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数学ノートについて
2.6 コンパクト空間

位相空間に関する非常に重要な性質であるコンパクト性とそれに関連する性質をまとめます。

2.6.1 コンパクト空間
コンパクト空間

被覆に関する用語を少し準備してからコンパクト空間を定義します。

定義2.6.1
(部分被覆)

(1) $X$ を位相空間とする。$X$ の被覆 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$、つまり、$X = \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ を満たす $X$ の部分集合族に対し、その部分族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ であって再び被覆になるものを部分被覆という。
(2) $X$ の部分集合 $A\subset X$ の $X$ における被覆 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$、つまり、$A\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}$ を満たす $X$ の部分集合族に対し、その部分族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ であって再び $A$ の被覆になるものを部分被覆という。
(3) 部分被覆であって添字集合が有限集合であるものを有限部分被覆という。
定義2.6.2
(コンパクト空間)

$X$ を位相空間とする。$X$ の任意の開被覆今は被覆を添字付きの部分集合族として定義しているので、ここでの開被覆というのももちろん添字付き開集合族ですが、通常は添字の無い単なる部分集合族について被覆など定義し、それを用いてコンパクト性を定義します。しかし、どちらの定義も同値であり、部分集合族の添字の有無はコンパクト性を考える上では全く問題にならないので、以下ではこの点については特にこだわらないことにします。に対して有限部分被覆が存在するとき、$X$ はコンパクト $($compact$)$ であるという。位相空間 $X$ の部分空間 $A$ であって相対位相に関してコンパクトであるものをコンパクト部分空間 $($コンパクト部分集合$)$ という。

コンパクト部分空間に関する簡単な確認をしておきます。

命題2.6.3

$X$ を位相空間、$A\subset X$ を部分集合とする。次は同値である。

(1) $A$ はコンパクト部分空間である。
(2) $A$ の $X$ における $($$X$ の開集合による$)$ 任意の開被覆に対して有限部分被覆が存在する。
証明

(1) ⇒ (2) $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ を $X$ における $A$ の開被覆とします。$V_{\lambda} := U_{\lambda}\cap A$ とおけば、$\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ は明らかに $A$ 自身における $A$ の開被覆です。(1)よりその有限部分被覆 $\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda'}$ を取れば、\[A = \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}V_{\lambda} = \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}(U_{\lambda}\cap A) = \left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda'}U_{\lambda}\right)\cap A\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}U_{\lambda}\]より $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda'}$ が $X$ における開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ の有限部分被覆です。

(2) ⇒ (1) $\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $A$ の $A$ 自身における開被覆とします。各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $X$ の開集合 $U_{\lambda}$ であって $V_{\lambda} = U_{\lambda}\cap A$ となるものを固定します。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ は明らかに $A$ の $X$ における開被覆であり、(2)よりその有限部分被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda'}$ が取れます。よって、\[A = \left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda'}U_{\lambda}\right)\cap A = \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}(U_{\lambda}\cap A) = \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}V_{\lambda}\]より $\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda'}$ が $A$ における開被覆 $\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ の有限部分被覆です。

例2.6.4
(コンパクト性に関する例)

(1) Euclid空間の部分空間について、コンパクトであることと有界閉集合であることとは同値です $($定理1.7.29$)$。従って、単位閉球体 $D^{n}$ や単位球面 $S^{n}$ はコンパクトであり、単位開球体 $\Int D^{n}$ や実数体 $\R$ の部分空間としての有理数体 $\Q$ はコンパクトではないです。Euclid空間 $\R^{n}$ 自身もコンパクトではないです。
(2) 有限集合上の位相空間はその位相に関わらずコンパクトです。$X$ を有限集合上の位相空間、$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ をその開被覆とするとき、各 $x\in X$ に対して $x\in U_{\varphi(x)}$ となる $\varphi(x)\in \Lambda$ を取ることで写像 $\varphi : X\to \Lambda$ を構成すれば、$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Img\varphi}$ がもとの開被覆に関する有限部分被覆になります。(まあ、そもそも開集合系自体が有限濃度なので、複数の添字に同じ開集合を対応させるとかなければ自明。)
(3) 無限集合に離散位相を与えた位相空間はコンパクトではないです。$X$ を無限集合に離散位相を与えた空間とし、その開被覆 $\mathcal{U} = \{\{x\}\}_{x\in X}$ を考えるとき、その部分被覆は $\mathcal{U}$ 自身以外にはありえず、有限部分被覆は存在しません。
(4) 補有限位相を与えた位相空間 $X$ はコンパクトです。実際、開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対して空でない $U_{\lambda_{0}}$ を固定した後にその補集合 $($有限集合$)$ の各点に対してその元の属する $U_{\lambda}$ を選べば有限部分被覆が構成されます。
コンパクト空間の基本性質

コンパクト空間に関する基本性質をまとめます。まずはコンパクト部分空間と閉集合の関係について。

命題2.6.5

$X$ はコンパクト空間とする。閉集合 $A\subset X$ はコンパクト部分空間である。

証明

$A$ の $X$ における開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。そこに開集合 $U_{\mu} := A^{c}$ を加えて $X$ の開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda\sqcup\{\mu\}}$ を構成し、$X$ のコンパクト性からその有限部分被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ を取ります。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda'\setminus \{\mu\}}$ がもとの $A$ の開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の有限部分被覆です。

命題2.6.6

$X$ をHausdorff空間とする。$X$ のコンパクト部分空間 $A$ は閉集合である。

証明

背理法より示します。$A$ をHausdorff空間 $X$ の閉でないコンパクト部分空間とします。点 $a\in \overline{A}\setminus A$ を取り、各 $x\in A$ に対して $a$ と $x$ を分離する開集合 $U_{x}$, $V_{x}$ を取りますつまり、$a\in U_{x}$ かつ $x\in V_{x}$ かつ $U_{x}\cap V_{x} = \varnothing$ です。。このとき、$\{V_{x}\}_{x\in A}$ は明らかに $A$ の $X$ における開被覆です。$A$ のコンパクト性から有限部分被覆 $\{V_{x}\}_{x\in B}$ を取ります。$U := \bigcap_{b\in B}U_{b}$ とするとき、各 $b\in B$ に対して $U\cap V_{b} = \varnothing$ を満たすので $U\cap \left(\bigcup_{b\in B}V_{b}\right) = \varnothing$ です。$a$ が $A$ の触点であったことと $U$ が $a$ の開近傍であることから $U\cap A\neq \varnothing$ ですが、これは $U\cap A\subset U\cap \left(\bigcup_{b\in B}V_{b}\right) = \varnothing$ に矛盾です。

