多変数関数の微分について基礎的なことをまとめます。実解析関数や正則関数 $($複素微分$)$ についてもちょっと書きます。
以下では数ベクトルは縦ベクトルと同一視し、行列と数ベクトルの積 $M(m, n; \K)\times \K^{n}\to \K^{m}$ は行列の積 $M(m, n; \K)\times M(n, 1; \K)\to M(m, 1; \K)$ と考えることにします。また、ベクトル $v\in \K^{n}$ に対して $|v|$ によりその通常のノルムを、行列 $A\in M(m, n; \K)$ に対して $\|A\|$ によりそのノルム $\underset{v\in \K^{n}\setminus \{0\}}{\sup}\tfrac{|Av|}{|v|}$ を表すとします。
まずは方向微分を導入します。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。
微分係数に次の線型性があることは明らかでしょう。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f, g : U\to \R^{m}$ と点 $a\in U$ とベクトル $v\in \R^{n}$ が与えられているとする。$f, g$ が $a$ において $v$ 方向に微分可能なとき、任意の $s, t\in \R$ に対して関数 $h := sf + tg$ も $a$ において $v$ 方向に微分可能であり、微分係数について\[\dfrac{\partial h}{\partial v}(a) = s\cdot \dfrac{\partial f}{\partial v}(a) + t\cdot \dfrac{\partial g}{\partial v}(a)\]が成立する。よって、$f, g$ が $v$ 方向に微分可能であれば導関数について $\tfrac{\partial h}{\partial v} = s\tfrac{\partial f}{\partial v} + t\tfrac{\partial g}{\partial v}$ が成立する。
方向微分の定義において終域は最初から $\R^{m}$ で考えましたが、実際には成分ごとに考えればよいです。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ と点 $a\in U$ とベクトル $v\in \R^{n}$ が与えられているとする。また、$f$ は終域の成分ごとに $f = (f_{1}, \dots, f_{m})$ と実関数の組で表されているとする。次は同値である。
また、$f$ が $a$ において $v$ 方向に微分可能なとき、\[\dfrac{\partial f}{\partial v}(a) = \left[\begin{array}{c}\tfrac{\partial f_{1}}{\partial v}(a) \\\tfrac{\partial f_{2}}{\partial v}(a) \\\vdots \\\tfrac{\partial f_{m}}{\partial v}(a) \\\end{array}\right]\]が成立する。
関数 $f : \R^{2}\to \R$ を $f(x, y) := xy$ と定めます。これは各点において任意の方向に微分可能であり、点 $(x, y)$ における $(a, b)$ 方向の微分係数は極限\[\dfrac{f(x + ah, y + bh) - f(x, y)}{h} = \dfrac{(bx + ay)h + abh^{2}}{h}\to bx + ay \ (h\to 0)\]より $bx + ay$ です。
関数 $f : \R^{2}\to \R$ を\[f(x, y) := \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{x^{2} - y^{2}}{x^{2} + y^{2}} & ((x, y)\neq (0, 0)) \\0 & ((x, y) = (0, 0))\end{array}\right.\]と定めます。原点において $(a, b) \ (\neq (0, 0))$ 方向の微分が可能であることは\[\dfrac{f(ah, bh) - f(0, 0)}{h} = \dfrac{a^{2} - b^{2}}{a^{2} + b^{2}}\dfrac{1}{h}\]の $h\to 0, \ (h\neq 0)$ とする極限が収束することと言い換えられ、よって、原点における $(a, b)$ 方向の微分は $b = \pm a$ のときに限り可能となります。また、そのときの微分係数は $0$ です。
多変数関数がある $1$ つの方向に微分可能であっても連続とは限らないのは明らなことですが、さらに、任意の方向に微分可能であっても連続とは限らず、それは例えば関数\[f(x, y) := \left\{\begin{array}{ll}1 + \cos \dfrac{(y - 2x^{2})\pi}{x^{2}} & (0 < x, \ x^{2}\leq y\leq 3x^{2}) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]を考えることで分かります。
応用上は軸方向の微分が重要であり、偏微分と呼ばれます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。また、$\R^{n}$ の第 $k$ 変数 $($座標$)$ を $x_{k}$ で表し、第 $k$ 単位ベクトルを $e_{k}$ で表すとする。
偏導関数の偏微分により高階の偏導関数を考えられ、関数 $f$ に対してちょうど $r$ 回偏微分して得られる導関数は関数 $f$ の $r$ 階偏導関数と呼ばれます。これは変数の取り方により $($存在するかは別にして$)$ ちょうど $n^{r}$ 個だけ考えることができます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。
全微分を導入します。これは方向微分や偏微分よりも強い意味の微分になります。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。関数 $f$ が点 $a\in U$ において全微分可能、もしくは単に微分可能であるとは、ある行列 $A\in M(m, n; \R)$ が存在して\[\lim_{v\to 0}\dfrac{|f(a + v) - f(a) - Av|}{|v|} = 0\]を満たすことと定める。$A$ を $f$ の $a$ における微分係数といい $f'(a), Df(a), (Df)_{a}, df(a), (df)_{a}$ により表す。$f'(a)$ が行列であることを強調するときはJacobi行列といい、ここでは $J_{f}(a)$ により表すことにする。$f$ が $U$ の各点で全微分可能であるとき、各点に対してその点における微分係数を対応させる写像 $f' : U\to M(m, n; \R)$ が定まり、これを $f$ の導関数という。これは $Df$ や $df$ とも表す。行列値関数であることを強調するときには $J_{f}$ と表すことにする。
微分係数の一意性は確かめておきます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。関数 $f$ の点 $a\in U$ における微分係数は存在すれば一意に定まる。
$A, B$ を $f$ の $a$ における微分係数とします。このとき $\underset{v\to 0, \ v\neq 0}{\lim}\dfrac{|(B - A)v|}{|v|} = 0$ です。$A, B$ の $k$ 列目をそれぞれ $a_{k}, b_{k}$ と表すことにすれば、各 $1\leq k\leq n$ に対して\[|b_{k} - a_{k}| = \underset{t\to 0, \ t\neq 0}{\lim}\dfrac{|b_{k} - a_{k}||t|}{|t|} = \underset{t\to 0, \ t\neq 0}{\lim}\dfrac{|(B - A)(te_{k})|}{|te_{k}|} = 0\]より $a_{k} = b_{k}$ であり、$A = B$ です。
全微分可能性は連続性を導きます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。関数 $f$ が点 $a\in U$ において全微分可能であるならば $f$ は $a$ において連続である。
$A\in M(m, n; \R)$ を $f$ の $a$ における微分係数とします。$v\neq 0$ において\[0\leq |f(a + v) - f(a)|\leq \dfrac{|f(a + v) - f(a) - Av|}{|v|}|v| + |Av|\]であり、この極限を取ることで\[\underset{v\to 0, \ v\neq 0}{\lim}|f(a + v) - f(a)| = 0\]が得られます。これは $f$ の $a$ における連続性を意味します。
ここでは最初からベクトル値関数で全微分の定義を与えましたが、全微分可能性は終域の成分ごとに考えても問題ないことが容易に確かめられます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ と点 $a\in U$ が与えられているとする。また、$f$ は終域の成分ごとに $f = (f_{1}, \dots, f_{m})$ と実関数の組で表されているとする。次は同値である。
また、$f$ が $a$ において全微分可能なとき、\[J_{f}(a)= \left[\begin{array}{c}J_{f_{1}}(a) \\J_{f_{2}}(a) \\\vdots \\J_{f_{m}}(a) \\\end{array}\right]= \left[\begin{array}{cccc}\tfrac{\partial f_{1}}{\partial x_{1}}(a) & \tfrac{\partial f_{1}}{\partial x_{2}}(a) & \cdots & \tfrac{\partial f_{1}}{\partial x_{n}}(a)\\\tfrac{\partial f_{2}}{\partial x_{1}}(a) & \tfrac{\partial f_{2}}{\partial x_{2}}(a) & \cdots & \tfrac{\partial f_{2}}{\partial x_{n}}(a)\\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\\tfrac{\partial f_{m}}{\partial x_{1}}(a) & \tfrac{\partial f_{m}}{\partial x_{2}}(a) & \cdots & \tfrac{\partial f_{m}}{\partial x_{n}}(a)\\\end{array}\right]\]が成立する。
全微分可能な点においてはどの方向にも方向微分可能です。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ と点 $a\in U$ が与えられ、$f$ は $a$ において全微分可能であるとする。任意のベクトル $v\in \R^{n}$ に対して $f$ は $a$ において $v$ 方向に微分可能であり、微分係数について $f_{v}(a) = J_{f}(a)v$ が成立する。
連続微分可能性と関係として次は重要です。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 命題4.2.13より $f$ の各変数に関する偏導関数が存在し、それは単位ベクトル $e_{k}$ を用いて $f_{x_{k}}(x) = f'(x)e_{k}$ と表されます。導関数 $f'$ の連続性より各偏導関数 $f_{x_{k}}$ も連続です。また、命題4.2.11より $f$ 自身も連続であり、$f$ は $C^{1}$ 級です。
(2) ⇒ (1) $m = 1$ の場合に示せばよいです。関数 $g_{k}(a, v) \ (0\leq k\leq n)$ を定まる範囲で\[g_{0}(a, v) := f(a), \ g_{k}(a, v) := f(a_{1} + v_{1}, \dots, a_{k} + v_{k}, a_{k + 1}, \dots, a_{n}) \ (1\leq k\leq n)\]により定めます。また、関数 $J : U\to M(1, n; \R)$ を\[J(a) := \left[\begin{array}{ccc}f_{x_{1}}(a) & \dots & f_{x_{n}}(a)\end{array}\right]\]により定めます。各偏導関数 $f_{x_{k}}$ の連続性からこの $J$ も連続です。また、$J(a)e_{k} = f_{x_{k}}(a)$ です。
関数 $f$ が任意に取った点 $a\in U$ において微分係数 $J(a)$ を持つことを示せばよいです。まず、十分小さい $v\in \R^{n}\setminus \{0\}$ に対して\[|f(a + v) - f(a) - J(a)v| \leq \sum_{k = 1}^{n}|g_{k}(a, v) - g_{k - 1}(a, v) - J(a)(v_{k}e_{k})|\]です。各 $1\leq k\leq n$ に対して中間値の定理 $($定理4.1.14$)$ よりある実数 $t_{k}\in (0, 1)$ が存在して\[g_{k}(a, v) - g_{k - 1}(a, v) = f_{x_{k}}(\dots, a_{k - 1} + v_{k - 1}, a_{k} + t_{k}v_{k}, a_{k + 1}, \dots)v_{k}\]であり、\begin{eqnarray*}|g_{k}(a, v) - g_{k - 1}(a, v) - J(a)(v_{k}e_{k})| & = & |f_{x_{k}}(\dots, a_{k - 1} + v_{k - 1}, a_{k} + t_{k}v_{k}, a_{k + 1}, \dots)v_{k} - f_{x_{k}}(a)v_{k}| \\&\leq & |f_{x_{k}}(\dots, a_{k - 1} + v_{k - 1}, a_{k} + t_{k}v_{k}, a_{k + 1}, \dots) - f_{x_{k}}(a)||v|\end{eqnarray*}と評価できます。よって、\[\dfrac{|f(a + v) - f(a) - J(a)v|}{|v|} \leq \sum_{k = 1}^{n}|f_{x_{k}}(\dots, a_{k - 1} + v_{k - 1}, a_{k} + t_{k}v_{k}, a_{k + 1}, \dots) - f_{x_{k}}(a)|\]ですが、各偏導関数 $f_{x_{k}}$ の連続性から右辺の $v\to 0$ とした極限は $0$ であり、これは $f$ が $a$ において微分係数 $J(a)$ を持つことを意味します。
