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幾何学のための予備知識 TOP
数学ノートについて
2.10 homotopy論のための準備

ここではhomotopy論において用いる用語や事実のうち、位相空間論の範囲に収まることを整備します。まずはhomotopy自体の導入から始め、連続写像の集合におけるコンパクト開位相の導入とその使う範囲での基本事項の紹介、そして、位相空間について縮約懸垂・ループ空間をとる操作の随伴性を示すことを目標とします。

2.10.1 空間対と基点付き空間
空間対

まずは記号を整備します。$X$ を位相空間、$A$ をその部分空間とするとき、対 $(X, A)$ のことを空間対といいます。便宜的に単なる位相空間 $X$ を空集合上の自明な位相空間との対 $(X, \varnothing)$ により空間対と考える場合もあります。空間対 $(X, A)$ から $(Y, B)$ への連続写像を連続写像 $f : X\to Y$ であって $f(A)\subset B$ を満たすものとして定義し、空間対の間の連続写像であることを明示するために $f : (X, A)\to (Y, B)$ のように表します。空間対 $(X, A)$ から $(Y, B)$ への連続写像全体からなる集合を $C((X, A), (Y, B))$ により表します。$A = B = \varnothing$ であれば通常の $C(X, Y)$ と本質的には同じものです。

また、この空間対とその間の連続写像の概念は複数の部分空間に直ちに一般化され、例えば、位相空間 $X$ とその部分空間 $A, A'$ に対して位相空間の $3$ 組 $(X, A, A')$ を考えることができ、それらの間の連続写像 $f : (X, A, A')\to (Y, B, B')$ とは連続写像 $f : X\to Y$ であって $f(A)\subset B$ かつ $f(A')\subset B'$ を満たすものを意味し、それら全体からなる集合は $C((X, A, A'), (Y, B, B'))$ と書くことにします。ただし、位相空間 $3$ 組 $(X, A, A')$ については状況によって $A'\subset A$ という条件を課すのが自然な場合も多いので、そういうときはそのように解釈することにします。

基点付き空間

$A$ が一点 $\{x_{0}\}$ の場合の空間対 $(X, A)$ は $(X, x_{0})$ と書いて基点付き空間と呼び、$x_{0}$ をその基点と呼びます。ここでは基点付き空間を単にラテン文字の大文字 $X$ などで表したときにはその小文字に添字 $0$ を付けた $x_{0}$ などが基点を表すことにし、その他の場合も特に記号を導入しなければ記号 $*$ などで基点を表すことにします。基点付き空間 $(X, x_{0})$ から $(Y, y_{0})$ への連続写像とは連続写像 $f : X\to Y$ であって $f(x_{0}) = y_{0}$ を満たすもののことであり、これを基点を保つ連続写像とも呼ぶことにします。そして、基点付き空間 $(X, x_{0})$ から $(Y, y_{0})$ への連続写像全体からなる集合 $C((X, x_{0}), (Y, y_{0}))$ を $C(X, Y)_{0}$ とも書くことにします。

また、位相空間の $3$ 組 $(X, A, A')$ であって $A'\subset A$ かつ $A'$ が一点 $\{x_{0}\}$ であるものを $(X, A, x_{0})$ や単に $(X, A)$ と書いて基点付き空間対と呼びます。これについても同様に $C((X, A, x_{0}), (Y, B, y_{0}))$ を $C((X, A), (Y, B))_{0}$ とも表すことにします。

空間対の直積

空間対 $(X, A)$, $(Y, B)$ が与えられたとき、その直積を\[(X, A)\times (Y, B) = (X\times Y, (X\times B)\cup (A\times Y))\]により定めることにします。部分空間側をそれぞれ補集合で置き換えれば $(X, A^{c})$, $(Y, B^{c})$, $(X\times Y, A^{c}\times B^{c})$ なので、部分空間側を直積の形で定義しても本質的には変わらないのですが、位相幾何学においては通常この形で直積を定義します。ただし、基点付き空間 $(X, x_{0})$, $(Y, y_{0})$ の直積については $(X\times Y, (x_{0}, y_{0}))$ を考えることで再び基点付き空間を得られるため文脈に応じてそのように考えることもあります。

2.10.2 homotopy集合
homotopy集合

連続写像全体からなる集合 $C(X, Y)$ などにhomotopyによる関係を導入します。以下、単位区間 $[0, 1]$ を $I$ により表すとします。また、連続写像 $H : X\times I\to Y$ が与えられたとき、各 $t\in I$ に対して $H_{t}$ により制限 $H|_{X\times \{t\}} : X\times \{t\}\to Y$ を表すとします。ただし、$H_{t}$ の定義域 $X\times \{t\}$ は $X$ と同一視して区別しないことにします。

定義2.10.1
(homotopy)

(1) $X, Y$ を位相空間とする。連続写像 $f, g\in C(X, Y)$ に対し、ある連続写像 $H : X\times I\to Y$ であって $H_{0} = f$ かつ $H_{1} = g$ を満たすものが存在するとき、$f$ は $g$ にhomotopicであるといい、$f\sim g$ と表す。$H$ は $f$ を $g$ につなぐhomotopyと呼ぶ。homotpy $H$ に対して部分集合\[\supp H := \overline{\{x\in X\mid\ {}^{\exists}s, t\in I \text{ s.t. } H(x, s)\neq H(x, t)\}}\]を台 $($support$)$ と呼ぶ。
(2) $(X, A), (Y, B)$ を空間対とする。連続写像 $f, g\in C((X, A), (Y, B))$ に対し、ある連続写像 $H : X\times I\to Y$ であって $H_{0} = f$, $H_{1} = g$ と常に $H_{t}\in C((X, A), (Y, B))$ を満たすものが存在するとき、$f$ は $g$ にhomotopicであるといい、$f\sim g$ と表す。
(3) 基点付きの場合も同様に、homotopy $H$ が常に $H_{t}\in C(X, Y)_{0}$ もしくは $H_{t}\in C((X, A), (Y, B))_{0}$ を満たすという条件を課したうえで関係 $\sim$ を定義する。
(4) $X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を連続写像とする。$f$ がある定値写像にhomotopicであることを $f$ はnull-homotopicであるという。

