位相空間の最も重要な例であるEuclid空間 $\R^{n} = \overbrace{\R\times\cdots \times \R}^{n}$ を考えるための準備として、実数集合 $\R$ についての基本的な事実をまとめます。
実数自体は既に扱ってきた対象ではあるかと思いますが、これを厳密に扱うために重要なのはそもそも実数がどのような性質を持つ対象なのかを一度整理しておくことです。そこで、以下では「実数体」を公理的ここでいう「公理」は意味的には「定義」と変わらないもので、単に「こういう性質を持つものを実数と呼びます。」といっていると思ってよいです。$1$ つ注意として、「こういう性質」といったものをもつ対象が実際に存在するかの確認は重要であり、それは1.6節で行います。に導入し、その基本性質をまとめます。有理数集合 $\Q$ の存在とその基本的な性質については十分知っているものとして進めます。
まず実数の公理的特徴付けについて述べます。事実としては、以下で公理として述べる性質を全て満たすような対象が「普段扱っている実数」として期待される性質をすべて持ち、そこで、その性質たちを満たすものを実数と呼ぶことにするというわけです。
公理は大きく分けて次の $3$ つの観点に分けられ、それらを順に説明していきます。
まずは代数的構造について。数は多いですが、実数が持つべき性質としては当たり前のものばかりです。
実数集合 $\R$ には加法演算 $+ : \R\times \R\to \R$ と乗法演算 $\cdot : \R\times \R\to \R$ が与えられており、次を満たす。
一般に集合 $\K$ とその上で定義された演算の組 $(\K, +, \cdot)$ がこの公理1.5.2の $\R$ を $\K$ で置き換えた条件を満たすとき、$(\K, +, \cdot)$ は体 $($field$)$ であるといいます。つまり、この公理1.5.2は実数集合 $\R$ には体の構造が与えられているという意味であり、このことを明示するために通常は $\R$ のことを実数体と呼びます。また、有理数集合 $\Q$ も通常の加法演算と乗法演算のもとで上記と同等の条件を満たし体となり、通常は有理数体と呼ばれます。
差と商に関して、$a + (-b)$ は通常 $a - b$ と書き、$b\neq 0$ に対して $ab^{-1}$ は $\tfrac{a}{b}$ や $a/b$ とも書かれます。
この公理1.5.2のみから確かめられる事実として次があります。今後使うことを全て網羅しているわけではないですが、ここに挙げていないことでも実数の四則演算で普段使っているようなことはこの公理1.5.2から証明できるはずです。
次が成立する。
(1) $(-a), (-a)'$ を $a$ の逆元とするとき、\[(-a)' = (-a)' + 0 = (-a)' + a + (-a) = (-a) + a + (-a)' = (-a) + 0 = (-a)\]です。
(2) $a\in \R$ は $(-a) + a = a + (-a) = 0$ を満たすので、$-a$ の加法逆元 $-(-a)$ です。
(5) $a\cdot 0 = a\cdot (0 + 0) = a\cdot 0 + a\cdot 0$ であり、両辺に $-(a\cdot 0)$ を足すことで $0 = a\cdot 0$ が従います。
(6) $a + a\cdot (-1) = a\cdot 1 + a\cdot (-1) = a\cdot (1 + (-1)) = a\cdot 0 = 0$ なので $-a = a\cdot (-1)$ です。
(9) $aba^{-1}b^{-1} = aa^{-1}bb^{-1} = 1\cdot 1 = 1$ なので $(ab)^{-1} = a^{-1}b^{-1}$ です。
(10) $ab$ には乗法逆元が存在するので、$0$ に乗法逆元が存在しないことの対偶から分かります。
続いて順序構造について。いずれも当然欲しい性質でしょう。
実数集合 $\R$ には全順序 $\leq$ であって次の条件を満たすものが与えられている。
一般に集合 $\K$ とその上で定義された演算と全順序の組 $(\K, +, \cdot, \leq)$ が公理1.5.2と公理1.5.4の $\R$ を $\K$ で置き換えた条件を満たすとき $(\K, +, \cdot, \leq)$ は順序体 $($ordered field$)$ であるといいます。
通常通り、$a > 0$ である実数 $a$ を正の符号を持つといったり正の実数といい、$a < 0$ である実数を負の符号を持つといったり負の実数といいます。
このことから従う事実として次があります。これらもまた網羅したものではありませんが、順序の関係する演算について普段使っていることの大体は公理1.5.4から示されます大体は大丈夫なのですが、「任意の正の実数 $a, b > 0$ に対してある正の整数 $n$ が存在して $na > b$ を満たす」というArchimedesの原理 $($命題1.5.28$)$ を示すためには最後に述べる公理1.5.10が必要です。。
実数 $a, b, c, d\in \R$ に対して次が成立する。
(2) $0\leq a = a + 0\leq a + b$ です。
(3) (1)より $b - a, d - c\geq 0$ であり、(2)より $(b + d) - (a + c)\geq 0$ です。再び(1)より $a + c\leq b + d$ です。
(4) $0 < c\leq b - a$ であることより $a\neq b$ かつ $a\leq b$ であり、よって、$a < b$ です。
(6) $b - a, c\geq 0$ より $bc - ac = (b - a)c\leq 0$ であり、よって、$ac\leq bc$ です。
(7) $1, -1$ の一方は正であり、その $2$ 乗である $1$ は正です。
(8) $a^{-1}\leq 0$ とすると $1 = aa^{-1}\leq a0 = 0$ となり矛盾するので $a^{-1} > 0$ です。
(9) $a\leq b$ の両辺に $(ab)^{-1} > 0$ を掛けて $b^{-1}\leq a^{-1}$ です。
部分集合の上限については次が分かります。$($下限についても同様です。上限・下限については1.3.3.5節を参照。$)$
部分集合 $A\subset \R$ と実数 $a\in \R$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) 対偶より示します。$a$ が $A$ の上界でない場合に $a\neq \sup A$ は明らか。$a$ は $A$ の上界であり、ある正実数 $\varepsilon > 0$ であって $x\in A$ かつ $a - \varepsilon < x\leq a$ となる実数 $x$ が存在しないものが存在したとします。$x\in A$ に対して、仮定から $x\leq a - \varepsilon$ か $a < x$ のいずれかが成立しますが、$a$ が上界であることから $x\leq a$ であり、$x\leq a - \varepsilon$ が従います。よって、$a - \varepsilon$ は $A$ の上界ですが、これは $a$ が最小の上界でないことを意味し $a\neq \sup A$ です。よって、対偶が示されました。
