ここでは、基本的に[田村 微分位相幾何学]の構成に沿ってはめ込み定理、埋め込み定理の解説をします。
はめ込みと埋め込みについての興味深い問題の一つとして、指定した可微分多様体 $M$ がどこまで低い次元のEuclid空間にはめ込めるか、もしくは埋め込めるかというのものがあります。例えば $n$ 次元球面 $S^{n}$ は明らかに $\R^{n + 1}$ に埋め込めますが、$n \ (\geq 2)$ 次元実射影空間 $\RP^{n}$ は $\R^{n + 1}$ に埋め込めないことが知られています。
まずはこの問題についての簡単に分かる結果として、任意の可微分閉多様体がある有限次元Euclid空間に埋め込めることを示したいと思います。ひとまずはこのことを知っておけば十分でしょう。
$M^{n}$ を可微分閉多様体とする。このとき、ある正整数 $N \geq n$ が存在して $M$ の $\R^{N}$ への埋め込みが存在する。
次のような $M$ の座標近傍系 $\{(U_{k}, \varphi_{k})\}_{1\leq k \leq r}$ を取ります。
また、次の条件を満たす $\R^{n}$ 上の $C^{\infty}$ 級関数 $h : \R^{n}\to \R$ を取ります。
そして、各 $k$ に対して写像 $f_{k} : M\to \R^{n}\times \R$ を\[f_{k} : p\mapsto\left\{\begin{array}{ll}(h(\varphi_{k}(p))\varphi_{k}(p), h(\varphi_{k}(p))) & (p\in U_{k}) \\(0, 0) & (p\in M\setminus U_{k})\end{array}\right.\]より定めます。このとき、次が成立していることに注意します。
そのうえで写像 $F : M\to \R^{(n + 1)r}$ を\[F : p\mapsto (f_{1}(p), \dots, f_{r}(p))\]より定めます。この $F$ が単射なはめ込みであることを示せば命題3.2.13により埋め込みであることが分かります。
まず、$F$ が単射であることを示します。$p, q\in M$ に対して $F(p) = F(q)$ であったとします。$p\in \varphi_{k}^{-1}(D_{1})$ となる $k$ を取れば $F$ を構成する写像 $f_{k}$ の第 $n + 1$ 成分 $($$F$ の第 $(n + 1)k$ 成分$)$ が等しいことより $q\in \varphi_{k}^{-1}(D_{1})$ です。あとは、$f_{k}|_{\varphi_{k}^{-1}(D_{1})}$ の単射性から $p = q$ が分かり、よって $F$ は単射です。
次に、$F$ がはめ込みであることを示します。$p\in M$ とします。$p\in \varphi_{k}^{-1}(\Int D_{1})$ となる $k$ を取れば $\varphi_{k}^{-1}(\Int D_{1})$ 上で $f_{k} = (\varphi_{k}, \cst_{1})$ であることから $(f_{k})_{*} : T_{p}M\to T_{f_{k}(p)}\R^{n + 1}$ は単射であり、よって、$F_{*} : T_{p}M\to T_{F(p)}\R^{(n + 1)r}$ も単射です。$p\in M$ は任意なので $F$ ははめ込みです。
以下では命題3.3.1の結果の改善として、Whitneyによるはめ込み定理 $($定理3.3.4$)$ と埋め込み定理 $($定理3.3.5$)$ を証明します。これは、可微分多様体の間の $C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to M$ が次元に関する適当な条件を満たしていればはめ込みや埋め込みにhomotopicになるというもので、証明は局所的な補正を繰り返すことによりはめ込みや埋め込みとなる部分を徐々に拡大していくことによります。
まず、はめ込み定理のための補題を示します。ただし、$M(m, n; s; \R)$ により階数 $s$ の $\R$ 係数 $m$ 行 $n$ 列行列全体からなる集合を表すとします。
$0\leq s \leq \min\{m, n\}$ に対して $M(m, n; s; \R)$ は $M(m, n; \R)$ の $s(m + n - s)$ 次元部分多様体である。
各 $A\in M(m, n; s; \R)$ に対し、その $M(m, n; \R)$ における開近傍において $M(m, n; s; \R)$ が部分多様体となっていることを示せばよいですが、行や列の交換による $M(m, n; \R)\cong\R^{mn}$ の変換が $C^{\infty}$ 級自己同相写像であることに注意して、最初から $A$ の最初の $s$ 行 $s$ 列からなる行列が正則行列であるとしてよいです。$M(m, s; \R)$ において最初の $s$ 行 $s$ 列からなる行列が正則行列となるもの全体からなる開集合を $V$ として、$A$ の近傍を $U = V\times M(m, n - s; \R)$ により定めますつまり、$M(m, n; \R)$ において最初の $s$ 行 $s$ 列からなる行列が正則行列となるもの全体からなる集合を最初の $s$ 列と残りの $n - s$ 列に分けて考えるということ。。$C^{\infty}$ 級写像\[F : V\times M(s, n - s; \R)\to U = V\times M(m, n - s; \R)\subset M(m, n; \R)\]を\[F : (P, Q)\mapsto \left[\begin{array}{cc}P & PQ\end{array}\right]\]により定め、次のことを示します。
注意として、$Q\in M(m, n - s; \R)$ の第 $k$ 列目は $F(P, Q)$ の第 $s + k$ 列目のみに寄与し、逆に、$F(P, Q)$ の第 $s + k$ 列目は $Q$ の第 $k$ 列目の各成分を係数とする $P\in V$ の各列の線型結合になっています。
(i) 最初の $s$ 列が線型独立な $m$ 行 $n$ 列の行列に対し、その行列の階数が $s$ であることと $s + 1$ 列目以降の各列が最初の $s$ 列の線型結合であることと同値なのでそうです。
(ii) 行列値写像 $R : V\to GL(m; \R)$ を\[R : P\mapsto \left[\begin{array}{cc}P' & O_{s, m - s} \\P'' & I_{m - s}\end{array}\right],\]ただし $P', P''$ はそれぞれ $P$ の上 $s$ 行と下 $m - s$ 行からなる行列、により定めます。このとき $R$ の誘導する写像\[\tilde{R} : V\times M(m, n - s; \R)\to V\times M(m, n - s; \R) : (P, S)\mapsto \left[\begin{array}{cc}P & R(P)^{-1}S\end{array}\right]\]は $C^{\infty}$ 級同相写像であり、$\tilde{R}\circ F$ は\[\tilde{R}\circ F : (P, Q)\mapsto \left[\begin{array}{cc}P & R(P)^{-1}PQ \end{array}\right]= \left[\begin{array}{cc}P & \left[\begin{array}{c}I_{s}\\O_{m - s, s}\end{array}\right]Q\end{array}\right]= \left[\begin{array}{cc}P' & Q \\P'' & O_{m - s, n - s}\end{array}\right]\]と表されます。よって、$F$ は埋め込みです。