明らかですが、homotopyによる関係が同値関係を与えていることを確かめておきます。全て同じなので $C(X, Y)$ についてのみ考えます。

命題2.10.2

$X, Y$ を位相空間とする。$C(X, Y)$ に定めたhomotopyによる関係 $\sim$ は同値関係である。

証明

反射律。$f\in C(X, Y)$ に対して常に $H_{t} = f$ して定まる連続写像 $H : X\times I\to Y$ が $f$ を $f$ につなぐhomotopyなので $f\sim f$ です。

対称律。$f\sim g\in C(X, Y)$ に対して $f$ を $g$ につなぐhomotopy $H$ を取り、$G_{t} = H_{1 - t}$ により連続写像 $G : X\times I\to Y$ を定義すればこれが $g$ を $f$ につなぐhomotopyなので $g\sim f$ です。

推移律。$f, g, h\in C(X, Y)$ が $f\sim g$ かつ $g\sim h$ を満たしているとします。$F : X\times I\to Y$ を $f$ を $g$ につなぐhomotopyとし、$G : X\times I\to Y$ を $g$ を $h$ につなぐhomotopyとします。このとき、連続写像 $H : X\times I\to Y$ を\[H_{t} = \left\{\begin{array}{ll}F_{2t} & (0\leq t\leq 1/2) \\G_{2t - 1} & (1/2\leq t\leq 1)\end{array}\right.\]により定めれば、これが $f$ を $h$ につなぐhomotopyであり $f\sim h$ です。

従って、この同値関係による商集合を考えることができます。

定義2.10.3
(homotopy集合)

homotopyによる同値関係に関する商集合たちを\[[X, Y] = C(X, Y)/{\sim}, \ [(X, A), (Y, B)] = C((X, A), (Y, B))/{\sim},\]\[[X, Y]_{0} = C(X, Y)_{0}/{\sim}, \ [(X, A), (Y, B)]_{0} = C((X, A), (Y, B))_{0}/{\sim}\]と表すことにし、それぞれhomotopy集合と呼ぶ。homotopy集合の各元をhomotopy類と呼ぶ。前者の基点を考えないhomotopy集合についてはそのことを強調して自由homotopy集合、その元を自由homotopy類とも呼ぶ。

homotopy類の合成

通常の連続写像の合成 $\circ : C(X, Y)\times C(Y, Z)\to C(X, Z) : (f, g)\mapsto g\circ f$ がhomotopy類についての合成\[\circ : [X, Y]\times [Y, Z]\to [X, Z] : ([f], [g])\mapsto [g\circ f]\]を誘導することを見ておきます。そのためには単に代表元の取り方によらないということを確かめればよく、次のとおりです。空間対や基点付き空間に対して考えても全く一緒です。

命題2.10.4

$X, Y, Z$ を位相空間とする。連続写像 $f\sim f'\in C(X, Y)$, $g\sim g'\in C(Y, Z)$ に対して $g\circ f\sim g'\circ f'$ が成立する。

証明

$f$ を $f'$ につなぐhomotopy $F$ と $g$ を $g'$ につなぐhomotopy $G$ を取り、連続写像 $H : X\times I\to Z$ を\[H(x, t) = G_{t}(F_{t}(x)) \ (= G(F(x, t), t))\]により定めることで $g\circ f$ を $g'\circ f'$ につなぐhomotopyが構成され、$g\circ f\sim g'\circ f'$ が分かります。

homotopy同値
定義2.10.5
(homotopy同値)

$X, Y$ を位相空間とする。連続写像 $f : X\to Y$, $g : Y\to X$ であって $g\circ f\sim \Id_{X}$ かつ $f\circ g\sim \Id_{Y}$ を満たすものが存在するとき、$X$ と $Y$ はhomotopy同値であるといい $X\simeq Y$ により表す。$X$ と $Y$ は同じhomotopy型を持つともいう。また、homotopy同値を与える連続写像 $f, g$ をhomotopy同値写像、もしくは単にhomotopy同値といい、一方を他方のhomotopy逆写像という。

homotopy同値は同値というだけあって反射律・対称律・推移律を満たします。

命題2.10.6

$X, Y, Z$ を位相空間とする。次が成立する。

(1) $X\simeq X$.
(2) $X\simeq Y\Rightarrow Y\simeq X$.
(3) $X\simeq Y, Y\simeq Z\Rightarrow X\simeq Z$.
証明

(1) (2) 自明です。

(3) 連続写像 $f : X\to Y$, $g : Y\to X$ を $g\circ f\sim \Id_{X}$ かつ $f\circ g\sim \Id_{Y}$ であるように取り、また、$f' : Y\to Z$, $g' : Z\to Y$ を $g'\circ f'\sim \Id_{Y}$ かつ $f'\circ g'\sim \Id_{Z}$ であるように取ります。このとき、\[(g\circ g')\circ (f'\circ f)\sim g\circ \Id_{Y}\circ f\sim g\circ f\sim \Id_{X},\]\[(f'\circ f)\circ (g\circ g')\sim f'\circ \Id_{Y}\circ g'\sim f'\circ g'\sim \Id_{Z}\]であり、$X\simeq Z$ が従います。

系2.10.7

homotopy同値写像どうしの合成写像はhomotopy同値写像である。

次はhomotopy集合がhomotopy型で決まることを意味します。基点を持つ空間などでも全く同様です。

系2.10.8

位相空間 $W, X, Y, Z$ とhomotopy同値写像 $f : Y\to Z$, $g : W\to X$ が与えられているとする。このとき、写像\[f_{*} : [X, Y]\to [X, Z] : [h]\mapsto [f\circ h],\]\[g^{*} : [X, Y]\to [W, Y] : [h]\mapsto [h\circ g]\]は全単射である。

