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数学ノートについて
3.2 はめ込みと埋め込み

以下でははめ込み、埋め込みの基本事項をまとめます。

3.2.1 はめ込みと埋め込み

可微分多様体に対するはめ込み、埋め込み、ついでに沈め込みを定義します。

定義3.2.1

(1) $f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。各点 $p\in N$ での接写像 $(f_{*})_{p} : T_{p}N\to T_{f(p)}M$ が単射であるとき、$f$ をはめ込み $($immersion$)$ という。可微分多様体 $M$, $N$ に対し、$N$ から $M$ へのはめ込み全体からなる集合を $\Imm (N, M)$ と書くことにする。
(2) $f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$f$ がはめ込みでありかつその像への制限 $f : N\to f(N)$ が同相特に $f$ は単射です。また、もちろん、$f(N)$ には $M$ の部分集合としての相対位相を考えます。であるとき、$f$ を埋め込み $($embedding$)$ という。可微分多様体 $M$, $N$ に対し、$N$ から $M$ への埋め込み全体からなる集合を $\Emb (N, M)$ と書くことにする。
(3) $f : M\to N$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。その各点 $p\in M$ での接写像 $(f_{*})_{p} : T_{p}M\to T_{f(p)}N$ が全射であるとき、$f$ を沈め込み $($submersion$)$ という。可微分多様体 $M$, $N$ に対し、$M$ から $N$ への沈め込み全体からなる集合を $\Sub (M, N)$ と書くことにする。
補足3.2.2

(a) はめ込みどうしの合成はまたはめ込みです。埋め込み、沈め込みについても同様です。
(b) $f : N\to M$ をはめ込み、もしくは埋め込みとするとき $\dim N \leq \dim M$ です。また $f : M\to N$ が沈め込みであるとき $\dim N \leq \dim M$ です。

簡単な例として次のようなものがあります。

例3.2.3

(a) $S^{1} = \{(\cos \theta, \sin\theta)\in\R^{2}\mid \theta\in\R\}$ と考えることで $S^{1}$ の各点 $(\cos\theta, \sin\theta)$ をパラメータ $\theta$ により $[\theta]$ と表すことにします言い換えると、群準同型 $\R\to S^{1}\subset \C : \theta\mapsto e^{i\theta}$ に準同型定理を適用し得られる同型 $S^{1}\cong \R/2\pi\Z$ のもと、各点 $p\in S^{1}$ をその代表元 $\theta$ により表示するということです。また、定数の $2\pi$ の部分は $0$ でない任意の実数で置き換えられ、特に、$S^{1}\cong \R/\Z$ とすることも多いです。。このとき、写像 $f : S^{1}\to \R^{2} : [\theta]\mapsto (\cos\theta, \sin 2\theta)$ ははめ込みです。実際、その $[\theta]\in S^{1}$ におけるJacobi行列は $J_{f}(\theta) = \left[\begin{array}{cc}-\sin\theta \\ 2\cos\theta\end{array}\right]$ であり、$-\sin\theta = 0$ かつ $2\cos 2\theta = 0$ を満たす $\theta$ が存在しないので $f$ ははめ込みになります。また、$[\pi/2]\neq [3\pi/2]$ ですが $f([\pi/2]) = f([3\pi/2]) = (0, 0)$ なので $f$ は埋め込みではありません。
(b) ここでは $S^{1} \cong \R/\Z$ とみなします。$a\in \R$ に対し、写像 $f : \R\to T^{2} = S^{1}\times S^{1} : t\mapsto ([t], [at])$ は明らかにはめ込みです。

$a$ が有理数であり、既約分数 $q/p$ より表されるとします。このとき、$s, t\in \R$ に対して $f(s) = f(t)$ であることと $s - t\in p\Z$ であることとは同値であり、単射なはめ込み $\tilde{f} : S^{1}\cong \R/p\Z\to T^{2}$ が誘導されます。$S^{1}$ と $\Img \tilde{f}$ が同相であることは容易であり、$\tilde{f}$ は埋め込みです。後で紹介する命題3.2.13を用いてもよいです。

$a$ が無理数のとき、$f$ は単射ある $s, t\in \R$ に対して $f(s) = f(t)$ であるとします。$f$ が群準同型なので $s = 0$ としてもよく、$t\neq 0$ かつ $f(t) = ([0], [0])$ です。この状況で $t\in \Z$ かつ $at\in \Z$ は矛盾です。なはめ込みです。これが埋め込みでないことを示すため、$f(0) = ([0], [0])\in T^{2}$ の任意の開近傍 $U$ に対してその逆像 $f^{-1}(U)$ が非有界であることを示します。$f(0)$ の開近傍 $U$ を取り、また、十分小さい正の実数 $\varepsilon_{1}, \varepsilon_{2} > 0$ を取って\[\{([s], [t])\in T^{2}\mid |s| < \varepsilon_{1}, |t| < \varepsilon_{2}\}\subset U\]であるようにします。このとき、$n\in \Z$ であって $[an]\in\{[t]\in S^{1}\mid |t| < \varepsilon_{2}\}$ を満たすものが無数に存在するので、$f^{-1}(U)$ は非有界です。よって、$f(0)$ の任意の開近傍 $U$ に対して $f^{-1}(U)$ は非有界なので $\R$ と $\Img f$ は同相ではなく、$f$ は埋め込みではありません。
(c) 包含写像 $S^{n}\to \R^{n + 1}$ は埋め込みです。
(d) $C^{\infty}$ 級写像 $f : \R^{3}\to \R^{4}$ を\[f : (x, y, z)\mapsto (2yz, 2zx, 2xy, x^{2} - y^{2})\]により定めるとき、$f(x, y, z) = f(-x, -y, -z)$ により、その単位球面 $S^{2}$ への制限 $f|_{S^{2}}$ は $C^{\infty}$ 級写像 $g : \RP^{2}\to \R^{4}$ を誘導します。これが埋め込みであることを示します。$g$ の単射性は $p = (x, y, z), q = (s, t, u)\in S^{2}$ に対して $f(p) = f(q)$ ならば $q = \pm p$ を示せばよいですが、これは上手く場合分けして地道に確かめればよいです。

後で紹介する命題3.2.13によれば、あと $g$ がはめ込みであることを示せば埋め込みになりますが、そのためには $f|_{S^{2}}$ がはめ込みであることを示せば十分です射影 $\pi : S^{2}\to \RP^{2}$ の接写像がファイバーごとに同型を与えていることと $f_{*} = g_{*}\circ \pi_{*}$ から。。まず、$f$ のJacobi行列\[J_{f}(x, y, z) = \left[\begin{array}{ccc}0 & 2z & 2y \\2z & 0 & 2x \\2y & 2x & 0 \\2x & -2y & 0\end{array}\right]\]をよく見ると $x = y = 0$ の場合以外では階数 $3$ なのでその場合 $(f|_{S^{2}})_{*}$ の階数は $2$ です。$p = (0, 0, \pm 1)$ において、接空間 $T_{p}S^{2}\subset\R^{3}$ の基底として $(1, 0, 0), (0, 1, 0)$ が取れますが、$J_{f}(p)$ の最初の $2$ 行が $1$ 次独立なのでこの場合も $(f|_{S^{2}})_{*}$ の階数は $2$ です。よって、$f|_{S^{2}}$ ははめ込みです。
(e) $C^{\infty}$ 級ファイバー束の射影 $\pi : E\to M$ は沈め込みであり、各点 $p\in M$ におけるファイバーの包含写像 $i : E_{p}\to E$ や $C^{\infty}$ 級切断 $s : M\to E$ は埋め込みです。
3.2.2 部分多様体

$n$ 次元球面は定義から $n + 1$ 次元Euclid空間 $($それ自体が多様体です。$)$ の単位球面として実現されてましたが、この状況を一般化して部分多様体を次のように導入することにします。

定義3.2.4

可微分多様体 $M$ の部分集合 $A\subset M$ であって、埋め込み $f : N\to M$ の像となるものを $M$ の部分多様体という。

部分多様体は次のように特徴づけられます。

命題3.2.5

(1) $M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体境界がある場合も $p\in N\cap \partial M$ に対しては $M$ を境界外側に少し"拡張"して考えることで同等のことを示すことは可能です。ただ、境界に関する条件を特に課さないままに一般の埋め込みを扱うことは少ないので $($このノートにおいては無いはず$)$、境界を持たないとしています。、$N^{n}$ を可微分多様体、$f : N^{n}\to M^{m}$ を埋め込みとする。このとき、任意の $p\in N$ に対して $M$ における $f(p)$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ が存在し、\[\varphi(f(N)\cap U) = V \cap (\Rp^{n}\times\{0\}^{m - n})\]を満たす。
(2) $M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体とし、$N\subset M$ を空でない部分集合とする。ある正整数 $n \leq m$ があって、任意の $p\in N$ に対して $M$ における $p$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ で\[\varphi(N\cap U) = V \cap (\Rp^{n}\times\{0\}^{m - n})\]を満たすものが存在するとき、$N\subset M$ は $n$ 次元部分多様体である。
証明

(1) まず、$p\in \Int N$ の場合について示します。予備知識 定理4.2.66より $p$ の $\Int N$ における開近傍 $U'$ と $f(p)\in M$ の周りの座標近傍 $(U, \varphi : U\to V)$ であって $f(U')\subset U$ かつ\[\varphi(f(U')) = V \cap (\R^{n}\times\{0\}^{m - n})\]となるものが取れます。$f : N\to f(N)$ は同相なので $f(U')\subset f(N)$ は $f(N)$ の開集合、よって、ある開集合 $U''\subset M$ が存在して $f(U') = f(N)\cap U''$ です。$U$ を $U\cap U''$ で置き換えればよいです。

