代表的な代数的対象として群・環・体などの定義を与え、主に群に関する基本的性質をまとめます。ただし、整数に関する基本的な性質は既知とします。
集合 $G$ に対して写像 $\mu : G\times G\to G$ のことを $G$ 上の二項演算といいます。通常は $g, h\in G$ に対して $\mu(g, h)$ を $g\cdot h$ や $g * h$ などで表し、これを $g$ と $h$ の積といいます。混乱の恐れのない場合は単に $gh$ とも表します。
集合 $G$ と二項演算 $\cdot : G\times G\to G$ の対 $(G, \cdot)$ をマグマ $($magma$)$ という。単に $G$ とも書く。
マグマ $G$ において、元 $e\in G$ であって任意の $g\in G$ に対して $g\cdot e = g$ を満たすものを右単位元、任意の $g\in G$ に対して $e\cdot g = g$ を満たすものを左単位元という。右単位元かつ左単位元である元を単位元という。単位元は通常 $e$ や $1$ で表し、マグマ $G$ における単位元であることを明示する場合は $e_{G}$, $1_{G}$ などとも表すことにする。単位元を持つマグマを単位的マグマと呼ぶ。
$G$ をマグマとする。
(1) $e = e\cdot e' = e'$ です。
(2) (1)より明らかです。
単位的マグマにおいてはその各元に対して逆元が定義されます。ただし、必ずしも存在するとは限らず、一意とも限りません。
$G$ を単位元 $e$ を持つマグマとする。元 $g\in G$ に対し、$g\cdot h = e$ を満たす元 $h\in G$ を $g$ の右逆元、$h\cdot g = e$ を満たす元 $h\in G$ を $g$ の左逆元という。右逆元かつ左逆元である元を逆元という。$g$ の逆元は通常 $g^{-1}$ で表す。また、逆元をもつ元を可逆元と呼ぶ。
群の定義の前に、半群とモノイドを導入します。
$G$ を空でないマグマとする空でないという仮定をつけない立場もありますが、違いは半群として空集合上のマグマを許容するかどうかのみです。モノイドや群では単位元の存在から空になることは無いのでこの仮定の有無は影響しません。。
モノイドにおいては各元の逆元は存在すれば一意であり、元 $g$ の逆元 $g^{-1}$ という表記が一意に意味を持つことになります。
$G$ をモノイドとする。
(1) $h = e\cdot h = (h'\cdot g)\cdot h = h'\cdot (g\cdot h) = h'\cdot e = h'$ です。
(2) (1)より明らかです。
$G$ をモノイドとする。
(1) $e\cdot e = e$ よりそうです。
(2) $g\cdot g^{-1} = g^{-1}\cdot g = e$ からただちに従います。
(3) $(gh)(h^{-1}g^{-1}) = gg^{-1} = e$ と $(h^{-1}g^{-1})(gh) = h^{-1}h = e$ から従います。
モノイドにおける可逆元は単元とも呼ばれます。
群の定義は以下の通りです。
モノイド $G$ であって任意の元に対して逆元が存在するものを群という。
言い換えると、集合と二項演算の対であって結合律を満たし、単位元を持ち、さらに任意の元が可逆であるものが群です。
群における各元の逆元は右逆元もしくは左逆元になっていることのみから確かめられます。
$G$ を群とする。$g\in G$ に対してその右逆元および左逆元は逆元 $g^{-1}$ である。
逆元の存在と命題3.1.6から従います。
群について基本的なことを示しておきます。
$G$ を群とする。
命題3.1.7から明らかです。
可換モノイドや可換群 $G$ における積 $($乗法$)$ の記号としては和 $($加法$)$ の記号 $+$ を用いることもあり、この記号を用いる場合は積のことを和と呼びます。さらに、各元 $g$ の逆元は $-g$ により表し、和 $g + (-h)$ は $g - h$ と略記されます。単位元も $0$ などで表します。また、記号 $+$ を用いる場合の可換群は加法群や加群とも呼びます。
モノイド $G$ の元 $g$ と正整数 $n\in \Np$ に対して $n$ 個の $g$ の積 $\overbrace{g\cdot g\cdot g\dots g}^{n}$ は通常 $g^{n}$ と表しますが、$G$ が可換かつ加法の記号を用いる場合は $n\cdot g$ や $ng$ により表します。可逆元についてはより一般に、整数 $n\in \Z$ に対し、$n = 0$ の場合は $g^{0} := e$ および $0g := 0$ と考え、$n < 0$ の場合は $g^{n} := (g^{-1})^{-n}$ および $ng := (-n)(-g)$ と考えます。
複数の演算を持つ代数的対象として環と体の導入だけしておきます。これらは整数や実数に対して考えるような加法と乗法を持つものです。
集合 $R$ と $R$ 上の二項演算 $+, \cdot$ との三対 $(R, +, \cdot)$ であって以下の条件を満たすものを環と呼ぶ。
$+$ を加法、$\cdot$ を乗法と呼ぶ。加法に関する単位元を $0_{R}$ や $0$、乗法に関する単位元を $1_{R}$ や $1$ により表す。もしも乗法に関しても可換である場合は可換環とも呼ぶ。可換環でない環を非可換環と呼ぶ。
環の定義に乗法単位元の存在を課さない $($乗法に関しては半群でよいとする$)$ 流儀もあり、その意味での環との区別のためこちらの意味での環を単位的環と呼ぶこともある。
可換環 $R$ であって以下の以下の条件を満たすものを体と呼ぶ。
また、$($可換とは限らない$)$ 環 $R$ であって上記の性質を満たすものを斜体と呼ぶただし、ここでの体と斜体をそれぞれ可換体、体と呼ぶ流儀もあります。。
群やモノイドの部分集合に対する演算もよくつかうためここで導入しておきます。まず、モノイド $G$ の部分集合 $S, T$ に対して積 $ST$ を\[ST := \{st\mid s\in S, t\in T\}\]により定め、$\{g\}T$ や $S\{g\}$ は単に $gT, Sg$ で表すとします。この積が結合律を満たすことは容易に確かめられます。
$G$ をモノイド半群でも成立します。、$S, T, U$ をその部分集合とする。このとき、$(ST)U = S(TU)$ が成立する。
$g\in (ST)U$ はある $s\in S$, $t\in T$, $u\in U$ を用いて $g = (st)u$ と表示されますが、モノイドの結合律より $g = s(tu)\in S(TU)$ です。よって、$(ST)U\subset S(TU)$ です。逆の包含関係も同様に確かめられ、$(ST)U = S(TU)$ です。
また、可逆元のみからなる部分集合 $S$ に対して $S^{-1} := \{s^{-1}\mid s\in S\}$ と記号を定めておきます。次のようなことも容易に確かめられます。
$G$ をモノイドとする。次が成立する。
(1) (2) (3) 明らかです。
(4) $g\left(\bigcap_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}\right)h\subset \bigcap_{\lambda\in\Lambda}gT_{\lambda}h$ は明らかです。逆の包含関係を示します。$k\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}gT_{\lambda}h$ とします。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $k\in gT_{\lambda}h$ であり、ある $t_{\lambda}\in T_{\lambda}$ を用いて $k = gt_{\lambda}h$ と表されますが、この $t_{\lambda}$ は $\lambda\in \Lambda$ によらず $g^{-1}kh^{-1}$ に等しく、$g^{-1}kh^{-1}\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}$ が従います。よって、$k = g(g^{-1}kh^{-1})h\in g\left(\bigcap_{\lambda\in\Lambda}T_{\lambda}\right)h$ であり、逆の包含関係も確かめられました。
(5) (6) 明らかです。
加法群 $G$ の部分集合 $S, T$ に対し、$ST$ は $S + T$ で表し、$S^{-1}$ は $-S$ により表します。
群やモノイドとして基本的なものをいくつか例示しておきます。
一元集合 $G = \{e\}$ とその上の一意な二項演算 $G\times G\to G : (e, e)\mapsto e$ との対は群になります。これを自明な群といい、単に $1$ や $e$ で表します。明らかに可換群であり、主に可換群を扱う文脈においては単に $0$ で表されます。
整数などによる数の集合は何かしらの意味で代数的な構造を持ちます。
$\{G_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を群の族とする。直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda}G_{\lambda}$ は成分ごとの積、つまり、\[(g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\cdot (h_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda} := (g_{\lambda}h_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\]として定まる二項演算を与えることで群になる。これを直積群と呼びそのまま $\prod_{\lambda\in\Lambda}G_{\lambda}$ により表す。ただし、$\Lambda = \varnothing$ の場合は直積として自明な群を考える。各 $\lambda\in \Lambda$ に対応する群が同一の群 $G$ である場合の直積は $G^{\prod \Lambda}$ や単に $G^{\Lambda}$ により表す。さらに、$\#\Lambda = n \in \N$ の場合は $G^{n}$ と表す。また、有限個の群 $G_{1}, \dots, G_{n}$ の直積は集合の直積と同じく $G_{1}\times \dots\times G_{n}$ によっても表す。モノイドについても同様である。
結合律は明らか。単位元は $(e_{G_{\lambda}})_{\lambda\in\Lambda}$ であり、$(g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ の逆元は $(g_{\lambda}^{-1})_{\lambda\in\Lambda}$ です。
成分ごとの加法により $\Z$ や $\R$ の複数個の直積 $\Z^{n}$ や $\R^{n}$ は可換群になります。
加法群の族 $\{G_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ が与えられたとします。直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}G_{\lambda}$ の元 $(g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ であって高々有限個の $\lambda\in \Lambda$ を除いて $g_{\lambda} = 0_{G_{\lambda}}$ を満たすもの全体からなる部分集合は同じ演算に関して群になります。その群を加法群の族 $\{G_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ の直和と呼び $\bigoplus_{\lambda\in\Lambda}G_{\lambda}$ により表します。各 $\lambda\in \Lambda$ に対応する加法群が同一の群 $G$ である場合の直和は $G^{\oplus \Lambda}$ や単に $G^{\Lambda}$ により表す。さらに、$\#\Lambda = n \in \N$ の場合は $G^{n}$ と表します。また、有限個の加法群 $G_{1}, \dots, G_{n}$ の直和は $G_{1}\oplus \cdots\oplus G_{n}$ とも表し、この場合の直和は直積に一致します。
$G$ をモノイドとする。$G$ の可逆元全体からなる集合 $G^{\times}$ は $G$ の積 $($の制限として定まる二項演算$)$ について群になる。これを $G$ の単元群と呼ぶ。
モノイドにおいて可逆元どうしの積はまた可逆元であったので $G$ 上の二項演算の制限として $G^{\times}$ 上の二項演算が定まります。結合律は明らか。モノイド $G$ の単位元 $e$ は可逆なので $e\in G^{\times}$ であり、これが $G^{\times}$ における単位元であることも明らかです。$g\in G^{\times}$ に対してその $G$ における逆元 $g^{-1}$ も可逆元であるので $G^{\times}$ に属し、これが $G^{\times}$ における $g$ の逆元であることも明らかです。以上により、$G^{\times}$ は $G$ 上の二項演算の制限により群になります。
$X$ を集合とします。$X$ から自身への写像全体からなる集合 $\Map(X, X)$ は写像の合成によりモノイドになります。結合律は明らかであるし、恒等写像 $\Id_{X}$ が単位元になります。また、この場合の可逆元とは全単射のことであり、$\Map(X, X)^{\times}$ は自身への全単射全体からなる集合 $\Bij(X, X)$ に等しいです。もちろん、命題3.1.23よりこれは群になります。
次に挙げる巡回群は後で紹介する剰余群の最も基本的なものでもあります。
整数 $n, m\in \Z$ に対して $n$ が $m$ を割り切る、つまり、ある整数 $r\in \Z$ であって $m = rn$ を満たすものが存在することを $n\mid m$ により表します。これは $m\in n\Z$ に同値です。
正整数 $n\in \Np$ を固定し、$\Z$ の同値関係 $\sim$ を $x\sim y\Leftrightarrow n\mid (x - y)$ により定義します。この同値関係による商集合を $\Z_{n}$ や $\Z/n\Z$ と書きます。$\Z_{n}$ はその定義から明らかなように、$n$ で割ったあまりの等しい整数どうしを同一視して得られる商集合であり、$\Z_{n} = \{[0], [1], \dots [n - 1]\}$ です。混乱の恐れがない場合は明らかな方法で集合 $\{0, 1, \dots, n - 1\}$ とみなします。
さて、$\Z$ における加法は商写像 $\pi : \Z\to \Z_{n}$ により $\Z_{n}$ の加法を誘導します。実際、$k\sim k'$, $l\sim l'$ である整数 $k, k', l, l'\in \Z$ に対して $k' = k + an$, $l' = l + bn$ となる整数 $a, b$ を取れば\[(k' + l') - (k + l) = (a + b)n\]であり $k + l\sim k' + l'$ が成立するので和 $[k] + [l] := [k + l]$ がwell-definedに定まります。$\Z_{n}$ はこの加法について群になっており、実際、$[0]\in \Z_{n}$ が単位元、$\alpha\in \Z_{n}$ に対してその代表元 $a$ を用いて $[-a]$ と表される元が $\alpha$ の逆元になっています。これを $n$ 次巡回群と呼びます。これは巡回群 $($例3.1.75$)$ と呼ばれる群の中で具体的なものです。
