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数学ノートについて
記号・用語・注意

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2. 記号・用語・注意
2.1 よく使う記号

ここでよく使う記号についてまとめます。記号はページごと調整することもあり、必ずしもこの通りに統一されているわけではないです。また、添字などを適当に略記したり、ここで説明しているより広い意味で使うことも多いです。

便宜的に全般、代数系、解析系、幾何系に分けて一覧にします。常識的と思われるものは省きます。

全般

記号 意味 補足
$A := B$ 「 $A$ を $B$ で定義する」の意味。 -
$\N, \Np, \Z, \Q, \R, \C, \H$ 順に、非負整数全体、正整数全体、整数全体、有理数全体、実数全体、複素数全体、四元数全体からなる集合。 集合といったが、常識的な代数構造込みで考える。
$\overline{\Q}$ 有理数体 $\Q$ の代数閉包。 -
$\overline{\R}$ 補完実直線。 補完数直線と呼ばれるのが普通かも。ここではextended real lineからの直訳を採用。
$\varnothing$ 空集合。 -
$2^{X}, \mathfrak{P}(X), \mathcal{P}(X)$ 集合 $X$ の冪集合。 -
$X\sqcup Y$ 集合 $X, Y$ の直和集合。 あらかじめ与えられた集合の中で部分集合 $X, Y$ が互いに非交叉な場合の和集合の意味でも使用する。
$\Map(X, Y)$ 集合 $X$ から集合 $Y$ への写像全体からなる集合。 -
$\Inj(X, Y)$ 集合 $X$ から集合 $Y$ への単射全体からなる集合。 -
$\Surj(X, Y)$ 集合 $X$ から集合 $Y$ への全射全体からなる集合。 -
$\Bij(X, Y)$ 集合 $X$ から集合 $Y$ への全単射全体からなる集合。 -
$(f, g)$ 始域が共通な写像 $f : X\to Y$, $g : X\to Z$ の対。具体的には\[X\to Y\times Z : x \mapsto (f(x), g(x))\]のこと。 始域が共通な写像の族 $\{f_{\lambda} : X\to Y_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対して $(f_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}$ で写像\[X\to \prod_{\lambda\in\Lambda}Y_{\lambda} : x\mapsto (f_{\lambda}(x))_{\lambda\in\Lambda}\]を表す。
$f\sqcup g$ 終域が共通な写像 $f : X\to Z$, $g : Y\to Z$ にの直和。具体的には\[X\sqcup Y\to Z : u \mapsto \left\{\begin{array}{ll}f(u) & (u\in X) \\g(u) & (u\in Y)\end{array}\right.\]のこと。 終域が共通な写像の族 $\{f_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対して $\bigsqcup_{\lambda\in\lambda}f_{\lambda}$ で写像\[\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to Y : x_{\lambda}\mapsto f_{\lambda}(x_{\lambda}) \ (x_{\lambda}\in \Lambda)\]を表す。
$f\times g$ 写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ の直積。具体的には\[X\times Z\to Y\times W : (x, z) \mapsto (f(x), g(z))\]のこと。 写像の族 $\{f_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対して $\prod_{\lambda\in\lambda}f_{\lambda}$ で写像\[\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to \prod_{\lambda\in\Lambda}Y_{\lambda} : (x_{\lambda})_{\lambda\in\Lambda}\mapsto (f_{\lambda}(x_{\lambda}))_{\lambda\in\Lambda}\]を表す。
$f\amalg g$ 写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ の直和。具体的には\[X\sqcup Z\to Y\sqcup W : u \mapsto \left\{\begin{array}{ll}f(u) & (u\in X) \\g(u) & (u\in Z)\end{array}\right.\]のこと。 写像の族 $\{f_{\lambda} : X_{\lambda}\to Y_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ に対して $\coprod_{\lambda\in\lambda}f_{\lambda}$ で写像\[\coprod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to \coprod_{\lambda\in\Lambda}Y_{\lambda} : x_{\lambda}\mapsto f_{\lambda}(x_{\lambda}) \ (x_{\lambda}\in \Lambda)\]を表す。
$\Id_{X}, 1_{X}$ 集合 $X$ に対する恒等写像。 -
$i_{A}, \iota_{A}$ 集合 $X$ の部分集合 $A$ に対する包含写像。 -
$\cst_{a}$ 集合 $X$ 上で定義された常に値 $a$ を取る定値写像。 一般的な記号ではないので注意。
$\pr_{X}, \pr_{Y}$ 直積集合 $X\times Y$ から $X, Y$ への射影。 例えば、一般の直積集合からの射影 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\to X_{\lambda}$ は $\pr_{\lambda}$ で表したり、第 $k$ 成分への射影は $\pr_{k}$ で表したりする。
$d_{X}, \Delta_{X}$ 集合 $X$ に対する対角写像。 終域を $X$ いくつの直積に取るかは文脈に任せる。
$\ev_{X, Z}$ 評価写像 $\Map(X, Z)\times X\to Z$ のこと。 -
$\ev_{a}$ 評価写像 $\ev_{X, Y}$ と点 $a\in X$ に対して定まる写像 $\ev_{X, Y}(a) : \Map(X, Z)\to Z$ のこと。 -
$\adj_{X, Y, Z}$ 集合 $X, Y, Z$ に対する標準的な全単射\[\Map(X\times Y, Z)\to \Map(X, \Map(Y, Z))\]のこと。 -
$\chi_{A}$ 集合 $X$ の部分集合 $A$ に対する定義関数。 終域は $\{0, 1\}, \Z, \R, \C$ など文脈に応じて解釈する。
$\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}$ 添字集合 $\Lambda$ により添字付けられた族。 直積集合の元については $(x_{\lambda})_{\lambda\in \Lambda}$ のように表す。
$\sup A$ 順序集合の部分集合 $A$ に対する上限。 -
$\inf A$ 順序集合の部分集合 $A$ に対する下限。 -
$\max A$ 順序集合 $A$ の最大元。 -
$\min A$ 順序集合 $A$ の最小元。 -
$\# X, |X|$ 集合 $X$ の濃度。 有限集合に対しては非負整数と区別しないことも。
代数系

