この節以降では断りがなければ可微分多様体 $($$C^{\infty}$ 級多様体$)$ のみを考えます。
接束の双対束の外積代数の切断として微分形式を定義します。
可微分多様体 $M$ に対して、その接束の双対束を $T^{*}M$ と書き余接束 $($cotangent bundle$)$ という。余接束の $k$ 階外積の切断全体 $\Gamma(\bigwedge^{k}T^{*}M)$ を $\Omega^{k}(M)$ と書き、その元を $k$ 次微分形式という。また、$k$ を次数といい $\deg \omega$ と表す。
命題1.4.9の同型\[\Omega^{k}(M) = \Gamma\left(\bigwedge^{k}T^{*}M\right)\cong A_{C^{\infty}(M)}^{k}(\mathfrak{X}(M), C^{\infty}(M))\]から $k$ 次微分形式は $\mathfrak{X}(M)$ 上の $k$ 次交代形式と同一視され、逆に、$\mathfrak{X}(M)$ 上の $k$ 次交代形式は $k$ 次微分形式と同一視されます。この $k$ 次交代形式は各ファイバーごとに計算されることに注意します。
また、定義により $\Omega^{0}(M) = C^{\infty}(M)$ であることに注意します。
以下では、座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ から定まる $T_{p}M$ の基底 $(\partial_{x_{1}})_{p}, \dots, (\partial_{x_{n}})_{p}$ の双対基底を $(dx_{1})_{p}, \dots, (dx_{n})_{p}$ と書くことにします。これより、$k$ 次微分形式 $\omega$ は座標近傍上では標準的な基底分解\[\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]を持ち、係数の関数 $f_{i_{1}\dots i_{k}}$ は\[f_{i_{1}\dots i_{k}}(p) = \omega_{p}((\partial_{x_{i_{1}}})_{p}, \dots, (\partial_{x_{i_{k}}})_{p})\]により与えられます。
もう一つ重要な注意として、$\Omega^{\bullet}(M) = \bigoplus_{k = 0}^{\infty}\Omega^{k}(M)$ には各ファイバーごとの外積による微分形式どうしの外積が定義され、次数付き環となることです。
以下、微分形式の性質を見ていきます。まず、次は定義から明らかです。
微分形式 $\omega\in\Omega^{k}(M)$, $\eta\in\Omega^{l}(M)$ に対して\[\eta\wedge\omega = (-1)^{kl}\omega\wedge\eta\]が成立する。
ファイバーごとに考えればいいです。
続いて、$1$ 次微分形式に対して座標変換公式を与えます。
座標近傍 $(U_{\lambda}, x_{1}, \dots, x_{n})$, $(U_{\mu}, y_{1}, \dots, y_{n})$ に対する $T^{*}M$ の標準的な局所自明化の間の変換関数は\[(dx_{j}) = \sum_{i = 1}^{n}\dfrac{\partial x_{j}}{\partial y_{i}}(p)(dy_{i})_{p}\]より与えられる。つまり、変換関数 $g_{\mu\lambda}$ は $g_{\mu\lambda}(p) = \left[\dfrac{\partial x_{j}}{\partial y_{i}}(p)\right]$ と表される。
接束による標準的な自明化の間の変換が $\left[\dfrac{\partial y_{j}}{\partial x_{i}}(p)\right]$ により与えられたことと双対束の定義によります。
次に、$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ に対して引き戻し写像 $f^{*} : \Omega^{k}(N)\to \Omega^{k}(M)$ を定義します。
$f : M\to N$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。$N$ 上の $k$ 次微分形式 $\omega\in\Omega^{k}(N)$ に対して $M$ 上の $k$ 次微分形式 $f^{*}\omega\in\Omega^{k}(M)$ を、各点 $p\in M$ において\[(f^{*}\omega)_{p}(X_{p}^{(1)}, \dots, X_{p}^{(k)}) = \omega_{f(p)}(f_{*}X_{p}^{(1)}, \dots, f_{*}X_{p}^{(k)}) \, ({}^{\forall}p\in M, \, {}^{\forall}X^{(1)}, \dots, X^{(k)}\in\mathfrak{X}(M))\]を満たす $k$ 次交代形式として定義する。$f^{*}\omega$ を $C^{\infty}$ 級写像 $f$ による引き戻し $($pull-back$)$ という。これにより構成される線形写像 $f^{*} : \Omega^{k}(N)\to \Omega^{k}(M)$ を引き戻し写像や単に引き戻しという。
