ここでは多様体の位相的な性質について簡単にまとめます。分離公理については予備知識 2.3節を、可算公理については予備知識 2.4節を、パラコンパクト空間については予備知識 2.9節を参照。連続なhomotopyについては予備知識 2.10節を参照。
ここでは位相多様体を空でない局所Euclid空間にHausdorff性と第二可算性を課して定義していますが、そのとき次が成立します。
次が成立する。
(1) 明らかです。
(2) 第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間は $\sigma$ コンパクトでした。$($予備知識 命題2.6.28$)$
(3) 第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間はパラコンパクト空間でした。$($予備知識 命題2.9.11$)$
(4) パラコンパクトHausdorff空間の正規性 $($予備知識 命題2.9.7$)$ とUrysohnの距離化定理から従います。$($予備知識 定理2.8.43$)$
(5) 距離化可能ならば完全正規でした。$($予備知識 系2.8.12$)$
(6) 明らかです。
(7) 連結位相多様体の直和で表されることは明らかです。そして、第二可算性から連結成分は高々可算です。
位相多様体はパラコンパクトHausdorff空間ですが、開被覆に対する局所有限な開細分は座標近傍たちからなるように取ることができ、さらには形状の調整も可能です。簡単のため境界は考慮しませんが、あっても同じです。($\sigma$ コンパクトな局所コンパクトHausdorff空間のパラコンパクト性 $($予備知識 命題2.9.11$)$ の証明と同じ流れ。)
$M$ を $C^{r}$ 級多様体とする。$M$ の任意の開被覆 $\mathcal{U} = \{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対し、その座標近傍による局所有限な開細分が存在する。また、座標近傍はいずれも開球体に $C^{r}$ 級同相に取れる。
$\sigma$ コンパクト性と局所コンパクトHausdorff性からコンパクト集合の増大列 $\{L_{n}\}_{n\in\N}$ であって常に $L_{n}\subset \Int L_{n + 1}$ かつ $M = \bigcup_{n\in\N}L_{n}$ を満たすものが取れます。$L_{-2} = L_{-1} = \varnothing$ を付け加え、各 $n\in \N$ に対して $K_{n} := L_{n}\setminus \Int L_{n - 1}$, $W_{n} := \Int L_{n + 1}\setminus L_{n - 2}$ と定めます。各 $K_{n}$ の有限開被覆 $V_{n, 1}, \dots, V_{n, m_{n}}$ を次の条件を満たすように取ります。
族 $\{V_{n, i}\}_{n\in \N, 1\leq i\leq m_{n}}$ が局所有限な開細分です。実際、開細分であることは自明であり、局所有限性は $n, n'\in \N$ と $1\leq i\leq m_{n'}$ に対して $W_{n}\cap V_{n', i}\neq \varnothing$ となるのが $|n' - n|\leq 2$ の範囲に限られることから分かります。
第二可算公理を満たす位相空間、従って、位相多様体の局所有限な非空部分集合の族の濃度は高々可算です第二可算公理を満たす位相空間 $X$ とその局所有限な部分集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられたとします。$X$ の高々可算濃度の開基を固定し、各 $x\in X$ ごとに固定した開基に属す開近傍 $U_{x}$ であって高々有限個の $A_{\lambda}$ としか交わらないものを取り、$\mathcal{U} := \{U_{x}\mid x\in X\}$ と定めます。集合 $\mathcal{W} := \{(\lambda, U)\in \Lambda\times \mathcal{U}\mid A_{\lambda}\cap U\neq \varnothing\}$ は高々可算であり、また、各 $A_{\lambda}$ がいずれかの $U\in \mathcal{U}$ と交わることから単射 $\Lambda\to \mathcal{W}$ が取れます。つまり、$\Lambda$ は高々可算です。。
可微分多様体に対しては与えられた開被覆に従属する $1$ の分割を滑らかに取ることができます。簡単のため境界は考慮しませんが、あっても同じです。
$M$ を $C^{r}$ 級多様体とする。$M$ の任意の開被覆 $\mathcal{U} = \{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対し、その従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって各 $h_{\lambda}$ が $C^{r}$ 級であるものが取れる。
