$X, Y$ を集合とします。$X$ の各元に対して $Y$ の元をちょうど $1$ つずつ対応させる規則を $X$ から $Y$ への写像 $($map$)$ や文脈によっては関数 $($function$)$ といいます例えば、$Y$ が数の集合 $\R, \C$ のように代数構造が入っている場合によく関数と呼びます。。$X$ から $Y$ への写像 $f$ に関して元 $x\in X$ に対応する $Y$ の元を $f$ による $x$ の像といい $f(x)$ や $fx$ により表します多くの場合に $f(x)$ で表しますが、ここでは複数の括弧が現れて分かりづらい場合などに $fx$ も使っていきます。。また、$f$ による $x$ の像が $y$ であるということを $f$ は $x$ を $y$ に移す本来は「写す」と書くべきかもしれないですが、私は「移す」と書いちゃいます。といいます。$X$ を写像 $f$ の定義域 $($domain$)$ や始域 $($domain, source$)$、$Y$ を写像 $f$ の値域 $($range$)$ や終域 $($codomain, target$)$ といい、これら明示する場合は $f : X\to Y$ や $X\xrightarrow{f}{Y}$ などと書きます。さらに、各元を何にどのような元を対応させるかの規則を具体的に表示したい場合は\[f : x\mapsto (x \mbox{に関する式})\]というような形で表します。例えば、各整数に対してその $2$ 倍を対応させるものは\[f : n\mapsto 2n\]のように書きます。集合 $X$ から集合 $Y$ への写像全体からなる集合は $\Map(X, Y)$ や $Y^{X}$ と書くことにします。
$2$ つの写像 $f : X\to Y$ と $g : Z\to W$ が等しいということを、$X = Z$ かつ $Y = W$ かつ任意の $x\in X$ に対して $f(x) = g(x)$ を満たすことと定め、写像 $f, g$ が等しいことを等号を用いて $f = g$ と書きます。これは集合に関する等号と同様に反射律、対称律、推移律を満たします。
いくつか基本的な写像の例を挙げます。いろんなところで現れると思います。
$X, Y, Z$ を集合とします。
与えられた写像から新たな写像を構成する基本的な方法として合成があります。集合 $Y$ を終域とする写像 $f : X\to Y$ と $Y$ を始域とする写像 $g : Y\to Z$ が与えられたとき、写像 $g\circ f : X\to Z$ を\[g\circ f : x\mapsto g(f(x))\]により定義することができ、これを $f$ と $g$ の合成と呼びます。そして、集合 $X, Y, Z$ に対してこの合成により写像\[\circ : \Map(X, Y)\times \Map(Y, Z)\to \Map(X, Z) : (f, g)\mapsto g\circ f\]が定まることになります。
$3$ つ以上の写像についても始域と終域が整合する限り合成を繰り返すことができ、例えば、写像 $f : X\to Y$, $g : Y\to Z$, $h : Z\to W$ が与えられたとき、それらの合成\[h\circ g\circ f : X\to W : x\mapsto h(g(f(x)))\]を考えることができます。合成の順番によらない、つまり、結合律 $h\circ (g\circ f) = (h\circ g)\circ f$ が成立することには注意。また、写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ に対してもし $Y\subset Z$ であったならば、その包含写像 $i : Y\to Z$ を間に挟んだ合成\[g\circ i\circ f : X\to W : g(f(x))\]を考えることができますが、これを省略して単に $g\circ f$ とも書くことにします。
その他、合成に関する基本的な性質として、写像 $f : X\to Y$ と恒等写像 $\Id_{X}, \Id_{Y}$ との合成は\[f\circ \Id_{X} = \Id_{Y}\circ f = f\]を満たします。
写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ が与えられたとき、新たな写像 $f\times g : X\times Z\to Y\times W$ を\[f\times g : (x, z)\mapsto (f(x), g(z))\]により定義することができ、これを写像 $f$ と $g$ の直積もしくは積と呼びます。
一般的な記号ではないですが、始域が同じ $X = Z$ の場合には対角写像 $d : X\to X\times X$ と写像の積 $f\times g$ との合成\[(f\times g)\circ d : X\to Y\times W : x\mapsto (f(x), g(x))\]を $(f, g) : X\to Y\times W$ と書いて写像 $f$ と $g$ の対と呼ぶことにします。
写像 $f : X\to Y$ が与えられているとします。$X$ の部分集合 $A\subset X$ に対してその像 $f(A)$ を\[f(A) := \{y\in Y\mid {}^{\exists}x\in A \text{ s.t. } f(x) = y\} \ (= \{f(x)\mid x\in A\})\]により定義します。$A = X$ の場合の像を写像 $f$ の像といい、ここでは $\Img f$ と書くことにします。