系2.6.7

$X$ をコンパクトHausdorff空間とする。部分空間 $A$ に対して次は同値である。

(1) $A$ は閉集合。
(2) $A$ はコンパクト部分空間。
証明

(1) ⇒ (2) 命題2.6.5です。

(2) ⇒ (1) 命題2.6.6です。

Hausdorff空間においては互いに非交叉なコンパクト部分空間が開集合により分離可能であり、コンパクトHausdorff空間の正規性が分かります。

補題2.6.8

Hausdorff空間 $X$ における互いに非交叉なコンパクト部分空間は開集合により分離可能である。

証明

$A, B$ を $X$ の互いに非交叉なコンパクト部分空間とし、それらを分離する開集合 $U, V$ を構成します。各 $a\in A$, $b\in B$ に対し、$a, b$ を分離する開集合 $U_{a, b}$, $V_{a, b}$ を固定します。各 $a\in A$ に対して $\{V_{a, b}\}_{b\in B}$ が $B$ の開被覆であることと $B$ のコンパクト性からある有限部分集合 $B_{a}\subset B$ が存在して $B\subset \bigcup_{b\in B_{a}}V_{a, b}$ となります。そして、$W_{a} := \bigcap_{b\in B_{a}}U_{a, b}$, $Z_{a} := \bigcup_{b\in B_{a}}V_{b}$ は $a$ と $B$ を分離する開集合です。$\{W_{a}\}_{a\in A}$ が $A$ の開被覆であることと $A$ のコンパクト性から有限部分集合 $C\subset A$ であって $A\subset \bigcup_{a\in C}W_{a}$ を満たすものが取れます。$U := \bigcup_{a\in C}W_{a}$ と $V := \bigcap_{a\in C}Z_{a}$ が $A$ と $B$ を分離する開集合です。

系2.6.9
(コンパクトHausdorff空間の正規性)

コンパクトHausdorff空間 $X$ は正規空間である。

証明

コンパクト空間における閉集合のコンパクト性と補題2.6.8から分かります。

補足2.6.10

Hausdorff性を $T_{1}$ 性に緩めることはできません。例えば、無限集合上に補有限位相を与えた空間はコンパクト $T_{1}$ 空間ですがHausdorff空間ですらありません。

コンパクト空間の連続写像による像はコンパクトであり、実連続関数については最大値・最小値の原理が従います。

命題2.6.11
(コンパクト空間の連続像のコンパクト性)

$X$ はコンパクト空間、$Y$ を位相空間とする。連続写像 $f : X\to Y$ の像 $\Img f$ はコンパクト部分空間である。

証明

$\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $Y$ における $\Img f$ の開被覆とします。$\{f^{-1}(V_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ は $X$ の開被覆であり、$X$ のコンパクト性から有限部分被覆 $\{f^{-1}(V_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda'}$ を取れます。$\{V_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ が $\Img f$ の有限部分被覆になります。実際に被覆になっていることは\[\Img f = f(X) = f\left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda'}f^{-1}(V_{\lambda})\right) = \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}f(f^{-1}(V_{\lambda}))\subset \bigcup_{\lambda\in\Lambda'}V_{\lambda}\]より従います。

系2.6.12
(最大値・最小値の原理)

$X$ を空でないコンパクト空間とする。実連続関数 $f : X\to \R$ は $X$ のある点において最大値を取る。最小値についても同様である。

証明

$\Img f$ が $\R$ のコンパクト部分空間、つまり、有界閉集合であり、その最大値 $m$ が存在するので $f^{-1}(m)$ の点において $f$ は最大値を取ります。最小値についても同様です。

次は重要な事実です。

定理2.6.13
(コンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射は同相写像)

$X$ をコンパクト空間、$Y$ をHausdorff空間とする。$X$ から $Y$ への連続全単射 $f : X\to Y$ は同相写像である。

証明

逆写像の連続性を示せばよいですが、そのためには $f$ が閉写像であることを示せばよいです。$A\subset X$ を閉集合とします。命題2.6.5より $A$ はコンパクト、命題2.6.11よりその像 $f(A)$ もコンパクト、命題2.6.6よりHausdorff空間のコンパクト部分集合である $f(A)$ は閉集合です。よって、$f$ は閉写像であり、$f^{-1}$ の連続性が分かったので $f$ は同相写像です。

系2.6.14

$X$ をコンパクト空間、$Y$ をHausdorff空間とする。$X$ から $Y$ への連続単射 $f : X\to Y$ は埋め込みである。

証明

終域の制限 $f : X\to \Img f$ はコンパクト空間からHausdorff空間への連続全単射なので定理2.6.13より同相写像であり、つまり、$f : X\to Y$ は埋め込みです。

その他の基本的なこととして、コンパクト部分空間どうしの和集合や共通部分に関する性質を挙げておきます。

命題2.6.15

$X$ を位相空間とする。

(1) $\{K_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $X$ のコンパクト部分空間の有限族とする。和集合 $\bigcup_{\lambda\in\Lambda}K_{\lambda}$ はコンパクト部分空間である。
(2) $\{K_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $X$ のコンパクト閉集合の空でない族とする。このとき、共通部分 $\bigcap_{\lambda\in\Lambda}K_{\lambda}$ はコンパクト閉集合である。
(3) $\{K_{n}\}_{n\in\N}$ を $X$ の空でないコンパクト閉集合による減少列つまり、任意の $k\leq l$ に対して $K_{l}\subset K_{k}$ であるということ。とする。このとき、共通部分 $\bigcap_{n\in\N}K_{n}$ は空でないコンパクト閉集合である。
証明

(1) 和集合の開被覆は各 $K_{\lambda}$ の開被覆でもあるので、それぞれの $K_{\lambda}$ に関する有限部分被覆を取り、それらを合わせることで和集合に関するの有限部分被覆が構成されます。

(2) 共通部分は適当に取ったコンパクト閉集合 $K_{\lambda}$ の閉集合になるのでコンパクトです。

(3) (2)より共通部分が空でないことのみ示せば十分です。$\bigcap_{n\in\N}K_{n} = \varnothing$ として矛盾を導きます。このとき、$\bigcup_{n\in\N}K_{n}^{c} = X$ なので $\{K_{n}^{c}\}_{n\in\N}$ は $K_{0}$ の開被覆になります。有限部分被覆 $\{K_{n}^{c}\}_{n\in N}$ を取り $m := \max N$ とおくと、$K_{0}\subset \bigcup_{n\in N}K_{n}^{c} = K_{m}^{c}$ と $K_{m}\subset K_{0}$ より $K_{m}\neq \varnothing$ となり矛盾します。

補足2.6.16

$X$ がHausdorff空間であれば、そのコンパクト部分空間は閉集合になったので、コンパクト部分空間の空でない族について共通部分はコンパクト閉集合になります。しかし、一般にはコンパクト部分空間どうしの共通部分がまたコンパクト部分空間になるとは限りません。$X := \R\sqcup\{0'\}$ とし、写像 $i, i' : \R\to X$ を\[i(x) = x, \ i'(x) = \left\{\begin{array}{ll}x & (x\neq 0) \\0' & (x = 0)\end{array}\right.\]により定めます。$X$ にはこの $i, i'$ が埋め込みになるような位相を与えることができます位相空間としての直和 $\R\sqcup \R$ から $X$ への全射 $i\sqcup i' : \R\sqcup \R\to X$ を考え、$X$ に誘導位相 $($命題2.7.1$)$ を与えます。これは $2$ つの $\R$ をそれぞれの開集合 $\R\setminus \{0\}$ において恒等的に貼り合わせた空間と考えられるため $i, i'$ は埋め込みになります $($補題2.7.32$)$。。このとき、\begin{eqnarray*}i([-1, 1]) & = & [-1, 1], \\i'([-1, 1]) & = & [-1, 0)\cup \{0'\}\cup (0, 1]\end{eqnarray*}はともに $X$ のコンパクト部分空間ですが、その共通部分 $[-1, 0)\cup (0, 1]$ はコンパクト部分空間ではありません。

