MENU
位相幾何学 TOP
数学ノートについて
2.2 切除定理

ここでは相対(co)homology群の計算のために重要な切除定理を説明し、また、関連してMayer-Vietoris完全系列と懸垂定理を解説します。

2.2.1 重心細分作用素

下準備として重心細分作用素を導入します。ここでは、$S'_{\bullet}(\Delta^{k})$ を $\Delta^{k}$ のaffine単体affine $l$ 単体とはaffine写像 $\sigma : \Delta^{l}\to \Delta^{k}$ のこと。により生成するチェイン複体とし、affine $l$ 単体はその各頂点の位置により $(\Delta^{k})^{l + 1} = \Delta^{k}\times \dots \times \Delta^{k}$ の点と同一視することにします。つまり、$\Delta^{k}$ の点 $v_{0}, \dots, v_{l}$ を選んでできる組 $(v_{0}, \dots, v_{l})$ は $i$ 番目の頂点を $v_{i}$ に移すようなaffine $l$ 単体と考えることにします。また、affine $l$ 単体 $\sigma = (v_{0}, \dots, v_{l})$ の重心 $\tfrac{1}{l + 1}\sum_{i = 0}^{l}v_{i}$ を $g_{\sigma}$ と書くことにします。

重心細分作用素 $\sd_{l} : S'_{l}(\Delta^{k})\to S'_{l}(\Delta^{k})$ は各affine $l$ 単体を $(l + 1)!$ 個の $l$ 単体に分割する操作であって、次のようにして帰納的に定義されるものです。

$\sd_{0} = 1$.
$\sd_{l + 1}(\sigma) = (\beta_{\sigma}\circ \sd_{l}\circ \partial)(\sigma)$.

ただし写像 $\beta_{\sigma} : S'_{l}(\Delta^{k})\to S'_{l + 1}(\Delta^{k})$ は\[\beta_{\sigma} : (v_{0}, \dots, v_{l})\mapsto (g_{\sigma}, v_{0}, \dots, v_{l})\]により定まる写像です$\beta_{\sigma}$ は単体 $\sigma$ の重心 $g_{\sigma}$ を頂点とする錐を取る操作だと思えます。。つまり、$\sd_{l}(\sigma)$ は $\sigma$ の $l + 1$ 個の面を重心細分することで得られる $(l + 1)\times l!$ 個のaffine $l - 1$ 単体たちについて重心 $g_{\sigma}$ を頂点とする錐を取ったものであり、模式的には図2.2.1のように表されます。

図2.2.1 : 順に $\sd_{1}, \sd_{2}, \sd_{3}$ で、線は一部省略。

一般の特異 $l$ 単体 $\sigma : \Delta^{l}\to X$ に対しては恒等写像 $\Id_{\Delta^{l}} : \Delta^{l}\to \Delta^{l}$ がaffine単体であることに注意して\[\sd_{l}(\sigma) = \sigma_{\sharp}(\sd_{l}(\Id_{\Delta^{l}}))\]により重心細分作用素を定義しておきます。

特異 $l$ 単体 $\sigma$ に対して重心細分を繰り返すことで $\sd_{l}^{m}(\sigma)\in S_{l}(X)$ を構成する $l$ 単体は徐々に"小さく"なっていきますが、そのことを以下の形で定式化しておきます。

命題2.2.1

位相空間 $X$ とその開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられているとする。$X$ の特異 $l$ 単体 $\sigma$ に対し、ある非負整数 $m\in \N$ が存在して $\sd_{l}^{m}(\sigma)$ を構成する各 $l$ 単体 $($係数が $0$ である単体という意味$)$ の像はそれぞれある $U_{\lambda}$ に含まれる。つまり、ある $m\in \N$ が存在して\[\sd_{l}^{m}(\sigma)\in \sum_{\lambda\in\Lambda}S_{l}(U_{\lambda})\]となる。また、同じことが一般の特異チェイン $c\in S_{l}(X)$ についても成立する。

証明の前に $1$ つ補題を用意します。また、距離空間 $(X, d)$ が与えられているとして、その部分空間 $A$ の直径 $\diam(A)$ を\[\diam(A) = \sup_{x, y\in A}d(x, y)\]により定めるとします。

補題2.2.2
(Lebesgue数)

$(X, d)$ をコンパクト距離空間、$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ を $X$ の開被覆とする。このとき、ある正実数 $\delta > 0$ が存在し、任意の直径 $\delta$ 未満の部分集合 $A\subset X$ に対してある $U_{\lambda}$ が存在して $A\subset U_{\lambda}$ を満たす。このような正実数 $\delta > 0$ を開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ のLebesgue数という。

証明

$X$ の開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ の有限部分被覆 $U_{1}, \dots, U_{m}$ を取ります。各 $1\leq i\leq m$ について非負値関数 $f_{i} : X\to [0, \infty)$ を\[f_{i}(x) = \min_{y\in X\setminus U_{i}}d(x, y)\]により定めます。この写像 $f_{i}$ は $U_{i}$ 上において正値を取る連続関数なので、$X$ 上の正値連続関数 $f : X\to \R$ が\[f(x) = \max_{1\leq i\leq m}f_{i}(x)\]により定まります。この連続写像 $f$ の最小値を $\delta > 0$ とすれば、直径 $\delta$ 未満の部分集合 $A\subset X$ に対して $a\in A$ と $f_{i}(a)\geq \delta$ となる $i$ を取ることで $A\subset U_{i}$ が従います。

では、命題2.2.1を示します。

証明

最初に記号の準備として、特異チェイン $c = \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma\in S_{l}(\Delta^{k})$ に対して $\mesh(c)\in \R$ を\[\mesh(c) = \max\{\diam(\sigma(\Delta^{l}))\mid a_{\sigma}\neq 0\}\]により定めておきます。

位相空間 $X$ とその開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ および $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ が与えられているとします。標準 $k$ 単体 $\Delta^{k}$ の開被覆 $\{\sigma^{-1}(U_{\lambda})\}_{\lambda\in \Lambda}$ のLebesgue数 $\delta > 0$ を固定し、十分大きな非負整数 $m\in \N$ に対して $\mesh(\sd_{k}^{m}(\Id_{\Delta^{k}})) < \delta$ となることを示せばよいです。というのは、$\mesh(\sd_{k}^{m}(\Id_{\Delta^{k}})) < \delta$ ならば $\sd_{k}^{m}(\sigma) = \sigma_{\sharp}(\sd_{k}^{m}(\Id_{\Delta^{k}}))$ を構成する $k$ 単体 $\tau$ は直径 $\delta$ 未満の $\Delta^{k}$ のaffine $k$ 単体 $\upsilon$ と $\sigma$ との合成 $\sigma\circ \upsilon$ であり、$\upsilon(\Delta^{k})\subset \sigma^{-1}(U_{\lambda})$ となる $U_{\lambda}$ を取れば $\tau(\Delta^{k})\subset U_{\lambda}$ となるからです。

$\Delta^{k}$ のaffine $k$ 単体 $\upsilon$ に対して $\mesh(\sd_{k}(\upsilon))\leq \tfrac{k}{k + 1}\mesh(\upsilon)$ を示しますaffine $k$ 単体 $\upsilon$ に対して $\mesh(v) = \diam(v(\Delta^{k}))$ であることには注意。。まず、$k = 1$ の場合は自明です。一般には $k$ に関する帰納法より示すため、$k - 1$ までよいとします。$\sd_{k}(\upsilon) = \sum_{\upsilon'}a_{\upsilon'}\upsilon'$ とし、$a_{\upsilon'}\neq 0$ かつ $\mesh(\sd_{k}(\upsilon)) = \mesh(\upsilon')$ となるaffine単体 $\upsilon' = (v'_{0}, \dots, v'_{k})$ を取り、$d(v'_{i}, v'_{j}) = \diam(\upsilon'(\Delta^{k})) = \mesh(\upsilon')$ となる $i, j$ を固定しますaffine単体の像の直径を与える $2$ 点を頂点に取れることは初等的に示せます。まず、Euclid空間の通常の距離関数 $d : \R^{k + 1}\times \R^{k + 1}\to \R$ は広義の下凸連続関数なのでそのaffine写像 $\upsilon'$ による引き戻し $\upsilon'^{*}d$ も広義の下凸連続関数です。もし多面体 $\Delta^{k}\times \Delta^{k}$ の頂点以外の点 $x$ において $\upsilon'^{*}d$ が最大値を取ったとすると、広義の下凸連続関数であることから $\upsilon'^{*}d$ は $x$ を内点として持つある面において定数です。よって、その面の頂点 $($これは標準単体 $\Delta^{k}$ の $2$ つの頂点の対でした$)$ を等式を満たす $2$ 点に取れます。もちろん、$\upsilon'^{*}d$ が最初から多面体の頂点で最大値を取っている場合は問題ないです。。$g_{\upsilon}\notin \{v'_{i}, v'_{j}\}$ の場合、$v'_{i}, v'_{j}$ は $\sd_{k - 1}(\partial \upsilon)$ を構成するあるaffine $k - 1$ 単体の $2$ 頂点なので帰納法の仮定より\[d(v'_{i}, v'_{j}) = \mesh(\sd_{k - 1}(\partial\upsilon))\leq \dfrac{k - 1}{k}\mesh(\upsilon)\leq \dfrac{k}{k + 1}\mesh(\upsilon)\]となりよく、$v'_{j} = g_{\upsilon}$ の場合は $v'_{i}$ が $\upsilon$ の頂点でなければならないことが簡単に分かり、$\upsilon = (v_{0}, \dots, v_{k})$, $v'_{i} = v_{s}$ とすれば\[d(v'_{i}, v'_{j}) = d(v_{s}, g_{\upsilon}) = \dfrac{k}{k + 1}d(v_{s}, g_{(v_{0}, \dots, \hat{v_{s}}, \dots, v_{k})})\leq \dfrac{k}{k + 1}\mesh(\upsilon)\]なのでよいです。$v'_{i} = g_{\upsilon}$ の場合も同じく $d(v'_{i}, v'_{j})\leq \tfrac{k}{k + 1}\mesh(\upsilon)$ であり、一般に $\mesh(\sd_{k}(\upsilon))\leq \tfrac{k}{k + 1}\mesh(\upsilon)$ が示されました。

