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数学ノートについて
1.3 二項関係
1.3.1 二項関係

集合 $X$ の元による $2$ 変数の条件 $R(x, y)$ のことを $X$ 上の二項関係 $($binary relation$)$ もしくは単に関係 $($relation$)$ といいます。これは単に直積 $X\times X$ の各元 $(x, y)$ に対してその真偽があらかじめ決まっているというものです。そして、その真となる組み合わせ全体による集合 $\Gamma_{R} := \{(x, y)\in X\times X\mid R(x, y)\}$ は二項関係 $R$ のグラフと呼ばれます。また、以下では $R(x, y)$ を $xRy$ とも書くことにします。二項関係に関連する用語として重要なものを挙げておきます。

定義1.3.1

$R$ を集合 $X$ 上の二項関係とする。

(1) 任意の $x\in X$ に対して $xRx$ が成立しているとき、$R$ は反射的 $($reflexive$)$ であるという。反射律を満たすともいう。
(2) 任意の $x, y\in X$ に対して $xRy\Rightarrow yRx$ が成立しているとき、$R$ は対称的 $($symmetric$)$ であるという。対称律を満たすともいう。
(3) 任意の $x, y\in X$ に対して $xRy, \ yRx\Rightarrow x = y$ が成立しているとき、$R$ は反対称的 $($antisymmetric$)$ であるという。反対称律を満たすともいう。
(4) 任意の $x, y, z\in X$ に対して $xRy, \ yRz\Rightarrow xRz$ が成立しているとき、$R$ は推移的 $($transitive$)$ であるという。推移律を満たすともいう。
(5) $x, y\in X$ に対して $xRy\vee \ yRx$ が成立しているとき、$x$ と $y$ は比較可能であるという。任意の $x, y\in X$ が比較可能であるとき、$R$ は比較可能律を満たすという。

また、集合 $X$ とその上の二項関係 $R$ が与えられた場合、部分集合 $A$ には $R$ の制限として二項関係 $R_{A}$ が\[xR_{A}y :\Leftrightarrow xRy\]により定義されます。上記で紹介した反射律や推移律などはもし $R$ で成立していればその制限 $R_{A}$ でも成立しています。

以下では二項関係として基本的な同値関係と順序関係について紹介していきます。

1.3.2 同値関係
同値関係と商集合

集合 $X$ とその上の関係 $R$ が与えられたとします。$R$ が反射律、対称律、推移律の $3$ つ全てを満たす、つまり、

任意の $x\in X$ に対して $xRx$ が成立し、
任意の $x, y\in X$ に対して $xRy\Rightarrow yRx$ が成立し、
任意の $x, y, z\in X$ に対して $xRy, \ yRz\Rightarrow xRz$ が成立する

とき、これを $X$ 上の同値関係 $($equivalence relation$)$ と呼びます。

例えば、整数集合 $\Z$ 上の関係 $R$ を各 $(x, y)\in \Z\times \Z$ に対して $x, y$ それぞれを $2$ で割った余りが等しい場合に真として定義すれば同値関係になります。

同値関係 $xRy$ のことは通常 $x\sim y$, $x\simeq y$, $x\cong y$, $x\equiv y$ などを状況に応じて書き分けて表し、この関係が成立するとき $x$ と $y$ は同値であるといいます。

$X$ 上の同値関係 $\sim$ が与えられたとき、各 $x\in X$ に対してそれと同値な $X$ の元全体からなる集合\[\{y\in X\mid y\sim x\}\]のことを $[x]$ や $\bar{x}$ で表し、同値関係 $\sim$ に関する $x$ の代表する同値類 $($equivalent class$)$ と呼びます。また、$X$ の部分集合 $E$ であって $E = [x]$ となる $x\in X$ が存在するものを同値関係 $\sim$ に関する同値類といい、同値類 $E$ に対してそのような $x\in X$ を取ることを同値類 $E$ の代表元 $x$ を取るなどといいます。容易に分かる性質として次があります。

命題1.3.2

$\sim$ を集合 $X$ 上の同値関係とする。次が成立する。

(1) 任意の $x\in X$ に対して $x\in [x]$.
(2) 任意の $x, y\in X$ に対して $x\sim y\Leftrightarrow [x] = [y]$.
(3) 任意の $x, y\in X$ に対して $[x] \neq [y]\Leftrightarrow [x]\cap [y] = \varnothing$.
(4) 同値類 $E$ に対し、任意の $E$ の元はその代表元として取ることができ、また、$E$ の代表元は $E$ の元に限る。
(5) 同値関係 $\sim$ に関する同値類全体からなる集合族 $\mathcal{E} := \{[x]\mid x\in X\}$ は $X$ の直和分解を与える念のため、$\mathcal{E}$ において同じ部分集合の重複は除いて考えます。。つまり、\[X = \bigsqcup_{E\in \mathcal{E}}E\]を満たす。この直和分解のことは同値類別や単に類別と呼ばれる。
(6) 同値関係 $\sim$ に関する各同値類 $E\in \mathcal{E}$ に対してその代表元 $x_{E}\in X$ を固定することで族 $\{x_{E}\}_{E\in \mathcal{E}}$ を構成すれば\[X = \bigsqcup_{E\in \mathcal{E}}[x_{E}]\]が成立する。このような族 $\{x_{E}\}_{E\in \mathcal{E}}$ を完全代表系と呼ぶ。また、添字を忘れて得られる集合 $\{x_{E}\mid E\in \mathcal{E}\}$ のことも完全代表系と呼ぶ。
証明

(1) 任意の $x\in X$ に対して $x\sim x$ から $x\in [x]$ です。

(2) まず、左から右を示します。$z\in [x]$ とします。$z\sim x$ ですが仮定の $x\sim y$ より $z\sim y$ であるので $z\in [y]$ です。よって、$[x]\subset [y]$ です。逆向きの $[y]\subset [x]$ も $y\sim x$ から全く同様に示されるので $[x] = [y]$ です。

右から左は $[x] = [y]$ とすると(1)から $x\in [x] = [y]$ であるので、$[y]$ の定義より $x\sim y$ が分かります。

(3) 左から右を対偶より示します。$[x]\cap [y]\neq \varnothing$ とします。$z\in [x]\cap [y]$ が取れるので、定義より $z\sim x$ と $z\sim y$ が分かり $x\sim y$ なので(2)より $[x] = [y]$ です。

右から左も対偶より示します。$[x] = [y]$ とします。(1)より $x\in [x]$ であり、$[x] = [y]$ より $x\in [y]$ でもあるので $x\in [x]\cap [y]$ が分かります。よって、$[x]\cap [y]\neq \varnothing$ です。

(4) $E = [x]$ となる $x\in X$ を固定しておきます。任意の $y\in E$ に対して $y\sim x$ から $[y] = [x]$ なので $y$ も $E$ の代表元として取れます。あとは $E = [y]$ となる $y\in E$ に対して $y\in E$ であることを示せばよいですが、これは(1)から明らかです。

(5) まず、任意の $x\in X$ に対して $x\in [x]\in \mathcal{E}$ から $x\in \bigcup_{E\in\mathcal{E}}E$ であり、$\bigcup_{E\in\mathcal{E}}E = X$ が従います。あとは $E, E'\in \mathcal{E}$ に対して $E\neq E'$ ならば $E\cap E' = \varnothing$ であることを示せばよいですが、これはそれぞれの代表元を取って(3)を適用すれば分かります。

(6) 明らかです。

この命題における同値類全体からなる集合 $\mathcal{E}$ を通常 $X/{\sim}$ と書き、同値関係 $\sim$ による商集合 $($quotient set$)$ と呼びます。各 $x\in X$ に対してその代表する同値類を対応させる写像 $X\to X/{\sim} : x\mapsto [x]$ は射影といいます。射影は全射であり、その切断 $s : X/{\sim}\to X$ の像は完全代表系を与えます。

二項関係の生成する同値関係

集合 $X$ 上の二項関係 $R$ が与えられたとき、任意の $x, x'\in X$ に対して $xRx'\Rightarrow x\sim x'$ を満たす同値関係 $\sim$ 全体 $\mathcal{S}$ を考え、それらの「共通部分」として同値関係 $\sim_{R}$ を\[x\sim_{R} x' :\Leftrightarrow {}^{\forall}{\sim}\in \mathcal{S}, \ x\sim x'\]により定義できます。これを関係 $R$ の生成する同値関係といいます。実際に同値関係であること $($反射律・対称律・推移律を満たすこと$)$ は各 ${\sim}\in \mathcal{S}$ が同値関係であることから明らかでしょう。

基本性質も示しておきます。

命題1.3.3

(1) $x, x'\in X$ に対し、$xRx'\Rightarrow x\sim_{R}x', \ x'\sim_{R}x$ が成立する。
(2) $R$ が同値関係ならば $\sim_{R}$ は $R$ に等しい。
証明

(1) $x, x'\in X$ は $xRx'$ を満たすとします。同値関係の集合 $\mathcal{S}$ の定め方から任意の ${\sim}\in\mathcal{S}$ に対して $x\sim x'$ です。よって、$x\sim_{R}x'$ です。また、$\sim_{R}$ が同値関係なので $x'\sim_{R} x$ も成立します。