また、一般には空でないコンパクト部分空間の減少列の共通部分は空になりえます。こちらの例示は簡単で、非負整数集合 $\N$ に密着位相 $($任意の部分集合がコンパクト部分空間になる$)$ を考え、空でないコンパクト部分空間の減少列として $\{K_{n} := \{k\mid k\geq n\}\}_{n\in\N}$ を取ればよいです。

点列コンパクト空間

点列コンパクト空間を導入します。

定義2.6.17
(点列コンパクト空間)

位相空間 $X$ が点列コンパクトであるとは、その任意の点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ が収束部分列を持つことをいう。

コンパクト性と点列コンパクト性の関係について次が成立します。

命題2.6.18

第一可算公理を満たすコンパクト空間 $X$ は点列コンパクトである。

証明

背理法により示します。$\{x_{n}\}_{n\in\N}$ を収束部分列を持たない $X$ の点列とします。各点 $x\in X$ に対し、その開近傍であってそこに属す点列の点が高々有限個であるものが存在することを示します。もしこれが示されれば、そのような開近傍たちによる $X$ の有限被覆を取ることで点列が無限列であることへの矛盾が従います。

第一可算公理を満たすことにより、$x$ の単調減少な開近傍列 $\{U_{n}\}_{n\in\N}$ を、$x$ の任意の開近傍 $U$ に対してある $U_{n}$ であって $U_{n}\subset U$ を満たすものが存在するように取れます。もし全ての $U_{k}$ に対して点列の点が無限個属しているとすると、狭義単調増加数列 $\{n_{k}\}_{k\in\N}$ であって常に $x_{n_{k}}\subset U_{k}$ を満たすものを取ることができます。そのとき、$x$ の任意の開近傍 $U$ に対して $U_{n}\subset U$ となる $U_{n}$ を固定することで $k > n$ において $x_{n_{k}}\subset U_{k}\subset U_{n}\subset U$ であることが従い、部分列 $\{x_{n_{k}}\}_{k\in\N}$ は $x$ に収束します。これはもと点列 $\{x_{n}\}_{n\in\N}$ の取り方に矛盾し、従って、ある $U_{n}$ には点列の点は高々有限個しか属しません。

補足2.6.19

一般にはコンパクトならば点列コンパクト、点列コンパクトならばコンパクトのいずれも成立しないことが知られています。

例2.6.20

Euclid空間の有界閉集合は点列コンパクトです $($定理1.7.29$)$。

2.6.2 局所コンパクト空間
局所コンパクト空間

位相空間が局所コンパクトであるということを以下の形で導入します局所コンパクト性はテキストによって微妙に異なった定義がされるので注意が必要。補足2.6.30も参照。しかし、Hausdorff空間においてはいずれの流儀も同値であり、その違いを気にする必要がなくなるため、ここではその混乱を避ける意味で議論の対象をHausdorff空間に限定していくことにします。

定義2.6.21
(局所コンパクト空間)

$X$ を位相空間とする。

(1) 部分集合 $A\subset X$ であってその閉包 $\overline{A}$ がコンパクトであるものは相対コンパクトであるという。
(2) 各点 $x\in X$ に対してその相対コンパクト開近傍が存在するとき、$X$ は局所コンパクトであるという。
命題2.6.22

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。各点 $x\in X$ にはコンパクト閉集合による基本近傍系が存在する。

証明

$U$ を $x\in X$ の開近傍とし、$K\subset U$ を満たす $x$ のコンパクト閉近傍を構成すればよいです。$x$ の相対コンパクト開近傍 $V$ を取ります。$\overline{V}$ はコンパクトHausdorff空間であることから正規であり、$\overline{V}$ における閉集合である $\overline{V}\setminus (U\cap V)$ と $\{x\}$ を分離する $($$\overline{V}$ における$)$ 開集合 $S, T$ を取ることができます。このとき、

(i) $T$ は $X$ における開集合であり、
(ii) $\overline{T}$ はコンパクトかつ閉であり、
(iii) $\overline{T}\subset U$

となるので $K := \overline{T}$ とすればよいです。

(i) $T$ は $\overline{V}$ における開集合ですが、$T\subset U\cap V\subset \overline{V}$ より $U\cap V$ における開集合でもあります。開集合 $U\cap V\subset X$ における相対位相に関する開集合である $T$ は全空間 $X$ における開集合です。

(ii) $T\subset V$ より $\overline{T}\subset \overline{V}$ であり、コンパクトHausdorff空間の閉集合がコンパクトであったことか $\overline{T}$ のコンパクト性が従います。閉集合であることは自明です。

(iii) $\overline{T}\subset \overline{V}\setminus S\subset \overline{V}\setminus (\overline{V}\setminus (U\cap V))\subset U\cap V\subset U$.

補題2.6.23

局所コンパクトHausdorff空間 $X$ における互いに非交叉なコンパクト部分空間と閉集合は開集合により分離可能である。

証明

$A, B$ を $X$ の互いに非交叉なコンパクト部分空間と閉集合とし、それらを分離する開集合 $U, V$ を構成します。命題2.6.22を用いて各 $a\in A$ に対して $B^{c}$ に含まれるコンパクト閉近傍 $K_{a}$ を取ります。部分集合族 $\{\Int K_{a}\}_{a\in A}$ は $A$ の開被覆であり、ある有限部分集合 $C\subset A$ が存在して $\{\Int K_{a}\}_{a\in C}$ は有限部分被覆になります。$U := \bigcup_{a\in C}\Int K_{a}$, $V := \bigcap_{a\in C} K_{a}^{c}$ が $A$ と $B$ を分離する開集合です。

系2.6.24
(局所コンパクトHausdorff空間の正則性)

局所コンパクトHausdorff空間 $X$ は正則である。

証明

$1$ 点からなる空間のコンパクト性と補題2.6.23から従います。

補足2.6.25
(第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間の正規性)

さらに第二可算公理を課せば正規です。つまり、第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間は正規です。これは第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間がパラコンパクト空間と呼ばれるものになっていること $($命題2.9.11$)$、そして、パラコンパクトHausdorff空間が正規であること $($命題2.9.7$)$ から分かります。(直接示すこともできて、そっちの方が手っ取り早いのだけどここではしない。)

Baireの定理

局所コンパクトHausdorff空間に対するBaireの定理Baireの範疇定理と呼ばれることのほうが多いかも。を紹介します。

系2.6.26
(局所コンパクトHausdorff空間におけるBaireの定理)

$X$ を局所コンパクト空間Hausdorff空間とする。$\{U_{n}\}_{n\in\N}$ を $X$ の稠密開集合の列とするとき、共通部分 $\bigcap_{n\in\N}U_{n}$ は稠密である。

証明

$x\in X$ とその開近傍 $V$ を任意に取り、$V\cap \left(\bigcap_{n\in\N}U_{n}\right) \neq \varnothing$ を示します。まず、以下のようにコンパクト部分空間の列 $\{K_{n}\}_{n\in\N}$ を構成します。

$\Int K_{0}\neq \varnothing$, $K_{0}\subset V\cap U_{0}$.
$\Int K_{n + 1}\neq \varnothing$, $K_{n + 1}\subset \Int K_{n}\cap U_{n + 1}$.