このことから $m\in \N$ に対して $\mesh(\sd_{k}^{m}(\Id_{\Delta^{k}}))\leq (\tfrac{k}{k + 1})^{m}\mesh(\Id_{\Delta^{k}})$ であり、$m$ を $(\tfrac{k}{k + 1})^{m}\mesh(\Id_{\Delta^{k}}) < \delta$ となるように十分大きく取ればよいです。一般の特異チェイン $c$ に対してはそれを構成する各特異単体 $\sigma$ に対して前半から得られる非負整数 $m_{\sigma}\in \N$ を取り、それらの最大値を $m$ とすればよいです。

重心細分作用素 $\sd : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ の重要な性質として、これがチェイン写像であってさらに恒等チェイン写像 $1 : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ にchain homotopicであることが挙げられます。

命題2.2.3

重心細分作用素 $\sd : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ はチェイン写像であり、恒等チェイン写像 $1 : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ にchain homotopicである。

証明

まず、$\sd : S'_{\bullet}(\Delta^{k})\to S'_{\bullet}(\Delta^{k})$ について同様のことを示します。

準同型 $D : S'_{\bullet}(\Delta^{k})\to S'_{\bullet + 1}(\Delta^{k})$ を $($$\sigma$ をaffine単体として$)$

$D_{-1} = D_{0} = 0$.
$D_{l + 1}(\sigma) = \beta_{\sigma}\circ(\sd_{l + 1} - 1 - D_{l}\circ\partial)(\sigma)$.

により帰納的に構成し、また、$\varepsilon : S'_{\bullet}(\Delta^{k})\to R : \sum_{v\in \Delta^{k}}a_{v}\cdot (v)\mapsto \sum_{v\in \Delta^{k}}a_{v}$ を添加写像$S'_{0}(\Delta^{k})$ において定義される通常の添加写像を自明に拡張しておきますとし、準同型 $\eta_{\sigma} : R\to S'_{0}(\Delta^{k})$ を $r\mapsto r\cdot (g_{\sigma})$ により定めておきます。

次を順に示します。(ii)が重心細分作用素がチェイン写像であること、(iii)が目標のchain homotopyの存在です。

(i) $\partial\circ\beta_{\sigma} + \beta_{\sigma}\circ\partial = 1 - \eta_{\sigma}\circ\varepsilon$.
(ii) $\partial\circ \sd_{n + 1} = \sd_{n}\circ\partial$.
(iii) $\sd_{n} - 1 = \partial\circ D_{n}+ D_{n - 1}\circ\partial$.

(i) 直接計算より分かります。

(ii) $n = 0$ の場合は明らかです。あとは次の計算から帰納的に分かります。\begin{eqnarray*}\partial\circ \sd_{n + 1}(\sigma) & = & \partial\circ\beta_{\sigma}\circ \sd_{n}\circ\partial(\sigma) = ((1 - \eta_{\sigma}\circ\varepsilon - \beta_{\sigma}\circ\partial)\circ \sd_{n}\circ\partial)(\sigma) \\& = & (\sd_{n}\circ\partial - \beta_{\sigma}\circ\partial\circ \sd_{n}\circ\partial)(\sigma)\\& = & (\sd_{n}\circ\partial - \beta_{\sigma}\circ \sd_{n - 1}\circ\partial\circ\partial)(\sigma) \\& = & \sd_{n}\circ\partial(\sigma)\end{eqnarray*}$1$ 行目で(i)を使用、$2$ 行目は $\eta_{\sigma}\circ\varepsilon\circ \sd_{n}\circ\partial = 0$ に注意、$3$ 行目に帰納法の仮定を使用。

(iii) $n = 0$ の場合は明らかです。あとは次の計算から帰納的に分かります。\begin{eqnarray*}&& (\partial\circ D_{n} + D_{n - 1}\circ\partial)(\sigma) \\& = & (\partial\circ \beta_{\sigma}\circ(\sd_{n} - 1 - D_{n - 1}\circ\partial) + D_{n - 1}\circ\partial)(\sigma) \\& = & ((1 - \beta_{\sigma}\circ\partial)\circ(\sd_{n} - 1 - D_{n - 1}\circ\partial) + D_{n - 1}\circ\partial)(\sigma) \\& = & ((\sd_{n} - 1) - \beta_{\sigma}\circ\partial\circ((\sd_{n} - 1) - D_{n - 1}\circ\partial))(\sigma) \\& = & (\sd_{n} - 1)(\sigma) - \beta_{\sigma}\circ((\sd_{n - 1} - 1)\circ\partial - (\sd_{n - 1} - 1 - D_{n - 2}\circ\partial)\circ\partial)(\sigma) \\& = & (\sd_{n} - 1)(\sigma) \\\end{eqnarray*}$2$ 行目に $D_{n}$ の定義を使用、$3$ 行目に(i)と $n \geq 1$ より $\eta_{\sigma}\circ \varepsilon = 0$ であることを使用、$5$ 行目に(ii)と帰納法の仮定を使用、で、他は単純な式変形。

続いて、一般の $\sd : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ について、これがチェイン写像であることは\[(\partial \circ \sd_{k})(\sigma) = (\partial\circ \sigma_{\sharp}\circ \sd_{k})(\Id_{\Delta^{k}}) = (\sigma_{\sharp}\circ \sd_{k - 1}\circ \partial)(\Id_{\Delta^{k}}) = (\sd_{k - 1}\circ \partial)(\sigma)\]から従い、恒等チェイン写像 $1 : S_{\bullet}(X)\to S_{\bullet}(X)$ にchain homotopicであることは準同型 $D_{k} : S_{k}(X)\to S_{k + 1}(X)$ を $D_{k}(\sigma) = (\sigma_{\sharp}\circ D_{k})(\Id_{\Delta^{k}})$ により定めておくことで\begin{eqnarray*}(\sd_{k} - 1)(\sigma) & = & (\sigma_{\sharp}\circ (\sd_{k} - 1))(\Id_{\Delta^{k}}) \\& = & (\sigma_{\sharp}\circ (\partial\circ D_{k} + D_{k - 1}\circ \partial))(\Id_{\Delta^{k}}) \\& = & (\partial\circ D_{k})(\sigma) + (D_{k - 1}\circ \partial)(\sigma)\end{eqnarray*}となることからよいです。

補足2.2.4

$X$ における重心細分作要素 $\sd$ や命題2.2.3の証明において構成したchain homotopy $D$ は自然です。つまり、連続写像 $f : X\to Y$ が与えられたとき $f_{\sharp}\circ \sd = \sd\circ f_{\sharp}$ および $f_{\sharp}\circ D = D\circ f_{\sharp}$ が成立しています。

2.2.2 切除定理

以下では切除定理を紹介します。

命題2.2.5

位相空間 $X$ とその部分集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられているとする。内点集合から成る族 $\{\Int A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が $X$ の開被覆であるとき、包含写像の誘導するチェイン写像\[\iota : \sum S_{\bullet}(A_{\lambda})\to S_{\bullet}(X)\]はchain homotopy同値である。

証明

$X$ の各特異 $k$ 単体 $\sigma : \Delta^{k}\to X$ に対し、命題2.2.1よりある $m\geq 0$ が存在して $\sd_{k}^{m}(\sigma)\in \sum S_{\bullet}(A_{\lambda})$ となりますが、そのような $m$ のうちで最小のものを $m(\sigma)$ と書くことにします。明らかに、$m(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k})\leq m(\sigma)$ です。

