ここでは一般の位相空間の導入に繋がる形でEuclid空間 $\R^{m}$ の位相的な性質についてまとめます。まずはEuclid空間における距離やその点列の収束性について考えた、その後Euclid空間の部分集合として性質よく振る舞う開集合と閉集合について基礎事実をまとめます。
実数集合 $\R$ を $m$ 個直積することで得られる集合 $\R^{m} = \overbrace{\R\times\cdots\times \R}^{m}$ を考えます。これを通常は $m$ 次元Euclid空間「空間」という用語は主に集合を何かしらの付加構造を込めて考える場合に慣習的に用いられます。この場合も、これから述べるような構造を合わせてEuclid空間と呼ばれます。また、その元はよく点と呼びます。といい、これから述べるように元どうしのの加法や内積が定義されます。$($ほとんど復習のような感じかと思うので、ここはさらっとまとめます。$)$
加法 $+ : \R^{m}\times \R^{m}\to \R^{m}$ が各 $x = (x_{1}, \dots, x_{m}), y = (y_{1}, \dots, y_{m})\in \R^{m}$ に対して\[x + y := (x_{1} + y_{1}, \dots, x_{m} + y_{m})\]とすることで定義され、また、スカラー倍 $\cdot : \R\times \R^{m}\to \R^{m}$ が各 $a\in \R$, $x = (x_{1}, \dots, x_{m})\in \R^{m}$ に対して\[a\cdot x := (ax_{1}, \dots, ax_{m})\]とすることで定義されます。Euclid空間はこの加法とスカラー倍について実線型空間と呼ばれるものになっています。
集合 $V$ に加法 $+ : V\times V\to V$ とスカラー倍 $\cdot : \R\times V\to V$ が与えられており、以下の条件を満たしているとする。
このとき、組 $(V, +, \cdot)$ のことを実線型空間や $\R$ 上の線型空間という最近では「線形」と書かれることが多いと思います。私は「線型」の方を使います。。単に $V$ とも書く。
Euclid空間 $\R^{m}$ はその通常の加法とスカラー倍により実線型空間となる。
成分ごとには単なる実数の加法と乗法なのでどれも明らかです。
Euclid空間 $\R^{m}$ には $($標準的な$)$ 内積 $\langle\cdot, \cdot\rangle : \R^{m}\times \R^{m}\to \R$ が各 $x = (x_{1}, \dots, x_{m}), y = (y_{1}, \dots, y_{m})\in \R^{m}$ に対して\[\langle x, y\rangle := \sum_{k = 1}^{m}x_{k}y_{k}\]とすることで定義されます。この内積は以下の性質を持ちます。
内積に関する重要な不等式としてCauchy–Schwarz不等式を示しておきます。
任意の $x, y\in \R^{m}$ に対して $\langle x, y\rangle^{2}\leq \langle x, x\rangle\langle y, y\rangle$ が成立する。
$x = 0$ または $y = 0$ ならば自明なので $x, y\neq 0$ とします。任意の $t\in \R$ に対して $\langle x - ty, x - ty\rangle = \langle x, x\rangle - 2t\langle x, y\rangle + t^{2}\langle y, y\rangle\geq 0$ であり、$t = \langle x, y\rangle/\langle y, y\rangle$ を代入すれば\[\langle x, x\rangle - 2\dfrac{\langle x, y\rangle^{2}}{\langle y, y\rangle} + \dfrac{\langle x, y\rangle^{2}}{\langle y, y\rangle} = \langle x, x\rangle - \dfrac{\langle x, y\rangle^{2}}{\langle y, y\rangle} \geq 0\]です。$\langle y, y\rangle > 0$ に注意すれば $\langle x, y\rangle^{2}\leq \langle x, x\rangle\langle y, y\rangle$ です。
$x\in \R^{m}$ に対してそのノルム $\|x\|$ を $\|x\| := \sqrt{\langle x, x\rangle}$ により定めます。これは $x$ の大きさを表す値で、次の性質を持ちます。
(1) (2) 明らかです。
(3) $\|x + y\|^{2} = \|x\|^{2} + 2\langle x, y\rangle + \|y\|^{2}$ であり、ここにCauchy–Schwarz不等式を適用すれば\[\|x + y\|^{2}\leq \|x\|^{2} + 2\|x\|\|y\| + \|y\|^{2} = (\|x\| + \|y\|)^{2}\]です。よって、$\|x + y\|\leq \|x\| + \|y\|$ です。
