関数列の収束や級数に関する基本的なことを紹介します。(現状、具体例については証明なしで事実としているものが多め。)
$A$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の部分集合とし、$A$ 上定義された関数の列 $\{f_{n} : A\to \R^{l}\}_{n\in\N}$ が与えられているとする。任意の $x\in A$ に対して点列 $\{f_{n}(x)\}_{n\in\N}$ がある点に収束するとき、$A$ の各点ごとにその極限を返す関数\[f : A\to \R : x\mapsto \lim_{n\to\infty}f_{n}(x)\]を定義することができ、これを関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ の極限といい $\underset{n\to\infty}{\lim}f_{n}$ により表す。またこのとき、関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ は関数 $f$ に各点収束するという。
連続関数列が単に各点収束しているだけではその連続性を引き継がないことを見ましたが、次の一様収束性があれば極限も連続になります。ここではEuclid空間における通常のノルムを $|\cdot|$ により表すことにします。
$A$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の部分集合とし、$A$ 上定義された関数の列 $\{f_{n} : A\to \R^{l}\}_{n\in\N}$ が与えられているとする。この関数列が関数 $f$ に各点収束しており、さらに、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N\in \N$ が存在し、任意の $n > N$, $x\in A$ に対して $|f_{n}(x) - f(x)| < \varepsilon$ を満たしているとする。このとき、関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ は関数 $f$ に一様収束するという。
$A$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の部分集合とし、$A$ 上定義された連続関数の列 $\{f_{n} : A\to \R^{l}\}_{n\in\N}$ が与えられているとする。この関数列が関数 $f$ に一様収束するならば極限 $f$ は連続である。
極限 $f$ の各点 $a\in A$ における連続性を示せばよいです。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。一様収束性から非負整数 $n\in \N$ であって任意の $x\in A$ に対して $|f_{n}(x) - f(x)| < \varepsilon / 3$ となるものを取ります。そして、$f_{n}$ の連続性から正実数 $\delta > 0$ であって任意の $x\in A$ に対して $|x - a| < \delta\Rightarrow |f_{n}(x) - f_{n}(a)| < \varepsilon / 3$ となるものと取ります。このとき、任意の $x\in A$ に対して\[|x - a| < \delta\Rightarrow |f(x) - f(a)|\leq |f(x) - f_{n}(x)| + |f_{n}(x) - f_{n}(a)| + |f_{n}(a) - f(a)| < \varepsilon\]です。よって、$f$ は $a$ において連続です。
ベクトル値関数 $f : A\to \R^{l}$ に対してその一様ノルム $\|f\|_{\infty}$ を\[\|f\|_{\infty} := \sup\{|f(x)|\mid x\in A\}\]により定義します。関数 $f$ が有界であることと $\|f\|_{\infty} < +\infty$ であることとは同値になります。関数列の一様収束性はこの一様ノルムにより次の形で言い換えられます。
関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ が関数 $f$ に一様収束することと極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}\|f_{n} - f\|_{\infty} = 0$ が成立することとは同値である。
容易に分かるように、一様収束していることと任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N\in \N$ が存在し、全ての $n > N$ に対して $\|f_{n} - f\|_{\infty} < \varepsilon$ となることとが同値であり、これは $\underset{n\to\infty}{\lim}\|f_{n} - f\|_{\infty} = 0$ が成立することに他なりません。
コンパクト部分集合上で定義された実連続関数の列について、各点で単調増加かつ連続関数に各点収束していれば一様収束していることが分かります。
Euclid空間 $\R^{m}$ のコンパクト部分集合 $K$ 上定義された連続関数列 $\{f_{n} : K\to \R\}_{n\in\N}$ が与えられているとする。この関数列は各点において単調増加 $($単に関数列は単調増加であるという$)$ かつある連続関数 $f : K\to \R$ に各点収束するとする。このとき、関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ は $f$ に一様収束している。
背理法により示します。ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の非負整数 $N\in \N$ に対してある $n > N$ と $x\in K$ であって $|f_{n}(x) - f(x)| > \varepsilon$ となるものが存在するとします。関数列が単調増加なので、$|f_{n}(x) - f(x)| > \varepsilon$ となる $n$ と $x$ を取れば任意の $k < n$ に対しても $|f_{k}(x) - f(x)| > \varepsilon$ となります。よって、任意の $n\in \N$ に対してある点 $x\in K$ であって $|f_{n}(x) - f(x)| > \varepsilon$ となるものが存在します。そこで $K$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を常に $|f_{n}(x_{n}) - f(x_{n})| > \varepsilon$ となるように取ります。$K$ の点列コンパクト性 $($定理1.7.29$)$ よりある点 $x_{\infty}\in K$ に収束する部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を取ります。いま、任意の $n\in \N$ と $n_{k} > n$ となる $k$ に対して\[|f_{n}(x_{n_{k}}) - f(n_{k})| > \varepsilon\]が成立するのでその極限より\[|f_{n}(x_{\infty}) - f(x_{\infty})| = \underset{k\to\infty}{\lim}|f_{n}(x_{n_{k}}) - f(x_{n_{k}})|\geq \varepsilon\]を得ますここで $f$ の連続性を使用しています。。これは $x_{\infty}$ において $\underset{n\to\infty}{\lim}f_{n}(x_{\infty}) = f(x_{\infty})$ であることに矛盾です。
開集合上で定義された関数列に関する広義一様収束性も紹介しておきます。
$U$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の開集合とし、$U$ 上定義された関数の列 $\{f_{n} : U\to \R^{l}\}_{n\in\N}$ が与えら、ある関数 $f : U\to \R^{l}$ に各点収束しているとする。$U$ に含まれる任意のコンパクト部分集合 $K$ に対してこの関数列が $K$ 上で一様収束する、つまり、$K$ への制限による関数列 $\{f_{n}|_{K}\}_{n\in\N}$ が $f|_{K}$ に一様収束するとき、関数列は $f$ に広義一様収束するという。コンパクト一様収束するともいう。