準同型 $\tilde{D}_{k} : S_{k}(X)\to S_{k + 1}(X)$ を命題2.2.3の証明において構成した $D_{k}$ を用いて\[\tilde{D}_{k}(\sigma) = \sum_{0\leq j < m(\sigma)}D_{k}\circ \sd_{k}^{j}(\sigma)\]により定めるとき、\begin{eqnarray*}\partial\circ \tilde{D}_{k}(\sigma) & = & \sum_{0\leq j < m(\sigma)}\partial\circ D_{k}\circ \sd_{k}^{j}(\sigma) \\& = & \sum_{0\leq j < m(\sigma)}(\sd_{k} - 1 + D_{k - 1}\circ \partial)\circ \sd_{k}^{j}(\sigma) \\& = & \sd_{k}^{m(\sigma)}(\sigma) - \sigma - \sum_{0\leq j < m(\sigma)}\sum_{i = 0}^{k}(-1)^{i}D_{k - 1}\circ \sd_{k - 1}^{j}({\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k}}) \\\tilde{D}_{k}\circ \partial(\sigma) & = & \sum_{i = 0}^{k}(-1)^{i}\sum_{0\leq j < m(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k})}D_{k - 1}\circ \sd_{k - 1}^{j}({\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k}})\end{eqnarray*}です。準同型 $\varphi : S_{\bullet}(X)\to\sum S_{\bullet}(A_{\lambda})$ を\[\varphi = 1 + \partial\circ\tilde{D} + \tilde{D}\circ\partial : S_{\bullet}(X)\to\sum S_{\bullet}(A_{\lambda}),\]つまり、\[\varphi(\sigma) = \sd^{m(\sigma)}(\sigma) - \sum_{i}(-1)^{i}\sum_{m(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k})\leq j < m(\sigma)}D\circ \sd^{j}({\sigma\circ \varepsilon_{i}^{k}})\]により定めるとき、これは $\partial\circ\varphi = \partial + \partial\circ \tilde{D}\circ \partial = \varphi\circ\partial$ を満たしチェイン写像であり、$\tilde{D}$ は $1$ を $\iota\circ \varphi$ に結ぶchain homotopyになっています。また、明らかに $\varphi\circ \iota = 1$ なので $\iota$ はchain homotopy同値写像です。

命題2.2.5を応用して特異(co)homology群の同型についての結果を導きたいと思います。

定義2.2.6
(切除対)

$X$ を位相空間とする。部分空間 $A, B\subset X$ について、$S_{\bullet}(A; R) + S_{\bullet}(B; R)\to S_{\bullet}(A\cup B; R)$ がchain homotopy同値であるとき、対 $\{A, B\}$ を切除対 $($excisive couple$)$ と呼ぶ係数とする環 $R$ の取り方に依存するので $R$ 切除対と呼ぶべきかもしれません。例えば、$R$ が零環ならば任意の部分空間で切除対になりますが、非自明な環に対しては必ずしもそうではないです。

命題2.2.5は部分空間 $A, B\subset X$ が $A\cup B = \Int A\cup \Int B$ を満たせば切除対 $\{A, B\}$ を与えることを意味し、特に、$A, B$ が開集合ならば常に切除対を与えることに注意します。

補題2.2.7

部分空間 $A, B\subset X$ について次は同値。$($cohomology群についても同様$)$

(1) 準同型 $i_{\sharp} : S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B)\to S_{\bullet}(A\cup B)$ は同型\[i_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B); M)\to H_{\bullet}(A\cup B; M)\]を誘導する。
(2) 包含写像 $j : A\to A\cup B$ は同型\[j_{*} : H_{\bullet}(A, A\cap B; M)\cong H_{\bullet}(A\cup B, B; M)\]を誘導する。
証明

チェイン複体の短完全系列の間の可換図式

に関するhomology完全系列を取るとき、そのhomology完全系列の間に自然な準同型\[1_{*} : H_{\bullet}(B)\cong H_{\bullet}(B),\]\[i_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B))\to H_{\bullet}(A\cup B),\]\[j_{*} : H_{\bullet}(A, A\cap B)\to H_{\bullet}(A\cup B, B)\]が誘導されます。ただし、$j_{*}$ に関しては明らかな同型 $S_{\bullet}(A)/S_{\bullet}(A\cap B)\cong (S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B))/S_{\bullet}(B)$ により $H_{\bullet}(A, A\cap B) = H_{\bullet}((S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B))/S_{\bullet}(B))$ と同一視しています。あとは $5$ 項補題 $($補題1.1.25$)$ より同値性が従います。

係数が $R$ の場合に最初の短完全系列が分解する自由加群なので。ことに注意すれば、一般の $R$ 加群 $M$ を係数とする場合に成立することやcohomology群に関しても同様の同値性が成立することは明らかです。

命題2.2.8

$X$ を位相空間、$\{A, B\}$ をその切除対とする。このとき包含写像 $i : A\to A\cup B$ は同型\[i_{*} : H_{\bullet}(A, A\cap B; M)\cong H_{\bullet}(A\cup B, B; M),\]\[i^{*} : H^{\bullet}(A\cup B, B; M)\cong H^{\bullet}(A, A\cap B; M)\]を誘導する。

証明

切除対 $\{A, B\}$ は補題2.2.7の(1)を満たすので(2)も満たします。

では切除定理を述べます。

定理2.2.9
(切除定理)

空間対 $(X, A)$ と部分集合 $U\subset A$ が与えられ $\overline{U}\subset \Int A$ を満たしているとき、包含写像 $i : X\setminus U\to X$ は同型\[i_{*} : H_{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; M)\cong H_{\bullet}(X, A; M),\]\[i^{*} : H^{\bullet}(X, A; M)\cong H^{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; M)\]を誘導する。

証明

$\Int(X\setminus U)\cap \Int A = X$ より切除対 $\{X\setminus U, A\}$ が得られるので命題2.2.8から分かります。

系として次のことが分かります。意外と使います。

定義2.2.10

$(X, A)$ を空間対とする。$A$ が閉集合であり、$A$ のある開近傍 $U\subset X$ であって $A$ を強変位レトラクトに持つものが存在するとき、$(X, A)$ をカラー付き空間対と呼ぶ。

系2.2.11

カラー付き空間対 $(X, A)$ について、商写像 $X\to X/A$ は自然な同型\[H_{\bullet}(X, A; M)\cong H_{\bullet}(X/A, *; M),\]\[H^{\bullet}(X/A, *; M)\cong H^{\bullet}(X, A; M)\]を誘導する。ただし、$A/A\subset X/A$ を一点 $\{*\}$ で表している。

証明

homology群について示します。cohomology群については全く同様にして示されます。まず、$A\subset U$ が強変位レトラクトなので商空間においても $\{*\}\subset U/A$ は強変位レトラクトになっています$r : U\to A$ を強変位レトラクション、$i : A\to U$ を包含写像とし、$H : U\times I \to U$ を $i\circ r$ を $\Id_{U}$ につなぐhomotopyであって $A$ を保つものとします。これらが強変位レトラクション $r' : U/A\to \{*\}$、包含写像 $i' : \{*\}\to U/X$、$i'\circ r'$ を $\Id_{U/A}$ につなぐhomotopy $H' : (U/A)\times I\to (U/A)$ を誘導します。。そして、$A$ が閉より $\{U, X\setminus A\}$ は $X$ における切除対であり、$A$ が閉より $\{*\}$ も閉なので $\{U/A, (X/A)\setminus \{*\}\}$ は $X/A$ の切除対です。よって、\[H_{\bullet}(X, A)\cong H_{\bullet}(X, U)\cong H_{\bullet}(X\setminus A, U\setminus A),\]\[H_{\bullet}(X/A, \{*\})\cong H_{\bullet}(X/A, U/A)\cong H_{\bullet}((X/A)\setminus \{*\}, (U/A)\setminus \{*\})\]です。商写像 $X\to X/A$ は対空間の同相 $(X\setminus A, U\setminus A)\to ((X/A)\setminus \{*\}, (U/A)\setminus \{*\})$ を与えているので\[H_{\bullet}(X\setminus A, U\setminus A)\cong H_{\bullet}((X/A)\setminus \{*\}, (U/A)\setminus \{*\})\]です。従って、\[H_{\bullet}(X, A)\cong H_{\bullet}(X/A, \{*\})\]です。

さらにその系として次の類似結果が得られます。

系2.2.12

$(X, A)$ をカラー付き空間対、$f : A\to Y$ を連続写像とする。このとき、$X, Y$ を $f$ により等化して $($貼り合わせて$)$ 得られる空間 $Z = X\cup_{f}Y = (X\sqcup Y)/(a\sim f(a) : a\in A)$ と明らかな連続写像 $i : X\to Z$ について同型\[i_{*} : H_{\bullet}(X, A; M)\cong H_{\bullet}(Z, Y; M)\]が成立する。

証明

$(Z, Y)$ もカラー付き空間対となっていることと同相 $(X/A, \{*\})\cong (Z/Y, \{*\})$ により\[H_{\bullet}(X, A)\cong H_{\bullet}(X/A, \{*\})\cong H_{\bullet}(Z/Y, \{*\})\cong H_{\bullet}(Z, Y)\]です。

2.2.3 Mayer-Vietoris完全系列と懸垂同型

切除対が与えられたとき、次の自然な完全系列が得られます。$2$ つの位相空間を貼り合わせて得られる空間の(co)homology群の計算によく使用されます。

定理2.2.13
(Mayer-Vietoris完全系列)