また、同様に $\Z$ の乗法は $\Z_{n}$ の乗法を誘導します。実際、$k\sim k'$, $l\sim l'$ である整数 $k, k', l, l'\in \Z$ に対して $k' = k + an$, $l' = l + bn$ となる整数 $a, b$ を取れば\[k'l' - kl = (al' + bk' + abn)n\]であり $kl\sim k'l'$ が成立するので積 $[k][l] := [kl]$ がwell-definedに定まります。そして、$\Z_{n}$ はこの乗法についてモノイドになっており、実際、$[1]\in \Z_{n}$ が単位元です。
これら誘導される $\Z_{n}$ の加法と乗法に関する分配法則も明らかであり、これは環になります。
素数 $p$ に対して例3.1.26で考えた $p$ 次巡回群 $\Z_{p}$ は体になります。$\Z_{p}$ を体として扱う場合には $\F_{p}$ により表します。
$[a]\in \Z_{p}\setminus \{[0]\}$ とし、これが単元であることを示します。まず、$[a]$ 倍写像 $[a]\cdot : \Z_{p}\to \Z_{p} : [b]\mapsto [a][b]$ の単射性を示します。$[b]\neq [b']\in \Z_{p}$ を取ります。$a, b - b'$ はいずれも $p$ の倍数ではないので $[a(b - b')]\neq [0]$ であり、$[a][b]\neq [a][b']$ です。よって、$[a]$ 倍写像は単射です。濃度を見れば全射性も分かります。よって、ある $[b]\in \Z_{p}$ が存在して $[a][b] = [1]$ です。これは $[a]$ が単元であることを意味します。
集合 $X$ に対し、$X$ から自身への全単射全体からなる集合 $\Bij(X, X)$ は写像の合成により群となるが、これを $S(X)$ や $\mathfrak{S}(X)$ と書いて対称群という。特に、$X$ が有限集合 $\{1, 2, \dots, n\}$ の場合は $n$ 次対称群といい $S_{n}$ や $\mathfrak{S}_{n}$ と書く。その元 $\sigma\in S_{n}$ は $n$ 次の置換といい\[\left(\begin{array}{cccc}1 & 2 &\cdots & n \\\sigma(1) & \sigma(2) & \cdots & \sigma(n)\end{array}\right)\]とも書き表す。$($この記法のことを置換記法という。$)$
例えば、$S_{4}$ の元\[\sigma = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\2 & 3 & 1 & 4\end{array}\right), \ \tau = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\1 & 4 & 2 & 3\end{array}\right)\]に対してその積 $\tau\sigma$ は\[\tau\sigma = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\4 & 2 & 1 & 3\end{array}\right)\]です。定義通り写像と思って計算すればよく、\[\tau\sigma(1) = \tau(\sigma(1)) = \tau(2) = 4,\]\[\tau\sigma(2) = \tau(\sigma(2)) = \tau(3) = 2,\]\[\tau\sigma(3) = \tau(\sigma(3)) = \tau(1) = 1,\]\[\tau\sigma(4) = \tau(\sigma(4)) = \tau(4) = 3\]です。また、$\sigma$ の逆元 $\sigma^{-1}$ が\[\sigma^{-1} = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\3 & 1 & 2 & 4\end{array}\right)\]であることは $\tau\sigma$ の計算と同じ要領で計算してみれば確かめられることですが、これは $\sigma$ の表示の上下をひっくり返して横の順番を並べ換えたものに等しい、つまり、\[\sigma = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\2 & 3 & 1 & 4\end{array}\right)\mapsto\left(\begin{array}{cccc}2 & 3 & 1 & 4 \\1 & 2 & 3 & 4\end{array}\right) =\left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\3 & 1 & 2 & 4\end{array}\right) = \sigma^{-1}\]です。というのも、この\[\sigma = \left(\begin{array}{cccc}1 & 2 & 3 & 4 \\2 & 3 & 1 & 4\end{array}\right)\]という表記は上から下に向けて写像 $\sigma$ の対応関係を表しているものなのでここまで上の行を $1$ から順に並べるようにしていましたが、上下の対応関係さえ保っていれば置換としての意味に違いはなく、実際にはその順序にこだわる必要はないです。、下から上に向けて考えれば当然逆写像が得られているはずであり、上下反転と横の並び替えより $\sigma^{-1}$ の表示が得られるというわけです。
$n$ 次対称群 $S_{n}$ において、相異なる $2$ つの元 $i\neq j\in \{1, 2, \dots, n\}$ のみを入れ換えるような置換のことを互換といい\[\left(\begin{array}{cc}i & j\end{array}\right)\]と書きます。さらに、$|i - j| = 1$ であるものは基本互換つまり、$i, j$ が隣り合う場合にそれらを入れ換える置換のこと。といいます。より一般に、相異なる $i_{1}, \dots, i_{k}\in \{1, 2, \dots, n\}$ に対して\[i_{1}\mapsto i_{2}\mapsto \cdots\mapsto i_{k - 1}\mapsto i_{k}\mapsto i_{1}\]というように循環するよう対応させる置換を巡回置換といい\[\left(\begin{array}{cccc}i_{1} & i_{2} & \cdots & i_{k}\end{array}\right)\]と書きます。$k$ は巡回置換の長さといいます。
置換の積に関していくつか基本的な計算結果を紹介しておきます。
いずれもどの元がどの元に対応するか追うだけです。一部のみ確認します。
(4) 任意の $1\leq l\leq n$ に対して $(\tau\sigma)(\sigma^{-1}(l)) = \tau(l)$ なのでそのように表示されます。
(6) 便宜的に $i_{k + 1} = i_{1}$ と見なしたうえで任意の $1\leq l\leq k$ に対して\begin{eqnarray*}&& \tau \left(\begin{array}{cccc}i_{1} & i_{2} & \cdots & i_{k}\end{array}\right)\tau^{-1}(\tau(i_{l})) \\& = & \tau \left(\begin{array}{cccc}i_{1} & i_{2} & \cdots & i_{k}\end{array}\right)(i_{l}) \\& = & \tau(i_{l + 1})\end{eqnarray*}であるので成立しています。
置換がいくつかの基本互換の積として表示できること、その表示に現れる基本互換の数の偶奇が各元に対して一意に決まることは基本的です。補助的な値として置換 $\sigma \in S_{n}$ に対してその転倒数と呼ばれる値 $\inv(\sigma)$ を\[\inv(\sigma) := \#\{(j, k)\mid j < k, \ \sigma(k) < \sigma(j)\}\]により与えておきます言葉で書くと、転倒数とは置換により順序が逆転する $1\leq j < k\leq n$ の組み合わせ $(j, k)$ の数です。。
(1) まず、互換が基本互換の積として表されることは任意の $1\leq i < n$ に対して $\left(\begin{array}{cc}i & i + 1\end{array}\right)$ が基本互換であることと任意の $1\leq i < j < n$ に対して $\left(\begin{array}{cc}j & j + 1\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}i & j\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}j & j + 1\end{array}\right)= \left(\begin{array}{cc}i & j + 1\end{array}\right)$ であることに注意して帰納法により示されます。
従って、置換 $\sigma$ が互換の積として表されることを示せば十分でが、これは $\sigma \neq e$ に対して $\sigma(i)\neq i$ となる $1\leq i\leq n$ の数を減らすような互換を左から掛けられることと帰納法から確かめられます。実際、$\sigma(i)\neq i$ となる $1\leq i\leq n$ に対して $\tau= \left(\begin{array}{cc}i & \sigma(i)\end{array}\right)$ を掛ければ\[\tau\sigma= \left(\begin{array}{cc}i & \sigma(i)\end{array}\right)\left(\begin{array}{ccccc}\cdots & \sigma^{-1}(i) & \cdots & i & \cdots\\\cdots & i & \cdots & \sigma(i) & \cdots \end{array}\right)= \left(\begin{array}{ccccc}\cdots & \sigma^{-1} & \cdots & i & \cdots\\\cdots & \sigma(i) & \cdots & i & \cdots \end{array}\right)\]であり、$\sigma^{-1}(i)\neq i$ でもあることに注意すれば異なる値を返す $i$ の数は少なくとも $1$ つ減ります。
(2) 任意の置換 $\sigma$ と基本互換 $\tau = \left(\begin{array}{cc}i & i + 1 \end{array}\right)$ に対して $\inv(\sigma\tau) - \inv(\sigma) = \pm 1$ であることを示します。まず、次のことが分かります。
これをまとめると\begin{eqnarray*}&& \#\{(j, k)\mid \{j, k\}\neq \{i, i + 1\}, \ j < k, \ \sigma(k) < \sigma(j)\} \\& = & \#\{(j, k)\mid \{j, k\}\neq \{i, i + 1\}, \ j < k, \ \sigma\tau(k) < \sigma\tau(j)\}\end{eqnarray*}です。また、\[\sigma(i + 1) < \sigma(i)\Leftrightarrow \neg(\sigma\tau(i + 1) < \sigma\tau(i))\]であるので $(i, i + 1)$ は $\{(j, k)\mid j < k, \ \sigma(k) < \sigma(j)\}$ か $\{(j, k)\mid j < k, \ \sigma\tau(k) < \sigma\tau(j)\}$ のどちらか一方にしか属しません。以上により $\inv(\sigma\tau) - \inv(\sigma) = \pm 1$ です。
さて、置換 $\sigma$ を基本互換の積 $\tau_{1}\tau_{2}\dots \tau_{k}$ に表したとき、単位元 $e$ に対して $\inv(e) = 0$ であることに注意して\[\inv(\sigma) = \inv(\sigma) - \inv(e) = \sum_{i = 1}^{k}(\inv(\tau_{1}\tau_{2}\dots \tau_{i - 1}\tau_{i}) - \inv(\tau_{1}\tau_{2}\dots \tau_{i - 1}))\]ですが、これは上に示したことにより基本互換の数 $k$ と $\inv(\sigma)$ の偶奇が一致することを意味します。従って、表示における基本互換の数の偶奇はその表示の仕方によらず $\inv(\sigma)$ の偶奇に一致します。
(3) (1)で行った議論によると互換は奇数個の基本互換の積として表されるので(2)からただちに従います。
つまり、偶数個の互換の積として表される置換が偶置換、奇数個の互換の積として表される置換が奇置換です。このことからも次は明らかでしょう。これは写像 $\sign : S_{n}\to \{-1, +1\}$ が定義3.1.59で定義する群準同型であることを意味します。
任意の置換 $\sigma, \tau\in S_{n}$ に対して $\sign(\tau\sigma) = \sign(\tau)\sign(\sigma)$ が成立する。
また、偶置換のみを全て集めることで群が得られることも容易でしょう。
$n$ 次対称群 $S_{n}$ における偶置換全体からなる集合は $S_{n}$ における二項演算の制限により群になる。これを $n$ 次交代群と呼び $A_{n}$ や $\mathfrak{A}_{n}$ で表す。
$R$ を環、$n, m$ を正整数とします。環 $R$ の元 $a_{ij} \ (1\leq i\leq m, \ 1\leq j\leq n)$ を縦に $m$ 個、横に $n$ 個並べた\[\left[\begin{array}{cccc}a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}\end{array}\right]\]を $R$ 係数の $m$ 行 $n$ 列行列や $(m, n)$ 型行列と呼び、$R$ は係数環と呼ばれます。上記の行列における $a_{ij}$ を $ij$ 成分といい、$i$ は行番号、$j$ は列番号といいます。そして、上から $i$ 番目の一列のことを第 $i$ 行や $i$ 番目の行、左から $j$ 番目の一列のことを第 $j$ 列や $j$ 番目の列などと呼びます。また、上記の行列はよく $[a_{ij}]$ などと略記します。$R$ 係数の $(m, n)$ 型行列全体からなる集合を $M(m, n; R)$ や $M_{m\times n}(R)$ などで表します。$m = n$ の場合は $M(n; R)$ や $M_{n}(R)$ とも表し、その元は $n$ 次正方行列と呼ばれます。
$(m, n)$ 型行列どうしの加法\[+ : M(m, n; R)\times M(m, n; R)\to M(m, n; R)\]が成分ごとの加法\[\left[\begin{array}{cccc}a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}\end{array}\right]+\left[\begin{array}{cccc}b_{11} & b_{12} & \ldots & b_{1n} \\b_{21} & b_{22} & \ldots & b_{2n} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\b_{m1} & b_{m2} & \ldots & b_{mn}\end{array}\right]=\left[\begin{array}{cccc}a_{11} + b_{11} & a_{12} + b_{12} & \ldots & a_{1n} + b_{1n} \\a_{21} + b_{21} & a_{22} + b_{22} & \ldots & a_{2n} + b_{2n} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\a_{m1} + b_{m1} & a_{m2} + b_{m2} & \ldots & a_{mn} + b_{mn}\end{array}\right]\]により定義されます。この加法については全ての成分が係数環 $R$ の加法単位元 $0$ である行列が単位元になります。それを零行列と呼び $O_{mn}$ で表します。