命題1.3.3の証明のように $K_{n}, W_{n}, V_{n, i}$ を取ります。各 $V_{n, i}$ に対して開球体との $C^{r}$ 級同相 $\varphi_{n, i} : V_{n, i}\to \Int D_{1}$ を固定します。ただし、原点を中心とする半径 $r$ の閉球体を $D_{r}$ で表すとします。各 $n\in \N$ に対して実数 $0 < r_{n} < 1$ を $\varphi_{n, 1}^{-1}(\Int D_{r_{n}}), \dots, \varphi_{n, m_{n}}^{-1}(\Int D_{r_{n}})$ が $K_{n}$ の開被覆となるように取ります。
$N$ で $V_{n, i}$ の定まる $n, i$ の組み合わせ全体を表すとして、各 $(n, i)\in N$ に対して $C^{r}$ 級関数 $k_{n, i} : M\to [0, 1]$ を $\supp k_{n, i}\subset V_{n, i}$ かつ $\varphi_{n, i}^{-1}(D_{r_{n}})\subset k_{n, i}^{-1}(1)$ に取ります。写像 $\psi : N\to \Lambda$ を常に $V_{n, i}\subset U_{\psi(n, i)}$ であるように取り、各 $\lambda\in \Lambda$ に対して写像 $h_{\lambda} : M\to [0, 1]$ を\[h_{\lambda}(x) := \dfrac{\sum_{(n, i)\in \psi^{-1}(\lambda)}k_{n, i}(x)}{\sum_{(n, i)\in N}k_{n, i}(x)}\]と定めれば、族 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が $\mathcal{U}$ に従属する $C^{r}$ 級の $1$ の分割です。
$1$ の分割を実解析的に取れるとは限りません。一致の定理より実解析関数は $1$ 点の近傍で常に $0$ であれば連結成分上で常に $0$ となるためです。
$M$ を $C^{r}$ 級多様体とする。$M$ の任意の開被覆 $\mathcal{U} = \{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対し、同じ添字集合を持つ $C^{r}$ 級関数の族 $\{h_{\lambda} : M\to [0, 1]\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって次の条件を満たすものが存在する。
命題1.3.5の証明のように $K_{n}, W_{n}, V_{n, i}, k_{n, i}, \psi$ を取り、さらに $C^{r}$ 級関数 $G : \R\to [0, 1]$ を $x\leq 0$ においては $G(x) = 0$ かつ $x\geq 1$ においては $G(x) = 1$ であるように取ります。各 $C^{r}$ 級関数 $h_{\lambda}$ を\[h_{\lambda}(x) := G\left(\sum_{(n, i)\in \psi^{-1}(\lambda)}k_{n, i}(x)\right)\]に取ればよいです。
パラコンパクト性の応用として、可微分多様体の間の連続写像を $C^{\infty}$ 級写像で近似できるという、Whitneyの近似定理を示します。
$X$ を位相空間、$(Y, d)$ を距離空間とし、連続写像 $f, g : X\to Y$ と正値連続関数 $\delta : X\to (0, +\infty)$ が与えられているとする。$g$ が $f$ の $\delta$ 近似であるとは全ての $x\in X$ に対して\[d(g(x), f(x)) < \delta(x)\]が成立することと定める。
$M^{m}, N^{n}$ を $($境界を持ちうる$)$ 可微分級多様体、$f : N\to M$ を連続写像とし、$N$ の閉集合 $B$ への制限 $f|_{B} : B\to M$ は $C^{\infty}$ 級写像であるとする。また、$M$ には距離 $d$ が与えられ、さらに正値連続関数 $\delta : N\to (0, +\infty)$ が与えられているとする。次の条件を満たす $C^{\infty}$ 級写像 $g : N\to M$ と $f$ を $g$ につなぐhomotopy $H : N\times I\to M$ が存在する。
さらに $B = \varnothing$ かつ $f(\partial N)\subset \partial M$ であれば $g(\partial N)\subset \partial M$ かつ $H(\partial N\times I)\subset \partial M$ に取れる$B = \varnothing$ の仮定は補足1.3.12の反例があるので外せません。ただ、$B\subset \Int N$ もしくは $B\subset \partial N$ まで緩めることは容易に可能です。。