$p\in\partial N$ の場合を示します。$p\in N$ の周りの局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}\subset \Rp^{n}$ を固定し、$f\circ \varphi_{N}^{-1} : V_{N}\to M$ の定義域を $\R^{n}$ における開集合 $V'$ に拡張したものを固定し $\psi : V'\to M$ とします。この $\psi$ に対して予備知識 定理4.2.66を用いることで、$\varphi_{N}(p)$ の開近傍 $V''\subset V'$ と $f(p)\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$ であって $(\varphi_{M}\circ \psi)(V'') = V_{M}\cap(\R^{n}\times \{0\}^{m - n})$ かつ\[\varphi_{M}\circ \psi : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n}, 0, \dots, 0)\]を満たすものが取れます。必要であれば $U_{M}$ を小さく取り直すことで $\varphi_{M}$ が欲しかった座標近傍を与えます。

(2) $N\subset M$ がHausdorff空間であることは自明です。仮定により得られる局所座標系たちをを制限することで $N$ の座標近傍系が得られるので $N$ は多様体であり、包含写像が埋め込みを与えます。よって、$N\subset M$ は部分多様体です。

補足3.2.6
(a) 全空間 $M$ の座標近傍から誘導される部分多様体 $N$ の座標近傍系は取り方に依らず互いに同値であり、$N$ には標準的に微分構造が定まります。そして、この標準的な微分構造に対して包含写像 $i : N\to M$ は埋め込みになります。また、部分多様体に対してその包含写像が定める接写像 $i_{*} : TN\to TM$ は単射な束写像なので、これを包含写像とみなすことで $N$ の接空間 $TN$ を $M$ の接空間 $TM$ の部分ともみなすことにします。
(b) 部分多様体 $N$ を像に持つ埋め込みはこの標準的な微分構造に対して $C^{\infty}$ 級同相になります。
補足3.2.7

可微分多様体 $M$ とその部分集合 $N$ に対し、$N$ の点 $p$ において命題3.2.5のような座標近傍系が存在することを $p$ において局所平坦 $($locally-flat$)$ であるといいます。可微分多様体に対する部分多様体を各点で局所平坦な部分集合として定義することもあり、もちろん命題3.2.5よりここでの定義に一致します。

次は部分多様体の構成法として基本的です。

命題3.2.8

$M^{m}$, $N^{n}$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、その正則値 $p\in N$ の逆像 $f^{-1}(p)\subset M$ は空でなければ境界を持たない $m - n$ 次元部分多様体である。

証明

正則値の定義から任意の $q\in f^{-1}(p)$ に対して $(f_{*})_{q} : T_{q}M\to T_{p}N$ は全射なので、陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ より各 $q\in f^{-1}(p)$ において局所平坦です。

補足3.2.9

明らかに $f^{-1}(p)$ は $M$ の閉集合であり、よって、これにより得られる部分多様体は位相空間としての境界を $M$ の中に持ちません。

系3.2.10

$M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級関数 $f : M\to \R$ に対し、$f$ の零点集合 $A$ と $df$ の零点集合が交わらないとき $A$ は $M$ の $m - 1$ 次元部分多様体である。

証明

命題3.1.3から分かります。つまり、$df$ が $A$ の各点で $0$ でないことから $0\in \R$ は $f$ の正則値になるので命題3.2.8から $A$ は部分多様体です。

例3.2.11
(a) $n$ 次元球面 $S^{n}$ は $\R^{n + 1}$ における実係数多項式関数 $f(x_{1}, \dots, x_{n + 1}) = 1 - \sum_{k = 1}^{n}x_{k}^{2}$ の零点集合に具体的に座標近傍系を与えることで可微分多様体としていましたが、系3.2.10からも可微分多様体であることが分かります。というのは、この関数 $f$ の $1$ 階外微分が $df = \sum_{k = 1}^{n + 1}2x_{k}dx_{k}$ であり、その零点集合 $($原点のみからなる$)$ と $f$ の零点集合 $S^{n}$ が交わらないためです。
(b) 特殊線型群 $SL(n; \R) = \{A\in M(n; \R)\mid \det A = 1\}\subset M(n; \R)\cong \R^{n^{2}}$ は $\det : M(n; \R)\to \R$ に対して命題3.1.3を用いることで $n^{2} - 1$ 次元部分多様体、特に可微分多様体となっていることが分かります。実際、$SL(n; \R)$ による $M(n; \R)$ への通常の左作用が $\det$ を保つことと $SL(n; \R)$ の各元が $M(n; \R)$ の $C^{\infty}$ 級同相写像を与えていることから単位行列 $I_{n}$ が正則点であることを示せば十分なのですが、これは自明です。
(c) 直行群 $O(n) = \{A\in M(n; \R)\mid \langle Ae_{i}, Ae_{j}\rangle = \delta_{ij} \ (1\leq i < j \leq n)\}\subset M(n; \R)$ は $n^{2} - n(n + 1)/2 = n(n - 1)/2$ 次元部分多様体、特に可微分多様体になります。ただし、$e_{1}, \dots, e_{n}\in \R^{n}$ を $\R^{n}$ の標準基底、$u, v\in \R^{n}$ に対して $\langle u, v\rangle$ でその内積、$\delta_{ij}$ はKronecker記号$i = j$ のとき $1$、それ以外は $0$ という記号。Kroneckerのデルタ記号とも。です。

境界を持たない可微分多様体から境界を持たない可微分多様体への沈め込み $f : M\to N$ について、命題3.2.8により各 $p\in \Img f$ の逆像 $f^{-1}(p)$ は $M$ の部分多様体になりますが、$N$ の連結性と $f$ の固有性ここでは、コンパクト集合の逆像が必ずコンパクトになるという意味。を課すことでさらに強く $f : M\to N$ は $C^{\infty}$ 級ファイバー束になり、特に逆像 $f^{-1}(p)$ は $p\in N$ の取り方に依らず互いに $C^{\infty}$ 級同相になります。

命題3.2.12
(Ehresmannの定理Ⅰ)

$M, N$ を境界を持たない可微分多様体とし、$N$ はさらに連結とします。このとき、固有な沈め込み $f : M\to N$ は可微分閉多様体 $F$ をファイバーとする $C^{\infty}$ 級ファイバー束になる。

証明

この写像 $f : M\to N$ の全射性を示します。まず、沈め込みであることから $f$ は開写像であり $\Img f\subset N$ は開集合です。像 $\Img f$ の位相空間としての境界 $\partial\Img f$ が空でないとしたとき、その点 $p\in \partial\Img f$ における連結コンパクト近傍 $K$ を取れば $f(f^{-1}(K)) = \Img f\cap K$ はコンパクト、よって $K$ における閉集合であり、$\Img f\cap K$ は $K$ の空でない閉かつ開な部分集合になるので $\Img f\cap K = K$ です。これは $p\in \partial\Img f$ に矛盾するので $\partial\Img f = \emptyset$ が分かります。これと $N$ の連結性により $\Img f = N$、つまり、$f$ の全射性が分かります。

各点 $p\in N$ に対し、その周りの局所自明化を構成します。命題3.2.8により $F = f^{-1}(p)$ は境界を持たない部分多様体であり、$f$ が固有であったことよりコンパクト、よって閉部分多様体です。$p\in N$ の周りの局所座標系 $\psi : U''\to V''$ を一つ取り、各 $q\in F$ に対してその周りの $M$ における局所座標系 $\varphi_{q} : U_{q}\to V_{q}$ であって条件

$V_{q} = {}^{\exists}V'_{q}\times {}^{\exists}V''_{q}\subset \R^{m - n}\times \R^{n}$.
$\varphi_{q}(F\cap U_{q}) = V_{q}\cap (\R^{m - n}\times \{0\}^{n})\cong V'_{q}$.
$f(U_{q})\subset U''$ かつ $\psi\circ f\circ \varphi_{q}^{-1} : V_{q}\to V'' : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto (x_{m - n + 1}, \dots, x_{m})$.