(2) ⇒ (1) $a'$ を $a$ の上界とし、$a' < a$ であったとして矛盾を導きます。正実数 $\varepsilon := \tfrac{a - a'}{2}$ を取り、$x\in A$ であって $a - \varepsilon < x\leq a$ となるものを取ります。このとき、\[a' < a' + \varepsilon = \dfrac{a + a'}{2} = a - \varepsilon < x\]であり、これは $a'$ が $A$ の上界であることに矛盾です。よって、$A$ の任意の上界 $a'$ に対して $a\leq a'$ であるので $a$ は最小の上界、つまり上限 $\sup A$ です。
部分集合 $A, B\subset \R$ に対して次が成立する。
(1) $z\in A + B$ とします。$x\in A$ と $y\in B$ を用いて $z = x + y$ と表されます。$x\leq a$ と $y\leq b$ から $z\leq a + b$ であり、よって、$a + b$ は $A + B$ の上界です。正実数 $\varepsilon > 0$ を取るとき、$a - \tfrac{\varepsilon}{2} < x\leq a$ となる $x\in A$ と $b - \tfrac{\varepsilon}{2} < y\leq b$ となる $y\in B$ を取れば $x + y\in A + B$ かつ $a + b - \varepsilon < x + y\leq a + b$ です。よって、系1.5.6より $a + b$ は $A + B$ の上限です。
(2) (3) (1)と似たような感じです。
また、ここまでのことを認めることで、各実数 $a\in \R$ に対してその絶対値 $|a|\in \R$ を\[|a| = \left\{\begin{array}{ll}a & (a\geq 0) \\-a & (a\leq 0)\end{array}\right.\]により定義でき、次が成立します。
次が成立する。
(1) $0\leq a$ ならば $-a\leq 0\leq a$ であり、$\max\{a, -a\} = a = |a|$ です。$a\leq 0$ ならば $a\leq 0\leq -a$ であり、$\max\{a, -a\} = -a = |a|$ です。
(2) 明らかです。
(3) 簡単です。
(4) $a + b\leq a + |b|\leq |a| + |b|$ と $-(a + b) = (-a) + (-b)\leq (-a) + |b|\leq |a| + |b|$ よりそうです。
(5) $|b + (a - b)|\leq |b| + |a - b|$ より $|a| - |b|\leq |a - b|$ であり、$-(|a| - |b|)\leq |a - b|$ も同様に分かるのでそうです。
(6) 対偶を示します。$a \neq b$ とします。$|a - b| > 0$ であり、正実数 $\varepsilon = \tfrac{|a - b|}{2}$ に対して $|a - b| > \varepsilon$ となります。
有理数体 $\Q$ は通常の順序に関して順序体になりますが、次はその有理数体が任意の順序体、特に実数体にきちんと含まれていることを意味します有理数体 $\Q$ が最小の順序体であるとも解釈できます。。
$\K$ を順序体とする。有理数体 $\Q$ から $\K$ への単射単射性を課さないとすべてを $0$ の移す写像 $($零写像$)$ も条件を満たしてしまいます。 $\iota : \Q\to \K$ であって以下の条件を満たすものが一意に存在する。
$\Q$ の加法単位元と乗法単位元は $0, 1$ と書きますが、$\K$ については区別のために $0_{\K}, 1_{\K}$ と書くことにします。まずは条件を満たす単射 $\iota : \Q\to \K$ を構成します。$\iota(0) = 0_{\K}$ とし、正整数 $n\in \N_{+}\subset \Q$ に対して\[\iota(n) = \iota(\overbrace{1 + \cdots + 1}^{n}) = \overbrace{1_{\K} + \cdots + 1_{\K}}^{n} =: n_{\K},\]\[\iota(-n) = \iota(\overbrace{(-1) + \cdots + (-1)}^{n}) = \overbrace{(-1_{\K}) + \cdots + (-1_{\K})}^{n} =: -n_{\K}\]と定めます。このとき、\[\cdots < -n_{\K} < \cdots < -2_{\K} < -1_{\K} < 0_{\K} < 1_{\K} < 2_{\K} < \cdots < n_{k} < \cdots\]から $n\in \Z$ に対して $\iota(n) = 0_{\K}$ ならば $n = 0$ です。$($いま定義した整数集合 $\Z$ の範囲では条件(i)と(ii)が満たされていることは認めます。$)$
有理数 $r\in \Q$ に対しては $r = p/q$ と整数 $p, q$ を用いてと表すことで $\iota(r) := \iota(p)\iota(q)^{-1}$ と定めます。これがwell-definedであることは $r = p_{1}/q_{1} = p_{2}/p_{2}$ であったとき、\[\dfrac{\iota(p_{2})}{\iota(q_{2})} - \dfrac{\iota(p_{1})}{\iota(q_{1})} = \dfrac{\iota(p_{2})\iota(q_{1}) - \iota(p_{1})\iota(q_{2})}{\iota(q_{2})\iota(q_{1})} = \dfrac{\iota(p_{2}q_{1} - p_{1}q_{2})}{\iota(q_{2}q_{1})} = \dfrac{\iota(0)}{\iota(q_{2}q_{1})} = 0_{\K}\]であるので分かります。また、$\Z$ において最初に定めた値に一致していることは $\iota(1)^{-1} = 1_{k}$ から明らかです。
以上で写像 $\iota : \Q\to \K$ が構成できました。あとは単射性と主張の条件を満たしていることを確認します。