いくつか補題を用意します。まず、局所的には滑らかな写像で近似できることをEuclid空間および上半空間の間の写像について確認します。ただし、$D_{r}^{n}$ で $\R^{n}$ の原点を中心とする半径 $r$ の閉球体を、$O_{r}^{n}$ で $\R^{n}$ の原点を中心とする半径 $r$ の開球体を表すとします。
連続写像 $f : \R^{n}\to \R^{m}$ と正値連続関数 $\delta : \R^{n}\to (0, +\infty)$ が与えられたとする。また、$\R^{m}$ は標準的とは限らない距離関数 $d$ による距離空間とみなす。
(1) 原点から十分遠くにおける $f$ の値を適当に取り換えて示してもよいことは明らかであり、追加で $f$ はコンパクト台を持つとしておきます。コンパクト台を持つ非負値 $C^{\infty}$ 級関数 $h : \R^{n}\to [0, +\infty)$ であって $\int_{\R^{n}}h(x)dx = 1$ を満たすものを取り、正実数 $r > 0$ に対して $C^{\infty}$ 級関数 $h_{r} : \R^{n}\to [0, +\infty)$ を $h_{r}(x) := r^{-n}h_{r}(r^{-1}x)$ と定め、畳み込み積分 $f_{r} := h_{r} * f$ を取ります。$C^{\infty}$ 級関数 $\xi : \R^{n}\to [0, 1]$ を $D_{1}^{n}\subset \xi^{-1}(1)$ かつ $\supp\xi\subset O_{2}^{n}$ に取り、正実数 $r > 0$ に対して連続写像 $g_{r} : \R^{n}\to \R^{m}$ を\[g_{r}(x) := (1 - \xi(x))f(x) + \xi(x)f_{r}(x)\]と定め、連続写像 $H_{r} : \R^{n}\times I\to \R^{m}$ を\[H_{r}(x, t) := (1 - t\xi(x))f(x) + t\xi(x)f_{r}(x)\]と定めます。$g_{r}$ は $U\cap O_{1}^{r}$ 上で $C^{\infty}$ 級であり、$H_{r}$ は $f$ を $g_{r}$ につなぐhomotopyであり、さらに台 $\supp H_{r}$ は $D^{2}$ に含まれます。
$\underset{r\to +0}{\lim}\|f_{r} - f\|_{\infty} = 0$ であることから十分小さい $r$ に対して $g_{r}$ および各 $H_{r}|_{\R^{n}\times \{t\}}$ は $f$ の $\delta$ 近似になるので、それを $g, H$ とすればよいです。
(2) $A$ の開近傍 $V := \bigcup_{x\in A}V_{x}$ の開被覆 $\{V_{x}\}_{x\in A}$ に従属する滑らかな $1$ の分割 $\{h_{x} : V\to [0, 1]\}_{x\in A}$ を取り、$C^{\infty}$ 級写像 $g' : V\to \R^{m}$ を $g' := \sum_{x\in A}h_{x}g_{x}$ と定めます。これは $g'|_{A} = f|_{A}$ を満たします。ここで、$C^{\infty}$ 級写像 $\eta : \R^{n}\to [0, 1]$ であって $A\cap D_{1}^{n}\subset \Int\eta^{-1}(1)$ かつ $\supp\eta\subset V\cap O_{2}^{n}$ を満たすものに対して連続写像 $g_{\eta} : \R^{n}\to \R^{m}$ を\[g_{\eta}(x) := (1 - \eta(x))f(x) + \eta(x)g'(x)\]と定め、連続写像 $H_{\eta} : \R^{n}\times I\to \R^{m}$ を\[H_{\eta}(x, t) := (1 - t\eta(x))f(x) + t\eta(x)g'(x)\]と定めます。$g_{\eta}$ は $g_{\eta}|_{A} = f|_{A}$ を満たし、$U\cup \Int \eta^{-1}(1)$ 上で $C^{\infty}$ 級です。また、$H_{\eta}$ は $f$ を $g_{\eta}$ につなぐ $A$ を保つhomotopyであり、台 $\supp H_{\eta}$ は $D_{2}^{n}$ に含まれます。
$\supp\eta$ を十分小さくなるように $\eta$ を取れば $g_{\eta}$ および各 $H_{\eta}|_{\R^{n}\times \{t\}}$ は $f$ の $\delta$ 近似になるので、それを $g, H$ とすればよいです。