(2) まず、明らかに $R\in \mathcal{S}$ です。よって、任意の $x, x'\in X$ に対して $x\sim_{R}x'\Rightarrow xRx'$ です。逆向きの $xRx'\Rightarrow x\sim_{R}x'$ は(1)から分かります。よって、$R$ と $\sim_{R}$ は等しいです。

次は生成する同値関係の別の構成法を与えます。

命題1.3.4

$R$ を集合 $X$ 上の二項関係とし、$\sim_{R}$ をその生成する同値関係とする。$X$ 上の別の二項関係 $\sim$ を各 $x, x'\in X$ に対して以下の条件を満たすときに $x\sim x'$ であるとして定める。

$X$ の元の有限列 $x_{0}, \dots, x_{n}\in X$ であって $x_{0} = x$ かつ $x_{n} = x'$ を満たし、さらに、任意の $0\leq k\leq n - 1$ に対して $x_{k} = x_{k + 1}$, $x_{k}Rx_{k + 1}$, $x_{k + 1}Rx_{k}$ のうちのいずれかが成立しているものが存在する$x_{k} = x_{k + 1}$ のパターンは無くても大丈夫ですが、気分で入れています。

このとき、$\sim$ は $\sim_{R}$ に一致する。

証明

まずは二項関係 $\sim$ が同値関係になっていることの確認ですが、推移律以外は明らかなのでそれのみ示します。$x\sim x'$, $x'\sim x''$ とします。$\sim$ の定義により列 $x = x_{0}, x_{1}, \dots, x_{n} = x'$ と $x' = y_{0}, y_{1}, \dots, y_{m} = x''$ を取ります。列 $z_{0}, \dots, z_{n + m}$ を\[z_{k} = \left\{\begin{array}{ll}x_{k} & (0\leq k\leq n) \\y_{k - n} & (n\leq k\leq n + m)\end{array}\right.\]により定めれば、この列から $x\sim x''$ が従います。よって、$\sim$ は同値関係です。

任意の $x, x'$ に対して $xRx'$ ならば $x\sim x'$ であることは明らかなので $x\sim_{R} x'\Rightarrow x\sim x'$ です。逆に $x\sim x'$ であるとき、$\sim$ の定義から列 $x = x_{0}, x_{1}, \dots, x_{n} = x'$ を取れば\[x = x_{0}\sim_{R} x_{1}\sim_{R}\cdots \sim_{R} x_{n} = x'\]なので $x\sim_{R} x'$ です。よって、$\sim$ は $\sim_{R}$ に一致します。

誘導写像

集合 $X$ とその上の同値関係 $\sim$ が与えられているとします。集合 $Z$ への写像 $g : X\to Z$ が与えられ、任意の $x, x'\in X$ に対して $x\sim x'\Rightarrow g(x) = g(x')$ を満たしているとします。このとき、商集合からの写像 $h : X/{\sim}\to Z$ であって任意の $x\in X$ に対して $h([x]) = g(x)$ を満たすもの、つまり、$\pi : X\to X/{\sim}$ を射影として $g = h\circ \pi$ を満たすものが一意に存在します。

存在について、これは $g$ に課した仮定から各同値類 $E$ の像は $Z$ の $1$ 点 $z_{E}$ からなる集合であり、この $z_{E}$ を対応させるように取った写像\[h : X/{\sim}\to Z : E\mapsto z_{E}\]が常に $h([x]) = g(x)$ を満たすのでよく、一意性については射影 $\pi$ の全射性からただちに従います$h, h'$ を条件を満たす写像とするとき、$h\circ \pi = g = h'\circ \pi$ ですが、ここで $\pi$ の全射性から $h = h'$ が従います $($命題1.2.7$)$。。この写像 $h$ を $g$ から誘導される写像や単に誘導写像 $($induced map$)$ といいます。

また、与えられた写像 $g : X\to Z$ から $h([x]) = g(x)$ という表示を持つように写像 $h : X/{\sim}\to Z$ を定義したいことが度々あるのですが、このとき注意が必要なのは $h$ が確かに写像として意味を持っているか確認することで、もちろんさっきの常に $x\sim x'\Rightarrow g(x) = g(x')$ という条件$g$ による行き先 $g(x)$ が $($同値類ごと$)$ 代表元の取り方によらず一意であること、というような言い回しもされます。を満たしていればよいのですが、もしこれが成立しないとすると、ある同値類 $E$ のある代表元 $x, x'$ に対して $g(x)\neq g(x')$ であり、$h$ が $E$ に $g(x), g(x')$ のどちらが対応させるか不確かな状態になり $h$ は写像になりません。実際に $h$ が写像として意味を持つことが確認できたとき、よく写像 $h$ はwell-definedであるといいます。

商集合の普遍性

関係 $R$ から生成した同値関係 $\sim_{R}$ による商集合 $X/{\sim_{R}}$ は次の意味での普遍性を持ちます。

命題1.3.5
(商集合の普遍性)

$X$ を集合、$R$ をその上の関係、$\sim_{R}$ を関係 $R$ の生成する同値関係とし、$\pi : X\to X/{\sim_{R}}$ を射影とする。そして、写像 $g : X\to Z$ であって常に $xRx'\Rightarrow g(x) = g(x')$ を満たすものが与えられているとする。このとき、写像 $h : X/{\sim_{R}}\to Z$ であって $g = h\circ \pi$ を満たすものが一意に存在する。

証明

$x\sim_{R}x'$ である $x, x'\in X$ に対して $g(x) = g(x')$ を示せば $g = h\circ \pi$ を満たす写像 $h$ の存在が従います。命題1.3.4より $X$ の元の列 $x = x_{0}, x_{1}, \dots, x_{n} = x'$ であって各 $0\leq k < n$ に対して $x_{k} = x_{k + 1}$, $x_{k}Rx_{k + 1}$, $x_{k + 1}Rx_{k}$ のいずれかが成立するものを取ることができ、いずれの場合についても $g(x_{k}) = g(x_{k + 1})$ であることから\[g(x) = g(x_{0}) = g(x_{1}) = \cdots = g(x_{n}) = g(x')\]です。一意性は射影 $\pi$ の全射性から従います。

補足1.3.6
(商集合の普遍性による定義)

ここでは同値類全体からなる集合という具体的に構成した集合を商集合として定義していますが、それと本質的に同じ定義として、商集合を集合 $Y$ と写像 $\tau : X\to Y$ の対 $(Y, \tau)$ であって以下の条件を満たすものと考えるものがあります。

(i) 任意の写像 $g : X\to Z$ に対し、$xRx'\Rightarrow g(x) = g(x')$ が常に成立するならば $g = h\circ \tau$ を満たす写像 $h : Y\to Z$ が一意に存在する。
(ii) 任意の $x, x'\in X$ に対して $xRx'\Rightarrow \tau(x) = \tau(x')$ が成立する。

少し整理すると、集合 $Z$ と写像 $g : X\to Z$ の対 $(Z, g)$ であって常に $xRx'\Rightarrow g(x) = g(x')$ を満たしているもの全体を $\mathcal{A}$ とおくとして、条件(i), (ii)を満たす対 $(Y, \tau)$ とは、それ自身が $\mathcal{A}$ の対象であって、$\mathcal{A}$ のどの対象 $(Z, g)$ に対しても $g = h\circ \tau$ を満たす写像 $h : Y\to Z$ が一意に取れるという特別な性質をもつものです。この性質は普遍性 $($universality$)$ と呼ばれ、この普遍性を持つ対 $(Y, \tau)$ は普遍要素 $($universal element$)$ と呼ばれます。命題1.3.5は対 $(X/{\sim_{R}}, \pi)$ が普遍要素であること、特に普遍要素が存在することを意味しています。固定した集合 $Z$ に対して常に $xRx'\Rightarrow g(x) = g(x')$ を満たす写像 $g : X\to Z$ 全体からなる集合を $\Map_{R}(X, Z)$ で表すとすると、任意の集合 $Z$ に対して写像\[\begin{array}{ccc}\Map_{R}(X, Z) & \rightleftarrows & \Map(Y, Z) \\g & \mapsto & (\tau(x)\mapsto g(x)) \\h\circ \tau & \mapsfrom & h\end{array}\]が互いに逆写像になることにも注意します。ちなみに、普遍性は圏論と呼ばれる分野の言葉を用いて整備される一般的な概念であり、ここで現れる普遍性はその一例になります。

さてここで $1$ つ重要なのは、$2$ つの普遍要素 $(Y, \tau), (Y', \tau)$ が与えられると、それぞれの持つ普遍性よりその間に両方向の写像 $Y\overset{\varphi}{\underset{\psi}{\rightleftarrows}} Y'$ であって $\tau' = \varphi\circ \tau$, $\tau = \psi\circ \tau'$ を満たすものが一意に得られ、これらが互いに可逆であることです。実際、\[\Id_{Y}\circ \tau = \tau = \varphi\circ \tau' = (\varphi\circ \psi)\circ \tau,\]\[\Id_{Y'}\circ \tau' = \tau' = \psi\circ \tau = (\psi\circ \varphi)\circ \tau'\]と誘導写像の一意性から $\varphi\circ \psi = \Id_{Y}$, $\psi\circ \varphi = \Id_{Y'}$ が従います。よって、対 $(X/{\sim_{R}}, \pi)$ を含む普遍要素たちは互いに誘導する全単射によって同一視 $($補足1.3.24も参照$)$ されることになります。

