以下でははめ込み、埋め込みの基本事項をまとめます。
可微分多様体に対するはめ込み、埋め込み、ついでに沈め込みを定義します。
簡単な例として次のようなものがあります。
$n$ 次元球面は定義から $n + 1$ 次元Euclid空間 $($それ自体が多様体です。$)$ の単位球面として実現されてましたが、この状況を一般化して部分多様体を次のように導入することにします。
可微分多様体 $M$ の部分集合 $A\subset M$ であって、埋め込み $f : N\to M$ の像となるものを $M$ の部分多様体という。
部分多様体は次のように特徴づけられます。
(1) まず、$p\in \Int N$ の場合について示します。予備知識 定理4.2.66より $p$ の $\Int N$ における開近傍 $U'$ と $f(p)\in M$ の周りの座標近傍 $(U, \varphi : U\to V)$ であって $f(U')\subset U$ かつ\[\varphi(f(U')) = V \cap (\R^{n}\times\{0\}^{m - n})\]となるものが取れます。$f : N\to f(N)$ は同相なので $f(U')\subset f(N)$ は $f(N)$ の開集合、よって、ある開集合 $U''\subset M$ が存在して $f(U') = f(N)\cap U''$ です。$U$ を $U\cap U''$ で置き換えればよいです。
$p\in\partial N$ の場合を示します。$p\in N$ の周りの局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}\subset \Rp^{n}$ を固定し、$f\circ \varphi_{N}^{-1} : V_{N}\to M$ の定義域を $\R^{n}$ における開集合 $V'$ に拡張したものを固定し $\psi : V'\to M$ とします。この $\psi$ に対して予備知識 定理4.2.66を用いることで、$\varphi_{N}(p)$ の開近傍 $V''\subset V'$ と $f(p)\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$ であって $(\varphi_{M}\circ \psi)(V'') = V_{M}\cap(\R^{n}\times \{0\}^{m - n})$ かつ\[\varphi_{M}\circ \psi : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n}, 0, \dots, 0)\]を満たすものが取れます。必要であれば $U_{M}$ を小さく取り直すことで $\varphi_{M}$ が欲しかった座標近傍を与えます。
(2) $N\subset M$ がHausdorff空間であることは自明です。仮定により得られる局所座標系たちをを制限することで $N$ の座標近傍系が得られるので $N$ は多様体であり、包含写像が埋め込みを与えます。よって、$N\subset M$ は部分多様体です。
次は部分多様体の構成法として基本的です。
$M^{m}$, $N^{n}$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、その正則値 $p\in N$ の逆像 $f^{-1}(p)\subset M$ は空でなければ境界を持たない $m - n$ 次元部分多様体である。
正則値の定義から任意の $q\in f^{-1}(p)$ に対して $(f_{*})_{q} : T_{q}M\to T_{p}N$ は全射なので、陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ より各 $q\in f^{-1}(p)$ において局所平坦です。
明らかに $f^{-1}(p)$ は $M$ の閉集合であり、よって、これにより得られる部分多様体は位相空間としての境界を $M$ の中に持ちません。
$M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級関数 $f : M\to \R$ に対し、$f$ の零点集合 $A$ と $df$ の零点集合が交わらないとき $A$ は $M$ の $m - 1$ 次元部分多様体である。
境界を持たない可微分多様体から境界を持たない可微分多様体への沈め込み $f : M\to N$ について、命題3.2.8により各 $p\in \Img f$ の逆像 $f^{-1}(p)$ は $M$ の部分多様体になりますが、$N$ の連結性と $f$ の固有性ここでは、コンパクト集合の逆像が必ずコンパクトになるという意味。を課すことでさらに強く $f : M\to N$ は $C^{\infty}$ 級ファイバー束になり、特に逆像 $f^{-1}(p)$ は $p\in N$ の取り方に依らず互いに $C^{\infty}$ 級同相になります。
$M, N$ を境界を持たない可微分多様体とし、$N$ はさらに連結とします。このとき、固有な沈め込み $f : M\to N$ は可微分閉多様体 $F$ をファイバーとする $C^{\infty}$ 級ファイバー束になる。
この写像 $f : M\to N$ の全射性を示します。まず、沈め込みであることから $f$ は開写像であり $\Img f\subset N$ は開集合です。像 $\Img f$ の位相空間としての境界 $\partial\Img f$ が空でないとしたとき、その点 $p\in \partial\Img f$ における連結コンパクト近傍 $K$ を取れば $f(f^{-1}(K)) = \Img f\cap K$ はコンパクト、よって $K$ における閉集合であり、$\Img f\cap K$ は $K$ の空でない閉かつ開な部分集合になるので $\Img f\cap K = K$ です。これは $p\in \partial\Img f$ に矛盾するので $\partial\Img f = \emptyset$ が分かります。これと $N$ の連結性により $\Img f = N$、つまり、$f$ の全射性が分かります。
各点 $p\in N$ に対し、その周りの局所自明化を構成します。命題3.2.8により $F = f^{-1}(p)$ は境界を持たない部分多様体であり、$f$ が固有であったことよりコンパクト、よって閉部分多様体です。$p\in N$ の周りの局所座標系 $\psi : U''\to V''$ を一つ取り、各 $q\in F$ に対してその周りの $M$ における局所座標系 $\varphi_{q} : U_{q}\to V_{q}$ であって条件
を満たすものを取ります。有限個の $q_{1}, \dots, q_{r}\in F$ を選んで $\{F\cap U_{q_{k}}\}_{1\leq k \leq r}$ が $F$ の開被覆となるように取ります。いま、上で取った局所座標系たちを適当に制限および整形して $V'' = V''_{1} = \dots = V''_{r}$ としてよいです。あとは以下の流れで示されます。