補足的ですが、$p\geq 1$ に対して写像 $\|\cdot\|_{p} : \R^{m}\to \R$ であって各 $x\in \R$ に対して\[\|x\|_{p} := \left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k}|^{p}\right)^{1/p}\]として定義したものを $p$-ノルムといいます。上記のノルム $\|\cdot\|$ は $p = 2$ の場合に相当します。$p$-ノルムは命題1.7.5と同等の性質を満たしています。まず
は明らかであり、三角不等式は次のHölder不等式から分かります。$($指数関数・対数関数の基本性質については既知とします。$)$
$p, q\in (1, \infty)$ かつ $p^{-1} + q^{-1} = 1$ とする。このとき任意の $x, y\in \R^{m}$ に対して\[\|xy\|_{1}\leq \|x\|_{p}\|y\|_{q}\]が成立する。ただし、$xy$ は成分ごとの積 $(x_{1}y_{1}, \dots x_{m}y_{m})$ である。
まず準備として、任意の非負実数 $a, b \geq 0$ に対して $ab\leq a^{p}p^{-1} + b^{q}q^{-1}$ であることを示します。$a = 0$ または $b = 0$ のときは明らかなので $a, b > 0$ とします。対数関数 $\log$ が上に凸なので\[\log(a^{p}p^{-1} + b^{q}q^{-1}) \geq p^{-1}\log(a^{p}) + q^{-1}\log(b^{q}) = \log(ab)\]となり、後は指数関数 $\exp$ が大小関係を保つことから $ab\leq a^{p}p^{-1} + b^{q}q^{-1}$ が分かります。
主張の不等式を示します。$\|x\|_{p} = 0$ または $\|y\|_{q} = 0$ のときは明らかなのでこれらは正値として示せばよいです。いま、任意の実数 $r\in [1, +\infty)$, $a\in \R$ と $z\in \R^{m}$ に対して $\|az\|_{r} = |a|\|z\|_{r}$ が成立しているので $\|x\|_{p} = \|y\|_{q} = 1$ として $\|xy\|_{1}\leq 1$ を示せばよいですが、これは\begin{eqnarray*}\|xy\|_{1} & = & \sum_{k = 1}^{m}|x_{k}||y_{k}|dx\leq \sum_{k = 1}^{m}(p^{-1}|x_{k}|^{p} + q^{-1}|y_{k}|^{q})dx \\& = & p^{-1}\sum_{k = 1}^{m}|x_{k}|^{p}dx + q^{-1}\sum_{k = 1}^{m}|y_{k}|^{q}dx \\& = & p^{-1} + q^{-1} = 1\end{eqnarray*}より分かります。
任意の $x, y\in \R^{m}$ に対して\[\|x + y\|_{p}\leq \|x\|_{p} + \|y\|_{p}\]が成立する。成分ごと書き下せば\[\left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p}\right)^{1/p}\leq \left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k}|^{p}\right)^{1/p} + \left(\sum_{k = 1}^{m}|y_{k}|^{p}\right)^{1/p}\]である。
$p = 1$ の場合は容易なので $p > 1$ とし、$q := 1/(1 - p^{-1})$ とおきます。$p^{-1} + q^{-1} = 1$ および $p = q(p - 1)$ が成立します。Hölder不等式 $($補題1.7.6$)$ より\[\sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p - 1}|x_{k}|\leq \left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{q(p - 1)}\right)^{1/q}\left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k}|^{p}\right)^{1/p} = \|x + y\|_{p}^{p - 1}\|x\|_{p},\]\[\sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p - 1}|y_{k}|\leq \left(\sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{q(p - 1)}\right)^{1/q}\left(\sum_{k = 1}^{m}|y_{k}|^{p}\right)^{1/p} = \|x + y\|_{p}^{p - 1}\|y\|_{p}\]なので\begin{eqnarray*}\|x + y\|_{p}^{p} & = & \sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p} \\& \leq & \sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p - 1}|x_{k}| + \sum_{k = 1}^{m}|x_{k} + y_{k}|^{p - 1}|y_{k}| \\& \leq & \|x + y\|_{p}^{p - 1}(\|x\|_{p} + \|y\|_{p})\end{eqnarray*}であり、直ちに $\|x + y\|_{p}\leq \|x\|_{p} + \|y\|_{p}$ が従います。
