境界に関する条件も今までの構成を追えば満たされていることが分かります。
命題3.4.10において束同型 $\varphi$ による補正は必要です。例えば、束同型 $g_{n} : \underline{\C}_{S^{1}}\to \underline{\C}_{S^{1}}$ を\[g_{n} : (\theta, z)\mapsto (\theta, e^{in\theta}z)\]により定めるとき、これらは互いに $($零切断を保って$)$ isotopicではありません。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合したコンパクト部分多様体、 $F : \nu N\times I\to M$ を境界に適合した開管状近傍のisotopyとする。このとき、$N\subset M$ を保つambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $F_{t}|_{\mathcal{N}(\nu N)} = \hat{F}_{t}\circ F_{0}|_{\mathcal{N}(\nu N)}$ を満たすものが存在する。
各 $t\in I$ に対して $\Img F_{t}\subset M$ 上のベクトル場 $X^{t}$ を $X_{F(p, t)}^{t} = \dfrac{\partial F}{\partial t}(p, t)\in T_{F(p, t)}M$ により定めます。$F$ が境界に適合した開管状近傍のisotopyであることから各 $X^{t}$ が境界に適合していることには注意。$M\times I$ の開部分集合 $U$ と閉部分集合 $K$ をそれぞれ\[U = \bigcup_{t\in I} \Img F_{t}\times \{t\}, \ K = \bigcup_{t\in I}\Img (F_{t}|_{\mathcal{N}(\nu N)})\times \{t\}\]により定め実際に、$U$ が開であることは $F$ が境界に適合していることから、$K$ が閉であることは $N$ のコンパクト性より $\mathcal{N}(\nu N)$ もコンパクトであることから。、$C^{\infty}$ 級関数 $h : M\times I\to [0, 1]$ を $\supp h\subset U$ かつ $h|_{K}\equiv 1$ となるように取ります。各 $t\in I$ に対して $Y^{t}\in \mathfrak{X}(M)$ を $h_{t}X^{t}$ により定めれば $M$ 上の境界に適合した時間変化するベクトル場 $\tilde{Y} = \{Y^{t}\}_{t\in I}$ を得ます。この $\tilde{Y}$ に関するフローが欲しかったambient isotopyを与えます。
ついでに、このことの類似としてisotopy拡張定理を紹介しておきます。
$M$ を可微分多様体、$N$ をコンパクト可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を境界に適合した埋め込みとする。$f_{0}$ を $f_{1}$ へ結ぶisotopy $F : N\times I\to M$ であって各 $t\in I$ において $F_{t}$ が境界に適合しているものが与えられたとき、ambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $\hat{F}|_{N\times I} = F$ を満たすものが存在する。
命題3.4.12の証明と同様に、各 $t\in [0, 1]$ に対して $\Img F_{t}\subset M$ 上で定まるベクトル場を $M$ 上の境界に適合したベクトル場に拡張することで得られる時間変化するベクトル場のフローを考えれば良いです。
では、いくらかの仮定の下での管状近傍の一意性を示しますが、必要なことは全て準備できています。
$M$ を可微分多様体、$N\subset M$ を境界に適合したコンパクト部分多様体、$g_{0}, g_{1} : \mathcal{N}(\nu N)\to M$ を境界に適合した管状近傍とする。このとき、ある束同型 $\varphi : \nu N\to \nu N$ と $M$ の $N$ を保つambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ が存在して $\hat{F}_{1}\circ g_{0} = g_{1}\circ \varphi$ が成立する。
コンパクトな境界に対するカラー近傍に対しても同様にambient isotopyによる違いを除いた一意性が成立します。証明は同じなので省略します。
$M$ をコンパクトな境界を持つ可微分多様体、$g_{0}, g_{1} : \partial M\times I$ を $\partial M$ のカラー近傍とする。このとき、ある $\partial M$ を保つambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ が存在して $\hat{F}_{1}\circ g_{0} = g_{1}$ が成立する。