(step 1) $A = \{p'\subset U''\mid f^{-1}(p')\subset \tilde{U}\}$ と定めます。また、$U''$ における $p$ のコンパクト近傍 $K$ を取っておきます。$K\setminus A$ の点列 $\{y_{k}\}_{k\in \N}$ であって $y_{k}\xrightarrow{k\to\infty} p$ となるものが存在したとします。このとき、$f^{-1}(K)$ の点列 $\{x_{k}\}_{k\in \N}$ であって各 $k$ に対して $f(x_{k}) = y_{k}$ かつ $x_{k}\in f^{-1}(K)\setminus \tilde{U}$ を満たすものが存在します。$f^{-1}(K)$ がコンパクトなので $F = f^{-1}(p)$ の点に収束する部分列が存在しますが収束部分列の存在については、例えば、$f^{-1}(K)$ を高々有限個のコンパクト集合の和集合に分割し、それぞれを定義域に含む座標近傍たちが取れるようにしておけばBolzano–Weierstrassの定理に帰着できるのでよいです。、これは $\tilde{U}$ が $F$ の開近傍であることに矛盾します。よって、$K\setminus A$ の点列 $\{y_{k}\}_{k\in \N}$ であって $y_{k}\xrightarrow{k\to\infty} p$ となるものは存在せず $A$ は $p$ の近傍です。$A$ を適当な開近傍に制限して本当は $A$ 自体が開近傍になるので制限しなくても大丈夫です。$U'''$ を得ます。
(step 2) $U''$ 上のベクトル場 $Y$ を任意に取り、これを $V''$ のベクトル場ともみなすことにします。各 $1\leq k\leq r$ に対して $V_{k} = V'_{k}\times V''$ 上のベクトル場 $W^{k}$ を $(s, t)\in V'_{k}\times V''$ において\[W_{(s, t)}^{k} = Y_{t}\in T_{s}V'_{k}\oplus T_{t}V'' = T_{(s, t)}(V'_{k}\times V'')\]とすることで定めます。コンパクト台を持つ非負値 $C^{\infty}$ 級関数 $h : V''\to [0, \infty)$ であって $h(\psi(p)) = 1$ となるものと $F$ の開被覆 $\{F\cap U_{q_{k}}\}_{1\leq k \leq r}$ に対する $1$ の分割 $\{h_{k}\}_{1\leq k\leq r}$ を取ります。$h_{k}$ たちについては $V'_{k}$ 上の関数ともみなすことにします。$V_{k}$ 上のコンパクト台を持つ $C^{\infty}$ 級写像 $\tilde{h}_{k} : V_{k}\to \R : (s, t)\mapsto h_{k}(s)\cdot h(t)$ を取り、これより $M$ 上のベクトル場 $X^{k}$ を $(\varphi_{k}^{-1})_{*}(\tilde{h}W^{k})$ として定め、$X' = \sum_{k = 1}^{r}X^{k}$ とおきます。また、$M$ 上の $C^{\infty}$ 級関数 $H : M\to \R$ を $H = \sum_{k = 1}^{r}\varphi_{k}^{*}\tilde{h}_{k}$ により定めておきます。このとき、各点 $q\in f^{-1}(U'')$ において $f_{*}X'_{q} = H(q)Y_{f(q)}$ が成立しているので、あとは $H$ が $F$ の近傍で正値であることに注意して $\tilde{U} = \{q\in M\mid H(q) > 0\}$ に対して(step 1)を適用して $U'''\subset U''$ を取り、$f^{-1}(U''')$ 上で $X = (1/H)X'$ とすればよいです。
(step 3) 自明です。
(step 4) ベクトル場 $X^{1}, \dots, X^{n}$ を(step 3)により取ります。$M\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $Z$ を $(q, t) = (q, t_{1}, \dots, t_{n})\in M\times \R^{n}$ において\[Z_{(q, t)} = \sum_{k = 1}^{n}t_{k}X_{q}^{k}\in T_{q}M\oplus T_{t}\R^{n} = T_{(q, t)}(M\times \R^{n})\]とすることで定めます。各 $X^{k}$ がコンパクト台を持つこと、および $Z$ の $\R^{n}$ 方向成分が常に $0$ であることから $Z$ は完備なベクトル場であり、フロー $G_{M} : M\times \R^{n}\times \R\to M\times \R^{n}$ とその制限による $C^{\infty}$ 級同相写像 $G_{M}^{u} = G_{M}|_{M\times \R^{n}\times \{u\}}$ が取れます。射影 $P_{M} : M\times \R^{n}\to M$ との合成 $P_{M}\circ G_{M}|_{F\times \R^{n}\times \{1\}} : F\times \R^{n}\to M$ を $\varPhi$ とおきます。さて、$X^{k}$ の取り方から $N$ 上のコンパクト台を持つベクトル場 $Y^{k}$ であって任意の $q\in M$ に対して $f_{*}X_{q} = Y_{f(q)}$ を満たすものが取れます。この $Y^{k}$ たちから同様に $N\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $W$ とフロー $G_{N} : N\times \R^{n}\times \R\to N\times \R^{n}$、$C^{\infty}$ 級写像 $\varPsi : \{p\}\times \R^{n} = \R^{n}\to N$ を構成します。確かめたいことは
です。これらが分かれば、$\varPhi$ を $F\times \hat{V}$ に制限して $\hat{V}$ を $\hat{U}$ で置き換えることで局所自明化の逆写像が得られます。
(i) もう少し一般に、任意の $p'\in N$ と $t\in \R^{n}$ に対して $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\}) = f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ であることを示します。$q'\in f^{-1}(p')$ とし、$M\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $Z$ に対する $(q', t)$ を始点とする積分曲線 $c : I\to M\times \R^{n}$ と $N\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $W$ に対する $(p', t)$ を始点とする積分曲線 $\tilde{c} : I\to N\times \R^{n}$ を考えるとき、いずれも $\R^{n}$ 成分が一定であることと任意の $q''\in M$ に対して $f_{*}(\sum_{k = 1}^{n}t_{k}X_{q''}^{k}) = \sum_{k = 1}^{n}t_{k}Y_{f(q'')}^{k}$ であることにより $(f\times \Id_{\R^{n}})\circ c : I\to N\times \R^{n}$ は $(f(q') = p', t)$ を始点とするベクトル場 $W$ に関する積分曲線なので $\tilde{c}$ に一致します。