$U$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の開集合、$\{f_{n} : U\to \R^{l}\}$ を連続関数列とし、ある関数 $f$ に各点収束するとする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 明らかです。
(2) ⇒ (1) $U$ に含まれるコンパクト部分集合 $K$ を取ります。各 $x\in K$ に対して正実数 $\delta_{x} > 0$ であって $D(x, \delta_{x})\subset U$ かつ関数列が $D(x, \delta_{x})$ 上一様収束するものを固定します。開集合族 $\{O(x, \delta_{x})\}_{x\in K}$ は $K$ の開被覆であり、有限個の $x_{1}, \dots, x_{m}\in K$ を選んで $K\subset \bigcup_{k = 1}^{m}D(x_{k}, \delta_{x_{k}})$ が成立します。よって、\[\|f_{n}|_{K} - f|_{K}\|_{\infty}\leq \max\{\|f_{n}|_{D(x_{k}, \delta_{x_{k}})} - f|_{D(x_{k}, \delta_{x_{k}})}\|_{\infty}\mid k = 1, \dots, m\}\to 0 \ (n\to \infty)\]であり、$f$ は $K$ 上で一様収束しています。
$U$ をEuclid空間 $\R^{m}$ の開集合、$\{f_{n} : U\to \R^{l}\}$ を連続関数列とし、関数 $f$ に広義一様収束するとする。このとき、$f$ は連続関数である。
命題1.9.9より各点 $x\in U$ に対してその点を中心とする十分小さい閉球体上で一様収束しているので $f$ は $x$ において連続です。よって、$f$ も連続です。
以下では複素数列に対して級数とその和を導入し、その基本事項をまとめます。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ が与えられているいるとする。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に関する級数 $\{s_{n}\}_{n\in\N}$ をその和と同じ記号 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ で表すことも多く、混乱の恐れが無ければこの記号使いもすることにします。収束する級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}, \sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ と複素数 $c, d\in \C$ に対して級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}(c\cdot a_{n} + d\cdot b_{n})$ も収束し、等式\[\sum_{n = 0}^{\infty}(c\cdot a_{n} + d\cdot b_{n}) = c\cdot \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n} + d\cdot \sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}\]が成立することは明らかでしょう。
級数が収束するための当然の必要条件として次を明示的に書いておきます。
級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ が収束するならば $\underset{n\to \infty}{\lim}a_{n} = 0$ が成立する。
級数和を $s$ とおけば $\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}| = \underset{n\to\infty}{\lim}|s_{n} - s_{n - 1}|\leq \underset{n\to\infty}{\lim}(|s_{n} - s| + |s_{n - 1} - s|) = 0$ です。
また、級数が収束するための十分条件として次が知られています。
級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は非負実数による収束する級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ であって常に $|a_{n}|\leq b_{n}$ を満たすものが存在するとき収束する。そして、\[\left|\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}\right|\leq \sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}\]が成立する。このような常に $|a_{n}|\leq b_{n}$ を満たす級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ を $($級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ に対する$)$ 優級数という。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に関する級数 $\{s_{n}\}_{n\in\N}$ がCauchy列であることを示せば収束が分かりますが、これは、$b := \sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ とおいて、任意の $n < m\in \N$ に対して\[|s_{n} - s_{m}|\leq \sum_{k = n + 1}^{m}|a_{k}|\leq \sum_{k = n + 1}^{m}b_{m}\leq \left|b - \sum_{k = 0}^{n}b_{k}\right| + \left|b - \sum_{k = 0}^{m}b_{k}\right|\]であることからよいです。
不等式については部分和について成立しているのでその極限を考えればよいです。
事実も交え、少し例を挙げます。
(a) 第 $n$ 部分和は $(1 - z^{n + 1})/(1 - z)$ です。
(b) 任意の非負整数 $p\in \N$ に対して $\sum_{k = 2^{p}}^{2^{p + 1} - 1}\tfrac{1}{k} > 2^{p}\tfrac{1}{2^{p + 1}} = \tfrac{1}{2}$ であり、任意の非負整数 $p\in \N$ に対して $\sum_{k = 1}^{2^{p} - 1}\tfrac{1}{k} > \tfrac{p + 1}{2}$ と評価できます。
(a) 第 $n$ 部分和は $\tfrac{n(n - 1)}{2}$ です。
(a) 第 $n$ 部分和は $\tfrac{1}{2}(1 + (-1)^{n})$ です。
(e) Basel問題と呼ばれる有名な事実です。(そのうちどこかで証明すると思う。)
Euler数 $e\in \R$ をここでは\[e := \underset{n\to\infty}{\lim}\left(1 + \dfrac{1}{n}\right)^{n}\]と定めておきますが、これがきちんと収束していて級数和 $\sum_{n = 0}^{\infty}\tfrac{1}{n!}$ に等しいことも確かめておきます。
複素数の族 $\{a_{n, m}\}_{n, m\in\N}$ が与えられ、次の条件を満たしているとする。
このとき、級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ および各 $m\in \N$ ごと定まる級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n, m}$ は収束し、極限\[\lim_{m\to\infty}\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n, m} = \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}\]が成立する。
