$C^{r}$ 級多様体の間の連続写像の滑らかさは局所的な表示を介して定義されます。
$(M, \mathcal{U}_{M})$, $(N, \mathcal{U}_{N})$ を $C^{r}$ 級多様体とする。次元は異なってもよい。
一般の位相空間 $A, B$ に対して $A$ から $B$ への連続写像全体からなる集合を $C(A, B)$ で表すことにしていますが、$C^{0}$ 級多様体 $M, N$ に対して明らかに $C^{0}(M, N) = C(M, N)$ です。
$C^{r}$ 級写像どうしの合成がまた $C^{r}$ 級写像となることは基本的です。
$(M, \mathcal{U}_{M})$, $(N, \mathcal{U}_{N})$, $(L, \mathcal{U}_{L})$ を $C^{r}$ 級多様体とし、$f : M\to N$, $g : N\to L$ を $C^{r}$ 級写像とする。このとき、合成 $g\circ f : M\to L$ も $C^{r}$ 級写像である。
$M$ の座標近傍 $(U_{M}, \varphi_{M})\in \mathcal{U}_{M}$ と $L$ の座標近傍 $(U_{L}, \varphi_{L})\in \mathcal{U}_{L}$ を取り、写像\[\varphi_{L}\circ g\circ f\circ \varphi_{M}^{-1} : \varphi_{M}(U_{M}\cap (g\circ f)^{-1}(U_{L}))\to \varphi_{L}(U_{L})\]が $C^{r}$ 級写像であることを示せばよいです。任意に点 $q\in \varphi_{M}(U_{M}\cap (g\circ f)^{-1}(U_{L}))$ を取ります。$N$ の座標近傍 $(U_{N}, \varphi_{N})\in \mathcal{U}_{N}$ であって $f(\varphi_{M}^{-1}(q))\in U_{N}$ となるものを取ります。$f, g$ が $C^{r}$ 級写像であったので写像\[\varphi_{L}\circ g\circ \varphi_{N}^{-1} : \varphi_{N}(U_{N}\cap g^{-1}(U_{L}))\to \varphi_{L}(U_{L}),\]\[\varphi_{N}\circ f\circ \varphi_{M}^{-1} : \varphi_{M}(U_{M}\cap f^{-1}(U_{N}\cap g^{-1}(U_{L})))\to \varphi_{N}(U_{N}\cap g^{-1}(U_{L}))\]はともに $C^{r}$ 級写像であり、その合成も $C^{r}$ 級写像です。よって、$\varphi_{L}\circ g\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}$ は $q$ の近傍で $C^{r}$ 級写像であり、$q$ が任意より $\varphi_{L}\circ g\circ f\circ \varphi_{M}^{-1}$ は $C^{r}$ 級写像です。
可微分多様体の一般の部分集合からの写像についても滑らかであるということを定式化しておきます。
$M, N$ を $C^{r}$ 級多様体とする。$M$ の部分空間 $A$ 上定義された写像 $f : A\to N$ が $C^{r}$ 級であるとは、各 $x\in A$ に対してその $M$ における開近傍 $U_{x}$ 上定義された $C^{r}$ 級写像 $g_{x} : U_{x}\to N$ であって $g_{x}|_{A\cap U_{x}} = f|_{A\cap U_{x}}$ を満たすものが存在することと定める。
$M, N$ を $C^{r}$ 級多様体とする。
$C^{r}$ 級多様体 $M, N, L$ に対して次が成立する。
従って、次が成立する。
(1) (2) 定義から容易に確かめられます。
(3) $(g\circ f)^{-1} = g^{-1}\circ f^{-1}$ であること、仮定から $f^{-1}, g^{-1}$ が $C^{r}$ 級写像でること、$C^{r}$ 級写像どうしの合成がまた $C^{r}$ 級写像であることから分かります。
座標近傍系に対する $C^{r}$ 級同値を定義します。
$M$ を位相多様体とする。$M$ の2つの $C^{r}$ 級座標近傍系 $\mathcal{U}$, $\mathcal{U}'$ が $C^{r}$ 級同値であるとは、恒等写像 $\Id_{M} : (M, \mathcal{U})\to (M, \mathcal{U}')$ が $C^{r}$ 級同相写像であることと定め、$\mathcal{U}\cong_{r}\mathcal{U}'$ と書く。