また、$Y$ の部分集合 $B\subset Y$ に対してその逆像 $f^{-1}(B)$ を\[f^{-1}(B) := \{x\in X\mid f(x)\in B\}\]により定義します。$1$ 点からなる集合 $\{y\}$ の逆像 $f^{-1}(\{y\})$ は単に $f^{-1}(y)$ と略記することもあります。
写像 $f : X\to Y$ が与えられているとする。次が成立する。
(2) $y\in f(A\cap B)$ とします。ある $x\in A\cap B$ であって $f(x) = y$ となるものが取れます。$x\in A$ より $y = f(x)\in f(A)$ であり、同様に $y\in f(B)$ なので $y\in f(A)\cap f(B)$ です。よって、$y\in f(A\cap B)$ ならば $y\in f(A)\cap f(B)$ が示されたので $f(A\cap B)\subset f(A)\cap f(B)$ です。
(5) $x\in A$ とします。$f(x)\in f(A)$ より $x\in f^{-1}(f(A))$ です。よって、$A\subset f^{-1}(f(A))$ が分かりました。
(6) $f(f^{-1}(C))\subset C\cap \Img f$ を示します。$y\in f(f^{-1}(C))$ とします。ある $x\in f^{-1}(C)$ であって $f(x) = y$ となるものが取れます。$x\in f^{-1}(C)$ より $y = f(x)\in C$ であり、$y = f(x)\in \Img f$ でもあるので $y\in C\cap \Img f$ です。よって、$y\in f(f^{-1}(C))$ ならば $y\in C\cap \Img f$ が示され、$f(f^{-1}(C))\subset C\cap \Img f$ です。
$C\cap \Img f\subset f(f^{-1}(C))$ を示します。$y\in C\cap \Img f$ とします。$y\in \Img f$ よりある $x\in X$ であって $f(x) = y$ となるものが取れます。$f(x) = y\in C$ より $x\in f^{-1}(C)$ であり、よって、$y = f(x)\in f(f^{-1}(C))$ です。以上より $y\in C\cap \Img f$ ならば $y \in f(f^{-1}(C))$ が示されたので $C\cap \Img f\subset f(f^{-1}(C))$ です。
両方の向きの包含関係が示されたので $f(f^{-1}(C)) = C\cap \Img f$ です。$C\cap \Img f\subset C$ は自明です。
(7) $f^{-1}(C)\subset f^{-1}(C^{c})^{c}$ を示します。$x\in f^{-1}(C)$ とします。$f(x)\in C$ なので $f(x)\notin C^{c}$ です。よって、$x\notin f^{-1}(C^{c})$ なので $x\in f^{-1}(C^{c})^{c}$ です。以上より $x\in f^{-1}(C)$ ならば $x\in f^{-1}(C^{c})^{c}$ が示されたので $f^{-1}(C)\subset f^{-1}(C^{c})^{c}$ です。
逆の包含関係を示します。前半の結果の $C$ を $C^{c}$ で置き換えることで $f^{-1}(C^{c})\subset f^{-1}(C^{cc})^{c}$ です。両辺の補集合を考えれば $f^{-1}(C^{cc})^{cc}\subset f^{-1}(C^{c})^{c}$ であり、$f^{-1}(C^{cc})^{cc} = f^{-1}(C)$ から $f^{-1}(C)\subset f^{-1}(C^{c})^{c}$ です。
両方の向きの包含関係が示されたので $f^{-1}(C) = f^{-1}(C^{c})^{c}$ です。
命題1.2.3の(2)と(5)の逆の包含関係には反例があります。
(2) $X = \{0, 1\}$, $Y = \{2\}$, $A = \{0\}$, $B = \{1\}$, $f = \cst_{2}$ のとき、$A\cap B = \varnothing$ から $f(A\cap B) = \varnothing$ ですが、$f(A) = f(B) = \{2\}$ なので $f(A)\cap f(B) = \{2\}$ であり $f(A)\cap f(B)\not\subset f(A\cap B)$ です。
(5) $X = \{0, 1\}$, $Y = \{2\}$, $A = \{0\}$, $f = \cst_{2}$ のとき、$f(A) = \{2\}$ なので $f^{-1}(f(A)) = \{0, 1\}\not\subset A$ です。
写像 $f : X\to Y$, $g : Y\to Z$ が与えられているとする。次が成立する。
(2) $(g\circ f)^{-1}(C)\subset f^{-1}(g^{-1}(C))$ を示します。$x\in (g\circ f)^{-1}(C)$ とします。$(g\circ f)(x)\in C$ です。$(g\circ f)(x) = g(f(x))\in C$ なので $f(x)\in g^{-1}(C)$ であり、$x\in f^{-1}(g^{-1}(C))$ です。よって、$x\in (g\circ f)^{-1}(C)$ ならば $x\in f^{-1}(g^{-1}(C))$ が分かったので $(g\circ f)^{-1}(C)\subset f^{-1}(g^{-1}(C))$ です。