Euclid空間の $2$ 点 $x = (x_{1}, \dots, x_{m}), y = (y_{1}, \dots, y_{m})\in \R^{m}$ に対してその $($標準的な$)$ 距離 $d(x, y)$ がノルムを用いて $d(x, y) = \|x - y\|$ とすることで定義されます。これより定まる写像 $d : \R^{m}\times \R^{m}\to \R$ は距離関数と呼ばれます。成分表示して書き下せば\[d(x, y) = \sqrt{(x_{1} - y_{1})^{2} + \dots + (x_{m} - y_{m})^{2}}\]であり、通常考えている $2$ 点間の距離であることが分かります。これは次を満たします。
(1) (2) 明らかです。
(3) ノルムの性質から $d(x, z) := \|x - z\|\leq \|x - y\| + \|y - z\| = d(x, y) + d(y, z)$ です。
$V$ を実線型空間とします。写像 $\|\cdot\| : V\to \R$ であって条件
を満たすものを $V$ 上のノルムといい、対 $(V, \|\cdot\|)$ はノルム空間と呼ばれます。このノルム $\|\cdot\|$ はEuclid空間におけるノルムの一般化であり、この場合も写像 $d : V\times V\to \R : (x, y)\mapsto \|x - y\|$ は性質
を持っているため距離関数と呼ばれます。
実数列の極限はEuclid空間の点列の極限に直ちに一般化されます。
$\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $\R^{m}$ の点列とする。点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ が点 $a\in \R^{m}$ に収束するとは、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[\|x_{n} - a\| < \varepsilon\]となることと定め、このことを\[\lim_{n\to\infty}x_{n} = a,\]\[x_{n}\to a \ (n\to \infty)\]と表す。
ここでは極限の定義としてEuclid空間のノルムを用いましたが、これは $\R^{m}$ の各成分ごとに極限を考えたものに一致します。
$\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $\R^{m}$ の点列とし、$x_{n}$ の第 $k$ 成分を $x_{n, k}$ と書くことにする。また、点 $a = (a_{1}, \dots, a_{m})\in \R^{m}$ を取る。このとき、次は同値である。
(1) ⇒ (2) 正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。仮定よりある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して $\|x_{n} - a\| < \varepsilon$ が成立します。このとき、任意の $1\leq k\leq m$ に対して $|x_{n, k} - a_{k}|\leq \|x_{n} - a\| < \varepsilon$ なので、各実数列 $\{x_{n, k}\}_{n\in\N}$ は $a_{k}\in \R$ に収束します。
(2) ⇒ (1) 正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。各実数列 $\{x_{n, k}\}_{n\in\N}$ は $a_{k}\in \R$ に収束するので、ある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して $|x_{n, k} - a_{k}| < \tfrac{\varepsilon}{\sqrt{n}}$ が全ての $1\leq k\leq n$ について成立します。よって、このとき\[\|x_{n} - a\|\leq \sqrt{|x_{n, 1} - a_{1}|^{2} + \dots + |x_{n, m} - a_{m}|^{2}} < \varepsilon\]となるので、点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ は $a\in \R^{m}$ に収束します。
また、Bolzano–Weierstrassの定理 $($定理1.5.31$)$ はEuclid空間の有界点列に一般化されます。
Euclid空間の部分集合 $A\subset \R^{m}$ が有界であるとは、ある正実数 $M > 0$ が存在して任意の点 $a\in A$ に対して $\|a\| < M$ が成立することと定める。また、Euclid空間の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ が有界であるとは部分集合 $\{x_{n}\mid n\in \N\}$ が有界であることと定める。
Euclid空間の有界点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対し、その部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ であってある点 $a\in \R^{m}$ に収束するものが存在する。