例2.10.9

(a) 各次元のEuclid空間は互いにhomotopy同値です。例えば、$n < m$ に対して\[f : \R^{n}\to \R^{m} : (x_{1}, \dots, x_{n})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n}, 0, \dots, 0),\]\[g : \R^{m}\to \R^{n} : (x_{1}, \dots, x_{m})\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n})\]が互いにhomotopy逆写像になるhomotopy同値写像であり、$\R^{n}$ と $\R^{m}$ の間のhomotopy同値を与えます。実際、$g\circ f = \Id_{\R^{n}}$ であるし、$f\circ g\sim \Id_{\R^{m}}$ はhomotopy\[H : \R^{m}\times I\to \R^{m} : (x_{1}, \dots, x_{m}, t)\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n}, tx_{n + 1}, \dots, tx_{m})\]により確かめられます。
(b) アニュラスやMöbiusの帯は円周 $S^{1}$ にhomotopy同値です。詳しくは例2.10.16を参照。
(c) グラフにおいて異なる $2$ 頂点をつなぐ辺を等化して得られるグラフはもとのグラフにhomotopy同値です。事実として、任意の連結グラフは複数の基点付き円周 $(S_{\lambda}^{1}, x_{\lambda})$ たちを基点で束ねた $\bigvee_{\lambda\in \Lambda}S_{\lambda}^{1} = \left(\bigsqcup_{\lambda\in \Lambda}S_{\lambda}^{1}\right)/\left(\bigsqcup_{\lambda\in \Lambda}\{x_{\lambda}\}\right)$ にhomotopy同値です。
図2.10.1 : 商写像 $p$ に対するhomotopy逆写像 $q$ と恒等写像を $q\circ p$ につなぐhomotopy
補足2.10.10
(位相空間のhomotopy圏)

位相空間を対象、連続写像のhomotopy類を射とする圏を位相空間のhomotopy圏といい $\hTop$ により表すことにします。射の合成をwell-definedに与えられるというのが命題2.10.4で示したことであり、結合則は連続写像における結合則からただちに従います。恒等写像の代表するhomotopy類が恒等射を与え、homotopy同値写像の代表するhomotopy類は同型射を定めます。また、位相空間 $X$ に自身を対応させ、連続写像 $f : X\to Y$ をその代表するhomotopy類を対応させることで位相空間の圏 $\Top$ からの関手\[\Top\to \hTop\]が構成されます。

強変位レトラクト
定義2.10.11
(停留するhomotopy)

$X, Y$ を位相空間、$A$ を $X$ の部分空間とする。homotopy $H : X\times I\to Y$ であって任意の $a\in A$, $t\in I$ に対して $H(a, t) = H_{0}(a)$ を満たすものを $A$ を保つhomotopyという通常は $A$ において停留するhomotopyと呼ばれます。ここでは基点を保つhomotopyの方に寄せて $A$ を保つhomotopyと呼ぶことにしたいと思います。(きちんとした教科書において使われる言葉使いかは未調査)。また、$A$ を基点付き空間の基点とするときは基点を保つhomotopyという。連続写像 $f, g : X\to Y$ について、$f$ を $g$ につなぐ $A$ を保つhomotopyが存在することを\[f\sim g \rel A\]により表す。

定義2.10.12
(変位レトラクト・強変位レトラクト)

$X$ 位相空間、$A$ をその部分空間、$i : A\to X$ を包含写像とする。

(1) 連続写像 $r : X\to A$ であって $r\circ i$ が恒等写像 $\Id_{A}$ である言い換えると、$r$ の制限 $r|_{A} : A\to A$ が恒等写像であるということ。ものをレトラクションという。$A$ に対してレトラクションが存在するとき、$A$ を $X$ のレトラクトという。
(2) $A$ へのレトラクション $r : X\to A$ に対して $i\circ r$ を恒等写像 $\Id_{X}$ につなぐhomotopyが存在するとき、$r$ を変位レトラクションという。$A$ に対して変位レトラクションが存在するとき、$A$ を $X$ の変位レトラクトという。
(3) $A$ へのレトラクション $r : X\to A$ に対して $i\circ r$ を恒等写像 $\Id_{X}$ につなぐhomotopyであって $A$ を保つものが存在するとき、$r$ を強変位レトラクションという。$A$ に対して強変位レトラクションが存在するとき、$A$ を $X$ の強変位レトラクトというこちらを変位レトラクション、変位レトラクトと呼ぶテキストも多いです。
命題2.10.13

$X$ を位相空間、$A$ をその部分空間とする。$A$ が $X$ の変位レトラクトならば $X\simeq A$ である。

証明

変位レトラクション $r : X\to A$ を取ります。包含写像 $i : A\to X$ が $r$ のhomotopy逆写像であることを示します。まず、$r\circ i\sim \Id_{A}$ は $r\circ i = \Id_{A}$ なのでよいです。また、$i\circ r \sim \Id_{X}$ は変位レトラクションの定義から従います。よって、$i$ は $r$ のhomotopy逆写像であり、$X\simeq A$ が従います。

命題2.10.14

$X$ をHausdorff空間とするとき、そのレトラクト $A$ は閉集合である。

証明

レトラクション $r : X\to A$ を取り、$i : A\to X$ を包含写像とします。$i\circ r : X\to X$ の連続性と $X$ のHausdorff性より部分集合 $\{x\in X\mid i\circ r(x) = x\}$ は閉集合ですが $($命題2.3.13$)$、これは明らかにこれは $A$ に一致しています。よって、$A$ は閉集合です。

補足2.10.15

$X$ が $T_{1}$ 空間だと反例ありです。例えば、非負整数集合 $\N$ に補有限位相を入れたとき、その任意の無限部分集合がレトラクトであることが示せるので、非負偶数全体からなる集合が閉でないレトラクトになります。実際、無限部分集合 $A$ に対して写像 $r : \N\to A$ を\[r(n) = \min\{k\in \N\mid k\geq n, \ k\in A\}\]により定義すれば$A$ が無限集合であることから $r$ が定義できています。、明らかに $r|_{A} = \Id_{A}$ であるし、任意の開集合 $U$ に対して $r^{-1}(U)^{c} = r^{-1}(U^{c})$ が有限集合なので $r^{-1}(U)$ は開集合となり $r$ の連続性も確かめられ、$r$ がレトラクションであることが従い、$A$ はレトラクトです。