$M$ を位相多様体、$\mathcal{U}$, $\mathcal{U}', \mathcal{U}''$ をその $C^{r}$ 級座標近傍系とする。次が成立する。
$M$ を位相多様体、$\mathcal{U}, \mathcal{U}'$ をその $C^{r}$ 級座標近傍系とする。次は同値である。
この例では単なる位相空間としての実数集合を $\R'$ と表すことにします。$\varphi_{1} : \R'\to \R$ を恒等写像とし、$\varphi_{2} : \R'\to \R$ を\[\varphi_{2}(t) := \left\{\begin{array}{cl}t & (t \geq 0) \\2t & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]により定めます。このとき、$\{(\R', \varphi_{1})\}$, $\{(\R', \varphi_{2})\}$ はともに $\R'$ の $C^{\infty}$ 級座標近傍系ですが、$\varphi_{2}\circ\varphi_{1}^{-1} : \R\to \R$ が $C^{1}$ 級写像ですらないため $C^{1}$ 級同値でもなければ当然 $C^{\infty}$ 級同値でもありません。しかし、写像 $f : \R'\to \R'$ を $\varphi_{2}$ 同様に\[f(t) := \left\{\begin{array}{cl}t & (t \geq 0) \\2t & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]と定めれば $\varphi_{1}\circ f\circ \varphi_{2}^{-1}$ は恒等写像であり、多様体 $(\R', \{(\R', \varphi_{1})\})$ と $(\R', \{(\R', \varphi_{2})\})$ は $C^{\infty}$ 級同相であることが分かります。
さて、そもそも座標近傍とは位相空間を局所的にEuclid空間の開集合とみなして調べるために考えているわけですが、この開集合がでたらめな形状をしているよりも開球体のような単純な形状のほうが多様体の局所的状況を調べるのに都合がいいというのは当然で、実際にいつでもそのように取れると便利です。しかし、そのためにはあらかじめ座標近傍系の中にそういう座標近傍が用意されていないといけません。そこで、以下では与えられた $C^{r}$ 級座標近傍系をそれと $C^{r}$ 級同値でありながら十分多くの座標近傍を持つ $C^{r}$ 級座標近傍系によって取り換えることを考えます。問題となるのは
という点です。
以下、細かいわずらわしさここでは座標近傍系を座標近傍の添字付きの族として定義しているので、座標近傍系どうしの和が $($常には$)$ 取れないとか、座標近傍系全体が集合にならないという些末な問題があります。以下ではその回避のためだけにアドホックな規約を設けますが、そもそも座標近傍系を座標近傍の集合として定めていればこの辺りの問題は生じないので、最初からそっちの定義を採用するのがよいと思います。を避けるため、考慮する $C^{r}$ 級座標近傍系 $\mathcal{U}$ を次の条件を満たすものに制限し、それら全体からなる集合を $\mathfrak{U}_{M}^{r}$ と書くことにします。
$1$ つ目の規約から $\mathfrak{U}_{M}^{r}$ が集合として定まり、$2$ つ目の規約から座標近傍系どうしの和がwell-definedに取れます添字付きの族を写像とも思うとして、始域の共通部分で取る値が常に一致するので、写像の貼り合わせとして添字付きの族の和を取ることができます。。
$M$ を位相多様体とし、$\mathfrak{U}\subset \mathfrak{U}_{M}^{r}$ を $M$ の $C^{r}$ 級座標近傍系からなる空でない集合であって任意の $\mathcal{U}, \mathcal{U}'\in\mathfrak{U}$ に対して $\mathcal{U}\cong_{r}\mathcal{U}'$ を満たすものとする。和 $\tilde{\mathcal{U}} := \bigcup_{\mathcal{U}\in\mathfrak{U}}\mathcal{U}$ は $M$ の $C^{r}$ 級座標近傍系であり、任意の $\mathcal{U}\in \mathfrak{U}$ に対して $\mathcal{U}\cong_{r}\tilde{\mathcal{U}}$ を満たす。