$C^{\infty}$ 級写像 $f : \R^{n}\to \R^{m}$ に対し、$m \geq 2n$ ならばある $A\in M(m, n; \R)$ が存在して\[f + A : x\mapsto f(x) + Ax\]ははめ込みとなる。また、$A$ は任意に零行列の近くに取れる。
$0 \leq s \leq n - 1$ に対して $C^{\infty}$ 級写像 $F_{s} : \R^{n}\times M(m, n; s; \R)\to M(m, n; \R)$ を\[F_{s} : (x, B)\mapsto B - J_{f}(x)\]により定めます。このとき、$A\in M(m, n)$ に対して $A\in\Img F_{s}$ であることとある $x\in \R^{n}$ が存在して $J_{f}(x) + A = B$ の階数が $s$ になることとは同値なので、$A\in M(m, n)\setminus \Img F_{s}$ とすれば任意の $x\in \R^{n}$ に対して\[J_{f}(x) + A\notin M(m, n; s; \R)\]です。いま、$m \geq 2n$ により各 $0 \leq s\leq n - 1$ に対して\begin{eqnarray*}\dim (\R^{n}\times M(m, n; s; \R)) & = & n + s(m + n - s)\\& < & n + (n - 1)(m + 1) \\& = & mn + 2n - m - 1 < mn\end{eqnarray*}が成立し、よって、Sardの定理より任意に零行列の近くに行列\[A\in M(m, n; \R)\setminus\left(\bigcup_{0\leq s\leq n - 1}\Img F_{s}\right)\]が存在します。この $A$ について全ての $x\in \R^{n}$ で\[J_{f}(x) + A\in M(m, n; \R)\setminus\left(\bigcup_{0\leq s\leq n - 1}M(m, n; s; \R)\right) = M(m, n; n; \R)\]が満たされ、つまり、$f + A$ ははめ込みです。
で、はめ込み定理の証明。
$M^{m}, N^{n}$ を境界を持たない可微分多様体、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$m \geq 2n$ ならば $f$ に滑らかにhomotopicなはめ込み $g : N\to M$ が存在する。
$N$ の座標近傍による局所有限開被覆 $\{(U_{k}, \varphi_{k})\}_{k\in\N_{+}}$ と $M$ の座標近傍による開被覆 $\{(W_{k}, \psi_{k})\}_{k\in\N_{+}}$ であって次の条件を満たすものを取ります。
また、台関数 $h : \Int D_{3, \R^{n}}\to [0, 1]$ を $h|_{D_{1, \R^{n}}} \equiv 1$ かつ $h|_{\Int D_{3, \R^{n}}\setminus \Int D_{2, \R^{n}}} \equiv 0$ を満たすように取っておきます。以下、次の条件を満たす $C^{\infty}$ 級関数列 $f_{0}, f_{1}, \dots$ を構成します。
帰納的に構成するため、$f_{k - 1}$ まで構成できているとして $f_{k}$ を構成します。簡単のために $\Int D_{3, \R^{n}} = U_{k}\subset N$, $\R^{m} = W_{k}\subset M$ と見なすことにし、また、$f_{k - 1} : \Int D_{3, \R^{n}}\to \R^{m}$ のJacobi行列を $J_{k - 1}$ と書くことにします。$A\in M(m, n; \R^{n})$ に対して $C^{\infty}$ 級写像 $f_{k, A} : N\to M$ を\[f_{k, A}(p) = \left\{\begin{array}{ll}f_{k - 1}(p) + h(p)\cdot Ap & (p\in \Int D_{3, \R^{n}}) \\f_{k - 1}(p) & (p\in M\setminus \Int D_{3, \R^{n}})\end{array}\right.\]により定めつまり、$U_{k} = \Int D_{3, \R^{n}}$ 上での取り換え。、適切な $A$ を選んで $f_{k}$ としたいです。まず、この局所的な取り換えにより $K_{k - 1}$ の各点は $f_{k}$ の正則点であって欲しいので\[R = \min_{p\in D_{2, \R^{n}}\cap K_{k - 1}, \, v\in S^{n - 1}}\|J_{k - 1}(p)v\|, \ H = \sup_{p\in D_{2, \R^{n}}}\|J_{h}(p)\|\]とおいて\[(1 + H)\|A\| < R\]となるものを取ることにしますそうすれば、写像 $p\mapsto h(p)\cdot Ap$ の定めるJacobi行列 $J(p) = J_{h}(p)\cdot A + h(p)A$ のノルムが $(1 + H)\|A\|$ により上から評価されます。。また、$D_{1, \R^{n}}$ の各点において $f_{k}$ が正則点となって欲しいので $D_{1, \R^{n}}$ 上 $f_{k, A}$ のJacobi行列 $J_{f_{k, A}} = J_{k- 1} + A$ の階数が $n$ となるものを取りたいです。いま、これらの条件を満たす $A$ の存在は上の補題3.3.3により保証されるので、そのような $A$ を取って $f_{k} = f_{k, A}$ とすれば条件を満たします。これにより条件を満たす $C^{\infty}$ 級写像の列 $f_{0}, f_{1}, \dots$ が得られました。
開被覆 $\{U_{k}\}_{k\in\N_{+}}$ の局所有限性から $C^{\infty}$ 級写像 $g = \lim_{k\to \infty}f_{k}$ が定まり、$\bigcup_{k\in\N_{+}}\varphi_{k}^{-1}(D_{1, \R^{n}}) = N$ の各点が正則点となるのでこの $g$ ははめ込みです。
続いて、埋め込み定理の証明。
$M^{m}, N^{n}$ を境界を持たない可微分多様体、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$m \geq 2n + 1$ ならば $f$ に滑らかにhomotopicな埋め込み $g : N\to M$ が存在する。
定理3.3.4より $f$ ははめ込みとしてよいです。以下ではまず単射なはめ込みにhomotopicであることを示し、その後に局所平坦性を担保するための補正を行うことで埋め込みにhomotopicであることを示します。
$N$ の $n$ 次元コンパクト部分多様体例えば閉球体。による局所有限可算被覆 $\{K_{k}\}_{k\in\N_{+}}$, $\{K'_{k}\}_{k\in\N_{+}}$ を
となるように取ります。また、$W_{k} = \bigcup_{i = 1}^{k}K'_{i}$ とおきます。はめ込みの列 $f_{0} = f, f_{1}, \dots$ を次の条件を満たすように構成します。
もしそのようにはめ込みの列が構成されれば、その極限としてもとの $f$ にhomotopicな単射はめ込みが得られます。
$f_{k}$ まで得られているとして $f_{k + 1}$ を構成します。まず、有限個の $M$ の局所座標系 $\{\varphi_{i} : U_{i}\to V_{i}\}_{i\in\Lambda}$ を