各点においては接写像 $f_{*} : T_{p}M\to T_{f(p)}N$ の双対写像によって $\omega_{p}$ から誘導される実 $k$ 次交代形式であることに注意します。
まずは引き戻しが自然であることと外積との可換性を見ておきます。
$f : M\to N$, $g : N\to L$ を $C^{\infty}$ 級写像とする。このとき、$(g\circ f)^{*} = f^{*}\circ g^{*} : \Omega^{\bullet}(L)\to \Omega^{\bullet}(M)$ が成立する。
接写像の自然性により明らかです。任意の $\omega\in\Omega^{k}(L)$ に対し、各 $p\in M$ において\begin{eqnarray*}(f^{*}(g^{*}\omega))_{p}(X_{p}^{(1)}, \dots, X_{p}^{(k)}) & = & (g^{*}\omega)_{f(p)}(f_{*}X_{p}^{(1)}, \dots, f_{*}X_{p}^{(k)})\\& = & \omega_{g\circ f(p)}(g_{*}(f_{*}X_{p}^{(1)}), \dots, g_{*}(f_{*}X_{p}^{(k)})) \\& = & \omega_{g\circ f(p)}((g\circ f)_{*}X_{p}^{(1)}, \dots, (g\circ f)_{*}X_{p}^{(k)}) \\& = & ((g\circ f)^{*}\omega)_{p}(X_{p}^{(1)}, \dots, X_{p}^{(k)})\end{eqnarray*}が成立しているので $f^{*}\circ g^{*} = (g\circ f)^{*}$ です。
$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ と $\omega, \eta\in\Omega^{\bullet}(N)$ に対して\[f^{*}(\omega\wedge\eta) = f^{*}\omega\wedge f^{*}\eta\]が成立する。
各点ごとに考えれば良いです。あとは線形写像 $V\to W$ が外積代数 $\bigwedge^{*}V^{*}$, $\bigwedge^{*}W^{*}$ の間に誘導する写像 $\bigwedge^{*}W^{*}\to \bigwedge^{*}V^{*}$ が外積を保つことから分かります。
次に、$1$ 次微分形式の引き戻しの局所表示を与えます。
$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ と $\omega\in\Omega^{1}(N)$ を考える。$p\in M$ の周りの座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{m})$ と $f(p)\in N$ の周りの座標近傍 $(V, y_{1}, \dots, y_{n})$ を取る。$\omega_{f(p)}$ が $V$ 上\[\sum_{l = 1}^{n}\beta_{l}(dy_{l})_{f(p)}\in T_{f(p)}^{*}N\]と表されるとき $(f^{*}\omega)_{p}$ は\[\sum_{k = 1}^{m}\sum_{l = 1}^{n}\beta_{l}\dfrac{\partial y_{l}}{\partial x_{k}}(p)(dx_{k})_{p}\in T_{p}^{*}M\]により表される。また、\[f^{*}(dy_{l})_{f(p)} = \sum_{k = 1}^{m}\dfrac{\partial y_{l}}{\partial x_{k}}(p)(dx_{k})_{p}\]である。
定義より\begin{eqnarray*}(f^{*}\omega)_{p}(\partial_{x_{k}})_{p} & = & \omega(f_{*}(\partial_{x_{k}})_{p}) = \omega\left(\sum_{l = 1}^{n}\dfrac{\partial y_{l}}{\partial x_{k}}(p)(\partial_{y_{l}})_{f(p)}\right) \\& = & \sum_{l = 1}^{n}\beta_{l}\dfrac{\partial y_{l}}{\partial x_{k}}(p)\end{eqnarray*}であり、これが $(f^{*}\omega)_{p}$ の $(dx_{k})_{p}$ 成分の係数です。
命題2.2.6より、一般には $1$ 次の場合を各 $(dy_{l})_{f(p)}$ に代入して展開していくことで得られますが、一般には具体的に書き下すのは大変。。$\dim M = \dim N = n$ であるとき、次数 $n$ の場合も重要です。