例2.10.16

(a) $n < m$ とします。Euclid空間 $\R^{m}$ における部分空間 $\R^{n}$ は強変位レトラクトです。実際、homotopy\[H : \R^{m}\times I\to \R^{m} : (x_{1}, \dots, x_{m}, t)\mapsto (x_{1}, \dots, x_{n}, tx_{n + 1}, \dots, tx_{m})\]が $i\circ r\sim \Id_{\R^{m}} \rel \R^{n}$ を導きます。
(b) アニュラスやMöbiusの帯は円周 $S^{1}$ において、その中央に位置する円周は強変位レトラクトです。次の図のように、境界から中央に向かってつぶす連続写像が強変位レトラクションになります。従って、命題2.10.13よりアニュラス、Möbiusの帯、円周は互いにhomotopy同値です。
図2.10.2
(c) 事実として、$n$ 次元球体 $D^{n}$ においてその境界である球面 $S^{n - 1}$ は強変位レトラクトではありません。このことはhomotopy型により決まる不変量であるhomology群もしくはhomotopy群が $D^{n}$ と $S^{n - 1}$ で異なることから確かめられます。

一般に連続写像を与えられたとき、次に定義する写像柱を考えることで値域側のhomotopy型を保ちながら埋め込みで置き換えることができます。

定義2.10.17
(写像柱・縮約写像柱)

(1) $X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を連続写像とする。$f$ により $X\times I$ の $X\times \{0\}$ の部分と $Y$ を等化した空間 $M_{f} = ((X\times I)\sqcup Y)/((x, 0)\sim f(x) : x\in X)$ を写像柱という。明らかな埋め込み $Y\to M_{f}$ により $Y$ を $M_{f}$ の部分空間とみなす。
(2) $X, Y$ を基点付き空間、$f : X\to Y$ を基点を保つ連続写像とする。写像柱 $M_{f}$ の部分空間 $\{x_{0}\}\times I\subset M_{f}$ 正確には商写像による $\{x_{0}\}\times I\subset X\times I$ の像のことですが、そこまできちんと書き下しているとくどくなると思われるので、混乱の恐れのない場合にはこういうラフな表現も許容することにします。を等化して得られる空間 $\tilde{M}_{f} = M_{f}/(\{x_{0}\}\times I)$ を縮約写像柱という。写像柱の場合と同様に $Y$ を $\tilde{M}_{f}$ の部分空間とみなし、$Y$ の基点 $y_{0}$ により $\tilde{M}_{f}$ を基点付き空間とみなす。
図2.10.3
命題2.10.18

(1) $X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を連続写像とする。写像柱 $M_{f}$ の部分空間としての $Y$ は強変位レトラクトであり、$Y$ と $M_{f}$ はhomotopy同値である。また、連続写像 $j : X\to M_{f} : x\mapsto (x, 1)$ は $f : X\to Y\subset M_{f}$ にhomotopicな埋め込みである。
(2) $X, Y$ を基点付き空間、$f : X\to Y$ を基点を保つ連続写像とする。縮約写像柱 $\tilde{M}_{f}$ の部分空間としての $Y$ は強変位レトラクトであり、$Y$ と $\tilde{M}_{f}$ はhomotopy同値である。また、連続写像 $j : X\to \tilde{M}_{f} : x\mapsto (x, 1)$ は $f : X\to Y\subset \tilde{M}_{f}$ にhomotopicな埋め込みである。
証明

いずれも容易です。

可縮空間
定義2.10.19
(可縮空間)

$X$ を位相空間とする。

(1) $X$ が一点からなる変位レトラクトを持つとき、$X$ は可縮であるという。
(2) $X$ が一点からなる強変位レトラクトを持つとき、$X$ は強可縮であるという普通は強い意味で可縮と呼ぶかと思います。また、こちらの意味で単に可縮と呼ぶテキストもあります。
命題2.10.20

位相空間 $X$ に対して次は同値である。

(1) $X$ は可縮。
(2) $X\simeq \{*\}$.
証明

(1) ⇒ (2) $X$ の変位レトラクト $x_{0}$ が取れるので命題2.10.13より $X\simeq \{x_{0}\}$ です。

(2) ⇒ (1) 一点空間 $\{y_{0}\}$ からのhomotopy同値写像 $g : \{y_{0}\}\to X$ とそのhomotopy逆写像 $f : X\to \{y_{0}\}$ を取ります。$g\circ f\sim \Id_{X}$ は $r : X\to \{g(y_{0})\}$ が変位レトラクションであることを意味します。

例2.10.21

(a) Euclid空間 $\R^{n}$ は強可縮です。実際、原点が強変位レトラクトであり、包含写像 $i : \{0\}\to \R^{n}$ と明らかなレトラクション $r : \R^{n}\to \{0\}$ に対してhomotopy\[H : \R^{n}\times I\to \R^{n} : (x, t)\mapsto tx\]が $i\circ r\sim \Id_{\R^{n}}\rel \{0\}$ を与えます。
(b) 事実として、$n$ 次元球面 $S^{n}$ は可縮ではありません。このことはhomotopy型により決まる不変量であるhomology群もしくはhomotopy群が一点からなる空間と異なることから確かめられます。
補足2.10.22

可縮であっても強可縮であるとは限りません。詳しくは[A. Hatcher, Algebraic Topology]のChapter 0のExercise 6を参照ただし、解答はないので注意。

錐と写像錐、そして、それらの縮約版を導入しておきます。

定義2.10.23
(錐・縮約錐)