また、$(m, n)$ 型行列と $(n, p)$ 型行列との乗法\[\cdot : M(m, n; R)\times M(n, l; R)\to M(m, p; R)\]が\[\left[\begin{array}{cccc}a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}\end{array}\right]\cdot\left[\begin{array}{cccc}b_{11} & b_{12} & \ldots & b_{1p} \\b_{21} & b_{22} & \ldots & b_{2p} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\b_{n1} & b_{n2} & \ldots & b_{np}\end{array}\right]=\left[\begin{array}{cccc}\sum_{j = 1}^{n}a_{1j}b_{j1} & \sum_{j = 1}^{n}a_{1j}b_{j2} & \ldots & \sum_{j = 1}^{n}a_{1j}b_{jp} \\\sum_{j = 1}^{n}a_{2j}b_{j1} & \sum_{j = 1}^{n}a_{2j}b_{j2} & \ldots & \sum_{j = 1}^{n}a_{2j}b_{jp} \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\\sum_{j = 1}^{n}a_{mj}b_{j1} & \sum_{j = 1}^{n}a_{mj}b_{j2} & \ldots & \sum_{j = 1}^{n}a_{mj}b_{jp}\end{array}\right]\]により定義されます。結果の行列の $ik$ 成分 $\sum_{j = 1}^{n}a_{ij}b_{jk}$ は $[a_{ij}]$ の第 $i$ 行のと $[b_{jk}]$ の第 $k$ 列の成分ごとの積の和です。この積が結合的であることは簡単に確かめられます$[a_{ij}]\in M(m, n; R)$, $[b_{jk}]\in M(n, p; R)$, $[c_{kl}]\in M(p, q; R)$ に対して積 $([a_{ij}][b_{jk}])[c_{kl}]$ および $[a_{ij}]([b_{jk}][c_{kl}])$ の $il$ 成分がいずれも $\sum_{j = 1}^{n}\sum_{k = 1}^{p}a_{ij}b_{jk}c_{kl}$ であることが直接計算により分かり結合的です。。各正整数 $n\in \Np$ に対して全単射\[R^{n}\to M(n, 1; R) : (a_{1}, \dots, a_{n})\mapsto\left[\begin{array}{c}a_{1} \\a_{2} \\\vdots \\a_{n}\end{array}\right]\]による同一視を行うことで行列の乗法が写像 $M(m, n; R)\times R^{n}\to R^{m}$ を定めることも重要です。
$(n, n)$ 型行列における行番号と列番号が等しい $ii$ 成分を対角成分と呼びます。全ての対角成分が係数環 $R$ の乗法単位元 $1$、それ以外の全て成分が加法単位元 $0$ である行列\[\left[\begin{array}{cccc}1 & 0 & \ldots & 0 \\0 & 1 & \ldots & 0 \\\vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\0 & 0 & \ldots & 1\end{array}\right]\]を $n$ 次単位行列と呼び $E_{n}$ や $I_{n}$ で表します。任意の $(m, n)$ 型行列 $A$ に対して $AE_{n} =A$ であり、また、任意の $(n, p)$ 型行列 $B$ に対して $E_{n}B = B$ です。
以上のことから $n$ 次正方行列全体からなる集合 $M_{n}(R)$ には上記の加法 $+$ による可換群の構造と乗法 $\cdot$ によるモノイドの構造を与えることができ、また、これら加法・乗法に関する分配法則も容易に確かめられます。つまり、$M_{n}(R)$ はこれら演算によって環になります。これを行列環と呼びます。行列環 $M(n; R)$ の $($乗法に関する$)$ 単元群は $GL(n; R)$ や $GL_{n}(R)$ により表し、$R$ 係数の一般線型群と呼ばれます。
Euclid空間 $\R^{n}$ の最も基本的な自己同相写像として
が挙げられます。(i)と(ii)はそれぞれ単に回転、鏡映とも呼ぶことにします。回転のみで表される変換は回転変換、回転と鏡映の合成で表される変換は直交変換、さらに平行移動との合成も許容して得られる変換は合同変換と呼ばれます。回転変換全体、直交変換全体、合同変換全体はいずれも合成を積として群になり、それぞれ回転変換群、直交変換群、合同変換群と呼ばれます。ただし、線型代数を扱う文脈では回転変換群は特殊直交群、直交変換群は単に直交群と呼ばれるのが普通です。記号としては順に $SO(n)$, $O(n)$, $\Isom(\R^{n})$ で表されます。
固定した $\R^{n}$ の部分集合 $X$ に対し、$X$ を集合として保つ上記の変換たちから群が構成され、$X$ の持つ対称性を表す重要な対象になります。
$n\geq 3$ として $\R^{2}$ における原点を中心に持つ正 $n$ 角形 $X$ を固定していると考えます。この正 $n$ 角形を保つような直交変換全体からなる集合\[\{A\in O(2)\mid A(X) = X\}\]に写像の合成による積を与えることで群としたものを正二面体群といい $D_{n}$ と書きます。正 $n$ 角形の頂点を順に $A_{1}, \dots, A_{n}$ とおけば、$D_{n}$ の元は何番目の頂点を何番目の頂点に移すかに応じて置換による記述が可能となります。例えば、$A_{i}$ の移る頂点の添字を $\sigma(i)$ とすることで置換 $\sigma\in S_{n}$ が対応します。
逆に、置換 $\sigma\in S_{n}$ が図形的な制約この場合は隣り合う頂点を隣り合う頂点に移していることからくる制約。を満たしていれば $D_{n}$ の元が一意に対応します。事実としては $A_{1}, A_{2}$ がどの頂点に移るかのみで $D_{n}$ の元は決定され、$A_{1}$ の移り先として $n$ 通り、そのそれぞれについて $A_{2}$ の移り先は両隣の $2$ 通り存在し、$D_{n}$ はちょうど $2n$ 個の元からなる群であることが分かります。
また、正二面体群 $D_{n}$ は $\R^{3}$ の中心に配置された正 $n$ 角形を保つ回転変換全体この場合に鏡映が不要なのは、それが $\R^{3}$ における回転として実現されるためです。としても構成されます。
$\R^{3}$ において原点を中心に持つ正 $n$ 面体を固定していると考えます。正二面体群と同様に、この正 $n$ 面体 $X$ を保つような原点中心の回転変換全体からなる集合\[\{A\in SO(3)\mid A(X) = X\}\]に群構造を与えることができ、それを正 $n$ 面体群と呼び $P_{n}$ で表します。正二面体群の場合と同様に、各変換は隣り合う $2$ つの頂点をどこに移すかによって一意に記述され、従って、濃度 $|P_{n}|$ は正 $n$ 面体の頂点の数と一つの頂点に集まる辺の数の積に等しいことが分かります。結果を書いておくと、$|P_{4}| = 12$, $|P_{6}| = 24$, $|P_{8}| = 24$, $|P_{12}| = 60$, $|P_{20}| = 60$ です。
部分群を次で定義します。
$G$ を群、$H$ をその部分集合とする。$H$ が $G$ に与えた二項演算の制限によって群となるとき、その制限による群を $G$ の部分群といい通常そのまま $H$ で表す。$H$ が $G$ の部分群であることを $H\leq G$ により表す。
部分群の定義から次のことは明らかであり、表記上は部分群における単位元や逆元をもとの群におけるそれらとは区別しません。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。
次は部分集合が部分群になるための必要十分条件として基本的なものです。
$G$ を群とする。部分集合 $H\subset G$ に対して次は同値である単位元の存在を強調して、$H = \varnothing$ という条件を $e\in H$ で置き換えても成立します。。
(1) ⇒ (2) 明らかです。
(2) ⇒ (3) 明らかです。
(3) ⇒ (1) $H\neq \varnothing$ より $H$ の元 $h$ が存在し、この $h$ について $h_{1} = h_{2} = h$ としたとき $h_{1}h_{2}^{-1} = e$ であるので $e\in H$ です。続いて、任意の $h\in H$ について $h_{1} = e$, $h_{2} = h$ を考えることで $h^{-1}\in H$ です。そして、任意の $h, h'\in H$ に対して $h_{1} = h$, $h_{2} = h'^{-1}$ を考えることで $hh'\in H$ であり、$G$ に与えた二項演算の制限により $H$ の二項演算が定まります。$G$ における単位元が $H$ における単位元になっていること、任意の $h\in H$ に対してその $G$ における逆元が $H$ における逆元になっていることは明らか単位元について前半で示したことはあくまでも $G$ における単位元が $H$ に属しているというところまでであり、$H$ に二項演算を与えた後、その二項演算に対する単位元の存在を確かめる必要自体は残っています。逆元についても同じです。であり、よって、$H$ は部分群になります。
(2) ⇔ (4) 容易です。
(3) ⇔ (5) 容易です。
部分群どうしの共通部分はまた部分群になります。
$G$ を群、$\{H_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $G$ の部分群による族とする。共通部分 $H := \bigcap_{\lambda\in\Lambda}H_{\lambda}$ は部分群になる。
命題3.1.39から容易に確かめられます。
このことから群 $G$ の部分集合 $S$ に対して $S$ を含む最小の部分群というものが意味を持ちます。
$G$ を群、$S$ をその部分集合とする。$S$ を含む $G$ の部分群たち全ての共通部分として定まる部分群を $S$ により生成する部分群といい $\langle S\rangle$ により表す。また、$G$ の部分群 $H$ に対して $H = \langle S\rangle$ となる部分集合 $S$ を $H$ の生成系と呼ぶ。
生成系 $S$ が具体的に $S = \{g_{1}, g_{2}, \dots, g_{n}\}$ と表される場合は $\langle g_{1}, g_{2}, \dots, g_{n}\rangle$ とも表し、なにかしらの条件 $P$ によって $S = \{g\mid P(g)\}$ と表される場合には $\langle g\mid P(g)\rangle$ とも表すことにします。
生成する部分群は次の形で具体的に構成することもできます。
$G$ を群、$S$ をその部分集合とし、$S' := S\cup S^{-1}\cup \{e\}$ とおく。$S$ により生成する部分群 $\langle S\rangle$ は $S'$ の元たち高々有限個の積として表される $G$ の元全体からなる部分群に一致する。
$S'$ の元たち高々有限個の積として表される $G$ の元全体からなる集合を $H$ とおき、これが $S\subset H\subset \langle S\rangle$ を満たす $G$ の部分群であることを示せば生成する部分群の最小性から $H = \langle S\rangle$ が従います。
包含関係について、まず、$H_{0} := \{e\}$, $H_{n + 1} := S'H_{n} := \{sh\mid s\in S', h\in H_{n}\}$ とおけば $H = \bigcup_{n\in \N}H_{n}$ であり、$H_{0}\subset \langle S\rangle$ と $H_{n}\subset \langle S\rangle\Rightarrow H_{n + 1}\subset \langle S\rangle$ からただちに $H\subset \langle S\rangle$ が従います。また、$S\subset S' = H_{1}\subset H$ です。あとは $H$ が部分群になることを示せばよいですが、これは命題3.1.39より容易に確かめられます。
あと、共役部分群を紹介しておきます。
$G$ を群とする。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。$H$ に共役な部分集合 $K$ は群になる。一般に、部分群 $H$ に共役な部分群を $H$ の共役部分群という。
ある $g\in G$ が存在して $K = gHg^{-1}$ です。$K\neq \varnothing$ と\[KK^{-1} = (gHg^{-1})(gHg^{-1})^{-1} = gHg^{-1}gH^{-1}g^{-1} = gHg^{-1} = K\]から $K$ は部分群です。
群 $G$ に対して部分群 $H$ が与えられるとその部分群による左右からの商を考えることができます。
$G$ を群、$H, K$ をその部分群とする。
(1) 任意の $g\in G$ に対して $g = ge$ と $e\in K$ よい $g\sim g$ なので反射律はよいです。$g_{1}\sim g_{2}$ のとき、$g_{2} = g_{1}k$ となる $k\in K$ を取れば $g_{1} = g_{2}k^{-1}$ であり、$k^{-1}\in K$ と合わせて $g_{2}\sim g_{1}$ が従うので対称律もよいです。$g_{1}\sim g_{2}$ かつ $g_{2}\sim g_{3}$ のとき、$g_{2} = g_{1}k_{1}$, $g_{3} = g_{2}k_{2}$ となる $k_{1}, k_{2}\in K$ を取れば $g_{3} = g_{1}k_{1}k_{2}$ と $k_{1}k_{2}\in K$ より $g_{1}\sim g_{3}$ であるので推移律もよいです。以上により同値関係であることがたしかめられました。
あとは $g\in G$ の代表する同値類 $[g]$ が $gH$ に等しいことを示せばよいでが、これは任意の $g'\in G$ に対して\[g'\in [g]\Leftrightarrow g\sim g' \Leftrightarrow {}^{\exists}k\in K \text{ s.t. } g' = gk\Leftrightarrow g'\in gK\]であることからよいです。
(2) (3) (1)と同様です。
左右の剰余集合の濃度について、次に定義する位数と指数による等式が基本的です。
$G$ を群とする。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。
(1) 写像 $G/H\to H\backslash G : gH\mapsto (gH)^{-1} = Hg^{-1}$ および $H\backslash G\to G/H : Hg\mapsto (Hg)^{-1} = g^{-1}H$ が互いに逆写像になります。