実際に構成できることですが、まず $K_{0}$ について、$U_{0}$ の稠密性から $V\cap U_{0}$ は空でない開集合であり、適当に固定した点 $x_{0}\in V\cap U_{0}$ に対して命題2.6.22からそのコンパクト閉近傍であって $V\cap U_{0}$ に含まれるものを取ることができるので、それを $K_{0}$ とすればよいです。以下、$K_{n}$ についても同様に取っていけばよいです厳密にはこの列の構成において選択公理を使用しています。コンパクト部分空間 $K$ であって $\Int K\neq \varnothing$, $K\subset V\cap U_{n}$ を満たすもの全体からなる集合族を $\mathcal{K}_{n}$ とおき、各 $K\in \mathcal{K}_{n}$ に対して\[\mathcal{K}_{n + 1, K} := \{K'\in \mathcal{K}_{n + 1}\mid K'\subset \Int K\}\]とおきます。本文の議論により各 $\mathcal{K}_{n}, \mathcal{K}_{n + 1, K}$ はいずれも空ではないです。選択写像 $\varphi : \bigsqcup_{n\in\N}\mathcal{K}_{n}\to \bigsqcup_{n\in\N}\mathcal{K}_{n}$ を各 $K\in \mathcal{K}_{n}$ に対して $\varphi(K)\in \mathcal{K}_{n + 1, K}$ となるように取り、$K_{0}\in \mathcal{K}_{0}$ を任意に固定したのち、$K_{n + 1} := \varphi(K_{n})$ とすることで列 $\{K_{n}\}_{n\in\N}$ が構成されます。

これは空でないコンパクト部分空間の減少列なので共通部分 $K = \bigcap_{n\in\N}K_{n}$ は空ではありません。また、任意の $n\in \N$ に対して $K\subset K_{n}\subset V\cap U_{n}$ であることより $K\subset V\cap \left(\bigcap_{n\in\N}U_{n}\right)$ であり、$V\cap \left(\bigcap_{n\in\N}U_{n}\right) \neq \varnothing$ です。以上により稠密性が示されました。

双対的な事実として次が従います。こちらもBaireの定理と呼ばれます。

系2.6.27

$X$ を空でない局所コンパクトHausdorff空間とする。閉集合による $X$ の可算被覆 $\{F_{n}\}_{n\in\N}$ について、いずれかの $F_{n}$ は内点を持つ。

証明

少し言い換えれば閉集合による可算族が被覆ならばいずれかが内点を持つということであり、この対偶を示します。$\{F_{n}\}_{n\in\N}$ を内点を持たない閉集合による可算族とします。各 $n\in \N$ について $\Cl F_{n}^{c} = (\Int F_{n})^{c} = \varnothing^{c} = X$ より $F_{n}^{c}$ は $X$ の稠密開集合であり、Baireの定理 $($系2.6.26$)$ より共通部分 $\bigcap_{n\in\N}F_{n}^{c}$ は $X$ の稠密集合です。$X\neq \varnothing$ よりその稠密集合は空ではなく、$\bigcap_{n\in\N}F_{n}^{c} \neq \varnothing$ です。よって、$\bigcup_{n\in\N}F_{n}\neq X$ です。

$\sigma$ コンパクト空間
命題2.6.28

$X$ を第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間ここでの定義に従うならば、このHausdorff性は不要です。とする。あるコンパクト部分空間の列 $\{K_{n}\}_{n\in\N}$ であって次の条件を満たすものが存在する。

任意の $n\in \N$ に対して $K_{n}\subset \Int K_{n + 1}$.
$X = \bigcup_{n\in\N}K_{n}$.
証明

$X$ の高々可算な開基 $\mathcal{U}$ を固定します。各点 $x\in X$ に対してその相対コンパクト開近傍 $V_{x}$ を取り、$x$ の開近傍 $U_{x}$ であって $U_{x}\subset \mathcal{U}$ かつ $U_{x}\subset V_{x}$ となるものと固定します。集合族 $\{U_{x}\mid x\in X\}$ は $\mathcal{U}$ の部分集合なので高々可算であり、これに添字をつけて添字付き集合族 $\{U_{k}\}_{k\in \N}$ としますもしこの集合族が有限だった場合はあるところから先の $U_{k}$ を空集合としておけばよいです。。$\{U_{k}\}_{k\in \N}$ は明らかに相対コンパクト開集合による $X$ の被覆です。以下のように帰納的に $K_{n}$ を定義すればよいです。

(i) $K_{0} := \overline{U_{0}}$.
(ii) $K_{n}$ まで得られているとき、$\{U_{k}\}_{k\in \N}$ が $K_{n}$ の被覆であることから有限部分被覆 $\{U_{k}\}_{k\in N}$ を取り、\[K_{n + 1} := \bigcup_{k\in N}\overline{U_{k}}\cup \bigcup_{0\leq k\leq n + 1}\overline{U_{k}}\]とする。

主張の条件が満たされていることは容易です。

補足2.6.29
($\sigma$ コンパクト性)

位相空間 $X$ であって高々可算個のコンパクト部分空間の和集合に表せるものを $\sigma$ コンパクト空間といいます。命題2.6.28は第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間が $\sigma$ コンパクトであることを意味します。例えば、Eculid空間における開集合や閉集合は第二可算公理を満たす局所コンパクトHausdorff空間であることが容易に確かめられ、$\sigma$ コンパクトになりますもちろん、Euclid空間 $\R^{m}$ 自身についてはコンパクト集合による可算被覆として原点を中心とする閉球体の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N_{+}}$ を具体的に取ることができ、直接 $\sigma$ コンパクト性が分かります。

定義への補足
補足2.6.30
(局所コンパクト性の定義に関する補足)

位相空間 $X$ が局所コンパクトであることの定義はテキストによっていくつか異なったものが採用されます。たとえば、

(1) 各点 $x\in X$ に対してそのコンパクト近傍が存在する。
(2) 各点 $x\in X$ に対してそのコンパクト閉近傍が存在する。
(3) 各点 $x\in X$ に対してそのコンパクト近傍による基本近傍系が存在する。
(4) 各点 $x\in X$ に対してそのコンパクト閉近傍による基本近傍系が存在する。

などあるようです(1)は[松坂 集合・位相入門]など、(2)は[松本 多様体の基礎]など。(3)と(4)に関しては私の手元に採用している文献は無かったのですが、局所連結性などの定義に合わせて、各点において特定の性質を持つ部分集合からなる基本近傍系が存在するという形で定義するならこれになるのかなと思います。(正直、どう使い分けられているのかは知らないですが、Hausdorff性さえ課せばどれも一緒ということがひとまず大事。)。ここでの相対コンパクト開近傍の存在による定義 $($定義2.6.21$)$ は(2)と同値です点 $x\in X$ の相対コンパクト開近傍 $V$ は直ちにコンパクト閉近傍 $\overline{V}$ を与えるし、$x$ のコンパクト閉近傍 $K$ は相対コンパクト開近傍 $\Int K$ を与えます。$K$ が閉より $\overline{\Int K}\subset K$ であることに注意。。例は挙げませんが、一般にはこれらのうちどの $2$ つも同値ではないことが知られています。

ただし、Hausdorff空間においてはコンパクト部分空間は閉集合であったので、(1) ⇔ (2)と(3) ⇔ (4)と(4) ⇒ (2)が明らかに従い、命題2.6.22が(2) ⇒ (4)を意味するので、結局全て同値になります。また、応用上Hausdorff空間しか扱わないような場合には最初から局所コンパクトの定義にHausdorff性を課して細かく定義を述べないことも多いです。(まあ、もっと言うと位相空間といったらHausdorff空間みたいなこともそれなりにある。)