を満たすように取ります$f_{k}|_{K_{k + 1}}$ が埋め込みであることに注意。。補題3.2.31による局所的な補正を繰り返し行うことで、あるambient isotopy $F : M\times I\to M$ であって\[f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k + 1}}\cap F_{1}^{-1}\left(\bigcup_{i\in\Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right) = \emptyset\]かつ\[\{p\in K_{k + 1}\mid f_{k}(p) \neq F_{1}^{-1}\circ f_{k}(p)\}\subset f_{k}^{-1}\left(\bigcup_{i\in\Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right)\cap K_{k + 1}\subset \Int K_{k + 1}\]を満たすものが取れますもう少し気持ちを書いておきます。ここでやっていることは、まず、$f_{k}$ を $f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k + 1}}$ と $f_{k}|_{K_{k + 1}}$ の $2$ つの部分 $($後者は部分多様体になっている$)$ に分け、これらが $f_{k}(K'_{k + 1})$ において交叉しないように $f_{k}|_{K_{k + }}$ 側を補正するというものです。各 $i\in \Lambda$ に対する補正として開球体 $\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n}$ に対応する部分のみを動かしかつこの開球体において $f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k + 1}}$ と交わらないようなものが取れるので、そのような補正を有限回繰り返したのちにこれらの開球体の和集合 $($$f(K'_{k + 1})$ を含みます$)$ 上では $f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k + 1}}$ とは交わらず $($ここで満たすといった条件の上側$)$ かつ補正により動かされた部分が $($最大でも$)$ 開球体の和集合に対応する部分になる $($ここで満たすといった条件の下側$)$ ようにできます。$1$ つ注意として、ここでは $f_{k}|_{K_{k}}$ 側を動かすといってきましたが、補題3.2.31の主張に従えば $f_{k}|_{K_{k}}$ を部分多様体として $f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k}}$ を補正し、最後に補足3.2.34の注意を用いて $f_{k}|_{K_{k}}$ を動かしたことにしています $($$F_{1}^{-1}$ と書いたのはそのため$)$。。そこで、$f_{k + 1}$ を\[f_{k + 1}(p) = \left\{\begin{array}{ll}F_{1}^{-1}\circ f_{k}(p)& (p\in K_{k + 1})\\f_{k}(p) & (p\in N\setminus K_{k + 1})\end{array}\right.\]により定めればよいです。いずれの条件も容易に確かめられます。また、\[\hat{F}(p, t) = \left\{\begin{array}{ll}F_{t}^{-1}\circ f_{k}(p)& (p\in K_{k + 1})\\f_{k}(p) & (p\in N\setminus K_{k + 1})\end{array}\right.\]が $f_{k}$ を $f_{k + 1}$ につなぐ滑らかなhomotopyであって台が $K_{k + 1}$ に含まれるようなものになっています。
以上で $f$ は単射はめ込みにhomotopicであることが分かったので、以下最初から $f$ が単射なはめ込みであったとして各点での局所平坦性を確保するための補正を行います。$N$ の $n$ 次元コンパクト部分多様体の列 $K_{1}, K_{2}, \dots$ であって\[K_{k}\subset \Int K_{k + 1}, \ \bigcup_{k\in \N_{+}} K_{k} = N\]を満たすものを取ります。以下の条件を満たすように単射なはめ込みの列 $f_{0}, f_{1}, \dots$ と $M$ のコンパクト集合の列 $V_{1}, V_{2}, \dots$ を構成しますアイデアとしては、$K_{k}$ の像の各点で局所平坦となるようにとるよう順番に補正 $($余計な部分の追い出し$)$ していくわけですが、後々の補正の影響でそれ以前に補正した部分の局所平坦性が崩れないよう、$K_{k}$ の像を閉近傍 $V_{k}$ で囲って再び余計な部分が入り込まないようにするというものです。。
構成に入る前に、もしこのようなものが構成されたときに極限として埋め込み $g$ が定まることを示しておきます。まず、$g$ が定まり単射はめ込みであること、$f$ に滑らかにhomotopicであることは(i), (ii)と各 $f_{k}$ が単射であることから分かるので、あとは $g(N)$ の各点での局所平坦性を示せばよいです。まず、任意の $l\in \N_{+}$ に対して(ii)より $g|_{K_{l + 1}} = f_{l}|_{K_{l + 1}}$ であり、(vi)と合わせて\[g(K_{l + 1}\setminus \Int K_{l})\cap V_{l - 1} = f_{l}(K_{l + 1}\setminus \Int K_{l})\cap V_{l - 1} = \emptyset\]となります。$k$ を固定していたとして、(iv)より任意の $l \geq k$ に対して\[g(K_{l + 1}\setminus \Int K_{l})\cap V_{k - 1}\subset g(K_{l + 1}\setminus \Int K_{l})\cap V_{l - 1} = \emptyset\]が成立するので $g(N\setminus \Int K_{k})\cap V_{k - 1} = \emptyset$ です。これにより $g(N)\cap \Int V_{k - 1} = g(\Int K_{k})\cap \Int V_{k - 1}$ であり、(v)と $g|_{K_{k}} = f_{k}|_{K_{k}}$ が埋め込みであることを合わせれて $g(N)$ が $g(K_{k - 1})$ の各点において局所平坦であることが従います。よって、$k$ が任意なので $g(N)$ の各点での局所平坦性が分かり、$g$ は埋め込みです。
では、$f_{k}$ と $V_{k - 1}$ が得られているとして $f_{k + 1}$ と $V_{k}$ を構成します。$M$ の座標近傍による族 $\{(U_{i}, \varphi_{i})\}_{1\leq i\leq a}$ を次のように取ります(vi)より $f_{k}(K_{k + 1}\setminus \Int K_{k})\subset M\setminus V_{k - 1}$ であることに注意。。
また、isotopy $\varPhi : (\Int D_{3}^{m - n}\setminus \{0\})\times \Int D_{3}^{n}\times I\to (\Int D_{3}^{m - n}\setminus \{0\})\times \Int D_{3}^{n}$ を