(2) 各左剰余類 $gH$ に対して $|gH| = |H|$ 写像 $H\to gH : h\mapsto gh$ と $gH\to H : gh\mapsto g^{-1}gh$ が互いに逆写像を与えています。なので $|G| = |G/H|\times |H|$ です。
$G$ を有限群とする。次が成立する。
部分群の中でも特に次の正規部分群が重要です。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。任意の $g\in G$ に対して $gHg^{-1} = H$ が成立するとき、$H$ を正規部分群という。$H$ が $G$ の正規部分群であることを $H\triangleleft G$ により表す。
与えられた部分群が正規部分群であるための必要十分条件をいくつか示します。左右の剰余類および剰余集合が一致するというのが特に重要であり、正規部分群に対しては単に剰余類や剰余集合と呼ばれます。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 任意の $g\in G$ に対して $gH = gHg^{-1}g = Hg$ です。
(2) ⇒ (1) 任意の $g\in G$ に対して $gHg^{-1} = Hgg^{-1} = H$ です。
(2) ⇒ (3) $G/H = \{gH\mid g\in G\} = \{Hg\mid g\in G\} = H\backslash G$ です。
(3) ⇒ (2) $g\in G$ を取ります。仮定より $gH = Hg'$ を満たす $g'\in H$ が取れます。そして、$g = ge\in gH = Hg'$ から $g = hg'$ を満たす $h\in H$ が取れるので $Hg' = Hg$ です。よって、$gH = Hg$ です。
(1) ⇒ (4) 生成系として $H$ 自身を取ればよいです。
(4) ⇒ (1) そのような生成系 $S$ を取ります。命題3.1.43で考えた $S' = S\cup S^{-1}\cup \{e\}$ は任意の $g\in G$ に対して $gS'g^{-1}\subset H$ を満たし、$H_{n} = (S')^{n}$ たちについても常に $gH_{n}g^{-1}\subset H$ が成立します。よって、任意の $g\in G$ に対して\[gHg^{-1} = g\left(\bigcup_{n\in\N}H_{n}\right)g^{-1} = \bigcup_{n\in\N}gH_{n}g^{-1}\subset H\]です。逆の包含関係も容易に確かめられ、$H$ は正規です。
(1) ⇔ (5) 明らかです。
正規部分群どうしの共通部分はまた正規部分群になります。
$G$ を群、$\{H_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $G$ の正規部分群の族とする。共通部分 $H := \bigcap_{\lambda\in\Lambda}H_{\lambda}$ は $G$ の正規部分群である。
$H$ が部分群であることは命題3.1.41よりよいです。正規性も各 $g\in G$ に対して\[gHg^{-1} = g\left(\bigcap_{\lambda\in\Lambda}H_{\lambda}\right)g^{-1} = \bigcap_{\lambda\in\Lambda}gH_{\lambda}g^{-1} = \bigcap_{\lambda\in\Lambda}H_{\lambda} = H\]であるのでよいです。
従って、群 $G$ の部分集合 $S$ に対して $S$ を含む最小の正規部分群が意味を持ちます。
$G$ を群、$S$ をその部分集合とする。$S$ を含む正規部分群たち全ての共通部分として定まる正規部分群を $S$ により生成する正規部分群、もしくは $S$ の正規閉包と呼び $\ncl(S)$ により表す。また、$G$ の部分群 $H$ に対して $H = \ncl(S)$ となる部分集合 $S$ を $H$ の正規生成系と呼ぶ。
部分集合により生成する正規部分群は $G$ の元による共役を許容して生成する部分群に一致します。
$G$ を群、$S$ をその部分集合とする。$\ncl(S) = \langle gsg^{-1}\mid s\in S, \ g\in G\rangle$ が成立する。
$H := \langle gsg^{-1}\mid s\in S, \ g\in G\rangle$ とおきます。これが $S\subset H\subset \ncl(S)$ を満たす $G$ の正規部分群であることを示せば生成する正規部分群の最小性から $H = \ncl(S)$ が従います。
包含関係について、$S\subset H$ は自明であり、任意の $s\in S$, $g\in G$ に対して $gsg^{-1}\in \ncl(S)$ でなければならないことと命題3.1.43から直ちに $H\subset \ncl(S)$ です。あとは $H$ の正規性ですが、これは命題3.1.52から分かります。
$G$ を群とする。次が成立する。
(1) 容易です。
(2) $HN$ が空でないことと\[(HN)(HN)^{-1} = HNN^{-1}H^{-1} = HNNH = HHNN = HN\]よりよいです。
(3) 任意の $g\in G$ に対して $gNMg^{-1} = gNg^{-1}gMg^{-1} = NM$ であり正規です。
正規部分群 $N$ による剰余集合 $G/N = N\backslash G$ には群構造が定まります。
$G$ を群、$N$ をその正規部分群とする。任意の $A, B\in G/N$ に対して $A\cdot B\in G/N$ が成立し、この積から定まる二項演算 $G/N\times G/N\to G/N$ に関して剰余集合 $G/N$ は群になる。これを剰余群、もしくは商群と呼ぶ。
$A, B\in G/N$ を取ります。ある $g, h\in G$ が存在して $A = gN$, $B = hN$ と表されます。このとき、$AB = gNhN = ghNN = ghN\in G/N$ であり二項演算は定まります。$N\in G/N$ が単位元であることは容易です。$A\in G/N$ に対して $A^{-1}$ が逆元であることを示します。$A = gN$ となる $g\in G$ を取ります。$A^{-1} = N^{-1}g^{-1} = Ng^{-1} = g^{-1}N$ なので $A^{-1}\in G/N$ であり、さらに\[AA^{-1} = gNg^{-1}N = gg^{-1}N = N,\]\[A^{-1}A = g^{-1}NgN = g^{-1}gN = N\]であるので逆元です。以上により剰余集合は群になります。
元 $g\in G$ の代表する剰余類を $[g]$ で表すとすれば、この剰余集合に定めた積は $[g]\cdot[h] := [gh]$ と定めたものに他なりません。そして、単位元は $[e]$ であり、$[g]$ に対する逆元は $[g^{-1}]$ と表されます。剰余類の記号で書けば $gN\cdot hN := ghN$ であり、$G$ が加法群であれば $(g + N) + (h + N) = g + h + N$ です。
群の間の写像としてはその群構造 $($演算$)$ を保つものが特に重要です。具体的には次の定義の通りであり、群の間の写像を考える際には大抵そのような写像のみを考えていくことになります。
自明ですが、準同型どうしの合成が再び準同型であることは基本的です。
$G, H, K$ を群、$\varphi : G\to H$, $\psi : H\to K$ を準同型とする。このとき、合成 $\psi\circ \varphi : G\to K$ も準同型である。
任意の $g_{1}, g_{2}\in G$ に対して\[\psi(\varphi(g_{1}g_{2})) = \psi(\varphi(g_{1})\varphi(g_{2})) = \psi(\varphi(g_{1}))\psi(\varphi(g_{2}))\]なのでそうです。
次のことも基本的です。
$G, H$ を群、$\varphi : G\to H$ を群準同型とする。次が成立する。
(1) $\varphi(e_{G}) = \varphi(e_{G}e_{G}) = \varphi(e_{G})\varphi(e_{G})$ であり、両辺に $\varphi(e_{G})^{-1}$ を掛けることで $e_{H} = \varphi(e_{G})$ を得ます。
(2) $\varphi(g)\varphi(g^{-1}) = \varphi(gg^{-1}) = \varphi(e_{G}) = e_{H}$ であり、$\varphi(g^{-1})$ は $\varphi(g)$ の右逆元です。そして、命題3.1.10より逆元です。
(3) $h_{1}, h_{2}\in \Img \varphi$ とします。$\varphi(g_{1}) = h_{1}$, $\varphi(g_{2}) = h_{2}$ となる $g_{1}, g_{2}\in G$ を取れば、$h_{1}h_{2} = \varphi(g_{1})\varphi(g_{2}) = \varphi(g_{1}g_{2})\in \Img \varphi$ が従います。$e_{H}\in \Img \varphi$ は(1)よりよいです。任意の $h\in \Img \varphi$ に対して $h^{-1}\in \Img \varphi$ であることは $\varphi(g) = h$ となる $g\in G$ を取れば(2)を用いて $h^{-1} = \varphi(g)^{-1} = \varphi(g^{-1})\in \Img \varphi$ なのでよいです。以上より $\Img \varphi$ は $H$ の部分群になります。
(4) 任意の $g_{1}, g_{2}\in \Ker \varphi$ に対して $\varphi(g_{1}g_{2}) = \varphi(g_{1})\varphi(g_{2}) = e_{H}e_{H} = e_{H}$ より $g_{1}g_{2}\in \Ker \varphi$ です。$e_{G}\in \Ker \varphi$ は(1)よりよいです。任意の $g\in \Ker \varphi$ に対して $g^{-1}\in \Ker \varphi$ であることは(2)より $\varphi(g^{-1}) = \varphi(g)^{-1} = e_{H}^{-1} = e_{H}$ なのでよいです。以上より $\Ker \varphi$ は $G$ の部分群になります。また、任意の $g\in G$ と $g'\in \Ker \varphi$ に対して\[\varphi(gg'g^{-1}) = \varphi(g)\varphi(g')\varphi(g^{-1}) = \varphi(g)\varphi(g)^{-1} = e_{H}\]より $gg'g^{-1}\in \Ker \varphi$ であるので $\Ker \varphi\triangleleft G$ です。
(5) $g_{1}, g_{2}\in G$ が $\varphi(g_{1}) = \varphi(g_{2})$ を満たすとします。$e = \varphi(g_{1})\varphi(g_{2})^{-1} = \varphi(g_{1}g_{2}^{-1})$ より $g_{1}g_{2}^{-1}\in \Ker \varphi = \{e\}$ です。よって、$g_{1} = g_{2}$ であり単射です。
もう少し一般に、次も成立します。
$G, H$ を群、$\varphi : G\to H$ を群準同型とする。次が成立する。
(1) (2) いずれも容易です。
(3) 制限 $\pi^{-1}(H')\to H'$ に対して(2)を適用すればよいです。
$G, H$ を加法群、$\varphi, \psi : G\to H$ を群準同型とします。このとき、写像 $\varphi + \psi : G\to H$ を $(\varphi + \psi)(g) := \varphi(g) + \psi(g)$ により定めればこれは群準同型になります。この加法により $G$ から $H$ への群準同型全体からなる集合 $\Hom(G, H)$ は加法群になります。単位元は零写像 $0 : g\mapsto 0$ であり、準同型 $\varphi$ に対する逆元は $-\varphi : g\mapsto -\varphi(g)$ により与えられます。
また、準同型 $\varphi : G\to H$ と整数 $n\in \Z$ に対して $n$ 倍写像 $n\varphi$ を $(n\varphi)(g) := n\cdot \varphi(g)$ により定義すればこれも群準同型になります。
$G$ を群、$N$ をその正規部分群、$\pi : G\to G/N$ を射影とする。準同型 $\varphi : G\to H$ であって $N\subset \Ker\varphi$ を満たすものに対し、準同型 $\psi : G/N\to H$ であって $\varphi = \psi\circ \pi$ を満たすものが一意に存在する。
$\psi : G/N\to H : [g]\mapsto \varphi(g)$ と定めます。これがwell-definedであることは $[g_{1}] = [g_{2}]$ を満たす任意の $g_{1}, g_{2}\in G$ に対して $n\in N$ であって $g_{2} = g_{1}n$ を満たすものを取れば\[\varphi(g_{2}) = \varphi(g_{1}n) = \varphi(g_{1})\varphi(n) = \varphi(g_{1})e_{H} = \varphi(g_{1})\]なのでよいです。準同型になっていることは任意の $[g_{1}], [g_{2}]\in G/N$ に対して\[\psi([g_{1}][g_{2}]) = \psi([g_{1}g_{2}]) = \varphi(g_{1}g_{2}) = \varphi(g_{1})\varphi(g_{2}) = \psi([g_{1}])\psi([g_{2}])\]なのでよいです。$\varphi = \psi\circ \pi$ を満たすことは明らかであり、条件を満たす $\psi$ の一意性は射影 $\pi$ の全射性から従います。
群 $G$ に対してその部分集合 $S$ により生成する正規部分群は次の意味で普遍性を持ちます。
$G$ を群、$S$ をその部分集合、$\pi : G\to G/\ncl(S)$ を射影とする。準同型 $\varphi : G\to H$ であって $S\subset \Ker\varphi$ を満たすものに対し、準同型 $\psi : G/\ncl(S)\to H$ であって $\varphi = \psi\circ \pi$ を満たすものが一意に存在する。
$S\subset \Ker \varphi$ を満たす準同型 $\varphi : G\to H$ に対して $\ncl(S)\subset \Ker\varphi$ が成立することを示せば準同型定理 $($命題3.1.65$)$ より主張の準同型 $\psi$ の一意存在が従います。$n\in \ncl(S)$ を取ります。命題3.1.55と命題3.1.43よりある $s_{1}, \dots, s_{m}\in S\cup S^{-1}\cup \{e_{G}\}$, $g_{1}, \dots, g_{m}\in G$ が存在して $n = g_{1}s_{1}g_{1}^{-1}g_{2}s_{2}g_{2}^{-1}\dots g_{m}s_{m}g_{m}^{-1}$ です。各 $1\leq k\leq m$ に対して $g_{k}s_{k}g_{k}^{-1}\in \Ker\varphi$ であり、$n\in \Ker\varphi$ です。よって、$\ncl(S)\subset \Ker\varphi$ です。
群 $G$ とその生成系 $S$ が与えられているとします。群 $H$ への準同型 $\varphi, \psi : G\to H$ に対して $\varphi = \psi$ であることと $\varphi|_{S} = \psi|_{S}$ であることとは同値です。これは命題3.1.43から容易に確かめられます。