記号 意味 補足
$M^{\times}$ モノイド $M$ の単元群。 -
$G^{\ab}$ 群 $G$ のabel化。 -
$M(m, n; R), M_{m\times n}(R)$ 環 $R$ を係数環とする $m$ 行 $n$ 列行列全体からなる集合。 $m = n$ の場合は $M(n; R), M_{n}(R)$ とも。
$GL(n; R), GL_{n}(R)$ 環 $R$ を係数環とする $n$ 次一般線型群。 言い換えると、行列環 $M(n; R)$ の単元群のこと。
$SL(n; R), SL_{n}(R)$ 環 $R$ を係数環とする $n$ 次特殊線型群。 -
$\Z_{n}$ $n$ 次巡回群。 テキストや分野よっては素数 $p$ に対して $\Z_{p}$ で $p$ 進整数環を表すがある。
$\F_{p}$ 素数 $p$ に対する体としての $\Z_{p}$ のこと。 -
$S_{n}$ $n$ 次対称群。 $\mathfrak{S}_{n}$ と書かれるテキストも。
$A_{n}$ $n$ 次交代群。 $\mathfrak{A}_{n}$ と書かれるテキストも。
$R[X], R[X, Y]$ 環 $R$ を係数環とする多項式環。 -
$R[[X]], R[[X, Y]]$ 環 $R$ を係数環とする形式的冪級数環。 -
$R[X^{-1}, X]$ 環 $R$ を係数環とするLaurent多項式環。 -
$R[M]$ 環 $R$ を係数環とするモノイド $M$ 上のモノイド環。 同様に、環 $R$ を係数環とする群 $G$ 上の群環は $R[G]$ で表す。
$\Aut(G)$ 群 $G$ の自己同型群。 一般に自己同型群と呼ばれる群に対しても同様の記号を使用する。
$\End(G)$ 群 $G$ の自己準同型全体からなるモノイド。 一般に自己準同型環と呼ばれる環に対しても同様の記号を使用する。
$\Inn(G)$ 群 $G$ の内部自己同型群。 -
$\Out(G)$ 群 $G$ の外部自己同型群。 -
$\Img \varphi$ 群準同型 $\varphi : G\to H$ に対する像。 写像の像の記号としても使用。一般的には $\mathrm{Im}\varphi$ と書かれるはずなので注意。(私も普段使いは $\mathrm{Im}$ で、なんでここで $\Img$ を使ってるか不明。この手の記号 $3$ 文字からなることが多いので、そこにそろえようとした説はあります。まあ、問題ある記号使いとも思わないのでこのままいきます。)
$\Ker \varphi$ 群準同型 $\varphi : G\to H$ に対する核。 -
$\CoImg \varphi$ 加群の準同型 $\varphi : M\to N$ に対する余像。 -
$\CoKer \varphi$ 加群の準同型 $\varphi : M\to N$ に対する余核。 -
$\langle S\rangle$ 群 $G$ の部分集合 $S$ により生成する部分群。 -
$\ncl (S)$ 群 $G$ の部分集合 $S$ により生成する正規部分群。 -
$F_{S}$ 集合 $S$ により生成する自由群。 $n$ 元集合から生成する自由群は $F_{n}$ と表す。
$G * H$ 群 $G, H$ の自由積。 -
$G *_{(\varphi, \psi)} H$ 群準同型 $\varphi : K\to G$ と $\psi : K\to H$ による押し出し群。 混乱の恐れが無ければ $G *_{K}H$ とも表す。
$\langle S\mid R\rangle$ 生成系 $S$ と関係系 $R$ による群の表示。 -
$\langle S\mid R\rangle_{\Z}$ 集合 $S$ により生成する自由加群 $\Z^{\oplus S}$ を関係系 $R$ で割って得られる剰余群。 -
解析系