補足1.3.7
(直和と直積の普遍性)

ついでに、集合の直和と直積が普遍性を持つことを書いておきます。$\{X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を集合族とします。

(a) 直和 $Y := \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ とそこへの包含写像の族 $\{i_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y\}_{\lambda\in\Lambda}$ の対 $(Y, \{i_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda})$ は次の普遍性を持ちます。
任意の集合 $Z$ と写像の族 $\{g_{\lambda} : X_{\lambda}\to Z\}_{\lambda\in\Lambda}$ の対 $(Z, \{g_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda})$ に対し、写像 $h : Y\to Z$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $g_{\lambda} = h\circ i_{\lambda}$ を満たすものが一意に存在する。
この普遍性より一意に得られる写像 $h$ を $\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}g_{\lambda}$ で表すとすれば具体的には、直和 $\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ からの写像であって各 $X_{\lambda}$ への制限が $g_{\lambda}$ であるものです。、写像\[\prod_{\lambda\in\Lambda}\Map(X_{\lambda}, Z)\to \Map\left(\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}, Z\right) : \{g_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\mapsto \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}g_{\lambda}\]は全単射です。
(b) 直積 $Y := \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ とそこからの射影の族 $\{\pr_{\lambda} : Y\to X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の対 $(Y, \{\pr_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda})$ は次の普遍性を持ちます。
任意の集合 $Z$ と写像の族 $\{g_{\lambda} : Z\to X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の対 $(Z, \{g_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda})$ に対し、写像 $h : Z\to Y$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $g_{\lambda} = \pr_{\lambda}\circ h$ を満たすものが一意に存在する。
この普遍性より一意に得られる写像 $h$ を $(g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ で表すとすれば具体的には、直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ への写像であって各 $\lambda$ 成分が $g_{\lambda}$ であるものです。、写像\[\prod_{\lambda\in\Lambda}\Map(Z, X_{\lambda})\to \Map\left(Z, \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\right) : \{g_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\mapsto (g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\]は全単射です。
1.3.3 順序関係
半順序・全順序

集合 $X$ とその上の関係 $R$ が与えられたとします。$R$ が反射律、反対称律、推移律の $3$ つ全てを満たす、つまり、

任意の $x\in X$ に対して $xRx$ が成立し、
任意の $x, y\in X$ に対して $xRy, \ yRx\Rightarrow x = y$ が成立し、
任意の $x, y, z\in X$ に対して $xRy, \ yRz\Rightarrow xRz$ が成立する

とき、これを $X$ 上の半順序関係 $($partial order relation$)$ や単に半順序、順序といいます。そして、これらに加えて比較可能律を満たす、つまり、

任意の $x, y\in X$ に対して $xRy$ または $yRx$ のいずれかが成立する

とき、これを $X$ 上の全順序関係 $($total order relation$)$ や単に全順序といいます。これら順序を表す記号としては主に $\leq$ や $\preceq$ が用いられ、$x\leq y$ は $y$ は $x$ 以上である、$x$ は $y$ 以下であるなどといいます。$x\leq y$ かつ $x\neq y$ であることを $x < y$ で表し、$y$ は $x$ より大きい、$x$ は $y$ より小さいなどといいます。

順序に関する基本的な事実として次があります。

命題1.3.8

集合 $X$ における半順序 $\leq$ が与えられているとする。このとき、任意の $x, y\in X$ に対して次の $4$ つのうちいずれか $1$ つのみが必ず成立する。

$x = y$.
$x < y$.
$x > y$.
$x$ と $y$ は比較不能である。

もし全順序であれば $4$ つ目は成立しない。

命題1.3.9

集合 $X$ とその上の半順序 $\leq$ が与えられているとする。任意の $x, y, z\in X$ に対して次が成立する。

(1) $x\leq y, \ y\leq z, \ z\leq x\Rightarrow x = y = z$.
(2) $x\leq y, \ y < z\Rightarrow x < z$.
(3) $x < y, \ y\leq z\Rightarrow x < z$.
証明

(1) $x\leq y$, $y\leq z$, $z\leq x$ が成立しているとします。$x\leq y$ と $y\leq z$ より $x\leq z$ であり、これと $z\leq x$ から $x = z$ です。そして、$x\leq y$ と $y\leq z = x$ から $x = y$ も分かり、$x = y = z$ です。

(2) $x\leq z$ は推移律から。$x\neq z$ を示せばよいです。もし $x = z$ とすると $x\leq y$ かつ $y\leq z$ かつ $z\leq x$ であり、(1)から $x = y = z$ となるので $y\neq z$ に矛盾します。よって、$x\neq z$ です。

(3) (2)と同じです。

例1.3.10
(順序の例)

(a) 数の集合 $\N, \Z, \Q, \R$ やその部分集合には通常の大小関係 $\leq$ によって全順序が定まります。
(b) 任意の集合族 $\mathcal{U}$ に対して包含関係は半順序を与えます。一般には全順序とは限らず、例えば、$\mathcal{U}$ が $2$ つ以上の元を持つ集合の冪集合であるときには全順序にはなりません。
(c) 集合 $X$ とその上の半順序 $\leq$ が与えられたとき、その大小関係を反転する半順序 $\preceq$ を $x\preceq y :\Leftrightarrow y\leq x$ により与えることができます。もし $\leq$ が全順序なら $\preceq$ も全順序になります。
順序集合と順序写像

集合 $X$ とその上の順序 $\leq_{X}$ との対 $(X, \leq_{X})$ を順序集合と呼びます。考える順序が全順序であれば全順序集合とも呼びます。対 $(X, \leq_{X})$ は混乱の恐れがなければ単に $X$ で表すこともあります。順序集合 $(X, \leq_{X})$, $(Y, \leq_{Y})$ が与えられたとき、その間の写像 $f : X\to Y$ であって任意の $x_{1}, x_{2}\in X$ に対して\[x_{1}\leq_{X}x_{2}\Rightarrow f(x_{1})\leq_{Y} f(x_{2})\]を満たすものを順序写像や順序を保存する写像などと呼びます。同様に、任意の $x_{1}, x_{2}\in X$ に対して\[x_{1}\leq_{X} x_{2}\Rightarrow f(x_{1})\geq_{Y} f(x_{2})\]を満たすものを順序を反転する写像などといいます。

全順序集合 $(X, \leq_{X})$, $(Y, \leq_{Y})$ の間の写像についてはいくつか特別な用語があり、写像 $f : X\to Y$ であって常に $x_{1} < x_{2}\Rightarrow f(x_{1})\leq f(x_{1})$ を満たすものは広義単調増加$x_{1} = x_{2}$ ならば当然 $f(x_{1})\leq f(x_{2})$ であり、これは単に順序を保存するのと同じことです。、常に $x_{1} < x_{2}\Rightarrow f(x_{1}) < f(x_{1})$ を満たすものは狭義単調増加であるといいます。同様に、広義単調減少と狭義単調減少も定義されます。

次は明らかですがまず重要な事実です。

命題1.3.11
(恒等写像は順序写像)

順序集合 $(X, \leq)$ に対して恒等写像 $\Id_{X}$ は順序写像である。

命題1.3.12
(順序写像どうしの合成は順序写像)

$(X, \leq_{X})$, $(Y, \leq_{Y})$, $(Z, \leq_{Z})$ を順序集合、$f : X\to Y$, $g : Y\to Z$ を順序写像とする。このとき、合成 $g\circ f : X\to Z$ も順序写像である。

証明

$f, g$ が順序写像なので任意の $x_{1}, x_{2}\in X$ に対して $x_{1}\leq x_{2}\Rightarrow f(x_{1})\leq f(x_{2})\Rightarrow g(f(x_{1}))\leq g(f(x_{2}))$ です。

順序集合 $(X, \leq_{X})$, $(Y, \leq_{Y})$ と順序写像 $f : X\to Y$ が与えられているとします。ある順序写像 $g : Y\to X$ であって $g\circ f = \Id_{X}$, $f\circ g = \Id_{Y}$ を満たすものが存在するとき、$f$ は順序同型写像や単に順序同型といいます。順序集合 $(X, \leq_{X})$, $(Y, \leq_{Y})$ の間に順序同型写像が存在するとき、$(X, \leq_{X})$ と $(Y, \leq_{Y})$ は順序同型であるといい $(X, \leq_{X})\cong (Y, \leq_{Y})$ により表します。

順序同型写像に関する性質として次が容易に確かめられます。

命題1.3.13
(順序同型写像の特徴付け)

$X, Y$ を順序集合、$f : X\to Y$ を写像とする。次は同値である。

(1) $f$ は順序同型写像である。
(2) $f$ は全射かつ任意の $x_{1}, x_{2}\in X$ に対して $x_{1}\leq x_{2}\Leftrightarrow f(x_{1})\leq f(x_{2})$ が成立する。
証明