(i) $r = p_{1}/q_{1}, s = p_{2}/q_{2}\in \Q$ に対して\[\iota(r) + \iota(s) = \dfrac{\iota(p_{1})}{\iota(q_{1})} + \dfrac{\iota(p_{2})}{\iota(q_{2})} = \dfrac{\iota(p_{1})\iota(q_{2}) + \iota(p_{2})\iota(q_{1})}{\iota(q_{1})\iota(q_{2})} = \dfrac{\iota(p_{1}q_{2} + p_{2}q_{1})}{\iota(q_{1}q_{2})} = \iota((p_{1}q_{2} + p_{2}q_{1})/q_{1}q_{2}) = \iota(r + s)\]なのでよいです。
(ii) $r = p_{1}/q_{1}, s = p_{2}/q_{2}\in \Q$ に対して\[\iota(r)\iota(s) = \dfrac{\iota(p_{1})}{\iota(q_{1})}\cdot\dfrac{\iota(p_{2})}{\iota(q_{2})} = \dfrac{\iota(p_{1}p_{2})}{\iota(q_{1}q_{2})}= \iota(p_{1}p_{2}/q_{1}q_{2}) = \iota(rs)\]なのでよいです。
(iii) 制限 $\iota|_{\Z} : \Z\to \K$ が順序を保つことは明らか。有理数 $r = p_{1}/q_{1}, s = p_{2}/q_{2}\in \Q$ について、$r < s$ として $\iota(r) < \iota(s)$ を示します。必要であれば $q_{1}, q_{2}$ を取り換えて正整数としておけば、$0 < s - r = \dfrac{p_{2}q_{1} - p_{1}q_{2}}{q_{2}q_{1}}$ と $q_{2}q_{1} > 0$ から $p_{2}q_{1} - p_{1}q_{2} > 0$ です。よって、$\iota(p_{2}q_{1} - p_{1}q_{2}) > 0$, $\iota(q_{2}q_{1}) > 0$ が分かるので\[\iota(s) - \iota(r) = \dfrac{\iota(p_{2}q_{1} - p_{1}q_{2})}{\iota(q_{2}q_{1})} > 0\]となります。
あとは単射性ですが、これは(iii)の証明において示した $\iota$ の狭義単調増加性から明らかです。以上により主張の写像 $\iota : \Q\to \K$ が構成されていることが確かめられました。
主張の写像の一意性を示します。$\iota$ を上で構成した写像、$\iota' : \Q\to \K$ をまた主張の条件を満たす単射として $\iota = \iota'$ であることを示せばよいです。以下のことを示します。
(step 1) $\iota'(0) = \iota'(0 + 0) = \iota'(0) + \iota'(0)$ であり、両辺に $-\iota'(0)$ を加えて $0_{\K} = \iota'(0)$ です。$\iota'(1)\neq \iota'(0) = 0_{\K}$ より逆元 $\iota'(1)^{-1}$ が取れるので、$\iota'(1) = \iota'(1\cdot 1) = \iota'(1)\cdot \iota'(1)$ の両辺に $\iota'(1)^{-1}$ を掛けて $1_{\K} = \iota'(1)$ が従います。
(step 2) $0 = \iota'(0) = \iota'(r + (-r)) = \iota'(r) + \iota'(-r)$ なので $\iota'(-r) = -\iota'(r)$ です。
(step 3) $\iota'(r)\neq \iota'(0) = 0_{\K}$ から逆元 $\iota'(r)^{-1}$ が取れるので、$\iota'(r)\iota'(r^{-1}) = \iota'(r\cdot r^{-1}) = \iota'(1) = 1_{\K}$ の両辺に $\iota'(r)^{-1}$ を掛ければ分かります。
(step 4) $n\in \N$ に対しては\[\iota'(n) = \iota'(\overbrace{1 + \cdots + 1}^{n}) = \overbrace{\iota'(1) + \cdots + \iota'(1)}^{n} = \overbrace{1_{\K} + \cdots + 1_{\K}}^{n} = \iota(n)\]であり、(step 2)から $n\in \Z$ でも $\iota'(n) = \iota(n)$ です。一般の有理数 $r = p/q\in \Q$ に対しても\[\iota'(r) = \iota'(p)\iota'(q)^{-1} = \iota(p)\iota(q)^{-1} = \iota(r)\]です。最初の等式に(step 3)を使っています。
以上で一意性も示されました。
さて、次に述べる連続性公理が最後になりますが、事実としてはこの公理が $\sqrt{2}$ などの無理数の存在を保証する、実数体を「普段扱っている実数体」らしくするためのキーとなる性質です。
実数集合 $\R$ の空でない上に有界な部分集合は上限を持つ。
$-1$ 倍により符号を反転させて考えれば直ちに次が分かります。
実数集合 $\R$ の空でない下に有界な部分集合は下限を持つ。
非負実数 $r\geq 0$ と正整数 $n$ に対して $r = a^{n}$ を満たす非負実数 $a$ が一意に存在することが示されます。この $a$ を $r$ の $n$ 乗根といい $r^{1/n}$ や $\sqrt[n]{r}$ により表します。この $n$ 乗根 $a$ の一意存在を以下の流れで確認します。
(step 1) 数学的帰納法により示します。$n = 1$ の場合は自明。写像 $x\mapsto x^{n - 1}$ が $x\geq 0$ において狭義単調増加とします。任意の $0\leq x < y\in \R$ に対して仮定から $0\leq x^{n - 1} < y^{n - 1}$ であるので $x^{n} < y^{n}$ が分かります。よって、写像 $x\mapsto x^{n}$ は $x\geq 0$ において狭義単調増加です。
(step 2) 空でないことは $0\in A$ からよく、上に有界なことは $r\leq 1$ の場合に $1$ が上界、$r\geq 1$ の場合に $r$ が上界になることからよいです。よって、連続性公理 $($公理1.5.10$)$ から上限 $\sup A$ が存在します。