全微分可能な関数どうしの合成関数の全微分を考えます。$1$ つ補題を用意します。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられ、$a\in U$ において全微分可能であるとする。正実数 $\varepsilon > 0$ と関数 $\delta : [0, \varepsilon)\to [0, +\infty)$ であって $\underset{t\to +0}{\lim}\delta(t) = 0$ かつ $|v| < \varepsilon$ を満たす任意の $h$ に対して\[|f(a + v) - f(a) - f'(a)v|\leq \delta(|v|)|v|\]を満たすものが存在する。
一変数関数の場合 $($補題4.1.5$)$ と同じです。
開集合 $U\subset \R^{n}$, $V\subset \R^{m}$ と関数 $f : U\to V$, $g : V\to \R^{l}$ が与えられているとする。ある点 $a\in A$ について $f$ は $a$ において全微分可能かつ $g$ は $f(a)$ において全微分可能であるとき、合成関数 $g\circ f$ は $a$ において全微分可能であり、その微分係数は $g'(f(a))f'(a)$ である。これを合成関数の微分もしくは連鎖律ともいう。
また、$f$ を変数 $x_{1}, \dots x_{n}$ に関する関数、$g$ を変数 $y_{1}, \dots, y_{m}$ に関する関数とし、さらに $f$ を終域の成分ごとに実関数の組 $f = (f_{1}, \dots, f_{m})$ として表すとするとき、合成関数 $g\circ f$ の変数 $x_{k}$ に関する偏導関数について\[\dfrac{\partial(g\circ f)}{\partial x_{k}}(x) = \sum_{l = 1}^{m}\dfrac{\partial g}{\partial y_{l}}(f(x))\dfrac{\partial f_{l}}{\partial x_{k}}(x)\]が成立する。
一変数関数の場合 $($命題4.1.6$)$ と本質的に同じですが、ちょっとだけ違うので繰り返します。
補題4.2.16より関数 $\delta : [0, \varepsilon)\to [0, +\infty)$ であって $\underset{t\to 0}{\lim}\delta(t) = 0$ かつ $|v| < \varepsilon$ において $|g(f(a) + v) - g(f(a)) - g'(f(a))v|\leq \delta(|v|)|v|$ を満たすものを取ります。まず、\begin{eqnarray*}&& \dfrac{|g(f(a + v)) - g(f(a)) - g'(f(a))f'(a)v|}{|v|}\\& \leq & \dfrac{|g(f(a + v)) - g(f(a)) - g'(f(a))(f(a + v) - f(a))|}{|v|} \\& + & \dfrac{|g'(f(a))(f(a + v) - f(a)) - g'(f(a))f'(a)v|}{|v|}\end{eqnarray*}であり、第 $1$ 項について\begin{eqnarray*}&& \dfrac{|g(f(a + v)) - g(f(a)) - g'(f(a))(f(a + v) - f(a))|}{|v|} \\& \leq & \delta(|f(a + v) - f(a)|)\cdot \dfrac{|f(a + v) - f(a)|}{|v|} \\& \leq & \delta(|f(a + v) - f(a)|)\cdot \left(\dfrac{|f(a + v) - f(a) - f'(a)v|}{|v|} + \|f'(a)\|\right)\to 0 \ (v\to 0)\end{eqnarray*}であること、第 $2$ 項について\begin{eqnarray*}&& \dfrac{|g'(f(a))(f(a + v) - f(a)) - g'(f(a))f'(a)v|}{|v|} \\& \leq & \|g'(f(a))\|\cdot \dfrac{|f(a + v) - f(a) - f'(a)v|}{|v|}\to 0 \ (v\to 0)\end{eqnarray*}であることから\[\lim_{v\to 0}\dfrac{|g(f(a + v)) - g(f(a)) - g'(f(a))f'(a)v|}{|v|} = 0\]です。つまり、合成 $g\circ f$ は $a$ において微分可能であり、微分係数は $g'(f(a))f'(a)$ です。
最後の偏導関数の表示は単に行列の積を計算するだけです。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f, g : U\to \R$ が与えられ、いずれも点 $a\in U$ において全微分可能とする。次が成立する。
(1) 明らかです。
(2) 命題4.2.12より対 $(f, g) : U\to \R^{2}$ は点 $a$ において全微分可能です。これと関数 $h : \R^{2}\to \R : (x, y)\mapsto xy$ との合成 $h\circ (f, g)$ が $fg$ であるので、その点 $a$ における微分係数を計算して\[(fg)'(a) = h'(f(a), g(a))(f, g)'(a)= \left[\begin{array}{cc}g(a) & f(a)\end{array}\right]\left[\begin{array}{c}f'(a) \\g'(a)\end{array}\right]= \left[\begin{array}{c}g(a)f'(a) + f(a)g'(a)\end{array}\right]\]となります。
(3) $h(x, y) := x/y$ について(2)と同じことをするだけです。
関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられ、重複を許した $r$ 個の変数 $x_{i}, x_{j} \dots, x_{k}$ についてこの順に偏微分が可能なとき、この順で偏微分して得られる $r$ 階偏導関数は\[\dfrac{\partial^{r}f}{\partial x_{k}\dots \partial x_{j} \partial x_{i}}, \ \partial_{x_{k}}\dots \partial_{x_{j}}\partial_{x_{i}}f, \ f_{x_{i}x_{j}\dots x_{k}}\]などにより表します。記号の並び順については注意。
しかし、$f$ が $C^{r}$ 級関数の場合、偏微分を取る順序は結果の $r$ 階偏導関数には影響せず、変数ごとに何回偏微分を取ったかで決まります。これは $C^{2}$ 級関数の場合に偏微分の順序が交換可能であることからの明らかな帰結です。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{2}$ 級関数 $f : U\to \R$ が与えられているとする。任意の $1\leq k\leq l\leq n$ に対して\[\dfrac{\partial^{2}f}{\partial x_{l}\partial x_{k}} = \dfrac{\partial^{2}f}{\partial x_{k}\partial x_{l}}\]が成立する。
簡単のため $n = 2$ として変数は $x, y$ とします。点 $(a, b)\in U$ において等号が成立することを示します。まず、絶対値の十分小さい実数 $s, t$ に対して\[\varphi(s, t) := f(a + s, b + t) - f(a + s, b) - f(a, b + t) + f(a, b)\]とおきます。$g(x) := f(a + x, b + t) - f(a + x, b)$ とおけば $\varphi(s, t) = g(s) - g(0)$ であり、変数 $x$ について平均値の定理を用いて実数 $0 < \theta_{s, t} < 1$ を\[\varphi(s, t) = s \dfrac{dg}{dx}(\theta_{s, t} s) = s\left(\dfrac{\partial f}{\partial x}(a + \theta_{s, t} s, b + t) - \dfrac{\partial f}{\partial x}(a + \theta_{s, t} s, b)\right)\]を満たすように取れます。さらに、変数 $y$ について平均値の定理を用いて実数 $0 < \theta'_{s, t} < 1$ を\[\varphi(s, t) = st \dfrac{\partial^{2} f}{\partial y\partial x}(a + \theta_{s, t} s, b + \theta'_{s, t} t)\]を満たすように取れます。よって、極限\[\lim_{(s, t)\to (0, 0), \ st \neq 0}\dfrac{\varphi(s, t)}{st} = \lim_{(s, t)\to (0, 0), \ st \neq 0} \dfrac{\partial^{2} f}{\partial y\partial x}(a + \theta_{s, t} s, b + \theta'_{s, t} t) = \dfrac{\partial^{2} f}{\partial y\partial x}(a, b)\]が成立します。同様に、$y, x$ の順で平均値の定理を用いることで実数 $0 < \tau_{s, t}, \tau'_{s, t} < 1$ を\[\varphi(s, t) = st \dfrac{\partial^{2} f}{\partial x\partial y}(a + \tau_{s, t} s, b + \tau'_{s, t} t)\]であるように取ることができ、極限\[\lim_{(s, t)\to (0, 0), \ st \neq 0}\dfrac{\varphi(s, t)}{st} = \lim_{(s, t)\to (0, 0), \ st \neq 0} \dfrac{\partial^{2} f}{\partial x\partial y}(a + \tau_{s, t} s, b + \tau'_{s, t} t) = \dfrac{\partial^{2} f}{\partial x\partial y}(a, b)\]が成立するので、結果\[\dfrac{\partial^{2} f}{\partial y\partial x}(a, b) = \dfrac{\partial^{2} f}{\partial x\partial y}(a, b)\]が従います。
ということで、$C^{r}$ 級関数 $f$ の $r$ 階偏導関数はその偏微分を取る順番を並べ換え、例えば変数 $x_{k}$ についてはちょうど $r_{k}$ 回偏微分しているとして、偏導関数を\[\dfrac{\partial^{r}f}{\partial x_{1}^{r_{1}}\partial x_{2}^{r_{2}}\dots \partial x_{n}^{r_{n}}}\]のように表すのが普通です。しかし、高階の偏導関数が現れるたびにこのような表記をするのは大変であり、そういうときは多重指数記法による略記をするとよいです。また、多重指数は偏導関数の表示以外でも便利なため、それらについても導入しておきます。
$\alpha = (\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n}), \beta = (\beta_{1}, \dots, \beta_{n})\in \N^{n}$ とする。
上記の(6)や(7)のように指数 $($や次数・階数$)$ の一般化 $($多次元化$)$ の意味で現れる $\alpha, \beta$ を多重指数と呼び、また、(4)や(5)に現れる $\alpha, \beta$ についてもそのまま多重指数と呼ぶ。(普通、単に $\N^{n}$ の元というだけでは多重指数とは呼ばない。)
また、ここだけの記号として、$n$ 変数の多重指数全体 $\N^{n}$ を $\mathcal{I}_{n}$ で表し、そのうち絶対値が $r$ 以下のもの全体を $\mathcal{I}_{n, r}$ により表すことにする。
状況によっては各成分に負の整数も認めて $\Z^{n}$ の元を多重指数として扱うなどの便宜的な拡張を行うこともあります。
基本的な事実として次が示されます。
次が成立する。
(1) これは\[\dbinom{\alpha}{\beta - e_{k}} + \dbinom{\alpha}{\beta} = \left(\dbinom{\alpha_{k}}{\beta_{k} - 1} + \dbinom{\alpha_{k}}{\beta_{k}}\right)\prod_{l\neq k}\dbinom{\alpha_{l}}{\beta_{l}} = \dbinom{\alpha_{k} + 1}{\beta_{k}}\prod_{l\neq k}\dbinom{\alpha_{l}}{\beta_{l}} = \dbinom{\alpha + e_{k}}{\beta}\]と計算できるのでよいです。