を満たすように定めます。各 $1\leq i\leq a$ に対し、$\varphi_{i}$ による $U_{i}\setminus f_{k}(K_{k + 2})$ と $(\Int D_{3}^{m - n}\setminus \{0\})\times \Int D_{3}^{n}$ の同一視のもとでの $\varPhi$ のisotopy\[\varPsi^{i} : (M\setminus f_{k}(K_{k + 2}))\times I\to M\setminus f_{k}(K_{k + 2})\]への拡張を取り、$C^{\infty}$ 級写像 $f_{k + 1, i} : N\to M$ を $i = 0$ に対して $f_{k + 1, 0} = f_{k}$、各 $1\leq i\leq a$ に対しては\[f_{k + 1, i} : x\mapsto \left\{\begin{array}{ll}f_{k}(x) & (x\in K_{k + 2}) \\\varPsi_{1}^{i}\circ\dots\circ \varPsi_{1}^{1}\circ f_{k}(x) & (x\notin K_{k + 2})\end{array}\right.\]により定めるとき、$f_{k + 1} = f_{k + 1, a}$ が条件の(ii), (iii)を満たすような単射はめ込み $f_{k + 1}$ になっていることを示します。まず、(ii)については自明です。(iii)を満たしていることを示すために、\[f_{k + 1}(K_{k + 1})\cap \overline{f_{k + 1}(N\setminus \Int K_{k + 2})} = \emptyset\]を示します。まず、$f_{k + 1, 0}(N)$ が $f_{k + 1, 0}(K_{k})$ の各点において局所平坦なので\[f_{k + 1, 0}(K_{k})\cap \overline{f_{k + 1, 0}(N\setminus \Int K_{k + 2})} = \emptyset\]です。$f_{k + 1, i}$ を $f_{k + 1,i + 1}$ により取り換えたとき、$\Img \varPhi_{1}\cap (D_{3/2}^{m - n}\times D_{3/2}^{n}) = \emptyset$ より\[\varphi_{i + 1}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\cap \overline{f_{k + 1, i + 1}(N\setminus \Int K_{k + 2})} = \emptyset\]であり、また、$\varPhi_{1}$ が第 $2$ 成分を保つことから\[f_{k}(K_{k + 2})\cap \overline{f_{k + 1, i + 1}(N\setminus \Int K_{k + 2})}\subset f_{k}(K_{k + 2})\cap \overline{f_{k + 1, i}(N\setminus \Int K_{k + 2})}\]です。これらを合わせることで\[\left(f_{k}(K_{k})\cup \bigcup_{i = 1}^{a}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right)\cap \overline{f_{k + 1, a}(N\setminus \Int K_{k + 2})} = \emptyset\]であり、よって、\[f_{k + 1}(K_{k + 1})\cap \overline{f_{k + 1}(N\setminus \Int K_{k + 2})} = \emptyset\]です。これはつまり、$f_{k + 1}(N)$ が $f_{k + 1}(K_{k + 1})$ の各点において局所平坦であることを意味します。
$V_{k}$ を構成します。まず、この $f_{k + 1}$ に対して\[f_{k + 1}(N\setminus \Int K_{k + 1})\cap V_{k - 1} = \emptyset,\]\[f_{k + 1}(N\setminus \Int K_{k + 1})\cap f_{k + 1}(K_{k}) = \emptyset\]であることとは明らかです。そこで、$f_{k + 1}(K_{k})$ の各点での局所平坦性に注意して $f_{k + 1}(N\setminus \Int K_{k + 1})$ とは交わらない $f_{k + 1}(K_{k})$ の閉近傍 $V'_{k}$ を取り、$V_{k} = V'_{k}\cup V_{k - 1}$ とします。これが(iv)から(vi)の条件を満たすことは明らかです。以上で写像の列 $f_{0}, f_{1}, \dots$ が構成されることが分かりました。
埋め込み定理の次元に関する条件は特定状況下ではもう少し改善することができます。
$n\geq 3$ とし、$M^{2n}$ を $2n$ 次元単連結可微分多様体、$N^{n}$ を $n$ 次元連結可微分閉多様体、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。このとき、$f$ に滑らかにhomotopicな埋め込み $g : N\to M$ が存在する。
この定理の証明のためには以下の $3$ つのテクニックを使用します。
最初のWhitney trickは特定の条件を満たす横断的に交わる $2$ 交点の対を解消する操作であり、この埋め込み定理の証明のキーとなるものです。また、他 $2$ つですが、真ん中の完全はめ込みによる近似は自己交叉の横断性の担保のため $($Whitney trickのための下準備$)$、最後の自己交叉の生成はWhitney trickを行うために必要な自己交叉の対を作るため既存の自己交叉に対してそれと対になる新たな自己交叉を $1$ つ作ってWhitney trickを行うことで $2$ つの自己交叉が解消され、結果として $1$ つ自己交叉が減るという流れ。に用いられます。
$1$ つずつ説明していきます。まずはWhitney trickから。これは例えば $($その一番簡単な場合として$)$、図3.3.1の左のようなEuclid空間 $\R^{2}$ において横断的に交わる $2$ 曲線 $c_{+} : y = x(1 - x)$, $c_{-} : y = -x(1 - x)$ が与えられたとき、その一方 $c_{+}$ を $2$ 曲線により囲われる角を $2$ つもつ $2$ 次元円盤 $D$ に沿って移動させる明示的に表してもいいけど、十分小さい円盤の近傍に台を持つ下向きのベクトル場を取って $c_{+}$ を流してみるのがいいかと思います。ことで、もとあった $2$ つの交点が解消するというものです。
一般に、横断的に交わる $2$ つの部分多様体 $N^{n}, L^{l}\subset M^{n + l}$ の間の $2$ つの交点に対し、次に定義するWhitney円盤 $($上の円盤 $D$ がそう$)$ が見つかれば同様にその円盤に沿った移動を行い交点が解消されます。
$\R^{n + l}$ の部分多様体 $c_{+}\times \R^{n - 1}\times \{0\}^{l - 1}$ と $c_{-}\times \{0\}^{m - 1}\times \R^{l - 1}$ に対し、角を $2$ つ持つ $2$ 次元円盤 $D\times \{0\}^{n + l - 2}$ を標準的なWhitney円盤という。
可微分多様体 $M^{n + l}$ とその部分多様体 $N^{l}, L^{l}$ が与えられ $N\pitchfork L$ であるとする。$M$ に埋め込まれた角を $2$ つ持つ $2$ 次元円盤 $D'\subset M$ であって、そのある開近傍が標準的なWhitney円盤のある開近傍に $C^{\infty}$ 級同相であるものをWhitney円盤という。