記号 意味 補足
|x| 絶対値もしくは $L^{2}$-ノルム。 -
$\|x\|$ 一般のノルム。 どういう意味のノルムかは文脈依存。
$\|x\|_{p}$ $L^{p}$-ノルム。 -
$\mathcal{I}_{n}$ $n$ 変数の多重指数全体からなる集合。 形式的には $\N^{n}$ のこと。負値も認めて $\Z^{n}$ と考えることも。
$\mathcal{I}_{n, r}$ $n$ 変数 $r$ 次以下の多重指数全体からなる集合。 -
幾何系

記号 意味 補足
$\Int_{X}A, \mathring{A}$ 位相空間 $X$ における部分集合 $A$ の内部。 -
$\Cl_{X}A, \overline{A}$ 位相空間 $X$ における部分集合 $A$ の閉包。 -
$d(x, y), d(A, B)$ 距離関数 $d$ に関する点 $x, y$ や部分集合 $A, B$ の間の距離。後者は具体的には\[\inf_{x\in A, \ y\in B}d(x, y)\]のこと。 -
$D_{r}(x), D_{r}(A)$ 距離空間 $X$ における点 $x$ や部分集合 $A$ の $r$ 閉近傍。後者は具体的には\[\{x\in X\mid d(x, A)\leq r\}\]のこと。 $D$ はdiscの頭文字から。ballの頭文字から $B$ を使うテキストも。
$O_{r}(x), O_{r}(A)$ 距離空間 $X$ における点 $x$ や部分集合 $A$ の $r$ 開近傍。後者は具体的には\[\{x\in X\mid d(x, A) < r\}\]のこと。 あまりいい記号ではない。ここでは $O_{r}(x) = \Int D_{r}(x)$ が成立する場面では後者で代用する場合もある。$O$ ではなく $B$ を使うテキストも。
$\supp f$ 位相空間 $X$ 上で定義された実関数 $f : X\to \R$ の台。つまり、$\overline{\{x\in X\mid f(x)\neq 0\}}$ のこと。 そもそもの関数の台の定義として閉包を取らないテキストもある。
2.2 用語に関する注意

ここで採用している流儀について、特に説明しておいた方がよさそうなことをまとめておきます。

一対一対応について

ここでは一対一対応という言葉を $($写像としてきちんと定式化まではしていない$)$ 素朴に考える対応が写像の言葉でいう全単射になっている場合に使います。例えば、「 $n$ 次元線型空間の自己準同型全体と $n$ 次正方行列全体は基底を固定することで一対一に対応する」という要領です。

また、写像について、単射を一対一写像、全射を上への写像、全単射を上への一対一写像と呼んでいるテキストもありますが、ここではそういう言葉使いはしません。(いったん写像として定式化しているのであれば単射・全射・全単射と呼べばいいので。)

関数の極限について

Euclid空間 $\R^{n}$ の部分集合 $A$ 上で定義された関数 $f : A\to \R$ が与えられたとして、ここでは点 $x\in A$ を $a\in \overline{A}$ に近づけていったときの関数 $f$ の極限が $b\in \R$ であることを次で定義して $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ で表します。

任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、任意の $x\in A$ に対して $|x - a| < \delta$ ならば $|f(x) - b| < \varepsilon$ が成立する。