2.6.3 一点コンパクト化
一点コンパクト化とその例

位相空間 $X$ に対し、次の条件を満たす位相空間 $\hat{X}$ と連続写像 $i : X\to \hat{X}$ の対 $(\hat{X}, i)$ を $X$ のコンパクト化 $($compactification$)$ といいます。

(i) 位相空間 $\hat{X}$ はコンパクト空間である。
(ii) 連続写像 $i$ は埋め込みである。
(iii) 像 $\Img i$ は $\hat{X}$ の稠密な部分空間である。

これはもとの位相空間 $X$ をコンパクト空間 $\hat{X}$ の稠密な部分空間として実現することと言い換えられ、コンパクト空間 $\hat{X}$ のことも $X$ のコンパクト化といいます。ここでは、それらのうちで一点コンパクト化と呼ばれるもの紹介します。

命題2.6.31
(一点拡大・一点コンパクト化)

$X$ を位相空間とし、$\hat{X}$ を $X$ に $1$ 点 $\infty$ を加えて得られる集合 $X\sqcup \{\infty\}$ とする。次が成立する。

(1) $\hat{X}$ の部分集合族 $\hat{\mathcal{O}}$ を
$X$ の開集合
$\infty$ を元に持ち、補集合が $X$ におけるコンパクト閉集合
のいずれかの条件を満たす部分集合たち全てを集めたものとして定義する。この部分集合族 $\hat{\mathcal{O}}$ は $\hat{X}$ の開集合系である。
(2) $\hat{X}$ はこの開集合系 $\hat{\mathcal{O}}$ に関してコンパクト空間である。
(3) 包含写像 $i : X\to \hat{X}$ は埋め込みである。つまり、$\hat{X}$ の部分空間としての $X$ の位相はもとの位相に一致する。

これにより得られる対 $(\hat{X}, i)$ および位相空間 $\hat{X}$ を $X$ の一点拡大という。最初に加えた $1$ 点 $\infty$ は無限遠点という。また、次が成立する。

(4) $X$ の一点拡大 $\hat{X}$ がコンパクト化であることと $X$ がコンパクトでないこととは同値である。

そこで、コンパクトでない位相空間に対する一点拡大のことを一点コンパクト化と呼ぶ。

証明

(1) $\varnothing\in \hat{\mathcal{O}}$ は明らか。$X$ の部分集合としての空集合がコンパクト閉集合なので $\hat{X}\in \hat{\mathcal{O}}$ です。$\mathcal{U}\subset \hat{\mathcal{O}}$ を部分集合として以下の場合のそれぞれについて $\bigcup_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ であることを示します。

(i) $\infty\in U$ となる $U\in \mathcal{U}$ が存在する場合。
(ii) $\infty\in U$ となる $U\in \mathcal{U}$ が存在しない場合。

(i) $\infty\in U_{0}$ となる $U_{0}\in \mathcal{U}$ を固定します。$\infty\in \bigcup_{U\in\mathcal{U}}U$ であるので、$\hat{X}\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}}U$ が $X$ のコンパクト閉集合であることを示せばよいです。いま、\[\hat{X}\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}}U = (\hat{X}\setminus U_{0})\cap \bigcap_{U\in\mathcal{U}}(\hat{X}\setminus U) = (\hat{X}\setminus U_{0})\cap \bigcap_{U\in\mathcal{U}}(X\setminus (U\setminus \{\infty\})\]ですが、各 $X\setminus (U\setminus \{\infty\})$ は $X$ の閉集合であるので、$\hat{X}\setminus \bigcup_{U\in\mathcal{U}}U$ は $X$ のコンパクト閉集合 $\hat{X}\setminus U_{0}$ の閉集合、よって、$X$ のコンパクト閉集合です。従って、$\bigcup_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ です。

(ii) 各 $U\in \hat{\mathcal{O}}$ は $X$ における開集合であり、$\bigcup_{U\in\mathcal{U}}U$ も $X$ における開集合です。よって、$\bigcup_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ です。

続いて、$\mathcal{U}\subset \hat{\mathcal{O}}$ を有限部分集合として以下の場合のそれぞれについて $\bigcap_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ であることを示します。

(iii) $U\subset X$ となる $U\in \mathcal{U}$ が存在する場合。
(iv) $U\subset X$ となる $U\in \mathcal{U}$ が存在しない場合。

(iii) $U_{0}\subset X$ となる $U_{0}\in \mathcal{U}$ を固定します。$\bigcap_{U\in\mathcal{U}}U = \bigcap_{U\in\mathcal{U}}(U\cap U_{0})$ であり、各 $U\cap U_{0}$ は $X$ における開集合なので $\bigcap_{U\in\mathcal{U}}U$ は $X$ の開集合、よって、$\bigcap_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ です。

(iv) このとき、全ての $U\in \mathcal{U}$ に対して $\infty\in U$ であり、$\infty\in \bigcap_{U\in\mathcal{U}}U$ です。各 $\hat{X}\setminus U$ は $X$ のコンパクト閉集合であり、それらの有限和である $\hat{X}\setminus \bigcap_{U\in\mathcal{U}}U = \bigcup_{U\in\mathcal{U}}(\hat{X}\setminus U)$ も $X$ のコンパクト閉集合です。よって、$\bigcap_{U\in\mathcal{U}}U\in \hat{\mathcal{O}}$ です。

(2) $\mathcal{U} = \{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $\hat{X}$ の開被覆とします。$\infty\in U_{\lambda_{0}}$ となる $\lambda_{0}\in \Lambda$ を固定します。$K := \hat{X}\setminus U_{\lambda_{0}}$ は $X$ のコンパクト部分空間であり、また、$\{U_{\lambda}\setminus \{\infty\}\}_{\lambda\in\Lambda}$ は $X$ における $K$ の開被覆なので有限部分被覆 $\{U_{\lambda}\setminus \{\infty\}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ が取れます。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'\cup\{\lambda_{0}\}}$ が $\hat{X}$ の有限部分被覆です。以上により $\hat{X}$ はコンパクト空間です。

(3) $X$ のもとの位相を $\mathcal{O}$ とし、$\hat{X}$ の部分空間としての位相を $\mathcal{O}'$ とします。$\mathcal{O}\subset \mathcal{O}'$ は自明です。$U\in \mathcal{O}'$ とします。$\hat{X}$ における開集合 $V$ であって $U = V\cap X$ となるものを取るとき、$\infty\in V$ であれば $X\setminus U = \hat{X}\setminus V$ はもとの $X$ の閉集合であり、$U\in \mathcal{O}$ です。そして、$\infty\notin V$ であれば $U = V$ であり $U\in \mathcal{O}$ です。よって、$\mathcal{O}'\subset \mathcal{O}$ です。以上より $\mathcal{O} = \mathcal{O}'$ です。

(4) $X$ がコンパクトな場合は $\{\infty\}$ は開集合であり、$\infty$ は $X$ の触点ではないので $X$ は $\hat{X}$ において稠密ではありません。また、$X$ がコンパクトでない場合は $\{\infty\}$ は開集合ではなく、$\infty$ は $X$ の触点なので $X$ は $\hat{X}$ において稠密です。