例えば、$n = 2$, $l = 1$ の場合の交点の解消は図3.3.2のように行われます。
以下、Whitney円盤の存在のための十分条件を与えたいと思いますが、そのために交点の符号を定義します。
$M^{n + l}$ を向き付けられた可微分多様体、$N^{n}$ と $L^{l}$ を $M$ の向き付けられた部分多様体であって $N\pitchfork L$ を満たしているとする。交点 $p\in N\cap L$ に対し、その点における接空間 $T_{p}N\oplus T_{p}L = T_{p}M$ の向きとして $N$, $L$ の向きから定まるものと $M$ の向きから定まるものが存在するが、もしその両者が一致するならば交点 $p$ の符号は $+1$ であるとし、もし反対ならば交点 $p$ の符号は $-1$ であるとする。
図3.3.1の中の $+$ と $-$ は $\R^{2}$ や曲線 $c_{+}, c_{-}$ に適当に与えたときの交点の符号を示していました。一般に、Whitney円盤の $2$ つの角に相当する交点の符号は互いに異なることは容易であり、この符号に関する条件は必要条件です。
$n, l \geq 3$ とし、向き付けられた単連結単連結なら勝手に向き付け可能であるけど、その向きうち一方を選んでおくという意味で明示的に向き付けられたと書いておきます。可微分多様体 $M^{n + l}$ とその向き付けられた連結部分多様体 $N^{n}, L^{l}$ が与えられ $N\pitchfork L$ であるとする。$2$ つの交点 $p_{0}, p_{1}\in N\cap L$ が以下の条件を満たすとき、その $2$ 点を角に持つWhitney円盤が存在する。
けっこう雑に書いているため細かいところで修正が必要ですが、大枠としては以下のように証明されます。また、定義3.4.4で導入するスプレイを使用しますなのでちょっと順序逆転してるんですが、埋め込み関連のことはまとめておきたいのでここで書いちゃいます。。
まず、Whitney円盤となる図3.3.1の角付き円盤 $D$ の近傍 $\mathcal{D}\subset \R^{2}$ の埋め込みを構成します。$M$ のスプレイ $Y$ を条件
を満たすように取ります。続いて、$N, L$ の連結性に注意して曲線 $\alpha : (-\varepsilon, 1 + \varepsilon)\to N$ と $\beta : (-\varepsilon, 1 + \varepsilon)\to L$ を条件
を満たすように取ります。
この状況において、$\alpha$ 上のベクトル場 $X^{\alpha}$ を $U_{i}$ においては $p_{i}$ における $\beta$ の接ベクトル成分の $(-1)^{i}$ 倍、さらに各点において $X_{\alpha(t)}\in T_{\alpha(t)}M\setminus T_{\alpha(t)}N$ を満たすように取り、$\beta$ 上のベクトル場 $X^{\beta}$ も同様に $U_{i}$ においては $p_{i}$ における $\alpha$ の接ベクトル成分の $(-1)^{i}$ 倍、さらに各点において $X_{\beta(t)}\in T_{\beta(t)}M\setminus T_{\beta(t)}L$ を満たすように取ります。十分小さい正実数 $\varepsilon' > 0$ を取り、スプレイ $Y$ に関する指数写像 $\exp$ を用いて写像 $\psi_{\alpha}, \psi_{\beta} : (-\varepsilon, 1 + \varepsilon)\times (-\varepsilon', \varepsilon')\to M$ を\[\psi_{\alpha}(s, t) = \exp(tX_{\alpha(s)}^{\alpha}), \ \psi_{\beta}(s, t) = \exp(tX_{\beta(s)}^{\beta})\]により定めれば、これらの写像をもとに $\R^{2}$ における境界 $\partial D$ の近傍の埋め込みが構成できます。
続いて、この埋め込みを角付き円盤 $D$ の内側まで拡張することを考えますが、これは $M$ が単連結であることを用いていったん連続写像としてに拡張した後、境界 $\partial D$ の近傍部分を保つように注意しながら埋め込みで近似すればよいです。次元に関する仮定から $N$ や $L$ と交わらないようにできます。
最後にこの角付き円盤 $D$ が実際にWhitney円盤になっていることですが、そのためには次の条件を満たす $\mathcal{D}$ 上のベクトル場 $Z^{1}, \dots, Z^{n + l - 2}$ を構成すればよいです。もう $\mathcal{D}\subset M$ とみなすとします。
もしこのように取れていれば、十分小さい正実数 $\delta > 0$ について写像\[\mathcal{D}\times \Int D_{\delta, \R^{n + l - 2}} : (p, z_{1}, \dots, z_{n + l - 2})\mapsto \exp\left(\sum_{k = 1}^{n + l - 2}z_{k}Z_{p}^{k}\right)\]が標準的なWhitney円盤との同一視を与えます。
$TM$ のRiemann計量を各 $TU_{i}\cong TV_{i}$ において標準的な計量となるように与え、例えば、$TM$ の部分束 $E$ についてその直交補ベクトル束を $E^{\bot}$ と書くことにします。また、$\mathcal{D}$ は可縮としておき、Riemann計量に合った自明化 $T\mathcal{D}^{\bot}\cong \mathcal{D}\times \R^{n + l - 2}$ を固定しておきます。次の順番に構成していきます。
(i) $W^{\alpha}$ を $\alpha$ 上ベクトル場であって各点での速度ベクトルを正規化して長さ $1$ としたものを与えるもの、$W^{\beta}$ も同じく $\beta$ 上のベクトル場であって各点での速度ベクトルを正規化して長さ $1$ としたもの与えるものとします。また簡単のため、あらかじめ $X^{\alpha}, X^{\beta}$ も正規化して各点での長さが $1$ であるとしたうえ、$X^{\alpha}$ は各点で $TN$ に直行し、$X^{\beta}$ も各点で $TL$ に直行するようにしていたとします。
まず、$\mathcal{D}\cap \beta$ が可縮なのでその上のベクトル束は自明であり、よって、$\beta$ 上のベクトル場 $Z^{\beta, 1}, \dots, Z^{\beta, n - 1}$ を各点で $X^{\beta}, Z^{\beta, 1}, \dots, Z^{\beta, n - 1}$ が $TL^{\bot}$ の正規直交枠となるように取れます。$\alpha$ 上でもベクトル場 $Z^{\alpha, 1}, \dots, Z^{\alpha, n - 1}$ を $W^{\alpha}, Z^{\alpha, 1}, \dots, Z^{\alpha, n - 1}$ が $TN$ の正規直交枠を与えているように構成できます。もちろん、$\alpha$ 上で構成したものと $\beta$ 上で構成したものが交点で一致するようにして $\partial D$ 上のベクトル場 $Z^{1}, \dots, Z^{n - 1}$ としたいわけで、そのための補正をします。