群についての同型が次で定義されます。
群準同型 $\varphi : G\to H$ であって全単射であるものを群同型写像や単に同型という。群 $G, H$ の間に群同型写像が存在するとき、$G$ と $H$ は同型であるといい $G\cong H$ と表す。
$G, H$ を群、$\varphi : G\to H$ を準同型とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) $\psi$ を $\varphi$ の逆写像として取ります。$\psi\circ \varphi = \Id_{G}$ および $\varphi\circ \psi = \Id_{H}$ が成立することは自明であり、あとは $\psi$ が準同型であることを示せばよいです。任意の $h_{1}, h_{2}\in H$ に対し、$\varphi(g_{1}) = h_{1}, \varphi(g_{2}) = h_{2}$ を満たす $g_{1}, g_{2}\in G$ を取れば\[\psi(h_{1}h_{2}) = \psi(\varphi(g_{1})\varphi(g_{2})) = \psi(\varphi(g_{1}g_{2})) = g_{1}g_{2} = \psi(\varphi(g_{1}))\psi(\varphi(g_{2})) = \psi(h_{1})\psi(h_{2})\]なので $\psi$ は準同型です。
(2) ⇒ (1) 自明です。
次も容易に確かめられ、同型による同値類別として群の同型類を考えることができます。
$G, H, K$ を群とする。次が成立する。
与えられた $2$ つの群が同型かどうかを判定する問題は非常に重要ですが、一般には難しいです。同型であることを確かめるには同型写像を構成するというのが当然の方法ですが、そのための基本的な道具として次の同型定理が知られています。
(1) 射影 $\pi : H\to H/N$ との合成 $\pi\circ \varphi : G\to H/N$ の核は $\varphi^{-1}(N)$ であり、準同型 $\psi : G/\varphi^{-1}(N)\to H/N$ を誘導します。$\psi$ の全射性は明らか、単射性も核が単位元 $\varphi^{-1}(N)$ のみからなることから従います。よって、この $\psi$ が主張の同型を与えます。
(2) $N\triangleleft HN$ は $N\triangleleft G$ から容易に従います。$H\cap N\triangleleft H$ は任意の $h\in H$ と $n\in H\cap N$ に対して $h, n\in H$ より $hnh^{-1}\in H$ であることと $N$ の正規性から $hnh^{-1}\in N$ であることを合わせて $hnh^{-1}\in H\cap N$ であるのでよいです。
主張の同型を示します。包含準同型 $i : H\to HN$ と射影 $\pi : HN\to HN/N$ の合成 $\varphi := \pi\circ i : H\to HN/N$ は $H\cap N\subset \Ker \varphi$ を満たすことから準同型 $\psi : H/(H\cap N)\to HN/N$ を誘導します。この $\psi$ について核 $\Ker\psi$ は単位元 $H\cap N$ のみからなるので単射です。あとは全射性を示せば $\psi$ が主張の同型を与えることが従いますが、これは任意の $hN\in HN/N$ に対して $\psi(h(H\cap N)) = \varphi(h) = hN$ であることからよいです。
(3) $M\triangleleft N$ は $M\triangleleft G$ から明らかです。$N/M\triangleleft G/M$ も任意の $gM\in G/M$ と $nM\in N/M$ に対して\[(gM)(nM)(gM)^{-1} = gng^{-1}M\in N/M\]であるのでよいです。
主張の同型を示します。射影 $G\to G/M$ および $G/M\to (G/M)/(N/M)$ の合成 $\varphi : G\to (G/M)/(N/M)$ を考えます。$\Ker\varphi = N$ であり、準同型 $\psi : G/N\to (G/M)/(N/M)$ が誘導されます。この $\psi$ が全単射であることは容易に分かり、主張の同型を与えます。
$1$ つの元からなる生成系を持つ群を巡回群といいます。巡回群はその位数が正整数 $n$ であれば剰余群 $\Z_{n} := \Z/n\Z$ に同型であり、位数が無限ならば $\Z$ に同型です。従って、巡回群の同型類はその位数によって一意に決まります。位数が正整数 $n$ である巡回群をそのまま位数 $n$ の巡回群といったり $n$ 次巡回群といいます。位数が無限の場合は位数無限の巡回群や無限巡回群といいます。
$G$ を位数 $n\in \Np$ の巡回群として同型 $G\cong \Z_{n}$ を示します。$G$ の生成元 $g$ を固定し、準同型 $\varphi : \Z\to G : n\mapsto g^{n}$ を考えます。全射性は $G$ の元がそれぞれ $g, g^{-1}, e$ たちいくつかの積で表されること $($命題3.1.43$)$ から明らかであり、あとは $\Ker\varphi = n\Z$ を満たすことを示せば第一同型定理より $G\cong \Z_{n}$ が従います。
ある $0\leq i < j\leq n$ であって $\varphi(i) = \varphi(j)$ を満たすものを取ります鳩の巣原理から取れます。。明らかに $j - i\in \Ker\varphi$ であり、$(j - i)\Z\subset \Ker \varphi$ です。よって、全射準同型 $\Z/(j - i)\Z\to \Z/\Ker\varphi\cong G$ が得られ、$n = \#G\leq \#(\Z/(j - i)\Z) = j - i$ が成立し、また、$i, j$ の取り方から $j - i\leq n$ なので $j - i = n$ です。ここで、$($第一および$)$ 第三同型定理から分かる同型 $G\cong \Z/\Ker\varphi\cong (\Z/n\Z)/(\Ker\varphi/n\Z)$ と命題3.1.48より $n = n\times (\Ker\varphi : n\Z)$ が成立し、$(\Ker\varphi : n\Z) = 1$ であり、$\Ker\varphi = n\Z$ が従います。
位数が無限の場合も $\varphi$ の全射性は同様によく、あとは $\Ker\varphi = \{0\}$ を示せばよいですが、これはもし $n\in \Ker\varphi\setminus \{0\}$ が取れたとすると全射準同型 $\Z/n\Z\to \Z/\Ker\varphi\cong G$ が存在することになり濃度比較から矛盾が導かれるので成立します。
与えられた群が直積群に同型であると何かと都合がよいため例えば、直積群との同一視のもとで成分ごとに考察が可能となるなど。、そのための十分条件として次も重要です。
群 $G$ とその部分群 $H_{1}, \dots, H_{n}$ が与えられ、条件
を満たしているとする。写像 $\psi : \prod_{i = 1}^{n}H_{i}\to G : (h_{1}, h_{2}, \dots, h_{n})\mapsto h_{1}h_{2}\dots h_{n}$ は同型 $\prod_{i = 1}^{n}H_{i}\cong G$ を与える。群 $G$ において部分群 $H_{1}, \dots, H_{n}$ がこの条件を満たしていることを $G$ は $H_{1}, \dots, H_{n}$ による直積に分解するなどといい $G = H_{1}\times H_{2}\times \dots\times H_{n}$ や $G = \prod_{i = 1}^{n}H_{n}$ により表す。この単に性質のよい部分群が与えられているという意味での直積を内部直積、命題3.1.20の具体的な群としての直積を外部直積と呼び厳密には区別される厳密に区別するためには内部直積の記号に外部直積の記号とは別のものを採用するのが普通ですが、ここでは特に厳密に区別しないので同じ記号で表します。。
(i)から $\psi$ が準同型であることが分かり、(iii)から $\psi$ が全射であることが分かります。あとは $\psi$ の単射性を示せば同型が分かります。$\psi(h) = e$ を満たす $h = (h_{1}, h_{2}, \dots, h_{n})\in \prod_{i = 1}^{n}H_{i}$ を取ります。各 $1\leq i\leq n$ に対し、(i)より $h_{i}^{-1} = h_{1}\dots h_{i - 1}h_{i + 1}\dots h_{n}$ であるこのことと(ii)より $h_{i} = e$ です。従って、$h = (e, e, \dots, e)$ であり $\psi$ は単射です。
逆に、与えられた $2$ つの群が同型でないことを確かめるには同型によって保たれるはずの性質特に、同型によって保たれる数などの値のことを不変量と呼びます。に差異があることを示すというのが基本的です。明らかなものでは台集合の濃度や可換性に差があるかを見ることが挙げられます。
$\Z_{4}$ と $\Z_{2}\times \Z_{2}$ が同型でないことは例えば以下のことを考えれば分かります。
与えられた群 $G$ から自身への同型写像を自己同型写像といいます。自己同型群などいくつか重要な群を導入しておきます。
$G$ を群とする。
(1) 明らかです。恒等写像 $\Id_{G}$ が単位元、各 $\varphi\in \Aut(G)$ に対して逆準同型 $\varphi^{-1}$ が逆元です。
(2) 明らかです。
(3) 任意の $i_{g}\in \Inn(G)$, $\varphi\in \Aut(G)$ に対して $\varphi\circ i_{g}\circ \varphi^{-1} = i_{\varphi(g)}\in \Inn(G)$ です $($例3.1.72$)$。よって、$\Inn(G)\triangleleft \Aut(G)$ です。
写像 $i : G\to \Aut(G) : g\mapsto i_{g}$ は群準同型であり、その像 $\Img i$ が $\Inn(G)$ です
群 $G$ から自身への準同型は自己準同型と呼ばれ、自己準同型全体からなる集合は $\End(G)$ により表されます。これは合成に関してモノイドになります。その単元群が自己同型群に一致することは明らかでしょう。また、明らかな方法で $\Aut(G)\subset \End(G)$ とみなせます。
$G$ を群とする。$\Aut(G) = \End(G)^{\times}$ が成立する。
より一般に、何かしら付加構造を与えられた集合 $X$ に対し、その付加構造を保ちかつ可逆という意味での自己同型写像全体からなる集合は合成により群をなします。これも自己同型群と呼ばれ $\Aut(X)$ で表されます。例えば、順序集合に対する自身への順序同型写像全体がそうです。考える付加構造によっては特別な呼称や記号が使われることも多く、例えば、位相空間 $X$ に対しては自己同相群 $\Homeo(X)$ であり、距離空間 $X$ に対しては等長変換群 $\Isom(X)$ となります。また、命題3.1.80と同様に自己準同型全体からなる集合 $\End(X)$ を合成に関してモノイドとみなせば $\Aut(X) = \End(X)^{\times}$ が成立します。
例として、巡回群の自己同型群を計算します。少し補題を用意します。
$n, d$ を正整数とする。次が成立する。
(1) $H = \{k[n/d]\in \Z_{p}\mid 0\leq k < n\}$ がそのような部分群です。一意性を示します。$K$ を位数 $d$ の部分群とします。その元 $[b]$ の位数は $d$ の約数であり、$d[b] = [0]$ が成立します。ある $k\in \Z$ が存在して $db = kn$ であり、$[b] = k[n/d]\in H$ が従います。よって、$K\subset H$ ですが、それぞれの濃度を見れば $K = H$ です。
(2) 部分群の位数はもとの群の位数の約数である必要があります。
(3) 例3.1.75より $\Z_{n}$ および $\Z$ のみ考えればよいです。有限巡回群 $\Z_{n}$ の場合は(1)の証明で取った位数 $d$ の部分群 $H$ が $[n/d]$ で生成することから容易に分かります。無限巡回群 $\Z$ の場合もその部分群が $n\Z = \langle n\rangle$ の形ものに限られることが容易に確かめられよいです。
$n$ を正整数とする。次が成立する。
(1) 準同型 $\varphi : \Z_{n}\to \Z_{n}$ は生成元 $1$ の行き先 $\varphi(1)$ によって一意に決まることから各 $a\in \Z_{n}$ に $\Z_{n}$ の $a$ 倍写像を対応させる写像 $\Z_{n}\to \End(\Z_{n})$ は全射です。単射性とモノイド準同型になっていることも容易であり、モノイドとしての同型 $\Z_{n}\cong \End(\Z_{n})$ が成立します。
(2) 単元群を取れば $\Z_{n}^{\times}\cong \End(\Z_{n})^{\times} = \Aut(\Z_{n})$ です。
(3) (1)より $\End(\Z_{n})$ の各元は定数倍写像であり、このことから明らかに可換です。$\Aut(\Z_{n})$ については $\End(\Z_{n})$ の可換性から従います。
互いに素な正整数 $n, m$ に対して次の同型が成立する。
より一般に、互いに素な位数 $n, m$ を持つ有限群 $G, H$ に対して
(1) $kn + lm = 1$ を満たす整数 $k, l$ を取ります。準同型 $\varphi : \Z\times \Z\to \Z_{nm} : (s, t)\mapsto lms + knt + nm\Z$ を取ります。$n\Z\times m\Z\subset \Ker \varphi$ であり準同型 $\psi : \Z_{n}\times \Z_{m}\to \Z_{nm}$ が誘導されます。$\psi(1 + n\Z, 1 + m\Z) = 1 + nm\Z$ は $\Z_{nm}$ の生成元なので $\psi$ は全射です。濃度を見れば単射性も分かり、$\psi$ は同型です。
(2) (3)からただちに従います。
(3) 準同型 $\varphi : \Aut(G)\times \Aut(H)\to \Aut(G\times H) : (\alpha, \beta)\mapsto \alpha\times \beta$ が同型を与えることを示します。単射性は明らかです。全射性を示します。$\gamma\in \Aut(G\times H)$ を取ります。射影 $\pr_{2} : G\times H\to H$ を考えます。任意の $g\in G$ に対して\[\ord_{H}(\pr_{2}(\gamma(g, e_{H})))\mid \ord_{G\times H}(\gamma(g, e_{H})) = \ord_{G\times H}(g, e_{H}) = \ord_{G}(g)\mid n\]であることと $\ord_{H}(\pr_{2}(\gamma(g, e_{H})))\mid m$ と $n, m$ が互いに素であることから $\ord_{H}(\pr_{2}(\gamma(g, e_{H}))) = 1$ であり、$\pr_{2}(\gamma(g, e_{H})) = e_{H}$ です。これは $\gamma$ が $G\times \{e_{H}\}$ を保つことを意味します。$\{e_{G}\}\times H$ を保つことも同様に分かります。$\alpha := \gamma|_{G\times \{e_{H}\}}\in \Aut(G)$, $\beta := \gamma|_{\{e_{G}\}\times H}\in \Aut(H)$ と定めれば任意の $(g, h)\in G\times H$ に対して\[\gamma(g, h) = \gamma(g, e_{H})\cdot \gamma(e_{G}, h) = (\alpha(g), e_{H})\cdot (e_{G}, \beta(h)) = (\alpha(g), \beta(h)) = (\alpha\times \beta)(g, h)\]であり、$\gamma = \alpha\times \beta = \varphi(\alpha, \beta)$ です。よって、全射性も確かめられ、$\varphi$ は同型です。