(step 3) 一意性については(step 1)の狭義単調増加性からただちに分かるので、$r = a^{n}$ を示せばよいです。正実数 $0 < \varepsilon < a$ に対して\[(a - \varepsilon)^{n} = a^{n} + \sum_{k = 1}^{n}(-1)^{k}\comb{n}{k}a^{n - k}\varepsilon^{k} > a^{n} - \varepsilon\cdot a^{n - 1}\cdot \sum_{k = 1}^{n}\comb{n}{k},\]\[(a + \varepsilon)^{n} = a^{n} + \sum_{k = 1}^{n}\comb{n}{k}a^{n - k}\varepsilon^{k} < a^{n} + \varepsilon\cdot a^{n - 1}\cdot \sum_{k = 1}^{n}\comb{n}{k}\]と評価できます。$c := a^{n - 1}\cdot \sum_{k = 1}^{n}\comb{n}{k}$ とおきます。$a = \sup A$ より $a + \varepsilon$ は $A$ の上界であるので $r < (a + \varepsilon)^{n} < a^{n} + c\varepsilon$ です。また、系1.5.6よりある $a - \varepsilon < b \leq a$ が存在して $b\in A$ であるので $a^{n} - c\varepsilon < (a - \varepsilon)^{n} < b^{n}\leq r$ です。よって、$|a^{n} - r| < c\varepsilon$ となり、$\varepsilon$ が任意に小さく取れることから命題1.5.8より $a^{n} = r$ が従います。
以下では、上記の公理から導かれる重要な性質をまとめていきます。
まずは実数列の極限を定義します。
実数列 $\{a_{n}\}_{n\in \N}$ が収束および正負の無限大に発散することは単に極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}a_{n} = a$ が成立するといったり、極限値を明示せずに $\{a_{n}\}_{n\in \N}$ は極限を持つ、$\{a_{n}\}_{n\in \N}$ には極限が存在するなどということもあります。
実数体の部分集合の上限・下限や実数列の極限を扱う上では実数体 $\R$ に形式的に正負の無限大 $($無限遠点$)$ $\{-\infty, +\infty\}$ を加えた集合 $\R\sqcup \{-\infty, +\infty\}$ を考えると便利であり、これを補完実直線 $($extended real line$)$ といい $\overline{\R}$ で表します補完数直線と呼ぶのが普通のようですが、ここではあえて英語のreal lineを強調して補完実直線と呼ぶことにします。。順序は任意の $a\in \R$ に対して $-\infty < a < +\infty$ となるように拡張しておきます。$(-\infty) + (+\infty)$ や $(+\infty)\cdot 0$ などの不定形と呼ばれる一部の組み合わせを除いて和や積も常識的に拡張して考えます不定形についてはその場の状況に応じた適当な値で定義されることがあります。。具体的には符号同順で
です。
実数体の任意の部分集合 $A$ は補完実直線 $\overline{\R}$ の中では常に上限 $\sup A$ と下限 $\inf A$ を持ち、この取り決めのもとで $\sup, \inf$ は写像\[\sup, \inf : 2^{\R}\to \overline{\R}\]と考えることができるのでそうします。例えば、$\R$ の空でない有界集合の上限と下限は連続性公理 $($公理1.5.10$)$ から保証されるもとの $\R$ における上限と下限のままであり、上に非有界な部分集合に対する上限は $+\infty$、下に非有界な部分集合に対する下限は $-\infty$ となります。また、$\sup\varnothing = -\infty$, $\inf\varnothing = +\infty$ です。$1$ つ注意として、実数体 $\R$ の部分集合が有界かどうかはそのまま $\R$ における有界性を指すこととします補完実直線は最大値 $+\infty$ と最小値 $-\infty$ を持つので、$\overline{\R}$ における有界性を考えると常に有界になってしまい意味をなさなくなります。。
数列の極限に関する基本性質として次が分かります。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$, $\{b_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。次が整理する。
(1) $2$ つの実数 $a, a'$ に収束したとします。正実数 $\varepsilon > 0$ を固定したとき、極限の定義よりある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a - a_{n}|, |a' - a_{n}| < \varepsilon\]を満たすので\[|a - a'|\leq |a - a_{N + 1}| + |a_{N + 1} - a'| < 2\varepsilon\]です。よって、$|a - a'| < 2\varepsilon$ が任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して成立するので $a = a'$ です。
また、実数 $a$ に収束する場合に無限大に発散しないことは次の(2)から分かります。正の無限大と負の無限大に同時に発散しないことは簡単。
(2) 数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ が実数 $a$ に収束するとします。極限の定義 $(\varepsilon = 1)$ より、ある非負整数 $N$ が存在して任意の $n > N$ に対して $|a_{n} - a| < 1$ です。よって、$n > N$ においては $a - 1 < a_{n} < a + 1$ を満たします。任意の $n\in \N$ に対して\[a_{n}\leq \max\{a_{0}, \dots, a_{N}, a + 1\},\]\[a_{n}\geq \min\{a_{0}, \dots, a_{N}, a - 1\}\]が成立し、数列は有界です。
各極限値が実数、つまり、収束している場合のみ示します。
(3) $b < a$ として矛盾を導きます。$b < a$ とするとき、ある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - a|, |b_{n} - b| < \dfrac{a - b}{2}\]が成立しますが、これは $n > N$ において\[b_{n} < b + \dfrac{a - b}{2} = \dfrac{a + b}{2} = a - \dfrac{a - b}{2} < a_{n}\]を意味し矛盾です。