$((f\times \Id_{\R^{n}})\circ c)(1) = \tilde{c}(1)$ から $(f\times \Id_{\R^{n}})(G_{M}(q', t, 1)) = G_{N}(p', t, 1)$ なので、$q'\in f^{-1}(p')$ が任意より $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\})\subset f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ が分かりました。$G_{N}^{1}$ が単射であることと $G_{M}^{1}$ が全射であることに注意して $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\}) = f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ が分かります。最後に、$p' = p$ とすることで任意の $t\in \R^{n}$ に対して $\varPhi(F\times \{t\}) = f^{-1}(\varPsi(t))$ であることが分かります。$\varPhi : F\times \{t\}\to f^{-1}(\varPsi(t))$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることは構成を追えば明らかです。
(ii) 任意の $(p', t, u)\in N\times \R^{n}\times \R$ に対して $G_{N}(p', ut, 1) = G_{N}(p', t, u)$ であることに注意し、$\R^{n}$ の座標を $y_{1}, \dots, y_{n}$ と書くことにすれば $\varPsi_{*}(\partial_{y_{k}}) = Y_{k}$ なので分かります。
さて、はめ込みが与えられたときそれが値域側の位相と整合して埋め込みとなる $($部分多様体を与える$)$ かを一般に調べるのは大変ですが、次のような十分条件があり、特にコンパクト多様体に対しては単射性のみで埋め込みとなることが分かります。
固有かつ単射なはめ込み $f : N\to M$ は埋め込みである。特に、$N$ がコンパクトのとき、単射なはめ込み $f : N\to M$ は埋め込みである。
像への制限が同相であることを示せばよいですが、これは一点コンパクト化 $\hat{f} : \hat{N}\to \hat{M}$ を考え、一般にコンパクト集合からHausdorff空間への連続全単射が同相であることを使えばよいです。
もう少しだけ詳しく書くと次です。
この流れに沿って示せばよいです。
最後に部分多様体の例を並べておきます。
可微分多様体 $M$ に対して複数の部分多様体やその境界を考えるとき、それらの間の交わり方 $($交叉する部分の近傍での様子$)$ が次の意味で横断的な場合には非常に扱いがよくなります。
まず、境界を持たない部分多様体どうしが横断的に交わる点の近傍における様子を記述します。これにより、横断的に交わる境界を持たない部分多様体の共通部分は空でなければまた部分多様体になることが分かります。
$M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体、$N^{n}, L^{l}\subset M^{m}$ を境界を持たない部分多様体とする。点 $p\in N\cap L$ に対して $T_{p}N + T_{p}L = T_{p}M$ が成立しているとき、$p$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(N\cap U) = V\cap (\R^{n}\times\{0\}^{m - n}),\]\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - l}\times \R^{l})\]を満たすものが存在する。特に、$N\cap L\neq\emptyset$ かつ $N\pitchfork L$ ならば、$N\cap L$ は $M$ の部分多様体である。
$f_{N} : N\to M$ と $f_{L} : L\to M$ を包含写像とします。予備知識 定理4.2.66より $p$ の周りの $M, N$ に関する局所座標系 $\varphi_{X} : U_{X}\to V_{X} \ (X = M, N)$ であって $\varphi_{M}(p) = 0$ かつ\[\varphi_{M}\circ f_{N}\circ\varphi_{N}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (0, \dots, 0, x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが存在します。$p\in L$ の周りの局所座標系 $\varphi_{L} : U_{L}\to V_{L}$ を取り、\[\varphi_{M}\circ f_{L}\circ\varphi_{L}^{-1} : x\mapsto (g(x), h(x))\]と $C^{\infty}$ 級写像 $g : V_{L}\to \R^{l}$, $h : V_{L}\to \R^{m - l}$ を用いて表されるようにします。必要であれば $\varphi_{M}$ の座標の順番を $($後ろの $n$ 個の内で$)$ 取り換え、$g$ の $p$ におけるJacobi行列は正則であるとします。逆関数定理 $($予備知識 定理4.2.62$)$ より、必要なら $V_{L}$ を小さく取り直して $g : V_{L}\to g(V_{L})$ は $C^{\infty}$ 級同相としてよく、よって、$\varphi_{L}$ と $g$ との合成 $\varphi'_{L}$ を局所座標系として取ることで $g$ は始めから恒等写像としてよいです。必要であれば $V_{M}$ を小さく取り直して $V_{M}\subset V_{L}\times \R^{m - l}$ とした後、$\varphi_{M}$ と写像\[\psi_{M} : V_{M}\to \R^{m} : (x, \tilde{x})\mapsto (x, \tilde{x} - h(x)),\]ただし $x\in\R^{l}, \tilde{x}\in\R^{m - l}$ とする、との合成により新たな $p\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi'_{M}$ を取り、最後に必要であれば $U_{M}$ を小さく取り直して $N\cap U_{M} = U_{N}$, $L\cap U_{M} = U_{L}$ となるようにすればよいです。