(2) ある $\alpha\in \mathcal{I}_{n}$ について主張の展開が得られているとき、$\alpha + e_{k}$ について\begin{eqnarray*}(x + y)^{\alpha + e_{k}} & = & (x_{k} + y_{k})(x + y)^{\alpha} = (x_{k} + y_{k})\sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha - \beta} = \sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}(x^{\beta + e_{k}}y^{\alpha - \beta} + x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta}) \\& = & \sum_{e_{k}\leq \beta\leq \alpha + e_{k}}\dbinom{\alpha}{\beta - e_{k}}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} + \sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} \\& = & \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ \beta_{k} = \alpha_{k} + 1}}\dbinom{\alpha}{\beta - e_{k}}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} + \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ 1\leq \beta_{k} \leq \alpha_{k}}}\left(\dbinom{\alpha}{\beta - e_{k}} + \dbinom{\alpha}{\beta}\right)x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} + \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ \beta_{k} = 0}}\dbinom{\alpha}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} \\& = & \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ \beta_{k} = \alpha_{k} + 1}}\dbinom{\alpha + e_{k}}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} + \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ 1\leq \beta_{k} \leq \alpha_{k}}}\dbinom{\alpha + e_{k}}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} + \sum_{\substack{\beta\leq \alpha + e_{k} \\ \beta_{k} = 0}}\dbinom{\alpha + e_{k}}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta} \\& = & \sum_{\beta\leq \alpha + e_{k}}\dbinom{\alpha + e_{k}}{\beta}x^{\beta}y^{\alpha + e_{k} - \beta}\end{eqnarray*}であるので、帰納法により全ての $\alpha\in \mathcal{I}_{n}$ で主張の展開が成立することが分かります。
(3) $\beta = e_{k}$ の場合が容易に示され、あとは帰納法により完結します。
(4) 仮定から偏微分の順序が交換可能なこと $($命題4.2.19$)$ より明らかです。
(5) ある $\alpha\in \mathcal{I}_{n}$ について主張の展開が得られているとき、$\alpha + e_{k}$ について\[\partial^{\alpha + e_{k}}(fg) = \partial^{e_{k}}\sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}(\partial^{\beta}f)(\partial^{\alpha - \beta}g) = \sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}((\partial^{\beta + e_{k}}f)(\partial^{\alpha - \beta}g) + (\partial^{\beta}f)(\partial^{\alpha + e_{k} - \beta}g))\]であるので(2)と同じような計算ができ、帰納法が上手くいきます。
(6) 基本的事実です。
(7) (6)を用いた帰納法より分かります。
正則点と臨界点を簡単に導入だけしておきます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。
位相空間 $A$ 上定義された関数 $f : A\to \R$ が与えられているとする。点 $a\in A$ が関数 $f$ の $($広義の$)$ 極大点単に極大点といったら通常は広義の極大点を指す。であるとは、点 $a$ のある開近傍 $U\subset A$ が存在して任意の点 $x\in U\setminus \{a\}$ に対して\[f(x)\leq f(a)\]が成立することと定める。不等式から等号を外したもので狭義の極大点であることを定義し、不等式の向きを逆にしたもので極小点であることを定義する。極大点における関数の値を極大値と呼び、極小点における関数の値を極小値と呼ぶ。
明らかなこととして次を明示しておきます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f : U\to \R$ について、その極大点および極小点は臨界点である。
極大点における任意の方向微分は $0$ なので、その点におけるJacobi行列の階数は $0$ になり、つまり、臨界点です。極小点でも同様です。
多変数版のTaylorの定理を次の形で示します。
$0\leq r < \infty$ とし、開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{r}$ 級関数 $f : U\to \R$ と点 $a\in U$ が与えられているとする。等式\[f(x) = \sum_{\alpha\in \mathcal{I}_{n, r}}\dfrac{\partial^{\alpha}f(a)}{\alpha!}(x - a)^{\alpha} + o(|x - a|^{r}) \ (x\to a)\]が成立する。
$r$ に関する帰納法により示します。$r = 0$ の場合は明らかです。$r = s - 1$ の場合まで確かめられたとます。$C^{s}$ 級関数 $f(x)$ に対して関数 $R(x) := f(x) - \sum_{\alpha\in \mathcal{I}_{n, s}}\tfrac{\partial^{\alpha}f(a)}{\alpha!}(x - a)^{\alpha}$ は $C^{s}$ 級であり、その $s$ 階以下の偏導関数 $\partial^{\alpha}R$ はいずれも $a$ において $0$ を値に取ります。帰納法の仮定より $1$ 階の各偏導関数 $\partial_{x_{k}}R$ について $\partial_{x_{k}}R(x) = o(|x - a|^{s - 1}) \ (x\to a)$ です。点 $a$ の凸開近傍 $V$ を取るとき、各 $x\in V$ に対して可微分曲線 $c_{x} : I\to V : t\mapsto t(x - a) + a$ と $R$ との合成 $R\circ c_{x}$ を考えることができ、この合成に対する平均値の定理 $($定理4.1.14$)$ より実数 $0 < t_{x} < 1$ であって\[R(x) = J_{R}(c_{x}(t_{x}))J_{c_{x}}(t_{x}) = J_{R}(t_{x}(x - a) + a)(x - a)\]となるものが取れます。$J_{R}$ の各成分が $o(|x - a|^{s - 1}) \ (x\to a)$ であることから\[R(x) = o(|x - a|^{s}) \ (x\to a)\]です。よって、$r = s$ の場合が示されました。
開集合 $U$ 上定義された $C^{\infty}$ 級関数 $f : U\to \R$ と点 $a\in U$ が与えられているとする。級数\[\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}\dfrac{\partial^{\alpha}f(a)}{\alpha!}(x - a)^{\alpha}\]を $f$ の $a$ を中心とするTaylor級数という。Taylor級数が $a$ のある開近傍上で絶対収束して $f$ に一致するときTaylor展開と呼ぶ。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上で定義された実数値関数 $f : U\to \R$ が与えられているとする。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上で定義された実ベクトル値関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。
また、微分可能性を論じる際の都合として形式的に $\infty < \omega$ と定めておく。
多変数の実解析関数を考える際の基礎となる多変数の整級数についてまとめます。ひとまず複素変数で導入します。
複素数の族 $\{a_{\alpha}\}_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}$ と点 $\xi\in \C^{n}$ が与えられているとする。
収束性について次が知られています。
整級数 $f(z) = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(z - \xi)^{\alpha}$ がある $z = \eta$ において収束するとき、この整級数は開集合\[s(\eta; \xi) := \prod_{k = 1}^{n}O_{|\eta_{k} - \xi_{k}|}(\xi_{k}) = \{z\in \C^{n}\mid |z_{k} - \xi_{k}| < |\eta_{k} - \xi_{k}| \ (1\leq {}^{\forall}k\leq n)\}\]の任意のコンパクト部分集合上で一様絶対収束する。よって、整級数は各成分が中心と異なるようなある点において収束していれば中心のある開近傍上で収束する。
ある $1\leq k\leq n$ に対して $\eta_{k} = \xi_{k}$ となったら $s(\eta; \xi) = \varnothing$ となり自明なのでそうではないとします。$($空でない$)$ コンパクト部分集合 $K\subset s(\eta; \xi)$ を取ります。$r := \max_{z\in K, \ 1\leq k\leq n}\tfrac{|z_{k} - \xi_{k}|}{|\eta_{k} - \xi_{k}|}$ と定めます。$0\leq r < 1$ です。仮定の $z = \eta$ における収束性から $S := \sup_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}|a_{\alpha}(\eta - \xi)^{\alpha}| < +\infty$ であり、級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(z - \xi)^{\alpha}$ の $\prod_{k = 1}^{n}D_{r|\eta_{k} - \xi_{k}|}(\xi_{k})$ 上で一様な優級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}Sr^{|\alpha|}$ が取れます。この優級数の収束を示せばもとの級数が $K$ 上で一様絶対収束していることが分かります。
まず、\[\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}r^{|\alpha|} = \sum_{m = 0}^{\infty}\dbinom{m + n - 1}{m}r^{m}\leq \sum_{m = 0}^{\infty}\prod_{k = 1}^{m}\left(\dfrac{k + n - 1}{k}r\right)\]と評価でき、$\tfrac{m_{0} + n - 1}{m_{0}} < r^{-1}$ となる $m_{0}\in \N$ を固定すれば右辺の $m \geq m_{0}$ に渡る総和は実数\[\sum_{m = m_{0}}^{\infty}\left(\dfrac{m_{0} + n - 1}{m_{0}}r\right)^{m - m_{0}}\prod_{k = 1}^{m_{0}}\left(\dfrac{k + n - 1}{k}r\right)\]によって上から評価されます。これは級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}r^{|\alpha|}$ の収束を意味します。
整級数 $f(z) = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(z - \xi)^{\alpha}$ が開集合 $U\subset \C^{n}$ 上の各点において収束しているとする。この整級数は $U$ のコンパクト部分集合上で一様絶対収束し、よって、$U$ 上の連続関数を一意に定める。
中心の取り換えも一変数の場合 $($命題1.9.35$)$ と同様であり、形式的な変形\begin{eqnarray*}\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(z - \xi)^{\alpha} & = & \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}\sum_{\beta\leq \alpha}a_{\alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}(\eta - \xi)^{\alpha - \beta}(z - \eta)^{\beta} \\& = & \sum_{\beta\in\mathcal{I}_{n}}\left(\sum_{\alpha\geq \beta}a_{\alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}(\eta - \xi)^{\alpha - \beta}\right)(z - \eta)^{\beta}\end{eqnarray*}が正当化できます。
整級数 $f(z) = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(z - \xi)^{\alpha}$ が与えられ、開集合 $U\subset \C^{n}$ 上で収束しているとする。$\eta\in U$ に対して次が成立する。
(1) $\varepsilon\in \C^{n}$ を $\eta + \varepsilon\in U$ かつ各 $1\leq k\leq n$ に対して $|\varepsilon_{k}| > 0$ かつ $|\eta_{k} + \varepsilon_{k} - \xi_{k}| = |\eta_{k} - \xi_{k}| + |\varepsilon_{k}|$ であるように取ります。任意の $\alpha\in \mathcal{I}_{n}$ に対して\[|(\eta + \varepsilon - \xi)^{\alpha}| = \prod_{k = 1}^{n}|\eta_{k} + \varepsilon_{k} - \xi_{k}|^{\alpha_{k}} = \prod_{k = 1}^{n}\left(\sum_{l = 0}^{\alpha_{k}}\dbinom{\alpha_{k}}{\beta_{k}}|\eta_{k} - \xi_{k}|^{\alpha_{k} - l}|\varepsilon_{k}|^{l}\right) = \sum_{\beta\leq \alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}|(\eta - \xi)^{\alpha - \beta}|\cdot |\varepsilon^{\beta}|\]です。$z = \eta + \xi$ において整級数 $f(z)$ は絶対収束するので級数\[\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}|a_{\alpha}|\cdot |(\eta + \varepsilon - \xi)^{\alpha}|\]は収束し、これを上記の等式で崩した級数\[\sum_{\substack{\alpha, \beta\in\mathcal{I}_{n} \\ \beta\leq \alpha}}|a_{\alpha}|\dbinom{\alpha}{\beta}|(\eta - \xi)^{\alpha - \beta}|\cdot |\varepsilon^{\beta}|\]も収束します。この $|\varepsilon^{\beta}|^{-1} \ (> 0)$ 倍が級数 $b_{\beta}$ の収束する優級数になっています。