連続写像 $f : \Rp^{n}\to \Rp^{m}$ と正値連続関数 $\delta : \Rp^{n}\to (0, +\infty)$ が与えられたとする。また、$\Rp^{m}$ は標準的とは限らない距離関数 $d$ による距離空間とみなす。
(1) $f$ を $\R^{n}$ 上で定義された $($コンパクト台を持つ$)$ 連続写像に任意に拡張してから補題1.3.10の(1)の証明を繰り返せばよいです連続な拡張を取るのは畳み込み積分 $f_{r} := h_{r} * f$ が定義出来て $\underset{r\to +0}{\lim}\|f_{r} - f\|_{\infty} = 0$ を満たすようにするため。$h_{r}$ が非負値を取ることから $f_{r}$ が $\Rp^{m}$ に値を取ることにも注意。。
(2) 補題1.3.10の(2)と同じです。
(3) 成分ごとに考えればよいので $m = 1$ とします。$f$ を $D_{1}^{n - 1}\times \{0\}\subset \Rp^{n}$ の十分小さな近傍上で $0$ を値を取るよう最初に近似してから $\R^{n}$ 上の連続関数に自明に拡張すればあとは同じです。(必要に応じて $\supp \xi$ が小さくなるように気をつける必要はある。)
補題1.3.11の(2)については $f(\partial \Rp^{n})\subset \partial \Rp^{m}$ だったからといって $g, H$ を $g(\partial \Rp^{n})\subset \Rp^{m}$ かつ $H(\partial \Rp^{n}\times I)\subset \Rp^{m}$ に取れるとは限りません。例えば、連続写像 $f : \Rp^{2}\to [0, +\infty)$ を\[f(x_{1}, x_{2}) := \left\{\begin{array}{ll}x_{1}^{2} & (x_{2}\geq x_{1}^{2}) \\x_{2} & (x_{2}\leq x_{1}^{2})\end{array}\right.\]と定め、$A := \{(x_{1}, x_{2})\in \Rp^{2}\mid x_{2}\geq x_{1}^{2}\}$ とすれば反例になります。
実際、$g|_{A} = f|_{A}$ かつ $g(\partial \Rp^{2})\subset \partial \Rp^{1} = \{0\}$ を満たす $C^{\infty}$ 級写像が取れたとすると、任意の $a_{1}\in \R$ に対してある $0 < a_{2} < a_{1}^{2}$ が存在して $\partial_{x_{2}}g(a_{1}, a_{2}) = 1$ となりますが $($平均値の定理$)$、$\partial_{x_{2}}g(0, 0) = 0$ なので $\partial_{x_{2}}g$ の不連性に矛盾します。
続いて、技術的な都合で欲しい補題。
$X$ を正規空間、$(Y, d)$ を距離空間とし、連続写像 $f : X\to Y$ が与えられたとする。そして、$X$ の局所有限なコンパクト集合族 $\mathcal{K} = \{K_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ と各 $\lambda\in \Lambda$ ごと $f(K_{\lambda})\subset Y$ の開近傍 $V_{\lambda}$ が与えられたとする。ある正値連続関数 $\delta : X\to (0, +\infty)$ が存在し、$f$ の任意の $\delta$ 近似 $g : X\to Y$ と $\lambda\in \Lambda$ に対して必ず $g(K_{\lambda})\subset V_{\lambda}$ を満たす。
$\mathcal{K}$ が $X$ の被覆になっている場合に示します。そうでない場合は閉集合 $X' := \bigcup_{\lambda\in\Lambda}K_{\lambda}$ の被覆と思って主張のような $\delta'$ を取り、Tietzeの拡張定理 $($予備知識 定理2.3.30$)$ を用いて任意に $X$ 上定義された正値連続関数 $\delta$ に拡張すればよいです。
まず、$X$ の局所有限な開被覆 $\mathcal{U} = \{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって各 $U_{\lambda}$ が $K_{\lambda}$ の開近傍になるものを構成します。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $K_{\lambda}$ と交わる全ての $K_{\mu}$ たちの和集合を $A_{\lambda}$ とし、$K_{\lambda}$ と交わらない全ての $K_{\mu}$ たちの和集合を $B_{\lambda}$ とします。