$\dim M = \dim N = n$ とし、$C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ を考える。$p\in M$ の周りの座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ と $f(p)\in N$ の周りの座標近傍 $(V, y_{1}, \dots, y_{n})$ を取る。このとき、\[f^{*}((dy_{1})_{f(p)}\wedge\dots\wedge(dy_{n})_{f(p)}) = \det J_{f}(p)\cdot(dx_{1})_{p}\wedge\dots\wedge(dx_{n})_{p}\]が成立する。ただし、$\det J_{f}(p)$ はこの座標近傍に対する $f$ のJacobi行列 $J_{f}(p)$ の行列式である。
命題2.2.6と命題2.2.7により\begin{eqnarray*}f^{*}((dy_{1})_{f(p)}\wedge\dots\wedge(dy_{n})_{f(p)}) & = & \left(\sum_{i = 1}^{n}\dfrac{\partial y_{1}}{\partial x_{i}}(p)(dx_{i})_{p}\right)\wedge\dots\wedge\left(\sum_{i = 1}^{n}\dfrac{\partial y_{n}}{\partial x_{i}}(p)(dx_{i})_{p}\right) \\& = & \sum_{\sigma\in\mathfrak{S}_{n}}\sign(\sigma)\prod_{i = 1}^{n}\dfrac{\partial y_{i}}{\partial x_{\sigma(i)}}(p)\cdot (dx_{1})_{p}\wedge\dots\wedge(dx_{n})_{p} \\& = & \det J_{f}(p)\cdot(dx_{1})_{p}\wedge\dots\wedge(dx_{n})_{p}\end{eqnarray*}です。
以下では微分形式に対する重要な作用素である外微分を導入し、その基本的な性質をまとめます。まずは定義から。
$M$ を可微分多様体とする。線型写像 $d : \Omega^{k}(M)\to \Omega^{k + 1}(M)$ を次のように定める。
まずはこれが実際に微分形式を与えていることを示します。
$k$ 次微分形式 $\omega\in \Omega^{k}(M)$ に対し、実際に $d\omega\in \Omega^{k + 1}(M)$ である。
$d\omega$ が $C^{\infty}(M)$ 係数の $(k + 1)$ 次交代形式であることを示します。$k = 0$ のときは明らかなので $k \geq 1$ とします。
まず、任意の $f\in C^{\infty}(M)$ と $X, Y\in \mathfrak{X}(M)$ に対し、$[fX, Y] = f[X, Y] - (Yf)X$ であることに注意して\begin{eqnarray*}d\omega(fX_{0}, X_{1}, \dots, X_{k}) & = & fX_{0}(\omega(X_{1}, \dots, X_{k})) \\& + & \sum_{i = 1}^{k}(-1)^{i}(X_{i})(f\omega(X_{0}, \dots, \hat{X_{i}}, \dots, X_{k})) \\& + & \sum_{j = 1}^{k}(-1)^{j}\omega([fX_{0}, X_{j}], X_{1}, \dots, \hat{X_{j}}, \dots, X_{k}) \\& + & \sum_{1\leq i < j}(-1)^{i + j}\omega([X_{i}, X_{j}], fX_{0}, X_{1}, \dots, \hat{X_{i}}, \dots, \hat{X_{j}}, \dots, X_{k}) \\& = & fd\omega(X_{0}, X_{1}, \dots, X_{k}) \\& + & \sum_{i = 1}^{k}(-1)^{i}(X_{i}f)\omega(X_{0}, \dots, \hat{X_{i}}, \dots, X_{k}) \\& + & \sum_{j = 1}^{k}(-1)^{j}(-X_{j}f)\omega(X_{0}, \dots, \hat{X_{j}}, \dots, X_{k}) \\& = & fd\omega(X_{0}, X_{1}, \dots, X_{k})\end{eqnarray*}と計算できます若干省略していますが、外微分の定義、上の注意、ベクトル場が $C^{\infty}(M)$ に定める作用素のLeibniz則を用いて書き下したのち整理しているだけです。。
よって、あとは交代性を示せば $k + 1$ 次交代形式であることが分かりますが、そのためには隣り合う $X_{r}, X_{r + 1}$ の交換により $d\omega$ が $-1$ 倍されることを示せば十分です。まず、外微分の定義の $1$ つ目の総和について、
であり、定義の $2$ つ目の総和について、
となります。
外微分は局所的には次の形で表されます。