(2) (1)で取った $\varepsilon$ を用いて $V := s(\eta + \varepsilon; \eta)$ とすればよいです。実際、$z\in V$ に対して常に $|(z - \eta)^{\beta}| < |\varepsilon^{\beta}|$ と評価できるので級数\[\sum_{\substack{\alpha, \beta\in\mathcal{I}_{n} \\ \beta\leq \alpha}}a_{\alpha}\dbinom{\alpha}{\beta}(\eta - \xi)^{\alpha - \beta}(z - \eta)^{\beta}\]は絶対収束しており、これを整理して $f(z)$ と $g(z)$ が得られます。
以下では実係数で考えるとして、整級数の偏微分は一変数の場合と同様に項別の形式的な偏微分から得られます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義される整級数関数 $f(x) = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha}$ は各変数 $x_{k}$ について偏微分可能であり、偏導関数は\[\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ \alpha_{k}\geq 1}\alpha_{k}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha - e_{k}}\]で与えられる。よって、整級数関数はその定義される開集合上 $C^{\infty}$ 級である。
整級数関数 $f(x)$ はその絶対収束性から和の取り方を整理して固定した変数 $x_{k}$ に関する $a_{k}$ を中心とする一変数の整級数関数\[f(x) = \sum_{m = 0}^{\infty}\left(\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ \alpha_{k} = m}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha - me_{k}}\right)(x_{k} - a_{k})^{m}\]と考えることができ、ここに一変数の場合の項別微分 $($命題4.1.33$)$ を適用して\[\dfrac{\partial f}{\partial x_{k}}(x) = \sum_{m = 1}^{\infty}m\left(\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ \alpha_{k} = m}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha - me_{k}}\right)(x_{k} - a_{k})^{m - 1} = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ \alpha_{k}\geq 1}\alpha_{k}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha - e_{k}}\]です最後の等式は形式的には自明ですが、$2$ 段階で取っていた総和を $1$ つにまとめてよいかというところで右辺の絶対収束性の確認が必要になります。実際、整級数関数 $f(x)$ が開集合上で定まっていることからある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在して級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}c_{\alpha}(x - a)^{\alpha}(1 + \varepsilon)^{|\alpha|}$ は絶対収束しており、これと $m(1 + \varepsilon)^{-m}$ の有界性から右辺の絶対収束性が従います。。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上で定義された関数 $f : U\to \R$ と点 $a\in U$ が与えられているとする。$f$ が $a$ の近傍において $a$ を中心とする整級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(x - a)^{\alpha}$ による表示 $($整級数展開$)$ を持つとするとき、その整級数は $a_{\alpha} = \partial^{\alpha}f(a)/\alpha!$ として定まるものに限りTaylor級数に一致する。つまり、整級数展開はTaylor展開である。
命題4.2.33より $f$ は $a$ の近傍において $C^{\infty}$ 級であり、繰り返し偏微分することで $a$ の近傍において\[\partial^{\alpha}f(x) = \sum_{\beta\geq \alpha}\dfrac{\beta!}{(\beta - \alpha)!}a_{\beta}(x - a)^{\beta - \alpha}\]が得られます。$x = a$ を代入して $\partial^{\alpha}f(a) = \alpha!a_{\alpha}$ が必要と分かります。これは整級数がTaylor級数に一致することを意味します。
整級数により定義される関数 $f(x) = \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}a_{\alpha}(x - a)^{\alpha}$ はその定まる開集合上で実解析的である。
まず、実解析関数どうしの合成は実解析的です。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された開集合 $V\subset \R^{m}$ への実解析関数 $f : U\to V$ と $V$ 上定義された実解析関数 $g : V\to \R^{l}$ が与えられたとき、合成 $g\circ f$ も実解析的である。
$l = 1$ としてよいです。合成 $g\circ f$ の点 $a\in U$ における整級数展開が存在することを示します。$f$ を成分ごとの組 $(f_{1}, \dots, f_{m})$ に分け、各 $f_{j}$ の $a$ を中心とする整級数展開が $f_{j}(x) = \sum_{\alpha\in \mathcal{I}_{n}}c_{j, \alpha}(x - a)^{\alpha}$ で表されるとします。そして、$g$ の $f(a) = (f_{1}(a), \dots, f_{m}(a))$ を中心とする整級数展開が $g(y) = \sum_{\beta\in\mathcal{I}_{n}}d_{\beta}(y - f(a))^{\beta}$ で表されるとします。正実数 $\varepsilon > 0$ を $y = f(a) + (\varepsilon, \dots, \varepsilon)$ において級数 $\sum_{\beta\in\mathcal{I}_{n}}d_{\beta}(y - f(a))^{\beta}$ が絶対収束するように取ります。さらに、各 $1\leq j\leq m$ ごと正実数 $\delta_{j} > 0$ を $x = a + (\delta_{j}, \dots, \delta_{j})$ において\[\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ |\alpha|\geq 1}|c_{j, \alpha}||(x - a)^{\alpha}| < \varepsilon\]であるように取り例えば、正実数 $\delta'_{j} > 0$ を $x = a + (\delta'_{j}, \dots, \delta'_{j})$ において級数 $\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}}c_{j, \alpha}(x - a)^{\alpha}$ が絶対収束するように取り、$\delta_{j} := \delta'_{j}\min\{\varepsilon(1 + \sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ |\alpha|\geq 1}|c_{j, \alpha}|{\delta'_{j}}^{|\alpha|})^{-1}, 1\}$ とする。、$\delta := \min \{\delta_{1}, \dots, \delta_{m}\}$ とおきます。
合成 $g\circ f$ は成分ごとに $|x_{i} - a_{i}| < \delta$ となる範囲の $x\in U$ において\[(g\circ f)(x) = \sum_{\beta\in\mathcal{I}_{n}}d_{\beta}\prod_{j = 1}^{m}\left(\sum_{\alpha\in\mathcal{I}_{n}, \ |\alpha|\geq 1}c_{j, \alpha}(x - a)^{\alpha}\right)^{\beta_{j}}\]と表されますが、これをさらに単一の級数にまで $($形式的に$)$ 展開したものは $\varepsilon, \delta$ の取り方から絶対収束しています。よって、展開した後に次数ごと係数をまとめることで定まる整級数が $g\circ f$ の $a$ を中心とする整級数展開を与えます。
このことから次が分かります。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された実解析関数 $f, g : U\to \R$ が与えられているとする。次が成立する。
関数 $h(x, y) := xy$ および $h(x, y) := x/y$ が実解析的であることに注意すれば系4.2.18と同様です。一応、$y^{-1}$ の $b\neq 0$ における実解析性はその開近傍において\[y^{-1} = \dfrac{1}{b}\dfrac{1}{1 - \tfrac{b - y}{b}} = \dfrac{1}{b}\sum_{n = 0}^{\infty}\left(\dfrac{b - y}{b}\right)^{n}\]であることから。
実解析関数はその局所的な振る舞いによって全体が決まるという著しい性質を持ちます。
連結開集合 $U\subset \R$ 上定義された実解析関数 $f, g : U\to \R$ が与えられているとする。
一変数の場合 $($定理4.1.37$)$ と全く同じですが繰り返します。
(1) 部分集合 $A := \{x\in U\mid \partial^{\alpha}f(x) = \partial^{\alpha}g(x) \ ({}^{\forall}\alpha\in \mathcal{I}_{n})\}$ が空ではなく開かつ閉であることを示せばよいです。空でないことは仮定から。開であることは $A$ の各点において $f, g$ のTaylor展開が存在して一致することからよく、閉であることは偏導関数の連続性からよいです。
(2) (1)より明らか。
実解析関数についての有名なテキストとして[Steven G. Krantz and Harold R. Parks, A Primer of Real Analytic Functions Second Edition]があります。また、実解析関数は局所的な整級数展開を複素変数と思うことで正則関数 $($複素解析関数$)$ に拡張できるため、正則関数に関する一般論から実解析関数の諸性質を導くということも可能です。
複素微分について簡単に分かることだけ導入しておきます。
開集合 $U\subset \C^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \C^{m}$ が与えられているとする。関数 $f$ が点 $a\in U$ において複素全微分可能、もしくは単に複素微分可能であるとは、ある行列 $A\in M(m, n; \C)$ が存在して\[\lim_{v\to 0}\dfrac{|f(a + v) - f(a) - Av|}{|v|} = 0\]を満たすことと定める。$A$ を $f$ の $a$ における微分係数といい $f'(a)$ により表す。
関数 $f$ が各点において複素全微分可能なとき、各点に対してその点における微分係数を対応させることで導関数 $f' : U\to M(m, n; \C)$ が得られるが、これが連続であるとき $f$ を正則関数と呼ぶ。
複素数 $z$ を実数 $x, y$ を用いて $x + yi$ と表すとして、$\C$ 上の $n$ 次元数ベクトル空間 $\C^{n}$ は対応\[(z_{1}, z_{2}, \dots, z_{n})\mapsto (x_{1}, y_{1}, x_{2}, y_{2}, \dots, x_{n}, y_{n})\]により $\R$ 上の $2n$ 次元数ベクトル空間 $\R^{2n}$ と同一視されました。また、$\C$ 係数の $m$ 行 $n$ 列行列 $A\in M(m, n; \C)$ にはその誘導する複素線型写像 $f_{A} : \C^{n}\to \C^{m}$ を標準的な同一視 $\C^{k}\cong \R^{2k}$ のもとで $\R$ 上の数ベクトル空間の間の実線型写像とみなしたときの表現行列 $A_{\R}\in M(2m, 2n; \R)$ を対応させることができ、この対応により包含関係 $M(m, n; \C)\subset M(2m, 2n; \R)$ があるものと考えることができました。例えば、$M(1; \C)\subset M(2; \R)$ の具体的な対応は\[M(1; \C)\to M(2; \R) :\left[\begin{array}{c}z\end{array}\right]\mapsto\left[\begin{array}{cc}x & -y \\y & x\end{array}\right]\]と表されました。