$n$ を正整数、$d$ を整数とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) $[d]$ の逆元 $[b]\in \Z_{n}$ を取ります。任意の $[c]\in \Z_{n}$ に対して $[c] = [c][b][d] = cb[d]$ であり、$\Z_{n}\subset \langle[d]\rangle$ です。よって、$[d]$ は生成元です。
(2) ⇔ (3) 自明です。
(2) ⇒ (4) ある $b\in \Z$ が存在して $b[d] = [1]$ であり、これは $bd\equiv 1\mod n$ を意味します。よって、$n, d$ は互いに素です。
(4) ⇒ (1) 仮定よりある $k, l\in \Z$ であって $kn + ld = 1$ を満たすものが取れます。$[l][d] = [1]$ であり、$[d]$ は可逆です。
$G$ を有限群、$n$ をその位数とする。$n$ の各約数 $d$ に対して $\#\{g\in G\mid g^{d} = e\}\leq d$ が成立すれば同型 $G\cong \Z_{n}$ が成立する。
$a_{d} := \{g\in G\mid \ord_{G}(g) = d\}$ とおきます。明らかに $\sum_{d\mid n}a_{d} = n$ です。仮定の評価より $G$ の位数 $d$ の巡回部分群は存在すればただ $1$ つです。よって、位数 $d$ の巡回部分群が存在する場合の $a_{d}$ は $\Z_{d}$ の生成元の数に等しく、存在しない場合は $a_{d} = 0$ です。
$b_{d} := \{k\in \Z_{n}\mid \ord_{\Z_{n}}(k) = d\}$ とおきます。明らかに $\sum_{d\mid n}b_{d} = n$ です。補題3.1.82より各 $d\mid n$ に対して $\Z_{n}$ の位数 $d$ の巡回部分群は唯一存在し、$b_{d}$ は $\Z_{d}$ の生成元の数に等しいです。よって、各 $d\mid n$ に対して $a_{d}\leq b_{d}$ です。$\sum_{d\mid n}a_{d} = n = \sum_{d\mid n}b_{d}$ と合わせると各 $d\mid n$ に対して $a_{d} = b_{d}$ であり、特に $a_{n} = b_{n} > 0$ が従います。よって、$G\cong \Z_{n}$ です。
では巡回群の自己同型群を計算します。補題3.1.84によれば、本質的には位数が素数冪の巡回群と無限巡回群について決まれば全ての巡回群に対して計算できたことになります。
$p$ を奇素数、$r$ を $2$ 以上の整数とする。次が成立する。
素数 $p$ と正整数 $r$ に対して $|\Aut(\Z_{p^{r}})|$ は $0$ から $p^{r} - 1$ までの整数のうち $p$ と互いに素なものの数、つまりは $p$ の倍数でないものの数 $(p - 1)p^{r - 1}$ に等しいことに注意します $($補題3.1.83$)$。
(1) $|\Aut(\Z_{2})| = 1$ より自明です。
(2) $r = 2$ のときは $|\Aut(\Z_{2})| = 2$ であり $\Z_{2}$ に同型です。以下では $r\geq 3$ として次のことを示します。
(i) $(2 + 1)^{2^{r - 3}}\not\equiv 1 \mod 2^{r}$ を示せば $[3]\in \Z_{2^{r}}^{\times}$ の位数は $2^{r - 3}$ よりも大きい $2$ の冪であり位数 $2^{r - 2}$ の元の存在が従います。$r = 3, 4$ の場合は直接計算より分かります。$r\geq 5$ の場合は任意の $5\leq l\leq 2^{r - 3}$ に対して $\comb{2^{r - 3}}{l}\cdot 2^{l}$ が $2^{r}$ の倍数になること正整数 $l$ に対してその素因数分解に現れる $2$ の指数を $\alpha(l)$ で表すとします。任意の $1\leq l < 2^{r - 3}$ に対して $\alpha(l) = \alpha(2^{r - 3} - l)$ であり、よって、任意の $1\leq l < 2^{r - 3}$ に対して $\alpha(\comb{2^{r - 3}}{l}2^{l}) = r - 3 - \alpha(l) + l$ です。$5\leq l < 2^{r - 3}$ においてこれが $r$ 以上であることが容易に分かります。$l = 2^{l - 3}$ の場合は自明です。に注意し、$2^{r}$ を法として\begin{eqnarray*}(2 + 1)^{2^{r - 3}} & = & \sum_{l = 0}^{2^{r - 3}}\comb{2^{r - 3}}{l}\cdot 2^{l} \\& \equiv & 1 + 2^{r - 3}\cdot 2 + \tfrac{2^{r - 3}(2^{r - 3} - 1)}{2}\cdot 2^{2} + \tfrac{2^{r - 3}(2^{r - 3} - 1)(2^{r - 3} - 2)}{2\cdot 3}\cdot 2^{3} + \tfrac{2^{r - 3}(2^{r - 3} - 1)(2^{r - 3} - 2)(2^{r - 3} - 3)}{2\cdot 3\cdot 4}\cdot 2^{4} \\& \equiv & 1 + 2^{2r - 5} + \tfrac{(2^{r - 3} - 1)(2^{r - 4} - 1)}{3}\cdot 2^{r} + \tfrac{(2^{r - 3} - 1)(2^{r - 4} - 1)(2^{r - 3} - 3)}{3}\cdot 2^{r - 1} \\& \equiv & 1 + \tfrac{(2^{r - 3} - 1)(2^{r - 4} - 1)(2^{r - 3} - 3)}{3}\cdot 2^{r - 1}\equiv 1 + 2^{r - 2}\not\equiv 1\end{eqnarray*}と計算できます。
(ii) 任意の奇数 $2k + 1$ に対して $(2k + 1)^{2^{r - 2}}\equiv 1 \mod 2^{r}$ を示せば $\Z_{2^{r}}^{\times}$ の各元の位数が $2^{r - 2}$ 以下であることが従います。$r = 3$ の場合は直接計算より分かります。$r\geq 4$ の場合は任意の $3\leq l\leq 2^{r - 2}$ に対して $\comb{2^{r - 2}}{l}\cdot (2k)^{l}$ が $2^{r}$ の倍数になることに注意し、$2^{r}$ を法として\begin{eqnarray*}(2 + 1)^{2^{r - 2}} & = & \sum_{l = 0}^{2^{r - 2}}\comb{2^{r - 2}}{l}\cdot (2k)^{l} \\& \equiv & 1 + 2^{r - 2}\cdot 2k + \tfrac{2^{r - 2}(2^{r - 2} - 1)}{2}\cdot (2k)^{2} \\& \equiv & 1 + (k + (2^{r - 2} - 1)k^{2})2^{r - 1}\equiv 1 \\\end{eqnarray*}と計算できます。
(iii) $G$ の位数 $2^{r - 2}$ の巡回部分群 $H$ と元 $f\in G\setminus H$ を取ります。適当な同型により $H\cong \Z_{2^{r - 2}}$ と同一視を行うとき、$2f\in \Z_{2^{r - 2}}$ の代表元として偶数 $2k$ が取れますもしも代表元が奇数 $l$ とすると、$l$ の位数は $2^{r - 2}$ であり、$f$ の位数は $2^{r - 1}$ となって仮定に矛盾します。。ここで $f - [k]\in G\setminus H$ の位数は $2$ であり、$H + \langle f - [k]\rangle = G$ および $H\cap \langle f - [k]\rangle = \{0\}$ が成立します。よって、同型 $G\cong \langle f - [k]\rangle\times H\cong \Z_{2}\times \Z_{2^{r - 2}}$ が成立します。
(3) $|\Aut(\Z_{p})| = p - 1$ です。各 $d\mid p - 1$ に対して $x^{d} = 1\in \Z_{p}^{\times}$ を満たす $x\in \Z_{p}^{\times}$ の数が $d$ 個以下であることを示せば補題3.1.86より同型 $\Z_{p}^{\times}\cong \Z_{p - 1}$ が従います。$d\mid p - 1$ を取り、相異なる $a_{1}, \dots, a_{d + 1}\in \Z_{p}$ であってそれぞれ $a_{i}^{d} = 1$ を満たすものが存在したとして矛盾を導きます。各 $a_{i}$ は体 $\F_{p} = \Z_{p}$ を係数とする方程式 $x^{d} - 1 = 0$ の解であり、$x^{d} - 1 = \prod_{i = 1}^{d}(x - a_{i})$ と分解されます実係数多項式に対して成立する因数定理が一般の体係数で成立することによります。この場合でいうと、体 $\F_{p}$ 係数の $n$ 次多項式 $f(x)$ と $a\in \F_{p}$ に対して $f(a) = 0$ が成立しているならば、ある $n - 1$ 次多項式 $g(x)$ が存在して $f(x) = (x - a)g(x)$ が成立するというものです。もし $x^{d} - 1 = f(x)\prod_{i = 1}^{k}(x - a_{i})$ と $d - k$ 次多項式 $f(x)$ を用いて表されるとき、$a_{k + 1}$ は $f(x) = 0$ の解であり、$f(x) = (x - a_{k + 1})g(x)$ と分解し、$x^{d} - 1 = g(x)\prod_{i = 1}^{k + 1}(x - a_{i})$ が従います。これを繰り返せば $x^{d} - 1 = \prod_{i = 1}^{d}(x - a_{d})$ が従います。。しかし、$\prod_{i = 1}^{d}(a_{d + 1} - a_{i})\neq 0$ であり、これは $a_{d + 1}$ が解であることに矛盾です。
(4) 次のことを示します。
(i) 容易に分かるように\begin{align}(p + 1)^{p^{r - 2}} &\equiv 1 + p^{r - 1} &\mod p^{r}, \\(p + 1)^{p^{r - 1}} &\equiv 1 &\mod p^{r}\end{align}であり、$p + 1$ が $\Z_{p^{r}}^{\times}$ における位数 $p^{r - 1}$ の元を代表します。
(ii) $\Z_{p}^{\times}$ における位数 $p - 1$ の元を代表する整数が $\Z_{p^{r}}$ において代表する元の位数は $(p - 1)p^{s}$ の形に表せます。その元で生成する巡回部分群が位数 $p - 1$ の部分群を持ちます。
(iii) 容易です。
(5) 有限巡回群の場合と同様に $\Aut(\Z)\cong \Z^{\times}$ が示され、よって、$\Aut(\Z)\cong \Z_{2}$ です。
位数 $7! = 2^{4}\cdot 3^{2}\cdot 5\cdot 7 = 5040$ の巡回群の自己同型群は\begin{eqnarray*}\Aut(\Z_{5040}) & \cong & \Aut(\Z_{2^{4}})\times \Aut(\Z_{3^{2}})\times \Aut(\Z_{5})\times \Aut(\Z_{7}) \\& \cong & (\Z_{2}\times \Z_{4})\times (\Z_{2}\times \Z_{3})\times \Z_{4}\times (\Z_{2}\times \Z_{3}) \\& \cong & \Z_{2}^{3}\times \Z_{3}^{2}\times \Z_{4}^{2}\end{eqnarray*}と計算できます。
各正整数 $n\in \Np$ に対して単元群 $\Z_{n}^{\times}$ の位数を返す関数をEuler関数と呼び、通常は $\varphi$ により表します。これまで示してきたことから次のことが容易に確かめられます。
群 $N, H$ と準同型 $\varphi : H\to \Aut(N)$ が与えられているとします。直積集合 $N\times H$ 上の積を\[(n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}, h_{2}) := (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2}), h_{1}h_{2})\]により定めることで群が得られます。これを半直積といい $N\rtimes_{\varphi} H$ や単に $N\rtimes H$ により表します。次を確かめておきます。
半直積 $N\rtimes_{\varphi} K$ は実際に群である。
結合律は任意の $(n_{1}, h_{1}), (n_{2}, h_{2}), (n_{3}, h_{3})\in N\times K$ に対して\begin{eqnarray*}((n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}, h_{2}))\cdot (n_{3}, h_{3}) & = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2}), h_{1}h_{2})\cdot (n_{3}, h_{3}) \\& = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2})\varphi(h_{1}h_{2})(n_{3}), h_{1}h_{2}h_{3}) \\(n_{1}, h_{1})\cdot ((n_{2}, h_{2})\cdot (n_{3}, h_{3})) & = & (n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}\varphi(h_{2})(n_{3}), h_{2}h_{3}) \\& = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2}\varphi(h_{2})(n_{3})), h_{1}h_{2}h_{3}) \\& = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2})\varphi(h_{1})(\varphi(h_{2})(n_{3})), h_{1}h_{2}h_{3}) \\& = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2})(\varphi(h_{1})\varphi(h_{2}))(n_{3}), h_{1}h_{2}h_{3}) \\& = & (n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2})\varphi(h_{1}h_{2})(n_{3}), h_{1}h_{2}h_{3})\end{eqnarray*}であるのでよいです。単位元は $(e_{N}, e_{H})$ であり、元 $(n, h)\in N\times H$ に対する逆元は $(\varphi(h^{-1})(n^{-1}), h^{-1})$ です。