$\mathcal{K}$ の局所有限性と $K_{\lambda}$ のコンパクト性から各 $A_{\lambda}$ は高々有限個の $K_{\mu}$ たちの和集合であり、また、各 $B_{\lambda}$ は局所有限な閉集合族の和集合なので閉集合であり、$K_{\lambda}$ とは交わりません。これと $B_{\lambda}^{c}\subset A_{\lambda}$ から $A_{\lambda}$ は $K_{\lambda}$ の近傍です。あとは被覆 $\mathcal{A} := \{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の局所有限性を示せば $\mathcal{U} := \{U_{\lambda} := \Int A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が求めていた開被覆と分かります。
そのためには $\lambda\in\Lambda$ を固定し、$A_{\lambda}$ の開近傍であって高々有限個の $A_{\mu}$ たちとしか交わらないものを構成すればよいです。$M_{0} := \{\lambda\}$ とし、以降、$M_{k}\subset \Lambda$ が定まったとして $M_{k + 1}$ をある $\mu\in M_{k}$ が存在して $K_{\nu}\cap K_{\mu}\neq \varnothing$ となる $\nu\in \Lambda$ 全体として定めていきます。各 $M_{k}$ は有限集合です。このとき、$M_{3}$ に属さない $\mu\in \Lambda$ に対して $A_{\mu}\cap A_{\lambda} = \varnothing$ です。そして、$M_{3}$ に属さない $\mu\in \Lambda$ にわたる $A_{\mu}$ たちの和集合 $C_{\lambda}$ は $A_{\lambda}$ とは交わらず、局所有限な閉集合族である $\mathcal{K}$ の部分族の和集合なので閉集合です。よって、$C_{\lambda}^{c}$ が $\mu\in M_{3}$ に対する $A_{\mu}$ としか交わらない $A_{\lambda}$ の開近傍です。
主張の連続関数 $\delta$ を構成します。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して正実数 $\delta_{\lambda} := \min\{d(f(K_{\lambda}), V_{\lambda}^{c}), 1\}$ を取り$f(K_{\lambda})$ のコンパクト性より $d(f(K_{\lambda}), V_{\lambda}^{c}) > 0$ です。、Urysohnの補題 $($予備知識 定理2.3.26$)$ から正値連続関数 $h_{\lambda} : X\to (0, +\infty)$ を $h_{\lambda}|_{K_{\lambda}}\equiv \delta_{\lambda}$ かつ $h_{\lambda}|_{U_{\lambda}^{c}}\equiv 1$ であるように取ります。関数 $\delta$ を\[\delta(x) := \inf_{\lambda\in\Lambda}h_{\lambda}(x)\]と定めればよいです。実際、$\mathcal{U}$ の局所有限性から $X$ の各点の十分小さな開近傍上では $1$ 未満の値を取りうる $h_{\lambda}$ は高々有限個なので $\delta$ は連続写像として定まっており、残りの条件も容易に確かめられます。
では、Whitneyの近似定理 $($定理1.3.9$)$ を示します。
境界を持たない場合に示します。境界があっても補題1.3.11を使えば同じです。
以下を示せばよいです。
(step 1) $M$ の座標近傍系 $\{(U_{\alpha}, \varphi_{\alpha})_{\alpha\in A}\}$ を各 $\alpha\in A$ に対して $\varphi_{\alpha}(U_{\alpha}) = \R^{m}$ を満たすもので固定し、$N$ の座標近傍の族 $\{(V_{k}, \psi_{k})\}_{k\in \Np}$ と写像 $s : \Np\to A$ を次の条件を満たすように取ります。
ここで、必要であれば補題1.3.13を用いて $\delta$ を小さく取り換え、$f$ の $\delta$ 近似 $f'$ が必ず各 $k\in \Np$ に対して $f(\overline{V_{k}})\subset U_{s(k)}$ を満たすようにします。
以下のように連続写像の列 $\{f_{k} : N\to M\}_{k\in\N}$ と $\{H_{k} : N\times I\to M\}_{k\in\N}$ を取ります。