$T_{p_{i}}N = T_{p_{i}}L^{\bot}$ と $W_{p_{i}}^{\alpha} = (-1)^{i}X_{p_{i}}^{\beta}$ に注意します。まず、ある直交行列 $A\subset O(n - 1)$ が存在して\[\left[\begin{array}{ccc}Z_{p_{0}}^{\alpha, 1} & \cdots & Z_{p_{0}}^{\alpha, n - 1}\end{array}\right]\cdot A =\left[\begin{array}{ccc}Z_{p_{0}}^{\beta, 1} & \cdots & Z_{p_{0}}^{\beta, n - 1}\end{array}\right]\]なので、$Z^{\alpha, 1}, \dots, Z^{\alpha, n - 1}$ をこれに従って取り換えることで $p_{0}$ において $Z_{p_{0}}^{\alpha, k} = Z_{p_{0}}^{\beta, k}$ としてよいです。いま、必要であればベクトル場の順番を入れ換えることで $p_{0}$ において $W_{p_{0}}^{\alpha}, Z_{p_{0}}^{\alpha, 1}, \dots, Z_{p_{0}}^{\alpha, n - 1}$ およびそれに一致する $X_{p_{0}}^{\beta}, Z_{p_{0}}^{\beta, 1}, \dots, Z_{p_{0}}^{\beta, n - 1}$ の定める向きが $T_{p_{0}}N$ に与えていた向きに一致するとします。このとき、$TN$ の枠 $W^{\alpha}, Z^{\alpha, 1}, \dots, Z^{\alpha, n - 1}$ が向きを保ったまま連続的に動くことから $W_{p_{1}}^{\alpha}, Z_{p_{1}}^{\alpha, 1}, \dots, Z_{p_{1}}^{\alpha, n - 1}$ の定める $T_{p_{1}}N$ の向きは $T_{p_{1}}N$ に定めていた向きに一致し、同様にして、$p_{1}$ において $X_{p_{1}}^{\beta}, Z_{p_{1}}^{\beta, 1}, \dots, Z_{p_{1}}^{\beta, n - 1}$ の定める $T_{p_{1}}N$ の向きに関する交点 $p_{1}$ の符号は交点 $p_{0}$ における符号を保ちます。
いま、仮定よりもともとの $N, L$ の向きから定まる交点 $p_{0}, p_{1}$ の符号は逆であったので、$X_{p_{1}}^{\beta} = -W_{p_{1}}^{\alpha}, Z_{p_{1}}^{\beta, 1}, \dots, Z_{p_{1}}^{\beta, n - 1}$ の定める向きはもともとの $T_{p_{1}}N$ の向きの逆を与え、つまり、$W_{p_{1}}^{\alpha}, Z_{p_{1}}^{\beta, 1}, \dots, Z_{p_{1}}^{\beta, n - 1}$ の定める向きは $T_{p_{1}}N$ の向きに一致します。よって、ある特殊直交行列 $A_{1}\in SO(n - 1)$ が存在して\[\left[\begin{array}{ccc}Z_{p_{1}}^{\alpha, 1} & \cdots & Z_{p_{1}}^{\alpha, n - 1}\end{array}\right]\cdot A_{1} =\left[\begin{array}{ccc}Z_{p_{1}}^{\beta, 1} & \cdots & Z_{p_{1}}^{\beta, n - 1}\end{array}\right]\]となりますが、$SO(n - 1)$ が連結であることを用いて $C^{\infty}$ 級曲線 $A : I\to SO(n - 1)$ を $A(0) = I_{n - 1}$ かつ $A(1) = A_{1}$ であるように取り、この行列の族により $Z^{\alpha, 1}, \dots, Z^{\alpha, n - 1}$ を取り換えれば $p_{1}$ においても一致するようにできます。
(ii) Stiefel多様体 $V_{a, b}^{\R} = O(a)/(\{I_{b}\}\oplus O(a - b))$ というものを考えます。ただし、$0\leq b\leq a$ です。これは $\R^{a}$ の互いに直交する $b$ 個の単位ベクトルの組 $(e_{1}, \dots, e_{b})$ 全体からなる空間と考えることができ$\R^{a}$ の互いに直交する $b$ 個の単位ベクトルの組 $(e_{1}, \dots, e_{b})$ が与えられたとき、これは $\R^{a}$ の正規直交基底 $(e_{1}, \dots, e_{a})$ への拡張を持ち、その拡張の仕方はちょうど後ろ $a - b$ 成分 $(e_{b + 1}, \dots, e_{a})$ に関する直交変換の違いだけあります。このことと正規直交基底自体が直交行列と自然に対応することに注意すれば、商空間 $O(a)/(\{I_{b}\}\oplus O(a - b))$ と $\R^{a}$ の互いに直交する $b$ 個の単位ベクトルの組全体からなる空間の間の $1$ 対 $1$ 対応が構成されます。、$a(a - 1)/2 - (a - b)(a - b - 1)/2$ 次元可微分多様体の構造が自然に定まります。自明化 $T\mathcal{D}^{\bot}\cong \mathcal{D}\times \R^{n + l - 2}$ を自明束側の標準的なRiemann計量に合うように固定していたことから、$\partial D$ 上のベクトル場 $Z^{1}, \dots, Z^{n - 1}$ は写像 $\xi : \partial D\to V_{n + l - 2, n - 1}^{\R}$ を誘導しますが、事実として $n - 1 \geq 2$ により $V_{n + l - 2, n - 1}^{\R}$ の基本群 $\pi_{1}(V_{n + l - 2, n - 1}^{\R})$ が自明なので $\xi$ は $\mathcal{D}$ 上に拡張し、よって、$Z^{1}, \dots, Z^{n - 1}$ は $\mathcal{D}$ 上に拡張します。
(iii) $\mathcal{D}$ 上の各点について $Z^{1}, \dots, Z^{n - 1}$ および $T\mathcal{D}$ の張る空間の直交補空間を取ることで得られる $\mathcal{D}$ 上のベクトル束は自明であり、その正規直交枠として $Z^{n}, \dots, Z^{n + l - 2}$ が構成されます。
続いて、完全はめ込みによる近似について。
$N^{n}, M^{2n}$ を境界を持たない可微分多様体、$f : N\to M$ をはめ込みとする。次の条件を満たすとき $f$ を完全はめ込みという。
次で完全はめ込みによる近似が可能であることを示しますが、その証明はほぼ定理3.3.5の証明の前半のままです。
$N^{n}, M^{2n}$ を可微分多様体$n \geq 1$ です。、$f : N\to M$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$f$ は完全はめ込みにhomotopicである。
定理3.3.4より $f$ ははめ込みとしてよいです。ほぼ定理3.3.5の証明の前半 $($はめ込みの単射はめ込みによる近似$)$ の議論の繰り返しで証明されます。
$N$ の $n$ 次元コンパクト部分多様体による局所有限可算被覆 $\{K_{k}\}_{k\in\N_{+}}$, $\{K'_{k}\}_{k\in\N_{+}}$ を
となるように取ります。また、$W_{k} = \bigcup_{i = 1}^{k}K'_{i}$ とおきます。はめ込みの列 $f_{0} = f, f_{1}, \dots$ を次の条件を満たすように構成します。
もしそのようにはめ込みの列が構成されれば、その極限としてもとの $f$ にhomotopicな完全め込みが得られます。
$f_{k}$ まで得られているとして $f_{k + 1}$ を構成します。まず、有限個の $M$ の局所座標系 $\{\varphi_{i} : U_{i}\to V_{i}\}_{i\in\Lambda}$ を