$m = 1$ の場合のBolzano–Weierstrassの定理 $($定理1.5.31$)$ を用い、第 $1$ 成分については収束する部分列を取れます。取った部分列のさらに部分列として第 $2$ 成分に関しても収束する部分列を構成できます。同様に $m$ 成分まで各成分ごとに収束する部分列が構成でき、それが $\R^{m}$ において収束する部分列です。
Euclid空間 $\R^{m}$ における開集合と閉集合を導入し、その基本性質をまとめます。
まずは、開集合・閉集合の最も基本的な例となる開球体、閉球体を定義します。
では、開集合を定義します。
$A\subset \R^{m}$ を部分集合とする。
部分集合の内部に関する基本性質を挙げます。
$A\subset \R^{n}$ とする。次が成立する。
(1) $a\in \Int A$ とします。内点の定義より正実数 $\varepsilon > 0$ であって $O_{\varepsilon}(a)\subset A$ となるもの固定しておきます。任意に $a$ に収束する点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ に対し、ある非負整数 $N$ が存在して $n > N$ ならば $\|x_{n} - a\| < \varepsilon$ であり、この $N$ に対して $n > N$ ならば $x_{n}\in O_{\varepsilon}(a)\subset A$ です。
逆は対偶により示します。任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して $O_{\varepsilon}(a) \not\subset A$ とします。各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $x_{n}\in O_{1/n}(a)\setminus A$ を取ることで点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N_{+}}$ を構成すれば、これが $a$ に収束する $\R^{m}$ の点列であって任意の非負整数 $N$ に対して $n > N$ かつ $x_{n}\notin A$ となる $n$ が存在するものになっています。
(2) 明らかです。
(3) (2)より $\Int(\Int A)\subset \Int A$ なので $\Int A\subset \Int(\Int A)$ を示せばよいです。$a\in \Int A$ とします。ある正整数 $\varepsilon > 0$ が存在して $O_{\varepsilon}(a)\subset A$ です。また、任意の $a'\in O_{\varepsilon}(a)$ に対して $O_{\varepsilon - \|a' - a\|}(a')\subset O_{\varepsilon}(a)\subset A$ なので $O_{\varepsilon}(a)\subset \Int A$ です。よって、$a\in \Int A$ であり、$\Int A\subset \Int(\Int A)$ です。
(4) 明らかです。
次は、部分集合が開集合であることの同値条件として基本的なものです。
部分集合 $A\subset \R^{m}$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) $A$ のある点 $a$ に収束する $\R^{m}$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を取ります。$a$ は内点なので命題1.7.18の(1)によりある非負整数 $N$ が存在して任意の $n > N$ に対して $x_{n}\in A$ です。
(2) ⇒ (1) $A\subset \Int A$ を示せばよいです。$a\in A$ とします。命題1.7.18の(1)と仮定により $a\in \Int A$ なので $A\subset \Int A$ です。よって、$A$ は開集合です。
(1) ⇒ (3) 各 $a\in A$ に対して正実数 $\varepsilon_{a} > 0$ であって $O_{\varepsilon_{a}}(a)\subset A$ となるものを取ります。このとき、明らかに $\bigcup_{a\in A} O_{\varepsilon_{a}} = A$ です。
(3) ⇒ (1) $A$ が開球体の和集合として $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}O_{r_{\lambda}}(a_{\lambda})$ と表されているとします。任意の $a\in A$ に対し、ある $\lambda\in \Lambda$ であって $a\in O_{r_{\lambda}}(a_{\lambda})$ となるものを取れば、$O_{r_{\lambda} - \|a - a_{\lambda}\|}(a)\subset O_{r_{\lambda}}(a_{\lambda})\subset A$ なので $a\in \Int A$ です。よって、$A\subset \Int A$ であり、$A$ は開集合です。