境界を持つ多様体とその部分多様体に対しては境界における横断性を課すことで局所的な様子が整理されます。そこで、その目的のために十分な仮定を課し、次のように境界に適合した部分多様体と境界に適合した写像を導入することにします。$($一般的な用語ではないです通常はproperであると言われるのかなと思います。邦書でどう訳されているかは調べてないです。固有?適切?また、properという用語も書き手によって微妙に違う意味で使われたりするので注意。。このノートでは境界周りで"都合のいい"状態にあること指す用語を「境界に適合する」とか「境界に合った」である程度統一したいと思っているのでそうします。$)$
まずは通常の部分多様体について行ったような局所平坦性による特徴付けをしておきます。
(1) $p\in \Int N$ の場合は $p\in \Int M$ により命題3.2.5から分かります。$p\in \partial N$ とします。包含写像 $i_{N} : N\to M$ を考え、$p\in N$ のまわり局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}\subset \Rp^{n}$ と $p\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}\subset \Rp^{m}$ を取ります。$\varphi_{N}(p)$ の $\R^{n}$ における開近傍 $V'_{N}$ 上で定義された $C^{\infty}$ 級写像 $\psi : V'_{N}\to \R^{m}$ であって $V'_{N}\cap V_{N}$ 上 $\varphi_{M}\circ i_{N}\circ \varphi_{N}^{-1}$ に一致するものを取り、必要なら $V'_{N}$ を小さく取り直して
となるようにします。この $\psi$ $($の定める部分多様体$)$ と部分多様体 $\varphi_{M}(\partial M\cap U_{M})\subset \partial\Rp^{m}\subset \R^{m}$ に対して命題3.2.17を用いて $\R^{m}$ の開集合の間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\psi_{M} : V'_{M}\to V''_{M}$ であって
を満たすものを取ります。$\psi_{M}\circ (\varphi_{M}|_{\varphi_{M}^{-1}(V'_{M}\cap V_{M})})$ が欲しかった $p\in M$ の周りの局所座標系です。
(2) 自明です。
命題3.2.8を境界込みの場合に少し一般化します。つまり、$f : M\to N$ の正則値 $p\in N$ が境界への制限 $f|_{\partial M}$ に対する正則値でもあれば逆像 $f^{-1}(p)$ として境界に適合した部分多様体が自然に現れてくれることを示したいのですが、そのための境界に対する考察として一つ補題を用意しておきます。
$M$ を可微分多様体, $N$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、$p\in \partial M$ がその制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ の正則点であればその周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$ と $f(p)\in N$ の周りの局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}$ であって常に\[\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto(x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが存在する。よって、$f^{-1}(f(p))$ は $p$ において局所平坦である。
局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$, $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}$ を $p\in U_{M}$, $f(p)\in U_{N}$ かつ $f(U_{M})\subset U_{N}$ となるように取り、適当に $\varphi_{M}$ の座標の順番を $($初めの $m - 1$ 個の内で$)$ 取り換えてJacobi行列 $J_{\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}}(\varphi_{M}(p))$ の最初の $n$ 行 $n$ 列からなる正方行列が正則となるようにしておきます。$\varphi_{M}(p)$ の $\R^{m}$ における開近傍 $V'_{M}$ 上で定義された $C^{\infty}$ 級写像 $\psi : V'_{M}\to \R^{n}$ であって $V'_{M}\cap V_{M}$ 上 $\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}$ に一致するものを取ります。$\varphi_{M}(p)$ ついての陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ により $\R^{m}$ の開集合の間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\varphi : V''_{M}\to V'''_{M}$ であって $V'''_{M}\subset V'_{M}$ かつ $\varphi_{M}(p)\in V'''_{M}$ と常に\[\psi\circ \varphi : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto(x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが取れます。予備知識 補足4.2.65より構成した $\varphi$ は第 $m$ 成分を保つとしてよく、必要であれば定義域を小さく取り直したのち $\varphi^{-1}\circ \varphi_{M}$ はまた局所座標系になるので $\varphi_{M}$ を $\varphi^{-1}\circ \varphi_{M}$ で置き換えればよいです。
$M$ を可微分多様体, $N$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、その正則値 $p\in N$ がさらに制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ の正則値でもあるとき、逆像 $f^{-1}(p)\subset M$ は境界に適合した部分多様体であり $\partial f^{-1}(p) = f^{-1}(p)\cap \partial M$ が成立する。
内点においては通常に陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$、境界においては補題3.2.21を使えば分かります。
Ehresmannの定理 $($命題3.2.12$)$ も同様に一般化されます。
$M$ を可微分多様体、$N$ を境界を持たない連結可微分多様体とする。このとき、固有な沈め込み $f : M\to N$ であって境界への制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ も沈め込みとなっているようなものはコンパクト可微分多様体 $F$ をファイバーとする $C^{\infty}$ 級ファイバー束になる。