まず、級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ および各 $m\in \N$ ごと定まる級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n, m}$ は級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ を優級数に持つので優級数定理 $($命題1.9.14$)$ より収束します。極限を示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。非負整数 $N\in \N$ を $\sum_{n = N}^{\infty}b_{n} < \varepsilon$ であるように取り、続いて非負整数 $M\in \N$ を $N$ 以上かつ任意の $n < N$, $m > M$ に対して $|a_{n, m} - a_{n}| < \varepsilon/N$ であるように取ります。このとき、任意の $m > M$ に対して\begin{eqnarray*}\left|\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n, m} - \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}\right| & \leq & \left|\sum_{n = 0}^{N - 1}a_{n, m} - \sum_{n = 0}^{N - 1}a_{n}\right| + \left|\sum_{n = N}^{\infty}a_{n, m}\right| + \left|\sum_{n = N}^{\infty}a_{n}\right| \\& \leq & \left|\sum_{n = 0}^{N - 1}(a_{n, m} - a_{n})\right| + 2\sum_{n = N}^{\infty}b_{n} < 3\varepsilon\end{eqnarray*}であり、主張の極限が成立します。
Euler数 $e := \underset{n\to\infty}{\lim}(1 + \tfrac{1}{n})^{n}$ は定まっており $($収束しており$)$、級数和 $\sum_{n = 0}^{\infty}\tfrac{1}{n!}$ に等しい。
まず、級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}\tfrac{1}{n!}$ が収束していることは容易です。そして、任意の正整数 $m\in \Np$ に対して\[\left(1 + \dfrac{1}{m}\right)^{m} = \sum_{n = 0}^{m}\comb{m}{n}\dfrac{1}{m^{n}} = \sum_{n = 0}^{m}\dfrac{1}{n!}\prod_{k = 0}^{n - 1}\dfrac{m - k}{m}\]ですが、$\tfrac{1}{n!}\prod_{k = 0}^{n - 1}\tfrac{m - k}{m}$ は $m$ によらず $\tfrac{1}{n!}$ 以下かつ $m\to \infty$ とした極限が $\tfrac{1}{n!}$ に収束することから補題1.9.16を適用でき一応、$a_{n, m}$ を $0\leq n\leq m$ の範囲では $\tfrac{1}{n!}\prod_{k = 0}^{n - 1}\tfrac{m - k}{m}$ に、それ以外では $0$ に定め、$b_{n}$ は $\tfrac{1}{n!}$ として適用しています。、主張の極限が成立します。
級数は必ずしも収束しませんが、次の絶対収束性が確かめられれば必ず収束します。
級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}|a_{n}|$ が収束するとき級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は絶対収束するという。
絶対収束する級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は収束する。
級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}|a_{n}|$ が収束する優級数になるので優級数定理 $($命題1.9.14$)$ より級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は収束します。
さらに、絶対収束する級数は和を取る順番を取り換えても同じ値に収束することが確かめられます。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に関する級数 $\sum_{k = 0}^{\infty}a_{n}$ が絶対収束するとき、$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ の並び順を入れ換えて得られる複素数列 $\{b_{n}\}_{n\in\N}$ に関する級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ は同じ値に絶対収束する。
仮定よりある全単射 $\sigma : \N\to \N$ を用いて $b_{n} = a_{\sigma(n)}$ と表すことができ、また、各 $m\in \N$ に対して $N_{m} := \max\{\sigma(n)\mid n\leq m\}$, $L_{m} := \min\{\sigma(n)\mid n > m\}$ と定めます。任意の非負整数 $N$ に対して $m\geq \max\{\sigma^{-1}(n)\mid n\leq N\}$ ならば $L_{m} > N$ であるので $\underset{m\to\infty}{\lim}L_{m} = +\infty$ が成立します。
級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ が絶対収束することは任意の $m\in \N$ に対して\[\sum_{k = 0}^{m}|b_{n}| = \sum_{k = 0}^{m}|a_{\sigma(n)}|\leq \sum_{k = 0}^{N_{m}}|a_{n}|\leq \sum_{n = 0}^{\infty}|a_{n}|\]であることから従います。級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ と同じ値に収束することは\begin{eqnarray*}\left|\sum_{k = 0}^{m}(a_{n} - b_{n})\right| & \leq & \left|\sum_{k = 0}^{N_{m}}a_{n} - \sum_{k = 0}^{m}b_{n}\right| + \left|\sum_{k = m + 1}^{N_{m}}a_{k}\right| \\& = & \left|\sum_{k = 0}^{N_{m}}a_{n} - \sum_{k = 0}^{m}a_{\sigma(k)}\right| + \left|\sum_{k = m + 1}^{N_{m}}a_{k}\right| \\& \leq & \sum_{k = L_{m}}^{N_{m}}|a_{k}| + \sum_{k = m + 1}^{N_{m}}|a_{k}|\to 0 \ (m\to \infty)\end{eqnarray*}より従います。
絶対収束する複素数列どうしの和と積について。
絶対収束する級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$, $\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}$ が与えられており、それぞれ $a, b$ に収束しているとする。
(1) 明らかです。