開集合全体からなる集合族を開集合系や位相というのですが、次はその開集合系が和集合や高々有限個の共通部分について閉じていることを意味します。$($一般に位相空間を導入する際のベースになるということもあり重要です。$)$
(1) 明らかです。
(2) 各 $U_{\lambda}$ は開球体の和集合で表され、それらの和集合 $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ も開球体の和集合で表されるのでこれは開集合です。
(3) $a\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ とします。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $O_{r_{\lambda}}(a)\subset U_{\lambda}$ となる正実数 $r_{\lambda} > 0$ を取り、$r := \min\{r_{\lambda}\mid \lambda\in \Lambda\}$ と定めます。$\Lambda$ が有限集合なので $r$ は正の実数として定まっています。このとき、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $O_{r}(a)\subset U_{\lambda}$ なので $O_{r}(a)\subset \bigcap_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ です。よって、$a$ は $\bigcap_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ の内点であり、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ は開集合です。
続いて、閉集合を定義します。最後に示しますが、これは補集合を取ることで開集合と移り合う双対的な概念です $($命題1.7.26$)$。
$A\subset \R^{m}$ を部分集合とする。
つまり、部分集合 $A$ の閉包とは、どんなに近くにも $A$ の点が存在するような点を全て集めた集合のことであり、$A$ に対してその「境界定義としては $\Cl A\cap \Cl A^{c}$ のことを境界といいます。つまり、どんなに近くにも $A$ の点、$A^{c}$ の点の両方が存在するような点 $($境界点という$)$ を集めたものです。一般に位相空間論を展開するときにいくらか詳しく紹介します。」にあたる集合を加えたものになっています。そして、最初からその「境界」にあたる部分を含んでいるようなものが閉集合です。
閉包の基本的な性質を挙げます。
$A\subset \R^{n}$ とする。次が成立する。
(1) $a\in \Cl A$ とします。各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $A\cap O_{1/n}(a)\neq \varnothing$ なのでその点 $x_{n}$ を取ることができます。これにより $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N_{+}}$ を構成すれば添字集合が非負整数の集合 $\N$ ではなく正整数の集合 $\N_{+}$ ですが、$1$ つずらせば $\N$ と一緒です。大抵の場合、これくらいのことは特に断らずに話を進めます。、\[\|x_{n} - a\| < \dfrac{1}{n}\to 0 \ (n\to \infty)\]なので $a$ に収束する点列になっています。
$a\in \R^{m}$ に対して $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ であって $a$ に収束するものが存在したとします。任意に正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。収束の定義より、ある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して $\|x_{n} - a\| < \varepsilon$ が成立しするので $x_{N + 1}\in A\cap O_{\varepsilon}(a)$ です。よって、$a$ は $A$ の触点であり $a\in \Cl A$ です。
(2) 明らか。
(3) (2)より $\Cl A\subset \Cl(\Cl A)$ なので $\Cl(\Cl A)\subset \Cl A$ を示せばよいです。$a\in \Cl(\Cl A)$ とし、正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$\Cl A\cap O_{\varepsilon/2}(a)\neq \varnothing$ よりその点 $a'$ を取ると、$a'\in \Cl A$ より $A\cap O_{\varepsilon/2}(a')\neq \varnothing$ です。よって、$a''\in A\cap O_{\varepsilon/2}(a')$ を取ることができ、$\|a'' - a\|\leq \|a'' - a'\| + \|a' - a\| < \varepsilon$ より $a''\in A\cap O_{\varepsilon}(a)$ です。よって、$a\in \Cl A$ であり、$\Cl(\Cl A)\subset Cl A$ です。
(4) 明らかです。