命題3.2.12の証明においてベクトル場を構成する際、それらが境界に適合するように気を付ければあとは同じです。
$C^{\infty}$ 級写像と部分多様体の横断性に対する類似として次があります。
(1) $p\in f^{-1}(L)$ とします。$M$ における $f(p)$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\R^{l}\times \{0\}^{m - l})\]となるものを取ります。また、$P : \R^{l}\times \R^{m - l}\to \R^{m - l}$ を第 $2$ 成分への射影とします。$p$ のまわりの開近傍 $U'$ を $f(U')\subset U$ となるように取るとき、$\psi = P\circ \varphi \circ f|_{U'}$ に対して
が成立するので陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ より $f^{-1}(L)$ は $p$ において局所平坦です。$p\in f^{-1}(L)$ は任意なので $f^{-1}(L)$ は $N$ の部分多様体です。
(2) まず、$p\in f^{-1}(L)\cap \Int N$ においては(1)から局所平坦であることが分かるので $p\in f^{-1}(L)\cap \partial N$ における局所平坦性を示せばよいです。命題3.2.20を用いて $M$ における $f(p)\in\partial L$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - l}\times \Rp^{l})\subset \Rp^{m}\]となるものを取ります。また、$P : \R^{m - l}\times \Rp^{l}\to \R^{m - l}$ を第 $1$ 成分への射影とします。$p$ のまわりの開近傍 $U'$ を $f(U')\subset U$ となるように取るとき、$\psi = P\circ \varphi \circ f|_{U'}$ に対して
が成立するので補題3.2.21より $f^{-1}(L)$ は $p$ において局所平坦です。以上より $f^{-1}(L)$ は $N$ の境界に適合した部分多様体です。$\partial(f^{-1}(L)) = f^{-1}(\partial L)$ も自明です。
可部分多様体 $M$ に対して $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to M$ と部分多様体 $L\subset M$ が与えられたとき、もちろん一般には $f\pitchfork L$ とは限りませんが、一方を滑らかに変形し再配置することで $f$ と $L$ が横断的に交わるようにできること $($命題3.2.32$)$ を示したいと思います。そこで、まずはこの滑らかな変形というのを定義しておきます。滑らかなhomotopyについては定義1.3.14を参照。
これらが定める二項関係 $($homotopyについては $\sim$ と書き、isotopyについては $\simeq$ と書くとします$)$ は同値関係なのですが、そのことを証明するための補題として、その同値条件をいくつか整理しておきます。どれもほぼ一緒なのでisotopyについてだけ書きます。
$M, N$ を可微分多様体とし、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を埋め込みとする。このとき、次は同値である。
滑らかなhomotopyのとき $($補題1.3.15$)$ と同じです。
$M, N$ を可微分多様体とする。$N$ から $M$ への埋め込み全体からなる集合 $\Emb(N, M)$ において、isotopicによる二項関係 $\simeq$ は同値関係である。
反射律は埋め込み $f\in \Emb(N, M)$ に対して $f$ を $f$ につなぐisotopy $F$ を $F(p, t) = f(p)$ とすることで構成できるので分かり、対称律は $f_{0}\simeq f_{1}$ に対し $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐisotopy $F$ から $f_{1}$ を $f_{0}$ につなぐisotopy $G$ を $G(p, t) = F(p, 1 - t)$ とすることで構成できるので分かります。
推移律を示します。$f_{0}\simeq f_{1}, f_{1}\simeq f_{2}$ とし、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐisotopy $F$ と $f_{1}$ を $f_{2}$ につなぐisotopy $G$ をそれぞれ補題3.2.27の(2)の条件を満たすように取ります。このとき、$f_{0}$ を $f_{2}$ につなぐisotopy $H$ が\[H_{t} = \left\{\begin{array}{ll}F_{2t} & (0 \leq t \leq 1/2)\\G_{2t - 1} & (1/2 \leq t \leq 1)\end{array}\right.\]とすることで構成できるので $f_{0}\simeq f_{2}$ が分かります。
次は可算個のambient isotopyのつなぎ合わせを行うための補題です。言いたいことは、適切な条件を満たす局所的な変形を繰り返していったとき、その極限として $C^{\infty}$ 級同相写像が得られ、恒等写像 $\Id_{M}$ にambient isotopicであるということです。
$M$ を可微分多様体、$\{F^{k} : M\times I\to M\}_{k\in \N}$ をambient isotopyの可算列とし、各 $k\in \N$ に対してある正実数 $0 < \varepsilon < 1$ が存在し、任意の $t\in [0, \varepsilon)$ で $F_{t} = F_{0}$ かつ $F_{1 - t} = F_{1}$ を満たしているとする。isotopyの可算列 $\{\hat{F}^{k} : M\times I\to M\}_{k\in\N}$ を\[\hat{F}^{0} = F^{0}, \ \hat{F}^{k + 1} = F^{k + 1}\circ (\hat{F}_{1}^{k}\times \Id_{I})\]により定めるとき、$C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ が\[\hat{F}_{t} = \hat{F}_{2^{k + 1}(t - (1 - 2^{-k}))}^{k} \ (1 - 2^{-k} \leq t\leq 1 - 2^{-(k + 1)})\]とすることで得られる定義が若干複雑ですが、単にisotopyを端どうしでつなげているだけです。。
さらに、相対コンパクト開集合の可算列 $\{U_{k}\}_{k\in \N}$ とコンパクト集合の可算列 $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ であって