$k$ 次微分形式 $\omega\in\Omega^{k}(M)$ が座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ 上で\[\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]と表されているとするとき、その外微分 $d\omega$ は $U$ 上\[d\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}\sum_{j = 1}^{n}\dfrac{\partial f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}}dx_{j}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}df_{i_{1}\dots i_{k}}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]と表示される。
項別に計算すればよいので、$\omega = f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}$ として示します。相異なる $j_{0}, \dots, j_{k}$ に対し、$d\omega$ の $dx_{j_{0}}\wedge \dots\wedge dx_{j_{k}}$ 成分が $d\omega(\partial_{x_{j_{0}}}, \dots, \partial_{x_{j_{k}}})$ で与えられるので、外微分の定義に従ってこれを計算していきます。まず、任意の $1\leq p, q\leq n$ に対して $[\partial_{x_{p}}, \partial_{x_{q}}] = 0$ であることから定義の $2$ つ目の総和は $0$ です。$1$ つ目の総和について、$\{i_{1}, \dots, i_{k}\}\subset\{j_{0}, \dots, j_{k}\}$ 以外のときは $0$ なので、あとは $i_{r} = j_{r} \ (1 \leq r \leq k)$ として計算すればよいですが、これは $1$ つ目の総和において $i = 0$ の項以外は $0$ であることから\[d\omega(\partial_{x_{j_{0}}}, \partial_{x_{i_{1}}}, \dots, \partial_{x_{i_{k}}}) = \partial_{x_{j_{0}}}\omega(\partial_{x_{i_{1}}}, \dots, \partial_{x_{i_{k}}}) = \partial_{x_{j_{0}}}f_{i_{1}\dots i_{k}}\]です。$j$ が $i_{1}, \dots, i_{k}$ の内のいずれかに一致する場合 $dx_{j}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} = 0$ であることに注意すれば欲しかった等式\[d\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}\sum_{j = 1}^{n}\dfrac{\partial f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}}dx_{j}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]を得ます。また、$k = 0$ の場合を用いて整理すれば\[d\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}df_{i_{1}\dots i_{k}}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]を得ます。
$k = 0$ の場合により $T_{p}M$ の基底 $(\partial_{x_{1}})_{p}, \dots, (\partial_{x_{n}})_{p}$ の双対基底を $(dx_{1})_{p}, \dots, (dx_{n})_{p}$ と書くことが正当化されます。つまり、局所座標系の第 $i$ 成分 $x_{i}$ は局所的な関数 $($区別のため $\tilde{x}_{i}$ と書く$)$ とみなせますが、これは各点 $p$ において\[(d\tilde{x}_{i})_{p} = \sum_{j = 1}^{n}\dfrac{\partial \tilde{x}_{i}}{\partial x_{j}}(p)(dx_{j})_{p} = (dx_{i})_{p}\]を満たしているので、双対基底の元として定義した $(dx_{i})_{p}$ は局所関数 $x_{i}$ の外微分の $p$ における値でもあります。
命題2.2.11より局所的には\[d(x_{i_{1}}dx_{i_{2}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}) = dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]なので、任意の $l < k$ に対して $\Omega^{k}(M)$ は局所的には $\Omega^{l}(M)$ と $d\Omega^{k - l - 1}(M)$ の外積により生成することが分かります。