可微分多様体どうしの境界における貼り合わせについて説明します。$M_{1}^{n}, M_{2}^{n}$ を可微分多様体とし、$\partial M_{1}$ のコンパクトな連結成分 $N_{1}$ と $\partial M_{2}$ のコンパクトな連結成分 $N_{2}$ の間の $C^{\infty}$ 同相 $f : N_{1}\to N_{2}$ が与えられているとします。この $C^{\infty}$ 級同相写像により $M_{1}$ と $M_{2}$ を等化して得られる空間 $M_{1}\sqcup M_{2}/f$ を $M_{1}\cup_{f} M_{2}$ と書くことにし、この $M_{1}\cup_{f}M_{2}$ に以下の手続きで $C^{\infty}$ 級座標近傍系を与えます。
まず、$N_{1}, N_{2}$ のカラー近傍 $W_{1} = N_{1}\times [-1, 0]$, $W_{2} = N_{2}\times [0, 1]$ を固定し、これらを $N_{1}\times \{0\}$ と $N_{2}\times \{0\}$ において $f$ により等化して得られる空間を $W_{1}\cup_{f} W_{2}$ と書くことにします。明らかな方法で\[\Int(W_{1}\cup_{f} W_{2}) = N_{1}\times (-1, 1)\subset M_{1}\cup_{f} M_{2}\]と見なすことで $M_{1}\cup_{f}M_{2}$ は $3$ つの可微分多様体 $M_{1}\setminus N_{1}$, $M_{2}\setminus N_{2}$, $N_{1}\times (-1, 1)$ により被覆されているので、これらの座標近傍系の和として全空間の座標近傍系を定めます。それぞれの共通部分では $C^{\infty}$ 級同相により貼り合っているため、実際に $C^{\infty}$ 級座標近傍系を与えていることが分かります。
まず確認したいことは、この構成がカラー近傍の取り方によらずに互いに $C^{\infty}$ 級同相な可微分構造を与えることですが、これはカラー近傍がambient isotopyによる違いを除いて一意であったことから分かります。というのは、各 $i = 1, 2$ に対し、$W'_{i}\subset M_{i}$ を別のカラー近傍としたとき、$N_{i}$ を保ちながら $W'_{i}$ を $W_{i}$ に $($積構造を保って$)$ 移す $M_{i}$ の自己 $C^{\infty}$ 級同相写像 $h_{i}$ が取れますが、これらが $N_{1}\times (-1, 1)$ との同一視の下で $\Int(W'_{1}\cup_{f} W'_{2})$ と $\Int(W_{1}\cup_{f} W_{2})$ の間の恒等写像を誘導するためです。
もう一つ、境界の連結成分の間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $f_{0}, f_{1} : N_{1}\to N_{2}$ が互いにisotopicであるときに\[M_{1}\cup_{f_{0}}M_{2}\cong M_{1}\cup_{f_{1}}M_{2}\]であることには注意しておきます。まず、$f_{0}, f_{1} : N_{1}\to M_{2}$ と考え、これらを結ぶisotopyに対してisotopy拡張定理 $($命題3.4.13$)$ を適用することで $M_{2}$ の自己 $C^{\infty}$ 級同相写像 $h_{2}$ であって $h_{2}|_{N_{2}} = f_{1}\circ f_{0}^{-1}$ を満たすものを取ります。カラー近傍の一意性からこの $h_{2}$ はカラー近傍 $W_{2} = N_{2}\times I$ を像として保ち\[h_{2}|_{W_{2}} = (f_{1}\circ f_{0}^{-1}, \Id_{I}) : (p, t)\mapsto (f_{1}\circ f_{0}^{-1}(p), t)\]と表されるとしてよいので、この状況で $N_{1}\times (-1, 1)$ との同一視の下での $\Int(W_{1}\cup_{f_{2}} W_{2})$ と $\Int(W_{1}\cup_{f_{1}} W_{2})$ の間の恒等写像が誘導されます。
さて、$M_{1}, M_{2}$ が向き付けられている場合を考えます。このとき、境界 $\partial M_{1}, \partial M_{2}$ には向きが誘導されますが、もし貼り合わせに使用した $C^{\infty}$ 級同相写像 $f : N_{1}\to N_{2}$ が向きを逆にするものであった場合には $M_{1}\cup_{f} M_{2}$ にも自然に向きが定まることを確認しておきます。まず、境界における向きが、それを定める接空間の基底の最初に外向きベクトルを加えることで全空間での向きを定める基底を与えるという条件により定義されていたことに注意。これより $M_{1}\setminus N_{1}$ と $N_{1}\times (-1, 1)$ の間の貼り合わせ、および $M_{2}\setminus N_{2}$ と $N_{1}\times (-1, 1)$ の間の貼り合わせが向きを保つかどうかは符号 $(-1)^{n - 1}$ により決定され、$(-1)^{n - 1} = -1$ の場合は $N_{1}\times (-1, 1)$ に逆の向きを与えておくことでいずれの貼り合わせも向きを保つようにできます。よって、それらを貼り合わせて得られる可微分多様体 $M_{1}\cup_{f} M_{2}$ には向きが定まります。
ここまで $2$ つの可微分多様体 $M_{1}$, $M_{2}$ の境界連結成分どうしの貼り合わせを考えてきましたが、$1$ つの可微分多様体 $M$ の境界の相異なる $2$ つの連結成分にたいしてもその間の $C^{\infty}$ 級同相写像を与えれば同様に貼り合わせが行われます。