(1) ⇒ (2) 容易です。

(2) ⇒ (1) $f$ が順序写像であること、もし $f$ に逆写像 $f^{-1}$ が存在すればそれも順序写像になることは明らかであり、あとは $f$ の単射性のみ確認すればよいです。$x_{1}, x_{2}\in X$ に対して $f(x_{1}) = f(x_{2})$ が成立していたとします。このとき、仮定から $x_{1}\leq x_{2}$ かつ $x_{2}\leq x_{1}$ であるので $x_{1} = x_{2}$ が従います。つまり、$f$ は単射です。

命題1.3.14
(順序同型写像に関する性質)

$X, Y, Z$ を順序集合とする。次が成立する。

(1) 恒等写像 $\Id_{X}$ は順序同型である。
(2) 順序写像 $f : X\to Y$ が順序同型写像であれば逆写像 $f^{-1}$ が存在して順序同型写像になる。
(3) 順序写像 $f : X\to Y$, $g : X\to Y$ が順序同型写像であれば合成 $g\circ f$ も順序同型写像である。

系として、順序同型による「関係順序集合全体が集合ではないので括弧付きにしておきます。」が反射律、対称律、推移律を満たすことが従います。

系1.3.15
(順序同型に関する性質)

$X, Y, Z$ を順序集合とする。次が成立する。

(1) $X\cong X$.
(2) $X\cong Y\Rightarrow Y\cong X$.
(3) $X\cong Y, \ Y\cong Z\Rightarrow X\cong Z$.
補足1.3.16
(付加構造)

例えば、何かしら $S$ 構造と呼ばれる各集合上で考えられる数学的対象があったとして、以下の状況設定を行います。

(i) 集合 $X$ とその上の $S$ 構造 $\mathcal{S}$ との対 $(X, \mathcal{S})$ を $S$ 集合と呼ぶ。
(ii) $S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$, $(Y, \mathcal{T})$ に対し、写像 $f : X\to Y$ が $S$ 写像であるということが定義されている。そして、$S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$ から $(Y, \mathcal{T})$ への $S$ 写像全体からなる集合は $\Map_{S}((X, \mathcal{S}), (Y, \mathcal{T}))$ で表される。
(iii) 任意の $S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$ に対して $\Id_{X}\in \Map_{S}((X, \mathcal{S}), (X, \mathcal{S}))$ が成立する。
(iv) 任意の $S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$, $(Y, \mathcal{T})$, $(Z, \mathcal{U})$ と $S$ 写像 $f\in \Map_{S}((X, \mathcal{S}), (Y, \mathcal{T}))$, $g\in \Map_{S}((Y, \mathcal{T}), (Z, \mathcal{U}))$ に対して $g\circ f\in \Map_{S}((X, \mathcal{S}), (Z, \mathcal{U}))$ が成立する。

この一般的な状況設定においてある程度共通する注意をまとめておきます。$($ここで導入した順序集合はまさにこの状況設定に則しており、ひとまずは順序集合についての注意と思って問題ないです。$)$

(a) $S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$ は厳密には集合 $X$ とは異なる対象であり、付加構造 $\mathcal{S}$ を忘れた単なる集合 $X$ は台集合と呼ばれます。
(b) 同じ台集合 $X$ 上に複数の $S$ 構造を考えられることがあり、例えば、$\mathcal{S}, \mathcal{S}'$ を $X$ 上の $S$ 構造とするとき $S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$, $(X, \mathcal{S}')$ は同じ対象とは限りません。また、$S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$ から $(Y, \mathcal{T})$ への $S$ 写像 $f : X\to Y$ というのは $X, Y$ に与えた $S$ 構造に依存するため、例えば、$\Id_{X}\notin \Map_{S}((X, \mathcal{S}), (X, \mathcal{S}'))$ となることもあります。$S$ 写像 $f : X\to Y$ について考えている $S$ 構造を明示するため\[f : (X, \mathcal{S})\to (Y, \mathcal{T})\]などで表すことがあります。
(c) 通常は同じ集合上に複数の $S$ 構造を考えるような状況は少なく、$S$ 集合 $(X, \mathcal{S})$ を台集合と同じ記号 $X$ で表してしまっても混乱は少ないのでそうすることが多いです。
(d) $S$ 写像 $f\in \Map_{S}(X, Y)$ が $S$ 同型写像であるということを、$S$ 写像 $g\in \Map_{S}(Y, X)$ であって $g\circ f = \Id_{X}$, $f\circ g = \Id_{Y}$ を満たすものが存在することで定義し、$S$ 集合 $X, Y$ の間に $S$ 同型写像が存在することで $S$ 同型 $X\cong_{S} Y$ を定義するのが普通です。
(e) $S$ 同型による $S$ 集合間の「関係」は系1.3.15のように反射律、対称律、推移律を満たします。よって、$S$ 同型による同値類別を考えることができ、その意味での同値類は同型類と呼ばれます。
(f) 考えている $S$ 構造によっては $S$ 同型写像の定義に別のものを採用することがあり、例えば、群構造 $($3.1.1.2節参照$)$ などの多くの代数構造ではその代数構造に整合する全単射というだけで逆写像が代数構造に整合することが確かめられるため、代数構造に整合する全単射のことを同型写像と定義することがあります。
(g) 以上で考えた $S$ 写像、$S$ 同型写像、$S$ 同型は考える $S$ 構造によって特別な用語が付けられていることがあります。$S$ 同型の記号 $\cong_{S}$ も特別なものを用いることがあります。また、わずらわしさ回避のために各用語から構造名の $S$ を省いて呼び、同型の記号も単に $\cong$ や $\simeq$ などを採用することも多いです。
(h) この(i)から(iv)くらいの設定があると $S$ 集合の圏と呼ぶべきものを考えることができ、圏論の言葉を用いて一般的に整備される結果をフレームワーク的に適用できるようになります。
部分順序集合

順序集合 $(X, \leq_{X})$ と部分集合 $A\subset X$ が与えられたとき、$A$ 上の順序 $\leq_{A}$ を各 $a_{1}, a_{2}\in A$ に対して\[a_{1}\leq_{A} a_{2} :\Leftrightarrow a_{1}\leq_{X} a_{2}\]とすることで定義でき、よって、順序集合 $(A, \leq_{A})$ が構成できます。この $(A, \leq_{A})$ を $(X, \leq_{X})$ の部分順序集合と呼びます。順序 $\leq_{A}$ は制限順序といい、これが全順序ならば全順序部分集合といいます。また、部分順序集合に対して包含写像は必ず順序写像になっています。

最大元・最小元・極大元・極小元

順序集合 $(X, \leq)$ が与えられているとします。$m\in X$ であって任意の $x\in X$ に対して\[x\leq m\]を満たすものを最大元、任意の $x\in X$ に対して\[m\leq x\]を満たすものを $X$ の最小元といいます。また、$m\in X$ であって\[m < x\]となる $x\in X$ を持たない言い換えると、任意の $x\in X$ に対して $x$ と $m$ が比較可能であれば $x\leq m$ が成立するということ。ものを $X$ の極大元、\[x < m\]となる $x\in X$ を持たないものを $X$ の極小元といいます。部分集合 $A\subset X$ に対する最大元や極大元は部分順序集合 $(A, \leq)$ の最大元や極大元として定義します。

例1.3.17

(a) 非負整数集合 $\N$ は通常の順序に関して $0$ を最小元として持ちますが、最大元は持ちません。また $\N$ の任意の空でない部分集合に対しても最小元が存在します適当に取った部分集合の元の大きさに関する数学的帰納法より容易に示されます。
(b) 他の数の集合 $\Z, \Q, \R$ については通常の順序に関して最小元も最大元も持ちません。
(c) $3$ つの元からなる集合 $X := \{a, b, c\}$ の冪集合 $2^{X}$ を考えるとき、その包含関係に関する順序について全体集合 $X$ が最大元、空集合 $\varnothing$ が最小元となります。また、$2^{X}$ から $\varnothing, X$ を除いた部分集合族 $Y := 2^{X}\setminus \{\varnothing, X\}$ は最大元も最小元も持ちませんが、極大元\[\{a, b\}, \{a, c\}, \{b, c\}\]と極小元\[\{a\}, \{b\}, \{c\}\]を持ちます。

一般に次が成立します。

命題1.3.18

順序集合 $X$ に対して次が成立する。

(1) $X$ の最大元、最小元は存在すれば一意。
(2) $X$ における最大元は極大元でもあり、最小元は極小元でもある。
証明

(1) $a, b\in X$ を最大元とします。最大元の定義から $a\leq b$ と $b\leq a$ が従うので $a = b$ です。よって、最大元は存在すれば一意です。最小元についても同様です。

(2) 定義から明らか。

ということで、最大元、最小元に関しては一意性が保証されるのでそれぞれ記号 $\max X$, $\min X$ によって表すとします。

命題1.3.19

$X, Y$ を順序集合、$A$ を $X$ の部分集合、$f : X\to Y$ を順序写像とする。次が成立する。

(1) もし $\max A$ が存在すれば $\max f(A)$ も存在し、$f(\max A) = \max f(A)$ が成立する。
(2) もし $\min A$ が存在すれば $\min f(A)$ も存在し、$f(\min A) = \min f(A)$ が成立する。
証明

(1) $m :=\max A$ とおきます。$b\in f(A)$ とします。$f(a) = b$ を満たす $a\in A$ を取ると $a\leq m$ であり、$f$ が順序を保つことから $b = f(a)\leq f(m)$ です。よって、$f(m) = \max f(A)$ です。