(4) $\underset{n\to\infty}{\lim}a_{n} = a$ と $\underset{n\to\infty}{\lim}|b_{n} - a_{n}| = 0$ より、任意に固定した正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - a| < \dfrac{\varepsilon}{2}, \ |b_{n} - a_{n}| < \dfrac{\varepsilon}{2}\]であり、よって、この $N$ について $n > N$ ならば $|b_{n} - a|\leq |b_{n} - a_{n}| + |a_{n} - a| <\varepsilon$ です。これより $\underset{n\to\infty}{\lim}b_{n} = a$ です。
各極限値が実数、つまり、収束している場合のみ示します。
(5) 仮定より、任意に固定した正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - a|, |b_{n} - b| < \dfrac{\varepsilon}{2}\]が成立します。よって、この $N$ に対して $n > N$ ならば $|(a_{n} + b_{n}) - (a + b)| < \varepsilon$ が成立します。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}(a_{n} + b_{n}) = a + b$ です。
(6) (2)より正実数 $M$ であって常に $|a_{n}| < M$ を満たすものを固定しておきます。極限の定義より、任意に固定した正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - a|, |b_{n} - b| < \dfrac{\varepsilon}{2(M + |b|)}\]が成立します。このとき、\[|a_{n}b_{n} - ab|\leq |a_{n}(b_{n} - b)| + |(a_{n} - a)b| = |a_{n}||b_{n} - b| + |b||a_{n} - a| < \varepsilon\]が成立しています。
(7) 仮定より、任意に固定した正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - a| < \min\{\tfrac{1}{2}\varepsilon|a|^{2}, \tfrac{1}{2}|a|\}\]が成立します。よって、この $N$ に対して $n > N$ ならば\[|a_{n}^{-1} - a^{-1}| = \dfrac{|a_{n} - a|}{|a_{n}a|} < \dfrac{\tfrac{1}{2}\varepsilon|a|^{2}}{\tfrac{1}{2}|a|^{2}} = \varepsilon\]が成立します。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}a_{n}^{-1} = a^{-1}$ です。
応用上便利な補題としてはさみうちの原理を紹介しておきます。
(1) 極限の定義より、任意に固定したの正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n > N$ に対して\[|a_{n} - c|, |b_{n} - c| < \varepsilon\]が成立します。仮定より、この $N$ に対して $n > N$ ならば\[c - \varepsilon < a_{n}\leq c_{n}\leq b_{n}\leq c + \varepsilon\]なので $|c_{n} - c| < \varepsilon$ です。
(2) (3) 正負の無限大に発散することの定義から明らか。
さて、ここまでは主に与えられた収束実数列をもとに別の実数列の収束性を導くというタイプの議論をしてきましたが、次は実数列固有の性質から収束性を導く、本質的に連続性公理 $($公理1.5.10$)$ を必要とする性質です。$($ここまで連続性公理を使っていないことには注意。$)$
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。
(1) 上限 $a = \sup\{a_{n}\mid n\in \N\}$ の存在は連続性公理 $($公理1.5.10$)$ より従います。数列がこの $a$ に収束することを示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を固定します。系1.5.6よりある $N\in \N$ に対して $a - \varepsilon < a_{N}\leq a$ です。単調増加性と $a$ が上界であることより、任意の $n > N$ に対して $a - \varepsilon < a_{n}\leq a < a + \varepsilon$、つまり、$|a - a_{n}| < \varepsilon$ が成立するので実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ は $a$ に収束します。
(2) 上に同じ。
非有界な場合も含めて記述すると次です。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。
(1) 上に非有界な場合のみ示せばよいです。まず、実数列が上に非有界であることから $\sup\{a_{n}\mid n\in \N\} = +\infty$ です。極限が $+\infty$ であることを示します。任意に実数 $M\in \R$ を取ります。実数列が上に非有界であることからある非負整数 $N\in \N$ に対して $a_{N} > M$ が成立しますが、この $N$ について実数列の広義単調性より $n > N\Rightarrow a_{n} > M$ が成立します。従って、$\underset{n\to\infty}{\lim}a_{n} = +\infty$ です。以上により示されました。
(2) 上に同じ。
若干補足的ですが、上極限と下極限についても少し整備しておきます。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。
実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ が上に有界な場合には $\sup\{a_{k}\mid k\geq n\}$ は実数として定まっており、上極限は広義単調減少実数列の極限として存在します。もし上に非有界な場合は常に $\sup\{a_{k}\mid k\geq n\} = +\infty$ となってしまいますが、この場合には $\underset{n\to\infty}{\varlimsup}a_{n} = +\infty$ と解釈することにします補完実直線の点列に対する極限を整備することで正当化できます。といっても、実数列の極限の定義 $($定義1.5.13$)$ における実数列を補完実直線の点列で置き換えたものをそのまま極限の定義として採用すればよく、この場合も極限が順序を保つことや単調列の収束性などは実数列の極限のときと同様に成立します。。従って、上極限は常に一意に存在します。下極限についても同様です。