例2.6.32
(Euclid空間の一点コンパクト化)

Euclid空間 $\R^{n}$ の一点コンパクト化 $S = \R^{n}\sqcup \{\infty\}$ は $n$ 次元単位球面\[S^{n} := \{y\in \R^{n + 1}\mid \|y\| = 1\}\]に同相です。

証明

写像 $f : S\to \R^{n + 1}$ を\[f(x) := \left\{\begin{array}{ll}\left(\dfrac{2x_{1}}{\|x\|^{2} + 1}, \dots, \dfrac{2x_{n}}{\|x\|^{2} + 1}, \dfrac{\|x\|^{2} - 1}{\|x\|^{2} + 1}\right) & (x\in \R) \\(0, \dots, 0, 1) & (x = \infty)\end{array}\right.\]により定めます。以下のことと定理2.6.13より同相 $S\cong S^{n}$ が分かります。

(i) $f : S\to S^{n}$ は全単射である。
(ii) $f$ は連続である。

(i) $f(\infty)\in S^{n}$ は明らか。$x\in \R^{n}$ に対して $f(x)\in S^{n}$ であることは\[\|f(x)\|^{2} = \dfrac{\left(\sum_{k = 1}^{n}4x_{k}^{2}\right) + \|x\|^{4} - 2\|x\|^{2} + 1}{\|x\|^{4} + 2\|x\|^{2} + 1} = \dfrac{4\|x\|^{2} + \|x\|^{4} - 2\|x\|^{2} + 1}{\|x\|^{4} + 2\|x\|^{2} + 1} = 1\]から従います。よって、$\Img f\subset S^{n}$ です。

写像 $g : S^{n}\to S$ を\[g(y) := \left\{\begin{array}{ll}\left(\dfrac{y_{1}}{1 - y_{n + 1}}, \dots, \dfrac{y_{n}}{1 - y_{n + 1}}\right) & (y\neq (0, \dots, 0, 1)) \\\infty & (y = (0, \dots, 0, 1))\end{array}\right.\]により定め、これが $f : S\to S^{n}$ の逆写像になっていることを示します。まず $g\circ f = \Id_{S}$ ですが、$x = \infty$ に対して $g(f(x)) = x$ は明らかであり、$x\in \R^{n}$ に対して $g(f(x)) = x$ であることはその第 $k$ 成分が\[\dfrac{\dfrac{2x_{k}}{\|x\|^{2} + 1}}{1 - \dfrac{\|x\|^{2} - 1}{\|x\|^{2} + 1}} = \dfrac{2x_{k}}{\|x\|^{2} + 1 - \|x\|^{2} + 1} = x_{k}\]であることからよいです。続いて $f\circ g = \Id_{S^{n}}$ ですが、$y = (0, \dots, 0, 1)$ に対して $f(g(y)) = y$ は明らかであり、$y\neq (0, \dots, 0, 1)$ に対して $f(g(y)) = y$ であることは\[\|g(y)\|^{2} = \dfrac{1 - y_{n + 1}^{2}}{(1 - y_{n + 1})^{2}} = \dfrac{1 + y_{n + 1}}{1 - y_{n + 1}}, \ \dfrac{1}{\|g(y)\|^{2} + 1} = \dfrac{1 - y_{n + 1}}{2}\]から\begin{eqnarray*}f(g(y)) & = & \dfrac{1 - y_{n + 1}}{2}\cdot \left(\dfrac{2y_{1}}{1 - y_{n + 1}}, \dots, \dfrac{2y_{n}}{1 - y_{n + 1}}, \dfrac{1 + y_{n + 1}}{1 - y_{n + 1}} - 1\right) \\& = & (y_{1}, \dots, y_{n}, y_{n + 1}) = y\end{eqnarray*}と計算できるのでよいです。以上により $g$ は $f$ の逆写像であり、$f : S\to S^{n}$ は全単射です。

(ii) $f$ が $\R^{n}$ の各点での連続であることは明らかなので $\infty$ での連続性のみ示せばよいですが、そのためには $(0, \dots, 0, 1)\in S^{n}$ の開近傍 $V$ に対して $S\setminus f^{-1}(V) = f^{-1}(S^{n}\setminus V)$ が $\R^{n}$ のコンパクト閉集合であることを示せばよいです。$K := S^{n}\setminus V$ とおきます。$K = \varnothing$ のときは自明に $f^{-1}(K) = \varnothing$ が $\R^{n}$ のコンパクト閉集合になるので、以下では $K\neq \varnothing$ として、最大値の原理 $($系2.6.12$)$ より $K$ の点の $y_{n + 1}$ 座標の値としてありうる最大値 $m$ を取ります。$-1\leq m < 1$ であり、$r = \dfrac{1 + m}{1 - m}$ とおくと $K\subset f(D_{r}^{n})$ です。$f|_{D_{r}^{n}} : D_{r}^{n}\to \R^{n + 1}$ が埋め込みなので、同相 $f^{-1}(K) = (f|_{D_{r}^{n}})^{-1}(K)\cong K$ が従い、よって、$f^{-1}(K)$ はコンパクト閉集合です。

少し仮定を課せば一点コンパクト化 $($一点拡大$)$ によりHausdorff性は保たれます。

命題2.6.33

$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。その一点拡大 $\hat{X}$ はコンパクトHausdorff空間であり、従って、正規空間である。

証明

$\hat{X}$ における $X$ の相異なる $2$ 点が開集合で分離可能なことは $X$ がHausdorff空間であることから明らかなので、$x\in X$ と $\infty$ が分離可能なことを示せばよいです。$x$ の $X$ における相対コンパクト開近傍 $U$ を取ります。$X$ における閉包 $\Cl_{X}U$ はコンパクト閉集合であり、$V := \hat{X}\setminus \Cl_{X}U$ は $\infty$ の開近傍です。明らかに、$U, V$ が $x, \infty$ を分離する開集合です。以上により $\hat{X}$ はHausdorff空間です。そして、系2.6.9より正規空間です。

補足2.6.34
(有理数体の一点コンパクト化の非Hausdorff性)

有理数体 $\Q$ はHausdorff空間ですが、その一点コンパクト化 $\hat{\Q}$ はHausdorff空間ではないです。まず、$\Q$ におけるコンパクト部分空間 $K$ は実数体 $\R$ におけるコンパクト部分空間、つまり、有界閉集合でなければならないので内点を持ちえません仮に $K$ が $\Q$ における開集合 $(a, b)\cap \Q$ を含むとすると、$K$ が $\R$ における閉集合であることと $\Q$ の稠密性から $(a, b)\subset K\subset \Q$ となって矛盾します。また、このことは有理数体 $\Q$ が局所コンパクトではないことを意味します。。よって、$\hat{\Q}$ における $0, \infty$ の開近傍 $U, V$ に対して $U\subset \hat{\Q}\setminus V$ となることはなく、これらを開集合により分離することはできません。

固有写像

一点コンパクト化 $($一点拡大$)$ と相性のいい連続写像として固有写像を導入します。

定義2.6.35
(固有写像)

連続写像 $f : X\to Y$ が固有であるとは、$Y$ の任意のコンパクト部分空間 $K$ に対して逆像 $f^{-1}(K)$ が $X$ のコンパクト部分空間となることと定める。