(2) (1)と同じです。

命題1.3.20

$X, Y$ を順序集合、$f : X\to Y$ を順序同型写像とする。$f$ は $X$ の最大元を $Y$ の最大元に移す。最小元、極大元、極小元についても同様。

証明

極大元について示します。他も同様です。$a\in X$ を極大元として $f(a)\in Y$ も極大元であることを示せばよいですが、そのためには $f(a)$ と比較可能な $y\in Y$ に対して $y\leq f(a)$ を示せばよいです。まず、$f(a)$ と $y$ が比較可能であることと $f^{-1}$ が順序写像であることから $a$ と $f^{-1}(y)$ も比較可能です。$a$ は極大元だったので $f^{-1}(y)\leq a$ です。$f$ が順序写像だったので $y\leq f(a)$ です。

上界・下界

順序集合 $(X, \leq)$ と $X$ の部分集合 $A$ が与えられているとします。$x\in X$ であって任意の $a\in A$ に対して\[a \leq x\]を満たすものを $A$ の上界、任意の $a\in A$ に対して\[x \leq a\]を満たすものを $A$ の下界といいます。$A$ の上界全体からなる集合を $U_{X}(A)$ や $U(A)$、下界全体からなる集合を $L_{X}(A)$ や $L(A)$ と書くことにします。もし $U(A)$ が空でなければ $A$ は上に有界、$L(A)$ が空でなければ $A$ は下に有界であるといいます。また、$U(A)$ の最小元が存在すればそれを $A$ の上限や最小上界といって $\sup A$ と書き、$L(A)$ の最大元が存在すればそれを $A$ の下限や最大下界といって $\inf A$ と書きます。

例1.3.21

(a) $\R$ の部分集合 $A := \{\tfrac{1}{n}\mid n\in \N_{+}\}$ に対して $\max A = 1$, $\sup A = 1$, $\inf A = 0$ ですが、最小値 $\min A$ は存在しません。
(b) 集合 $X$ の部分集合族 $\mathcal{A}\subset 2^{X}$ に対して\[\sup \mathcal{A} = \bigcup_{A\in\mathcal{A}}A, \ \inf \mathcal{A} = \bigcap_{A\in\mathcal{A}}A\]が成立します。ただし、冪集合 $2^{X}$ には包含関係より定まる順序を与えています。

次が成立します。

命題1.3.22

$X$ を順序集合、$A, B$ を $X$ の部分集合とする。次が成立する。

(1) $U(A\cup B) = U(A)\cap U(B)$.
(2) $L(A\cup B) = L(A)\cap L(B)$.
(3) $A$ の最大元 $\max A$ が存在すれば上限 $\sup A$ も存在し $\max A = \sup A$ が成立する。
(4) $A$ の最小元 $\min A$ が存在すれば下限 $\inf A$ も存在し $\min A = \inf A$ が成立する。
証明

(1) $u\in U(A\cup B)$ とします。任意の $x\in A\cup B$ に対して $x\leq u$ です。よって、任意の $a\in A$ に対して $a\leq u$ を満たすので $u\in U(A)$ であり、同様に $u\in U(B)$ です。よって、$u\in U(A)\cap U(B)$ です。従って $U(A\cup B)\subset U(A)\cap U(B)$ です。

$u\in U(A)\cap U(B)$ とします。$u\in U(A)$ より任意の $a\in A$ に対して $a\leq u$ であり、また、$u\in U(B)$ より任意の $b\in B$ に対して $b\leq u$ でもあります。よって、任意の $x\in A\cup B$ に対して $x\leq u$ なので $u\in U(A\cup B)$ です。従って $U(A)\cap U(B)\subset U(A\cup B)$ です。

(2) (1)と同じです。

(3) まず、任意の $a\in A$ に対して $a\leq \max A$ なので $\max A\in U(A)$ です。そして、任意の $u\in U(A)$ に対して $\max A\in A$ であることから $\max A\leq u$ なので $\max A = \min U(A) = \sup A$ です。

(4) (3)と同じです。

命題1.3.23

$X, Y$ を順序集合、$A$ を $X$ の部分集合、$f : X\to Y$ を順序同型写像とする。次が成立する。

(1) $f(U_{X}(A)) = U_{Y}(f(A))$.
(2) もし $\sup A$ が存在すれば $\sup f(A)$ も存在し、$f(\sup A) = \sup f(A)$ が成立する。
(3) $f(L_{X}(A)) = L_{Y}(f(A))$.
(4) もし $\inf A$ が存在すれば $\inf f(A)$ も存在し、$f(\inf A) = \inf f(A)$ が成立する。
証明

(1) $v\in f(U_{X}(A))$ とします。$u\in U_{X}(A)$ であって $f(u) = v$ となるものを取っておきます。任意の $b\in f(A)$ に対して $a\in A$ であって $f(a) = b$ となるものを取れば、$a\leq u$ であり、$f$ が順序を保つことから $b = f(a)\leq f(u) = v$ です。よって、$b\in U_{Y}(f(A))$ です。従って、$f(U_{X}(A))\subset U_{Y}(f(A))$ です。

$f^{-1}$ が順序を保つことから同様に $f^{-1}(U_{Y}(f(A)))\subset U_{X}(f^{-1}(f(A))) = U_{X}(A)$ であり、$U_{Y}(f(A))\subset f(U_{X}(A))$ が分かります。よって、$f(U_{X}(A)) = U_{Y}(f(A))$ です。

(2) 順序写像が部分集合の最小元を像の最小元に移すことに注意して、もし上限 $\sup A$ が存在すれば\[f(\sup A) = f(\min U_{X}(A)) = \min f(U_{X}(A)) = \min U_{Y}(f(A)) = \sup f(A)\]です。

補足1.3.24
(同型による同一視)

順序集合の性質について調べるとき、主な関心は順序同型によって保たれる性質、つまり、それぞれ順序同型類の中で共通する性質になります。例えば、命題1.3.20命題1.3.23の結果がまさにそれですまあ、命題1.3.23はもとの順序集合以外に部分集合というデータを使っているので微妙に違うんですが。順序同型で保たれる性質としてうまく解釈するなら、その部分集合を追加の構造と思ってそれも保つという意味での順序同型を考えていると思えばよいです。。一方、順序同型によって保たれない性質例えば、明らかな順序を入れた $\{0, 1\}$ と $\{2, 3\}$ は互いに順序同型ですが、一方のみに $0$ が属しています。つまり、台集合に特定の対象が属しているかというのは順序同型によって保たれません。については関心の外にあるとみなします。そこで、互いに順序同型な順序集合は $($関心のある範囲においては$)$ 同じ性質を持つ本質的に同じ対象としてあまりこだわっての区別はしないことがあります。

このことは順序集合に限らず同じで、特定の付加構造を与えた集合についてもその付加構造に則した同型による同一視がよく行われます。

補足1.3.25
(写像の有界性)

集合 $X$ から順序集合 $Y$ への写像 $f$ が与えられているとします。もしも $f(X)$ が上に有界ならば $f$ は上に有界といい、$f(X)$ が下に有界ならば $f$ は下に有界ということにします。そして、$f(X)$ が有界である場合に $f$ は有界であるということにしますこの定義は終域を通常の順序を与えた実数集合 $\R$ で考えれば一般的に通用しますが、一般の順序集合となるときちんとしたテキストでの用例が見つからなかったので一応ここでの用語という感じの言い方にしておきます。ただ、写像の性質を表す用語を像の性質の用語からそのまま取ることはそれなりによくすることなので、その意味で常識的な定義ではあると思います。また、有界性について、Web上であればDefinition:Bounded Mapping - ProofWikiに書いてあります。(出典が無いけど…)

また、$\max f(X)$ が存在することを $f$ は最大値を持つとか取るといい、$f(a) = \max f(X)$ を満たす $a\in X$ が分かっているとき、$f$ は $a$ において最大値を取るといいます。最小値についても同様です。

1.3.4 集合の帰納極限と射影極限
有向集合

以下では有向集合を添字とする集合の帰納系・射影系の極限を導入します。まず、有向集合を次で定義します。

定義1.3.26
(有向集合)

反射的かつ推移的な二項関係 $\leq$ を与えられた集合 $(\Lambda, \leq)$ であって任意の $2$ つの元に対して上界が存在するものを有向集合 $($directed set$)$ という。

例1.3.27
(有向集合の例)

(a) 非負整数集合 $\N$ や整数集合 $\Z$ に通常の大小関係を考えたものは有向集合です。一般に全順序集合は有向集合です。
(b) 実数体 $\R$ の通常の順序を $\leq$ により表すとして、新たな関係 $\preceq$ を\[x\preceq y\Leftrightarrow |y|\leq |x|\]により定めることで有向集合 $(\R, \preceq)$ が得られます。しかし、$-1\preceq 1$ かつ $1\preceq -1$ から反対称律を満たさないので $\preceq$ は順序関係ではないです。
(c) $2$ 元集合 $\{a, b\}$ に対して $a, b$ が比較可能でないような半順序を与えるとき、$a, b$ に対する上界が存在しないため有向集合にはなりません。
(d) $X$ を位相空間 $($2.1節で導入$)$、$\mathcal{U}_{x}$ をある点 $x\in X$ における開近傍基とします。$\mathcal{U}_{x}$ における関係 $\preceq$ を $U\preceq V\Leftrightarrow V\subset U$ により定めるとき、これは有向集合になります。
集合の帰納系と帰納極限

では、集合の帰納系とその帰納極限を導入します。

定義1.3.28
(集合の帰納系)

有向集合 $\Lambda$ を添字集合にもつ集合族 $\{X_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ と写像の族 $\{f_{\lambda\mu} : X_{\lambda}\to X_{\mu}\}_{\lambda \leq \mu\in \Lambda}$ であって次を条件を満たすものが与えれられているとする。

(i) 任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\lambda} = \Id_{X_{\lambda}}$.
(ii) 任意の $\lambda\leq \mu\leq \nu\in \Lambda$ に対して $f_{\mu\nu}\circ f_{\lambda\mu} = f_{\lambda\nu}$.