$M$ を位相多様体とする。$C^{r}$ 級座標近傍系 $\mathcal{U}\in \mathfrak{U}_{M}^{r}$ が $\mathfrak{U}_{M}^{r}$ において代表する $C^{r}$ 級同値類を $[\mathcal{U}]_{r}$ と書くとして、$\mathcal{M}^{r}(\mathcal{U}) := \bigcup_{\mathcal{V}\in [\mathcal{U}]_{r}}\mathcal{V}$ と記号を定める。この $\mathcal{M}^{r}(\mathcal{U})$ を $\mathcal{U}$ に関する $C^{r}$ 級極大座標近傍系や $C^{r}$ 級微分構造という。また、単に微分構造といったら $C^{\infty}$ 級の微分構造を指すとする。次が成立する。
$C^{r}$ 級極大座標近傍系にはその極大性から様々な座標近傍が含まれることが期待されますが、実際には次の結果を使ってその場の状況にあった座標近傍を取っていくことになります。(まあ、これくらいのことは当たり前として普通表立って書かないですが。)
$M$ を位相多様体、$\mathcal{U}$ をその $C^{r}$ 級極大座標近傍系とする。次が成立する。$($ただし、簡単のため $M$ は境界を持たないとする。$)$
よって、例えば具体的に次が成立する。
次は連続写像が $C^{r}$ 級であるということが $C^{r}$ 級同値な $C^{r}$ 級座標近傍系の取り換えで不変な性質であることを意味します。
$M, N$ を位相多様体とし、$\mathcal{U}_{M}, \mathcal{U}'_{M}$ を $M$ の互いに $C^{r}$ 級同値な $C^{r}$ 級座標近傍系、$\mathcal{U}_{N}, \mathcal{U}'_{N}$ を $N$ の互いに $C^{r}$ 級同値な $C^{r}$ 級座標近傍系とするとき、次が成立する。
微分構造に関する重要な事実を紹介します。ほとんどは証明に深い準備が必要になります。
まず第一に、少なくとも $C^{1}$ 級な微分構造がより滑らかな微分構造に $($微分同相の違いを除いて$)$ 一意に取り換えられることが知られています。
$1\leq s < r\leq \omega$ とする。次が成立する。
$r = \infty$ の場合の証明は[志賀 多様体論]の定理1.12を参照。$r = \omega$ の場合についてもそちらに説明ありますが、やはり実解析性周りで準備が必要なようです。
このことから、主な関心が $C^{r\geq 1}$ 級微分構造自体にある場合 $($例えば多様体の $C^{r}$ 級同相類による分類$)$ には $r$ を何かしら固定して調べれば本質的に十分ということになり、また、単に扱いやすさのこともあって $r = \infty$ の場合を中心に扱う多様体論のテキストが多いです。
しかし、なんでもかんでも $C^{\infty}$ 級で考えていれば十分というわけではなく、微分可能性によって差が現れることもありえます。用語の定義や説明は省きますが、いくつか例を挙げておきます。
一方で $C^{0}$ 級多様体 $($位相多様体$)$ から考える場合には事情が全く異なります。
微分構造を持たない位相多様体が存在する。
互いに $C^{\infty}$ 級同相でない微分構造を複数持つ位相多様体が存在する。
単位球面 $S^{n}$ は例1.1.6により可微分多様体になりますが、通常このとき定まる微分構造を標準的な微分構造とみなします。$n\leq 6$ であれば位相的な $S^{n}$ の持つ微分構造は標準的なものただ一つに限られますが、$n\geq 7$ では必ずしもそうではなく、例えば $n = 7$ の場合には互いに $C^{\infty}$ 級同相でない微分構造が $($標準的なもの含めて$)$ ちょうど $15$ 個存在することが知られています。これらのうちで標準的でないものは異種微分構造と呼ばれ、それを与えた球面は異種球面やエキゾチック球面と呼ばれます。
より一般に、何かしらの意味で標準的な微分構造を持つ可微分多様体に対し、それと $C^{\infty}$ 級同相でない微分構造のことは異種微分構造といいます。
Euclid空間 $\R^{n}$ は $n = 4$ のときに限り異種微分構造を持ち、しかも、互いに微分同相でないものが非可算無限個存在することが知られています。$($$n\neq 4$ の場合は $\R^{n}$ にどのような微分構造を与えてもそれらは互いに微分同相になります。$)$
次は低次元位相幾何学において基本的な事実です。
$n\leq 3$ において $n$ 次元位相多様体は微分同相の違いを除いて一意な微分構造を持つ。
以上です。
特になし。
参考文献
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