外微分の性質として、次の $d\circ d = 0$ が重要です。
外微分について $d^{2} = d\circ d = 0$ である。
$k$ 次微分形式 $\omega\in\Omega^{k}(M)$ に対して $d(d\omega) = 0$ を示せばよいです。座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ をとり、$U$ 上\[\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}\]表示されているとします。このとき、命題2.2.11により項別に\begin{eqnarray*}d^{2}(f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}) & = & \sum_{1\leq i, j \leq n}\dfrac{\partial^{2}f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}\partial x_{i}}dx_{j}\wedge dx_{i}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& = & \sum_{i < j}\dfrac{\partial^{2}f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}\partial x_{i}}dx_{j}\wedge dx_{i}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& + & \sum_{j < i}\dfrac{\partial^{2}f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}\partial x_{i}}dx_{j}\wedge dx_{i}\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& = & \sum_{i < j}\left(\dfrac{\partial^{2}f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{j}\partial x_{i}}dx_{j}\wedge dx_{i} + \dfrac{\partial^{2}f_{i_{1}\dots i_{k}}}{\partial x_{i}\partial x_{j}}dx_{i}\wedge dx_{j}\right)\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& = & 0\end{eqnarray*}と計算できます。よって $d(d\omega) = 0$ です。
外積や引き戻しとの関係も基本的です。
任意の $\omega\in\Omega^{k}(M)$, $\eta\in\Omega^{l}(M)$ に対して\[d(\omega\wedge\eta) = d\omega\wedge\eta + (-1)^{k}\omega\wedge d\eta\]が成立する。
まず、$k = l = 0$ の場合は $f, g\in\Omega^{0}(M)$ に対し、任意の $X\in\mathfrak(X)(M)$ で\[d(fg)(X) = X(fg) = gXf + fXg = (gdf + fdg)(X)\]が成立するので、$d(fg) = df\cdot g + f\cdot dg$ となり確かめられます。
一般に示します。座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ 上で $\omega, \eta$ の標準的な分解\[\omega = \sum_{i_{1} < \dots < i_{k}}f_{i_{1}\dots i_{k}}dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}},\]\[\eta = \sum_{j_{1} < \dots < j_{l}}g_{j_{1}\dots j_{l}}dx_{j_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{j_{l}}\]を与えます。添字が重いので $i = i_{1}\dots i_{k}$, $dx_{i}^{k} = dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}$ などと略記することにします。このとき、\begin{eqnarray*}d(\omega\wedge\eta) & = & d\sum_{i, j}f_{i}dx_{i}^{k}\wedge g_{j}dx_{j}^{l} = d\sum_{i, j}f_{i}g_{j}dx_{i}^{k}\wedge dx_{j}^{l} \\& = & \sum_{i, j}(df_{i}\cdot g_{j} + f_{i}\cdot dg_{j})\wedge dx_{i}^{k}\wedge dx_{j}^{l} \\& = & \sum_{i, j}(df_{i}\wedge dx_{i}^{k})\wedge(g_{j}dx_{j}^{l}) + (-1)^{k}(f_{i}dx_{i}^{k})\wedge(dg_{j}\wedge dx_{j}^{l}) \\& = & \sum_{i, j}d(f_{i}dx_{i}^{k})\wedge(g_{j}dx_{j}^{l}) + (-1)^{k}(f_{i}dx_{i}^{k})\wedge d(g_{j}dx_{j}^{l}) \\& = & d\omega\wedge \eta + (-1)^{k}\omega\wedge d\eta\end{eqnarray*}となります。