(1) 位相空間 $X$ に対して $(X\times I)/(X\times \{1\})$ を $X$ 上の錐といい $CX$ と書く。$X$ と $X\times \{0\}\subset CX$ を同一視して $X\subset CX$ ともみなすことにする。
(2) 基点付き空間 $X$ に対して $(X\times I)/((X\times \{1\})\cup (\{x_{0}\}\times I)) = CX/(\{x_{0}\}\times I)$ を $X$ 上の縮約錐といい $\tilde{C}X$ と書く。錐と同様に $X\subset \tilde{C}X$ ともみなすことにする。そして、$X$ の基点 $x_{0}$ により $\tilde{C}X$ も基点付き空間と見なす$(X\times \{1\})\cup (\{x_{0}\}\times I)$ を等化してできた一点でもあります。
定義2.10.24
(写像錐・縮約写像錐)

(1) $X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を連続写像とする。$f$ により $CX$ と $Y$ を等化した空間 $C_{f} = (CX\sqcup Y)/((x, 0)\sim f(x) : x\in X)$ を $f$ の写像錐という。
(2) $X, Y$ を基点付き空間、$f : X\to Y$ を基点を保つ連続写像とする。$f$ により $\tilde{C}X$ と $Y$ を等化した空間 $\tilde{C}_{f} = (\tilde{C}X\sqcup Y)/((x, 0)\sim f(x) : x\in X)$ を $f$ の縮約写像錐という。$Y$ の基点 $y_{0}$ により $\tilde{C}_{f}$ も基点付き空間とみなす。

錐および写像錐によってnull-homotopicな連続写像が特徴付けられます。

命題2.10.25

$X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を連続写像とする。次は同値である。

(1) $f$ はnull-homotopicである。
(2) $f$ は連続写像 $CX\to Y$ に拡張する。
(3) 写像錐 $C_{f}$ の部分空間としての $Y$ はレトラクトである。
証明

(1) ⇒ (2) $f$ を定値写像につなぐhomotopy $H : X\times I\to Y$ は商写像 $p : X\times I\to CX$ の普遍性より連続写像 $F : CX\to Y$ を誘導し、これが $f$ の拡張です。

(2) ⇒ (1) $f$ の拡張 $F : CX\to X$ が存在するとき、商写像 $p : X\times I\to CX$ との合成 $H = F\circ p$ が $f$ を定値写像につなぐhomotopyになります。

(2) ⇔ (3) 明らかです。

系2.10.26

位相空間 $X$ に対して次は同値である。

(1) $X$ は可縮。
(2) 恒等写像 $\Id_{X} : X\to X$ は連続写像 $CX\to X$ に拡張する。

同様に、縮約錐や縮約写像錐によって基点を保ってnull-homotopicな連続写像が特徴付けられます。

命題2.10.27

$X, Y$ を基点付き空間、$f : X\to Y$ を基点を保つ連続写像とする。次は同値である。

(1) $f$ は基点を保ってnull-homotopicである。
(2) $f$ は連続写像 $\tilde{C}X\to Y$ に拡張する。
(3) 縮約写像錐 $\tilde{C}_{f}$ の部分空間としての $Y$ はレトラクトである。
系2.10.28

基点付き空間 $X$ に対して次は同値である。

(1) $X$ は強化縮であり、基点 $x_{0}$ は強変位レトラクトである。
(2) 恒等写像 $\Id_{X} : X\to X$ は連続写像 $\tilde{C}X\to X$ に拡張する。
2.10.3 コンパクト開位相
コンパクト開位相とその性質

$X, Y$ を位相空間とします。homotopy $H : X\times I\to Y$ が与えられたとき、各 $t\in I$ に対して $H$ の $X\times \{t\}$ への制限 $H_{t} : X\to Y$ を対応させることで写像\[c : I\to C(X, Y) : t\mapsto H_{t}\]が構成でき、この意味でhomotopy $H$ を連続写像全体からなる集合 $C(X, Y)$ における連続曲線とみなしたくなります。もちろんそのためには $C(X, Y)$ に適切な位相を与える必要があり、次で定義するコンパクト開位相を導入します。

定義2.10.29
(コンパクト開位相)

$X, Y$ を位相空間とする。$X$ のコンパクト集合 $K$ と $Y$ の開集合 $U$ に対して $C(X, Y)$ の部分集合 $W(K, U)$ を\[W(K, U) = \{f\in C(X, Y)\mid f(K)\subset U\}\]により定める。これら全体からなる部分集合族\[\{W(K, U)\mid K\subset X : \text{compact}, \ U\subset Y : \text{open}\}\]により生成する位相を $C(X, Y)$ のコンパクト開位相という。

空間対の間の連続写像全体からなる集合 $C((X, A), (Y, B))$ や基点を保つ連続写像全体からなる集合 $C(X, Y)_{0}$ などには $C(X, Y)$ のコンパクト開位相の相対位相を考えることにします。

コンパクト開位相に関する基本的な性質として次のことを確かめておきます。

命題2.10.30

$X, Y. Z$ を位相空間とする。次が成立する。

(1) 連続写像 $g : Y\to Z$ に対して押し出し $g_{*} : C(X, Y)\to C(X, Z) : f\mapsto g_{*}(f) = g\circ f$ は連続である。
(2) 連続写像 $f : X\to Y$ に対して引き戻し $f^{*} : C(Y, Z)\to C(X, Z) : g\mapsto f^{*}(g) = g\circ f$ は連続である。
(3) $X$ が局所コンパクトHausdorff空間ここでは各点においてコンパクト近傍による近傍基が存在するという意味の局所コンパクト性があれば十分であり、Hausdorff性は使いません。ならば評価写像 $\ev : C(X, Y)\times X\to Y : (f, x)\mapsto f(x)$ は連続である。
(4) 写像 $\inj : Y\to C(X, X\times Y) : y\mapsto (x\mapsto (x, y))$ が定まり連続である。
(5) 写像 $\adj : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z)) : f\mapsto (x\mapsto f|_{\{x\}\times Y})$ が定まり、$Y$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば全単射である。また、$X, Y$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば同相写像である。
(6) $X, Y$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば合成 $\circ : C(X, Y)\times C(Y, Z)\to C(X, Z) : (f, g)\mapsto g\circ f$ は連続である。
証明