を満たすものを取ります。有限個の $q_{1}, \dots, q_{r}\in F$ を選んで $\{F\cap U_{q_{k}}\}_{1\leq k \leq r}$ が $F$ の開被覆となるように取ります。いま、上で取った局所座標系たちを適当に制限および整形して $V'' = V''_{1} = \dots = V''_{r}$ としてよいです。あとは以下の流れで示されます。

(step 1) 任意の $F\subset M$ の開近傍 $\tilde{U}$ に対してある $p\in N$ の開近傍 $U'''\subset U''$ であって $f^{-1}(U''')\subset \tilde{U}$ となるものが存在する。
(step 2) $U''$ 上の任意のベクトル場 $Y$ に対し、$p$ の開近傍 $U'''\subset U''$ と $f^{-1}(U''')$ 上のベクトル場 $X$ であって各点 $q\in f^{-1}(U''')$ に対して $f_{*}X_{q} = Y_{f(q)}$ を満たすものが存在する。
(step 3) $M$ 上のコンパクト台を持つベクトル場 $X^{1}, \dots, X^{n}$ であって、各 $q, q'\in M$ に対して $f(q) = f(q')$ ならば $f_{*}X_{q}^{k} = f_{*}X_{q'}^{k} \ (1\leq {}^{\forall}k\leq n)$ を満たし、さらに任意の $q\in F$ に対して $f_{*}X_{q}^{1}, \dots, f_{*}X_{q}^{n}$ が $T_{p}N$ の基底を張るようなものが存在する。
(step 4) $p\in N$ の周りの局所自明化が存在する。

(step 1) $A = \{p'\subset U''\mid f^{-1}(p')\subset \tilde{U}\}$ と定めます。また、$U''$ における $p$ のコンパクト近傍 $K$ を取っておきます。$K\setminus A$ の点列 $\{y_{k}\}_{k\in \N}$ であって $y_{k}\xrightarrow{k\to\infty} p$ となるものが存在したとします。このとき、$f^{-1}(K)$ の点列 $\{x_{k}\}_{k\in \N}$ であって各 $k$ に対して $f(x_{k}) = y_{k}$ かつ $x_{k}\in f^{-1}(K)\setminus \tilde{U}$ を満たすものが存在します。$f^{-1}(K)$ がコンパクトなので $F = f^{-1}(p)$ の点に収束する部分列が存在しますが収束部分列の存在については、例えば、$f^{-1}(K)$ を高々有限個のコンパクト集合の和集合に分割し、それぞれを定義域に含む座標近傍たちが取れるようにしておけばBolzano–Weierstrassの定理に帰着できるのでよいです。、これは $\tilde{U}$ が $F$ の開近傍であることに矛盾します。よって、$K\setminus A$ の点列 $\{y_{k}\}_{k\in \N}$ であって $y_{k}\xrightarrow{k\to\infty} p$ となるものは存在せず $A$ は $p$ の近傍です。$A$ を適当な開近傍に制限して本当は $A$ 自体が開近傍になるので制限しなくても大丈夫です。$U'''$ を得ます。

(step 2) $U''$ 上のベクトル場 $Y$ を任意に取り、これを $V''$ のベクトル場ともみなすことにします。各 $1\leq k\leq r$ に対して $V_{k} = V'_{k}\times V''$ 上のベクトル場 $W^{k}$ を $(s, t)\in V'_{k}\times V''$ において\[W_{(s, t)}^{k} = Y_{t}\in T_{s}V'_{k}\oplus T_{t}V'' = T_{(s, t)}(V'_{k}\times V'')\]とすることで定めます。コンパクト台を持つ非負値 $C^{\infty}$ 級関数 $h : V''\to [0, \infty)$ であって $h(\psi(p)) = 1$ となるものと $F$ の開被覆 $\{F\cap U_{q_{k}}\}_{1\leq k \leq r}$ に対する $1$ の分割 $\{h_{k}\}_{1\leq k\leq r}$ を取ります。$h_{k}$ たちについては $V'_{k}$ 上の関数ともみなすことにします。$V_{k}$ 上のコンパクト台を持つ $C^{\infty}$ 級写像 $\tilde{h}_{k} : V_{k}\to \R : (s, t)\mapsto h_{k}(s)\cdot h(t)$ を取り、これより $M$ 上のベクトル場 $X^{k}$ を $(\varphi_{k}^{-1})_{*}(\tilde{h}W^{k})$ として定め、$X' = \sum_{k = 1}^{r}X^{k}$ とおきます。また、$M$ 上の $C^{\infty}$ 級関数 $H : M\to \R$ を $H = \sum_{k = 1}^{r}\varphi_{k}^{*}\tilde{h}_{k}$ により定めておきます。このとき、各点 $q\in f^{-1}(U'')$ において $f_{*}X'_{q} = H(q)Y_{f(q)}$ が成立しているので、あとは $H$ が $F$ の近傍で正値であることに注意して $\tilde{U} = \{q\in M\mid H(q) > 0\}$ に対して(step 1)を適用して $U'''\subset U''$ を取り、$f^{-1}(U''')$ 上で $X = (1/H)X'$ とすればよいです。

(step 3) 自明です。

(step 4) ベクトル場 $X^{1}, \dots, X^{n}$ を(step 3)により取ります。$M\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $Z$ を $(q, t) = (q, t_{1}, \dots, t_{n})\in M\times \R^{n}$ において\[Z_{(q, t)} = \sum_{k = 1}^{n}t_{k}X_{q}^{k}\in T_{q}M\oplus T_{t}\R^{n} = T_{(q, t)}(M\times \R^{n})\]とすることで定めます。各 $X^{k}$ がコンパクト台を持つこと、および $Z$ の $\R^{n}$ 方向成分が常に $0$ であることから $Z$ は完備なベクトル場であり、フロー $G_{M} : M\times \R^{n}\times \R\to M\times \R^{n}$ とその制限による $C^{\infty}$ 級同相写像 $G_{M}^{u} = G_{M}|_{M\times \R^{n}\times \{u\}}$ が取れます。射影 $P_{M} : M\times \R^{n}\to M$ との合成 $P_{M}\circ G_{M}|_{F\times \R^{n}\times \{1\}} : F\times \R^{n}\to M$ を $\varPhi$ とおきます。さて、$X^{k}$ の取り方から $N$ 上のコンパクト台を持つベクトル場 $Y^{k}$ であって任意の $q\in M$ に対して $f_{*}X_{q} = Y_{f(q)}$ を満たすものが取れます。この $Y^{k}$ たちから同様に $N\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $W$ とフロー $G_{N} : N\times \R^{n}\times \R\to N\times \R^{n}$、$C^{\infty}$ 級写像 $\varPsi : \{p\}\times \R^{n} = \R^{n}\to N$ を構成します。確かめたいことは

(i) $\varPhi(F\times \{t\}) = f^{-1}(\varPsi(t))$ であり、特に $\varPhi(F\times\{0\}) = F$ である。また、$\varPhi : F\times \{t\}\to f^{-1}(\varPsi(t))$ は $C^{\infty}$ 級同相写像。
(ii) $0\in \R^{n}$ は $\varPsi$ の正則点。よって、$\varPsi$ はその周りにおいて $C^{\infty}$ 級同相写像 $\hat{V}\to \hat{U}$ を定める。

です。これらが分かれば、$\varPhi$ を $F\times \hat{V}$ に制限して $\hat{V}$ を $\hat{U}$ で置き換えることで局所自明化の逆写像が得られます。

(i) もう少し一般に、任意の $p'\in N$ と $t\in \R^{n}$ に対して $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\}) = f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ であることを示します。$q'\in f^{-1}(p')$ とし、$M\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $Z$ に対する $(q', t)$ を始点とする積分曲線 $c : I\to M\times \R^{n}$ と $N\times \R^{n}$ 上のベクトル場 $W$ に対する $(p', t)$ を始点とする積分曲線 $\tilde{c} : I\to N\times \R^{n}$ を考えるとき、いずれも $\R^{n}$ 成分が一定であることと任意の $q''\in M$ に対して $f_{*}(\sum_{k = 1}^{n}t_{k}X_{q''}^{k}) = \sum_{k = 1}^{n}t_{k}Y_{f(q'')}^{k}$ であることにより $(f\times \Id_{\R^{n}})\circ c : I\to N\times \R^{n}$ は $(f(q') = p', t)$ を始点とするベクトル場 $W$ に関する積分曲線なので $\tilde{c}$ に一致します。$((f\times \Id_{\R^{n}})\circ c)(1) = \tilde{c}(1)$ から $(f\times \Id_{\R^{n}})(G_{M}(q', t, 1)) = G_{N}(p', t, 1)$ なので、$q'\in f^{-1}(p')$ が任意より $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\})\subset f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ が分かりました。$G_{N}^{1}$ が単射であることと $G_{M}^{1}$ が全射であることに注意して $G_{M}^{1}(f^{-1}(p')\times \{t\}) = f^{-1}(G_{N}^{1}(p', t))$ が分かります。最後に、$p' = p$ とすることで任意の $t\in \R^{n}$ に対して $\varPhi(F\times \{t\}) = f^{-1}(\varPsi(t))$ であることが分かります。$\varPhi : F\times \{t\}\to f^{-1}(\varPsi(t))$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることは構成を追えば明らかです。

(ii) 任意の $(p', t, u)\in N\times \R^{n}\times \R$ に対して $G_{N}(p', ut, 1) = G_{N}(p', t, u)$ であることに注意し、$\R^{n}$ の座標を $y_{1}, \dots, y_{n}$ と書くことにすれば $\varPsi_{*}(\partial_{y_{k}}) = Y_{k}$ なので分かります。

さて、はめ込みが与えられたときそれが値域側の位相と整合して埋め込みとなる $($部分多様体を与える$)$ かを一般に調べるのは大変ですが、次のような十分条件があり、特にコンパクト多様体に対しては単射性のみで埋め込みとなることが分かります。

命題3.2.13

固有かつ単射なはめ込み $f : N\to M$ は埋め込みである。特に、$N$ がコンパクトのとき、単射なはめ込み $f : N\to M$ は埋め込みである。

証明

像への制限が同相であることを示せばよいですが、これは一点コンパクト化 $\hat{f} : \hat{N}\to \hat{M}$ を考え、一般にコンパクト集合からHausdorff空間への連続全単射が同相であることを使えばよいです。

詳細

もう少しだけ詳しく書くと次です。

(step 1) 固有な連続写像 $f : N\to M$ は一点コンパクト化の間の連続写像 $\hat{f} : \hat{N}\to \hat{M}$ を誘導する。
(step 2) 局所コンパクトなHausdorff空間 $M$ の一点コンパクト化 $\hat{M}$ はまたHausdorff空間であるもちろん、コンパクトなので局所コンパクトでもあります。使いはしませんが。
(step 3) コンパクト集合 $\hat{N}$ からHausdorff空間 $\hat{f}(\hat{N})\subset\hat{M}$ への連続全単射は同相写像である。
(step 4) 同相写像 $\hat{f} : \hat{N}\to \hat{f}(\hat{N})$ に対しその全単射な制限 $f : N\to f(N)\subset M$ は同相写像である。