これらの対を単に $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ などと書き、集合の帰納系 $($inductive system$)$ という。

補足1.3.29

集合列 $\{X_{n}\}_{n\in\N}$ と写像の列 $\{i_{n} : X_{n}\to X_{n + 1}\}_{n\in\N}$ が与えられたとき、$n\leq m\in \N$ に対して写像 $f_{nm} : X_{n}\to X_{m}$ を\[f_{nm} = \left\{\begin{array}{ll}\Id_{X_{n}} & (n = m) \\i_{m - 1}\circ \cdots\circ i_{n + 1}\circ i_{n} & (n < m)\end{array}\right.\]に取ることで帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\N}$ が定まります。逆に、与えられた帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\N}$ から $i_{n} = f_{n, n + 1}$ とすることで写像の列 $\{i_{n} : X_{n}\to X_{n + 1}\}_{n\in\N}$ を構成することもできます。このことを念頭に、対 $(\{X_{n}\}_{n\in\N}, \{i_{n} : X_{n}\to X_{n + 1}\}_{n\in\N})$ を帰納系として扱うこともあります。

定義1.3.30
(集合の帰納極限)

集合の帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられているとする。直和集合 $\bigsqcup_{\lambda\in \Lambda}X_{\lambda}$ における同値関係 $\sim$ を各 $x_{\lambda}\in X_{\lambda}$ と $x_{\mu}\in X_{\mu}$ に対して\[x_{\lambda}\sim x_{\mu} :\Leftrightarrow {}^{\exists}\nu\in \Lambda \text{ s.t. } f_{\lambda\nu}(x_{\lambda}) = f_{\mu\nu}(x_{\mu})\]とすることで与える反射律と対称律は自明。推移律は $x_{\lambda}\in X_{\lambda}$, $x_{\mu}\in X_{\mu}$, $x_{\nu}\in X_{\nu}$ に対して $x_{\lambda}\sim x_{\mu}$ かつ $x_{\mu}\sim x_{\nu}$ としたとき、$f_{\lambda\xi}(x_{\lambda}) = f_{\mu\xi}(x_{\mu})$ となる $\xi\in \Lambda$ と $f_{\mu\eta}(x_{\mu}) = f_{\nu\eta}(x_{\nu})$ となる $\eta\in \Lambda$ を取り、さらに $\xi, \eta\leq \zeta$ となる $\zeta\in \Lambda$ を取れば\begin{eqnarray*}f_{\lambda\zeta}(x_{\lambda}) = f_{\xi\zeta}(f_{\lambda\xi}(x_{\lambda})) & = & f_{\xi\zeta}(f_{\mu\xi}(x_{\mu})) = f_{\mu\zeta}(x_{\mu}) \\ & = & f_{\eta\zeta}(f_{\mu\eta}(x_{\mu})) = f_{\eta\zeta}(f_{\nu\eta}(x_{\nu})) = f_{\nu\zeta}(x_{\nu})\end{eqnarray*}となるので $x_{\lambda}\sim x_{\nu}$ であり、これもよいです。。それによる商集合\[\varinjlim_{\lambda}X_{\lambda} := \left(\bigsqcup_{\lambda\in \Lambda}X_{\lambda}\right)/{\sim}\]を集合の帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ の帰納極限という。

補足1.3.31

商写像 $\pi : \bigsqcup_{\lambda\in \Lambda}X_{\lambda}\to \underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}$ の各 $X_{\lambda}$ への制限として写像の族 $\{f_{\lambda} : X_{\lambda}\to \underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda} : x_{\lambda}\mapsto [x_{\lambda}]\}_{\lambda\in\Lambda}$ が定まり、任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\mu}\circ f_{\lambda\mu} = f_{\lambda}$ を満たしています$x_{\lambda}\in X_{\lambda}$ に対して $f_{\lambda\mu}(x_{\lambda}) = f_{\mu\mu}(f_{\lambda\mu}(x_{\lambda}))$ より $x_{\lambda}\sim f_{\lambda\mu}(x_{\lambda})$ であり、$f_{\lambda}(x_{\lambda}) = [x_{\lambda}] = [f_{\lambda\mu}(x_{\lambda})] = f_{\mu}(f_{\lambda\mu}(x_{\lambda}))$ です。。つまり、次の図式は可換です。

また、もし各 $f_{\lambda\mu}$ たちがいずれも単射だった場合、この $f_{\lambda}$ たちも単射です$x, y\in X_{\lambda}$ かつ $f_{\lambda}(x)= f_{\lambda}(y)$ とします。これは $x\sim y$ ということなので、ある $\mu\geq \lambda$ が存在して $f_{\lambda\mu}(x) = f_{\lambda\mu}(y)$ となりますが、$f_{\lambda\mu}$ の単射性より $x = y$ を得ます。従って、$f_{\lambda}$ は単射です。

帰納極限 $\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}$ は次の意味で普遍性を持ちます。

命題1.3.32
(集合の帰納極限の普遍性)

$(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を集合の帰納系とする。集合 $Z$ と写像の族 $\{g_{\lambda} : X_{\lambda}\to Z\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられ、任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $g_{\mu}\circ f_{\lambda\mu} = g_{\lambda}$ を満たしているとする。このとき、写像 $h : \underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}\to Z$ であって常に $g_{\lambda} = h\circ f_{\lambda}$ を満たすものが一意に存在する。

この写像 $h$ は $\underset{\lambda}{\varinjlim}g_{\lambda}$ で表すことにする。

証明

任意の $x_{\lambda}\in X_{\lambda}$, $x_{\mu}\in X_{\mu}$ に対して $x_{\lambda}\sim x_{\mu}\Rightarrow g_{\lambda}(x_{\lambda}) = g_{\mu}(x_{\mu})$ であることを示せば商空間の普遍性からただちに $h$ の一意存在が従います。そしてこれは、$x_{\lambda}\sim x_{\mu}$ ならば $\nu\geq \lambda, \mu$ であって $f_{\lambda\nu}(x_{\lambda}) = f_{\mu\nu}(x_{\mu})$ となるものを取ることができ、この $\nu$ について $g_{\lambda}(x_{\lambda}) = g_{\nu}(f_{\lambda\nu}(x_{\lambda})) = g_{\nu}(f_{\mu\nu}(x_{\mu})) = g_{\mu}(x_{\mu})$ となることからよいです。

さて、$2$ つの帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$, $(Y_{\bullet}, g_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられているとします。写像の族 $\{\varphi_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $\varphi_{\mu}\circ f_{\lambda\mu} = g_{\lambda\mu}\circ \varphi_{\lambda}$ を満たすものを帰納系の間の射と呼びます。これは帰納極限の間の写像を誘導します。

命題1.3.33
(集合の帰納極限の間の誘導写像)

$(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$, $(Y_{\bullet}, g_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を帰納系とし、その間の射 $\{\varphi_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ が与えられているとする。このとき、帰納極限の間の写像 $\varPhi : \underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}\to \underset{\lambda}{\varinjlim}Y_{\lambda}$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $\varPhi\circ f_{\lambda} = g_{\lambda}\circ \varphi_{\lambda}$ を満たすものが一意に存在する。この写像 $\varPhi$ は $\underset{\lambda}{\varinjlim}\varphi_{\lambda}$ で表すことにする。

証明

任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $(g_{\mu}\circ \varphi_{\mu})\circ f_{\lambda\mu} = g_{\lambda}\circ \varphi_{\lambda}$ であることを示せば命題1.3.32より一意存在が従いますが、これは帰納系の間の射の定義から\[(g_{\mu}\circ \varphi_{\mu})\circ f_{\lambda\mu} = g_{\mu}\circ g_{\lambda\mu}\circ \varphi_{\lambda} = g_{\lambda}\circ \varphi_{\lambda}\]であり成立しています。

集合の帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられたとき、添字集合 $\Lambda$ を部分有向集合 $\Lambda'$ に制限することで新たに帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda'}$ が定まります。ここで、任意の $\lambda, \mu\in \Lambda'$ と $x_{\lambda}\in X_{\lambda}$, $x_{\mu}\in X_{\mu}$ に対し、$x_{\lambda}, x_{\mu}$ が $\Lambda'$ に関する帰納系において同値ならば $\Lambda$ に関する帰納系において同値であるので、包含写像\[I : \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda'}X_{\lambda}\to \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\]は帰納系の間の写像\[I_{*} : \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varinjlim}X_{\lambda}\to \underset{\lambda\in\Lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}\]を誘導します。この誘導写像は $\Lambda'$ が次に定義する共終な場合において全単射になり、具体的に帰納極限を計算する際に便利なことがあります。