一般に、写像の連続性の確認のためには値域側の準開基の各要素に対して逆像が定義域側の開集合になることを示せば十分なことに注意します。

(1) $X$ のコンパクト集合 $K$ と $Z$ の開集合 $U$ に対して\[(g_{*})^{-1}(W(K, U)) = \{f\in C(X, Y)\mid g(f(K))\subset U\} = W(K, g^{-1}(U))\]であるので連続です。

(2) $X$ のコンパクト集合 $K$ と $Z$ の開集合 $U$ に対して\[(f^{*})^{-1}(W(K, U)) = \{g\in C(Y, Z)\mid g(f(K))\subset U\} = W(f(K), U)\]であるので連続です。

(3) $V$ を $Y$ の開集合とし、$\ev^{-1}(V)$ が $C(X, Y)\times X$ の開集合であることを示します。$(f, x)\in \ev^{-1}(V)$ を取り、これが内点であることを示します。まず、$f(x) = \ev(f, x)\in V$ より $f^{-1}(V)$ は $x$ の開近傍です。$x$ のコンパクト近傍 $K$ を $K\subset f^{-1}(V)$ となるように取ります。$\ev(W(K, V)\times \Int K)\subset V$ なので $W(K, V)\times \Int K$ が $\ev^{-1}(V)$ に含まれる $(f, x)$ の開近傍になり、$(f, x)$ は内点です。以上により $\ev^{-1}(V)$ は開集合であり、$\ev$ は連続です。

(4) 各 $y\in Y$ に対して写像 $\inj(y)$ が実際に $C(X, X\times Y)$ に属すことは明らかであり、$\inj : Y\to C(X, X\times Y)$ は定義できています。あとは連続性を確かめればよいですが、そのためにはコンパクト空間 $K$ と $X\times Y$ の開集合 $U$ に対して $\inj^{-1}(W(K, U))$ が開集合であることを示せばよいです。容易に分かるように\begin{eqnarray*}y\in \inj^{-1}(W(K, U)) & \Leftrightarrow & \inj(y)\in W(K, U) \\& \Leftrightarrow & \inj(y)\in \{f\in C(X, X\times Y)\mid f(K)\subset U\} \\& \Leftrightarrow & \inj(y)(K)\subset U \\& \Leftrightarrow & K\times \{y\}\subset U \end{eqnarray*}です。$K$ のコンパクト性から\[\inj^{-1}(W(K, U)) = \{y\in Y\mid K\times \{y\}\subset U\}\]は開集合です。

(5) 単なる集合間の写像として全単射\[\adj : \Map(X\times Y, Z)\to \Map(X, \Map(Y, Z)) : f\mapsto (x\mapsto f|_{\{x\}\times Y}),\]が取れました。各 $f\in C(X\times Y, Z)$ に対して $\adj(f)$ は連続写像の合成\[\adj(f) : X\xrightarrow{\inj} C(Y, X\times Y)\xrightarrow{f_{*}} C(Y, Z) : x\mapsto (y\mapsto (x, y))\mapsto (y\mapsto f(x, y))\]により表されるので $C(X, C(Y, Z))$ に属します。もし $Y$ が局所コンパクトHausdorff空間とすると、各 $g\in C(X, C(Y, Z))$ に対して $\adj^{-1}(g)$ は連続写像の合成\[\adj^{-1}(g) : X\times Y\xrightarrow{g\times \Id_{Y}}C(Y, Z)\times Y\xrightarrow{\ev} Z : (x, y)\mapsto (g(x), y)\mapsto g(x)(y)\]として表されるので $C(X\times Y, Z)$ に属します評価写像 $\ev$ の連続性に $Y$ の局所コンパクトHausdorff性を使用。。よって、写像 $\adj : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z))$ は常に定まり、もし $Y$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば全単射です。

以下、$X, Y$ は局所コンパクトHausdorff空間としてこの対応が同相写像であることを示します。まず、$X, Y$ の局所コンパクトHausdorff性より評価写像\[\ev : C(X\times Y, Z)\times (X\times Y)\to Z\]が連続なので、\[\adj(\ev) : C(X\times Y, Z)\times X\to C(Y, Z)\]が連続となり、\[\adj(\adj(\ev)) : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z))\]も連続となります。続いて、$X, Y$ の局所コンパクトHausdorff性より評価写像\[\ev : C(X, C(Y, Z))\times X\to C(Y, Z),\]\[\ev : C(Y, Z)\times Y\to Z\]が連続なので、合成\[\ev\circ (\ev\times \Id_{Y}) : C(X, C(Y, Z))\times (X\times Y)\to Z\]が連続となり、\[\adj(\ev\circ (\ev\times \Id_{Y})) : C(X, C(Y, Z))\to C(X\times Y, Z)\]の連続性が従います。以上により同相であることが分かりました。

(6) $X, Y$ の局所コンパクトHausdorff性より合成写像\[C(X, Y)\times C(Y, Z)\times X\to C(Y, Z)\times Y\to Z\]は連続であり、$\adj$ による移り先 $\circ : C(X, Y)\times C(Y, Z)\to C(X, Z)$ も連続です。

ということで、局所コンパクトHausdorff空間 $X$ と位相空間 $Y$ に対しては全単射\[\adj : C(X\times I, Y)\to C(I, C(X, Y))\]が得られ、つまり、この対応によりhomotopy $H : X\times I\to Y$ と連続曲線 $c : I\to C(X, Y)$ を同一視することが可能となります。

空間対の間のhomotopyについても $C((X, A), (Y, B))$ を $C(X, Y)$ の部分空間と見なすことで同様に連続曲線たちとの全単射\[\adj : C((X, A)\times I, (Y, B))\to C(I, C((X, A), (Y, B)))\]が定まります。