上極限と下極限は次の極限を介さない表示を持ちますなので、こちらを定義として採用することも多いです。さらに、こちらの意味での上極限と下極限が一致することで通常の極限を定義することも可能です。。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。次が成立する。
系1.5.19より分かります。
上極限と下極限に関する基本的な不等式を少しまとめます。
任意の実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ に対して\[\underset{n\to\infty}{\varliminf}a_{n}\leq \underset{n\to\infty}{\varlimsup}a_{n}\]が成立する。
任意の $n\in \N$ に対して $\inf\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq \sup\{a_{k}\mid k\geq n\}$ であることと極限が順序を保つことからよいです。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}, \{b_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とし、常に $a_{n}\leq b_{n}$ が成立しているとする。このとき、次が成立する。
(1) 常に $\sup\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq \sup\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
(2) 常に $\inf\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq \inf\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}, \{b_{n}\}_{n\in\N}$ に対して次が成立する。
もし、常に $a_{n}, b_{n}\geq 0$ ならば次も成立する。ただし、右辺は定義されていることは仮定する。
(1) 常に $\sup\{a_{k} + b_{k}\mid k\geq n\}\leq \sup\{a_{k}\mid k\geq n\} + \sup\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
(2) 常に $\inf\{a_{k} + b_{k}\mid k\geq n\}\geq \inf\{a_{k}\mid k\geq n\} + \inf\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
(3) 常に $\sup\{a_{k}b_{k}\mid k\geq n\}\leq \sup\{a_{k}\mid k\geq n\}\cdot \sup\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
(4) 常に $\inf\{a_{k}b_{k}\mid k\geq n\}\geq \inf\{a_{k}\mid k\geq n\}\cdot \inf\{b_{k}\mid k\geq n\}$ であるため。
通常の極限との関係として次を示しておきます。
$\{a_{n}\}_{n\in\N}$ を実数列とする。$a\in \overline{\R}$ に対して次は同値である。
$a\in \R$ の場合のみ示します。
(1) ⇒ (2) 正実数 $\varepsilon > 0$ を固定します。ある非負整数 $N$ が存在して任意の $n > N$ に対して $a - \varepsilon < a_{n} < a + \varepsilon$ であり、\[a - \varepsilon\leq \inf\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq \sup\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq a + \varepsilon\]です。よって、上極限も下極限も $a$ になります。
(2) ⇒ (1) 任意の $n\in \N$ に対して\[\inf\{a_{k}\mid k\geq n\}\leq a_{n}\leq \sup\{a_{k}\mid k\geq n\}\]なので、はさみうちの原理 $($系1.5.17$)$ から極限の存在およびその値が $a$ に等しいことが従います。
実数体の完備性と呼ばれる性質を示します。
実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ がCauchy列であるとは、任意の正の実数 $\varepsilon > 0$ に対してある非負整数 $N\in \N$ が存在し、任意の非負整数 $n, m > N$ に対して\[|a_{n} - a_{m}| < \varepsilon\]を満たすことと定める。
Cauchy列の有界性はもう明らかでしょう。次が実数体の完備性と呼ばれる性質です。
任意のCauchy列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ はある実数 $a$ に収束する。
Cauchy列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ の有界性から上極限と下極限がそれぞれ実数値 $u, l$ に収束しますが、これが一致することを示せば命題1.5.25より実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ が $u = l$ に収束することが分かります。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。ある非負整数 $N$ が存在し、任意の $n, k > N$ に対して $|a_{n} - a_{k}| < \varepsilon$ が成立します。よって、$n > N$ において\begin{eqnarray*}0 & \leq & \sup\{a_{k}\mid k\geq n\}- \inf\{a_{k}\mid k\geq n\} \\& = & (a_{n} + \sup\{a_{k} - a_{n}\mid k\geq n\}) - (a_{n} + \inf\{a_{k} - a_{n}\mid k\geq n\}) \\& = & \sup\{a_{k} - a_{n}\mid k\geq n\} - \inf\{a_{k} - a_{n}\mid k\geq n\} \leq 2\varepsilon\end{eqnarray*}であり、命題1.5.16より $u = l$ です。