$f^{-1}(g^{-1}(C))\subset (g\circ f)^{-1}(C)$ を示します。$x\in f^{-1}(g^{-1}(C))$ とします。$f(x)\in g^{-1}(C)$ であり、$g(f(x))\in C$ です。$g(f(x)) = (g\circ f)(x)$ なので $x\in (g\circ f)^{-1}(C)$ です。以上より $x\in f^{-1}(g^{-1}(C))$ ならば $x\in (g\circ f)^{-1}(C)$ が示されたので $f^{-1}(g^{-1}(C))\subset (g\circ f)^{-1}(C)$ です。
両方の向きの包含関係が示されたので $(g\circ f)^{-1}(C) = f^{-1}(g^{-1}(C))$ です。
写像 $f : X\to Y$ と $X$ の部分集合 $A\subset X$ が与えられたとき、$f$ の始域を $A$ で置き換えた写像\[f|_{A} : A\to Y : x\mapsto f(x)\]を考えることができ、これを写像 $f$ の $A$ への制限と呼びます。これとは逆に、写像 $f : A\to Y$ と $A$ を含む集合 $X$ が与えられたとき、写像 $g : X\to Y$ であってその $A$ への制限が $g|_{A} = f$ に一致するものを写像 $f$ の $X$ への拡張と呼びます。
写像 $f : X\to Y$ に対して終域 $Y$ を $\Img f\subset B$ を満たす集合 $B$ で置き換えることも可能であり、$B\subset Y$ ならば制限、$Y\subset B$ ならば拡張といいます。このことを表す記号は用意しません。
写像 $f : X\to Y$ に対してグラフと呼ばれる直積集合 $X\times Y$ の部分集合 $\Gamma(f)$ が\[\Gamma(f) := \{(x, f(x))\mid x\in X\}\subset X\times Y\]により定義されます。これは「関数のグラフ」というときのグラフと全く同じ意味の概念であり、第 $1$ 成分 $x\in X$ を固定すればそれを第 $1$ 成分に持つグラフ $\Gamma(f)$ の元はただ $1$ つ $(x, f(x))$ です。
逆に、直積集合 $X\times Y$ の部分集合 $\Gamma$ であって任意の $x\in X$ に対してそれを第 $1$ 成分に持つ $\Gamma$ の元がちょうど $1$ つである場合、$x$ に対して決まる唯一の元の第 $2$ 成分を $f_{\Gamma}(x)$ とすることで写像 $f_{\Gamma} : X\to Y$ を構成することができます。そして、このような写像と直積集合の部分集合の間の対応は互いに逆なっており、つまり、\[f_{\Gamma(f)} = f, \ \Gamma(f_{\Gamma}) = \Gamma\]が成立します。従って、写像を与えることと直積集合の「よい」部分集合を与えることとはこの対応により本質的に同じことと考えられるようになります。
写像 $f : X\to Y$ が単射であることを任意の $x, x'\in X$ に対して $x \neq x'$ ならば $f(x) \neq f(x')$ を満たすことと定めます。写像の単射性は次の同値な言い換えを持ちます。
写像 $f : X\to Y$ に対して次は同値。
(1) ⇔ (2) $f(x) = f(x')$ ならば $x = x'$ の対偶は $x\neq x'$ ならば $f(x)\neq f(x')$ です。よって同値です。
(2) ⇒ (4) 写像 $g, h : W\to X$ が $f\circ g = f\circ h$ を満たしているとします。$g = h$ を示すわけですが、そのためには任意の $w\in W$ に対して $g(w) = h(w)$ を示せばよいです。$w\in W$ とします。$f\circ g = f\circ h$ より $f(g(w)) = f(h(w))$ ですが、(2)より $g(w) = h(w)$ です。よって、任意の $w\in W$ に対して $g(w) = h(w)$ が示されたので $g = h$ です。
(4) ⇒ (2) $x, x'\in X$ が $f(x) = f'(x)$ を満たしているとします。$W$ を唯一の元 $w$ からなる集合と定め、写像 $g, h : W\to X$ を $g(w) := x$, $h(w) := x'$ により定義します。$f(g(w)) = f(x) = f(x') = f(g(w))$ より $f\circ g = f\circ h$ なので(4)より $g = h$ です。よって、$x = g(w) = h(w) = x'$ です。以上より(2)が成立します。
(2) ⇒ (3) $y\in \Img f$ とします。像の定義よりある $x\in X$ であって $f(x) = y$ を満たすものが存在します。つまり、$f^{-1}(y)$ は空集合ではなく少なくとも $1$ つの元を持ちます。$x, x'\in f^{-1}(y)$ とすると $f(x) = f(x')$ と(2)より $x = x'$ なので $f^{-1}(y)$ の元はただ $1$ つです。