(1) 位相空間 $X$ において切除対 $\{A, B\}$ が与えられたとき、自然な完全系列\[\cdots\to H_{n}(A\cap B; M)\xrightarrow{i_{A*}\oplus (-i_{B*})} H_{n}(A; M)\oplus H_{n}(B; M)\xrightarrow{j_{A*} + j_{B*}} H_{n}(A\cup B; M)\xrightarrow{\Delta} H_{n - 1}(A\cap B; M)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(A\cup B; M)\xrightarrow{j_{A}^{*}\oplus j_{B}^{*}} H^{n}(A; M)\oplus H^{n}(B; M)\xrightarrow{i_{A}^{*} - i_{B}^{*}} H^{n}(A\cap B; M)\xrightarrow{\Delta} H^{n + 1}(A\cup B; M)\to \cdots\]が存在する。ただし、$i_{A}, i_{B}, j_{A}, j_{B}$ はそれぞれ包含写像\[i_{A} : A\cap B\to A, \ i_{B} : A\cap B\to B, \ j_{A} : A\to A\cup B, \ j_{B} : B\to A\cup B\]である。
(2) 位相空間 $X$ において切除対 $\{A, B\}$ が与えられ $A\cap B\neq \varnothing$ $($特に $A, B\neq \varnothing$$)$ を満たすとき、自然な完全系列\[\cdots\to \tilde{H}_{n}(A\cap B; M)\xrightarrow{i_{A*}\oplus (-i_{B*})} \tilde{H}_{n}(A; M)\oplus \tilde{H}_{n}(B; M)\xrightarrow{j_{A*} + j_{B*}} \tilde{H}_{n}(A\cup B; M)\xrightarrow{\Delta} \tilde{H}_{n - 1}(A\cap B; M)\to \cdots\]\[\cdots\to \tilde{H}^{n}(A\cup B; M)\xrightarrow{j_{A}^{*}\oplus j_{B}^{*}} \tilde{H}^{n}(A; M)\oplus \tilde{H}^{n}(B; M)\xrightarrow{i_{A}^{*} - i_{B}^{*}} \tilde{H}^{n}(A\cap B; M)\xrightarrow{\Delta} \tilde{H}^{n + 1}(A\cup B; M)\to \cdots\]が存在する。
証明

(1) 短完全系列\[0\to S_{\bullet}(A\cap B)\xrightarrow{i_{A\sharp}\oplus (-i_{B\sharp})} S_{\bullet}(A)\oplus S_{\bullet}(B)\xrightarrow{j_{A\sharp} + j_{B\sharp}} S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B)\to 0\]のhomology完全系列に対して、対 $\{A, B\}$ が切除対であることから従う同型 $H_{\bullet}(S_{\bullet}(A) + S_{\bullet}(B))\cong H_{\bullet}(A\cup B)$ を適用すればよいです。

(2) $A\cap B\neq \varnothing$ より $\tilde{S}_{\bullet}(A\cap B)$ が定義され、系列\[0\to \tilde{S}_{\bullet}(A\cap B)\xrightarrow{i_{A\sharp}\oplus (-i_{B\sharp})} \tilde{S}_{\bullet}(A)\oplus \tilde{S}_{\bullet}(B)\xrightarrow{j_{A\sharp} + j_{B\sharp}} \tilde{S}_{\bullet}(A) + \tilde{S}_{\bullet}(B)\to 0\]が $-1$ 次においても短完全系列\[0\to R\to R\oplus R\to R\to 0\]を与えていることに注意すれば同じです。

これまでのことの応用として懸垂同型を述べます。位相空間 $X$ に対して $SX = ((X\times [-1, 1])/(X\times \{1\}))/(X\times \{-1\})$ を懸垂といいます錐 $CX = (X\times [0, 1])/(X\times \{1\})$ とその上下をひっくり返した $(X\times [-1, 0])/(X\times \{-1\})$ を $X\times \{0\}$ において恒等写像で貼り合わせたものです。また、連続写像 $f : X\to Y$ に対して懸垂の間の連続写像 $Sf : SX\to SY$ が誘導されることには注意。

定理2.2.14
(懸垂同型)

位相空間 $X$ に対して自然な同型\[\theta : \tilde{H}_{\bullet}(SX; M)\cong \tilde{H}_{\bullet - 1}(X; M),\]\[\theta : \tilde{H}^{\bullet}(X; M)\cong \tilde{H}^{\bullet + 1}(SX; M)\]が存在する。

証明

homology群について示します。cohomology群についても同様です。

$p : X\times [-1, 1]\to SX$ を射影とします。$A = p(X\times [-1/2, 1])$, $B = p(X\times [-1, 1/2])$ とすれば $\{A, B\}$ は切除対であり、Mayer-Vietoris完全系列\[\cdots\to \tilde{H}_{n}(A\cap B)\to \tilde{H}_{n}(A)\oplus \tilde{H}_{n}(B)\to \tilde{H}_{n}(SX)\to \tilde{H}_{n - 1}(A\cap B)\to \cdots\]が得られます。そして、$A, B$ が可縮であることから $\tilde{H}_{\bullet}(A) = \tilde{H}_{\bullet}(B) = 0$ であり $($例2.1.20$)$、同型\[\Delta : \tilde{H}_{n}(SX)\to \tilde{H}_{n - 1}(A\cap B)\]を得ます。連続写像 $i : X\to A\cap B = X\times [-1/2, 1/2] : x\mapsto (x, 0)$ を標準的な包含写像とみなせばこれはhomotopy同値写像であり、自然な同型\[i_{*} : \tilde{H}_{n - 1}(X)\to \tilde{H}_{n - 1}(A\cap B)\]を定めます。よって、欲しかった自然な同型\[\theta = (i_{*})^{-1}\circ \Delta : \tilde{H}_{n}(SX)\to \tilde{H}_{n - 1}(X)\]を得ます。

Mayer-Vietoris完全系列は $2$ つの境界付き多様体 $X, Y$ をその境界間の同相写像 $f : \partial X\to \partial Y$ によって貼り合わせて得られる新たな多様体 $Z = X\cup_{f}Y$ の(co)homology群を計算する際によく用いられます。ただ、$Z$ において対 $\{X, Y\}$ が切除対になっているかの確認は $\Int X\cup \Int Y\neq Z$ であるために非自明であり、この部分の議論を次により回避することにします。

補題2.2.15

(1) $(X, A), (Y, B)$ をカラー付き空間対、$f : A\to B$ を連続写像とする。$Z = X\cup_{f}Y$ とおくとき完全系列\[\cdots\to H_{n}(B; M)\to H_{n}(X\cup_{f}B; M)\oplus H_{n}(Y; M)\to H_{n}(Z; M)\to H_{n - 1}(B; M)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(Z; M)\to H^{n}(X\cup_{f}B; M)\oplus H^{n}(Y; M)\to H^{n}(B; M)\to H^{n + 1}(Z; M)\to \cdots\]が存在する。
(2) $X$ をコンパクトな境界を持つ多様体、$Y$ を位相空間とし、$f : \partial X\to Y$ を連続写像とする。$Z = X\cup_{f}Y$ とおくとき完全系列\[\cdots\to H_{n}(\partial X; M)\xrightarrow{i_{*}\oplus (-f_{*})} H_{n}(X; M)\oplus H_{n}(Y; M)\xrightarrow{(j_{X})_{*} + (j_{Y})_{*}} H_{n}(Z; M)\to H_{n - 1}(\partial X; M)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(Z; M)\xrightarrow{(j_{X})^{*}\oplus (j_{Y})^{*}} H^{n}(X; M)\oplus H^{n}(Y; M)\xrightarrow{i^{*} - f^{*}} H^{n}(\partial X; M)\to H^{n + 1}(Z; M)\to \cdots\]が存在する。ただし、写像 $i : \partial X\to X$, $j_{X} : X\to Z$, $j_{Y} : Y\to Z$ は明らかな形で定義する。
証明

(1) $U\subset X$ を $A$ を強変位レトラクトにもつ開集合、$V\subset Y$ を $B$ を強変位レトラクトにもつ開集合とすれば $\{X\cup_{f}V, U\cup_{f}Y\}$ は $Z$ の切除対なのでMayer-Vietoris完全系列\[\cdots\to H_{n}(U\cup_{f}V; M)\to H_{n}(X\cup_{f}V; M)\oplus H_{n}(U\cup_{f}Y; M)\to H_{n}(Z; M)\to H_{n - 1}(U\cup_{f}V; M)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(Z; M)\to H^{n}(X\cup_{f}V; M)\oplus H^{n}(U\cup_{f}Y; M)\to H^{n}(U\cup_{f}V; M)\to H^{n + 1}(Z; M)\to \cdots\]が取れます。$U, V$ の取り方からhomotopy同値 $U\cup_{f}V\sim B$, $X\cup_{f}V\sim X\cup_{f}B$, $U\cup_{f}Y\sim Y$ が成立しているので、あとはこれらにより置き換えればよいです。

(2) 境界 $\partial X$ の開カラー近傍 $\partial X\times [0, \infty)\subset X$ を固定します$X$ が可微分多様体の場合のカラー近傍について詳細は多様体論 命題3.4.9を参照。位相多様体の場合はその他 定理C.2.3。また、境界がコンパクトという仮定は $X$ が $\partial X\times \{1\}$ を境に $2$ つの多様体に分離されるために使用。。$Z = X\cup_{f}Y$ を $\partial X\times \{1\}\subset Z$ を境に分けて考えれば、$Z$ は写像柱 $M_{f} = (\partial X\times [0, 1])\cup_{f}Y$ と $X\setminus (\partial X\times [0, 1))$ を恒等写像 $\partial X\times \{1\}\to \partial X\times \{1\}$ により貼り合わせた空間となっています。空間対\[(M_{f}, \partial X\times \{1\}), \ (X\setminus (\partial X\times [0, 1)), \partial X\times \{1\})\]がいずれもカラー付き空間対になっていることから(1)を適用して完全系列\[\cdots\to H_{n}(\partial X)\to H_{n}(M_{f})\oplus H_{n}(X\setminus (\partial X\times [0, 1)))\to H_{n}(Z)\to H_{n - 1}(\partial X)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(Z)\to H^{n}(M_{f})\oplus H^{n}(X\setminus (\partial X\times [0, 1)))\to H^{n}(\partial X)\to H^{n + 1}(Z)\to \cdots\]を得ます。あとはhomotopy同値 $M_{f}\sim Y$ と同相 $X\setminus (\partial X\times [0, 1))\cong X$ を用いて一部を取り換えればよいです。