一般的によく採用される関数の極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ の定義は、近づけていく先の点 $a$ を $A$ の集積点としたうえで「 $|x - a| < \delta$ 」の部分を「 $0 < |x - a| < \delta$ 」で置き換えたものですが、ここではその意味での極限は $\underset{x\to a, \ x\neq a}{\lim}f(x) = b$ で表すことにしています。これらの定義はもちろん微妙に違っていて、それは関数 $f : \R\to \R$ を\[f(x) := \left\{\begin{array}{ll}1 & (x = 0) \\0 & (x\neq 0)\end{array}\right.\]と定義して $x$ を $0$ に近づけていく極限を考えればよく、$\underset{x\to 0}{\lim}f(x)$ は一般的な定義で考えると $0$ に収束しますが、ここでの定義で考えると収束しません。

なぜ一般的な意味から少しずれた定義を採用するかについて、その理由をいくつか並べておきます。

(a) 私が初歩的な実解析を[杉浦 解析入門]で勉強したため。
定評のある有名な教科書に採用実績があるというのは率直に心強いです違う流儀を採用している人に「定義や用語の誤り」を突っ込まれたがそこで時間を使いたくない、といった場合に「○○の教科書で採用されており、ここではそちらにならいます。」で押し通す試みが可能になります。(もちろん、本当に定義や用語が間違っている $($理論展開上の致命的な不都合がある、慣習から大きく外れる、など…$)$ ということもあるので注意ですが。)。また、洋書であれば[S. Lang, Undergraduate Analysis Second Edition]で採用されています。
[R. G. Bartle, The Elements of Real Analysis]では一般的な定義をdeleted limit、ここでの定義をnon-deleted limitとして両方導入しています。
(b) 一般的な意味の極限は $\underset{x\to a, \ x\neq a}{\lim}f(x) = b$ で表現できる。
上で書いた通り特に表現能力は落ちないので、そちらの意味の極限を考えたい場合はそう書けばよいだけです。
(c) 極限を考えられる範囲が始域の閉包となり、特に始域を含む点で平穏に思えるため。
ここでは関数の始域としてEuclid空間の一般の部分集合 $($より一般に位相空間$)$ も考えています。そのため、始域が孤立点を持つこともあり得るわけですが、孤立点は集積点ではないので、一般的な意味の極限では孤立点に近づけていく極限を考えらません。これは連続性の極限を用いた記述などで煩わしさを生みます。
集積点より触点の方が概念として単純なので、そちらを扱う形にしたいというのもあります。
(d) 関数 $f$ の点 $a\in A$ における連続性を極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ の存在で定義できるため。
一般的な意味での極限だと、極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ が存在してもその収束値が $f(a)$ でないと連続ではないため、「極限が存在すれば連続」という表現は誤りになります。一方、ここでの極限であれば存在すればその値は $f(a)$ に限られるので、「極限が存在すれば連続」という表現が正当化できて少し楽です。
上で述べた通り、一般的な意味の極限では孤立点における連続性を極限を使って表現できない点で煩わしさがありますが関数の始域として開集合や正の長さを持つ区間のみ考えるのであれば問題ありませんが、関数 $f : A\to \R$ の点 $a\in A$ におけるの連続性を極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = f(a)$ が成立することで言い換えようと思ったとき、孤立点ではそもそも極限を考えられないため、きちんと書くならそこのケアが必要になります。(まあ、集積点でない点に近づけていく場合でも極限 $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ は\[{}^{\forall}\varepsilon > 0, {}^{\exists}\delta > 0, {}^{\forall}x\in A \quad 0 < |x - a| < \delta \Rightarrow |f(x) - b| < \varepsilon\]を表す記号として形式的には意味を持つので、そのように解釈して連続性を特徴付けることはできます。ただ、集積点でない点に近づけていく場合には任意の値に収束するので、極限が存在しても $\underset{x\to a}{\lim}f(x)$ は値として意味を持つとは限らないというところでまた注意が必要になります。)、ここで採用する定義ならば問題になりません。
連続性と等化な定義になっているので関数の合成に関してよく振舞います。具体的には、関数 $f : A\to B$, $g : B\to \R$ と $a\in A$, $b\in B$, $c\in \R$ に対して $\underset{x\to a}{\lim}f(x) = b$ かつ $\underset{y\to b}{\lim}g(y) = c$ が成立していれば $\underset{x\to a}{\lim}g(f(x)) = c$ が成立します一般的な意味の極限で解釈する場合、連続性を意味する仮定 $b = f(a)$, $c = g(b)$ を加えれば正しくなりますが、そのままでは反例が存在します。
関数の片側極限について