を満たすものが存在するとき、$\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ は $C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times I\to M$ へ一意に拡張しambient isotopyとなる。また、任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し、ある実数 $T\in [0, 1)$ であって任意の $s, t\in [T, 1]$ で $\hat{F}_{s}|_{K} = \hat{F}_{t}|_{K}$ を満たすものが存在する。
前半の $C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ が得られることは $\hat{F}_{1 - 2^{-(k + 1)}} = \hat{F}_{1}^{k} = \hat{F}_{0}^{k + 1}$ から明らかです。
後半を以下の流れで示します。
(step 1) $V_{l} = \overline{\bigcup_{i \leq l}U_{i}}$ は各 $U_{i}$ の相対コンパクト性よりコンパクト。そして、$\{U_{k}\}_{k\in \N}$ が局所有限であったことから $V_{l}$ と交わる $U_{k}$ は高々有限個です。よって、ある整数 $L > l$ が存在して任意の $l'\geq L$ に対して $\supp F^{l'}\cap V_{l} = \emptyset$ を満たすので $T_{l} = 1 - 2^{L}$ とすればよいです。
(step 2) (iii)より任意の $l'\in \N$ と $t\in [0, 1)$ に対して $\hat{F}_{t}(\bigcup_{i \leq l'}K_{i})\subset V_{l'}$ であり、$\hat{F}_{t}$ が $C^{\infty}$ 同相写像より $\bigcup_{i \leq l'}K_{i}\subset (\hat{F}_{t})^{-1}(V_{l'})$ なので、各 $l\in \N$ に対して $V_{l}\subset \bigcup_{i \leq l'}K_{i}$ となるような十分大きな $l'$ を取ればよいです。$\{K_{k}\}_{k\in \N}$ が局所有限な被覆であることには注意。
(step 3) 各点 $p\in M$ において $\hat{F}_{1}(p) = \lim_{t\to 1}\hat{F}_{t}(p)$ とすることで $M\times I\to M$ への拡張を構成したいわけですが、各 $l\in \N$ に対して(step 1)の $T_{l}$ を取れば $(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})$ においてこのような極限が存在することが分かり、(step 2)と合わせれば任意の $p\in M$ で極限が存在することが分かります。得られた拡張 $\hat{F} : M\times I\to M$ が $C^{\infty}$ 級写像であることと $C^{\infty}$ 級写像への一意な拡張であることは明らかです。また、一番最後の主張も明らかです。
あとは $\hat{F}_{1}$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることを示せばよいです。まず、全射性は(step 1)の $T_{l}$ に対して $\hat{F}_{1}((\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})) = \hat{F}_{T_{l}}((\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})) = V_{l}\xrightarrow{l\to\infty} M$ であることから分かり、単射性及び各点が正則点であることは各 $l\in \N$ に対して $\hat{F}_{1}|_{(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(\bigcup_{i\leq l}U_{i})} : (\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(\bigcup_{i\leq l}U_{i})\to \bigcup_{i\leq l}U_{i}$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることから分かります。よって $\hat{F}_{1}$ は $C^{\infty}$ 級同相写像です。
横断性に関して一つ補題を用意します。
$M^{m}, N^{n}$ を可微分多様体、$U$ をEuclid空間 $\R^{r}$ の空でない開集合、$F : N\times U\to M$ を境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とし $F\pitchfork L$ かつ $F|_{\partial N\times U}\pitchfork L$ であるとする。このとき、ある点 $x \in U$ であって $F|_{N\times \{x\}}\pitchfork L$ かつ $F|_{\partial N\times \{x\}}\pitchfork L$ となるものが存在する。
$\Img F\cap L = \emptyset$ なら自明なので $\Img F\cap L \neq \emptyset$ とします。まず、命題3.2.24により $\tilde{N} = F^{-1}(L)$ は $N\times U$ の境界に適合した部分多様体です。第 $2$ 成分への射影 $p_{2} : N\times U\to U$ の $\tilde{N}$ への制限 $\psi : \tilde{N}\to U$ および $\psi|_{\partial\tilde{N}} : \partial\tilde{N}\to U$ の両方の正則値となる点がSardの定理 $($命題3.1.6$)$ から保証されているので、それを $x$ として取ります。$F|_{N\times \{x\}}$ をその定義域を $N$ とみなしたうえで単に $f : N\to M$ と書くことにします。