(3) ⇒ (5) $\Map(Y, X)\neq \varnothing$ として $r\circ f = \Id_{X}$ となる写像 $r : Y\to X$ を構成します。$g\in \Map(Y, X)$ を任意に取っておきます。$r$ は $y\in \Img f$ に対しては $f^{-1}(\{y\})$ の唯一の元を対応させ、$y\notin \Img f$ に対しては $g(y)$ を対応させるとします。このとき、任意の $x\in X$ に対して $(r\circ f)(x) = r(f(x))$ であり、$f(x)\in \Img f$ なので $r(f(x))$ は $f^{-1}(\{f(x)\})$ の唯一の元となりますが、それは $f(x)\in \{f(x)\}$ より $x$ です。よって、$(r\circ f)(x) = x$ が分かり、$r\circ f = \Id_{X}$ です。
(5) ⇒ (2) $x, x'\in X$ に対して $f(x) = f(x')$ であったとします。このとき、定値写像 $Y\to X : y\mapsto x$ の存在から $\Map(Y, X)\neq \varnothing$ であり、(5)からレトラクション $r$ が取れます。よって、$x = r(f(x)) = r(f(x')) = x'$ です。
続いて、写像 $f : X\to Y$ が全射であることを $\Img f = Y$ であることと定めます。写像の全射性は次の同値な言い換えを持ちます。
写像 $f : X\to Y$ に対して次は同値。
(1) ⇔ (2) 明らか。
(1) ⇒ (3) 写像 $g, h : Y\to X$ に対して $g\circ f = h\circ f$ であったとします。$y\in Y$ に対して $f$ の全射性から $f(x) = y$ となる $x\in X$ を取れば\[g(y) = g(f(x)) = (g\circ f)(x) = (h\circ f)(x) = h(f(x)) = h(y)\]であるので $g = h$ です。
(3) ⇒ (2) 対偶を示します。ある $y_{0}\in Y$ であって $f^{-1}(y_{0}) = \varnothing$ となるものが取れたとします。$Z := \{0, 1\}$ とし、$g, h : Y\to Z$ を $y\in \Img f$ に対しては $g(y) = h(y) = 0$ とし、$y\notin \Img f$ に対しては $g(y) = 0$, $h(y) = 1$ と定めます。このとき、任意の $x\in X$ に対して\[(g\circ f)(x) = g(f(x)) = 0 = h(f(x)) = (h\circ f)(x)\]なので $g\circ f = h\circ f$ ですが、$y_{0}$ に対して $g(y_{0}) = 0\neq 1 = h(y_{0})$ なので $g\neq h$ です。よって、$g\circ f = h\circ f$ かつ $g\neq h$ となる写像 $g, h$ を構成でき、つまり、(3)の否定が示されました。
(2) ⇒ (4) 各 $y\in Y$ に対して $f^{-1}(y)\neq \varnothing$ であることから $x_{y}\in f^{-1}(y)$ を選び写像 $s : Y\to X : y\mapsto x_{y}$ を考えればよいです厳密にはここで選択公理 $($公理1.2.14$)$ を使用します。。この $s$ について、任意の $y\in Y$ で $(f\circ s)(y) = f(x_{y}) = y$ なので $f\circ s = \Id_{Y}$ です。
(4) ⇒ (2) 切断 $s : Y\to X$ が存在したとします。任意の $y\in Y$ に対して $y = (f\circ s)(y) = f(s(y))$ より $s(y)\in f^{-1}(y)$ であり、$f^{-1}(y)\neq \varnothing$ です。
次は明らかでしょう。
$f : X\to Y$, $g : Y\to Z$ を写像とする。次が成立する。
写像 $f : X\to Y$ に対して写像 $g : Y\to X$ であって条件\[g\circ f = \Id_{X}, \ f\circ g = \Id_{Y}\]を満たすものを $f$ の逆写像といい $f^{-1}$ と書きます。また、写像が全単射であるということを単射かつ全射であることと定義します。これらについて次が成立します。
$f : X\to Y$ を写像とする。次が成立する。
(1) $f$ が全単射であったとします。まず、全射性から切断 $s : Y\to X$ を取ることができ、$s\in \Map(Y, X)\neq \varnothing$ と単射性からレトラクション $r : Y\to X$ が取れます。$r = r\circ \Id_{Y} = r\circ f\circ s = \Id_{X}\circ s = s$ であり、$g = r$ とおけば $g\circ f = r\circ f = \Id_{X}$ かつ $f\circ g = f\circ r = f\circ s = \Id_{Y}$ です。よって、逆写像 $g$ が得られました。
逆に $f$ の逆写像 $g$ が存在したとき、$g$ 自身がレトラクションでも切断でもあるので $f$ は単射かつ全射です。
(2) $g, g'$ を $f$ の逆写像とします。$g = g\circ \Id_{Y} = g\circ f\circ g' = \Id_{X}\circ g' = g'$ なので一意です。