従って、次の閉集合の同値な言い換えが分かります。
部分集合 $A\subset \R^{m}$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ であってある点 $a\in \R^{m}$ に収束するものを取ります。命題1.7.23の(1)より $a$ は $\Cl A$ の点ですが、$A$ が閉集合より $A = \Cl A$ なので $a\in A$ です。
(2) ⇒ (1) $\Cl A\subset A$ を示せばよいです。$a\in \Cl A$ とします。命題1.7.23の(1)より $A$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ であって $a$ に収束するものが取れますが、仮定により収束点 $a$ は $A$ の点です。よって、$\Cl A\subset A$ であり、$A$ は閉集合です。
閉集合どうしの集合演算については開集合の場合 $($命題1.7.20$)$ とは双対的に以下の形で成立します。
(1) 明らかです。
(2) $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $\bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ の点列であってある点 $a\in \R^{m}$ に収束するものとします。任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ は $F_{\lambda}$ の点列であるので、$F_{\lambda}$ が閉集合であることと系1.7.24より収束点は $a$ は $F_{\lambda}$ の点となります。よって、$a\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ であり、系1.7.24より $\bigcap_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ は閉集合です。
(3) $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ の点列であってある点 $a\in \R^{m}$ に収束するものとします。$\Lambda$ は有限集合なので、ある $\lambda\in \Lambda$ であって $\{n\in \N\mid x_{n}\in F_{\lambda}\}$ が無限集合となるものが存在します。そのような $\lambda$ を固定し、部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を常に $x_{n_{k}}\in F_{\lambda}$ となるように取ります。これは $a$ に収束する閉集合 $F_{\lambda}$ の点列なので系1.7.24より $a\in F_{\lambda}$ です。よって、$a\in \bigcup_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ です。再び系1.7.24より $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}F_{\lambda}$ は閉集合です。
最後に、開集合と閉集合が補集合を取る操作によって移り合うことを確かめます。
部分集合 $A\subset \R^{m}$ に対し、$A$ が開集合であることとその補集合 $A^{c}$ が閉集合であることとは同値である。
まず、$A$ を開集合として $A^{c}$ が閉集合であることを示します。$\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $A^{c}$ の点列であってある点 $a\in \R^{m}$ に収束するものとします。$a\in A^{c}$ を示せば $A^{c}$ が閉であることが分かりますが、これを背理法により示します。$a\in A$ に収束していたとします。$A$ が開集合なので、ある非負整数 $N$ が存在し $n > N$ に対して $x_{n}\in A$ です。これは $x_{n}\in A^{c}$ に矛盾します。よって、$a\in A^{c}$ です。
$A^{c}$ を閉集合として $A = A^{cc}$ が開集合であることを示します。$A$ が開集合でないとして矛盾を導きます。$a\in A\setminus \Int A$ を取ります。$a$ は $A$ の内点ではないので任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して $O_{\varepsilon}(a)\not\subset A$ です。よって、各正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $x_{n}\in A^{c}\cap O_{\varepsilon}(a)$ となるものを取ることができ、これにより $a$ に収束する $A^{c}$ の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N_{+}}$ が構成されます。$A^{c}$ は閉集合であり、$a\in A^{c}$ ですが、これは $a\in A$ に矛盾です。よって、$A$ は開集合です。