$f\pitchfork L$ を示すためには各 $(p, x)\in \tilde{N}\cap (N\times \{x\})\subset N\times U$ に対して $f_{*}(T_{p}N) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ を示せばよいです。まず、$x\in U$ が $\psi : \tilde{N}\to U$ の正則値であったことにより\[T_{(p, x)}\tilde{N} + T_{(p, x)}(N\times \{x\}) = T_{(p, x)}(N\times U)\]であり、そして $F\pitchfork L$ により\[F_{*}(T_{(p, x)}\tilde{N} + T_{(p, x)}(N\times \{x\})) + T_{f(p)}L = F_{*}(T_{(p, x)}(N\times U)) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M\]です。$F_{*}(T_{(p, x)}\tilde{N})\subset T_{f(p)}L$ に注意すれば $F_{*}(T_{(p, x)}(N\times \{x\})) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ が分かります。$F_{*}(T_{(p, x)}(N\times \{x\})) = f_{*}(T_{p}N)$ なので $f_{*}(T_{p}N) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ であり、各点 $(p, x)\in \tilde{N}\cap (N\times \{x\})$ でそうなので $f\pitchfork L$ です。境界での横断性も同様です。
最後に一つ、局所的な横断性を確保するための近似に関する補題を用意します。
可微分多様体 $N^{n}$ と $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ が与えられているとする。このとき、$\Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ のあるambient isotopy $F$ が存在して $\supp F\subset D_{1}^{m - l}\times D_{1}^{l}$ かつ $F_{1}\circ f\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ が成立する。
また、境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to \Int D_{2}^{m - l}\times (\Int D_{2}^{l}\cap \Rp^{l})$ についても同様に、$\supp F\subset D_{1}^{m - l}\times (D_{1}^{l}\cap \Rp^{l})$ かつ $F_{1}\circ f\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ かつ $F_{1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork \{0\}^{m - l}\times (\Int D_{1}^{l}\cap \Rp^{l})$ となるambient isotopy $F$ が存在する。
$C^{\infty}$ 級関数 $h : \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}\to [0, 1]$ を\[h(x, y) > 0 \Leftrightarrow (x, y)\in \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}\]となるように取り、$C^{\infty}$ 級関数 $\varPhi : \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}\times \Int D_{1}^{m - l}\to \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ を\[\varPhi : (x, y, z)\mapsto (x + h(x, y)z, y)\]とすることで定めます。以下のことを示します。
そうすれば、(iii)と補題3.2.30によりある $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ が存在して $G|_{N\times \{z\}}\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ となるので、この $z$ と(ii)から欲しかったambient isotopyが取れます。
(i) 明らか。$h$ のJacobi行列のノルム $\|J_{h}\|$ の最大値を $H$ として、$H\delta < 1$ となるように取ればよいです。$($ただ、きちんと証明するのは少し面倒…$)$
(ii) $\delta$ の取り方から明らか。
(iii) 各 $p\in N$ に対して $G|_{\{p\}\times \Int D_{\delta}^{m - l}}$ は\[G|_{\{p\}\times \Int D_{\delta}^{m - l}} : z\mapsto \varPhi(f(p), z) = f(p) + (h(f(p))z, 0)\]と表されるので、$(p, z)\in G^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$ ならば $h(f(p))\neq 0$ であることを示せば横断性が従います。そのために対偶を示しますが、これは $h(f(p)) = 0$ とすると、$h$ の取り方から $f(p)\notin \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ であり、また、$G$ の取り方から任意の $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ に対して $G(p, z) = f(p)\notin \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ なのでよいです。
境界も込みで考えた場合も同様です。
では、示したかったことを示します。補題3.2.29を使える状況に帰着するための議論が入ったせいで証明がちょっと長くなってますが、結局していることは局所的な変形で横断的に交わる部分を少しずつ広げているというだけです。
$M^{m}, N^{n}$ を可微分多様体、$f : N\to M$ を境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を閉集合である境界に適合した部分多様体とする。このとき、あるambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork L$ かつ $\hat{F}_{1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork L$ を満たすものが存在する。
$M$ がコンパクトでない場合を示しますコンパクトな場合は以下の議論を追った後なら自明です。。$M$ の局所座標系の高々可算列 $\{\varphi_{k} : U_{k}\to V_{k}\}_{k\in \Lambda}$ であって条件
を満たすものを取ります。あとで補題3.2.29を適用するための下準備として、上記の添字集合 $\Lambda$ を $\Lambda\subset \N$ かつ $\N\setminus \Lambda$ は可算無限集合となるよう取り直し、さらに $M$ の相対コンパクト開集合による可算列 $\{U_{k}\}_{k\in \N}$ とコンパクト集合による可算列 $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ を