この流れに沿って示せばよいです。

最後に部分多様体の例を並べておきます。

例3.2.14
(a) $n \leq m$ とするとき $\R^{n}\times \{0\}^{m - n}\subset \R^{n}$.
(b) 上の例により、$S^{n}\subset S^{m}$, $\RP^{n}\subset \RP^{m}$, $\CP^{n}\subset \CP^{m}$.
(c) 同様に $M(n; \R)\to M(m; \R) : A\mapsto A\oplus I_{m - n}$ により $SL(n ; \R)\subset SL(m; \R)$ など。
(d) $n\geq 1$ に対して $\{[z_{0}, z_{1}, z_{2}]\in \CP^{2}\mid z_{0}^{n} + z_{1}^{n} + z_{2}^{n} = 0\}\subset \CP^{2}$.
3.2.3 横断性

可微分多様体 $M$ に対して複数の部分多様体やその境界を考えるとき、それらの間の交わり方 $($交叉する部分の近傍での様子$)$ が次の意味で横断的な場合には非常に扱いがよくなります。

定義3.2.15
(1) $M$ を可微分多様体、$N, L\subset M$ を部分多様体とする。点 $p\in N\cap L$ に対して $T_{p}N + T_{p}L = T_{p}M$ が成立しているとき、$N$ と $L$ は $p$ において横断的に交わるという。
(2) $M$ を可微分多様体、$N, L\subset M$ を部分多様体とする。各点 $p\in N\cap L$ に対して $T_{p}N + T_{p}L = T_{p}M$ が成立しているとき、$N$ と $L$ は横断的に交わるといい $N\pitchfork L$ と書く。
(3) $M, N$ を可微分多様体、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像、$L\subset M$ を部分多様体とする。任意の $p\in N$ に対し、$f(p)\in L$ ならば $\Img(f_{*})_{p} + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ が成立しているとき、$f$ は $L$ と横断的に交わるといい $f\pitchfork L$ と書く。
補足3.2.16
(a) 全空間 $M$ をはっきりさせるときは $N\pitchfork_{M}L$ や $f\pitchfork_{M}L$ と書くことにします。
(b) $N, L\subset M$ を部分多様体、$i_{N} : N\to M$ を包含写像とするとき、$N\pitchfork L$ と $i_{N}\pitchfork L$ は同値です。
(c) ここでは、$N\cap L = \emptyset$ のときも横断的に交わるといいます。また、$\dim N + \dim L < \dim M$ の場合には横断的に交わることと共通部分を持たないこととは同値です。

まず、境界を持たない部分多様体どうしが横断的に交わる点の近傍における様子を記述します。これにより、横断的に交わる境界を持たない部分多様体の共通部分は空でなければまた部分多様体になることが分かります。

命題3.2.17

$M^{m}$ を境界を持たない可微分多様体、$N^{n}, L^{l}\subset M^{m}$ を境界を持たない部分多様体とする。点 $p\in N\cap L$ に対して $T_{p}N + T_{p}L = T_{p}M$ が成立しているとき、$p$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(N\cap U) = V\cap (\R^{n}\times\{0\}^{m - n}),\]\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - l}\times \R^{l})\]を満たすものが存在する。特に、$N\cap L\neq\emptyset$ かつ $N\pitchfork L$ ならば、$N\cap L$ は $M$ の部分多様体である。

証明

$f_{N} : N\to M$ と $f_{L} : L\to M$ を包含写像とします。予備知識 定理4.2.66より $p$ の周りの $M, N$ に関する局所座標系 $\varphi_{X} : U_{X}\to V_{X} \ (X = M, N)$ であって $\varphi_{M}(p) = 0$ かつ\[\varphi_{M}\circ f_{N}\circ\varphi_{N}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (0, \dots, 0, x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが存在します。$p\in L$ の周りの局所座標系 $\varphi_{L} : U_{L}\to V_{L}$ を取り、\[\varphi_{M}\circ f_{L}\circ\varphi_{L}^{-1} : x\mapsto (g(x), h(x))\]と $C^{\infty}$ 級写像 $g : V_{L}\to \R^{l}$, $h : V_{L}\to \R^{m - l}$ を用いて表されるようにします。必要であれば $\varphi_{M}$ の座標の順番を $($後ろの $n$ 個の内で$)$ 取り換え、$g$ の $p$ におけるJacobi行列は正則であるとします。逆関数定理 $($予備知識 定理4.2.62$)$ より、必要なら $V_{L}$ を小さく取り直して $g : V_{L}\to g(V_{L})$ は $C^{\infty}$ 級同相としてよく、よって、$\varphi_{L}$ と $g$ との合成 $\varphi'_{L}$ を局所座標系として取ることで $g$ は始めから恒等写像としてよいです。必要であれば $V_{M}$ を小さく取り直して $V_{M}\subset V_{L}\times \R^{m - l}$ とした後、$\varphi_{M}$ と写像\[\psi_{M} : V_{M}\to \R^{m} : (x, \tilde{x})\mapsto (x, \tilde{x} - h(x)),\]ただし $x\in\R^{l}, \tilde{x}\in\R^{m - l}$ とする、との合成により新たな $p\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi'_{M}$ を取り、最後に必要であれば $U_{M}$ を小さく取り直して $N\cap U_{M} = U_{N}$, $L\cap U_{M} = U_{L}$ となるようにすればよいです。

補足3.2.18
(a) 局所座標系 $\varphi_{N}$ の座標の順番を証明中の $\varphi_{M}$ の座標の順晩の入れ換えと同様に入れ換え、必要であれば定義域 $U_{N}$ を小さく取り直した後、写像\[\psi_{N} : V_{N}\to \R^{n} : (x, \tilde{x})\mapsto (x, \tilde{x} - h|_{V_{L}\cap(\{0\}^{m - n}\times\R^{n + l - m})}(x)),\]ただし $x\in\R^{n + l - m}, \tilde{x}\in\R^{m - l}$ とする、との合成により新たな $p\in M$ の周りの座標近傍 $\varphi'_{N}$ を取れば同時に\[\varphi_{M}\circ f_{N}\circ\varphi_{N}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (0, \dots, 0, x_{1}, \dots, x_{n}),\]\[\varphi_{M}\circ f_{L}\circ\varphi_{L}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{l})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{l}, 0, \dots, 0)\]となりますただ、一度集合としての配置が整理されたなら逆関数定理を使ってしまうのが明らかな方法でしょう。
(b) このことはさらに一般化され、例えば部分多様体 $N_{1}, \dots, N_{k}\subset M$ がその共通部分の点 $p\in \bigcap_{1\leq i\leq k}N_{i}$ において全ての $1\leq i\leq k$ で\[T_{p}N_{i} + \bigcap_{j\neq i}T_{p}N_{j} = T_{p}M\]を満たしていれば、$p$ の周りの局所座標系 $\varphi_{N_{1}}, \dots, \varphi_{N_{k}}, \varphi_{M}$ と $\R^{m}$ の座標の順番の取り換えにより定まる自己微分同相 $\sigma_{1}, \dots, \sigma_{k} : \R^{m}\to \R^{m}$ であって、各 $1\leq i\leq k$ に対して $\varphi_{N_{i}}(p) = 0$ かつ\[\sigma_{i}\circ\varphi_{M}\circ f_{i}\circ\varphi_{N_{i}}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{n_{i}})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n_{i}}, 0, \dots, 0)\]となるものが存在します。ただし、$f_{i} : N_{i}\to M$ は包含写像です。命題3.2.17の証明と(a)を参考に、帰納法より示されます。
(c) このように、部分多様体たちが横断的に配置されている状況を一般の位置にあると言ったりします。境界込みで考える場合は次の定義3.2.19のような条件を課すこともあります。ただ、一般の位置という用語自体はより一般に、ある意味で"安定的"かつ"ありふれた"状況にある写像を指す用語であり、状況や書き手によって異なった用いられ方をするので注意。"安定的"というのは例えば、横断的に交わっている部分をその周りで少しずらしても横断性 $($局所的状況$)$ が保たれるということ、"ありふれた"というのは部分多様体たちをわずかに"摂動"するだけで横断的に交わるように近似できる $($系3.2.33$)$ というニュアンスです。一般の位置についてのちゃんとした説明には[志賀 多様体論]を参照してください。

境界を持つ多様体とその部分多様体に対しては境界における横断性を課すことで局所的な様子が整理されます。そこで、その目的のために十分な仮定を課し、次のように境界に適合した部分多様体と境界に適合した写像を導入することにします。$($一般的な用語ではないです通常はproperであると言われるのかなと思います。邦書でどう訳されているかは調べてないです。固有?適切?また、properという用語も書き手によって微妙に違う意味で使われたりするので注意。。このノートでは境界周りで"都合のいい"状態にあること指す用語を「境界に適合する」とか「境界に合った」である程度統一したいと思っているのでそうします。$)$