関数の始域が区間の場合は片側極限を考えることも多いですが、ここでの左極限・右極限は慣習通りの\[\lim_{x\to a, \ x < a}f(x), \quad \lim_{x\to a, \ x > a}f(x)\]を指すことにして、それぞれ\[\lim_{x\to a - 0}f(x), \quad \lim_{x\to a + 0}f(x)\]とも表記することにします。各点における連続性を極限の存在で言い換えられるように定式化しているのであれば、片側連続性も片側極限の存在で言い換えれられるように\[\lim_{x\to a, \ x\leq a}f(x), \quad \lim_{x\to a, \ x\geq a}f(x)\]の意味で運用してもよさそうですが、階段関数の不連続点における挙動を見たい場合など、近づけていった先の点における値を無視して考えたい場合が多いように思われるため、ここでは慣習にならいます。

半連続性について

関数の極限はここでの流儀に取るとして、関数 $f : A\to \R$ が点 $a\in A$ において下半連続であることを\[\varliminf_{x\to a}f(x) = f(a)\]により定義します。関数の極限を一般的な意味で考える場合には $($点 $a\in A$ が集積点の場合に限って$)$ 点 $a$ における下半連続性を\[\varliminf_{x\to a}f(x)\geq f(a)\]により定義しますが、極限を考えられる範囲できちんと同値です。また、ここと同様の定義をしているテキストとしては[R. G. Bartle, The Elements of Real Analysis]があります。

ただし、一般的な意味で考える場合に $\underset{x\to a}{\varliminf}f(x) = f(a)$ と $\underset{x\to a}{\varliminf}f(x)\geq f(a)$ が同値でないことに注意が必要な一方、ここでの流儀に従えば両者は同値なので、そこの混乱を避けるために下半連続性は $\underset{x\to a}{\varliminf}f(x)\geq f(a)$ で表すように心がけることにしています。(等号で直感的にも分かりやすい定義にできるというメリットを殺してる気もするが…あと、気が変わって書き方を変えるかも。)

上半連続についても同様です。

分離公理について

位相空間の正則性や正規性には $T_{1}$ 性を課す流儀と課さない流儀がありますが、ここでは課します。例えば、[松坂 集合・位相入門]が課す流儀、[児玉 永見 位相空間論]が課さない流儀です。

より進んだ概念として完全正規性なども扱うことがあり、ここではこれらにも $T_{1}$ 性を課していくのですが、そこまでの概念を $T_{1}$ 性を課しながら導入している邦書は把握してません。洋書であれば[L. A. Steen and J. A. Seebach Jr, Counterexamples in Topology]がありますが、他にあるかどうかは把握してません。とはいえ、正則性や正規性に $T_{1}$ 性を課す以上こちらにも課すのが自然とは思うのでそれで通します。

空集合を○○に含めるかについて

台集合が空集合の場合を○○ $($連結空間など$)$ に含めるかについて、全部ではないですが、ここでの流儀は以下の通りです。

空集合を含める
連結空間・弧状連結空間
可測空間
CW複体
空集合を含めない
多様体
推移的左 $G$ 集合 $($群 $G$ からの推移的な左作用を固定した集合$)$
ファイバー束・被覆空間

一貫したルールを設けているわけではなく、どうする方がいいか吟味もできてないです。個人的には空集合を除外しない方が好みなのでそちらに寄ってそうですが、空集合を除外することで何かしらの意味の一意性 $($特に一意的な分解$)$ が得られる場合は除く定義を採用することも多いかな?という感じです。

例えば、多様体については空集合を除くことで次元の一意性ここでは与えられた多様体の $n$ 次元であることを $n$ 次元の座標近傍系を受け付けることによって定義しているので、空集合も多様体とするとこれは任意の次元を持ってしまいます。ただ、それが悪いかというとそうでもなく、例えば、部分多様体の交叉について基本的な主張「 $m$ 次元可微分多様体 $M$ において $n$ 次元部分多様体 $N$ と $l$ 次元部分多様体 $L$ が横断的に交わっていればその共通部分 $N\cap L$ は $n + l - m$ 次元多様体である」は空集合をそう扱っていれば正しいですが、空集合を多様体に含まなかったり便宜的に $-\infty$ 次元多様体として考える場合には成立せず、$N\cap L = \varnothing$ という仮定を加えなければいけません。他にも同境理論を考える際には空集合も多様体と扱うのが自然に思われたり、状況によって一長一短あります。が得られますし、推移的左 $G$ 集合については左 $G$ 集合の推移的左 $G$ 集合による直和分解 $($単に軌道分解$)$ を考えた際に成分の推移的左 $G$ 集合の同型類ごとの数え上げが一意という意味で直和分解の一意性があります。一方、連結空間については一般の位相空間を連結成分の直和空間として表せたりするわけではないので例えば、通常の $\R$ から定まる相対位相を与えた $\Q$ を考える。、個人的な好みに従って空集合を除外していません。