を満たすように取ります。補題3.2.31による局所的な補正を繰り返し行うことで、あるambient isotopy $F : M\times I\to M$ であって\[f_{k}|_{N\setminus \Int K_{k + 1}}\pitchfork F_{1}^{-1}\left(\bigcup_{i\in\Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right)\]かつ\[\{p\in K_{k + 1}\mid f_{k}(p) \neq F_{1}^{-1}\circ f_{k}(p)\}\subset f_{k}^{-1}\left(\bigcup_{i\in\Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right)\cap K_{k + 1}\subset \Int K_{k + 1}\]を満たすものが取れます。また、仮定より $\#(f_{k}^{-1}(q)\cap (W_{k}\setminus \Int K_{k + 1})) = 2$ となる $q\in M$ 全体からなる集合 $A$ は有限集合であるので、さらに\[F_{1}^{-1}\left(\bigcup_{i\in\Lambda}\varphi_{i}^{-1}(\{0\}^{m - n}\times \Int D_{1}^{n})\right)\cap A = \emptyset\]となるように取れることも明らかです。そこで、$f_{k + 1}$ を\[f_{k + 1}(p) = \left\{\begin{array}{ll}F_{1}^{-1}\circ f_{k}(p)& (p\in K_{k + 1})\\f_{k}(p) & (p\in N\setminus K_{k + 1})\end{array}\right.\]により定めればよいです。いずれの条件も容易に確かめられます。また、\[\hat{F}(p, t) = \left\{\begin{array}{ll}F_{t}^{-1}\circ f_{k}(p)& (p\in K_{k + 1})\\f_{k}(p) & (p\in N\setminus K_{k + 1})\end{array}\right.\]が $f_{k}$ を $f_{k + 1}$ につなぐ滑らかなhomotopyであって台が $K_{k + 1}$ に含まれるようなものになっています。以上よりはめ込みの列 $f_{0}, f_{1}, \dots$ が構成され、$f$ が完全はめ込みにhomotopicであることが分かりました。
次のことは自明ですが念のため示しておきます。
$M^{2n}$ を可微分多様体、$N^{n}$ を可微分閉多様体、$f : N\to M$ を完全はめ込みとする。このとき、$f$ の自己交叉は高々有限個である。
$f$ の全ての自己交叉からなる集合 $S\subset f(N)$ が離散集合であることを示せばよいですコンパクト空間の閉集合であって相対位相に関して離散的であるものは有限集合でした。この $S\subset f(N)$ が閉集合であることはこの後を追えば明らか。。$x\in S$ に対して $f^{-1}(x) = \{p, q\}$ とおき、$p$ と $q$ の十分小さい開近傍 $U_{p}$, $U_{q}$ を $f(U_{p})\cap f(U_{q}) = \{x\}$ となるように取ります。このとき、$x\notin f(N\setminus (U_{p}\cup U_{q}))$ と $f(N\setminus (U_{p}\cup U_{q}))$ が閉集合であることからある $x\in M$ の開近傍 $U$ であって $U\cap f(N\setminus (U_{p}\cup U_{q})) = \emptyset$ となるものが取れます。この $U$ において自己交叉は $x$ のみなので、$\{x\}\subset S$ は開集合です。よって、$S$ は離散集合です。
今したいことは連結可微分閉多様体 $N^{n}$ の完全はめ込み $f : N\to M$ の自己交叉の解消ですが、この場合も命題3.3.9と同様にWhitney円盤が構成されます。
まず、$N$ が向き付けられている場合。各交点 $x\in f(N)$ について $f^{-1}(x) = \{p_{1}, p_{2}\}$ に順序を与えて $f_{*}T_{p_{1}}N\oplus f_{*}T_{p_{2}}N$ の向きが $T_{x}M$ の向きに一致するかどうかで符号を考えることができる$n$ が偶数なら順番に関係はないですが、奇数だと逆にすると符号も逆になるので固定する必要があります。ことに注意します。そこで、互いに逆の符号を持つ交点 $x, y\in f(N)$ について $f^{-1}(x) = \{p_{1}, p_{2}\}$, $f^{-1}(y) = \{q_{1}, q_{2}\}$ とおき、命題3.3.9の証明中の曲線 $\alpha, \beta$ をそれぞれ $N$ において $p_{1}$ と $q_{1}$, $p_{2}$ と $q_{2}$ を結び$f$ が完全はめ込みであることから $N$ の曲線 $($はめ込み$)$ は $f(N)$ の曲線のリフトとして同一視できます。、また、$f(N)$ において $t = 0, 1$ 以外では曲線どうしで交わらないよう取っておけばあとは同じです。
また、$N$ が向き付け不可能な場合には任意の $2$ 交点についてそれらを角に持つWhitney円盤が構成されます。$x, y\in f(N)$ を互いに異なる交点とし、$f^{-1}(x) = \{p_{1}, p_{2}\}$, $f^{-1}(y) = \{q_{1}, q_{2}\}$ とおきます。まずは命題3.3.9の証明中の曲線 $\alpha, \beta$ をそれぞれ $N$ において $p_{1}$ と $q_{1}$, $p_{2}$ と $q_{2}$ を結ぶように取り、そのorientation double cover $\hat{N}\to N$ に関するリフト $\hat{\alpha}, \hat{\beta} : (-\varepsilon, 1 + \varepsilon)\to \hat{N}$ を固定します。このとき、$\hat{\alpha}(0), \hat{\beta}(0), \hat{\alpha}(1), \hat{\beta}(1)$ において定まっている $\hat{N}$ の向きから交点 $x, y\in f(N)$ の符号を考えることができ、それらが互いに逆であればそのまま、一致していれば一方の曲線を取り直して互いに逆向きとなるよう整えます。そうすればあとは同じです。
最後に自己交叉の生成について。可微分閉多様体の完全はめ込み $f : N^{n}\to M^{2m}$ が与えられたとき、自己交叉している点以外では局所的にEuclid空間の標準的な埋め込み $\R^{n}\subset \R^{2n}$ と同一視できましたが、この同一視のもとで原点の近傍を少し変形して $1$ 度だけ横断的に自己交叉するような $\R^{n}$ のはめ込みに取り換え、$N$ の横断的な自己交叉を $1$ つ増やします。このようなことは $n = 1$ の場合には図3.3.4から明らかですが、高次元の場合は少し工夫します。
まずはその原型として $\R^{2}$ の曲線の滑らかな族 $\{c_{t} = (x_{t}, y_{t}) : \R\to \R^{2}\}_{t\in I}$ を図3.3.5のように取ります。
条件に書き下すと
という要領です。以下、はめ込みを構成します。