定義3.2.19
(1) 可微分多様体 $M$ とその部分多様体 $N\subset M$ に対して条件
$\Int N\subset \Int M$.
$\partial N\subset \partial M$.
$N\pitchfork \partial M$.
が満たされているとき、$N$ を境界に適合した部分多様体という。
(2) 可微分多様体 $M, N$ と $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to M$ に対して条件
$f(\Int N)\subset \Int M$.
$f(\partial N)\subset \partial M$.
$f\pitchfork \partial M$.
が満たされているとき、$f$ を境界に適合した写像という。

まずは通常の部分多様体について行ったような局所平坦性による特徴付けをしておきます。

命題3.2.20
(1) $M^{m}$ を可微分多様体、$N^{n}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、任意の $p\in N$ に対してその周りの局所座標系 $\varphi : U\to V\subset \Rp^{m}$ であって\[\varphi(N\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - n}\times \Rp^{n})\subset \Rp^{m}\]を満たすものが存在するこのような状況も $p$ において局所平坦であるということにします。
(2) $M^{m}$ を可微分多様体、$N\subset M$ を空でない部分集合とする。ある正整数 $n \leq m$ があって、任意の $p\in N$ に対して $M$ における $p$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V\subset \Rp^{m}$ で\[\varphi(N\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - n}\times \Rp^{n})\subset \Rp^{m}\]を満たすものが存在するとき、$N\subset M$ は境界に適合した $n$ 次元部分多様体である。
証明

(1) $p\in \Int N$ の場合は $p\in \Int M$ により命題3.2.5から分かります。$p\in \partial N$ とします。包含写像 $i_{N} : N\to M$ を考え、$p\in N$ のまわり局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}\subset \Rp^{n}$ と $p\in M$ の周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}\subset \Rp^{m}$ を取ります。$\varphi_{N}(p)$ の $\R^{n}$ における開近傍 $V'_{N}$ 上で定義された $C^{\infty}$ 級写像 $\psi : V'_{N}\to \R^{m}$ であって $V'_{N}\cap V_{N}$ 上 $\varphi_{M}\circ i_{N}\circ \varphi_{N}^{-1}$ に一致するものを取り、必要なら $V'_{N}$ を小さく取り直して

$V'_{N}\cap V_{N} = V'_{N}\cap \Rp^{n}$.
$\psi(V'_{N}\cap (\R^{n - 1}\times (-\infty, 0)))\subset \R^{m - 1}\times (-\infty, 0)$細かくは書きませんが、ここで $\partial N\subset \partial M$ であること、および $N\pitchfork \partial M$ を用いています。このことを言い換えれば、$\psi$ は境界成分をまた境界に移し、その微分写像 $\psi_{*}$ はその境界における内向き接ベクトルをまた内向き接ベクトル $($特に $0$ でない$)$ に移す、ということになります。従って、$V'_{N}$ を十分小さく取り換えればこの条件が満たされます。.
$\psi$ は埋め込み。

となるようにします。この $\psi$ $($の定める部分多様体$)$ と部分多様体 $\varphi_{M}(\partial M\cap U_{M})\subset \partial\Rp^{m}\subset \R^{m}$ に対して命題3.2.17を用いて $\R^{m}$ の開集合の間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\psi_{M} : V'_{M}\to V''_{M}$ であって

$\psi_{M}(\varphi_{M}(\partial M\cap U_{M})\cap V'_{M}) = V''_{M}\cap (\R^{m - 1}\times \{0\})$.
$\psi_{M}(\Img\psi\cap V'_{M}) = V''_{M}\cap (\{0\}^{m - n}\times \R^{n})$.
$\psi_{M}(V'_{M}\cap \Rp^{m})\subset \Rp^{m}$.

を満たすものを取ります。$\psi_{M}\circ (\varphi_{M}|_{\varphi_{M}^{-1}(V'_{M}\cap V_{M})})$ が欲しかった $p\in M$ の周りの局所座標系です。

(2) 自明です。

命題3.2.8を境界込みの場合に少し一般化します。つまり、$f : M\to N$ の正則値 $p\in N$ が境界への制限 $f|_{\partial M}$ に対する正則値でもあれば逆像 $f^{-1}(p)$ として境界に適合した部分多様体が自然に現れてくれることを示したいのですが、そのための境界に対する考察として一つ補題を用意しておきます。

補題3.2.21

$M$ を可微分多様体, $N$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、$p\in \partial M$ がその制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ の正則点であればその周りの局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$ と $f(p)\in N$ の周りの局所座標系 $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}$ であって常に\[\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1} : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto(x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが存在する。よって、$f^{-1}(f(p))$ は $p$ において局所平坦である。

証明

局所座標系 $\varphi_{M} : U_{M}\to V_{M}$, $\varphi_{N} : U_{N}\to V_{N}$ を $p\in U_{M}$, $f(p)\in U_{N}$ かつ $f(U_{M})\subset U_{N}$ となるように取り、適当に $\varphi_{M}$ の座標の順番を $($初めの $m - 1$ 個の内で$)$ 取り換えてJacobi行列 $J_{\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}}(\varphi_{M}(p))$ の最初の $n$ 行 $n$ 列からなる正方行列が正則となるようにしておきます。$\varphi_{M}(p)$ の $\R^{m}$ における開近傍 $V'_{M}$ 上で定義された $C^{\infty}$ 級写像 $\psi : V'_{M}\to \R^{n}$ であって $V'_{M}\cap V_{M}$ 上 $\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}$ に一致するものを取ります。$\varphi_{M}(p)$ ついての陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ により $\R^{m}$ の開集合の間の $C^{\infty}$ 級同相写像 $\varphi : V''_{M}\to V'''_{M}$ であって $V'''_{M}\subset V'_{M}$ かつ $\varphi_{M}(p)\in V'''_{M}$ と常に\[\psi\circ \varphi : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto(x_{1}, \dots, x_{n})\]を満たすものが取れます。予備知識 補足4.2.65より構成した $\varphi$ は第 $m$ 成分を保つとしてよく、必要であれば定義域を小さく取り直したのち $\varphi^{-1}\circ \varphi_{M}$ はまた局所座標系になるので $\varphi_{M}$ を $\varphi^{-1}\circ \varphi_{M}$ で置き換えればよいです。

命題3.2.22

$M$ を可微分多様体, $N$ を境界を持たない可微分多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対し、その正則値 $p\in N$ がさらに制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ の正則値でもあるとき、逆像 $f^{-1}(p)\subset M$ は境界に適合した部分多様体であり $\partial f^{-1}(p) = f^{-1}(p)\cap \partial M$ が成立する。

証明

内点においては通常に陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$、境界においては補題3.2.21を使えば分かります。

Ehresmannの定理 $($命題3.2.12$)$ も同様に一般化されます。

命題3.2.23
(Ehresmannの定理Ⅱ)

$M$ を可微分多様体、$N$ を境界を持たない連結可微分多様体とする。このとき、固有な沈め込み $f : M\to N$ であって境界への制限 $f|_{\partial M} : \partial M\to N$ も沈め込みとなっているようなものはコンパクト可微分多様体 $F$ をファイバーとする $C^{\infty}$ 級ファイバー束になる。

証明

命題3.2.12の証明においてベクトル場を構成する際、それらが境界に適合するように気を付ければあとは同じです。

$C^{\infty}$ 級写像と部分多様体の横断性に対する類似として次があります。

命題3.2.24
(1) $M^{m}$, $N^{n}$ を境界を持たない可微分多様体、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を境界を持たない部分多様体とする。このとき、$\Img f\cap L\neq\emptyset$ かつ $f\pitchfork L$ ならば $f^{-1}(L)$ は $N$ の部分多様体である。
(2) $M^{m}$, $N^{n}$ を可微分多様体、$f : N\to M$ を境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、$\Img f\cap L\neq\emptyset$ かつ $f\pitchfork L$ かつ $f|_{\partial N}\pitchfork L$ ならば $f^{-1}(L)$ は $N$ の境界に適合した部分多様体であり $\partial(f^{-1}(L)) = f^{-1}(\partial L)$ が成立する。
証明

(1) $p\in f^{-1}(L)$ とします。$M$ における $f(p)$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\R^{l}\times \{0\}^{m - l})\]となるものを取ります。また、$P : \R^{l}\times \R^{m - l}\to \R^{m - l}$ を第 $2$ 成分への射影とします。$p$ のまわりの開近傍 $U'$ を $f(U')\subset U$ となるように取るとき、$\psi = P\circ \varphi \circ f|_{U'}$ に対して

$\psi$ は $p$ において正則。
$\psi(p) = 0$.
$\psi^{-1}(0) = U'\cap f^{-1}(L)$.

が成立するので陰関数定理 $($予備知識 定理4.2.64$)$ より $f^{-1}(L)$ は $p$ において局所平坦です。$p\in f^{-1}(L)$ は任意なので $f^{-1}(L)$ は $N$ の部分多様体です。

(2) まず、$p\in f^{-1}(L)\cap \Int N$ においては(1)から局所平坦であることが分かるので $p\in f^{-1}(L)\cap \partial N$ における局所平坦性を示せばよいです。命題3.2.20を用いて $M$ における $f(p)\in\partial L$ の周りの局所座標系 $\varphi : U\to V$ であって\[\varphi(L\cap U) = V\cap (\{0\}^{m - l}\times \Rp^{l})\subset \Rp^{m}\]となるものを取ります。また、$P : \R^{m - l}\times \Rp^{l}\to \R^{m - l}$ を第 $1$ 成分への射影とします。$p$ のまわりの開近傍 $U'$ を $f(U')\subset U$ となるように取るとき、$\psi = P\circ \varphi \circ f|_{U'}$ に対して

$\psi|_{\partial U'}$ は $p$ において正則。
$\psi(p) = 0$.
$\psi^{-1}(0) = U'\cap f^{-1}(L)$.