系2.2.16

$X, Y$ をコンパクトな境界を持つ多様体とし、$f : \partial X\to \partial Y$ を同相写像とする。このとき、$Z = X\cup_{f}Y$ とすれば完全系列\[\cdots\to H_{n}(\partial X; M)\to H_{n}(X; M)\oplus H_{n}(Y; M)\to H_{n}(Z; M)\to H_{n - 1}(\partial X; M)\to \cdots\]\[\cdots\to H^{n}(Z; M)\to H^{n}(X; M)\oplus H^{n}(Y; M)\to H^{n}(\partial X; M)\to H^{n + 1}(Z; M)\to \cdots\]が存在する。

補足2.2.17

通常のMayer-Vietoris完全系列 $($定理2.2.13$)$ の系として従う系2.2.16などの完全系列も単にMayer-Vietoris完全系列と呼ぶことにします。

また、このことと同様に、通常の切除定理 $($定理2.2.9$)$ の適用条件外においても同型\[H_{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; M)\cong H_{\bullet}(X, A; M),\]\[H^{\bullet}(X, A; M)\cong H^{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; M)\]が正当化できる場合にはこれも単に切除同型と呼ぶことにします。例えば、$n$ 次元多様体 $X$ とその $n$ 次元コンパクト部分多様体 $A\subset \Int X$ が与えられたとき、それらによる空間対 $(X, A)$ に対して $U = \Int A\subset A$ は切除定理 $($定理2.2.9$)$ の仮定 $\overline{U}\subset \Int A$ を満たしていませんが、包含写像 $(X\setminus \Int A, \partial A)\to (X, A)$ 自体は(co)homology群の間に同型を誘導するのでこれも切除同型と呼ぶことにします例えば、$\partial A\subset A$ のカラー近傍 $V$ を取って、通常の切除定理より $W = A\setminus V$ を空間対 $(X, A)$ から切除。その後にhomotopy同値 $(X\setminus \Int A, \partial A)\sim (X\setminus W, A\setminus W)$ による同型を適用することで正当化。(要するに、これくらいの議論は省略してまとめて切除定理とかMayer-Vietoris完全系列ということにするということ。)

2.2.4 計算例

ここまで整備してきたことを用いていくつか具体的に(co)homology群の計算をしてみます。

球面

まずは最も基本的な球面 $S^{n}$ について。

定理2.2.18
(球面の(co)homology群)

$n \geq 1$ とする。$n$ 次元球面 $S^{n}$ について\[H_{q}(S^{n}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = 0, n)\\0 & (q \neq 0, n)\end{array}\right.,\]\[H^{q}(S^{n}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = 0, n)\\0 & (q \neq 0, n)\end{array}\right.,\]\[\tilde{H}_{q}(S^{n}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n)\\0 & (q \neq n)\end{array}\right.,\]\[\tilde{H}^{q}(S^{n}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n)\\0 & (q \neq n)\end{array}\right.\]が成立する。簡約版では $n = 0$ についても成立する。

証明

簡約(co)homology群について示します。まず、$n = 0$ の場合、$S^{0}$ は $2$ 点からなる離散集合なので明らかです。あとも $S^{n}\cong SS^{n - 1}$ であることと懸垂同型を用いれば明らかです。

特異(co)homology群についてですが、$q \neq 0$ において簡約(co)homology群に等しいことと $q = 0$ において $S^{n}$ の弧状連結性から $H_{0}(S^{n}; M)\cong M$ であることを合わせることで分かります。

系2.2.19

$n \geq 1$ に対して\[H_{q}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n)\\0 & (q \neq n)\end{array}\right.,\]\[H^{q}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n)\\0 & (q \neq n)\end{array}\right.\]が成立する。ただし、$D^{n}$ は $\R^{n}$ の単位閉球体である。

証明

対空間 $(D^{n}, S^{n - 1})$ の(co)homology完全系列より\[\cdots\to \tilde{H}_{q}(D^{n}; M)\to H_{q}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\to \tilde{H}_{q - 1}(S^{n - 1}; M)\to \tilde{H}_{q - 1}(D^{n}; M)\to \cdots\]\[\cdots\to \tilde{H}^{q - 1}(D^{n}; M)\to \tilde{H}^{q - 1}(S^{n - 1}; M)\to H^{q}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\to \tilde{H}^{q}(D^{n}; M)\to \cdots\]であり、$\tilde{H}_{\bullet}(D^{n}; M) = 0$ と $\tilde{H}^{\bullet}(D^{n}; M) = 0$ に注意すれば同型\[H_{\bullet}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\cong \tilde{H}_{\bullet - 1}(S^{n - 1}; M)\]\[\tilde{H}^{\bullet - 1}(S^{n - 1}; M)\cong H^{\bullet}(D^{n}, S^{n - 1}; M)\]が得られます。

トーラス・Kleinの壺

続いてトーラス $T^{2}$ とKleinの壺 $K$ の(co)homologyを計算してみます。まずは準備として、計算上都合の良い形で $T^{2}$ と $K$ を構成しておきます。$S^{1}$ は $xy$ 平面の単位円周とし、その自己同相写像 $\iota_{\pm} : S^{1}\to S^{1}$ を\[\iota_{\pm}(x, y) = (x, \pm y)\]により定めておきます。つまり、$\iota_{+}$ は恒等写像、$\iota_{-}$ は $x$ 軸反転写像です。このとき、トーラス $T^{2}$ は $S^{1}\times I$ の $2$ つの境界 $S_{0}^{1} = S^{1}\times \{0\}$ と $S_{1}^{1} = S^{1}\times \{1\}$ を恒等写像 $\iota_{+} : S_{1}^{1}\to S_{0}^{1}$ に従って貼り合わせた空間であり、同様にKleinの壺は $x$ 軸反転写像 $\iota_{-} : S_{1}^{1}\to S_{0}^{1}$ に従って貼り合わせた空間です。

一般に、位相空間 $X$ とその自己同相写像 $f : X\to X$ を用いて定義される空間\[T_{f} = X\times I/((x, 1)\sim (f(x), 0) : x\in X)\]のことをmapping torusと呼び、このmapping torusについて次のWang完全系列が存在します。

補題2.2.20
(Wang完全系列)

位相空間 $X$ とその自己同相写像 $f : X\to X$ が与えられているとする。このとき完全系列\[\cdots\to H_{n}(X)\xrightarrow{(f_{*})_{n} - 1} H_{n}(X)\to H_{n}(T_{f})\to H_{n - 1}(X)\to \cdots,\]\[\cdots\to H^{n}(T_{f})\to H^{n}(X)\xrightarrow{(f^{*})^{n} - 1} H^{n}(X)\to H^{n + 1}(T_{f})\to \cdots\]が存在する。これをWang完全系列という。

また、これより短完全系列\[0\to \CoKer((f_{*})_{n} - 1)\to H_{n}(T_{f})\to \Ker((f_{*})_{n - 1} - 1)\to 0,\]\[0\to \CoKer((f^{*})^{n - 1} - 1)\to H^{n}(T_{f})\to \Ker((f^{*})^{n} - 1)\to 0\]を得る。

証明

まずはhomology群について示します。

$I' = [0, 1/2]$, $I'' = [1/2, 1]$ とし、$X\times \{t\}\subset X\times I$ を単に $X_{t}$ と書くことにします。$T_{f}$ は $X\times I'$ と $X\times I''$ を $1/2\in I$ においては恒等写像、$0, 1\in I$ についてはmapping torusの定義通り $f$ により貼り合わせて得られる空間とみなします。Mayer-Vietoris完全系列より\[\cdots\to H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1})\to H_{n}(X\times I')\oplus H_{n}(X\times I'')\to H_{n}(T_{f})\to H_{n - 1}(X_{1/2})\oplus H_{n - 1}(X_{1})\to \cdots\]ですが、$H_{\bullet}(X_{1})$ をhomotopy同値写像である包含写像 $X_{1/2}, X_{1}\to X\times I$ を介して $H_{\bullet}(X_{1/2})$ と同一視し、$H_{\bullet}(X\times I')$ と $H_{\bullet}(X\times I'')$ をhomotopy同値写像である包含写像 $X_{1/2}\to X\times I', X\times I''$ を介して $H_{\bullet}(X_{1/2})$ と同一視すれば、この完全系列は\[\cdots\to H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2})\xrightarrow{\varphi_{n}} H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2})\to H_{n}(T_{f})\to H_{n - 1}(X_{1/2})\oplus H_{n - 1}(X_{1/2})\to \cdots\]と表すことができ、\[\varphi_{n} : H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2})\to H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2}) : (a, b)\mapsto (a + f_{*}(b), {} - a - b)\]です。$\varphi_{n}$ の $H_{n}(X_{1/2})\oplus 0$ への制限は単射なので、定義域側と値域側をそれぞれ商空間\[(H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2}))/(H_{n}(X_{1/2})\oplus 0)\cong H_{n}(X_{1/2}) : [a, b]\mapsto b\]\[(H_{n}(X_{1/2})\oplus H_{n}(X_{1/2}))/\varphi_{n}(H_{n}(X_{1/2})\oplus 0)\cong H_{n}(X_{1/2}) : [c, -d]\mapsto c - d\]により置き換えても完全性は保たれ、欲しかった完全系列\[\cdots\to H_{n}(X_{1/2})\xrightarrow{(f_{*})_{n} - 1} H_{n}(X_{1/2})\to H_{n}(T_{f})\to H_{n - 1}(X_{1/2})\to \cdots\]が得られます。