命題2.6.36

$X, Y$ を位相空間、$f : X\to Y$ を固有写像とする。一点拡大の間の写像 $\hat{f} : \hat{X}\to \hat{Y}$ を\[\hat{f}(x) := \left\{\begin{array}{ll}f(x) & (x\in X) \\\infty_{Y} & (x = \infty_{X})\end{array}\right.\]により定めるとき、この $\hat{f}$ は連続である。

証明

$V$ を $\hat{Y}$ の開集合とします。$V\subset Y$ のとき $\hat{f}^{-1}(V) = f^{-1}(V)$ は $X$ の開集合なので $\hat{X}$ の開集合です。$\infty_{Y}\in V$ のとき、$\hat{Y}\setminus V$ は $Y$ のコンパクト閉集合であり、$f$ が固有であることから $f^{-1}(\hat{Y}\setminus V)$ は $X$ のコンパクト閉集合です。その $\hat{X}$ における補集合 $\hat{X}\setminus f^{-1}(\hat{Y}\setminus V)$ は $\hat{X}$ の開集合です。$\hat{X}\setminus f^{-1}(\hat{Y}\setminus V) = \hat{f}^{-1}(V)$ なので $\hat{f}^{-1}(V)$ は開集合です。以上より $\hat{f}$ は連続です。

系2.6.37

$X$ を位相空間、$Y$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。単射な固有写像 $f : X\to Y$ は埋め込みである。

証明

命題2.6.36より誘導写像 $\hat{f} : \hat{X}\to \hat{Y}$ は連続単射であり、命題2.6.33より $\hat{Y}$ はHausdorff空間なので系2.6.14より $\hat{f}$ は埋め込みです。よって、その制限 $f : X\to Y$ も埋め込みです。

2.6.4 Lindelöf空間

コンパクト性から少し条件を緩めたものとしてLindelöf空間を軽く紹介しておきます。

定義2.6.38
(Lindelöf空間)

$X$ を位相空間とする。$X$ の任意の開被覆に対して高々可算な部分被覆が存在するとき、$X$ はLindelöf空間であるという。

Lindelöf性とその他の位相的性質との基本的な関係として次があります。

命題2.6.39

$X$ を位相空間とする。

(1) $X$ が $\sigma$ コンパクトならば $X$ はLindelödf空間である。
(2) $X$ が第二可算公理を満たすならば $X$ はLindelödf空間である。
(3) $X$ が局所第二可算位相空間 $X$ が局所第二可算であるとは、各点 $x\in X$ に対して第二可算公理を満たす開近傍が存在することをいう。各点に第二可算な開集合による基本開近傍系が存在することと同値。なLindelödf空間ならば第二可算公理を満たす。
証明

(1) $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $X$ の開被覆とします。$X$ が $\sigma$ コンパクトであることからコンパクト部分空間による $X$ の可算被覆 $\{K_{n}\}_{n\in\N}$ を取ることができます。各 $K_{n}$ に対して $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の有限部分被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda_{n}}$ を取れば、$\Lambda' := \bigcup_{n\in\N}\Lambda_{n}$ に対して $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda'}$ が $X$ の高々可算な部分被覆になります。

(2) $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $X$ の開被覆とします。$X$ の高々可算な開基 $\mathcal{V}$ を取り、各 $x\in X$ に対してその開近傍 $V_{x}$ であって $V_{x}\in \mathcal{V}$ かつ $V_{x}\subset U_{\lambda}$ となる $\lambda\in \Lambda$ が存在するものを取ります。開基 $\mathcal{V}$ の部分族 $\mathcal{V}'$ を $\mathcal{V}' := \{V_{x}\mid x\in X\}$ により定義し、写像 $\varphi : \mathcal{V}'\to \Lambda$ を各 $V\in \mathcal{V}'$ に対して $V\subset U_{\varphi(V)}$ となるように取ります。$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in \Img\varphi}$ が $X$ の高々可算な開被覆です。

(3) 各点 $x\in X$ に対して第二可算公理を満たす開近傍 $U_{x}$ を固定し $X$ の開被覆 $\{U_{x}\}_{x\in X}$ を構成します。$X$ がLindelödf空間であることからその高々可算な部分被覆 $\{U_{x}\}_{x\in A}$ を取ります。各 $U_{x}$ の高々可算な開基 $\mathcal{U}_{x}$ を固定したとき、$\mathcal{U} := \bigcup_{x\in A}\mathcal{U}_{x}$ が $X$ の高々可算な開基を与え$\mathcal{U}_{x}$ は $U_{x}$ の各点のある基本開近傍系を含み、よって、$\mathcal{U}$ は $X$ の各点のある基本開近傍系を含むので開基です。、よって、$X$ は第二可算公理を満たします。

2.6.5 Tychonoffの定理

最後に、コンパクト空間どうしの直積空間がまたコンパクト空間であるというTychonoffの定理Tychonovの定理とも。を紹介しておきます。

定理2.6.40
(Tychonoffの定理)

$\{X_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ をコンパクト空間による族とする。直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ はコンパクト空間である。

証明

直積位相にはその開基 $\mathcal{U}$ として\[\prod_{\mu\in M}U_{\mu}\times \prod_{\lambda\in \Lambda\setminus M}X_{\lambda} \ (M\subset \Lambda, \ \#M < + \infty, \ U_{\mu}\in \mathcal{O}_{\mu})\]の形の部分集合全体からなるものが取れました。議論を明解にするため、$\mathcal{U}$ は添字付き集合族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in \hat{A}}$ とみなすことにします。

まず、次の条件が成立すればTychonoffの定理が従うことを示します。

$\mathcal{U}$ の部分族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A}$ に対し、その任意の有限部分族が直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆でないならば $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A}$ も被覆ではない。

$\{W_{\beta}\}_{\beta\in B}$ を直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の開被覆とします。$\mathcal{U}$ の部分族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A}$ を $V_{\alpha}\subset W_{\beta}$ を満たす $\beta\in B$ の存在する $\mathcal{U}$ の元全体、つまり、添字集合を\[A := \{\alpha\in \hat{A}\mid {}^{\exists}\beta\in B \text{ s.t. } V_{\alpha}\subset W_{\beta}\}\]に制限することで取ります。また、写像 $\varphi : A\to B$ を各 $\alpha\in A$ に対して $V_{\alpha}\subset W_{\varphi(\alpha)}$ となるように固定しておきます。$\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A}$ が開被覆になっていることと上記の条件の対偶から有限部分被覆 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A'}$ を取ることができ、$B' = \varphi(A')$ とおけば $\{W_{\beta}\}_{\beta\in B'}$ がもとの開被覆の有限部分被覆です。よって、条件によりTychonoffの定理が従います。

では、上記の条件を示します。$\mathcal{V}_{0} = \{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A_{0}}$ を $\mathcal{U}$ の部分族であってその任意の有限部分族が直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆でないものとして、これが $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆でないことを示します。$\hat{A}$ の部分集合族 $\mathcal{A}$ を部分集合 $A$ であって以下の条件を満たすもの全体より定めます。

(i) $A_{0}\subset A$.
(ii) 開集合族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A}$ の任意の有限部分族は直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆ではない。

以下の流れで証明します

(step 1) $\mathcal{A}$ は包含関係による順序により帰納的順序集合であり、極大元 $A_{\infty}$ が存在する。
(step 2) 有限部分集合 $C\subset \hat{A}\setminus A_{\infty}$ に対して $\bigcap_{\gamma\in C}V_{\gamma}\notin \mathcal{V}_{\infty} := \{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A_{\infty}}$ である。
(step 3) 各 $\alpha\in A_{\infty}$ に対してある $\psi(\alpha)\in \Lambda$ と $X_{\psi(\alpha)}$ の開集合 $U_{\alpha}$ が存在して $V_{\alpha}\subset \pr_{\psi(\alpha)}^{-1}(U_{\alpha})$ かつ $\pr_{\psi(\alpha)}^{-1}(U_{\alpha})\in \mathcal{V}_{\infty}$ を満たす。これより写像 $\psi : A_{\infty}\to \Lambda$ が定まる。
(step 4) $\bigcup_{\alpha\in A_{\infty}}\pr_{\psi(\alpha)}^{-1}(U_{\alpha})\neq \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$.
(step 5) $\mathcal{V}_{\infty}$ は被覆ではない。よって、$\mathcal{V}_{0}$ は被覆ではない。

(step 1) まず、$A_{0}\in \mathcal{A}$ なので $\mathcal{A}\neq \varnothing$ です。$\mathcal{A}'\subset \mathcal{A}$ を空でない全順序部分集合とし、$\bar{A} = \bigcup_{A'\in\mathcal{A}'}A'\in \mathcal{A}$ であること、つまり、上界が存在することを示します。(i)を満たすことは $\mathcal{A}'\neq \varnothing$ より $A'\in \mathcal{A}'$ を取ることで $A_{0}\subset A'\subset \bar{A}$ となるのでよいです。(ii)を示します。有限部分集合 $A'\subset \bar{A}$ を取り、$\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A'}$ が被覆でないことを示せばよいです。各 $\alpha\in A'$ に対して $\alpha\in A_{\alpha}$ である $A_{\alpha}\in \mathcal{A}'$ を固定し、$A := \max\{A_{\alpha}\mid \alpha\in A'\}$ とします。$A'$ は $A$ の有限部分集合であり、$A\in \mathcal{A}$ に関する(ii)より $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A'}$ は被覆でありません。以上より(ii)も従い、$\bar{A}\in \mathcal{A}$ です。

(step 2) $V_{\alpha_{C}} := \bigcap_{\gamma\in C}V_{\gamma}\in \mathcal{V}_{\infty}$ として矛盾を導きます。各 $\gamma\in C$ に対して $A_{\infty}$ の有限部分集合 $A_{\gamma}$ を族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A_{\gamma}\sqcup \{\gamma\}}$ が直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆となるように固定します。このとき、各 $\gamma\in C$ に対して $\bigcap_{\alpha\in A_{\gamma}}V_{\alpha}^{c}\subset V_{\gamma}$ なので\[\bigcap_{\gamma\in C}\bigcap_{\alpha\in A_{\gamma}}V_{\alpha}^{c}\subset \bigcap_{\gamma\in C}V_{\gamma} = V_{\alpha_{C}}\]となり、$A_{C} := \left(\bigcup_{\gamma\in C}A_{\gamma}\right)\cup \{\alpha_{C}\}$ おけば族 $\{V_{\alpha}\}_{\alpha\in A_{C}}$ は $\mathcal{V}_{\infty}$ の有限部分族であって直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆です。これは $\mathcal{V}_{\infty}$ の構成に矛盾です。

(step 3) $V_{\alpha} = \bigcap_{\mu\in M}\pr_{\mu}^{-1}(U_{\mu})$ の形で表すとき、各 $\pr_{\mu}^{-1}(U_{\mu})$ が $\mathcal{V}_{\infty}$ に属さないとすると(step 2)より $V_{\alpha}\notin \mathcal{V}_{\infty}$ となって矛盾するので、少なくともある $\pr_{\mu_{\alpha}}^{-1}(U_{\mu_{\alpha}})$ は $\mathcal{V}_{\infty}$ に属します。$\psi(\alpha) = \mu_{\alpha}$, $U_{\alpha} = U_{\mu_{\alpha}}$ とすればよいです。

(step 4) いま\begin{eqnarray*}\left(\bigcup_{\alpha\in A_{\infty}}\pr_{\psi(\alpha)}^{-1}(U_{\alpha})\right)^{c} & = & \left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}\pr_{\lambda}^{-1}(U_{\alpha})\right)^{c} = \left(\bigcup_{\lambda\in\Lambda}\pr_{\lambda}^{-1}\left(\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha}\right)\right)^{c} \\& = & \bigcap_{\lambda\in\Lambda}\pr_{\lambda}^{-1}\left(\left(\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha}\right)^{c}\right) = \prod_{\lambda\in\Lambda}\left(\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha}\right)^{c}\end{eqnarray*}であり、最後の直積が空でないことを示せばよいですが、そのためには各 $\lambda\in \Lambda$ に対して $\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha}\neq X_{\lambda}$ を示せばよいです。$\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha} = X_{\lambda}$ として矛盾を導きます。$X_{\lambda}$ のコンパクト性より $\psi^{-1}(\lambda)$ の有限部分集合 $A'$ であって $\{U_{\alpha}\}_{\alpha\in A'}$ が $X_{\lambda}$ の被覆となるものが取れます。$\{\pr_{\lambda}^{-1}(U_{\alpha})\}_{\alpha\in A'}$ が $\mathcal{V}_{\infty}$ の有限部分集合族であって直積空間 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ の被覆となるので、これは $\mathcal{V}_{\infty}$ の構成に矛盾します。よって、$\bigcup_{\alpha\in \psi^{-1}(\lambda)}U_{\alpha}\neq X_{\lambda}$ です。

(step 5) 明らかに $\bigcup_{\alpha\in A_{0}}V_{\alpha}\subset \bigcup_{\alpha\in A_{\infty}}V_{\alpha}\subset\bigcup_{\alpha\in A_{\infty}}\pr_{\psi(\alpha)}^{-1}(U_{\alpha})\neq \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ です。

以上です。

メモ

このあたりから、集合演算に関してはそこまで細かくは書かない感じです。

パラコンパクト空間については別でまとめる予定です。

参考文献

[1] 松坂和夫 集合・位相入門 岩波書店 (1968)
[2] 古田幹雄 Tychonoffの定理の二つの直接証明 https://www.ms.u-tokyo.ac.jp/~furuta/Tychonoff.pdf
Tychonoffの定理の証明はこちらを参考に再構成したもの。

更新履歴

2022/02/02
新規追加
2022/03/02
点列コンパクト空間について追加。誤字を修正。
2022/05/02
コンパクト空間の例として補有限位相を与えた空間を追加。
ついでに、コンパクト $T_{1}$ 空間でHausdorff性を持たない例としても紹介。
2023/07/02
Hausdorff空間における互いに非交叉なコンパクト部分空間が開集合で分離可能なことの追加とそれに伴う軽微な修正。
局所コンパクトHausdorff空間における互いに非交叉なコンパクト部分空間と閉集合が開集合で分離可能なことの追加とそれに伴う軽微な修正。
2023/09/02
コンパクト化をきちんと記述。一点拡大という用語を導入。
一点コンパクト化としてもとの空間がコンパクトな場合を除外していなかったのを修正。
2023/10/02
値域が残っていたので終域に修正。