が成立するので補題3.2.21より $f^{-1}(L)$ は $p$ において局所平坦です。以上より $f^{-1}(L)$ は $N$ の境界に適合した部分多様体です。$\partial(f^{-1}(L)) = f^{-1}(\partial L)$ も自明です。

3.2.4 滑らかな変形

可部分多様体 $M$ に対して $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to M$ と部分多様体 $L\subset M$ が与えられたとき、もちろん一般には $f\pitchfork L$ とは限りませんが、一方を滑らかに変形し再配置することで $f$ と $L$ が横断的に交わるようにできること $($命題3.2.32$)$ を示したいと思います。そこで、まずはこの滑らかな変形というのを定義しておきます。

定義3.2.25
(1) $M, N$ を可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$C^{\infty}$ 級写像 $F : N\times I\to M$ であって $F|_{N\times \{0\}} = f_{0}$ かつ $F|_{N\times \{1\}} = f_{1}$ を満たすものを $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopyという。また、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopyが存在するとき、$f_{0}$ と $f_{1}$ は滑らかにhomotopicであるという。
(2) $M, N$ を可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ をはめ込みとする。$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopy $F : N\times I\to M$ であって各 $t\in I$ に対して $F|_{N\times\{t\}}$ がはめ込みとなるものを $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなregular homotopyという。また、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐregular homotopyが存在するとき、$f_{0}$ と $f_{1}$ は滑らかにregularly homotopicであるという。
(3) $M, N$ を可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を埋め込みとする。$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopy $F : N\times I\to M$ であって各 $t\in I$ に対して $F|_{N\times\{t\}}$ が埋め込みとなるものを $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなisotopyという。また、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなisotopyが存在するとき、$f_{0}$ と $f_{1}$ は滑らかにisotopicであるという。
(4) $M = N$ のとき、isotopy $F : M\times I\to M$ であって $F_{M\times\{0\}} = \Id_{M}$ かつ各 $F_{M\times\{t\}}$ が $C^{\infty}$ 級同相であるものを $M$ に関する滑らかなambient isotopyという。
(5) $M, N$ を可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を埋め込みとする。$M$ に関するambient isotopy $F : M\times I\to M$ であって $F|_{M\times \{1\}}\circ f_{0} = f_{1}$ を満たすものが存在するとき、$f_{0}$ と $f_{1}$ は滑らかにambient isotopicであるという。
(6) $M, N$ を可微分多様体とし、$F : N\times I\to M$ を滑らかなhomotopyとする。homotopy $F$ の台 $\supp F\subset N$ を\[\supp F = \overline{\{p\in N\mid {}^{\exists}s, t\in I \text{ s.t. } F(p, s) \neq F(p, t)\}}\]により定める。
補足3.2.26
(a) 以下ではhomotopy $F : N\times I\to M$ の制限 $F|_{N\times \{t\}}$ を簡単に $F_{t}$ と書くことにし、定義域も $N$ と区別しないことにします。
(b) 滑らかなhomotopyと滑らかなisotopyについて、微分可能性を無視すれば直ちに一般の位相空間に対するhomotopyとisotopyを与えます。
(c) ただ、ここでは基本的に可微分多様体と $C^{\infty}$ 級写像しか扱わないので、今後「滑らか」は省略します。

これらが定める二項関係 $($homotopyについては $\sim$ と書き、isotopyについては $\simeq$ と書くとします$)$ は同値関係なのですが、そのことを証明するための補題として、その同値条件をいくつか整理しておきます。どれもほぼ一緒なのでisotopyについてだけ書きます。

補題3.2.27

$M, N$ を可微分多様体とし、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を埋め込みとする。このとき、次は同値ということで、isotopicであることおよびisotopyの定義をどれで置き換えてもよいのですが、それぞれの特徴として(1)は具体的にisotopyを構成するときに端点での様子を気にしなくていい、(2)はisotopyどうしのつなぎ合わせが容易、(3)と(4)は $N$ が境界持つ場合にも角を考慮する必要がない、という特徴があります。

(1) $f_{0}$ と $f_{1}$ はisotopic.
(2) ある $C^{\infty}$ 級写像 $F : N\times I\to M$ であって次を満たすものが存在する。
ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の $t\in [0, \varepsilon)$ に対して $f_{0} = F_{t}$.
ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の $t\in (1 - \varepsilon, 1]$ に対して $f_{1} = F_{t}$.
各 $t\in I$ に対して $F_{t} : N\to M$ は埋め込み。
(3) ある $C^{\infty}$ 級写像 $F : N\times \R\to M$ であって次を満たすものが存在する。
任意の $t \leq 0$ に対して $f_{0} = F_{t}$.
任意の $t\geq 1$ に対して $f_{1} = F_{t}$.
各 $t\in I$ に対して $F_{t} : N\to M$ は埋め込み。
(4) ある埋め込み $F : N\times \R\to M\times \R$ であって次を満たすものが存在する。ただし、$P : M\times \R\to M$ を第 $1$ 成分への射影とする。
任意の $t\in \R$ に対して $F(N\times \{t\})\subset M\times \{t\}$よくレベルを保つといいます。.
任意の $t \leq 0$ に対して $f_{0} = P\circ F_{t}$.
任意の $t\geq 1$ に対して $f_{1} = P\circ F_{t}$.
証明

(2), (3), (4)の同値性と(2) ⇒ (1)は自明なので(1) ⇒ (2)のみ示します。

(1) ⇒ (2) $f_{0}$ を $f_{1}$ に結ぶisotopy $F$ を一つ固定します。$C^{\infty}$ 級写像 $h : I\to I$ であって

ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の $t\in [0, \varepsilon)$ に対して $h(t) = 0$.
ある正実数 $\varepsilon > 0$ が存在し、任意の $t\in (1 - \varepsilon, 1]$ に対して $h(t) = 1$.

を満たすものを取り、$C^{\infty}$ 級写像 $G : N\times I\to M$ を\[G = F\circ (\Id_{N}\times h) : (p, t)\mapsto F(p, h(t))\]により定めれば $G_{t} = F_{h(t)}$ であり、これが(2)についてほしかった写像になります。

命題3.2.28

$M, N$ を可微分多様体とする。$N$ から $M$ への埋め込み全体からなる集合 $\Emb(N, M)$ において、isotopicによる二項関係 $\simeq$ は同値関係である。

証明

反射律は埋め込み $f\in \Emb(N, M)$ に対して $f$ を $f$ につなぐisotopy $F$ を $F(p, t) = f(p)$ とすることで構成できるので分かり、対称律は $f_{0}\simeq f_{1}$ に対し $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐisotopy $F$ から $f_{1}$ を $f_{0}$ につなぐisotopy $G$ を $G(p, t) = F(p, 1 - t)$ とすることで構成できるので分かります。

推移律を示します。$f_{0}\simeq f_{1}, f_{1}\simeq f_{2}$ とし、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐisotopy $F$ と $f_{1}$ を $f_{2}$ につなぐisotopy $G$ をそれぞれ補題3.2.27の(2)の条件を満たすように取ります。このとき、$f_{0}$ を $f_{2}$ につなぐisotopy $H$ が\[H_{t} = \left\{\begin{array}{ll}F_{2t} & (0 \leq t \leq 1/2)\\G_{2t - 1} & (1/2 \leq t \leq 1)\end{array}\right.\]とすることで構成できるので $f_{0}\simeq f_{2}$ が分かります。

次は可算個のambient isotopyのつなぎ合わせを行うための補題です。言いたいことは、適切な条件を満たす局所的な変形を繰り返していったとき、その極限として $C^{\infty}$ 級同相写像が得られ、恒等写像 $\Id_{M}$ にambient isotopicであるということです。

補題3.2.29

$M$ を可微分多様体、$\{F^{k} : M\times I\to M\}_{k\in \N}$ をambient isotopyの可算列とし、各 $k\in \N$ に対してある正実数 $0 < \varepsilon < 1$ が存在し、任意の $t\in [0, \varepsilon)$ で $F_{t} = F_{0}$ かつ $F_{1 - t} = F_{1}$ を満たしているとする。isotopyの可算列 $\{\hat{F}^{k} : M\times I\to M\}_{k\in\N}$ を\[\hat{F}^{0} = F^{0}, \ \hat{F}^{k + 1} = F^{k + 1}\circ (\hat{F}_{1}^{k}\times \Id_{I})\]により定めるとき、$C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ が\[\hat{F}_{t} = \hat{F}_{2^{k + 1}(t - (1 - 2^{-k}))}^{k} \ (1 - 2^{-k} \leq t\leq 1 - 2^{-(k + 1)})\]とすることで得られる定義が若干複雑ですが、単にisotopyを端どうしでつなげているだけです。

さらに、相対コンパクト開集合の可算列 $\{U_{k}\}_{k\in \N}$ とコンパクト集合の可算列 $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ であって

(i) $\{U_{k}\}_{k\in \N}$, $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ は局所有限な被覆。
(ii) 各 $k\in \N$ に対して $\supp F^{k}\subset U_{k}$.
(iii) 任意の $k\in \N$ と $t\in [0, 1)$ に対して $\hat{F}_{t}(K_{k})\subset U_{k}$.