半直積 $N\rtimes_{\varphi} H$ が与えられたとき、そのもととした群 $N, K$ は明らかな準同型\[N\to N\rtimes_{\varphi} H : n\mapsto (n, e_{H}),\]\[H\to N\rtimes_{\varphi} H : h\mapsto (e_{N}, h)\]を包含準同型とみなして部分群と考えることができます。このとき、次が成立します。
半直積 $N\rtimes_{\varphi} H$ に対して次が成立する。
与えられた群に部分群が上手く配置されていればそれらによる半直積の構造が得られます。
群 $G$ とその部分群 $N, H$ が与えられ、条件
を満たしているとする。準同型 $\varphi : H\to \Aut(N)$ を各 $h\in H$ に対して\[\varphi(h) : N\to N : n\mapsto hnh^{-1}\]として定めるとき、写像 $\psi : N\times H\to G : (n, h)\mapsto nh$ は同型 $N\rtimes_{\varphi}H\cong G$ を与える。群 $G$ において部分群 $N, H$ がこの条件を満たしていることを $G$ は $N, H$ による半直積に分解するなどといい $G = N\rtimes H$ により表す。この単に性質のよい部分群が与えられているという意味での半直積を内部半直積、具体的な群としての半直積を外部半直積と呼び厳密には区別される。
まず前提として、(i)より準同型 $\varphi$ がきちんと定まります。あとは $\psi$ が全単射な準同型であることを確認すればよいです。単射性は(ii)から、全射性は(iii)から従います。準同型であることは任意の $(n_{1}, h_{1}), (n_{2}, h_{2})\in N\times H$ に対して\[\psi((n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}, h_{2})) = \psi(n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2}), h_{1}h_{2}) = n_{1}h_{1}n_{2}h_{1}^{-1}h_{1}h_{2} = n_{1}h_{1}n_{2}h_{2} = \psi(n_{1}, h_{1})\psi(n_{2}, h_{2})\]なのでよいです。以上により $\psi$ は同型です。
$G, H$ を群、$\varphi : G\to H$ を全射準同型とする。また、準同型 $\iota : H\to G$ であって $\varphi\circ \iota = \Id_{H}$ を満たすものが与えられているとする。このとき、$G$ は半直積 $N\rtimes H$ の構造を持つ。
$\iota : H\to G$ を包含準同型として $H\leq G$ と考えれば命題3.1.92の条件を満たしています。
群と準同型による列 $($系列とも呼ぶ$)$\[G_{n}\xrightarrow{\varphi_{n}} G_{n + 1}\xrightarrow{\varphi_{n + 1}} G_{n + 2}\xrightarrow{\varphi_{n + 2}} \cdots\xrightarrow{\varphi_{m - 1}} G_{m}\]であって任意の $n < k < m$ に対して $\Img \varphi_{k - 1} = \Ker \varphi_{k}$ を満たすものを群の完全系列や単に完全系列と呼びます。左右のいずれか、もしくは両方に無限に続いていても同様の条件を満たせば完全系列と呼ばれます。完全系列の中でも特に\[1\to N\xrightarrow{\varphi} G\xrightarrow{\psi} H\to 1\]の形のものは短完全系列と呼ばれ、このときの $G$ は $N$ による $H$ の拡大であるといいます。この短完全系列において、$\varphi$ の単射性と $\psi$ の全射性は明らかでしょう。また、準同型 $\iota : H\to G$ であって $\psi\circ \iota = \Id_{H}$ を満たすものが存在する、つまり、全射側の準同型に対する切断を準同型にとれるとき、短完全系列は分解するといいます。系3.1.93によれば、分解する短完全系列においては真ん中の群 $G$ を適当な同型による同一視のもとで半直積 $N\rtimes H$ に分解し、逆に、半直積が与えられるとそこから分解する短完全系列が得られます。
次は $2$ つの準同型 $\varphi, \psi : H\to \Aut(N)$ から構成した半直積が互いに同型になるための十分条件を含みます。
$N, H$ を群、$\varphi, \psi : H\to \Aut(N)$ を準同型とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) $\alpha\in \Aut(N)$ は制限 $\gamma|_{N}$ に取ります。$\pi_{\varphi} : N\rtimes_{\varphi} H\to H$, $\pi_{\psi} : N\rtimes_{\psi} H$ を射影とし、$\beta$ は次の図式を可換にするように取ります$\gamma$ の全射性と $N = \gamma^{-1}(N)$ と同型定理より $\gamma$ は同型 $\beta$ を誘導します。。
任意の $(n, h)\in N\rtimes_{\varphi} H$ に対して\[\gamma(n, h) = \gamma(n, e_{H})\gamma(e_{N}, h) = (\alpha(n), e_{H})\cdot (e_{N}, \beta(h)) = (\alpha(n), \beta(h))\]です。よって、任意の $(n_{1}, h_{1}), (n_{2}, h_{2})\in N\rtimes_{\psi} H$ に対して\begin{eqnarray*}(n_{1}\psi(h_{1})(n_{2}), h_{1}h_{2}) & = & (n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}, h_{2}) \\& = & \gamma(\alpha^{-1}(n_{1}), \beta^{-1}(h_{1}))\gamma(\alpha^{-1}(n_{2}), \beta^{-1}(h_{2})) \\& = & \gamma((\alpha^{-1}(n_{1}), \beta^{-1}(h_{1}))\cdot (\alpha^{-1}(n_{2}), \beta^{-1}(h_{2}))) \\& = & \gamma(\alpha^{-1}(n_{1})\varphi(\beta^{-1}(h_{1}))(\alpha^{-1}(n_{2})), \beta^{-1}(h_{1})\beta^{-1}(h_{2})) \\& = & (n_{1}(\alpha\circ \varphi(\beta^{-1}(h_{1}))\circ \alpha^{-1})(n_{2}), h_{1}h_{2})\end{eqnarray*}です。従って、任意の $n_{2}\in N$, $h_{1}\in H$ に対して\[\psi(h_{1})(n_{2}) = (\alpha\circ \varphi(\beta^{-1}(h_{1}))\circ \alpha^{-1})(n_{2})\]です。以上より、任意の $h\in H$ に対して $\psi(h) = \alpha\circ \varphi(\beta^{-1}(h))\circ \alpha^{-1}$ です。
(2) ⇒ (1) 写像 $\gamma : N\rtimes_{\varphi} H\to N\rtimes_{\psi} H$ を各 $(n, h)\in N\rtimes_{\varphi} H$ に対して\[\gamma(n, h) := (\alpha(n), \beta(h))\]として定め、これが $N$ を保つ同型であることを示します。全単射であることと $N$ を保つことは明らかであり、あとは準同型であることが確かめられればよいですが、これは任意の $(n_{1}, h_{1}), (n_{2}, h_{2})\in N\rtimes_{\varphi} H$ に対して\begin{eqnarray*}\gamma((n_{1}, h_{1})\cdot (n_{2}, h_{2})) & = & \gamma(n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2}), h_{1}h_{2}) \\& = & (\alpha(n_{1}\varphi(h_{1})(n_{2})), \beta(h_{1}h_{2})) \\& = & (\alpha(n_{1})(\alpha\circ \varphi(h_{1})\circ \alpha^{-1})(\alpha(n_{2})), \beta(h_{1})\beta(h_{2})) \\& = & (\alpha(n_{1})\psi(\beta(h_{1}))(\alpha(n_{2})), \beta(h_{1})\beta(h_{2})) \\& = & (\alpha(n_{1}), \beta(h_{1}))\cdot (\alpha(n_{2}), \beta(h_{2})) \\& = & \gamma(n_{1}, h_{1})\gamma(n_{2}, h_{2})\end{eqnarray*}であるのでよいです。
群 $G$ の元 $g, h$ に対して元 $ghg^{-1}h^{-1}\in G$ を $g$ と $h$ の交換子といい $[g, h]$ で表します。交換子について次が容易に確かめられます。
$G$ を群とする。任意の $g, h, k\in G$ に対して次が成立する。
また、部分群 $H, K\leq G$ に対して元 $h\in H$,$k\in K$ の交換子 $[h, k]$ 全体により生成される部分群 $\langle [h, k]\mid h\in H, \ k\in K\rangle$ を $H$ と $K$ の交換子群といい $[H, K]$ により表します。$H = K = G$ としたときの交換子群 $[G, G]$ が特に重要であり、これは $G$ の交換子群と呼ばれます。交換子群について次が成立します。
$G$ を群、$H, K$ を部分群とする。次が成立する。
(1) 任意の $h\in H$, $k\in K$ に対して $[h, k] = [k, h]^{-1}\in [K, H]$ であり $[H, K]\leq [K, H]$ が成立します。逆の包含関係も同様に成立し、$[H, K] = [K, H]$ です。
(2) 任意の $g\in G$, $h\in H$, $k\in K$ に対して $g[h, k]g^{-1} = [ghg^{-1}, gkg^{-1}]$ ですが、$H, K$ の正規性から $ghg^{-1}\in H$, $gkg^{-1}\in K$ であり、$g[h, k]g^{-1}\in [H, K]$ です。よって、命題3.1.52より $[H, K]\triangleleft G$ です。
群 $G$ とその部分群 $H, K$ が与えられたとき、元 $h\in H$, $k\in K$ の交換子 $[h, k]$ の形で表される元全体により生成される正規部分群による剰余群は次の意味で普遍性を持ちます。
$G$ を群、$H, K$ をその部分群、$\pi : G\to G/\ncl([H, K])$ を射影とする。任意の $[h]\in \pi(H)$, $[k]\in \pi(K)$ に対して $[h][k] = [k][h]$ が成立する。また、準同型 $\varphi : G\to L$ であって任意の $h\in H$ と $k\in K$ に対して $\varphi(hk) = \varphi(kh)$ を満たすものに対し、準同型 $\psi : G/\ncl([H, K])\to L$ であって $\varphi = \psi\circ \pi$ を満たすものが一意に存在する。
任意の $h\in H$, $k\in K$ に対して $[e] = \pi([h, k]) = \pi(hkh^{-1}k^{-1}) = [h][k][h]^{-1}[k]^{-1}$ であり、つまり、$[h][k] = [k][h]$ です。残りの普遍性についても系3.1.66より直ちに従います。
特に、$H, K = G$ とした場合に剰余群 $G/[G, G]$ は可換群であり、これを $G$ のAbel化といいます。ここでは $G^{\ab}$ により表すことにします。Abel化は次の意味で普遍性を持ちます。
$G$ を群、$\pi : G\to G^{\ab}$ を射影とする。$G$ から可換群 $H$ への準同型 $\varphi : G\to H$ に対し、準同型 $\psi : G^{\ab}\to H$ であって $\varphi = \psi\circ \pi$ を満たすものが一意に存在する。
可換モノイドが与えられたとき、そこからある意味で普遍性を持つ群を構成することができGrothendieck群と呼ばれます。
$M$ を可換モノイドとする。ある群 $G$ とモノイド準同型 $\iota : M\to G$ の対 $(G, \iota)$ であって任意の群 $H$ とモノイド準同型 $\sigma : M\to H$ の対 $(H, \sigma)$ に対して $\sigma = \varphi\circ \iota$ を満たす群準同型 $\varphi : G\to H$ が一意に存在するものが存在する。また、この $G$ は可換である。
$M\times M$ の関係 $\sim$ を\[(m_{1}, n_{1})\sim (m_{2}, n_{2}) :\Leftrightarrow {}^{\exists}r_{1}, r_{2}\in M \text{ s.t. } (m_{1} + r_{1}, n_{1} + r_{1}) = (m_{2} + r_{2}, n_{2} + r_{2})\]として定め、まずは次のことを確かめます。
(i) 反射律と対称律は自明です。推移律を示します。$(m_{1}, n_{1})\sim (m_{2}, n_{2})\sim (m_{3}, n_{3})$ とします。ある $r_{1}, r_{2}, s_{2}, s_{3}\in M$ であって $(m_{1} + r_{1}, n_{1} + r_{1}) = (m_{2} + r_{2}, n_{2} + r_{2})$, $(m_{2} + s_{2}, n_{2} + s_{2}) = (m_{3} + s_{3}, n_{3} + s_{3})$ となるものを取ります。このとき、\begin{eqnarray*}(m_{1} + r_{1} + s_{2}, n_{1} + r_{1} + s_{2}) & = & (m_{2} + r_{2} + s_{2}, n_{2} + r_{2} + s_{2}) \\& = & (m_{3} + r_{2} + s_{3}, n_{3} + r_{2} + s_{3})\end{eqnarray*}です。以上によりこの $\sim$ は同値関係です。
(ii) まず、$G$ の二項演算が誘導されるというのは、$[m_{1}, n_{1}], [m_{2}, n_{2}]\in G$ に対して\[[m_{1}, n_{1}]\cdot [m_{1}, n_{1}] := [m_{1} + m_{2}, n_{1} + n_{2}]\]と定めた積がwell-definedということですが、これは任意の $(m_{1}, n_{1})\sim (m'_{1}, n'_{1})$, $(m_{2}, n_{2})\sim (m'_{2}, n'_{2})$ に対して $r_{1}, r'_{1}, r_{2}, r'_{2}\in M$ であって $(m_{1} + r_{1}, n_{1} + r_{1}) = (m'_{1} + r'_{1}, n'_{1} + r'_{1})$, $(m_{2} + r_{2}, n_{2} + r_{2}) = (m'_{2} + r'_{2}, n'_{2} + r'_{2})$ を満たすものをとれば\begin{eqnarray*}(m_{1} + m_{2}, n_{1} + n_{2}) & \sim & (m_{1} + m_{2} + r_{1} + r_{2}, n_{1} + n_{2} + r_{1} + r_{2}) \\& = & (m'_{1} + m'_{2} + r'_{1} + r'_{2}, n'_{1} + n'_{2} + r'_{1} + r'_{2}) \\& \sim & (m'_{1} + m'_{2}, n'_{1} + n'_{2})\end{eqnarray*}であるのでよいです。結合律が成立すること、$[0, 0]$ が単位元になること、各 $[m, n]\in G$ に対して $[n, m]$ がその逆元になることは明らかであり、$G$ は群になります。可換性も明らかです。