これら同一視のもと、複素全微分可能性は実全微分可能性を導き、正則関数が $C^{1}$ 級関数であることが分かります。さらに以下の関係式が成立します。
開集合 $U\subset \C^{n}$ 上定義された正則関数 $f : U\to \C^{m}$ が与えられているとする。この関数を $2m$ 個の実数値関数 $u_{k}, v_{k} : U\to \R$ を用いて\[f = (u_{1} + v_{1}i, \dots, u_{m} + v_{m}i)\]の形に表すとき、各 $1\leq k\leq m$, $1\leq l\leq n$ に対して\[\dfrac{\partial u_{k}}{\partial x_{l}} = \dfrac{\partial v_{k}}{\partial y_{l}}, \ \dfrac{\partial v_{k}}{\partial x_{l}} = -\dfrac{\partial u_{k}}{\partial y_{l}}\]が成立する。この関係式をCauchy-Riemann方程式という。
各点 $a\in U$ ごとに示せばよいです。$e_{1}, \dots, e_{n}$ を $\C^{n}$ の標準基底とします。$a$ において複素全微分可能なことから各 $1\leq l\leq n$ に対して\[\lim_{t\to 0}\dfrac{f(a + te_{l}) - f(a)}{t} = \lim_{t\to 0}\dfrac{f'(a)(te_{l})}{t} = f'(a)e_{l},\]\[\lim_{t\to 0}\dfrac{f(a + t(e_{l}i)) - f(a)}{t} = \lim_{t\to 0}\dfrac{f'(a)(t(e_{l}i))}{t} = f'(a)(e_{l}i)\]です。前者は $\tfrac{\partial f}{\partial x_{l}}(a)$ であり、後者は $\tfrac{\partial f}{\partial y_{l}}(a)$ であるので\[\dfrac{\partial f}{\partial x_{l}}(a) = -i\dfrac{\partial f}{\partial y_{l}}(a)\]です。成分ごとにばらすことで\[\left[\begin{array}{c}\tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{l}} + \tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{l}}i \\\vdots \\\tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{l}} + \tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{l}}i\end{array}\right]= -i\left[\begin{array}{c}\tfrac{\partial u_{1}}{\partial y_{l}} + \tfrac{\partial v_{1}}{\partial y_{l}}i \\\vdots \\\tfrac{\partial u_{m}}{\partial y_{l}} + \tfrac{\partial v_{m}}{\partial y_{l}}i\end{array}\right]= \left[\begin{array}{c}\tfrac{\partial v_{1}}{\partial y_{l}} - \tfrac{\partial u_{1}}{\partial y_{l}}i \\\vdots \\\tfrac{\partial v_{m}}{\partial y_{l}} - \tfrac{\partial u_{m}}{\partial y_{l}}i\end{array}\right]\]であり、Cauchy-Riemann方程式が得られます。
また、$C^{1}$ 級関数のみ考えるという前提のもとで正則関数は以下のように特徴付けられます。
開集合 $U\subset \C^{n}$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f : U\to \C^{m}$ が与えられているとする。次は同値である。
(1) ⇒ (5) 命題4.2.42です。
(5) ⇒ (4) 命題4.2.42の実数値関数 $u_{k}, v_{k} : U\to \R$ を用いてJacobi行列は\[J_{f}= \left[\begin{array}{ccccc}\tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial y_{1}} & \dots & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial y_{n}} \\\tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial v_{1}}{\partial y_{1}} & \dots & \tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial v_{1}}{\partial y_{n}} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots \\\tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial y_{1}} & \dots & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial y_{n}} \\\tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial v_{m}}{\partial y_{1}} & \dots & \tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial v_{m}}{\partial y_{n}}\end{array}\right]= \left[\begin{array}{ccccc}\tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{1}} & -\tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{1}} & \dots & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{n}} & -\tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{n}} \\\tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{1}} & \dots & \tfrac{\partial v_{1}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial u_{1}}{\partial x_{n}} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots \\\tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{1}} & -\tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{1}} & \dots & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{n}} & -\tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{n}} \\\tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{1}} & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{1}} & \dots & \tfrac{\partial v_{m}}{\partial x_{n}} & \tfrac{\partial u_{m}}{\partial x_{n}}\end{array}\right]\]と表され、これは標準的な同一視のもと $M(m, n; \C)$ に属します。
(4) ⇒ (1) 明らかです。
(1) ⇔ (2) 容易です。
(1) ⇔ (3) 容易です。
開集合 $U\subset \C^{n}$ 上定義された開集合 $V\subset \C^{m}$ への正則関数 $f : U\to V$ と $V$ 上定義された正則関数 $g : V\to \C^{l}$ が与えられたとき、合成 $g\circ f$ も正則関数である。
標準的な写像 $M(m, n; \C)\to M(2m, 2n; \R)$ が行列の積を保つことに注意すれば明らかです。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された正則関数 $f, g : U\to \C$ が与えられているとする。次が成立する。
系4.2.18と同様です。
正則関数の例を挙げておきます。
多項式関数 $f(z) = \sum_{k = 0}^{n}a_{n}(z - \xi)^{k}$ は複素微分可能であり、導関数は $f'(z) = \sum_{k = 1}^{n}ka_{k}(z - \xi)^{k - 1}$ です。多変数の多項式関数でも変数ごとに偏微分可能であり、偏導関数は項別偏微分より得られます。
複素変数で考えた整級数関数 $f(z) = \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ はその定まる開集合上で複素微分可能であり、導関数は項別微分 $f'(z) = \sum_{n = 1}^{\infty}na_{n}(z - \xi)^{n - 1}$ により得られます。多変数の整級数でも変数ごとに偏微分可能であり、偏導関数は項別偏微分より得られます。
従って、複素変数で考えた指数関数・三角関数・双曲線関数の導関数は実変数の場合 $($例4.1.38$)$ と同様に計算できます。具体的には以下の通りです。
正則関数について成立する重要事実を紹介だけしておきます。
正則関数の複素偏導関数は正則関数であり、よって、$C^{\infty}$ 級関数である。
正則関数は始域の各点近傍において $($複素多変数の$)$ 整級数展開が可能であり、よって、$C^{\omega}$ 級関数である。
開集合 $U\subset \C^{n}$ 上定義された正則関数 $f : U\to \C^{m}$ が与えられ、各複素変数ごとに複素偏微分可能とする。このとき、関数 $f$ は正則関数である。
Euclid空間の開集合の間に微分同相の概念を導入します。
$0\leq r\leq \omega$ とし、$\R^{n}$ の開集合 $U$ から $\R^{m}$ の開集合 $V$ への $C^{r}$ 級写像 $f : U\to V$ が与えられているとする。この写像 $f : U\to V$ が $C^{r}$ 級同相写像であるとは、ある $C^{r}$ 級写像 $g : V\to U$ が存在して $g\circ f = \Id_{U}$ かつ $f\circ g = \Id_{V}$ を満たすことと定める。開集合 $U, V$ の間に $C^{r}$ 級同相写像が存在するとき、$U$ と $V$ は $C^{r}$ 級同相であるという。ここでは $C^{\infty}$ 級同相のことを微分同相とも呼び、$C^{\omega}$ 級同相のことを実解析的微分同相とも呼ぶ。($C^{0}$ 級同相は単なる同相と同じ意味です。)
恒等写像、$C^{r}$ 級同相写像どうしの合成、$C^{r}$ 級同相写像の逆写像が再び $C^{r}$ 級同相写像であることは明らかでしょう。
また、複素版も同様ですが、用語が異なるので注意。
$\C^{n}$ の開集合 $U$ から $\C^{m}$ の開集合 $V$ への正則写像 $f : U\to V$ が与えられているとする。この写像 $f : U\to V$ が双正則写像 $($biholomorphism$)$ であるとは、ある正則写像 $g : V\to U$ が存在して $g\circ f = \Id_{U}$ かつ $f\circ g = \Id_{V}$ を満たすことと定める。開集合 $U, V$ の間に双正則写像が存在するとき、$U$ と $V$ は双正則同値 $($biholomorphic$)$ であるという。
正則写像が実解析的なことを認めれば、双正則写像は実解析的微分同相写像であり、当然に微分同相写像であり、もちろん同相写像でもあります。
これら定義において始域と終域の次元は変えましたが、実際には微分同相が存在すれば両者の次元は一致します。
$\R^{n}$ の空でない開集合 $U$ と $\R^{m}$ の空でない開集合 $V$ が $C^{1}$ 級同相のとき $n = m$ が成立する。
$C^{1}$ 級同相写像 $f : U\to V$ とその逆写像 $g : V\to U$ と適当な点 $a\in U$ を取ります。合成関数の微分法より\[E_{n} = J_{g\circ f}(a) = J_{g}(f(a))J_{f}(a),\]\[E_{m} = J_{f\circ g}(f(a)) = J_{f}(g(f(a)))J_{g}(f(a)) = J_{f}(a)J_{g}(f(a))\]であり、$J_{f}(a)$ と $J_{g}(f(a))$ は互いに逆行列です。これは $n = m$ を意味します。
微分同相に関する例を挙げます。
(a) 明らかな実解析的微分同相として拡大と平行移動と反転があるので、$\R$ と $(0, +\infty)$ と $(0, 1)$ が互いに実解析的微分同相であることを示せばよいですが、指数関数 $e^{x}$ が $\R$ から $(0, +\infty)$ への実解析的微分同相写像を定め、同じく指数関数 $e^{-x}$ が $(0, +\infty)$ から $(0, 1)$ への実解析的微分同相写像を定めます。逆関数である対数関数の実解析性については例4.1.39を参照。
(b) $\R^{n}$ と $\Int I^{n}$ の実解析的微分同相性については成分ごとに(a)の結果を用いれば分かります。$\R^{n}$ と $O^{n}$ の実解析的微分同相性は互いに逆関数である実解析関数 $f : \R^{n}\to O^{n}$, $g : O^{n}\to \R^{n}$ を\[f(x) := \dfrac{x}{\sqrt{1 + |x|^{2}}}, \ g(y) := \dfrac{y}{\sqrt{1 - |y|^{2}}}\]に取れるので分かります。
(c) その他 命題C.1.2を参照。
(d) 逆行列の各成分がもとの行列の各成分の有理式として表されることから分かります。
$x, y$ を変数とする二変数関数を $x = r\cos \theta$, $y = r\sin \theta$ という関係式によって変数 $r, \theta$ に関する関数に変換する座標変換を極座標変換といいます。この関係式からただちに次の関係式が得られます。