を満たすものが存在するとき、$\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ は $C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times I\to M$ へ一意に拡張しambient isotopyとなる。また、任意のコンパクト集合 $K\subset M$ に対し、ある実数 $T\in [0, 1)$ であって任意の $s, t\in [T, 1]$ で $\hat{F}_{s}|_{K} = \hat{F}_{t}|_{K}$ を満たすものが存在する。

証明

前半の $C^{\infty}$ 級写像 $\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ が得られることは $\hat{F}_{1 - 2^{-(k + 1)}} = \hat{F}_{1}^{k} = \hat{F}_{0}^{k + 1}$ から明らかです。

後半を以下の流れで示します。

(step 1) $V_{l} = \overline{\bigcup_{i \leq l}U_{i}}$ とおくとして、任意の $l\in \N$ に対し、ある実数 $T_{l}\in [0, 1)$ であって任意の $s, t\in [T_{l}, 1)$ で $\hat{F}_{s}|_{(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})} = \hat{F}_{t}|_{(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})}$ を満たすものが存在する。
(step 2) 各 $l\in \N$ に対し、ある整数 $l' > l$ であって任意の実数 $t\in [0, 1)$ で $V_{l}\subset (\hat{F}_{t})^{-1}(V_{l'})$ を満たすものが存在する。
(step 3) $\hat{F} : M\times [0, 1)\to M$ はambient isotopyへ一意に拡張する。

(step 1) $V_{l} = \overline{\bigcup_{i \leq l}U_{i}}$ は各 $U_{i}$ の相対コンパクト性よりコンパクト。そして、$\{U_{k}\}_{k\in \N}$ が局所有限であったことから $V_{l}$ と交わる $U_{k}$ は高々有限個です。よって、ある整数 $L > l$ が存在して任意の $l'\geq L$ に対して $\supp F^{l'}\cap V_{l} = \emptyset$ を満たすので $T_{l} = 1 - 2^{L}$ とすればよいです。

(step 2) (iii)より任意の $l'\in \N$ と $t\in [0, 1)$ に対して $\hat{F}_{t}(\bigcup_{i \leq l'}K_{i})\subset V_{l'}$ であり、$\hat{F}_{t}$ が $C^{\infty}$ 同相写像より $\bigcup_{i \leq l'}K_{i}\subset (\hat{F}_{t})^{-1}(V_{l'})$ なので、各 $l\in \N$ に対して $V_{l}\subset \bigcup_{i \leq l'}K_{i}$ となるような十分大きな $l'$ を取ればよいです。$\{K_{k}\}_{k\in \N}$ が局所有限な被覆であることには注意。

(step 3) 各点 $p\in M$ において $\hat{F}_{1}(p) = \lim_{t\to 1}\hat{F}_{t}(p)$ とすることで $M\times I\to M$ への拡張を構成したいわけですが、各 $l\in \N$ に対して(step 1)の $T_{l}$ を取れば $(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})$ においてこのような極限が存在することが分かり、(step 2)と合わせれば任意の $p\in M$ で極限が存在することが分かります。得られた拡張 $\hat{F} : M\times I\to M$ が $C^{\infty}$ 級写像であることと $C^{\infty}$ 級写像への一意な拡張であることは明らかです。また、一番最後の主張も明らかです。

あとは $\hat{F}_{1}$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることを示せばよいです。まず、全射性は(step 1)の $T_{l}$ に対して $\hat{F}_{1}((\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})) = \hat{F}_{T_{l}}((\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(V_{l})) = V_{l}\xrightarrow{l\to\infty} M$ であることから分かり、単射性及び各点が正則点であることは各 $l\in \N$ に対して $\hat{F}_{1}|_{(\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(\bigcup_{i\leq l}U_{i})} : (\hat{F}_{T_{l}})^{-1}(\bigcup_{i\leq l}U_{i})\to \bigcup_{i\leq l}U_{i}$ が $C^{\infty}$ 級同相写像であることから分かります。よって $\hat{F}_{1}$ は $C^{\infty}$ 級同相写像です。

横断性に関して一つ補題を用意します。

補題3.2.30

$M^{m}, N^{n}$ を可微分多様体、$U$ をEuclid空間 $\R^{r}$ の空でない開集合、$F : N\times U\to M$ を境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とし $F\pitchfork L$ かつ $F|_{\partial N\times U}\pitchfork L$ であるとする。このとき、ある点 $x \in U$ であって $F|_{N\times \{x\}}\pitchfork L$ かつ $F|_{\partial N\times \{x\}}\pitchfork L$ となるものが存在する。

証明

$\Img F\cap L = \emptyset$ なら自明なので $\Img F\cap L \neq \emptyset$ とします。まず、命題3.2.24により $\tilde{N} = F^{-1}(L)$ は $N\times U$ の境界に適合した部分多様体です。第 $2$ 成分への射影 $p_{2} : N\times U\to U$ の $\tilde{N}$ への制限 $\psi : \tilde{N}\to U$ および $\psi|_{\partial\tilde{N}} : \partial\tilde{N}\to U$ の両方の正則値となる点がSardの定理 $($命題3.1.6$)$ から保証されているので、それを $x$ として取ります。$F|_{N\times \{x\}}$ をその定義域を $N$ とみなしたうえで単に $f : N\to M$ と書くことにします。

$f\pitchfork L$ を示すためには各 $(p, x)\in \tilde{N}\cap (N\times \{x\})\subset N\times U$ に対して $f_{*}(T_{p}N) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ を示せばよいです。まず、$x\in U$ が $\psi : \tilde{N}\to U$ の正則値であったことにより\[T_{(p, x)}\tilde{N} + T_{(p, x)}(N\times \{x\}) = T_{(p, x)}(N\times U)\]であり、そして $F\pitchfork L$ により\[F_{*}(T_{(p, x)}\tilde{N} + T_{(p, x)}(N\times \{x\})) + T_{f(p)}L = F_{*}(T_{(p, x)}(N\times U)) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M\]です。$F_{*}(T_{(p, x)}\tilde{N})\subset T_{f(p)}L$ に注意すれば $F_{*}(T_{(p, x)}(N\times \{x\})) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ が分かります。$F_{*}(T_{(p, x)}(N\times \{x\})) = f_{*}(T_{p}N)$ なので $f_{*}(T_{p}N) + T_{f(p)}L = T_{f(p)}M$ であり、各点 $(p, x)\in \tilde{N}\cap (N\times \{x\})$ でそうなので $f\pitchfork L$ です。境界での横断性も同様です。

最後に一つ、局所的な横断性を確保するための近似に関する補題を用意します。

補題3.2.31

可微分多様体 $N^{n}$ と $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ が与えられているとする。このとき、$\Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ のあるambient isotopy $F$ が存在して $\supp F\subset D_{1}^{m - l}\times D_{1}^{l}$ かつ $F_{1}\circ f\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ が成立する。

また、境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to \Int D_{2}^{m - l}\times (\Int D_{2}^{l}\cap \Rp^{l})$ についても同様に、$\supp F\subset D_{1}^{m - l}\times (D_{1}^{l}\cap \Rp^{l})$ かつ $F_{1}\circ f\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ かつ $F_{1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork \{0\}^{m - l}\times (\Int D_{1}^{l}\cap \Rp^{l})$ となるambient isotopy $F$ が存在する。

証明

$C^{\infty}$ 級関数 $h : \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}\to [0, 1]$ を\[h(x, y) > 0 \Leftrightarrow (x, y)\in \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}\]となるように取り、$C^{\infty}$ 級関数 $\varPhi : \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}\times \Int D_{1}^{m - l}\to \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ を\[\varPhi : (x, y, z)\mapsto (x + h(x, y)z, y)\]とすることで定めます。以下のことを示します。

(i) 正実数 $0 < \delta < 1$ であって、任意の $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ に対して $\varPhi|_{\Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}\times \{z\}}$ が $C^{\infty}$ 級同相写像となるものが存在する。
(ii) 任意の $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ に対して $F_{t}(x, y) = \varPhi(x, y, tz)$ は $\supp F\subset D_{1}^{m - l}\times D_{1}^{l}$ を満たすambient isotopyである。
(iii) 写像 $G : N\times \Int D_{\delta}^{m - l}\to \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ を\[G : (p, z)\mapsto \varPhi(f(p), z)\]により定めるとき $G\pitchfork (\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$ が成立する。

そうすれば、(iii)と補題3.2.30によりある $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ が存在して $G|_{N\times \{z\}}\pitchfork \{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ となるので、この $z$ と(ii)から欲しかったambient isotopyが取れます。

(i) 明らか。$h$ のJacobi行列のノルム $\|J_{h}\|$ の最大値を $H$ として、$H\delta < 1$ となるように取ればよいです。$($ただ、きちんと証明するのは少し面倒…$)$

(ii) $\delta$ の取り方から明らか。

(iii) 各 $p\in N$ に対して $G|_{\{p\}\times \Int D_{\delta}^{m - l}}$ は\[G|_{\{p\}\times \Int D_{\delta}^{m - l}} : z\mapsto \varPhi(f(p), z) = f(p) + (h(f(p))z, 0)\]と表されるので、$(p, z)\in G^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$ ならば $h(f(p))\neq 0$ であることを示せば横断性が従います。そのために対偶を示しますが、これは $h(f(p)) = 0$ とすると、$h$ の取り方から $f(p)\notin \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ であり、また、$G$ の取り方から任意の $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ に対して $G(p, z) = f(p)\notin \Int D_{1}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}$ なのでよいです。

境界も込みで考えた場合も同様です。

では、示したかったことを示します。補題3.2.29を使える状況に帰着するための議論が入ったせいで証明がちょっと長くなってますが、結局していることは局所的な変形で横断的に交わる部分を少しずつ広げているというだけです。