定義1.3.34
(共終な部分有向集合)

有向集合 $\Lambda$ の部分有向集合 $\Lambda'$ が共終であるとは、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対してある $\mu\in \Lambda'$ であって $\lambda\leq \mu$ を満たすものが存在することをいう。

補題1.3.35
(帰納系の添字集合の簡略化)

$\Lambda$ を有向集合、$\Lambda'$ をその共終な部分有向集合とする。$\Lambda$ を添字集合とする帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ とその添字集合を $\Lambda'$ に制限して得られる帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda'}$ に対し、包含写像 $I : \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda'}X_{\lambda}\to \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ は全単射\[I_{*} : \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varinjlim}X_{\lambda}\to \underset{\lambda\in\Lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}\]を誘導する。

証明

点 $x_{\lambda}\in X_{\lambda}$ が帰納極限 $\underset{\lambda\in\Lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}$ において代表する同値類を $[x_{\lambda}]$ と書き、$\underset{\lambda\in\Lambda'}{\varinjlim}X_{\lambda}$ において代表する同値類を $[x_{\lambda}]'$ と書くことにします。

まず、全射性を示します。$[x_{\lambda}]\in \underset{\lambda\in\Lambda}{\varinjlim}X_{\lambda}$ とします。$\lambda\in \Lambda$ に対して $\mu\in \Lambda'$ を $\lambda\leq \mu$ に取ることができるので\[[x_{\lambda}] = [f_{\lambda\mu}(x_{\lambda})] = [I(f_{\lambda\mu}(x_{\lambda}))] = I_{*}([f_{\lambda\mu}(x_{\lambda})]')\]です。よって、全射です。

単射性を示します。$[x_{\lambda}]', [x_{\mu}]'\in \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varinjlim}X_{\lambda}$ に対して $I_{*}([x_{\lambda}]') = I_{*}([x_{\mu}]')$ であったとします。$[x_{\lambda}] = [x_{\mu}]$ なので、$\lambda, \mu\leq \nu$ を満たすある $\nu\in \Lambda$ が存在して $f_{\lambda\nu}(x_{\lambda}) = f_{\mu\nu}(x_{\mu})$ です。さらに、$\nu'\in \Lambda'$ を $\nu\leq \nu'$ に取れば $f_{\lambda\nu'}(x_{\lambda}) = f_{\mu\nu'}(x_{\mu})$ であり、$[x_{\lambda}]' = [x_{\mu}]'$ です。よって、単射です。

有向集合 $\Lambda, M$ の直積 $\Lambda\times M$ は各 $(\lambda, \mu), (\lambda', \mu')\in \Lambda\times M$ に対して\[(\lambda, \mu)\leq (\lambda', \mu') :\Leftrightarrow \lambda\leq \lambda'\wedge \mu\leq \mu'\]とする二項関係を与えることで有向集合になります。この直積有向集合を添字集合とする帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda\times M}$ が与えられたとします。各 $\mu\in M$ ごとに帰納系 $(X_{\bullet, \mu}, f_{(\bullet, \mu)(\bullet, \mu)})_{\Lambda}$ が定まり、帰納極限 $\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ が考えられます。また、各 $\mu\leq \mu'\in M$ に対して写像の族 $\{f_{(\lambda, \mu)(\lambda, \mu')} : X_{\lambda, \mu}\to X_{\lambda, \mu'}\}_{\lambda\in\Lambda}$ は帰納系の間の射を定めているので命題1.3.33より写像\[g_{\mu\mu'} := \varinjlim_{\lambda}f_{(\lambda, \mu)(\lambda, \mu')} : \varinjlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu}\to \varinjlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu'}\]が誘導され、帰納系 $(\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \bullet}, g_{\bullet\bullet})_{M}$ が得られます。よって、直積有向集合を添字集合にもつ帰納系に対しては成分ごと順に帰納極限を取ったものと一度に帰納極限を取ったものが考えられますが、これらの間には自然文脈依存な用語。ここでは圏論における自然変換の意味ですが、それ以上の説明はしません。な全単射が存在します。

命題1.3.36
(帰納極限の可換性)

直積有向集合を添字集合とする帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda\times M}$ が与えられたとき、自然な全単射\[\varinjlim_{\mu}\varinjlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu}\to \varinjlim_{(\lambda, \mu)}X_{\lambda, \mu}\]が存在する。従って、帰納極限は可換、つまり、自然な全単射\[\varinjlim_{\mu}\varinjlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu}\to \varinjlim_{\lambda}\varinjlim_{\mu}X_{\lambda, \mu}\]が存在する。

証明

$x_{\lambda, \mu}\in X_{\lambda, \mu}$ が $\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ および $\underset{(\lambda, \mu)}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ の中で代表する元をそれぞれ $[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}, [x_{\lambda, \mu}]_{\Lambda\times M}$ で表し、$[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}$ が $\underset{\mu}{\varinjlim}\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ の中で代表する元を $[[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}]_{M}$ により表すとします。

各 $\mu\in M$ ごと、包含写像 $I_{\mu} : \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda, \mu}\to \bigsqcup_{(\lambda, \mu)\in \Lambda\times M}X_{\lambda, \mu}$ は写像\[I_{\mu*} : \underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}\to \underset{(\lambda, \mu)}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu} : [x_{\lambda, \mu}]_{\mu}\mapsto [x_{\lambda, \mu}]_{\Lambda\times M}\]を誘導します。これは任意の $\mu\leq \mu'\in M$ に対して $I_{\mu*} = I_{\mu'*}\circ g_{\mu\mu'}$ を満たし、帰納極限の普遍性 $($命題1.3.32$)$ から写像\[I_{*} : \underset{\mu}{\varinjlim}\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}\to \underset{(\lambda, \mu)}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu} : [[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}]_{M}\to [x_{\lambda, \mu}]_{\Lambda\times M}\]を誘導します。この $I_{*}$ が全射であることは明らかであり、あとは単射性を示せばよいです。$[[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}]_{M}, [[x_{\lambda', \mu'}]_{\mu'}]_{M}\in \underset{\mu}{\varinjlim}\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ に対して $I_{*}([[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}]_{M}) = I_{*}([[x_{\lambda', \mu'}]_{\mu'}]_{M})$ であったとします。$I_{*}$ の表示より $[x_{\lambda, \mu}]_{\Lambda\times M} = [x_{\lambda', \mu'}]_{\Lambda\times M}$ であり、従って、$(\lambda'', \mu'')\geq (\lambda, \mu), (\lambda', \mu')$ を満たす $(\lambda'', \mu'')\in \Lambda\times M$ が存在して\[f_{(\lambda, \mu)(\lambda'', \mu'')}(x_{\lambda, \mu}) = f_{(\lambda', \mu')(\lambda'', \mu'')}(x_{\lambda', \mu'})\]が成立します。よって、\begin{eqnarray*}[[x_{\lambda, \mu}]_{\mu}]_{M} & = & [g_{\mu\mu''}([x_{\lambda, \mu}]_{\mu})]_{M} \\& = & [[f_{(\lambda, \mu)(\lambda, \mu'')}(x_{\lambda, \mu})]_{\mu''}]_{M} \\& = & [[f_{(\lambda, \mu'')(\lambda'', \mu'')}(f_{(\lambda, \mu)(\lambda, \mu'')}(x_{\lambda, \mu}))]_{\mu''}]_{M} \\& = & [[f_{(\lambda, \mu)(\lambda'', \mu'')}(x_{\lambda, \mu})]_{\mu''}]_{M} \\& = & [[f_{(\lambda', \mu')(\lambda'', \mu'')}(x_{\lambda', \mu'})]_{\mu''}]_{M} \\& = & [[x_{\lambda', \mu'}]_{\mu'}]_{M}\end{eqnarray*}であり、$I_{*}$ は単射です。

この全単射が自然であるとは、つまり、$\Lambda\times M$ を添字集合とする帰納系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda\times M}$, $(Y_{\bullet}, g_{\bullet\bullet})_{\Lambda\times M}$ の間の射 $\{\varphi_{\lambda, \mu} : X_{\lambda, \mu}\to Y_{\lambda, \mu}\}_{(\lambda, \mu)\in \Lambda\times M}$ が与えられたとき、誘導写像による次の図式が可換になるという意味ですが、これは代表元を追えば容易に確かめられます。

最後の帰納極限の可換性は明らかです。

(代表元を取る議論よりも圏論的な議論によせて $\underset{\mu}{\varinjlim}\underset{\lambda}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ が $\underset{(\lambda, \mu)}{\varinjlim}X_{\lambda, \mu}$ と同様の普遍性を持つことを示したほうがいい気もするけど、いったんこれで。)

集合の射影系と射影極限

続いて、集合の射影系とその射影極限を導入します。

定義1.3.37
(集合の射影系)

有向集合 $\Lambda$ を添字集合にもつ集合族 $\{X_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ と写像の族 $\{f_{\lambda\mu} : X_{\mu}\to X_{\lambda}\}_{\lambda \leq \mu\in \Lambda}$ 写像の向きが帰納系のときと逆であることに注意。であって次の条件を満たすものが与えれられているとする。

(i) 任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\lambda} = \Id_{X_{\lambda}}$.
(ii) 任意の $\lambda\leq \mu\leq \nu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ f_{\mu\nu} = f_{\lambda\nu}$.