例えば、変数 $x, y$ の二変数関数 $f(x, y) = x^{4} - y^{4}$ は極座標変換によって変数 $r, \theta$ の二変数関数 $g(r, \theta) = r^{4}\cos 2\theta$ になります。
さらに、逆正接関数 $\arctan$ 正接関数 $\tan$ を適当に制限した $($通常は始域を $(-\tfrac{\pi}{2}, \tfrac{\pi}{2})$ へ制限した$)$ 関数の逆関数のこと。を用いればその定まる範囲で関係式
も得られ、変数 $r, \theta$ から $x, y$ への逆変換も具体的に表示できます。
多変数版の逆関数定理を示します。まずは補題を用意します。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された関数 $f : U\to \R^{n}$ が与えられ、点 $a\in U$ において全微分可能とする。このとき、\[\inf_{v\in \R^{n}, \ |v| = 1}|J_{f}(a)v|\leq \varliminf_{x\to a}\dfrac{|f(x) - f(a)|}{|x - a|}\leq \varlimsup_{x\to a}\dfrac{|f(x) - f(a)|}{|x - a|}\leq \|J_{f}(a)\|\]が成立する。
最初の不等式は\[\inf_{v\in \R^{n}, \ |v| = 1}|J_{f}(a)v|\leq \dfrac{|J_{f}(a)(x - a)|}{|x - a|}\leq \dfrac{|f(x) - f(a)|}{|x - a|} + \dfrac{|J_{f}(a)(x - a) - (f(x) - f(a))|}{|x - a|}\]の下極限を取ることで得られ、最後の不等式は\[\dfrac{|f(x) - f(a)|}{|x - a|} - \dfrac{|f(x) - f(a) - J_{f}(a)(x - a)|}{|x - a|}\leq \dfrac{|J_{f}(a)(x - a)|}{|x - a|}\leq \|J_{f}(a)\|\]の上極限を取ることで得られます。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f : U\to \R^{m}$ が与えられているとする。さらに $2$ 点 $a, b\in U$ が与えられ、これらを端点とする線分 $L$ が $U$ に含まれるとする。このとき、\[|f(b) - f(a)|\leq \sup_{x\in L}\|J_{f}(x)\|\cdot |b - a|\]が成立する。
線分 $L$ 上の点 $c$ を $f(c) = f(a)$ を満たすもののうちで最も点 $b$ に近いものに取り、この点について\[|f(b) - f(c)|\leq \sup_{x\in L}\|J_{f}(x)\|\cdot |b - c|\]を示せば $|f(b) - f(c)| = |f(b) - f(a)|$ と $|b - c|\leq |b - a|$ から主張の不等式が得られます。また、$c = b$ のときは明らかに成立するので $c\neq b$ としてこの不等式を示せばよいです。
関数 $g : I\to \R$ を\[g(t) := |f(t(b - c) + c) - f(c)|^{2}\]により定めます。これは $C^{1}$ 級関数であり、導関数は\[g'(t) = 2(J_{f}(t(b - c) + c)(b - c))\cdot (f(t(b - c) + c) - f(c))\]です$g(t)$ は $f(t(b - c) + c) - f(c)$ どうしの内積です。その微分は系4.1.54より計算されます。。関数 $h(t) := \sqrt{g(t)}$ は $g(t)$ が区間 $(0, 1)$ において正値であることからこの区間上の各点で微分可能であり、平均値の定理 $($定理4.1.14$)$ よりある $t_{0}\in (0, 1)$ が存在して\[h(1) = h'(t_{0}) = \dfrac{g'(t_{0})}{2\sqrt{g(t_{0})}} = \dfrac{2(J_{f}(t_{0}(b - c) + c)(b - c))\cdot (f(t_{0}(b - c) + c) - f(c))}{2|f(t_{0}(b - c) + c) - f(c)|}\]です。これより\[|f(b) - f(c)|\leq |J_{f}(t_{0}(b - c) + c)(b - c)|\leq \sup_{x\in L}\|J_{f}(x)\|\cdot |b - c|\]です。
積分の一般論をすでに知っている前提での証明も書いておきます。
一般に $a$ を $b$ につなぐ $C^{1}$ 級曲線 $c : I\to U$ について\[f(b) - f(a) = \int_{0}^{1} J_{f}(c(t))c'(t)dt\]であり、曲線の長さを $l$ とおくとすれば\begin{eqnarray*}|f(b) - f(a)| & = & \left|\int_{0}^{1} J_{f}(c(t))c'(t)dt\right|\leq \int_{0}^{1} \|J_{f}(c(t))\|\cdot |c'(t)|dt \\& \leq & \sup_{x\in c(I)}\|J_{f}(x)\|\cdot \int_{0}^{1}|c'(t)|dt = \sup_{x\in c(I)}\|J_{f}(x)\|\cdot l\end{eqnarray*}です。主張はこれの特別な場合です。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f : U\to \R^{n}$ が与えられているとする。
(1) 点 $a\in U$ における $f$ のJacobi行列 $J_{f}(a)$ の逆行列の定める線型写像 $g : \R^{n}\to \R^{n} : v\mapsto (J_{f}(a))^{-1}v$ は同相写像であり、これを合成した $g\circ f$ による $a$ の近傍の像が $(g\circ f)(a)$ の近傍であることを示せばよいですが、$J_{g\circ f}(a)$ は単位行列 $E_{n}$ であり、つまり、最初から $J_{f}(a) = E_{n}$ だったとして示せばよいです。
$a$ の近傍 $V\subset U$ を取り、その像が $f(a)$ の近傍であることを示します。正実数 $\delta > 0$ であって次の条件を満たすものを取ります。
$D_{\delta}(f(a))\subset f(D_{2\delta}(a))$ を示せばよく、そのためには点 $c\in D_{\delta}(f(a))$ を取って $f(b) = c$ となる点 $b\in D_{2\delta}(a)$ を見つけます。
まず、$D_{2\delta}(a)$ の点列 $\{b_{k}\}_{k\in\N}$ を $b_{0} := a$, $b_{k + 1} := b_{k} + (c - f(b_{k}))$ として定められることを確かめます。そのためには $b_{k}$ まで $D_{2\delta}(a)$ の点として取れているとして $|b_{k + 1} - a|\leq 2\delta$ であることを示せばよいです。関数 $g : U\to \R^{n}$ を $g(x) := x - f(x)$ により定めると、各 $1\leq l < k$ に対して\begin{eqnarray*}|c - f(b_{l + 1})| & = & |c - f(b_{l} + (c - f(b_{l})))| \\& = & |(b_{l} + (c - f(b_{l})) - f(b_{l} + (c - f(b_{l})))) - (b_{l} - f(b_{l}))| \\& = & |g(b_{l} + (c - f(b_{l}))) - g(b_{l})| \\& \leq & \sup_{x\in D_{2\delta}(a)}\|J_{g}(x)\|\cdot |c - f(b_{l})| \\& = & \sup_{x\in D_{2\delta}(a)}\|E_{n} - J_{f}(x)\|\cdot |c - f(b_{l})|\leq \dfrac{1}{2}|c - f(b_{l})| \\\end{eqnarray*}であり $($$g$ に補題4.2.59を適用$)$、よって、各 $0\leq l\leq k$ に対して $|c - f(b_{l})|\leq 2^{-l}|c - f(b_{0})|\leq 2^{-l}\delta$ であり、これより\[|b_{k + 1} - a| = |b_{k + 1} - b_{0}| = \left|\sum_{l = 0}^{k}(b_{l + 1} - b_{l})\right| = \left|\sum_{l = 0}^{k}(c - f(b_{l}))\right|\leq \sum_{l = 0}^{k}|c - f(b_{l})| < 2\delta\]です。
これで点列 $\{b_{k}\}_{k\in \N}$ が定まりましたが、上の評価 $($常に $|b_{k + 1} - b_{k}| = |c - f(b_{k})|\leq 2^{-k}\delta$ であること$)$ からこの点列はある点 $b\in D_{2\delta}(a)$ に収束し、また、点列 $\{f(b_{k})\}_{k\in\N}$ は $c$ に収束します。よって、この $b$ について $f(b) = c$ です。
(2) 正実数 $\delta > 0$ を $D_{\delta}(a)\subset U$ かつ各 $x\in D_{\delta}(a)$ に対して $\|J_{f}(x) - E_{n}\|\leq \tfrac{1}{2}$ であるように取ります。任意の $x, y\in D_{\delta}(a)$ に対して\[|(y - f(y)) - (x - f(x))|\leq \sup_{z\in D_{\delta}(a)}\|E_{n} - J_{f}(z)\|\cdot |y - x|\leq \dfrac{1}{2}|y - x|\]であり、$|f(y) - f(x)|\geq \tfrac{1}{2}|y - x|$ です。これは $f$ の $D_{\delta}(a)$ への制限が単射であることを意味します。
(3) (1)と(2)より明らかです。
$\R^{n}$ の開集合から $\R^{n}$ 自身への連続単射が開埋め込みである $($領域不変性定理$)$ という事実があり、補題4.2.60はその特別な場合です。
$1\leq r\leq \infty$ とし、開集合 $W\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{r}$ 級関数 $f : W\to \R^{n}$ とその正則点 $a\in W$ が与えられているとする。このとき、$a$ の開近傍 $U\subset W$ と $f(a)$ の開近傍 $V$ であって制限 $f : U\to V$ が $C^{r}$ 級同相になるものが存在する。また、逆関数 $f^{-1}$ の導関数は $(f^{-1})'(y) = f'(f^{-1}(y))^{-1}$ で与えられる。
補題4.2.60より開近傍 $U$ を制限 $f : U\to \R^{n}$ が単射であるように取り、必要であれば小さく取り直して各点において正則とします。この制限は補題4.2.60より開埋め込みであり、特に $V := f(U)$ は $\R^{n}$ の開集合です。さらに終域を $V$ に制限した関数の逆関数 $f^{-1}$ が $V$ の各点において全微分可能かつ導関数が $(f^{-1})'(y) = f'(f^{-1}(y))^{-1}$ で表せることを示します。点 $y_{0}\in V$ を取ります。$x_{0} := f^{-1}(y_{0})$ とおきます。まず、$f$ が $x_{0}$ において全微分可能かつ正則なことから\begin{eqnarray*}\dfrac{|J_{f}(x_{0})^{-1}(f(x) - f(x_{0})) - (x - x_{0})|}{|x - x_{0}|} & = & \dfrac{|J_{f}(x_{0})^{-1}(f(x) - f(x_{0}) - J_{f}(x_{0})(x - x_{0}))|}{|x - x_{0}|} \\& \leq & \|J_{f}(x_{0})^{-1}\|\cdot \dfrac{|f(x) - f(x_{0}) - J_{f}(x_{0})(x - x_{0})|}{|x - x_{0}|}\to 0 \ (x\to x_{0})\end{eqnarray*}であり、左辺の極限は $0$ に収束します。これと逆写像 $f^{-1}$ の連続性から\[\lim_{y\to y_{0}}\dfrac{|J_{f}(x_{0})^{-1}(y - y_{0}) - (f^{-1}(y) - f^{-1}(y_{0}))|}{|f^{-1}(y) - f^{-1}(y_{0})|} = 0\]です。補題4.2.58と $f$ の $x_{0}$ における正則性から\[0 < \inf_{v\in \R^{n}, \ |v| = 1}|J_{f}(a)v|\leq \varliminf_{x\to a}\dfrac{|f(x) - f(x_{0})|}{|x - x_{0}|}\]ですが、これは\[\varlimsup_{x\to x_{0}}\dfrac{|x - x_{0}|}{|f(x) - f(x_{0})|}\leq \left(\inf_{v\in \R^{n}, \ |v| = 1}|J_{f}(a)v|\right)^{-1} < +\infty\]を意味し、再び $f^{-1}$ の連続性から\[\varlimsup_{y\to y_{0}}\dfrac{|f^{-1}(y) - f^{-1}(y_{0})|}{|y - y_{0}|} < +\infty\]が従います。以上により極限\[\lim_{y\to y_{0}}\dfrac{|f^{-1}(y) - f^{-1}(y_{0}) - J_{f}(x_{0})^{-1}(y - y_{0})|}{|y - y_{0}|} = 0\]が得られ、つまり、逆関数 $f^{-1}$ は点 $y_{0}\in f(V)$ において全微分可能かつ微分係数は $f'(f^{-1}(y_{0}))^{-1}$ です。
最後に逆関数 $f^{-1}$ が $C^{r}$ 級であることを示します。まず、既に $f^{-1}$ が $C^{0}$ 級であることは分かっています。ある $0\leq s < r$ に対して $f^{-1}$ が $C^{s}$ 級であったとします。$C^{s}$ 級関数どうしの合成関数 $f'\circ f^{-1}$ は $C^{s}$ 級であり、逆関数の導関数 $(f^{-1})'$ はこの $C^{s}$ 級関数と各正則行列に逆行列を対応させる $C^{\infty}$ 級関数 $\inv : GL(n; \R)\to GL(n; \R) : A\mapsto A^{-1}$ との合成なので $C^{s}$ 級です。従って、$f^{-1}$ は $C^{s + 1}$ 級です。結果、帰納法より $f^{-1}$ が $C^{r}$ 級であることが従います。