(2) 全単射 $\varphi : \N\times \N\to \N$ を\[\varphi(m, n)\mapsto \left\{\begin{array}{ll}n^{2} + m & (n\geq m) \\(m + 1)^{2} - n - 1 & (n < m)\end{array}\right.\]により定め、$c_{n, m} = c_{\varphi(n, m)}$ であるように複素数列 $\{c_{n}\}_{n\in\N}$ を取ります。絶対収束することは常に\[\sum_{k = 0}^{m}|c_{k}|\leq \sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|a_{k}|\sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|b_{k}|\leq \sum_{n = 0}^{\infty}|a_{n}|\sum_{n = 0}^{\infty}|b_{n}|\]であることから従います。$ab$ に収束することは\[\left|\sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}a_{k}\sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}b_{k} - \sum_{k = 0}^{m}c_{k}\right|\leq |b_{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|\sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|a_{k}| + |a_{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|\sum_{k = 0}^{\lfloor\sqrt{m}\rfloor}|b_{k}|\to 0 \ (m\to\infty)\]よりよいです。
$2$ つの添字を持つ複素数の族 $\{c_{n, m}\}_{n, m\in \N}$ について、第 $2$ 成分に関する級数 $\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m}$ による級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m}$ を考えることができ、これを二重級数と呼びます。この二重級数の和を考えるためにはもちろん各 $n$ に対して級数 $\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m}$ が収束している必要がありますが、そのためには族 $\{c_{n, m}\}_{n, m\in \N}$ を並び変えて得られる複素数列 $\{c_{l}\}_{l\in\N}$ が絶対収束していれば十分というのは明らかであり、和については次が成立します。
複素数の族 $\{c_{n, m}\}_{n,m\in\N}$ が与えられているとする。これを適当に並び変えて得られる複素数列 $\{c_{l}\}_{l\in\N}$ が絶対収束するならば、和について\[\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m} = \sum_{m = 0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{\infty}c_{n, m} = \sum_{l = 0}^{\infty}c_{l}\]が成立する。
全単射 $\varphi : \N\times \N\to \N$ を固定し、$c_{n, m} = c_{\varphi(n, m)}$ であるとします。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$\sum_{l = L + 1}^{\infty}|c_{l}| < \varepsilon$ となる十分大きな $L$ を固定します。$\{\varphi^{-1}(l)\mid l\leq L\}\subset \N\times \N$ の第 $1$ 成分の最大値を $N$、第 $2$ 成分の最大値を $M$ とします。このとき、任意の $n_{0}\geq N$, $m_{0}\geq M$ に対して\[\left|\sum_{l = 0}^{\infty}c_{l} - \sum_{m = 0}^{m_{0}}\sum_{n = 0}^{n_{0}}c_{n, m}\right|\leq \sum_{l = L + 1}^{\infty}|c_{l}|\]です。各 $n$ に対して級数 $\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m}$ は絶対収束していることから級数 $\sum_{m = 0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{n_{0}}c_{n, m}$ は収束しており、$m_{0}\to \infty$ とした極限から\[\left|\sum_{l = 0}^{\infty}c_{l} - \sum_{m = 0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{n_{0}}c_{n, m}\right| \leq \sum_{l = L + 1}^{\infty}|c_{l}| < \varepsilon\]が従います。よって、任意の $n_{0}\geq N$ に対して\[\left|\sum_{l = 0}^{\infty}c_{l} - \sum_{n = 0}^{n_{0}}\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m}\right| = \left|\sum_{l = 0}^{\infty}c_{l} - \sum_{m = 0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{n_{0}}c_{n, m}\right| < \varepsilon\]です。以上により $\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m = 0}^{\infty}c_{n, m} = \sum_{l = 0}^{\infty}c_{l}$ です。$\sum_{m = 0}^{\infty}\sum_{n = 0}^{\infty}c_{n, m} = \sum_{l = 0}^{\infty}c_{l}$ も同様です。
もちろん、三重・四重となっても同様です。
実数による級数について、絶対収束はしないが収束自体はする級数は条件収束するといいます。条件収束する級数は和を取る順番によって収束値が異なったり、そもそも収束しなくなったりします。もっと強いことを言えば、条件収束する級数は和を取る順番を入れ換えることによって任意の実数に収束させることが可能です。
実級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は条件収束するとする。つぎが成立する。
(1) 命題1.9.13です。
(2) 広義単調増加数列の極限であるので級数和は取れます。級数和が有界値だったとして矛盾を導きます。まず、各 $\max\{a_{n}, 0\}$ が非負であることから級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}\max\{a_{n}, 0\}$ は絶対収束します。常に $\min\{a_{n}, 0\} = a_{n} - \max\{a_{n}, 0\}$ であることから級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}\min\{a_{n}, 0\}$ も収束し、同様に絶対収束です。よって、命題1.9.21よりもとの級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は絶対収束することとなり矛盾です。
(3) (2)と同様です。
条件収束する実級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ と実数 $d\in \R$ が与えられたとする。和を取る順番を取り換えて得られる級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}d_{n}$ であって $d$ に収束するものが存在する。