(3) 逆写像の定義から明らか。
(4) $r$ をレトラクションとします。$r = r\circ f\circ f^{-1} = \Id_{X}\circ f^{-1} = f^{-1}$ です。切断についても同様です。
数列といったら通常は単に数を集めた集合ではなく順序を込めて並べたものを指し、例えば\[a_{0}, a_{1}, a_{2}, a_{3}, \dots\]というように添字をつけた記号列や $(a_{n})_{n\in\N}$, $\{a_{n}\}_{n\in\N}$ により表現されるかと思いますが、これはつまり、それ自体が集合をなす添字たち $0, 1, 2, 3, \dots$ それぞれに対して何かしら数を対応させ、その対応関係も保持したものであると考えられます。この状況を一般化し、添字付けられた族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ 添字付けられた族を表す記号として $(A_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ がよく用いられるようですが、各 $A_{\lambda}$ が何かしらの対である場合や添字付けられた族と何かしらとの対を考える場合に丸括弧が重複することを(私が)嫌ってこう書いています。また、添字付けられた族を表す記号として他には $(A_{\lambda}\mid \lambda\in \Lambda)$ や $\{A_{\lambda}\mid \lambda\in \Lambda\}$ を用いるテキストもあるようです。を集合 $\Lambda$ の各元 $\lambda\in \Lambda$ に対して何かしら数学的対象 $A_{\lambda}$ を対応させたものと定めます。$\Lambda$ は添字集合と呼び、添字集合が $\N$ や $\Z$ であるような添字付けられた族のことはよく列とも呼びます。添字付けられた族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ は $A_{\lambda}$ たちの取りうる範囲を特定の集合 $X$ に固定すれば写像 $\Lambda\to X$ に他なりませんが、通常は終域のことは意識せず、例えば、$2$ つの添字付けられた族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$, $\{B_{\mu}\}_{\mu\in M}$ が等しいことを $\Lambda = M$ かつ任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $A_{\lambda} = B_{\lambda}$ を満たすこととして扱います。
$1$ つ注意として、集合 $($としての族$)$ に対してその各元を区別するために添字表記をしたいこともあり、その場合は\[\{A_{\lambda}\mid \lambda\in \Lambda\}\]としてその集合を表すことにします。添字付けられた族は集合としての族とは異なる概念ですが、ここでは言葉としては両者ともに単に族と呼ぶことにして、上記のような記号使いにより区別することにします。
集合 $X$ の部分集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられているとします。このとき、この集合族に対しても和集合と共通部分をそれぞれ\[\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} := \{x\in X\mid {}^{\exists}\lambda\in\Lambda, \ x\in A_{\lambda}\},\]\[\bigcap_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} := \{x\in X\mid {}^{\forall}\lambda\in\Lambda, \ x\in A_{\lambda}\}\]により定義でき全体集合 $X$ を指定しない場合も $\Lambda = \varnothing$ のときの共通部分以外は同様に定義できます。全体集合 $X$ を指定しない $\Lambda = \varnothing$ の場合の共通部分は定義の条件部分が自明に成立することから「全ての数学的対象からなる集合」になってしまうことに問題があります。、次が成立します。
$\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$, $\{B_{\mu}\}_{\mu\in M}$ を集合 $X$ の部分集合族とする。次が成立する。
(1) $x\in X$ に対して $x\in \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ であったとすると、ある $\lambda\in \Lambda$ であって $x\in A_{\lambda}$ となるものが存在することになりますが、$\Lambda = \varnothing$ に矛盾します。よって、$x\notin \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ です。従って、$\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} = \varnothing$ です。