(iii) 自明です。
以下、$G$ の積は加法の記号 $+$ で表すことにして、対 $(G, \iota)$ が普遍性を持つことを確認します。群 $H$ とモノイド準同型 $\sigma : M\to H$ の対 $(H, \sigma)$ を取ります。写像 $\varphi : G\to H$ を\[\varphi([m, n]) := \sigma(m)\sigma(n)^{-1}\]として定め、
を確認すればよいです。
(iv) $(m_{1}, n_{1})\sim (m_{2}, n_{1})\in M\times M$ を取ります。$r_{1}, r_{2}\in M$ であって $(m_{1} + r_{1}, n_{1} + r_{1}) = (m_{2} + r_{2}, n_{2} + r_{2})$ を満たすものを取ります。このとき、\begin{eqnarray*}&& \sigma(m_{1})\sigma(n_{1})^{-1} = \sigma(m_{1})\sigma(r_{1})\sigma(r_{1})^{-1}\sigma(n_{1})^{-1} = \sigma(m_{1} + r_{1})\sigma(n_{1} + r_{1})^{-1} \\& = & \sigma(m_{2} + r_{2})\sigma(n_{2} + r_{2})^{-1} = \sigma(m_{2})\sigma(r_{2})\sigma(r_{2})^{-1}\sigma(n_{2})^{-1} = \sigma(m_{2})\sigma(n_{2})^{-1}\end{eqnarray*}です。よって、well-definedです。
(v) 自明です。
(vi) 自明です。
(vii) 条件の $\sigma = \varphi\circ \iota$ から任意の $m\in M$ に対して $\varphi([m, 0]) = \sigma(m)$ であり、従って、任意の $(m, n)\in M\times M$ に対して $\varphi([m, n]) = \varphi([m, 0] - [n, 0]) = \sigma(m)\sigma(n)^{-1}$ でなければなりません。これが一意性を意味します。
非負整数全体が加法に関して定める可換モノイド $\N$ のGrothendieck群は整数全体が加法に関して定める可換群 $\Z$ に同型です。
群についても帰納極限や射影極限が考えられます。集合レベルでは1.3.4節で整備しています。まずは帰納極限から。
有向集合 $\Lambda$ を添字集合にもつ群の族 $\{G_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ と準同型の族 $\{f_{\lambda\mu} : G_{\lambda}\to G_{\mu}\}_{\lambda \leq \mu\in \Lambda}$ であって次を満たすものが与えれられているとする。
これらの対を単に $(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ などと書き、群の帰納系 $($inductive system$)$ という。
帰納系 $(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ が与えられているとする。集合レベルでの帰納極限の元 $g, h\in \underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}$ に対して以下の手順で積 $g\cdot h$ を定める。
この積はwell-definedであり、$\underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}$ は群になる。これを群の帰納系 $(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ の帰納極限という。
well-definedであることを示します。$g_{\lambda'}\in G_{\lambda'}$, $h_{\mu'}\in G_{\mu'}$ を $g, h$ の代表元とし、$\lambda', \mu'\leq \nu'$ となる $\nu'\in \Lambda$ を取り、$f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\nu}(h_{\mu})\sim f_{\lambda'\nu'}(g_{\lambda'})\cdot f_{\mu'\nu'}(h_{\mu'})$ を示せばよいです。$\lambda''\in \Lambda$ を $\lambda, \lambda'\leq \lambda''$ かつ $f_{\lambda\lambda''}(g_{\lambda}) = f_{\lambda'\lambda''}(g_{\lambda'})$ となるように取り、同様に $\mu''\in \Lambda$ を $\mu, \mu'\leq \mu''$ かつ $f_{\mu\mu''}(h_{\mu}) = f_{\mu'\mu''}(h_{\mu'})$ を満たすように取ります。そして、$\xi\in \Lambda$ を $\lambda'', \mu'', \nu, \nu'\leq \xi$ を満たすように取ります。
このとき、\begin{eqnarray*}f_{\nu\xi}(f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\nu}(h_{\mu})) & = & f_{\lambda\xi}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\xi}(h_{\mu}) \\& = & f_{\lambda''\xi}\circ f_{\lambda\lambda''}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu''\xi}\circ f_{\mu\mu''}(h_{\mu}) \\& = & f_{\lambda''\xi}\circ f_{\lambda'\lambda''}(g_{\lambda'})\cdot f_{\mu''\xi}\circ f_{\mu'\mu''}(h_{\mu'}) \\& = & f_{\lambda'\xi}(g_{\lambda'})\cdot f_{\mu'\xi}(h_{\mu'}) = f_{\nu'\xi}(f_{\lambda'\nu'}(g_{\lambda'})\cdot f_{\mu'\nu'}(h_{\mu'}))\\\end{eqnarray*}であり、$f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\nu}(h_{\mu})\sim f_{\lambda'\nu'}(g_{\lambda'})\cdot f_{\mu'\nu'}(h_{\mu'})$ です。
適当な $G_{\lambda}$ の単位元 $e_{\lambda}$ が代表する元 $[e_{\lambda}]$ が単位元であり、各 $g\in \underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}$ に対する逆元はその代表元 $g_{\lambda}\in G_{\lambda}$ を用いて $[g_{\lambda}^{-1}]$ と表される元です。
帰納極限は次の普遍性を持ちます。
$(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を帰納系、$H$ を群とする。準同型の族 $\{\varphi_{\lambda} : G_{\lambda}\to H\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $\varphi_{\mu}\circ f_{\lambda\mu} = \varphi_{\lambda}$ を満たすものに対し、ある準同型 $\varPhi : \underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}\to H$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $\varphi_{\lambda} = \varPhi\circ f_{\lambda}$、ただし $f_{\lambda} : G_{\lambda}\to \underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}$ は明らかな準同型、を満たすものが一意に存在する。
写像として条件を満たす $\varPhi$ が一意にとれることは集合の帰納極限としての普遍性 $($命題1.3.32$)$ から従います。準同型であることを確認します。$g, h\in \underset{\lambda}{\varinjlim}G_{\lambda}$ とします。それぞれの代表元 $g_{\lambda}\in G_{\lambda}$, $h_{\mu}\in G_{\mu}$ を取り、$\nu\in \Lambda$ を $\nu\geq \lambda, \mu$ であるように取ります。このとき、\begin{eqnarray*}\varPhi(g\cdot h) & = & \varPhi([f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\nu}(h_{\mu})]) = \varphi_{\nu}(f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})\cdot f_{\mu\nu}(h_{\mu})) \\& = & \varphi_{\nu}(f_{\lambda\nu}(g_{\lambda}))\cdot \varphi_{\nu}(f_{\mu\nu}(h_{\mu})) = \varPhi([f_{\lambda\nu}(g_{\lambda})])\cdot \varPhi([f_{\mu\nu}(h_{\mu})]) = \varPhi(g)\cdot \varPhi(h)\end{eqnarray*}です。よって、$\varPhi$ は準同型です。
続いて、射影極限を考えます。
有向集合 $\Lambda$ を添字集合にもつ群の族 $\{G_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ と準同型の族 $\{f_{\lambda\mu} : G_{\mu}\to G_{\lambda}\}_{\lambda \leq \mu\in \Lambda}$ であって次を満たすものが与えれられているとする。
これらの対を単に $(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ などと書き、群の射影系 $($inductive system$)$ という。
$(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を射影系とする。直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}G_{\lambda}$ の部分群\[\varprojlim_{\lambda}G_{\lambda} = \{(g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\mid g_{\lambda} = f_{\lambda\mu}(g_{\mu}) \text{ for any } \lambda\leq \mu\in \Lambda\}\]を射影極限と呼ぶ。
射影極限は次の普遍性を持ちます。
$(G_{\bullet}, f_{\bullet\bullet})_{\Lambda}$ を射影系、$H$ を $R$ 加群とする。準同型の族 $\{\varphi_{\lambda} : H\to G_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって任意の $\lambda\leq \mu\in \Lambda$ に対して $f_{\lambda\mu}\circ \varphi_{\mu} = \varphi_{\lambda}$ を満たすものに対し、ある準同型 $\varPhi : H\to \underset{\lambda}{\varprojlim}G_{\lambda}$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $\varphi_{\lambda} = f_{\lambda}\circ \varPhi$、ただし $f_{\lambda} : \underset{\lambda}{\varprojlim}G_{\lambda}\to G_{\lambda}$ は明らかな射影、を満たすものが一意に存在する。
写像として条件を満たす $\varPhi$ が一意にとれることは集合の射影極限としての普遍性 $($命題1.3.40$)$ から従います。準同型であることは任意の $g = (g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}, g' = (g'_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\in \underset{\lambda}{\varprojlim}G_{\lambda}$ に対して\begin{eqnarray*}\varPhi(g\cdot g') & = & \varPhi((g_{\lambda}g'_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}) = (\varphi_{\lambda}(g_{\lambda}g'_{\lambda}))_{\lambda\in\Lambda} \\& = & (\varphi_{\lambda}(g_{\lambda}))_{\lambda\in\Lambda}\cdot (\varphi_{\lambda}(g'_{\lambda}))_{\lambda\in\Lambda} = \varPhi((g_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda})\cdot \varPhi((g'_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}) = \varPhi(g)\cdot \varPhi(g')\end{eqnarray*}であることからよいです。
その他、帰納系の間の射および射影系の間の射が定義され、各種極限の間の準同型が誘導されることも容易に確かめられます集合レベルでは命題1.3.33と命題1.3.41を参照。。
以上です。
最初に部分集合に対する演算を整備して証明の細かい部分はそっちに押し付ける方針を取ってみたけどどうだろう。特に思想はなく思い付きでこうしただけで別に徹底もしていないですが、多少は簡潔になっているかなと。ただ、さすがに剰余群の構成とかは表示をまず与えてそれがwell-definedであることを確かめるオーソドックスな証明の方がよい気もする。
参考文献
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