境界における貼り合わせの重要な例として、同じ次元の $2$ つの可微分多様体から $1$ つの可微分多様体を構成する操作である連結和を導入します。まずはそのための $($もはや明らかな$)$ 補題だけ書いておきます。
$M^{n}$ を向き付けられた連結可微分多様体、$g_{0}, g_{1} : D^{n}\to \Int M$ を向きを保つ $($もしくはともに向きを逆にする$)$ 埋め込みとする$D^{n}$ には標準的な向きを与えておく。。このとき、あるambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ が存在して $\hat{F}_{1}\circ g_{0} = g_{1}$ が成立する。
$g_{0}$, $g_{1}$ がそれぞれ $g_{0}(0)$, $g_{1}(0)$ の管状近傍であることは簡単です開管状近傍に拡張することを示しておく必要はありますが省略します。。まず、$M$ の連結性から $g_{0}(0)$ を $g_{1}(0)$ に移すambient isotopyが存在するのでこれにより最初から $p = g_{0}(0) = g_{1}(0)$ としてよいです。向きに関する仮定から $\varphi = ((g_{1*})_{0})^{-1}(g_{0*})_{0} : T_{0}D^{n}\to T_{0}D^{n}$ は向きを保つので線型変換 $\varphi$ は $GL^{+}(n, \R)$ の元とみなせます。$GL^{+}(n, \R)$ の連結性から再びambient isotopyにより $\varphi = I_{n}$ としてよく、あとは管状近傍の一意性からambient isotopyにより $g_{0}$ と $g_{1} = g_{1}\circ \varphi$ を結ぶべばよいです。
向きに関する仮定は必要です。というのは、埋め込みをisotopyで動かす際に向きを保つという性質が保たれるため、例えば $g_{0}$ が向きを保ち、$g_{1}$ が向きを逆にする場合のambient isotopy $\hat{F}$ の存在は $\Id_{D^{n}} = g_{1}^{-1}\circ(\hat{F}_{1}\circ g_{0})$ が向きを逆にすることを導き矛盾します。
また、$M$ が向き付け不可能な連結可微分多様体の場合、任意の $2$ つの埋め込みに対してそのようなambient isotopy $\hat{F}$ が存在します。詳しくは省略しますが、向き付け不可能という仮定連結可微分多様体に対し、向き付け不可能であることとorientation double coverの連結性が同値だったことに注意。から、ある $M$ の基点付きループ $c : (S^{1}, 1)\to (M, g_{1}(0))$ に沿って埋め込み $g_{1}$ を動かすことでその $($$g_{1}(0)$ の周りで定めた局所的な向きに関する$)$ 向きを反転することができるので上手くいきます。
$M_{1}, M_{2}$ を向き付けられた $n$ 次元連結可微分多様体、$f_{i} : D^{n}\to \Int M_{i} \ (i = 1, 2)$ を埋め込みとし、$f_{1}$ は向きを保ち、$f_{2}$ は向きを逆にするとします。このとき、$M_{1}\setminus f_{1}(\Int D^{n})$, $M_{2}\setminus f_{2}(\Int D^{n})$ の境界のコンパクトな連結成分 $f_{1}(S^{n - 1}), f_{2}(S^{n - 1})$ の間の向きを逆にする $C^{\infty}$ 級同相 $\tilde{f} = f_{2}\circ f_{1}^{-1}|_{f_{1}(S^{-1})} : f_{1}(S^{n - 1})\to f_{2}(S^{n - 1})$ が定まります。この $C^{\infty}$ 級同相 $\tilde{f}$ により貼り合わせて得られる向き付けられた可微分多様体\[M_{1}\setminus f_{1}(\Int D^{n})\cup_{\tilde{f}}M_{2}\setminus f_{2}(\Int D^{n})\]を $M_{1}\cs M_{2}$ と書いて $M_{1}, M_{2}$ の連結和といいます。球体定理からこの構成は埋め込み $f_{i} : D^{n}\to \Int M_{i}$ の取り方にはよらないことが分かります。
$n \geq 2$ とし$n = 1$ の場合、例えば区間 $[0, 1]$ どうしの連結和を考えると連結性が崩れる $($連結和が連結可微分多様体たちの中で閉じた操作にならない$)$ ため除外しておきます。、$M_{1}, M_{2}, M_{3}$ を向き付けられた $n$ 次元連結可微分多様体とする。次のことが成立する。
(1) 明らか。
(2) $M_{1}\cs M_{2}$ と $M_{3}$ の間の連結和を取る際に取る埋め込み $D^{n}\to M_{1}\cs M_{2}$ の像を $M_{1}\cs M_{2}$ の $M_{2}$ に由来する部分に取ったとすれば明らかに連結和を取る順番を入れ換えられます。
(3) 連結和を取る際の埋め込み $D^{n}\to S^{n}$ を $S^{n}$ の半球体 $($$S^{n}\cap \Rp^{n + 1}$$)$ への標準的な埋め込みに取ることで直接確かめられます。
(そのうち書きます。)
以上です。
境界連結和についても一応書くつもりですが、後回しで。
更新履歴