Archimedesの原理というものを示しておきます。これから非負整数列 $\{a_{n} := n\}_{n\in\N}$ が正の無限大に発散すること $($特に、上に有界ではないこと$)$ などが従います。
任意の正実数 $a, b > 0$ に対し、ある非負整数 $n\in \N$ が存在して $b < na$ を満たす。
背理法により示します。任意の非負整数 $n\in \N$ に対して $na\leq b$ であったとします。集合 $A := \{na\mid n\in \N\}$ は $b$ を上界に持ち有界なので、連続性公理 $($公理1.5.10$)$ より上限 $s := \sup A$ を持ちます。系1.5.6と $a > 0$ より $x\in A$ であって $s - a < x \leq s$ を満たすものが取れます。非負整数 $n$ であって $x = na$ となるものを取れば、$s < x + a = (n + 1)a\in A$ であり、これは $s$ が $A$ の上界であることに矛盾です。よって、ある非負整数 $n$ が存在して $b < na$ となります。
(1) 正実数 $M$ を取ります。Archimedesの原理 $($命題1.5.28$)$ から非負整数 $N$ であって $N = N\cdot 1 > M$ となるものを取ることができ、この $N$ について任意の $n > N$ に対して $n > M$ が満たされます。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}n = +\infty$ です。
(2) 任意の正の実数 $\varepsilon > 0$ に対して $N > \varepsilon^{-1}$ を満たす非負整数 $N$ を取ることができ、$n > N$ ならば\[|n^{-1} - 0| = n^{-1} < N^{-1} < \varepsilon\]です。よって、$\underset{n\to\infty}{\lim}n^{-1} = 0$ です。
(3) 非負整数 $N$ を $N(|a|^{-1} - 1) > 2(|a|^{-1} - 1)^{-1}$ を満たすように取ります。このとき、\[|a|^{-N} = (1 + (|a|^{-1} - 1))^{N} > 1 + N(|a|^{-1} - 1) > 1 + 2(|a|^{-1} - 1)^{-1}\]です。よって、\[|a|^{-N}(|a|^{-1} - 1) > (1 + 2(|a|^{-1} - 1)^{-1})(|a|^{-1} - 1) > 2\]であり、任意の正整数 $n\in \N_{+}$ に対して $|a|^{-(N + n)} - |a|^{-N} > 2n$ となるので、$n > 2N$ において $|a|^{-n} > 2(n - N) > n$ です。$-n^{-1} < a^{-n} < n^{-1}$ とはさみうちの原理 $($系1.5.17$)$ より $\underset{n\to\infty}{\lim}a^{n} = 0$ です。
任意の実数 $a < b\in \R$ に対してある有理数 $r\in \Q$ であって $a < r < b$ を満たすものが存在する。
Archimedesの原理 $($命題1.5.28$)$ から $n(b - a) > 1$ となる非負整数 $n$ を取り、同じくArchimedesの原理から非負整数 $m$ を $m = m\cdot 1 > |na|$ となるように取ります。$na + m > 0$ であり、集合 $\{k\in \N\mid k \leq na + m\}$ は少なくとも $0$ を元に持つ有限集合になるのでその最大値 $l$ を取ることができます。このとき、\[l\leq na + m < l + 1\leq na + m + 1 < nb + m\]であり、整理して $a < \tfrac{l - m + 1}{n} < b$ です。
有界な実数列に対して収束する部分列が取れることも重要です。
実数列 $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ が有界ならば、その部分列 $\{a_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ であってある実数 $a$ に収束するものが存在する。
任意の $n\in \N$ に対して $m\leq a_{n}\leq M$ となるように実数 $m, M$ を取っておきます。次のように実数列 $\{b_{k}\}_{k\in\N}$, $\{c_{k}\}_{k\in\N}$ を構成します。
簡単に分かるように、$\{b_{k}\}_{k\in\N}$ は広義単調増加かつ上に有界、 $\{c_{k}\}_{k\in\N}$ は広義単調減少かつ下に有界、従って、定理1.5.18よりそれぞれ実数 $b, c$ に収束しますが、常に $c_{k} - b_{k} = 2^{-k}(M - m)$ であることから命題1.5.16より $b = c$ が分かります。さて、$b_{k}, c_{k}$ の構成から $b_{k}\leq a_{n}\leq c_{k}$ を満たす $n\in \N$ は無限に存在するので、常に $b_{k}\leq a_{n_{k}}\leq c_{k}$ を満たすように狭義単調増加な非負整数列 $\{n_{k}\}_{k\in\N}$ が構成でき、これにより収束部分列 $\{a_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ が構成されます。実際に、これははさみうちの原理 $($系1.5.17$)$ より $b = c$ に収束します。
ついでに複素数体と四元数体を導入しておきます。
$\R^{2} = \R\times \R$ に以下の要領で和と積を定めたものを複素数体といい通常 $\C$ と表す。
複素数 $z = (a, b)\in \C$ に対してその共役 $\overline{z}$ を\[\overline{z} := (a, -b)\]により定め、絶対値 $|z|$ を\[|z| := \sqrt{a^{2} + b^{2}}\]により定める。
通常は $(a, b)\in \C$ を $a + bi$ や $a + \sqrt{-1}b$ と表しますが、この表記における複素数どうしの積は
という演算規則に従って計算していることに他なりません。複素数の共役・絶対値に関する基本性質として次が成立します。
(1) 共役の定義から自明です。
(2) 計算すればよいです。
(3) 計算すればよいです。$z = a + bi$ に対して\[z\overline{z} = (a^{2} + b^{2}) + (- ab + ab)i = a^{2} + b^{2} = |z|^{2}\]であり、$\overline{z}z = |z|^{2}$ も同様です。
(4) 明らかです。