となるように取っておきます。
以下、各 $k$ に対してambient isotopy $F^{k} : M\times I\to M$ とisotopy $\hat{F}^{k} : M\times I\to M$ を条件
を満たすように構成していきます。もしそのように構成できれば、補題3.2.29によりambient isotopy $\hat{F}$ が得られ、$L$ の各点についてコンパクト近傍 $K'$ を取り $K = (\hat{F}_{1})^{-1}(K')$ として補題3.2.29の一番最後の主張を用いることで $\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork (L\cap \Int K')$ が分かるため、$\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork L$ となります。
$k - 1$ まで構成され、その範囲で上記の条件が満たされているとします。
($k\notin \Lambda$ の場合) $F_{t}^{k} = \Id_{M}$, $\hat{F}^{k} = F^{k}\circ (\hat{F}_{1}^{k - 1}\times \Id_{I})$ とすればよいです。
($k\in \Lambda$ の場合) $U_{k}$ と $\Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$、もしくは $\Int D_{2}^{m - l}\times (\Int D_{2}^{l}\cap \Rp^{l})$ との同一視のもと、$N' = (\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f)^{-1}(U_{k})$ と $\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f|_{N'}$ に対して補題3.2.31を適用することで $U_{k}$ のambient isotopyを構成し、これを明らかな方法で $M$ のambient isotopy $F^{k}$ に拡張します。このとき、\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}),\]\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]が成立してることを示します。まず、$F^{k}$ の構成から\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}),\]は明らかです。ここで、$F_{1}^{k}$ の定める接写像 $TM\to TM$ の\[\left(\bigcup_{i\leq k - 1, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\right)\setminus \varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\subset M\]への制限が恒等的であることと $\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k - 1, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$ に注意すれば\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]が分かります。もう一方の境界に対する横断性も同様です。
あとは補題3.2.31の証明中に取った $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ を原点の十分近くに取っておけば、任意の $l\in \N$ と $t\in I$ に対して $F_{t}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l})\subset U_{l}$ が成立することを示します。集合 $A_{k} = \{l\in \N\mid U_{l}\cap U_{k}\neq \emptyset\}$ を取ります。$z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ をどう取っても $\supp F^{k}\subset U_{k}$ であることに注意すれば、この $A_{k}$ についてのみ考慮すればよいです。補題3.2.31の証明中の $\varPhi$ を $\varphi_{k}$ により引き戻すことで、$M$ の自己 $C^{\infty}$ 級同相写像の族 $H : M\times \Int D_{\delta}^{m - l}\to M$ を取ります。各 $l\in A_{k}$ に対して $\Int D_{\delta}^{m - l}$ における原点の近傍 $B_{l}$ を\[\{z\in \Int D_{\delta}^{m - l}\mid H_{z}(\hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l}))\subset U_{l}\}\]により定め実際に近傍となることは $H^{-1}(U_{l})$ における $\hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l})\times \{0\}^{m - l}$ の近傍を直積形となるように構成することで分かります。、正実数 $\delta' > 0$ を $\Int D_{\delta'}^{m - l}\subset \bigcap_{l\in A_{k}}B_{l}$ となるように取ったうえで $z\in \Int D_{\delta'}^{m - l}$ に取ればよいです。$A_{k}$ が有限集合であることには注意します。
$M^{m}$ を可微分多様体、$N^{n}, L^{l}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、あるambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $\hat{F}_{1}(N)\pitchfork L$ かつ $\hat{F}_{1}(\partial N)\pitchfork L$ を満たすものが存在する。
$N$ の定める包含写像に対して命題3.2.32を適用すればいいです。
次はそのうち使います。
任意の $C^{\infty}$ 級ベクトル束 $\pi : E\to M$ に対し、零切断に横断的な切断が存在する。
$2$ つの零切断 $($片方は写像として、もう片方は部分多様体として$)$ を考えれば良いです。命題3.2.32の証明においてambient isotopyたちをファイバーを保つように注意して構成すればあとは同じです。
以上です。
この辺のことがまとまったテキストが見つからなかったので結局全部自分で書いてしまいました。つまり、他人によるチェックが入ってないので(まあ、他のページもそうなんですが…)なんかとんでもないミスしてないかと不安なところです。
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