よって、全体で $d(\omega\wedge\eta) = d\omega\wedge\eta + (-1)^{k}\omega\wedge d\eta$ です。
任意の $C^{\infty}$ 級写像 $f : M\to N$ と $\omega\in\Omega^{k}(N)$ に対して\[f^{*}d\omega = d(f^{*}\omega)\]が成立する。
まず、$k = 0$ の場合は任意の $h\in\Omega^{0}(N)$ と $X\in \mathfrak{X}(M)$ に対して\begin{eqnarray*}f^{*}(dh)(X) & = & dh(f_{*}X) = (f_{*}X)h \\& = & X(h\circ f) = X(f^{*}h) = d(f^{*}h)(X)\end{eqnarray*}であることから分かります。
一般には帰納法によりますが、これは $($$k - 1$ までよいとして$)$、補足2.2.13を用いて開集合 $V\subset N$ 上で $\omega = \sum h_{i}d\omega_{i}$ と表示すれば、$f^{-1}(V)\subset M$ 上で\begin{eqnarray*}f^{*}d\omega & = & f^{*}\sum dh_{i}\wedge d\omega_{i} = \sum f^{*}dh_{i}\wedge f^{*}d\omega_{i} \\& = & \sum d(f^{*}h_{i})\wedge d(f^{*}\omega_{i}) = d\sum (f^{*}h_{i})d(f^{*}\omega_{i}) \\& = & d\sum f^{*}h_{i}f^{*}d\omega_{i} = d\sum f^{*}(h_{i}d\omega_{i}) = d(f^{*}\omega)\end{eqnarray*}となるので上手くいきます。
Lie微分と内部積を定義し、その基本的な公式をまとめます。
$X\in\mathfrak{X}(M)$ に対し、$\mathcal{L}_{X} : \Omega^{k}(M)\to \Omega^{k}(M)$ を\[\mathcal{L}_{X}\omega = \lim_{t\to 0}\dfrac{(F_{X, t})^{*}\omega - \omega}{t}\]により定義し、Lie微分という。$($cf. 定義2.1.25$)$
$X\in\mathfrak{X}(M)$ に対し、$\iota_{X} : \Omega^{k}(M)\to \Omega^{k - 1}(M)$ を各 $\omega\in\Omega^{k}(M)$ に対して\[(\iota_{X}\omega)(X_{2}, \dots, X_{k}) = \omega(X, X_{2}, \dots, X_{k})\]を満たす $k - 1$ 次微分形式 $\iota_{X}\omega$ を対応させることで定義する。ただし、$k = 0$ に対しては零写像とみなす。$\iota_{X}\omega$ を $X$ と $\omega$ の内部積という。
次が成立する。
(1) 次の計算から分かりますLeibniz則の部分は正確には局所座標系を取っての直接計算によります。。ただし、$F_{X}$ を $X$ の生成するフローとします。\begin{eqnarray*}\mathcal{L}_{X}(\omega\wedge\eta) & = & \left.\dfrac{d}{dt}F_{X, t}^{*}(\omega\wedge\eta)\right|_{t = 0} = \left.\dfrac{d}{dt}(F_{X, t}^{*}\omega\wedge F_{X, t}^{*}\eta)\right|_{t = 0} \\& = & \left.\dfrac{d}{dt}F_{X, t}^{*}\omega\right|_{t = 0}\wedge \eta + \omega\wedge \left.\dfrac{d}{dt}F_{X, t}^{*}\eta\right|_{t = 0} = \mathcal{L}_{X}\omega\wedge\eta + \omega\wedge\mathcal{L}_{X}\eta\end{eqnarray*}
(2) 外積の定義により分かります。