実際、$f_{k}, H_{k - 1}$ まで構成できているとき、同一視 $\psi_{k + 1} : V_{k + 1}\cong \R^{n}$, $\varphi_{s(k + 1)} : U_{s(k + 1)}\cong \R^{m}$ のもとで補題1.3.10を適用すれば $f_{k + 1}, H_{k}$ が構成できます。
ここで得られたhomotopyの列 $H_{0}, H_{1}, \dots$ を用いて連続写像 $H : N\times [0, 1)\to M$ を\[H(x, t) := H_{k}(x, t) \ \left(\sum_{0\leq l < k}2^{-(l + 1)}\leq t\leq \sum_{0\leq l\leq k}2^{-(l + 1)}\right)\]と定めます。これは一意な連続拡張 $H : N\times I\to M$ を持ちます$\{V_{k}\}_{k\in\Np}$ の局所有限性と $\supp H_{k}\subset V_{k + 1}$ から $\{\supp H_{k}\}_{k\in\N}$ も局所有限であり、各 $x\in N$ ごとそのある開近傍があって十分 $1$ に近い $t\in [0, 1)$ に対して $H|_{V\times \{t\}}$ は一定です。。$g := H_{N\times \{1\}}$ が目的の連続写像です。
(step 2) (step 1)の証明を少し修正すればよいので、修正点のみ書きます。まず、$N$ の座標近傍の族 $\{(V_{k}, \psi_{k})\}_{k\in \Np}$ と写像 $s : \Np\to A$ を次の条件を満たすように取ります。
あとは、以下のように連続写像の列 $\{f_{k} : N\to M\}_{k\in\N}$ と $\{H_{k} : N\times I\to M\}_{k\in\N}$ を取ればよいです。
写像のsmoothingに関連して、滑らかなhomotopyについて少し書いておきます。
$M, N$ を可微分多様体、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$C^{\infty}$ 級写像 $F : N\times I\to M$ であって $F|_{N\times \{0\}} = f_{0}$ かつ $F|_{N\times \{1\}} = f_{1}$ を満たすものを $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopyという。また、$f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopyが存在するとき、$f_{0}$ と $f_{1}$ は滑らかにhomotopicであるという。滑らかなhomotopy $F$ に対して部分集合\[\supp F := \overline{\{x\in N\mid {}^{\exists}s, t\in I \text{ s.t. } F(x, s) \neq F(x, t)\}}\]を台 $($support$)$ と呼ぶ。(連続なhomotopyの台と全く同じ。)
これが $C^{\infty}(N, M)$ の同値関係を定めることは次から分かります。
$M, N$ を可微分多様体とし、$f_{0}, f_{1} : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。このとき、次は同値であるということで、滑らかにhomotopicであることの定義をどれで置き換えてもよいのですが、それぞれの特徴として、(1)は具体的に滑らかなhomotopyを構成するときに端点での様子を気にしなくていい、(2)は滑らかなhomotopyどうしのつなぎ合わせが容易、(3)と(4)は $N$ が境界持つ場合にも角を考慮する必要がない、という特徴があります。。
(2), (3), (4)の同値性と(2) ⇒ (1)は自明なので(1) ⇒ (2)のみ示します。
(1) ⇒ (2) $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐ滑らかなhomotopy $F$ を一つ固定します。$C^{\infty}$ 級写像 $h : I\to I$ であって次の条件を満たすものを取ります。
$C^{\infty}$ 級写像 $G : N\times I\to M$ を\[G := F\circ (\Id_{N}\times h) : (p, t)\mapsto F(p, h(t))\]により定めれば $G_{t} = F_{h(t)}$ であり、これが(2)について欲しかった写像になります。
この滑らかにhomotopicという同値関係による $C^{\infty}(N, M)$ の商集合を滑らかなhomotopy集合といい $[N, M]_{\infty}$ で表すとします。通常の連続なhomotopy集合 $[N, M]$ との関係として次があります。
$N, M$ を可微分多様体とする。
以上です。
特になし。
参考文献
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