数列 $\{b_{k}\}_{k\in\N}$ を $a_{n}\geq 0$ を満たす $a_{n}$ たち全てを並べて得られる列、$\{c_{l}\}_{l\in\N}$ を $a_{n} < 0$ を満たす $a_{n}$ たち全てを並べて得られる列とします。いずれの数列も $0$ に収束します。狭義単調増加な整数列 $\{k_{i}\}_{i\in\N}, \{l_{i}\}_{i\in\N}$ を以下の要領で帰納的に構成します。$($ただし、総和 $\sum_{i = p}^{q}e_{i}$ は $p > q$ の場合には $0$ であると解釈します。$)$
そして、数列 $\{d_{n}\}_{n\in\N}$ を\[d_{n} := \left\{\begin{array}{ll}b_{n} & (0\leq n < k_{0}) \\c_{n - k_{0}} & (k_{0}\leq n < k_{0} + l_{0}) \\b_{n - l_{i}} & (k_{i} + l_{i}\leq n < k_{i + 1} + l_{i}) \\c_{n - k_{i + 1}} & (k_{i + 1} + l_{i}\leq n < k_{i + 1} + l_{i + 1})\end{array}\right.\]というように取ります。これが $d$ に収束することを示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を取り、非負整数 $N\in \N$ であって任意の $n > N$ に対して $|b_{n}|, |c_{n}| < \varepsilon$ を満たすものを取り、さらに、$k_{i_{0}} - 1, l_{i_{0}} - 1 > N$ を満たす $i_{0}$ を固定します。$n\geq k_{i_{0}} + l_{i_{0}}$ ならば $\left|\sum_{j = 0}^{n}d_{j} - d\right| < \varepsilon$ が成立します。実際、ある $i\geq i_{0}$ が存在して $k_{i} + l_{i}\leq n < k_{i + 1} + l_{i}$ か $k_{i + 1} + l_{i}\leq n < k_{i + 1} + l_{i + 1}$ のいずれかが成立しますが、前者であれば $k_{i + 1}, l_{i}$ の取り方と $b_{k_{i + 1} - 1} < \varepsilon$ と $c_{l_{i} - 1} > -\varepsilon$ から\[d - \varepsilon < \sum_{j = 0}^{k_{i} + l_{i} - 1}d_{j}\leq \dots \leq \sum_{j = 0}^{n}d_{j} = \sum_{j = 0}^{k_{i} + l_{i} - 1}d_{j} + \sum_{j = k_{i}}^{n - l_{i}}b_{j}\leq \dots \leq \sum_{j = 0}^{k_{i + 1} + l_{i} - 1}d_{j} < d + \varepsilon\]であり、後者であれば $k_{i + 1}, l_{i + 1}$ の取り方と $b_{k_{i + 1} - 1} < \varepsilon$ と $c_{l_{i + 1} - 1} > -\varepsilon$ から\[d + \varepsilon > \sum_{j = 0}^{k_{i + 1} + l_{i} - 1}d_{j}\geq \dots \geq \sum_{j = 0}^{n}d_{j} = \sum_{j = 0}^{k_{i + 1} + l_{i} - 1}d_{j} + \sum_{j = l_{i}}^{n - k_{i + 1}}c_{j}\geq \dots \geq \sum_{j = 0}^{k_{i + 1} + l_{i + 1} - 1}d_{j} > d - \varepsilon\]です。(添字を $1$ から始めるようにすれば各所の $-1$ が無くなってすっきりすると思いますが、いったんこのままで。)
事実として次のことが知られています。
実数列であって各項の正負が交互に入れ代わるものを交代数列や交項数列といい一応厳密に。数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ であって $n$ が偶数のとき常に $a_{n} > 0$ かつ $n$ が奇数のとき常に $a_{n} < 0$ となるもの、もしくは、偶数のとき $a_{n} < 0$ かつ奇数のとき $a_{n} > 0$ となるものを交代数列といいます。、交代数列に関する級数は交代級数といいます。交代数列であって各項の絶対値が単調に $0$ に収束するものに関する級数は収束します。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を交代数列とし、$\{|a_{n}|\}_{n\in\N}$ は広義単調減少かつ $\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}| = 0$ が成立しているとする。このとき、交代級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ は収束する。
$a_{0} > 0$ の場合のみを示します。$s_{n}$ を第 $n$ 部分和とします。仮定の交代性と絶対値の単調性より\[s_{1}\leq s_{3}\leq s_{5}\leq \cdots \leq s_{4}\leq s_{2}\leq s_{0}\]です。従って、極限 $s_{\text{even}} = \underset{k\to\infty}{\lim}s_{2k}$, $s_{\text{odd}} = \underset{k\to\infty}{\lim}s_{2k + 1}$ が存在し実数値を取りますが、$\underset{n\to\infty}{\lim}a_{n} = 0$ であることにより $s_{\text{even}} = s_{\text{odd}}$ です$s_{\text{odd}} - s_{\text{even}} = \underset{k\to\infty}{\lim}(s_{2k + 1} - s_{2k}) = \underset{k\to\infty}{\lim}a_{2k + 1} = 0$.。以上により $\underset{n\to\infty}{\lim}s_{n} = s_{\text{even}}$ であり、交代級数は収束しています。
級数 $\sum_{k = 0}^{n}a_{n}$ の和は添字集合 $\N$ の順序に依存した定義になっていますが、順序構造を持たない一般の添字集合 $\Lambda$ でも以下のようにして総和 $\sum_{\lambda\in\Lambda}a_{\lambda}$ を定義することができます。
複素数の族 $\{a_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ と複素数 $s\in \R$ に対して次が成立するとする。ただし、$\Lambda$ の有限部分集合全体からなる集合族を $\mathcal{F}$ と表す。
このとき、複素数の族 $\{a_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ は総和可能であるといい、$s$ をその総和という。総和は $\sum_{\lambda\in\Lambda}a_{\lambda}$ により表す。
基本的な事実として次のことを確かめておきます。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に対してその級数が絶対収束することと総和可能であることとは同値である。また、絶対収束するとき級数の和と総和は一致する。
級数が絶対収束するとして複素数列が総和可能であることを示します。級数和を $s$ とします。正実数 $\varepsilon > 0$ に対して非負整数 $N\in \N$ であって $\sum_{k = N + 1}^{\infty}|a_{n}| < \varepsilon$ となるものを取り $A = \{0, 1, \dots, N\}$ とすれば $A$ を含む $\N$ の任意の有限部分集合 $B$ に対して\[\left|s - \sum_{k\in B}a_{n}\right| = \left|\sum_{k = N + 1}^{\infty}a_{n} - \sum_{k\in B\setminus A}a_{n}\right|\leq \sum_{k = N + 1}^{\infty}|a_{n}| < \varepsilon\]が成立します。よって、複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ は総和可能であり、その総和は $s$ です。