コンパクトHausdorff空間の自己同相群は位相群

位相の与えられた群 $G$ は積演算 $\mu : G\times G\to G : (x, y)\mapsto xy$ と各元にその逆元を対応させる写像 $\inv : G\to G : x\mapsto x^{-1}$ がともに連続となるとき位相群と呼ばれます。そして、コンパクトHausdorff空間の自己同相群にコンパクト開位相を与えることで位相群になることが知られています。

定理2.10.31
(コンパクトHausdorff空間の自己同相群は位相群)

コンパクトHausdorff空間 $X$ に対して自己同相群 $\Homeo(X)$ は位相群である。

証明

$\Homeo(X)$ には $C(X, X)$ における相対位相を与えます。積 $\Homeo(X)\times \Homeo(X)\to \Homeo(X)$ の連続性はよいので、逆写像を対応させる写像 $\inv : \Homeo(X)\to \Homeo(x) : f\mapsto f^{-1}$ の連続性を示せばよいです。$X$ のコンパクト部分空間 $K$ と開集合 $U$ を取ります。このとき、\begin{eqnarray*}\inv^{-1}(W(K, U)) & = & \inv^{-1}(\{f\in \Homeo(X)\mid f(K)\subset U\}) \\& = & \inv^{-1}(\{f\in \Homeo(X)\mid K\subset f^{-1}(U)\}) \\& = & \inv^{-1}(\{f\in \Homeo(X)\mid f^{-1}(U^{c})\subset K^{c}\}) \\& = & W(U^{c}, K^{c})\end{eqnarray*}であり、$\inv$ は連続です。以上により $\Homeo(X)$ は位相群です。

補足2.10.32

より一般に、各点に連結コンパクト近傍が存在するようなHausdorff空間 $X$ に対して自己同相群 $\Homeo(X)$ が位相群になることが知られており、例えば、任意の位相多様体に対して自己同相群は位相群になります。証明は[J. J. Dijkstra, On Homeomorphism Groups and the Compact-Open Topology]を参照。(そんなに難しいことはせず、1ページもないくらいで証明されています。)

2.10.4 縮約懸垂とループ空間の随伴性
wedge和・smash積

homotopy論において行われるその他の操作・演算についてまとめます。

定義2.10.33
(wedge和)

$X, Y$ を基点付き空間とする。$X, Y$ の基点 $x_{0}, y_{0}$ を等化して得られる空間 $(X\sqcup Y)/\{x_{0}, y_{0}\}$ を $X, Y$ のwedge和といい $X\vee Y$ により表す。等化してできた点を基点として基点付き空間とみなす。また、一般の基点付き空間の族 $\{(X_{\lambda}, x_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対し、それぞれの基点を等化して得られる空間 $\left(\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\right)/\left(\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}\{x_{\lambda}\}\right)$ に等化してできた点を基点として与えて基点付き空間としたものを $\bigvee_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ と表す。

wedge和については通常、埋め込み $i : X\to X\times Y : x\mapsto (x, y_{0})$ と $j : Y\to X\times Y : y\mapsto (x_{0}, y)$ により誘導される自然な埋め込み $X\vee Y\to X\times Y$ によって直積空間 $X\times Y$ の部分空間 $(X\times \{y_{0}\})\cup (\{x_{0}\}\times Y)$ と同一視します。

定義2.10.34
(smash積)

$X, Y$ を基点付き空間とする。商空間 $(X\times Y)/(X\vee Y)$ をsmash積といい $X\wedge Y$ により表す。等化してできた点を基点として基点付き空間とみなす。

smash積は次の性質を持ちます。

命題2.10.35

$X, Y, Z$ を基点付き空間とするとき、次の自然な同相が存在する。ただし、(3)においては $X, Z$ は局所コンパクトHausdorff空間とする。

(1) $X\wedge S^{0}\cong S^{0}\wedge X\cong X$.
(2) $X\wedge Y\cong Y\wedge X$.
(3) $(X\wedge Y)\wedge Z\cong X\wedge (Y\wedge Z)$.
証明

(1) (2) 簡単です。

(3) $Z$ が局所コンパクトHausdorff空間なので商写像 $p : X\times Y\to X\wedge Y$ と恒等写像 $\Id_{Z} : Z\to Z$ の直積\[p\times \Id_{Z} : X\times Y\times Z\to (X\wedge Y)\times Z\]は商写像です。そして、商写像\[q : (X\wedge Y)\times Z\to (X\wedge Y)\wedge Z\]との合成\[q\circ (p\times \Id_{Z}) : X\times Y\times Z\to (X\wedge Y)\wedge Z\]も商写像です。これは位相空間として\[(X\wedge Y)\wedge Z\cong \dfrac{X\times Y\times Z}{(\{x_{0}\}\times Y\times Z)\cup (X\times \{y_{0}\}\times Z)\cup(X\times Y\times \{z_{0}\})}\]であることを意味し、同様に $X$ の局所コンパクトHausdorff性より\[X\wedge (Y\wedge Z)\cong \dfrac{X\times Y\times Z}{(\{x_{0}\}\times Y\times Z)\cup (X\times \{y_{0}\}\times Z)\cup(X\times Y\times \{z_{0}\})}\]なので $(X\wedge Y)\wedge Z\cong X\wedge (Y\wedge Z)$ です。

定理2.10.36

任意の $n, m\in \N$ に対して同相 $S^{n}\wedge S^{m}\cong S^{n + m}$ が成立する。

証明

ここでは $S^{n} = I^{n}/\partial I^{n}$ と考え、等化してできた点を基点として基点付き空間とみなします。商写像 $p_{n} : I^{n}\to S^{n}$ どうしの直積 $p_{n}\times p_{m} : I^{n}\times I^{m}\to S^{n}\times S^{m}$ も商写像であり、\[(p_{n}\times p_{m})^{-1}(S^{n}\vee S^{m}) = (I^{n}\times \partial I^{m})\cup (\partial I^{n}\times I^{m})\subset I^{n}\times I^{m}\]が成立しています。従って、\begin{eqnarray*}S^{n + m} & = & I^{n + m}/\partial I^{n + m} \\& = & (I^{n}\times I^{m})/((I^{n}\times \partial I^{m})\cup (\partial I^{n}\times I^{m})) \\& \cong & (S^{n}\times S^{m})/(S^{n}\vee S^{m}) = S^{n}\wedge S^{m}\end{eqnarray*}です。