cohomology群についても同様に完全系列\[\cdots\to H^{n}(T_{f})\to H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2})\xrightarrow{\psi_{n}} H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2})\to H^{n + 1}(T_{f})\to \cdots\]が定まり\[\psi_{n} : H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2})\to H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2}) : (a, b)\mapsto (a - b, f^{*}(a) - b)\]です。$\psi_{n}$ の $0\oplus H^{n}(X_{1/2})$ への制限は単射なので、定義域側と値域側をそれぞれ商空間\[(H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2}))/(0\oplus H^{n}(X_{1/2}))\cong H_{n}(X_{1/2}) : [a, b]\mapsto a\]\[(H^{n}(X_{1/2})\oplus H^{n}(X_{1/2}))/\psi_{n}(0\oplus H^{n}(X_{1/2}))\cong H_{n}(X_{1/2}) : [c, d]\mapsto {} - c + d\]により置き換えても完全性は保たれ、欲しかった完全系列\[\cdots\to H^{n}(T_{f})\to H^{n}(X_{1/2})\xrightarrow{(f^{*})^{n} - 1} H^{n}(X_{1/2})\to H^{n + 1}(T_{f})\to \cdots\]が得られます。

このWang完全系列によれば、トーラス $T^{2}$ とKleinの壺 $K$ の(co)homology群を計算するためには貼り合わせ写像 $\iota_{\pm}$ の誘導準同型を調べればよいですが、このうち非自明な $\iota_{-}$ については次のようになっています。

補題2.2.21

$x$ 軸反転写像 $\iota : S^{1}\to S^{1} : (x, y)\mapsto (x, -y)$ の $1$ 次(co)homology群における誘導準同型は\[(\iota_{-})_{*} = -1 : H_{1}(S^{1}; \Z)\to H_{1}(S^{1}; \Z) : a\mapsto -a\]\[(\iota_{-})^{*} = -1 : H^{1}(S^{1}; \Z)\to H^{1}(S^{1}; \Z) : a\mapsto -a\]と表される。

証明

homology群の誘導準同型について示します。cohomology群についても同じです。

区間 $I = [0, 1]$ とその境界 $\partial I = \{0, 1\}$ の対 $(I, \partial I)$ について、商写像 $\pi : I\to I/\partial I $ は系2.2.11より同型\[\pi_{*} : H_{1}(I, \partial I; \Z)\to H_{1}(I/\partial I, \{*\}; \Z) \]を誘導します。いま、連続写像 $I\to S^{1}\subset \C : t\mapsto e^{2\pi it}$ の誘導する同相写像 $\varphi : I/\partial I\to S^{1}$ による同一視を行えば\[\pi_{*} : H_{1}(I, \partial I; \Z)\to H_{1}(S^{1}, \{*\}; \Z)\]です。

向きを反転する自己同相 $\kappa : I\to I : t\mapsto 1 - t$ は同一視 $\varphi : I/\partial I\cong S^{1}$ のもとで $x$ 軸反転写像 $\iota_{-} : S^{1}\to S^{1}$ を誘導しているので、次の図式は可換です。

誘導準同型 $\kappa_{*} : H_{1}(I, \partial I)\to H_{1}(I, \partial I)$ は $-1$ 倍写像 $($例2.1.23$)$ だったので $(\iota_{-})_{*}$ も $-1$ 倍写像です。

では、準備が整ったので $T^{2}, K$ について計算します。

命題2.2.22

トーラス $T^{2}$ の $\Z$ 係数(co)homology群は\[H_{q}(T^{2}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{2} & (q = 1) \\\Z & (q = 2)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[H^{q}(T^{2}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{2} & (q = 1) \\\Z & (q = 2)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]であり、Kleinの壺 $K$ の(co)homology群は\[H_{q}(K; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z\oplus \Z_{2} & (q = 1) \\0 & (q = 2) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[H^{q}(K; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z & (q = 1) \\\Z_{2} & (q = 2) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。

証明

Wang完全系列より\[\cdots\to H_{n}(S^{1})\xrightarrow{(\iota_{+*})_{n} - 1} H_{n}(S^{1})\to H_{n}(T^{2})\to H_{n - 1}(S^{1})\to \cdots,\]\[\cdots\to H_{n}(S^{1})\xrightarrow{(\iota_{-*})_{n} - 1} H_{n}(S^{1})\to H_{n}(K)\to H_{n - 1}(S^{1})\to \cdots\]であり、これから短完全系列\[0\to \CoKer((\iota_{+*})_{n} - 1)\to H_{n}(T^{2})\to \Ker((\iota_{+*})_{n - 1} - 1)\to 0,\]\[0\to \CoKer((\iota_{-*})_{n} - 1)\to H_{n}(K)\to \Ker((\iota_{-*})_{n - 1} - 1)\to 0\]が得られます。いま、$H_{\bullet}(S^{1})$ がPID $\Z$ 上の自由加群なので $\Ker(\iota_{\pm*} - 1)$ も自由であり、いずれの短完全系列も分解します。よって、\[H_{n}(T^{2})\cong \CoKer((\iota_{+*})_{n} - 1)\oplus \Ker((\iota_{+*})_{n - 1} - 1)\]\[H_{n}(K)\cong \CoKer((\iota_{-*})_{n} - 1)\oplus \Ker((\iota_{-*})_{n - 1} - 1)\]であり、あとは右辺を計算すればよいです。

$T^{2}$ について、$\iota_{+}$ が恒等写像であることからその誘導準同型 $\iota_{+*}$ も恒等写像 $1$ であり、$\iota_{+*} - 1 = 0$ から\[H_{0}(T^{2})\cong \Z \oplus 0\]\[H_{1}(T^{2})\cong \Z \oplus \Z\]\[H_{2}(T^{2})\cong 0 \oplus \Z\]です。

$K$ について、$\iota_{-}$ の誘導準同型は $0$ 次homology群では恒等写像、$1$ 次homology群では $-1$ 倍写像であった $($補題2.2.21$)$ ので、$(\iota_{-*})_{1} - 1 = \times(-2)$ に注意して\[H_{0}(K)\cong \Z \oplus 0\]\[H_{1}(K)\cong \Z_{2} \oplus \Z\]\[H_{2}(K)\cong 0 \oplus 0\]です。

cohomology群については普遍係数定理 $($定理1.3.3$)$ から従います。

2次元実射影空間

続いて、$2$ 次元実射影空間 $\RP^{2}$ の特異(co)homology群を計算します。$\RP^{2}$ は $\R^{3}$ の単位球面 $S^{2}$ を対蹠点どうしで等化して得られた空間 $S^{2}/\Z_{2}$ に同相でしたが、次の図のように上半球面だけを考えてその境界 $(\cong S^{1})$ を対蹠点どうしで等化したものとも考えられ、よって、$\RP^{2}$ は $2$ 次元閉円盤 $D^{2}$ と円周 $S^{1}$ を写像 $f : \partial D^{2} = S^{1}\to S^{1} : \theta\mapsto 2\theta$ により貼り合わせることで得られる空間になっています。

図2.2.2 : 上半球面 $\cong D^{2}$ を境界においてその対蹠点どうしで等化すれば $\RP^{2}$ が得られる
命題2.2.23

$2$ 次元実射影空間 $\RP^{2}$ の $\Z$ 係数(co)homology群は\[H_{q}(\RP^{2}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z_{2} & (q = 1) \\0 & (q = 2) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[H^{q}(\RP^{2}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\0 & (q = 1) \\\Z_{2} & (q = 2) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。

証明

Mayer-Vietoris完全系列 $($の類似補題2.2.15 (2)$)$\[\cdots\to \tilde{H}_{q}(S^{1})\to \tilde{H}_{q}(D^{2})\oplus \tilde{H}_{q}(S^{1})\to \tilde{H}_{q}(\RP^{2})\to \tilde{H}_{q - 1}(S^{1})\to\dots\]が存在し、$\tilde{H}_{\bullet}(D^{2}) = 0$ に注意すれば完全系列\[0\to \tilde{H}_{2}(\RP^{2})\to \tilde{H}_{1}(S^{1})\xrightarrow{f_{*}} \tilde{H}_{1}(S^{1})\to \tilde{H}_{1}(\RP^{2})\to 0\]が得られます。$f$ の表示から $f_{*} : \tilde{H}_{1}(S^{1})\to \tilde{H}_{1}(S^{1})$ は $\pm 2$ 倍写像であり、\[\tilde{H}_{1}(\RP^{2})\cong \CoKer f_{*} \cong \Z_{2},\]\[\tilde{H}_{2}(\RP^{2})\cong \Ker f_{*} = 0\]です。よってhomology群については主張の通りになり、cohomology群については普遍係数定理 $($定理1.3.3$)$ から主張の通りになります。

座標変換に関する補題

局所homology群を導入して座標変換に関する基本的な補題を確認します。

定義2.2.24
(局所homology群)