命題3.2.32

$M^{m}, N^{n}$ を可微分多様体、$f : N\to M$ を境界に適合した $C^{\infty}$ 級写像、$L^{l}\subset M$ を閉集合である境界に適合した部分多様体とする。このとき、あるambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork L$ かつ $\hat{F}_{1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork L$ を満たすものが存在する。

証明

$M$ がコンパクトでない場合を示しますコンパクトな場合は以下の議論を追った後なら自明です。。$M$ の局所座標系の高々可算列 $\{\varphi_{k} : U_{k}\to V_{k}\}_{k\in \Lambda}$ であって条件

$V_{k} = \Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$ または $V_{k} = \Int D_{2}^{m - l}\times (\Int D_{2}^{l}\cap \Rp^{l})$.
$\varphi_{k}(L\cap U_{k}) = V_{k}\cap (\{0\}^{m - l}\times \R^{l})$.
$L = \bigcup_{k\in\Lambda}\varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$.
$\{U_{k}\}_{k\in \Lambda}$ は相対コンパクト開集合による局所有限ここの局所有限性のために $L$ が $M$ において閉集合となっていることを使用。これがない場合、$L$ の位相空間としての境界において局所有限性が担保できない $($できてもかなり煩雑になるとは思う$)$ です。な族。

を満たすものを取ります。あとで補題3.2.29を適用するための下準備として、上記の添字集合 $\Lambda$ を $\Lambda\subset \N$ かつ $\N\setminus \Lambda$ は可算無限集合となるよう取り直し、さらに $M$ の相対コンパクト開集合による可算列 $\{U_{k}\}_{k\in \N}$ とコンパクト集合による可算列 $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ を

各 $k\in\Lambda$ に対して $U_{k}$ は上で取った $U_{k}$、$K_{k}$ は $\varphi_{k}^{-1}(D_{1}^{m - l}\times D_{1}^{l})$.
$\{U_{k}\}_{k\in \N\setminus \Lambda}$, $\{K_{k}\}_{k\in \N\setminus \Lambda}$ は局所有限な被覆ここで可算被覆を取るために $M$ がコンパクトでないことを使います。また、$\{U_{k}\}_{k\in \Lambda}$ が局所有限なので $\{U_{k}\}_{k\in \N}$, $\{K_{k}\}_{k\in \N}$ は局所有限な被覆となることに注意。
各 $k\in\N$ に対して $K_{k}\subset U_{k}$.

となるように取っておきます。

以下、各 $k$ に対してambient isotopy $F^{k} : M\times I\to M$ とisotopy $\hat{F}^{k} : M\times I\to M$ を条件

各 $k\in \N$ に対してある正実数 $0 < \varepsilon < 1$ が存在し、任意の $t\in[0, \varepsilon)$ で $F_{t}^{k} = F_{0}^{k}$ かつ $F_{1 - t}^{k} = F_{1}^{k}$ を満たす。
$\hat{F}^{0} = F^{0}, \ \hat{F}^{k + 1} = F^{k + 1}\circ (\hat{F}_{1}^{k}\times \Id_{I})$
各 $k\in \N$ に対して $\supp F^{k}\subset U_{k}$.
任意の $k, l\in \N$ と $t\in I$ に対して $\hat{F}_{t}^{k}(K_{l})\subset U_{l}$.
$\hat{F}_{1}^{k}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$
$\hat{F}_{1}^{k}\circ f|_{\partial N}\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$

を満たすように構成していきます。もしそのように構成できれば、補題3.2.29によりambient isotopy $\hat{F}$ が得られ、$L$ の各点についてコンパクト近傍 $K'$ を取り $K = (\hat{F}_{1})^{-1}(K')$ として補題3.2.29の一番最後の主張を用いることで $\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork (L\cap \Int K')$ が分かるため、$\hat{F}_{1}\circ f\pitchfork L$ となります。

$k - 1$ まで構成され、その範囲で上記の条件が満たされているとします。

($k\notin \Lambda$ の場合) $F_{t}^{k} = \Id_{M}$, $\hat{F}^{k} = F^{k}\circ (\hat{F}_{1}^{k - 1}\times \Id_{I})$ とすればよいです。

($k\in \Lambda$ の場合) $U_{k}$ と $\Int D_{2}^{m - l}\times \Int D_{2}^{l}$、もしくは $\Int D_{2}^{m - l}\times (\Int D_{2}^{l}\cap \Rp^{l})$ との同一視のもと、$N' = (\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f)^{-1}(U_{k})$ と $\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f|_{N'}$ に対して補題3.2.31を適用することで $U_{k}$ のambient isotopyを構成し、これを明らかな方法で $M$ のambient isotopy $F^{k}$ に拡張します。このとき、\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}),\]\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f|_{\partial N}\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]が成立してることを示します。まず、$F^{k}$ の構成から\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l}),\]は明らかです。ここで、$F_{1}^{k}$ の定める接写像 $TM\to TM$ の\[\left(\bigcup_{i\leq k - 1, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\right)\setminus \varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\subset M\]への制限が恒等的であることと $\hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k - 1, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})$ に注意すれば\[F_{1}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}\circ f\pitchfork \bigcup_{i\leq k, \, i\in \Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]が分かります。もう一方の境界に対する横断性も同様です。

あとは補題3.2.31の証明中に取った $z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ を原点の十分近くに取っておけば、任意の $l\in \N$ と $t\in I$ に対して $F_{t}^{k}\circ \hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l})\subset U_{l}$ が成立することを示します。集合 $A_{k} = \{l\in \N\mid U_{l}\cap U_{k}\neq \emptyset\}$ を取ります。$z\in \Int D_{\delta}^{m - l}$ をどう取っても $\supp F^{k}\subset U_{k}$ であることに注意すれば、この $A_{k}$ についてのみ考慮すればよいです。補題3.2.31の証明中の $\varPhi$ を $\varphi_{k}$ により引き戻すことで、$M$ の自己 $C^{\infty}$ 級同相写像の族 $H : M\times \Int D_{\delta}^{m - l}\to M$ を取ります。各 $l\in A_{k}$ に対して $\Int D_{\delta}^{m - l}$ における原点の近傍 $B_{l}$ を\[\{z\in \Int D_{\delta}^{m - l}\mid H_{z}(\hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l}))\subset U_{l}\}\]により定め実際に近傍となることは $H^{-1}(U_{l})$ における $\hat{F}_{1}^{k - 1}(K_{l})\times \{0\}^{m - l}$ の近傍を直積形となるように構成することで分かります。、正実数 $\delta' > 0$ を $\Int D_{\delta'}^{m - l}\subset \bigcap_{l\in A_{k}}B_{l}$ となるように取ったうえで $z\in \Int D_{\delta'}^{m - l}$ に取ればよいです。$A_{k}$ が有限集合であることには注意します。

系3.2.33

$M^{m}$ を可微分多様体、$N^{n}, L^{l}\subset M$ を境界に適合した部分多様体とする。このとき、あるambient isotopy $\hat{F} : M\times I\to M$ であって $\hat{F}_{1}(N)\pitchfork L$ かつ $\hat{F}_{1}(\partial N)\pitchfork L$ を満たすものが存在する。

証明

$N$ の定める包含写像に対して命題3.2.32を適用すればいいです。

補足3.2.34
(a) 命題3.2.32において、もちろん $f$ は $L$ と横断的に交わる写像にhomotopicであるし、$f$ が埋め込みならisotopicです。
(b) $f(N)\cap L\subset M$ の任意の開近傍に対し、ここで構成したambient isotopy $\hat{F}$ の台はそこに含まれるように小さくできます。というのは、最初に取った局所座標系 $\{\varphi_{k} : U_{k}\to V_{k}\}_{k\in\Lambda}$ に課した条件\[L = \bigcup_{k\in\Lambda}\varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]は\[f(N)\cap L\subset \bigcup_{k\in\Lambda}\varphi_{k}^{-1}(\{0\}^{m - l}\times \Int D_{1}^{l})\]で置き換えてもよいということと、$\hat{F}$ の台が $\bigcup_{k\in\Lambda}U_{k}$ に含まれることに注意すれば分かります。
(c) 主張で得られたambient isotopy $\hat{F}$ に対し、$f\pitchfork \hat{F}_{1}^{-1}(L)$ が成立します。つまり、主張では $f$ を動かして横断的になるようにしましたが、逆に $L$ を動かしてもよいということになります。

次はそのうち使います。

命題3.2.35

任意の $C^{\infty}$ 級ベクトル束 $\pi : E\to M$ に対し、零切断に横断的な切断が存在する。

証明

$2$ つの零切断 $($片方は写像として、もう片方は部分多様体として$)$ を考えれば良いです。命題3.2.32の証明においてambient isotopyたちをファイバーを保つように注意して構成すればあとは同じです。

以上です。

メモ

この辺のことがまとまったテキストが見つからなかったので結局全部自分で書いてしまいました。つまり、他人によるチェックが入ってないので(まあ、他のページもそうなんですが…)なんかとんでもないミスしてないかと不安なところです。

更新履歴

2021/05/16
主張の誤り、証明中の記号の誤りを修正。補足を追加。
2021/08/02
横断性に関する定理の証明の一部を補題として分離。一部表現を修正。
具体例として $\RP^{2}$ の $\R^{4}$ への埋め込みを追加。
2021/10/02
用語に関する説明・補足を整理。
2024/03/02
逆関数定理などの解析的な補題の参照先を変更。