また、含めるかどうかについて、上記に挙げたとおりに忠実に守っているかというとそうではなく、その場の状況に合わせて含めたり含めなかったりする場面もあります。(単なる考慮漏れであったり、どういう方針で行くかまだ決まってなかった時期に書いたページで他とずれてたり、というのは全然あります。)

写像の対・直積・直和について

ここでは写像の対・直積・直和とその記号を以下のように定義していますが、この辺りの慣習をよく知ったうえで採用しているわけではないです。

(1) 写像 $f : X\to Y$, $g : X\to Z$ から定まる写像\[X\to Y\times Z : x\mapsto (f(x), g(x))\]を $(f, g)$ で表して $f$ と $g$ の対と呼ぶ。
(2) 写像 $f : X\to Z$, $g : Y\to Z$ から定まる写像\[X\sqcup Y\to Z : u \mapsto \left\{\begin{array}{ll}f(u) & (u\in X) \\g(u) & (u\in Y)\end{array}\right.\]を $f\sqcup g$ で表して $f$ と $g$ の直和と呼ぶ。
(3) 写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ から定まる写像\[X\times Z\times Y\times W : (x, z)\mapsto (f(x), g(z))\]を $f\times g$ で表して $f$ と $g$ の直積と呼ぶ。
(4) 写像 $f : X\to Y$, $g : Z\to W$ から定まる写像\[X\sqcup Z\to Z\sqcup W : u \mapsto \left\{\begin{array}{ll}f(u) & (u\in X) \\g(u) & (u\in Y)\end{array}\right.\]を $f\amalg g$ で表して $f$ と $g$ の直和と呼ぶ。

これらについて少し補足。

記号について、特に意識はしてなかったんですが、一応ここでいう対 $(f, g)$、直積 $f\times g$、直和 $f\amalg g$ は[マックレーン 圏論の基礎]でも同じ意味で使われています対 $(f, g)$ はp.88で導入されていますが $f$ と $g$ をコンポーネントとする射と呼んでいます。直積 $f\times g$ はp.46に現れ、あちらでは積と呼んでます。直和 $f\amalg g$ はp.80に現れますが、用語の導入は見当たらないです。。直和 $f\sqcup g$ は集合の直和を $\sqcup$ で書いていることから安直に付けていて、一般的ではない気がしますが、文脈も合わせれば十分に察せる範囲の記号使いかなとは思って使っています。きちんとしたテキストでの用例は押さえていませんが、この直和を $[f, g]$ で表しているweb上のテキストは散見されます。

用語について、対 $(f, g)$ と直積 $f\times g$ は安直に採用してます。また、直和といって $f\sqcup g$ と $f\amalg g$ の両方を指すことにしていますが、正直なところそれぞれどう呼ぶべきか分かっておらず、この記号を使うならそう呼ぶかなくらいの考えでそうしています。

多様体の境界について

ここでは単に多様体といって境界を持ちうる多様体を考えていますが、境界周りの解析は煩雑になることが多く、度々その取り扱いを簡単にするための仮定を課します。例えば、可微分多様体 $M$ 上のベクトル場 $X$ を考える場合には各 $p\in \partial M$ に対して $X_{p}\in T_{p}(\partial M)$ であることを課して境界周り含めて局所的なフローを構成できるようにしたり、可微分多様体 $M$ とその部分多様体 $N$ を考える際には $\partial N\subset \partial M$ かつ $\partial M\pitchfork N$ であることを課して各点の座標近傍のモデルとして $(\Rp^{n}, \{0\}^{n - k}\times \Rp^{k})$ を取れるようにします。このような境界周りの解析に都合いい仮定を表すため、ここでは「境界に適合した」という独自の用語を使い、例えば、境界に適合したベクトル場や境界に適合した部分多様体というように呼んでいます。

誘導について

誘導写像や誘導位相など、特定の状況から特定の手続きにより得られる新たな対象・構造であることを表す言葉に「誘導」というのがあり、ここではかなり多用しています。テキストによっては状況に合わせて「誘導」以外の言葉を使うことも多いですが、その使い分けしたところで自身でも守るの辛いと思い、何でもかんでも「誘導」で済ませてしまっています。

2.3 その他の注意