$X$ を位相空間とする。点 $x\in X$ に対してhomology群 $H_{\bullet}(X, X\setminus \{x\}: M)$ を $X$ の $x$ における $M$ 係数局所homology群 $($local homology group$)$ と呼ぶ。

補題2.2.25
(Euclid空間の局所homology群)

$V$ をEuclid空間 $\R^{n}$ の開集合とする。その各点 $x\in V$ における局所homology群は\[H_{q}(V, V\setminus \{x\}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n)\\0 & (q \neq n)\end{array}\right.\]である。

証明

正実数 $\delta > 0$ を $D_{\delta}^{n}(x)\subset V$ に取ります。切除定理 $($定理2.2.9$)$ から\[H_{\bullet}(V, V\setminus \{x\})\cong H_{\bullet}(D_{\delta}^{n}(x), D_{\delta}^{n}(x)\setminus \{x\}) \cong H_{\bullet}(D^{n}, D^{n}\setminus \{0\})\]です。恒等写像 $(D_{n}, S^{n - 1})\to (D^{n}, D^{n}\setminus \{0\})$ が空間対のhomology完全系列の間に誘導する準同型

において $i_{*}, j_{*}$ が同型なので $5$ 項補題 $($補題1.1.25$)$ より $k_{*}$ も同型であり、あとは系2.2.19より主張の同型が得られます。

補題2.2.26
(上半空間の局所homology群)

$V$ を上半空間 $\Rp^{n}$ の開集合とする。

(1) 内点 $x\in \Int V := V\cap \Int \Rp^{n}$ における局所homology群は\[H_{q}(V, V\setminus \{x\}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n) \\0 & (q \neq n)\end{array}\right.\]である。
(2) 境界点 $x\in \partial V := V\cap \partial \Rp^{n}$ における局所homology群は全ての $q\in \N$ で\[H_{q}(V, V\setminus \{x\}; M) = 0\]である。
証明

(1) (2) 補題2.2.25と同様に計算できます。

補題2.2.27

$U$ を $\Rp^{n}$ の開集合、$V$ を $\Rp^{m}$ の開集合とする。もし同相写像 $f : U\to V$ があれば $n = m$ であり、さらに $\partial V = f(\partial U)$ と $\Int V = f(\Int U)$ を満たす。

証明

各 $x\in U$ に対して同型 $f_{*} : H_{\bullet}(U, U\setminus \{x\})\cong H_{\bullet}(V, V\setminus \{\varphi(x)\})$ があるので、あとは補題2.2.25補題2.2.26を合わせて容易に確かめられます。

以上のことを位相多様体に応用してみます。ただし、位相多様体の定義には予備知識 定義2.4.25を考えるとします。まずは位相多様体の次元の一意性から。

系2.2.28
(位相多様体の次元の一意性)

位相多様体 $X$ の次元は一意に定まる。

証明

$X$ が次元 $n, m$ を持つとします。一点 $x\in X$ の周りの $n$ 次元局所座標系 $\varphi : U\to V$ と $m$ 次元局所座標系 $\varphi' : U'\to V'$ を取るとき、その間の変換\[(\varphi'|_{U\cap U'})\circ (\varphi|_{U\cap U'})^{-1} : \varphi(U\cap U')\to \varphi'(U\cap U')\]はEuclid空間もしくは上半空間の開集合の間の同相写像であり、補題2.2.27より $n = m$ でなければなりません。

次に、位相多様体の境界と内部が局所homology群で識別できること。

系2.2.29
(位相多様体の局所homology群)

$X$ を $n$ 次元位相多様体とする。

(1) 内点 $x\in \Int X$ における局所homology群は\[H_{q}(X, X\setminus \{x\}; M)\cong \left\{\begin{array}{ll}M & (q = n) \\0 & (q \neq n)\end{array}\right.\]である。
(2) 境界点 $x\in \partial X$ における局所homology群は全ての $q\in \N$ で\[H_{q}(X, X\setminus \{x\}; M) = 0\]である。
証明

$x$ の周りの座標近傍 $(U, \varphi : U\to V)$ を取れば切除定理より同型\[H_{\bullet}(X, X\setminus \{x\})\cong H_{\bullet}(U, U\setminus \{x\})\cong H_{\bullet}(V, V\setminus \{\varphi(x)\})\]が得られるので、あとは補題2.2.25補題2.2.26分かります。

補足2.2.30

境界を持つ $n$ 次元位相多様体 $X$ の境界 $\partial X$ が $n - 1$ 次元位相多様体になることも重要な事実です。これは多様体論 命題1.1.21で示します。

2.2.5 コンパクト曲面の特異(co)homology群

ここまでの計算例によって技術的な面での応用の紹介は済んでいますが、せっかくなので、トーラス $T^{2}$ や $2$ 次元射影空間 $\RP^{2}$ 以外のコンパクト曲面$2$ 次元多様体のことを曲面と呼ぶことにします。ここでは微分可能性は仮定せずに位相多様体の意味で考えることとしますが、あまり細かい(難しい)ことは気にせず、いくつか用意した図に従って議論していくことにします。についても $\Z$ 係数特異(co)homology群を計算したいと思います。以下では、$2$ 次元球面 $S^{2}$ に対してトーラス $T^{2}$ を $g$ 個と $2$ 次元閉円盤 $D^{2}$ を $b$ 個連結和図2.2.3のように、各曲面に埋め込まれた円盤の内部を取り除いた後、新たにできた境界どうしで貼り合わせる操作のこと。可微分多様体の場合に詳しくは多様体論 3.4.3節を参照。また、連結位相多様体の間の連結和も連結可微分多様体の場合と同様(本当は少し気を付けることがあり、きちんと整備するのは大変…)にwell-definedに定義できることが知られています。することで得られるコンパクト曲面を $\Sigma_{g, b}$ と書き、同様に $2$ 次元球面 $S^{2}$ に対して $2$ 次元実射影空間 $\RP^{2}$ を $g$ 個と $2$ 次元閉円盤 $D^{2}$ を $b$ 個連結和することで得られるコンパクト曲面を $N_{g,b}$ と書くことにします。また、$b = 0$ の場合は単に $\Sigma_{g}, N_{g}$ とも書くことにします。

図2.2.3 : $\Sigma_{2, 2}$ の場合
コンパクト曲面の分類定理

まずは、そもそもコンパクト曲面がどれだけ存在するかについて次の形で分類定理を紹介しておきます。

事実2.2.31
(コンパクト曲面の分類定理)

(1) 向き付け可能かつ連結なコンパクト $2$ 次元多様体は $\Sigma_{g, b}$ のいずれかに同相である。また、非負整数の対 $(g, b)\neq (g', b')$ に対して $\Sigma_{g, b}\not\cong \Sigma_{g', b'}$ である。
(2) 向き付け不可能かつ連結なコンパクト $2$ 次元多様体は $N_{g, b} \ (g\geq 1)$ のいずれかに同相である。また、非負整数の対 $(g, b)\neq (g', b')$ に対して $N_{g, b}\not\cong N_{g', b'}$ である。

ということで、この分類定理を認めれば上記で導入した $\Sigma_{g, b}, N_{g, b}$ について特異(co)homology群が計算できれば全てのコンパクト曲面の特異(co)homology群が計算できたことになります。

ハンドル体としての表示

コンパクト曲面をハンドル体として表示しておくと計算上都合がよいため、まずはそのハンドル体を導入します。

$n$ 次元多様体 $M$ を固定します。球体 $D^{k}\times D^{n - k}$ と接着写像と呼ばれる埋め込み $\alpha : \partial D^{k}\times D^{n - k}\to \partial M$ の対 $h = (D^{k}\times D^{n - k}, \alpha)$ を $k$ ハンドルといい、この埋め込み $\alpha$ に従って球体 $D^{k}\times D^{n - k}$ を $M$ に貼り合わせて得られる多様体 $M\cup_{\alpha}(D^{k}\times D^{n - k})$ を $M\cup h$ と書き、$M$ にハンドル $h$ を接着して得られるハンドル体といいます。ただし、$k = 0$ の場合は $\partial D^{k} = \varnothing$ とし、$M\cup h = M\sqcup D^{n}$ とします。また、ハンドルの次元 $k$ を明示するときは $h^{k}$ などと書くことにします。一般に、空集合から始めて繰り返しこのようなハンドルの接着を行って得られる多様体 $\bigcup_{i = 1}^{m}h_{i}^{k_{i}}$ をハンドル体といい、多様体 $M$ に対してそれと同相なハンドル体を与えることを $M$ のハンドル分解といいます。

例えば、トーラス $T^{2}$ は正方形 $I\times I$ の対辺を図2.2.4のように等化して得られる多様体ですが、その正方形の中に埋め込まれた円盤の内部を抜いてから等化すれば $T^{2}\setminus \Int D^{2}\cong \Sigma_{1, 1}$ が得られ、これは図2.2.5のように $0$ ハンドルに $2$ つの $1$ ハンドルを接着して得られることが分かります。もちろん、その境界に沿って $2$ ハンドル $\cong D^{2}$ を貼り直せば $T^{2}$ になり、つまり、$T^{2}$ は $0$ ハンドル $1$ 個、$1$ ハンドル $2$ 個、$2$ ハンドル $1$ 個からなるハンドル分解を持ちます。

図2.2.4 : $T^{2}$ は正方形の対辺どうしを図の向きで等化して得られる曲面
図2.2.5 : 正方形の内側を抜いて等化すれば $\Sigma_{1, 1}$ のハンドル体の構造が見える