(2) $x\in X$ とします。$\Lambda = \varnothing$ より自明に任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $x\in A_{\lambda}$ が成立するので $x\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ です。よって、$X\subset \bigcap_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} \ (\subset X)$ であり、$\bigcap_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} = X$ です。
(3) $x\in \left(\bigcup_{\lambda\in \Lambda}A_{\lambda}\right)^{c}\Leftrightarrow \neg({}^{\exists}\lambda\in \Lambda, \ x\in A_{\lambda})\Leftrightarrow {}^{\forall}\lambda\in \Lambda, \ x\notin A_{\lambda}\Leftrightarrow x\in \bigcap_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}^{c}$ です。
(4) $x\in \left(\bigcap_{\lambda\in \Lambda}A_{\lambda}\right)^{c}\Leftrightarrow \neg({}^{\forall}\lambda\in \Lambda, \ x\in A_{\lambda})\Leftrightarrow {}^{\exists}\lambda\in \Lambda, \ x\notin A_{\lambda}\Leftrightarrow x\in \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}^{c}$ です。
(5) $x\in \left(\bigcup_{\lambda\in \Lambda}A_{\lambda}\right)\cap \left(\bigcup_{\mu\in M}B_{\mu}\right)$ とします。$\lambda'\in \Lambda$ であって $x\in A_{\lambda'}$ となるものと $\mu'\in M$ であって $x\in B_{\mu'}$ となるものを取れることができ $x\in A_{\lambda'}\cap B_{\mu'}$ です。よって、$x\in \bigcup_{\mu\in M}(A_{\lambda'}\cap B_{\mu})\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda}\bigcup_{\mu\in M}(A_{\lambda}\cap B_{\mu})$ であり、$\left(\bigcup_{\lambda\in \Lambda}A_{\lambda}\right)\cap \left(\bigcup_{\mu\in M}B_{\mu}\right)\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda}\bigcup_{\mu\in M}(A_{\lambda}\cap B_{\mu})$ です。
逆の包含関係は簡単。
集合列に対する極限を導入しておきます。たまに使います。
集合列 $\{A_{n}\}_{n\in\N}$ に対して\[\varlimsup_{n\to\infty} A_{n} := \bigcap_{n\in \N}\left(\bigcup_{k \geq n}A_{k}\right),\]\[\varliminf_{n\to\infty} A_{n} := \bigcup_{n\in \N}\left(\bigcap_{k \geq n}A_{k}\right)\]と定め、それぞれ集合列 $\{A_{n}\}_{n\in\N}$ の上極限集合、下極限集合という。$\underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n} = \underset{n\to\infty}{\varliminf}A_{n}$ であるとき、その集合を $\underset{n\to\infty}{\lim}A_{n}$ と書き、集合列 $\{A_{n}\}_{n\in\N}$ の極限集合という。またそのとき、集合列 $\{A_{n}\}_{n\in\N}$ には極限が存在する、集合列は収束するなどという。
基本的な性質として次を挙げておきます。
$X$ を全体集合、$\{A_{n}\}_{n\in\N}$, $\{B_{n}\}_{n\in\N}$ を集合列とする。次が成立する。
(1) 定義の言いかえです。
(2) 定義の言いかえです。
(3) (1)と(2)から明らかです。
(4) $\left(\underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n}\right)^{c} = \underset{n\in\N}{\bigcup}\left(\underset{k\geq n}{\bigcup}A_{k}\right)^{c} = \underset{n\in\N}{\bigcup}\underset{k\geq n}{\bigcap}A_{k}^{c} = \underset{n\to\infty}{\varliminf}A_{n}^{c}$.