(5) 計算すればよいです。$z = (a_{1}, b_{1})$, $w = (a_{2}, b_{2})$ に対して\begin{eqnarray*}|zw|^{2} & = & (a_{1}a_{2} - b_{1}b_{2})^{2} + (a_{1}b_{2} + a_{2}b_{1})^{2} \\& = & a_{1}^{2}a_{2}^{2} + b_{1}^{2}b_{2}^{2} - 2a_{1}a_{2}b_{1}b_{2} + a_{1}^{2} b_{2}^{2} + a_{2}^{2}b_{1}^{2} + 2a_{1}a_{2}b_{1}b_{2}\\& = & (a_{1}^{2} + b_{1}^{2})(a_{2}^{2} + b_{2}^{2}) \\& = & |z|^{2}|w|^{2}\end{eqnarray*}です。
複素数体は公理1.5.2の $\R$ を $\C$ で置き換えた性質を全て満たしており、その名の通り体になっています。
$\R^{4} = \overbrace{\R\times \cdots \times\R}^{4}$ に以下の要領で和と積を定めたものを四元数体といい通常 $\mathbb{H}$ と表す。
四元数 $p = (a, b, c, d)\in \mathbb{H}$ に対してその共役 $\overline{p}$ を\[\overline{p} := (a, -b, -c, -d)\]により定め、絶対値 $|p|$ を\[|p| := \sqrt{a^{2} + b^{2} + c^{2} + d^{2}}\]により定める。
通常は $(a, b, c, d)\in \mathbb{H}$ を $a + bi + cj + dk$ と表しますが、この表記における四元数どうしの積は
という演算規則に従って計算していることに他なりません。四元数の共役・絶対値に関する基本性質として次が成立します。
(1) 共役の定義から自明です。
(2) 計算すればよいです。
(3) 計算すればよいです。$p = a + bi + cj + dk$ に対して\begin{eqnarray*}p\overline{p} & = & (a^{2} + b^{2} + c^{2} + d^{2}) + (- ab + ab - cd + cd)i \\&& + (- ac + ac + bd - bd)j + (- ad + ad - bc + bc)k \\& = & a^{2} + b^{2} + c^{2} + d^{2} = |p|^{2}\end{eqnarray*}であり、$\overline{p}p = |p|^{2}$ も同様です。
(4) 明らかです。
(5) 頑張って計算すればよいです。$p = (a_{1}, b_{1}, c_{1}, d_{1})$, $q = (a_{2}, b_{2}, c_{2}, d_{2})$ に対して\begin{eqnarray*}|pq|^{2} & = & (a_{1}a_{2} - b_{1}b_{2} - c_{1}c_{2} - d_{1}d_{2})^{2} + (a_{1}b_{2} + a_{2}b_{1} + c_{1}d_{2} - c_{2}d_{1})^{2} \\&& + (a_{1}c_{2} + a_{2}c_{1} - b_{1}d_{2} + b_{2}d_{1})^{2} + (a_{1}d_{2} + a_{2}d_{1} + b_{1}c_{2} - b_{2}c_{1})^{2} \\& = & a_{1}^{2}a_{2}^{2} + b_{1}^{2}b_{2}^{2} + c_{1}^{2}c_{2}^{2} + d_{1}^{2}d_{2}^{2} \\&& {} - 2a_{1}a_{2}b_{1}b_{2} - 2a_{1}a_{2}c_{1}c_{2} - 2a_{1}a_{2}d_{1}d_{2} + 2b_{1}b_{2}c_{1}c_{2} + 2b_{1}b_{2}d_{1}d_{2} + 2c_{1}c_{2}d_{1}d_{2} \\& + & a_{1}^{2}b_{2}^{2} + a_{2}^{2}b_{1}^{2} + c_{1}^{2}d_{2}^{2} + c_{2}^{2}d_{1}^{2} \\&& {} + 2a_{1}a_{2}b_{1}b_{2} - 2c_{1}c_{2}d_{1}d_{2} + 2a_{1}b_{2}c_{1}d_{2} - 2a_{1}b_{2}c_{2}d_{1} + 2a_{2}b_{1}c_{1}d_{2} - 2a_{2}b_{1}c_{2}d_{1} \\& + & a_{1}^{2}c_{2}^{2} + a_{2}^{2}c_{1}^{2} + b_{1}^{2}d_{2}^{2} + b_{2}^{2}d_{1}^{2} \\&& {} + 2a_{1}a_{2}c_{1}c_{2} - 2b_{1}b_{2}d_{1}d_{2} - 2a_{1}b_{1}c_{2}d_{2} + 2a_{1}b_{2}c_{2}d_{1} - 2a_{2}b_{1}c_{1}d_{2} + 2a_{2}b_{2}c_{1}d_{1} \\& + & a_{1}^{2}c_{2}^{2} + a_{2}^{2}c_{1}^{2} + b_{1}^{2}d_{2}^{2} + b_{2}^{2}d_{1}^{2} \\&& {} + 2a_{1}a_{2}d_{1}d_{2} - 2b_{1}b_{2}c_{1}c_{2} + 2a_{1}b_{1}c_{2}d_{2} - 2a_{1}b_{2}c_{1}d_{2} + 2a_{2}b_{1}c_{2}d_{1} - 2a_{2}b_{2}c_{1}d_{1} \\& = & a_{1}^{2}a_{2}^{2} + b_{1}^{2}b_{2}^{2} + c_{1}^{2}c_{2}^{2} + d_{1}^{2}d_{2}^{2} + a_{1}^{2}b_{2}^{2} + a_{2}^{2}b_{1}^{2} + c_{1}^{2}d_{2}^{2} + c_{2}^{2}d_{1}^{2} \\&& + a_{1}^{2}c_{2}^{2} + a_{2}^{2}c_{1}^{2} + b_{1}^{2}d_{2}^{2} + b_{2}^{2}d_{1}^{2} + a_{1}^{2}c_{2}^{2} + a_{2}^{2}c_{1}^{2} + b_{1}^{2}d_{2}^{2} + b_{2}^{2}d_{1}^{2} \\& = & (a_{1}^{2} + b_{1}^{2} + c_{1}^{2} + d_{1}^{2})(a_{2}^{2} + b_{2}^{2} + c_{2}^{2} + d_{2}^{2}) \\& = & |p|^{2}|q|^{2}\end{eqnarray*}です。
四元数体は公理1.5.2の $\R$ を $\mathbb{H}$ で置き換えた性質のうちで乗法交換則以外を満たしており、斜体と呼ばれる代数的対象になっています。
以上です。
特になし。
参考文献
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