まず、台を $[-4, 4]\times D_{3, \R^{n - 1}}$ の中に持つ $C^{\infty}$ 関数 $h : \R^{n}\to [0, 1]$ を $[-3, 3]\times D_{2, \R^{n - 1}}$ において $1$ を値に取るように定め、この $h$ を用いて $C^{\infty}$ 級写像 $g : \R\times \R^{n - 1}\to \R^{n - 1}$ を\[g : (u, v) \mapsto h(u, v)uv\]により定めます。さらに、台を $D_{1, \R^{n - 1}}$ の中に持つ $C^{\infty}$ 級写像 $k : \R^{n - 1}\to [0, 1]$ を $k(0) = 1$ に取り、$C^{\infty}$ 級写像 $f : \R^{n}\to \R^{2n}$ を\[f : (u, v)\mapsto (x_{k(v)}(u), v, y_{k(v)}(u), g(u, v))\]により定めます。これが欲しかったはめ込みになることを示したいですが、そのためには次のことを確かめればよいです。
(i) $|u| > 4$ の範囲では $h\equiv 0$ と曲線の族 $\{c_{t}\}_{t\in I}$ の取り方から\[f(u, v) = (u, v, 0, 0)\]であり、$\|v\| > 3$ の範囲では $h\equiv 0$ と $k\equiv 0$ から\[f(u, v) = (u, v, 0, 0)\]なのでそうです。
(ii) 次の通りです。
$|u| > 2$ または $\|v\| > 1$ の場合。
$|u| > 2$ ならば曲線の族 $\{c_{t}\}_{t\in I}$ の取り方から\[f(u, v) = (u, v, 0, g(u, v))\]であり、また、$\|v\| > 1$ ならば $k\equiv 0$ により\[f(u, v) = (u, v, 0, g(u, v))\]なのでその各点は $f$ の正則点です。
$|u| < 3$ かつ $\|v\| < 2$ の場合。
この範囲では $h\equiv 1$ なので\[f(u, v) = (x_{k(v)}(u), v, y_{k(v)}(u), uv)\]です。$v\neq 0$ なら $(v, uv)$ に着目すれば各点が $f$ の正則点であることが分かります。
よって、あとは $v = 0$ の場合が問題ですが、このときは $c_{k(0)} = c_{1}$ がはめ込みであることから $(x_{k(v)}(u), v, y_{k(v)}(u))$ に着目すればいいです。
(iii) $f$ の定義から明らかに $f(u, v) = f(u', v')$ ならば $v = v'$ です。また、$f(u, v) = f(u', v)$ となるためには $c_{k(v)}$ が自己交叉を持つ必要があることも容易であり $\|v\| < 1$ です。そして、曲線 $c_{t}$ たちの取り方から $u, u'\in [-2, 2]$ であることも分かります。よって、自己交叉が起こりえるのは $|u| < 2$ かつ $\|v\| < 1$ の範囲です。この範囲において $f$ は\[f(u, v) = (x_{k(v)}(u), v, y_{k(v)}(u), uv)\]と表示されていたので $v = 0$ と絞り込めますが、このときは曲線 $c_{k(0)} = c_{1}$ の構成より $u = \pm 1$ で自己交叉します。以上により $f$ は $(1, 0)$ と $(-1, 0)$ においてのみ自己交叉します。
(iv) $f$ の値域側の座標の順番を取り換え、$(\pm 1, 0)$ の近傍において\[f(u, v) = (x_{1}(u), y_{1}(u), v, uv)\]と書けているとしてもよいです。Jacobi行列を計算すると\[J_{f}(1, 0) = \left[\begin{array}{cc}\dfrac{c_{1}}{ds}(1) & O_{2, n - 1} \\O_{n - 1, 1}& I_{n - 1} \\O_{n - 1, 1}& I_{n - 1} \\\end{array}\right], \ J_{f}(-1, 0) = \left[\begin{array}{cc}\dfrac{c_{1}}{ds}(-1) & O_{2, n - 1} \\O_{n - 1, 1}& I_{n - 1} \\O_{n - 1, 1}& -I_{n - 1} \\\end{array}\right]\]なので、横断的に交わっています。
以上で自己交叉の生成が可能となりました。あとは正負それぞれの符号を持つ交点が生成できるかですが、これは例えば $y_{t}$ を $-1$ 倍するだけで逆の符号を持つ自己交叉が得られるのでよいですここでは補足3.3.13のように交点の向きを考えているわけですが、$N$ の次元が偶数のときは単に交点 $x\in f(N)$ の逆像 $f^{-1}(x) = \{p_{1}, p_{2}\}$ に与えた順番を逆にするだけでは逆の符号を持つ交叉を生成できないので、より直接的に符号を反転する方法が必要になります。。
準備が整ったので定理3.3.6を証明します。といっても、難しい部分はすべて説明したのですることはほとんどありませんが。
$f : N\to M$ を完全はめ込みとしてよいこと $($命題3.3.11$)$、そして $f$ の自己交叉は高々有限個であること $($命題3.3.12$)$、$M$ が単連結であることから向き付けられているとしてよいことに注意します。
$N$ が向き付けられている場合、命題3.3.9と補足3.3.13より各交点に対してそれと対になる逆の符号を持つ交点を生成しておけばWhitney trickの有限回の繰り返しで全ての交点が解消されます。
$N$ が向き付け不可能である場合、同様に、交点の総数が偶数となるように調整した後にWhitney trickの有限回の繰り返しで全ての交点が解消されます。
系として、冒頭の命題3.3.1を改善した次の結果は重要です。
任意の $n$ 次元可微分閉多様体 $N^{n}$ に対して $\R^{2n}$ への埋め込みが存在する。
(そのうち書きます。)
以上です。
埋め込み定理 $($定理3.3.5$)$ について、参考にした[田村 微分位相幾何学]では単射はめ込みによる近似についてしか書かれておらず、実際にはそこまでで十分な気もしますが、念のため埋め込みにするところまで書きました。
あと、しきりに「近似」といっているのは単にhomotopyで結べるというだけではなく、構成から明らかなように、あまり大きくは動かさずに可能という意味を込めてます。具体的には例えば、$C^{\infty}$ 級写像 $f : N\to M$ が埋め込みで近似可能といったら、任意の $M$ の位相に合った距離関数 $d : M\times M\to [0, \infty)$ と $N$ 上の正値連続関数 $\delta : N\to (0, \infty)$ に対し、$f$ にhomotopicな埋め込み $g$ であって任意の $p\in N$ に対して $d(f(p), g(p)) < \delta(p)$ を満たすものが存在することと定式化されます。ただ、Whitney trickに関してはこの意味では近似といえないので注意。
自己交叉の生成について、実は $n = 2$ の場合にも分かりやすい絵が描けて、本来そうしておくべきとは思いながらさぼってます。ここでしている構成も $n = 2$ の場合をそのまま一般化しただけだし。ちなみに、[田村 微分位相幾何学]やwikipediaには具体的な式で記述しているのでそちらも確認したほうがよいかも。本質的にはそちらとこちらでやっていることは一緒です。
最後に、そこかしこにギャップ $($大きくはないはず$)$ を残しているけど、あんまり細かく書きすぎると何言ってるのか分からなくなるだろうということでこれくらいに…あと、主に $n = 0$ の場合は除いてね。
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