複素数列が総和可能であるとして級数が絶対収束することを示します。総和を $s$ とします。正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある有限部分集合 $A\subset \N$ であって $A$ を含む $\N$ の任意の有限部分集合 $B$ に対して $\left|s - \sum_{k\in B}a_{n}\right| < \varepsilon$ を満たすものを取ります。$N := \max A$ とすれば任意の $n > N$ に対して $\left|s - \sum_{k = 0}^{n}a_{n}\right| < \varepsilon$ です。よって、級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}$ の和は $s$ です。
複素数の族 $\{a_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられているとする。また、$\Lambda$ の有限部分集合全体からなる集合族を $\mathcal{F}$ と表す。
(1) $2$ つの総和 $s_{0}\neq s_{1}$ を持ったとして矛盾を導きます。正実数 $0 < \varepsilon < \tfrac{1}{2}|s_{0} - s_{1}|$ を取ります。各 $i = 0, 1$ に対して $\Lambda$ の有限部分集合 $\Lambda_{i}$ を任意の $\Lambda_{i}\subset \Lambda'\in \mathcal{F}$ に対して\[\left|s_{i} - \sum_{\lambda\in\Lambda'}a_{\lambda}\right| < \varepsilon\]となるように取れば\[|s_{0} - s_{1}|\leq \left|s_{0} - \sum_{\lambda\in\Lambda_{0}\cup \Lambda_{1}}a_{\lambda}\right| + \left|s_{1} - \sum_{\lambda\in\Lambda_{0}\cup \Lambda_{1}}a_{\lambda}\right| < \varepsilon < |s_{0} - s_{1}|\]と矛盾が導かれます。
(2) 総和を $s$ とします。各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $|a_{\lambda}| > \tfrac{1}{n}$ となる $\lambda\in \Lambda$ が高々有限個であることを示せばよいです。背理法により示します。ある $n\in \N_{+}$ に対して $|a_{\lambda}| > \tfrac{1}{n}$ となる $\lambda\in \Lambda$ が無限個存在するとします。総和の定義からある $\Lambda_{0}\in \mathcal{F}$ であって任意の $\Lambda_{0}\subset \Lambda'\in \mathcal{F}$ に対して\[\left|s - \sum_{\lambda\in\Lambda'}a_{\lambda}\right| < \dfrac{1}{2n}\]を満たすものが取れます。$|a_{\lambda_{0}}| > \tfrac{1}{n}$ となる $\lambda_{0}\in \Lambda$ で $\Lambda_{0}$ に属さないものを取れば\[\left|s - \sum_{\lambda\in\Lambda_{0}\cup\{\lambda_{0}\}}a_{\lambda}\right| > \dfrac{1}{2n}\]となり矛盾します。よって、各 $n\in \N_{+}$ に対して $|a_{\lambda}| > \tfrac{1}{n}$ となる $\lambda\in \Lambda$ は高々有限個です。
(3) (2)より $a_{\lambda} = 0$ となる $\lambda$ は無視して添字を取り換えることで最初から複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ として考えてよいです。そして、命題1.9.28より\begin{eqnarray*}\{a_{n}\}_{n\in\N}\text{は総和可能} & \Leftrightarrow & \{a_{n}\}_{n\in\N}\text{に関する級数が絶対収束する} \\& \Leftrightarrow & \{|a_{n}|\}_{n\in\N}\text{に関する級数が絶対収束する} \\& \Leftrightarrow & \{|a_{n}|\}_{n\in\N}\text{は総和可能}\end{eqnarray*}です。
(4) 容易です。
関数列 $\{f_{n} : A\to \C\}_{n\in\N}$ についても $s_{n} = \sum_{k = 0}^{n}f_{n}$ を第 $n$ 部分和といい、関数列 $\{s_{n}\}_{n\in\N}$ を関級数や関数項級数、もしくは単に級数といいます。この関級数の収束については関数列に対して考えた各点収束、一様収束などの話がそのまま適用できます。
関級数の一様収束性のための基本的な十分条件として一様絶対収束性を導入します。
関数列 $\{f_{n} : A\to \C\}_{n\in\N}$ に対してその級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}f_{n}$ が一様絶対収束絶対一様収束と呼ばれることの方が多い?するとは実数列 $\{\|f_{n}\|_{\infty}\}_{n\in\N}$ に関する級数が収束することと定める。
連続関級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}f_{n}$ は一様絶対収束するならばある連続関数 $f$ に一様収束する。
各点ごとに絶対収束するのである関数 $f$ に各点収束しています。また、$x\in A$ の取り方によらず\[|s_{n}(x) - f(x)|\leq \sum_{k = n + 1}^{\infty}|f_{k}(x)|\leq \sum_{k = n + 1}^{\infty}\|f_{k}\|_{\infty}\]と評価できるので\[\lim_{n\to\infty}\|s_{n} - f\|_{\infty} = 0\]です。つまり、$f$ に一様収束しており、命題1.9.4より連続です。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ と複素数 $\xi\in \C$ に対し、$\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ の形の関級数を $\xi$ を中心とする整級数や冪級数と呼びます。この整級数が関数として定義されている範囲は係数の絶対値 $|a_{n}|$ のふるまいによってある程度決定され、おおよそ $\xi$ を中心とする円盤になることが確かめられます。この円盤の半径 $R$ は\[R = \left(\underset{n\to\infty}{\varlimsup}|a_{n}|^{1/n}\right)^{-1}\]により求まり、収束半径と呼ばれます。ここで、収束半径の計算においては $0^{-1} := +\infty$, $(+\infty)^{-1} := 0$ という規約を導入しておくと便利なのでそうします。このことをきちんとまとめると次になります。
複素数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ と複素数 $\xi\in \C$ を用いて表される整級数 $f(z) = \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ について次が成立する。ただし、$R = \left(\underset{n\to\infty}{\varlimsup}|a_{n}|^{1/n}\right)^{-1}$ とする。