この逆関数定理からただちに次が分かります。
$1\leq r\leq \infty$ とし、$\R^{n}$ の開集合 $U, V$ と写像 $f : U\to V$ が与えられているとする。次は同値である。
逆関数定理の系として陰関数定理を示します。これは正則点のある開近傍上においてはその値を始域側の座標変換によって整序できることを意味します。
$1\leq r\leq \infty$ とし、開集合 $W\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{r}$ 級関数 $f : W\to \R^{k}$ とその正則点 $a\in W$ が与えられているとする。このとき、$\R^{n}$ の開集合 $U$ と $a$ の開近傍 $V\subset W$ との間の $C^{r}$ 級同相写像 $\varphi : U\to V$ であって合成写像 $f\circ \varphi$ が常に\[(f\circ \varphi)(x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}) = (x_{1}, x_{2}, \dots, x_{k})\]を満たすものが存在する。特に、任意の $y\in \R^{k}$ に対して\[(f\circ \varphi)^{-1}(y) = U\cap (\{y\}\times \R^{n - k})\]が成立する。
始域側の座標の順番の取り換えにより点 $a$ におけるJacobi行列 $J_{f}(a)\in M(k, n; \R)$ の第 $1, 2, \dots, k$ 列からなる $k$ 次正方行列が正則として問題ありません。写像 $g : W\to \R^{k}\times \R^{n - k}$ を各 $x = (x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n})\in W$ に対して\[g(x_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}) = (f(x), x_{k + 1}, \dots, x_{n})\]として定めます。$g$ の $a$ におけるJacobi行列は正則なので逆関数定理 $($定理4.2.62$)$ により $a$ の開近傍 $V$ と $g(a)$ の開近傍 $U$ であって制限 $g|_{V} : V\to U$ が $C^{r}$ 級同相となるものが存在します。この $g$ の逆関数を $\varphi$ とすればよいです。
構成のしかたを見れば $\varphi$ は後ろ $n - k$ 成分を保つように取れています。もちろん、後ろというのは座標の順番を整理したことによります。
次も逆関数定理から分かる重要な系ですが、これはJacobi行列の定める線型写像が単射である点ある点が正則点であるということはその点におけるJacobi行列の定める線型写像が全射であることと同値なことに注意。の近傍が平坦に埋め込まれていることを意味します。
$1\leq r\leq \infty$ とし、$\R^{k}$ の開集合 $U$ から $\R^{n}$ の開集合 $V$ への $C^{r}$ 級写像 $f : U\to V$ と点 $a\in W$ であってJacobi行列 $J_{f}(a)$ の階数が $k$ であるものが与えられているとする。このとき、$a$ の開近傍 $U'\subset U$ と $f(a)$ の開近傍 $V'\subset V$ と $R^{n}$ の開集合 $W'$ との間の $C^{r}$ 級同相写像 $\varphi : V'\to W'$ であって条件
を満たすものが存在する。
$\R^{k}\times \R^{n - k}$ の第 $i$ 成分への射影を $\pr_{i}$ とし、$g := \pr_{1}\circ f$, $h := \pr_{2}\circ f$ と定めます。終域側の座標の順番の取り換えにより $g$ の $a$ におけるJacobi行列が正則として問題ありません。いま、逆関数定理 $($定理4.2.62$)$ により $a$ の開近傍 $U'$ と $g(a)$ の開近傍 $U''$ であって制限 $g|_{V} : U'\to U''$ が $C^{r}$ 級同相となるものが取れます。この制限の逆写像を $\psi$ とおくとき\[(\psi\times \Id_{\R^{n - k}})\circ (f|_{U'}) : U'\to U'\times \R^{n - k} : x\mapsto ((\psi\circ g)(x), h(x)) = (x, h(x))\]であり、$\varphi$ を $\psi\times \Id_{\R^{n - k}}$ と $U'\times \R^{n - k}$ の自己 $C^{r}$ 級同相\[(\pr_{1}, \pr_{2} - h\circ \pr_{1}) : (x, x')\mapsto (x, x' - h(x))\]との合成 $(\pr_{1}, \pr_{2} - h\circ \pr_{1})\circ (\psi\times \Id_{\R^{n - k}})$ の $V' := V\cap (U''\times \R^{n - k})$ への制限とすればよいです。もちろん、$W'$ はその像 $\varphi(V')$ とします。
さらなる応用として、Morse理論における基本的な補題であるMorseの補題を準備しておきます。これは、陰関数定理に似て、実数値関数が以下に定義する非退化な臨界点の開近傍上で座標変換により整序可能なことを主張します。
開集合 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{2}$ 級関数 $f : U\to \R$ が与えられているとする。
開集合 $W\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{\infty}$ 級関数 $f : W\to \R$ とその指数 $p$ の非退化な臨界点 $a\in W$ が与えられているとする。このとき、$\R^{n}$ の開集合 $U$ と $a$ の開近傍 $V\subset W$ との間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\varphi : U\to V$ であって合成 $f\circ \varphi$ が常に\[(f\circ \varphi)(x_{1}, \dots, x_{n}) = f(a) - \sum_{k = 1}^{p}x_{k}^{2} + \sum_{k = p + 1}^{n}x_{k}^{2}\]を満たすものが存在する。
証明の前にいくつか補題を用意します。まずは座標変換とHesse行列の関係について。
$U, V$ を $\R^{n}$ の開集合とし、$C^{\infty}$ 級同相写像 $\varphi : U\to V$ と $C^{\infty}$ 級関数 $f : V\to \R$ が与えられているとする。
(1) 自明です。
(2) $f$ の変数を $y_{1}, \dots, y_{n}$ とし、$\varphi$ の変数を $x_{1}, \dots, x_{n}$ とします。関数 $f\circ \varphi$ の $2$ 階偏導関数を計算すると\begin{eqnarray*}\dfrac{\partial}{\partial x_{j}}\dfrac{\partial(f\circ \varphi)}{\partial x_{i}}(x) & = & \dfrac{\partial}{\partial x_{j}}\sum_{k = 1}^{n}\dfrac{\partial f}{\partial y_{k}}(\varphi(x))\dfrac{\partial \varphi_{k}}{\partial x_{i}}(x) \\& = & \sum_{k = 1}^{n}\sum_{l = 1}^{n}\dfrac{\partial^{2} f}{\partial y_{l} \partial y_{k}}(\varphi(x))\dfrac{\partial \varphi_{l}}{\partial x_{j}}(x)\dfrac{\partial \varphi_{k}}{\partial x_{i}}(x) + \sum_{k = 1}^{n}\dfrac{\partial f}{\partial y_{k}}(\varphi(x))\dfrac{\partial^{2} \varphi_{k}}{\partial x_{j} \partial x_{i}}(x)\end{eqnarray*}であり、臨界点 $a$ においては $f$ の $1$ 階導関数は $0$ を値に取るので\[\dfrac{\partial^{2}(f\circ \varphi)}{\partial x_{j} \partial x_{i}}(a) = \sum_{k = 1}^{n}\sum_{l = 1}^{n}\dfrac{\partial^{2} f}{\partial y_{l} \partial y_{k}}(\varphi(a))\dfrac{\partial \varphi_{l}}{\partial x_{j}}(a)\dfrac{\partial \varphi_{k}}{\partial x_{i}}(a)\]です。よって、主張の表示が得られます。最後はSylvesterの慣性法則から。
次は積分の一般論から容易に確かめられることですが、積分に頼らず無理矢理普通に積分使ったほうが断然簡単です。示します。
$J$ を開区間、$V$ を $\R^{n - 1}$ の開集合とし、$C^{\infty}$ 級関数 $f : J\times V\to \R$ と点 $a_{1}\in J$ が与えられているとする。このとき、関数 $f$ はある $C^{\infty}$ 級関数 $g : J\times V\to \R$ を用いて\[f(x) = g(x)(x_{1} - a_{1}) + f(a_{1}, x_{2}, \dots, x_{n})\]と表示できる。
ここではあらかじめ定まっている $x = (x_{1}, \dots, x_{n})\in \R^{n}$ や $\alpha = (\alpha_{1}, \dots, \alpha_{n})\in \mathcal{I}_{n}$ に対してその後ろ $n - 1$ 成分を $x', \alpha'$ で表すことにします。最初に各 $\beta'\in \mathcal{I}_{n - 1}$, $s\in \N$ に対して関数 $f_{\beta'}, g_{\beta'}, P_{\beta'}^{s}, Q_{\beta'}^{s}, R_{\beta'}^{s}, S_{\beta'}^{s}$ を\begin{eqnarray*}f_{\beta'}(x) & := & \partial^{(0, \beta')}f(x), \\g_{\beta'}(x) & := & \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{f_{\beta'}(x) - f_{\beta'}(a_{1}, x')}{x_{1} - a_{1}} & (x_{1}\neq a_{1}) \\\partial_{x_{1}}f_{\beta'}(x) & (x_{1} = a_{1})\end{array}\right., \\P_{\beta'}^{s}(x) & := & \sum_{k = 0}^{s}\dfrac{\partial_{x_{1}}^{k}f_{\beta'}(a_{1}, x')}{k!}(x_{1} - a_{1})^{k}, \\Q_{\beta'}^{s}(x) & := & \sum_{k = 1}^{s}\dfrac{\partial_{x_{1}}^{k}f_{\beta'}(a_{1}, x')}{k!}(x_{1} - a_{1})^{k - 1}, \\R_{\beta'}^{s}(x) & := & f_{\beta'}(x) - P_{\beta'}^{s}(x) \ (= f_{\beta'}(x) - f_{\beta'}(a_{1}, x') - Q_{\beta'}^{s}(x)(x_{1} - a_{1})), \\S_{\beta'}^{s}(x) & := & g_{\beta'}(x) - Q_{\beta'}^{s}(x) \ \left(= \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{R_{\beta'}^{s}(x)}{x_{1} - a_{1}} & (x_{1}\neq a_{1}) \\0 & (x_{1} = a_{1})\end{array}\right.\right), \\\end{eqnarray*}により定めます。以下のことが容易に確かめられます。
以下の流れで示します。ただし、関数 $h : J\times V\to \R$ に対して $h(x) = o((x_{1} - a_{1})^{r})$ であることを任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して $\{a_{1}\}\times V\subset J\times V$ のある開近傍 $W$ が存在して $W\setminus (\{a_{1}\}\times V)$ 上 $|h(x)| < \varepsilon|x_{1} - a_{1}|^{r}$ と上から抑えられることと定めておきます。
(step 1) $t - s$ に関する帰納法で示されます。$t - s = 0$ のときは $\partial_{x_{1}}^{t}R_{\beta'}^{t}$ が連続かつ $\{a_{1}\}\times V$ 上で常に $0$ を値に取ることから明らかに $\partial_{x_{1}}^{t}R_{\beta'}^{t}(x) = o(1 = (x_{1} - a_{1})^{0})$ です。$t - s = k$ までよいとして $t - s = k + 1$ でもよいことを示します。固定した正実数 $\varepsilon > 0$ に対して帰納法の仮定から次の条件を満たす $\{a_{1}\}\times V$ の開近傍 $W$ が取れます。
各 $x\in W\setminus (\{a_{1}\}\times V)$ に対して平均値の定理より実数 $\theta\in (0, 1)$ であって\[\partial_{x_{1}}^{s}R_{\beta'}^{t}(x) = \partial_{x_{1}}^{s + 1}R_{\beta'}^{t}(a_{1} + \theta(x_{1} - a_{1}), x')(x_{1} - a_{1})\]を満たすものを取ることができ、$W$ の取り方からただちに\[|\partial_{x_{1}}^{s}R_{\beta'}^{t}(x)| < \varepsilon |x_{1} - a_{1}|^{k + 1}\]と評価できます。よって、$\partial_{x_{1}}^{s}R_{\beta'}^{t}(x) = o((x_{1} - a_{1})^{k + 1})$ です。