Euclid空間における有界閉集合は次に定義するコンパクト、および点列コンパクトという性質を持ちます。これは今後述べる(予定の)最大値・最小値原理につながったり、一般に位相空間論を展開する上での基本的かつ重要な概念となるため紹介しておきます。
部分集合 $K\subset \R^{m}$ が点列コンパクトであるとは、$K$ の任意の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ が $K$ の点に収束する部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を持つことと定める。
$K\subset \R^{m}$ とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を $K$ の点列とします。$K$ は有界なのでBolzano–Weierstrassの定理 $($定理1.7.13$)$ より $\R^{m}$ のある点 $a$ に収束する部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を持ちます。また、$K$ が閉集合なので系1.7.24より収束点 $a$ は $K$ の点です。
(2) ⇒ (3) $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $K$ の開被覆とします。まずは高々可算な部分被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ が取れることを示します。次の条件を満たす $\Q^{m}\times \Q$ の点 $(a, r) = (a_{1}, \dots, a_{m}, r)$ 全体からなる集合 $\mathcal{A}$ を考えます。
$\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\subset \bigcup_{(a, r)\in \mathcal{A}}O_{r}(a)$ を示します。もしこれが示されれば、各 $(a, r)\in \mathcal{A}$ に対して $O_{r}(a)\subset U_{\lambda}$ を満たす $\lambda\in \Lambda$ を対応させる写像 $\varphi : \mathcal{A}\to \Lambda$ を $1$ つ固定することで $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Img\varphi}$ が高々可算な部分被覆になります。$b = (b_{1}, \dots, b_{m})\in \bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}$ とします。$\lambda\in \Lambda$ であって $b\in U_{\lambda}$ となるものを取り、正実数 $\delta > 0$ であって $O_{\delta}(b)\subset U_{\lambda}$ となるものを取ります。有理数体の実数体における稠密性 $($系1.5.30$)$ より各 $1\leq k\leq m$ に対して有理数 $a_{k}\in [b_{k} - \tfrac{\delta}{3\sqrt{m}}, b_{k} + \tfrac{\delta}{3\sqrt{m}}]$ を取り、さらに正の有理数 $r\in [\tfrac{\delta}{3}, \tfrac{2\delta}{3}]$ を取るとき、$\|a - b\| < \tfrac{\delta}{3}$ なので $b\in O_{r}(a)\subset O_{\delta}(b)\subset U_{\lambda}$ となっています。よって、$b\in \bigcup_{(a, r)\in \mathcal{A}}O_{r}(a)$ であり、$b$ は任意なので $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\subset \bigcup_{(a, r)\in \mathcal{A}}O_{r}(a)$ です。
よって、高々可算な部分被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ が取れましたが、これに有限部分被覆が存在することを示します。まず、最初から $\Lambda'$ が有限集合ならば問題ないので可算無限集合として示せばよく、添字を取り換えて可算部分被覆 $\{U_{n}\}_{n\in\N}$ として考えることにします。これが有限部分被覆を持たなかったとして矛盾を導きます。このとき、任意の $n\in \N$ に対して\[K\not\subset \bigcup_{0\leq k\leq n}U_{k}\]であり、各 $n\in \N$ に対して $x_{n}\in K\setminus \bigcup_{0\leq k\leq n}U_{k}$ を取ることができます。仮定より点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ は $K$ のある点 $a$ に収束する部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ を持ちますが、$a\in U_{N}$ となる非負整数 $N$ が取れるので、$n_{k} > N$ となる $k\in \N$ に対して $x_{n_{k}}\notin U_{N}$ であり、これは $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ が $a$ に収束する部分列であることに矛盾です。以上より開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ の有限部分被覆の存在が示されましたが、これはもとの開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の有限部分被覆です。よって、$K$ はコンパクトです。