(1) $R = 0$ のときは何も示すことはないので $R > 0$ とします。$0 < r < R$ とし、$\xi$ を中心とする半径 $r$ の閉円盤 $D_{r}(\xi)$ において関級数 $f$ が一様絶対収束していることを確かめれば十分です。正実数 $0 < \varepsilon < r^{-1} - R^{-1}$ を取ります。$R^{-1} = \underset{n\to\infty}{\varlimsup}|a_{n}|^{1/n}$ よりある非負整数 $N\in \N$ が存在して $n > N$ において\[|a_{n}|^{1/n} < R^{-1} + \varepsilon < r^{-1}\]が成立しています。従って、$n > N$ において $D_{r}(\xi)$ 上 $|a_{n}||z - \xi|^{n} < ((R^{-1} + \varepsilon)r)^{n}$ と評価でき、これは $D_{r}(\xi)$ 上において関級数 $f$ が一様絶対収束していることを意味します。
(2) $|z - \xi| = 0$ のときは自明なので $|z - \xi| > 0$ とします。級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ が収束するとき、$\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}||z - \xi|^{n} = 0$ であり、\begin{eqnarray*}\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}||z - \xi|^{n} = 0 & \Rightarrow & \underset{n\to\infty}{\varlimsup}(|a_{n}|^{1/n}|z - \xi|)\leq 1 \\ & \Rightarrow & \left(\underset{n\to\infty}{\varlimsup}|a_{n}|^{1/n}\right)|z - \xi| \leq 1 \\& \Rightarrow & |z - \xi|\leq R\end{eqnarray*}です最初の $\Rightarrow$ は十分大きな $n$ に対して $|a_{n}|^{1/n}|z - \xi| < 1$ であることからその上極限により従います。最後の $\Rightarrow$ は任意の $a\in [0, +\infty]$ と $b, c\in (0, +\infty)$ に対して $ab\leq c\Rightarrow b\leq a^{-1}c$ というだけで、多少の場合分けで確認できます。。
収束半径 $R$ の整級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ について、ちょうど $|z - \xi| = R$ となる $z$ における収束性は個別に調べる必要があります。事実として、例えば、収束半径 $1$ の整級数 $\sum_{n = 1}^{\infty}\tfrac{(-1)^{n + 1}}{n}z^{n}$ は $z = -1$ においては収束しませんが、$-1$ 以外の $|z| = 1$ を満たす $z$ については収束します。
収束半径の計算のために次は基本的です。
$0$ でない複素数の列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に対し、極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}|\tfrac{a_{n + 1}}{a_{n}}|$ が存在するならば $\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}|^{1/n} = \underset{n\to\infty}{\lim}|\tfrac{a_{n + 1}}{a_{n}}|$ が成立する。
$C := \underset{n\to\infty}{\lim}|\tfrac{a_{n + 1}}{a_{n}}|\in (0, +\infty)$ の場合のみを示します。正実数 $0 < \varepsilon < C$ に対して非負整数 $N\in \N$ が存在し、$n\geq N$ に対して\[C - \varepsilon < |\tfrac{a_{n + 1}}{a_{n}}| < C + \varepsilon\]が成立しているので、$n > N$ に対して\[|a_{N}|(C - \varepsilon)^{n - N} < |a_{n}| < |a_{N}|(C + \varepsilon)^{n - N}\]です。従って\[|a_{N}|^{1/n}(C - \varepsilon)^{(n - N)/n} < |a_{n}|^{1/n} < |a_{N}|^{1/n}(C + \varepsilon)^{(n - N)/n}\]であり、両辺の極限を取ることで\[C - \varepsilon\leq \varliminf_{n\to\infty}|a_{n}|^{1/n}\leq \varlimsup_{n\to\infty}|a_{n}|^{1/n}\leq C + \varepsilon\]です。$\varepsilon$ は任意に小さく取れるので、この上極限と下極限はともに $C$ に等しく $\underset{n\to\infty}{\lim}|a_{n}|^{1/n} = C$ が成立します。
複素数 $\xi, \eta\in \C$ について、整級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ を等式\[(z - \xi)^{n} = ((z - \eta) + (\eta + \xi))^{n} = \sum_{k = 0}^{n}\comb{n}{k}(\eta - \xi)^{n - k}(z - \eta)^{k}\]を用いて変形することで $\eta$ を中心とする $($形式的な$)$ 整級数\[\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}(x - \eta)^{n}\]が得られます。係数 $b_{n}$ は $\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}a_{n + k}(\eta - \xi)^{k}$ であり、これが収束していなければなりませんが、そのためには $|\eta - \xi| < R$ であることが十分条件になります。そして、その場合に整級数の収束半径 $R'$ は $R - |\eta - \xi|$ 以上になります。
整級数 $f(z) = \sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n}$ の収束半径を $R > 0$ とする。$0 < |\eta - \xi| < R$ を満たす $\eta\in \C$ に対して次が成立する。
(1) $\underset{k\to\infty}{\lim}\tfrac{\comb{n + k + 1}{n}}{\comb{n + k}{n}} = \underset{k\to\infty}{\lim}\tfrac{n + k + 1}{k + 1} = 1$ なので $\underset{k\to\infty}{\lim}(\comb{n + k}{n})^{1/k} = 1$ です。従って、$\underset{k\to\infty}{\varlimsup}|\comb{n + k}{n}a_{n + k}|^{1/k} = \underset{k\to\infty}{\varlimsup}|a_{k}|^{1/k}$ であり、整級数 $\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}a_{n + k}(z - \xi)^{k}$ の収束半径は $R$ となるので $|\eta - \xi| < R$ となる $\eta$ に対して級数 $\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}a_{n + k}(\eta - \xi)^{k}$ は収束します。