(5) $\left(\underset{n\to\infty}{\varliminf}A_{n}\right)^{c} = \underset{n\in\N}{\bigcap}\left(\underset{k\geq n}{\bigcap}A_{k}\right)^{c} = \underset{n\in\N}{\bigcap}\underset{k\geq n}{\bigcup}A_{k}^{c} = \underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n}^{c}$.
(6) このとき\[\varlimsup_{n\to\infty}A_{n} = \underset{n\in\N}{\bigcap}\underset{k\geq n}{\bigcup}A_{k} = \underset{n\in\N}{\bigcap}\underset{k\in \N}{\bigcup}A_{k} = \underset{k\in \N}{\bigcup}A_{k} = \underset{k\in \N}{\bigcup}\underset{l\geq k}{\bigcap}A_{l} = \varliminf_{n\to\infty}A_{n}\]です。
(7) このとき\[\varlimsup_{n\to\infty}A_{n} = \underset{n\in\N}{\bigcap}\underset{k\geq n}{\bigcup}A_{k} = \underset{n\in \N}{\bigcap}A_{n} = \underset{l\in\N}{\bigcup}\underset{n\in \N}{\bigcap}A_{n} = \underset{l\in \N}{\bigcup}\underset{n\geq l}{\bigcap}A_{n} = \varliminf_{n\to\infty}A_{n}\]です$A_{n}$ を $A_{n}^{c}$ で置き換えて(6)を適用し、再度補集合を取った後で(4)と(5)を適用することでも分かります。。
(8) 明らか。
(9) (8)から $\underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n}\cup \underset{n\to\infty}{\varlimsup}B_{n}\subset \underset{n\to\infty}{\varlimsup}(A_{n}\cup B_{n})$ は明らか。逆の包含関係を示します。$x\in \underset{n\to\infty}{\varlimsup}(A_{n}\cup B_{n})$ とします。$x\in A_{n}\cup B_{n}$ となる $n\in \N$ は無限に存在するので、$x\in A_{n}$ となる $n$、もしくは $x\in B_{n}$ となる $n$ の少なくとも一方も無限に存在します。よって、$x\in \underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n}$ または $\underset{n\to\infty}{\varlimsup}B_{n}$ であることが分かるので逆の包含関係も成立します。
(10) (8)から明らか。
(11) (8)から明らか。
(12) (9)の結果の $A_{n}, B_{n}$ を $A_{n}^{c}, B_{n}^{c}$ で取り換えた後に両辺の補集合を取ればよいです。
命題1.2.12の(10)と(11)の逆の包含関係には反例が存在します。
(10) $X = \{0, 1\}$, $A_{2k} = B_{2k + 1} = \{0\}$, $A_{2k + 1} = B_{2k} = \{1\}$ とすれば、常に $A_{n}\cup B_{n} = X$ であることに注意して、$\underset{n\to\infty}{\varliminf}A_{n} = \underset{n\to\infty}{\varliminf}B_{n} = \varnothing$, $\underset{n\to\infty}{\varliminf}(A_{n}\cup B_{n}) = X$ なので $\underset{n\to\infty}{\varliminf}(A_{n}\cup B_{n})\not\subset \underset{n\to\infty}{\varliminf}A_{n}\cup \underset{n\to\infty}{\varliminf}B_{n}$ です。
(11) $X = \{0, 1\}$, $A_{2k} = B_{2k + 1} = \{0\}$, $A_{2k + 1} = B_{2k} = \{1\}$ とすれば、常に $A_{n}\cap B_{n} = \varnothing$ であることに注意して、$\underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n} = \underset{n\to\infty}{\varlimsup}B_{n} = X$, $\underset{n\to\infty}{\varlimsup}(A_{n}\cap B_{n}) = \varnothing$ なので $\underset{n\to\infty}{\varlimsup}A_{n}\cap \underset{n\to\infty}{\varlimsup}B_{n}\not\subset \underset{n\to\infty}{\varlimsup}(A_{n}\cap B_{n})$ です。