命題2.10.37

$X, Y, Z$ を基点付き空間、$Y$ は局所コンパクトHausdorff空間とするとき、次の自然な全単射\[C(X\wedge Y, Z)_{0}\to C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}\]が存在する。

証明

まず、写像 $\varphi : C(X\wedge Y, Z)_{0}\to C(X, C(Y, Z))$ が合成\[C(X\wedge Y, Z)_{0} \xrightarrow{\text{incl.}} C(X\wedge Y, Z)\xrightarrow{\text{pull-back}} C(X\times Y, Z) \xrightarrow{\adj} C(X, C(Y, Z))\]により得られます。各 $f\in C(X\wedge Y, Z)_{0}$ に対して $\varphi(f)\in C(X, C(Y, Z))$ は各点 $x\in X$ で基点を保つ連続写像 $\varphi(f)(x)\in C(Y, Z)_{0}$ を与えており、このことと $C(Y, Z)_{0}$ に相対位相を考えていることから $\varphi(f)$ は $X$ から $C(Y, Z)_{0}$ への写像として連続です。また、$\varphi(f)$ は基点 $x_{0}\in X$ において $C(Y, Z)_{0}$ の基点、つまり定値写像 $\varphi(f)(x_{0}) = \cst_{z_{0}}$ を与えているので $\varphi(f)$ は基点を保つ連続写像です。従って、$\varphi(f)\in C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}$ であり、写像 $\varPhi : C(X\wedge Y, Z)_{0}\to C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}$ が定まります。

$\varPhi$ の逆写像を構成します。写像 $\psi : C(X, X(Y, Z)_{0})_{0}\to C(X\times Y, Z)$ が合成\[C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}\xrightarrow{\text{incl.}} C(X, C(Y, Z)_{0})\xrightarrow{\text{push-out}} C(X, C(Y, Z))\xrightarrow{\adj^{-1}}C(X\times Y, Z)\]により得られます。各 $g\in C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}$ に対して $\psi(g)\in C(X\times Y, Z)$ は $X\vee Y$ において基点 $z_{0}$ を値に取るため基点を保つ連続写像 $\varPsi(g) : X\wedge Y\to Z$ が誘導されます。従って、写像 $\varPsi : C(X, C(Y, Z)_{0})_{0}\to C(X\wedge Y, Z)_{0}$ が定まり、これが $\varPhi$ の逆写像であることは容易です。

系2.10.38

$X, Y, Z$ を基点付き空間、$Y$ は局所コンパクトHausdorff空間とするとき、次の自然な全単射\[[X\wedge Y, Z]_{0}\to [X, C(Y, Z)_{0}]_{0}\]が存在する。

証明

$I_{+} = I\sqcup \{*\}$ とおきます。容易に分かるように、任意の基点付き空間 $W$ に対して $W\wedge I_{+} = (W\times I)/(\{w_{0}\}\times I)$ です。$Y$ の局所コンパクトHausdorff性と命題2.10.37より全単射 $C(X\wedge Y\wedge I_{+}, Z)_{0}\to C(X\wedge I_{+}, C(Y, Z)_{0})_{0}$ が得られ、これにより $X\wedge Y$ から $Z$ への基点を保つhomotopyと $X$ から $C(Y, Z)_{0}$ への基点を保つhomotopyは一対一対応しています。つまり、全単射 $[X\wedge Y, Z]_{0}\to [X, C(Y, Z)_{0}]_{0}$ が定まります。

縮約懸垂・ループ空間

系2.10.38の形の随伴として最も重要なのが、縮約懸垂とループ空間による随伴です。

定義2.10.39
(縮約懸垂とループ空間)

$X$ を基点付き空間とする。

(1) $X\wedge S^{1}$ を $X$ の縮約懸垂といい $\Sigma X$ により表す。また、帰納的に $\Sigma^{0}X = X$, $\Sigma^{n + 1}X = \Sigma(\Sigma^{n}X)$ と定める。
(2) $C(S^{1}, X)_{0}$ を $X$ のループ空間といい $\Omega X$ により表す。また、帰納的に $\Omega^{0}X = X$, $\Omega^{n + 1}X = \Omega(\Omega^{n}X)$ と定める。
系2.10.40
(縮約懸垂とループ空間の随伴性)

$n$ を非負整数とする。位相空間 $X, Y$ に対して自然な全単射 $[\Sigma^{n} X, Y]_{0} = [X, \Omega^{n} Y]_{0}$ が存在する。

証明

$S^{1}$ が局所コンパクトHausdorff空間であることに注意し、繰り返し系2.10.38を適用すればよいです。

以上です。

メモ

各所の自然性については証明さぼってます…

参考文献

[1] 服部晶夫 位相幾何学Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1977-1979)
[2] 加藤十吉 位相幾何学 裳華房 (1988)
[3] 河野明 玉木大 一般コホモロジー 岩波書店 (2008)
[4] A. Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, (2002), http://pi.math.cornell.edu/~hatcher/AT/ATpage.html
[5] J. J. Dijkstra, On Homeomorphism Groups and the Compact-Open Topology, Amer. Math. Monthly 112 (2005), pp. 910-912

更新履歴

2022/06/02
新規追加
2022/07/02
軽微な誤りを修正。
2022/11/02
自由homotopy集合と自由homotopy類という用語を定義中に追加。
2023/01/02
誤植を修正。
2023/07/02
$\adj : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z))$ が常に定まるという形で一部主張を一般化。
未導入の記号を使っていた箇所を修正。
2023/10/02
自己同相群がコンパクト開位相について位相群になるための十分条件についてより一般的な事実の紹介を追加。
2024/07/02
$\adj : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z))$ が定まることの証明を読みやすく修正。
2024/11/02
homotopyの台の定義を追加。