(3) これは $\mathcal{L}_{X}$ と $d$ の可換性を主張してることに注意します。$\omega\in\Omega^{k}(M)$ に対して $F_{X, t}^{*}\omega$ の $t$ 方向偏微分 $\partial_{t}$ と外微分 $d$ の可換性を示せば十分です。しかし、これは座標近傍 $(U, x_{1}, \dots, x_{n})$ における標準的な基底成分表示を考え、項別に直接計算することで確かめられます。つまり、$F_{X, t}^{*}\omega$ の $dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}$ 成分の係数が $f(x, t)$ であったとして\begin{eqnarray*}d\partial_{t}(fdx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}}) & = & \left(\sum_{l = 1}^{n}\dfrac{\partial^{2}f}{\partial x_{l}\partial t}dx_{l}\right)\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& = & \left(\sum_{l = 1}^{n}\dfrac{\partial^{2}f}{\partial t\partial x_{l}}dx_{l}\right)\wedge dx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}} \\& = & \partial_{t}d(fdx_{i_{1}}\wedge\dots\wedge dx_{i_{k}})\end{eqnarray*}であるので、これを各項足し合わせることで\[d\partial_{t}F_{X, t}^{*}\omega = \partial_{t}dF_{X, t}^{*}\omega = \partial_{t}F_{X, t}^{*}d\omega\]となり、$d\mathcal{L}_{X}\omega = \mathcal{L}_{X}d\omega$ が分かります。
(4) 帰納法によります。まず、$\Omega^{0}(M)$ については命題2.1.18です。$k - 1$ 次まではよいとして $\omega\in \Omega^{k}(M)$ に対して $[\mathcal{L}_{X}, \mathcal{L}_{Y}]\omega = \mathcal{L}_{[X, Y]}\omega$ を示します。補足2.2.13により $\omega$ は局所的には $\omega = \sum_{i} f_{i}d\omega_{i}$ と表示でき、項別に\begin{eqnarray*}\mathcal{L}_{X}\mathcal{L}_{Y}f_{i}d\omega_{i} & = & \mathcal{L}_{X}(Yf_{i}\cdot d\omega_{i} + f_{i}\mathcal{L}_{Y}d\omega_{i}) \\& = & XYf_{i}\cdot d\omega_{i} + Yf_{i}\cdot\mathcal{L}_{X}d\omega_{i} + Xf_{i}\cdot\mathcal{L}_{Y}d\omega_{i} + f_{i}\mathcal{L}_{X}\mathcal{L}_{Y}d\omega_{i} \\& = & XYf_{i}\cdot d\omega_{i} + Yf_{i}\cdot\mathcal{L}_{X}d\omega_{i} + Xf_{i}\cdot\mathcal{L}_{Y}d\omega_{i} + f_{i}d\mathcal{L}_{X}\mathcal{L}_{Y}\omega_{i}\end{eqnarray*}\begin{eqnarray*}[\mathcal{L}_{X}, \mathcal{L}_{Y}]f_{i}d\omega_{i} & = & XYf_{i}\cdot d\omega_{i} - YXf_{i}\cdot d\omega_{i} + f_{i}d\mathcal{L}_{X}\mathcal{L}_{Y}\omega_{i} - f_{i}d\mathcal{L}_{Y}\mathcal{L}_{X}\omega_{i} \\& = & [X, Y]f_{i}\cdot d\omega_{i} + f_{i}d\mathcal{L}_{[X, Y]}\omega_{i} \\& = & \mathcal{L}_{[X, Y]}f_{i}\cdot d\omega_{i} + f_{i}\mathcal{L}_{[X, Y]}d\omega_{i} = \mathcal{L}_{[X, Y]}f_{i}d\omega_{i}\end{eqnarray*}と計算されることから $[\mathcal{L}_{X}, \mathcal{L}_{Y}]\omega = \mathcal{L}_{[X, Y]}\omega$ が分かります。よって、全体でもそうです。