これらの対を単に $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ などと書き、集合の射影系 $($projective system$)$ という。

定義1.3.38
(集合の射影極限)

集合の射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられているとする。直積集合 $\prod_{\lambda\in \Lambda}X_{\lambda}$ の部分集合\[\varprojlim_{\lambda}X_{\lambda} := \{(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\mid x_{\lambda} = f_{\lambda\mu}(x_{\mu}) \text{ for any } \lambda\leq \mu\in \Lambda\}\]を集合の射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ の射影極限という。

補足1.3.39

各成分に関する射影 $\pr_{\lambda} : \prod_{\lambda\in \Lambda}X_{\lambda}\to X_{\lambda}$ の射影極限 $\underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ への制限として写像の族 $\{f_{\lambda} : \underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}\to X_{\lambda} : (x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\mapsto x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が定まり、任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ f_{\mu} = f_{\lambda}$ を満たしています。つまり、次の図式は可換です。

射影極限 $\underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ は次の意味で普遍性を持ちます。

命題1.3.40
(集合の射影極限の普遍性)

$(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を集合の射影系とする。集合 $Z$ と写像の族 $\{g_{\lambda} : Z\to X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられ、任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ g_{\mu} = g_{\lambda}$ を満たしているとする。このとき、写像 $h : Z\to \underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ であって常に $g_{\lambda} = f_{\lambda}\circ h$ を満たすものが一意に存在する。

この写像 $h$ は $\underset{\lambda}{\varprojlim}g_{\lambda}$ で表すことにする。

証明

各 $z\in Z$ に対して $h(z) = (g_{\lambda}(z))_{\lambda\in\Lambda}$ と定めます。任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $g_{\lambda}(z) = f_{\lambda\mu}(g_{\mu}(z))$ を満たしているので $\underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ への写像として定まっています。また、常に $g_{\lambda} = f_{\lambda}\circ h$ であることも明らかです。一意性も容易です。以上により一意存在が確かめられました。

さて、$2$ つの射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$, $(Y_{\bullet}, g_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられているとします。写像の族 $\{\varphi_{\lambda} : Y_{\lambda}\to X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ \varphi_{\mu} = \varphi_{\lambda}\circ g_{\lambda\mu}$ を満たすものを射影系の間の射と呼びます。これは射影極限の間の写像を誘導します。

命題1.3.41
(集合の射影極限の間の誘導写像)

$(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$, $(Y_{\bullet}, g_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を射影系とし、その間の射 $\{\varphi_{\lambda} : Y_{\lambda}\to X_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ が与えられているとする。このとき、射影極限の間の写像 $\varPhi : \underset{\lambda}{\varprojlim}Y_{\lambda}\to \underset{\lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda}\circ \varPhi = \varphi_{\lambda}\circ g_{\lambda}$ を満たすものが一意に存在する。この写像 $\varPhi$ は $\underset{\lambda}{\varprojlim}\varphi_{\lambda}$ で表すことにする。

証明

任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ (\varphi_{\mu}\circ g_{\mu}) = \varphi_{\lambda}\circ g_{\lambda}$ であることを示せば命題1.3.40より一意存在が従いますが、これは射影系の間の射の定義から\[f_{\lambda\mu}\circ (\varphi_{\mu}\circ g_{\mu}) = \varphi_{\lambda}\circ g_{\lambda\mu}\circ g_{\mu} = \varphi_{\lambda}\circ g_{\lambda}\]であり成立しています。

集合の射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられたとき、添字集合 $\Lambda$ を部分有向集合 $\Lambda'$ に制限することで新たに射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda'}$ が定まります。ここで、直積集合の間の射影\[P : \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to \prod_{\lambda\in\Lambda'}X_{\lambda}\]は明らかに射影極限の間の写像\[P_{*} : \underset{\lambda\in\Lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}\to \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varprojlim}X_{\lambda}\]を誘導します。この誘導写像は $\Lambda'$ が共終な場合において全単射になり、具体的に射影極限を計算する際に便利なことがあります。

補題1.3.42
(射影系の添字集合の簡略化)

$\Lambda$ を有向集合、$\Lambda'$ をその共終な部分有向集合とする。$\Lambda$ を添字集合とする射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ とその添字集合を $\Lambda'$ に制限して得られる射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda'}$ に対し、射影 $P : \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to \prod_{\lambda\in\Lambda'}X_{\lambda}$ は全単射\[P_{*} : \underset{\lambda\in\Lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}\to \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varprojlim}X_{\lambda}\]を誘導する。

証明

まず、全射性を示します。$(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda'}\in \underset{\lambda\in\Lambda'}{\varprojlim}X_{\lambda}$ とします。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $y_{\lambda}\in X_{\lambda}$ を $\lambda\leq \mu$ を満たす $\mu\in \Lambda'$ を用いて $y_{\lambda} = f_{\lambda\mu}(x_{\mu})$ と定めます。この構成がwell-definedであること $($$\mu$ の取り方によらないこと$)$ は $\lambda\leq \mu, \mu'$ を満たす $\mu, \mu'\in \Lambda'$ に対してその上界 $\nu\in \Lambda'$ を取れば\[f_{\lambda\mu}(x_{\mu}) = f_{\lambda\mu}(f_{\mu\nu}(x_{\nu})) = f_{\lambda\nu}(x_{\nu}) = f_{\lambda\mu'}(f_{\mu'\nu}(x_{\nu})) = f_{\lambda\mu'}(x_{\mu'})\]であるのでよいです。$(y_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\in \underset{\lambda\in\Lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ であることは、任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して上界 $\nu$ を $\Lambda'$ に取ることで\[f_{\lambda\mu}(y_{\mu}) = f_{\lambda\mu}(f_{\mu\nu}(x_{\nu})) = f_{\lambda\nu}(x_{\nu}) = y_{\lambda}\]であるのでよいです。任意の $\lambda\in \Lambda'$ に対して $y_{\lambda} = f_{\lambda\lambda}(x_{\lambda}) = x_{\lambda}$ であるので $P_{*}((y_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}) = (x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda'}$ です。よって、全射です。

単射性を示します。$(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}, (y_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\in \underset{\lambda\in\Lambda}{\varprojlim}X_{\lambda}$ に対して $P_{*}((x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}) = P_{*}((y_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda})$ であったとします。任意の $\lambda\in \Lambda$ に対してその上界 $\mu\in \Lambda'$ を取れば $x_{\mu} = y_{\mu}$ より\[x_{\lambda} = f_{\lambda\mu}(x_{\mu}) = f_{\lambda\mu}(y_{\mu}) = y_{\lambda}\]であるので $(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda} = (y_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ です。よって、単射です。

直積有向集合を添字集合とする射影系について、帰納系のときと同様に、成分ごと順に射影極限を取ったものと一度に射影極限を取ったものが考えられ、その間には自然な全単射が存在します。

命題1.3.43
(射影極限の可換性)

直積有向集合を添字集合とする射影系 $(X_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda\times M}$ が与えられたとき、自然な全単射\[\varprojlim_{(\lambda, \mu)}X_{\lambda, \mu}\to \varprojlim_{\mu}\varprojlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu}\]が存在する。従って、帰納極限は可換、つまり、自然な全単射\[\varprojlim_{\mu}\varprojlim_{\lambda}X_{\lambda, \mu}\to \varprojlim_{\lambda}\varprojlim_{\mu}X_{\lambda, \mu}\]が存在する。

証明

直積の間の自然な全単射 $\prod_{(\lambda, \mu)\in \Lambda\times M}X_{\lambda, \mu}\to \prod_{\mu\in M}\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda, \mu}$ の制限として直接確かめられます。

以上です。

メモ

なし。

参考文献

[1] 松坂和夫 集合・位相入門 岩波書店 (1968)
[2] 服部晶夫 位相幾何学Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1977-1979)

更新履歴

2021/11/16
新規追加
2021/12/02
商集合の普遍性についての記述を修正し、補足を追加。
2022/01/02
一部の表現を修正。
2022/03/02
普遍性に関する主張と補足を簡潔な表現に修正。
全射と単射の普遍性についての補足追加。
2022/06/02
集合の帰納極限と射影極限について追加。
2022/07/02
二項関係のグラフについて追記。細かい表現を修正。
2022/12/17
帰納系・射影系の添字集合の簡略化に関する補題を追加。
2023/03/02
共終という用語を導入して置き換えられる部分の記述を修正。
2023/04/02
帰納極限・射影極限の可換性について追加。
2023/07/02
気付いた誤植を修正。
2023/08/02
全体的に表現を修正。軽微な誤植の修正。商集合の普遍性について記述を大幅に書き換え。
単射と全射の普遍性について削除して直和と直積の普遍性を追加。付加構造に関する補足の追加。
記号の変更、特に帰納極限と射影極限に関する部分は大幅に変更。
2023/10/02
軽微な誤植を修正。