同様に、$\RP^{2}\setminus \Int D^{2}\cong N_{1, 1}$ や $\Sigma_{0, 1}\setminus \Int D^{2}\cong \Sigma_{0, 2}$ も図2.2.6のように表され、ともに唯一の $0$ ハンドルに $1$ 個の $1$ ハンドルを接着して得られるハンドル体となっています。$\RP^{2}\setminus \Int D^{2}$ については図2.2.2の上半球面の中に埋め込まれた円盤の内部を抜いて等化することでメビウスの輪が得られていることに注意すると、位相的には $0$ ハンドルに $1$ ハンドルを半分ひねって接着したものと分かります。

図2.2.6 : 左が $\RP^{2}\setminus \Int D^{2}$、右が $\Sigma_{0, 1}\setminus \Int D^{2}$

もう一つ例として、$\Sigma_{2} = T^{2}\cs T^{2}$ がハンドル体としてどのように表されるか考えます。上の例と同じく、$2$ ハンドルに相当する円盤の内部を除いた $\Sigma_{2}\setminus \Int D^{2}\cong \Sigma_{2, 1}$ のハンドル分解を考えたいのですが、この取り除く円盤を図2.2.7のように連結和に由来する円周に重なるように取ったとすると、これは $T^{2}\setminus \Int D^{2}$ と $T^{2}\setminus \Int D^{2}$ をそれぞれの境界 $\partial D^{2}$ に埋め込まれた区間 $D^{1}$ に沿って貼り合わせたもの $($境界連結和$)$ に同相であることが分かり、つまり、上で考えたハンドル体どうしを例えば $0$ ハンドルにおいて貼り合わせたものと考えられます。ということで、$\Sigma_{2}$ は $0$ ハンドル $1$ 個、$1$ ハンドル $4$ 個、$2$ ハンドル $1$ 個からなるハンドル分解を持つことになります。

図2.2.7 : $\Sigma_{2, 1}\cong \Sigma_{2}\setminus \Int D^{2}$ のハンドル分解

一般にも同様に、$(T^{2})^{\cs a}\cs(\RP^{2})^{\cs b}\cs(D^{2})^{\cs c}$ は $\Sigma_{1, 1}$ を $a$ 個、$N_{1, 1}$ を $b$ 個、$\Sigma_{0, 2}$ を $c$ 個、互いに $0$ ハンドルの境界でつなげたものに最後 $2$ ハンドルを貼ることで得られます。

図2.2.8 : $(T^{2}\cs \RP^{2}\cs D^{2})\setminus \Int D^{2}$ のハンドル分解
計算

では本題のコンパクト曲面のhomology群の計算を行いますが、その前に最後の準備として、ハンドル体のhomology群に関する計算を行います。

補題2.2.32

$M = ((T^{2})^{\cs a}\cs(\RP^{2})^{\cs b}\cs(D^{2})^{\cs c})\setminus \Int D^{2}$ とする。

(1) $M$ の特異homology群は\[H_{q}(M; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{2a + b + c} & (q = 1) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。
(2) 適当な同一視 $H_{1}(M; \Z)\cong \Z^{2a + b + c}$, $H_{1}(\partial D^{2})\cong \Z$ のもとで、包含写像 $i : \partial D^{2}\to M$ の $1$ 次homology群に関する誘導準同型 $i_{*} : H_{1}(\partial D^{2}; \Z)\to H_{1}(M; \Z)$ は\[\Z\to \Z^{2a + b + c} : 1\mapsto (\overbrace{0, \dots, 0}^{2a}, \overbrace{2, \dots, 2}^{b}, \overbrace{1, \dots, 1}^{c})\]と表示される。
証明

(1) $M$ には上で考えたようなハンドル分解を与えておくとします。このとき、唯一の $0$ ハンドルに相当する部分を $M_{0} \ (\cong D^{2})$ とおけば、切除定理より\[H_{\bullet}(M, M_{0})\cong \bigoplus^{2a + b + c}H_{\bullet}(I\times I, \partial I\times I)\cong \bigoplus^{2a + b + c}H_{\bullet}(I, \partial I)\]です。

(2) 準同型\[\Z\cong H_{1}(\partial D^{2})\to H_{1}(M, M_{0})\cong \bigoplus^{2a + b + c}H_{\bullet}(I, \partial I)\cong \Z^{2a + b + c}\]の表示を考えます。$H_{1}(M)\cong H_{1}(M, M_{0})$ には注意。成分ごとに $H_{1}(\partial D^{2})\to H_{1}(I, \partial I)$ を計算したいですが、これは $\partial D^{2}\subset M$ が各 $1$ ハンドルを向きに応じた符号込みで何回通るかを数えることで与えられます。

例えば図2.2.8の境界をたどってみればわかるように、$T^{2}$ に由来する $1$ ハンドルは異なる向きにそれぞれ $1$ 回ずつ通るので符号込みでは計 $0$ 回、$\RP^{2}$ に由来する $1$ ハンドルは同じ向きに計 $2$ 回、$D^{2}$ に由来する $1$ ハンドルにはちょうど $1$ 回通るので、必要であれば同一視 $H_{1}(I, \partial I)\cong \Z$ を $-1$ 倍で取り換えることで主張の表示が得られます。

では、計算します。cohomology群についてはhomology群に対する計算結果と普遍係数定理 $($定理1.3.3$)$ から直ちに分かる一般に有限型のhomology群を持つ位相空間に対し、cohomology群の自由部分はhomology群の自由部分に一致し、ねじれ部分はhomology群のねじれ部分の次数を $1$ つ上げた形になります。ので省略します。

命題2.2.33
(コンパクト曲面のhomology群)

(1) 向き付け可能な閉曲面 $\Sigma_{g}$ の $\Z$ 係数homology群は\[H_{q}(\Sigma_{g}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{2g} & (q = 1) \\\Z & (q = 2)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。
(2) 向き付け不可能な閉曲面 $N_{g} \ (g\geq 1)$ の $\Z$ 係数homology群は\[H_{q}(N_{g}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{g - 1}\oplus \Z_{2} & (q = 1) \\0 & (q = 2)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。
(3) $b\geq 1$ に対して\[H_{q}(\Sigma_{g, b}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{2g + b - 1} & (q = 1) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[H_{q}(N_{g, b}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z^{g + b - 1} & (q = 1) \\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]である。
証明

(1) $\Sigma_{g} = \Sigma_{g, 1}\cup_{\partial} D^{2}$ に関するMayer-Vietoris完全系列\[\cdots\to \tilde{H}_{q}(S^{1})\to \tilde{H}_{q}(\Sigma_{g, 1})\oplus \tilde{H}_{q}(D^{2})\to \tilde{H}_{q}(\Sigma_{g})\to \tilde{H}_{q - 1}(S^{1})\to\cdots\]の非自明な部分を取り出すと\[0\to \tilde{H}_{2}(\Sigma_{2})\to \tilde{H}_{1}(S^{1})\to \tilde{H}_{1}(\Sigma_{g, 1})\oplus \tilde{H}_{1}(D^{2})\to \tilde{H}_{1}(\Sigma_{g})\to 0\]ですが、補題2.2.32より\[H_{1}(S^{1})\to H_{1}(\Sigma_{g, 1})\]は零写像なので\[H_{1}(\Sigma_{g})\cong H_{1}(\Sigma_{g, 1})\cong \Z^{2g}, \ H_{2}(\Sigma_{g})\cong H_{1}(S^{1})\cong \Z\]が分かります。

(2) (1)と同様です。この場合は補題2.2.32より $H_{1}(S^{1})\to H_{1}(N_{g, 1})$ が\[i_{*} : \Z\to \Z^{g} : 1\mapsto (2, \dots, 2)\]と表示されるので\[H_{1}(N_{g})\cong \CoKer i_{*}\cong \Z^{g - 1}\oplus \Z_{2}, \ H_{2}(N_{g})\cong \Ker i_{*}\cong 0 \]が分かります。

(3) $\Sigma_{g, b}\cong ((T^{2})^{\cs g}\cs(D^{2})^{\cs b - 1})\setminus \Int D^{2}$ と $N_{g, b}\cong ((\RP^{2})^{\cs g}\cs(D^{2})^{\cs b - 1})\setminus \Int D^{2}$ に注意すればすでに補題2.2.32で計算されています。

以上です。

メモ

ハンドル体の説明を入れたならついでに $\RP^{2}\cs \RP^{2}\cong K$ とか $\RP^{2}\cs \RP^{2}\cs\RP^{2}\cong T^{2}\cs \RP^{2}$ とかも説明したほうがいい(けど、図を描くのが面倒で…そのうちします…)。ハンドル体導入以降の説明もちょっと雑かなーと思うのでそこもそのうち加筆修正したいです。

参考文献

[1] 服部晶夫 位相幾何学Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1977-1979)
[2] A. Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, (2002), http://pi.math.cornell.edu/~hatcher/AT/ATpage.html

更新履歴

2021/10/02
新規追加
2022/06/02
deformation retractから強変位レトラクトに用語を修正
錐や写像柱について予備知識のページで整備したため削除
2022/10/02
切除定理の系にcohomologyの場合を追加。日本語の不自然な個所を修正。
2023/02/02
計算例の一部を別ページに移動。記号や用語を一部修正。
2023/04/02
切除対の定義について注釈を追加。
2024/11/02
局所homology群について追加。