(5) 帰納法によります。$\Omega^{0}(M)$ に対しては明らかです。まず、$d\Omega^{0}(M)$ に対して示します。これは $df\in d\Omega^{0}(M)$ に対し、\begin{eqnarray*}[\mathcal{L}_{X}, \iota_{Y}]df & = & XYf - \iota_{Y}\mathcal{L}_{X}df \\& = & XYf - \iota_{Y}d\mathcal{L}_{X}f = XYf - YXf = \iota_{[X, Y]}df\end{eqnarray*}なのでよいです。$k - 1$ 次まではよいとして $\omega\in \Omega^{k}(M)$ に対して示します。補足2.2.13により $\omega$ は局所的には $\omega = \sum_{i} df_{i}\wedge\omega_{i}$ と表示でき、項別に\begin{eqnarray*}[\mathcal{L}_{X}, \iota_{Y}](d_{i}f\wedge\omega_{i}) & = & \mathcal{L}_{X}(\iota_{Y}df_{i}\cdot\omega_{i} - df_{i}\wedge\iota_{Y}\omega_{i}) -\iota_{Y}(\mathcal{L}_{X}df_{i}\wedge\omega_{i} + df_{i}\wedge\mathcal{L}_{X}\omega_{i}) \\& = & \mathcal{L}_{X}\iota_{Y}df_{i}\cdot\omega_{i} + \iota_{Y}df_{i}\cdot\mathcal{L}_{X}\omega_{i} - \mathcal{L}_{X}df_{i}\wedge\iota_{Y}\omega_{i} - df_{i}\wedge\mathcal{L}_{X}\iota_{Y}\omega_{i} \\& - & (\iota_{Y}\mathcal{L}_{X}df_{i}\cdot\omega_{i} - \mathcal{L}_{X}df_{i}\wedge\iota_{Y}\omega_{i} + \iota_{Y}df_{i}\cdot\mathcal{L}_{X}\omega_{i} - df_{i}\wedge\iota_{Y}\mathcal{L}_{X}\omega_{i}) \\& = & [\mathcal{L}_{X}, \iota_{Y}]df_{i}\cdot\omega_{i} - df_{i}\wedge[\mathcal{L}_{X}, \iota_{Y}]\omega_{i} \\& = & \iota_{[X, Y]}df_{i}\cdot\omega_{i} - df_{i}\wedge\iota_{[X, Y]}\omega_{i} \\& = & \iota_{[X, Y]}(df_{i}\wedge\omega_{i})\end{eqnarray*}なので分かります。
(6) 帰納法によります。$\Omega^{0}(M)$ において $\mathcal{L}_{X} = \iota_{X}d = d\iota_{X} + \iota_{X}d$ であることは明らかです。まず、$d\Omega^{0}(M)$ に対して示します。これは $df\in d\Omega^{0}(M)$ に対し、\[(d\iota_{X} + \iota_{X}d)df = d\iota_{X}df = d\mathcal{L}_{X}f = \mathcal{L}_{X}df\]なので分かります。$k - 1$ 次まではよいとして $\omega\in \Omega^{k}(M)$ に対して示します。補足2.2.13により $\omega$ は局所的には $\omega = \sum_{i} df_{i}\wedge\omega_{i}$ と表示でき、項別に\begin{eqnarray*}(d\iota_{X} + \iota_{X}d)(df_{i}\wedge\omega_{i}) & = &d(\iota_{X}df_{i}\cdot\omega_{i} - df_{i}\wedge\iota_{X}\omega_{i}) -\iota_{X}(df_{i}\wedge d\omega_{i}) \\& = & d\iota_{X}df_{i}\wedge\omega_{i} + \iota_{X}df_{i}\cdot d\omega_{i} + df_{i}\wedge d\iota_{X}\omega_{i} - \iota_{X}df_{i}\cdot d\omega_{i} + df_{i}\wedge\iota_{X}d\omega_{i} \\& = & \mathcal{L}_{X}df_{i}\wedge\omega_{i} + df_{i}\wedge(d\iota_{X} + \iota_{X}d)\omega_{i} \\& = & \mathcal{L}_{X}df_{i}\wedge\omega_{i} + df_{i}\wedge\mathcal{L}_{X}\omega_{i} \\& = & \mathcal{L}_{X}(df_{i}\wedge\omega_{i})\end{eqnarray*}なので分かります。
以上です。
外微分の導入から先は[松島 多様体入門]で書かれている公式をひたすら示すだけ。ただ、証明に関して、外微分の性質を定義の直後にまとめたかった、[松島]の証明ほど抽象的に進める必要は感じない、という理由でいくらか具体的な計算に寄せてみました。
外微分の公理的な定義についても書いておきたいところです。
参考文献
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