(2) $|z - \eta| < R - |\eta - \xi|$ となる $z$ に対して $|z - \eta| + |\eta - \xi| < R$ であり、級数 $\sum_{n = 0}^{\infty}|a_{n}|(|z - \eta| + |\eta - \xi|)^{n}$ は収束しています。よって、これを展開して並び換えた二重級数\[\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}|a_{n + k}||\eta - \xi|^{k}|z - \eta|^{n}\]も収束しており、これは級数\[\sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}(z - \eta)^{n} \left(= \sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}a_{n + k}(\eta - \xi)^{k}(z - \eta)^{n}\right)\]の収束を意味し、$R'\geq |z - \eta|$ が従います。$z(t) = \eta + t(R - |\eta - \xi|)\tfrac{\eta - \xi}{|\eta - \xi|}$ と定めるとき、$t\in [0, 1)$ において $|z(t) - \eta| < R - |\eta - \xi|$ であり、$R'\geq |z(t) - \eta|$ なので極限 $t\to 1 - 0$ を考えて $R'\geq R - |\eta - \xi|$ が従います。
(3) $|z - \eta| < R - |\eta - \xi|$ を満たす $z$ に対し、二重級数\[\sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}|a_{n + k}||\eta - \xi|^{k}|z - \eta|^{n}\]の収束性から\[\sum_{n = 0}^{\infty}a_{n}(z - \xi)^{n} = \sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{k = 0}^{\infty}\comb{n + k}{n}a_{n + k}(z - \xi)^{k}(z - \eta)^{n} = \sum_{n = 0}^{\infty}b_{n}(z - \eta)^{n}\]が成立します。
指数関数と三角関数を導入しておきます。いろいろ定義の仕方はあるのですが、ここでは級数による定義を採用します。まずは指数関数から。
関数 $\exp : \C\to \C$ を\[\exp z := \sum_{n = 0}^{\infty}\dfrac{z^{n}}{n!}\]により定める。これを $($Euler数 $e$ を底とする$)$ 指数関数と呼ぶ。$\exp z$ は $e^{z}$ とも表す。
きちんと $\C$ 上で定義できていることは命題1.9.32と命題1.9.34からただちに従います。以下、簡単に確かめられる範囲で基本的な事実を並べます。
任意の $z, w\in \C$ に対して $e^{z + w} = e^{z}\cdot e^{w}$ が成立する。
級数 $\sum_{n = 0}\tfrac{z^{n}}{n!}$ および $\sum_{m = 0}^{\infty}\tfrac{w^{m}}{m!}$ は絶対収束するので命題1.9.21と命題1.9.22を用いて\[e^{z}\cdot e^{w} = \sum_{n = 0}^{\infty}\dfrac{z^{n}}{n!}\cdot \sum_{m = 0}^{\infty}\dfrac{w^{n}}{m!} = \sum_{n = 0}^{\infty}\sum_{m = 0}^{\infty}\dfrac{z^{n}w^{m}}{n!m!} = \sum_{k = 0}^{\infty}\sum_{l = 0}^{k}\dfrac{z^{l}w^{k - l}}{l!(k - l)!} = \sum_{k = 0}^{\infty}\dfrac{(z + w)^{k}}{k!} = e^{z + w}\]です。
制限 $\exp : \R\to (0, +\infty)$ が定まり全単射である。この制限の逆写像を $($Euler数 $e$ を底とする$)$ 対数関数と呼び $\log$ で表す。また、この対数関数 $\log$ は連続であり、任意の正実数 $x, y > 0$ に対して $\log xy = \log x + \log y$ を満たす。
指数関数 $\exp$ は区間 $[0, +\infty)$ において明らかに狭義単調増加であり、$\exp 0 = 1$ と $\underset{x\to\infty}{\lim}\exp x = +\infty$ よりこの区間の像は $[1, +\infty)$ です。指数法則により常に $\exp (-x) = (\exp x)^{-1}$ であることに注意して、区間 $(-\infty, 0]$ においても狭義単調増加かつこの区間の像が $(0,1]$ であることが容易に分かります。従って、この制限 $\exp : \R\to (0, +\infty)$ は全単射です。
任意の正実数 $x, y > 0$ に対して $\log xy = \log x + \log y$ を満たすことは\[\exp(\log x + \log y) = \exp(\log x)\cdot \exp(\log y) = xy\]よりよいです。
連続性を示します。$x_{0}\in (0, +\infty)$ とします。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。任意の $x\in (x_{0}e^{-\varepsilon}, x_{0}e^{\varepsilon})$ に対して\[-\varepsilon < \log (x/x_{0}) < \varepsilon\]であり、$|\log x - \log x_{0}| < \varepsilon$ です。これは $x_{0}$ における連続性を意味し、従って、対数関数 $\log$ は連続です。
正実数 $a > 0$ と実数 $x\in \R$ に対して $a$ の $x$ 乗 $a^{x}$ を $a^{x} := \exp(x\log a)$ により定め、$x$ を変数として見た関数を $a$ を底とする指数関数といいます。指数法則より $x\in \Z$ においては通常の冪乗に一致しています。また、この $a$ を底とする指数関数も $\R$ から $(0, +\infty)$ への全単射であり、逆関数は通常 $\log_{a}$ で表されます。$\log_{a} = (\log a)^{-1}\log$ が成立します。
三角関数を定義します。
次の基本的な公式が成立します。
任意の $z, w\in \C$, $n\in \Z$ に対して次が成立する。ただし、(8)は定義可能な範囲で考える。
いずれも定義から愚直に計算することで分かります。
ついでに双曲線関数も導入しておきます。
任意の $z\in \C$ に対して次が成立する。
いずれも定義から愚直に計算することで分かります。
関数の連続性に関する重要な概念を紹介しておきます。(定義と具体例のみです。)
$A$ を $\R^{m}$ の部分集合、$f : A\to \R^{l}$ を関数とする。任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、任意の $x, y\in A$ に対して\[|x - y| < \delta\Rightarrow |f(x) - f(y)| < \varepsilon\]が成立するとき、$f$ は一様連続であるという。
容易に分かるように一様連続なら連続です。
$J$ を $\R$ の閉区間、$f : J\to \R^{l}$ を関数とする。任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在して次が成立するとする。
このとき、$f$ は絶対連続であるという。
容易に分かるように絶対連続なら一様連続であり、連続です。
$A$ を $\R^{m}$ の部分集合、$f : A\to \R^{l}$ を関数とする。ある正実数 $L > 0$ が存在し、任意の $x, y\in A$ に対して\[|f(x) - f(y)| \leq L|x - y|\]が成立しているとき、$f$ はLipschitz連続であるという。
容易に分かるようにLipschitz連続なら絶対連続であり、特に連続です。
以上です。
構成が雑なので整理したほうがよさそう。
参考文献
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