(step 2) 計算して\begin{eqnarray*}\partial_{x_{1}}^{s}S_{\beta'}^{t}(x) & = & \sum_{k = 0}^{s}\dbinom{s}{k}\partial_{x_{1}}^{k}R_{\beta'}^{t}(x)\dfrac{(-1)^{s - k}(s - k)!}{(x_{1} - a_{1})^{s - k + 1}} \\& = & \sum_{k = 0}^{s}\dbinom{s}{k}o((x_{1} - a_{1})^{t - k})\dfrac{(-1)^{s - k}(s - k)!}{(x_{1} - a_{1})^{s - k + 1}} \\& = & o((x_{1} - a_{1})^{t - s - 1})\end{eqnarray*}です。
(step 3) $S_{\beta'}^{1}$ が $\{a_{1}\}\times V$ 上で常に $0$ を値に取ることと(step 2)の評価 $S_{\beta'}^{1}(x) = o(1)$ より $S_{\beta'}^{1}$ は連続です。よって、$g_{\beta'}$ も連続です。
(step 4) まずは $i = 1$ の場合を示します。仮定より $J\times V$ 上で連続関数 $\partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta'}^{r + 2}$ が定まりますが、(step 2)の評価 $\partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta'}^{r + 2}(x) = o(x_{1} - a_{1})$ よりさらに $x_{1}$ 成分に関して偏微分可能であり、偏導関数 $\partial_{x_{1}}^{r + 1}S_{\beta'}^{r + 2}$ は $\{a_{1}\}\times V$ 上で常に $0$ を値に取ります。これと再び(step 2)の評価 $\partial_{x_{1}}^{r + 1}S_{\beta'}^{r + 2}(x) = o(1)$ から $\partial_{x_{1}}^{r + 1}S_{\beta'}^{r + 2}$ の連続性が従います。
続いて $i\neq 1$ の場合を示します。偏導関数 $\partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta'}^{r + 2}$ が $\{a_{1}\}\times V$ 上で常に $0$ を値に取ることから $x_{i}$ 成分に偏微分可能です。明らかに偏導関数 $\partial_{x_{i}}(\partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta'}^{r + 2})$ は $\{a_{1}\}\times V$ 上で常に $0$ を値に取ります。$(J\setminus \{a_{1}\})\times V$ 上で\[\partial_{x_{i}}(\partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta'}^{r + 2})(x) = \partial_{x_{1}}^{r}\partial_{x_{i}}S_{\beta'}^{r + 2}(x) = \partial_{x_{1}}^{r}S_{\beta' + e'_{i}}^{r + 2}(x) = o(x_{1} - a_{1})\]であることから連続性もよいです。
(step 5) 絶対値が $r$ の $\alpha = (\alpha_{1}, \alpha')\in \mathcal{I}_{n}$ と $1\leq i\leq n$ に対して偏導関数 $\partial_{x_{i}}(\partial^{\alpha}S_{\beta'}^{r + 2})$ が定まって連続であることを示せばよいです。$\alpha_{1} = r$ の場合は(step 4)よりよく、$\alpha_{1}\neq r$ の場合は $\partial_{x_{i}}(\partial^{\alpha}S_{\beta'}^{r + 2}) = \partial_{x_{i}}(\partial_{x_{1}}^{\alpha_{1}}S_{\beta' + \alpha'}^{r + 2})$ と $\alpha_{1} + 1\leq r$ と $S_{\beta' + \alpha'}^{r + 2}$ が $C^{r}$ 級であることからよいです。
よって、(step 3)と(step 5)から全ての $g_{\beta'}$ は $C^{\infty}$ 級ですが、$\beta' = 0$ に対応するものが欲しかった関数 $g$ です。
微積分学の基本定理から\begin{eqnarray*}f(x) & = & f(a_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}) + \int_{0}^{1}\dfrac{d}{dt}f(a_{1} + t(x_{1} - a_{1}), x_{2}, \dots, x_{n})dt \\& = & f(a_{1}, x_{2}, \dots, x_{n}) + \int_{0}^{1}\dfrac{\partial f}{\partial x_{1}}(a_{1} + t(x_{1} - a_{1}), x_{2}, \dots, x_{n})(x_{1} - a_{1})dt\end{eqnarray*}であるので\[g(x) := \int_{0}^{1}\dfrac{\partial f}{\partial x_{1}}(a_{1} + t(x_{1} - a_{1}), x_{2}, \dots, x_{n})dt\]と定めればよいです。積分の一般論から各 $x_{k}$ に関する偏微分と $t$ に関する積分は可換なので $g$ は $C^{\infty}$ 級です。
各辺が軸に平行な開超直方体 $U\subset \R^{n}$ 上定義された $C^{\infty}$ 級関数 $f : U\to \R$ と点 $a\in U$ が与えられているとする。このとき、関数 $f$ は $C^{\infty}$ 級関数の族 $\{g_{k} : U\to \R\}_{1\leq k\leq n}$ を用いて\[f(x) = f(a) + \sum_{k = 1}^{n}g_{k}(x)(x_{k} - a_{k})\]と表示できる。
微積分学の基本定理から\begin{eqnarray*}f(x) & = & f(a) + \int_{0}^{1}\dfrac{d}{dt}f(a + t(x - a))dt \\& = & f(a) + \int_{0}^{1}\sum_{k = 1}^{n}\dfrac{\partial f}{\partial x_{k}}(a + t(x - a))(x_{k} - a_{k})dt\end{eqnarray*}であるので\[g_{k}(x) := \int_{0}^{1}\dfrac{\partial f}{\partial x_{k}}(a + t(x - a))dt\]と定めればよいです。積分の一般論から各 $x_{k}$ に関する偏微分と $t$ に関する積分は可換なので $g$ は $C^{\infty}$ 級です。
では、Morseの補題 $($定理4.2.70$)$ を示します。記号について、$n$ 次単位行列をこれまで同様 $E_{n}$ で表し、$kl$ 成分のみ $1$ かつその他の成分が $0$ である行列を $E_{k, l}$ で表すとします。
適当な平行移動の合成により $a = 0$ としてよく、また、定数関数を足しても変わらないので $f(0)= 0$ とします。さらに、始域 $W$ は超直方体状の原点開近傍に取り直しておきます。補題4.2.73の展開\[f(x) = \sum_{k = 1}^{n}g_{k}(x)x_{k}\]において原点が臨界点であることから各 $g_{k}$ は $g_{k}(0) = 0$ を満たしており、これに再び補題4.2.73を適用して\[f(x) = \sum_{1\leq i, j\leq n}g_{ij}(x)x_{i}x_{j}\]という表示が得られます。必要であれば $g_{ij}$ と $g_{ji}$ を $(g_{ij} + g_{ji})/2$ で置き換えることで常に $g_{ij} = g_{ji}$ としてよいです。
$n$ 次実対称行列全体 $\Sym(n; \R)$ に値を取る $C^{\infty}$ 級関数 $G(x) := \left[\begin{array}{c}g_{ij}(x)\end{array}\right]_{1\leq i, j\leq n}$ を取ります。計算により $G(0) = 2H_{f}(0)$ であり、$G(0)$ は正則かつ負の指数は $p$ です。よって、ある正則行列 $A_{0}$ が存在して $A_{0}^{T}G(0)A_{0} = (-E_{p}\oplus E_{n - p})$ です。また、写像 $\varPsi : W\times GL(n; \R)\to W\times \Sym(n; \R)$ を\[\varPsi(x, X) := (x, X^{T}G(x)X)\]により定めます。$\varPsi(0, A_{0}) = (0, (-E_{p})\oplus E_{n - p})$ ですが、さらに点 $(0, A_{0})$ が $\varPsi$ の正則点であることを示します。そのためには制限\[\{0\}\times GL(n; \R)\to \{0\}\times \Sym(n; \R) : X\mapsto X^{T}G(0)X\]が $A_{0}$ において正則であることを示せばよいですが、写像\[GL(n; \R)\to GL(n; \R) : X\mapsto A_{0}X\]が $C^{\infty}$ 級同相写像であることから写像\[GL(n; \R)\to \Sym(n; \R) : X\mapsto X^{T}((-E_{p})\oplus E_{n - p})X\]の $E_{n}$ における正則性を確認すればよく、これは $X$ の $kl$ 成分 $x_{kl}$ に関する偏微分係数が\[E_{k, l}^{T}((-E_{p}) + E_{n - p}) + ((-E_{p}) + E_{n - p})E_{k, l} = \pm (E_{k, l} + E_{l, k})\]と計算できること $($命題4.1.53$)$ から明らかです。
ここで、$n$ 次実正方行列全体 $M(n; \R)$ が $n$ 次実対称行列全体 $\Sym(n; \R)$ と $n$ 次実交代行列全体 $\Alt(n; \R)$ との直和に分解することに注意して、陰関数定理 $($定理4.2.64$)$ より $W\times \Sym(n; \R)\times \Alt(n; \R)$ の開集合 $U'$ と点 $(0, A_{0})\in W\times GL(n; \R)$ の開近傍 $V'$ との間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\psi : U'\to V'$ であって常に $(\varPsi\circ \psi)(x, Y, Z) = (x, Y)$ を満たすものが得られます。$C\in \Alt(n; \R)$ を $\psi^{-1}(0, A_{0})$ の第 $3$ 成分とし、$W' := U'\cap (W\times \{((-E_{p})\oplus E_{n - p}, C)\})$ と定め、$C^{\infty}$ 級関数 $A : W'\to GL(n; \R)$ を\[A(x) := (\pr_{2}\circ \psi)(x, ((-E_{p})\oplus E_{n - p}), C)\]と定めると、これは $A(0) = A_{0}$ かつ常に $A(x)^{T}G(x)A(x) = (-E_{p})\oplus E_{n - p}$ を満たします。さらに $C^{\infty}$ 級関数 $B(x) := A(x)^{-1}$ を取ってその $kl$ 成分を $b_{kl}(x)$ とおけば\begin{eqnarray*}f(x) = x^{T}G(x)x & = & x^{T}B(x)^{T}((-E_{p})\oplus E_{n - p})B(x)x \\& = & - \sum_{k = 1}^{p}\left(\sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(x)x_{l}\right)^{2} + \sum_{k = p + 1}^{n}\left(\sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(x)x_{l}\right)^{2}\end{eqnarray*}です。
あとは $y_{k} = \sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(x)x_{l}$ という関係式から定まる座標変換を行えば主張の形の表示が得られます。きちんと書くと、写像 $\theta = (\theta_{1}, \dots, \theta_{n}) : W'\to \R^{n}$ を $\theta_{k}(x) := \sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(x)x_{l}$ により定めるとき、$J_{\theta}(0) = B(0)$ より原点は正則点であり、逆関数定理 $($定理4.2.62$)$ より $\theta$ のある原点開近傍への制限 $\theta|_{V} : V\to U$ には滑らかな逆写像 $\varphi$ が存在し、この $\varphi = (\varphi_{1}, \dots, \varphi_{n})$ について\begin{eqnarray*}(f\circ \varphi)(y) & = & - \sum_{k = 1}^{p}\left(\sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(\varphi(y))\varphi_{l}(y)\right)^{2} + \sum_{k = p + 1}^{n}\left(\sum_{l = 1}^{n}b_{kl}(\varphi(y))\varphi_{l}(y)\right)^{2} \\& = & - \sum_{k = 1}^{p}(\theta_{k}(\varphi(y)))^{2} + \sum_{k = p + 1}^{n}(\theta_{k}(\varphi(y)))^{2} = - \sum_{k = 1}^{p}y_{k}^{2} + \sum_{k = p + 1}^{n}y_{k}^{2}\end{eqnarray*}です。
以上です。
特になし。
参考文献
更新履歴