(3) ⇒ (1) 対偶を示します。$K$ は有界閉集合ではないとして、$K$ が有界でない場合と閉集合でない場合のそれぞれで $K$ がコンパクトでないことを示せばよいです。$K$ が有界でない場合、$K$ の開被覆 $\{O_{n}(0)\}_{n\in\N_{+}}$ は有限部分被覆を持たないので $K$ はコンパクトではないです。続いて、$K$ が閉でない場合、点 $a\in \overline{K}\setminus K$ が存在するのでそれを取ると、$K$ の開被覆 $\{\R^{m}\setminus D_{1/n}(a)\}_{n\in\N_{+}}$ は有限部分被覆を持たないので $K$ はコンパクトではないです。
実数集合における区間のように、集合が一塊となっているという性質を次の連結性という形で定式化します。
部分集合 $A\subset \R^{m}$ が非連結であるとは、Euclid空間の $2$ つの開集合 $U, V\subset \R^{m}$ であって $A\cap U\cap V = \varnothing$, $A\cap U\neq \varnothing$, $A\cap V\neq \varnothing$ かつ $A\subset U\cup V$ を満たすものが存在することと定める。非連結ではない部分集合 $A$ は連結であるという。
実際、実数体における区間は以下のように特徴付けることができます。
実数体 $\R$ の空でない部分集合 $J$ に対し、次は同値である。
(1) ⇒ (2) 背理法により示すため、区間 $J$ が非連結だったとします。$\R$ のある開集合 $U, V$ が存在して $J\cap U\cap V = \varnothing$, $J\cap U\neq \varnothing$, $J\cap V\neq \varnothing$, $J\subset U\cup V$ を満たします。点 $a\in J\cap U$ と $b\in J\cap V$ を取ります。対称性より $a < b$ であったとしてよく、また、明らかに $[a, b]\subset J$ です。そして、$c := \sup(U\cap [a, b])$ とおきます。$c\in J\cap U$ か $c\in J\cap V$ ですが、いずれの場合も矛盾が導かれることを示します。
まず、$c\in J\cap U$ とします。$U$ が開集合なのである正実数 $\delta > 0$ が存在して $(c - \delta, c + \delta)\subset U$ です。また、$c\in [a, b]$ と $b\notin U$ より $c + \delta\leq b$ です。よって、$c + \delta/2\in U\cap [a, b]$ ですが、これは $c = \sup(U\cap [a, b])$ に矛盾です。
$c\in J\cap V$ とします。$V$ が開集合なのである正実数 $\delta > 0$ であって $(c - \delta, c + \delta)\subset V$ となるものを取れます。いま、$c$ が $U\cap [a, b]$ の上界なので $x\in (c - \delta, c]$ となる $x\in U\cap [a, b]$ が取れますが、これは $x\in J\cap U\cap V$ を導き矛盾です。
以上より、最初述べたように開集合 $U, V$ を取ることはできないことが分かり、つまり、区間 $J$ は連結です。
(2) ⇒ (3) もし、ある実数 $c\in (a, b)$ であって $c\notin J$ となるものが存在したとすると、$J\cap (-\infty, c)\cap (c, +\infty) = \varnothing$, $J\cap (-\infty, c)\neq \varnothing$, $J\cap (c, +\infty)\neq \varnothing$, $J\subset (-\infty, c)\cup (c, +\infty) = \varnothing$ であり、これは $J$ の連結性に矛盾です。よって、$(a, b)\subset J$ であり、当然 $a, b\in J$ なので $[a, b]\subset J$ です。
(3) ⇒ (1) $l := \inf J$, $u := \sup J$ とします。$J\subset [l, u]$ であることに注意すれば、あとは $(l, u)\subset J$ を示せば各端点が $J$ に属すかどうかに関わらず $J$ は区間です。$c\in (l, u)$ を取ります。$l, u$ の取り方から $a\in J\cap [l, c)$ および $b\in J\cap (c, u]$ が取れます。仮定から $c\in [a, b]\subset J$ であり、$(l, u)\subset J$ が分かりました。$l = -\infty$ や $u = +\infty$ の場合も上手くいくことには注意。
以上です。
なし。
参考文献
更新履歴