集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられたとき、それに関する直和 $\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ が\[\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} := \{(x, \lambda)\mid \lambda\in \Lambda, x\in A_{\lambda}\}\subset \left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\right)\times \Lambda\]により定義され、また、直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ が\[\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda} := \{(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\mid {}^{\forall}\lambda\in \Lambda, \ x_{\lambda}\in A_{\lambda}\}\]により定義されます。直積について言い換えると、これは添字付けられた族 $(x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ 直積の元については慣習通りの記号使いもしたいと思います。$\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ と意味に違いはありません。であって各 $x_{\lambda}$ が $A_{\lambda}$ の元であるもの全体からなる集合のことです。全ての $A_{\lambda}$ が同一の集合 $A$ の場合の直積は $A^{\Lambda}$ とも書き、$\Lambda$ がちょうど有限 $n$ 個の元からなる場合には $A^{n}$ とも表します。
1.1.3節で考えた集合 $A, B$ の直和 $A\sqcup B$ と直積 $A\times B$ は、$A, B$ に直和・直積の順番を表す適当な添字が付けれられていると考えればこの意味での直和・直積です。
集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ から定まる直積について、もしもある $\lambda\in \Lambda$ に対して $A_{\lambda} = \varnothing$ であったならば直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ も空集合になることは明らかですが、この逆の対偶に当たる命題、つまり、$A_{\lambda}$ たちがいずれも空でない場合に直積の元が存在することを主張する命題は選択公理 $($aximo of choice$)$ と呼ばれます。
集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられ、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $A_{\lambda}$ は空でないとする。このとき、直積 $\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ は空ではない。
ここではこの選択公理を認める立場 $($ZFC公理系$)$ を取りますが、実際に選択公理が成立するかどうかは集合論の出発点においてどのような公理系を採用するかによります。例えば、ZF公理系と呼ばれる公理系においては各 $\lambda\in \Lambda$ について順に $1$ つずつ $x_{\lambda}\in A_{\lambda}$ を取っていくという操作は許されており、その高々有限回の繰り返しで $\Lambda$ が有限集合の場合までの $\prod_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}\neq \varnothing$ は確かめられるのですが、無限集合となるとその高々有限回の操作しか許されていないために達成されないことが知られていますつまり、ZFC公理系を採用する $($ZF公理系に選択公理を加える$)$ 意味は、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して「一斉」に $x_{\lambda}\in A_{\lambda}$ を取る操作を許す $($元をとる操作を $1$ 回で済ます$)$ という点にあるともいえます。また、「達成されない」の意味について、これはZF公理系において選択公理を証明することができないという意味であって、誤り $($反証できる$)$ であるという意味ではないので注意。実際、(この注釈自体いくらか不正確な表現なので注意。そして、これ以上は私の解説できる範囲を超えるので何かしら他を参照してください。)。
明らかな系として次があります。
集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられ、任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $A_{\lambda}$ は空でないとする。このとき、写像 $\varphi : \Lambda\to \underset{\lambda\in\Lambda}{\bigcup}A_{\lambda}$ であって任意の $\lambda\in \Lambda$ に対して $\varphi(\lambda)\in A_{\lambda}$ を満たすものが存在する。このような写像 $\varphi$ は選択関数という。
以上です。
特になし。
参考文献
更新履歴