可微分多様体上の滑らかなファイバー束・ベクトル束を導入します。ただし、一般の位相空間上のファイバー束・ベクトル束については既知として 予備知識 第9章参照、そちらと同じことを繰り返すだけになる部分は簡単に流します。
まずは滑らかなファイバー束を定義します。
を可微分多様体、 を 級の全射とする。
(1)
の開集合 と 級同相写像 の対 であって 、ただし は射影、を満たすものを をファイバーとする 上の滑らかな局所自明化と呼ぶ。 のことも滑らかな局所自明化と呼ぶ。 の開集合 上の滑らかな局所自明化が存在するとき、 は 上滑らかに自明化可能という。
(2)
各 の周り ある開近傍上 で をファイバーとする滑らかな局所自明化が存在するとき、組 を をファイバーとする 上の滑らかなファイバー束、もしくは簡単に 上の滑らかな 束という。位相版と同じく、滑らかなファイバー束を単に や とも表すことにする。
滑らかなファイバー束の間の束写像、束同型写像も 級写像を用いて考える以外は位相版と同じです。
続いて滑らかなベクトル束を定義します。
とし、いずれについても数ベクトル空間 には通常の可微分構造を考えるとする。
(1)
を をファイバーとする滑らかなファイバー束とし、各ファイバー には 次元 線型空間の構造が与えられているとする。各 に対してその周りの滑らかなファイバー束の局所自明化 であって、各 に対して制限 が 線型同型となるもの ベクトル束の局所自明化という が取れるとき を階数 の滑らかな ベクトル束という。ただし、 は射影である。
(2)
を滑らかな ベクトル束とする。滑らかなファイバー束の束写像 であって各ファイバーへの制限が 線型写像であるものを滑らかな ベクトル束の束写像と呼ぶことにする。
(3)
滑らかな ベクトル束の束写像 であって底空間 が同一の可微分多様体 かつ底空間成分が恒等写像 であるもの、つまり、次の図式を可換にするものを滑らかな ベクトル束の束準同型 写像 と呼ぶことにする。
(4)
滑らかな ベクトル束 であって全空間 および底空間 が複素多様体であり、各点 の周りで双正則写像による局所自明化ただし、ファイバーとする複素数ベクトル空間 は標準的な方法で複素多様体とみなす。が取れるものを正則ベクトル束と呼ぶ。射影が勝手に正則写像になることには注意。
階の滑らかな ベクトル束 について、 の開被覆を与えるような滑らかな局所自明化の族 が与えられると変換関数の族 が得られますが、 を の開集合とみなすとして、各 は 級写像になります。逆に、コサイクル条件を満たす 級の変換関数の族が与えられるとそこから滑らかな ベクトル束が得られます。
滑らかなファイバー束・ベクトル束 に対する切断とは 級写像 であって を満たすもののことです。連続の意味での切断との区別の意味で滑らかな切断と呼ぶことも多いです。これら滑らかな切断全体からなる集合をここでは により表すことにします。自明束 について滑らかな切断全体 と滑らかな写像全体 が自然に同一視できることには注意します。
滑らかな ベクトル束 について、その切断全体 は演算によって 加群の構造を持ちます。特に、 線型空間になります。
また、正則ベクトル束 の切断は正則写像であれば正則切断と呼ばれます。ここでは正則切断全体のなす集合を で表すことにします。これは明らかな方法で複素線型空間になります。
実射影空間 例1.1.9 を構成したときの射影 は をファイバーとする滑らかなファイバー束です。実際、 上の滑らかな局所自明化 としてが取れます。また、制限 も滑らかなファイバー束であり、実際、滑らかな局所自明化 としてが取れます。
複素射影空間 例1.1.10 についても同様に、射影 は をファイバーとする滑らかなベクトル束であり、制限 もそうです。
事実として、Hopf fibration 予備知識 補足9.1.12 は滑らかなベクトル束になります。
次元可微分多様体 が与えられたとします。各 に対して座標変換として の開集合の間の 級同相写像が定まり、さらにそのJacobi行列 が得られます。ここで各 に対して変換関数 を より定めます。これらは常にを満たし、つまり、族 はコサイクル条件を満たします。これから構成される滑らかなベクトル束を接束 tangent bundle といい で表します。複素多様体に対しては座標変換の正則性からJacobi行列 が複素正則行列を値に取ると思うことができ、接束 は正則ベクトル束になります。
つ注意として、ここでの接束の構成は形式的なもので、接束といったら通常は各ファイバーを方向微分の空間として意味付けしたものを指します。
以下では滑らかな実ベクトル束を中心に考えるので、それらを単にベクトル束と呼ぶことにします。複素ベクトル束についても同様のことが成立します。
まず、ベクトル束 が与えられたとして、その直和 、テンソル積 は位相版と全く同様に構成できます。切断について次が成立します。
ベクトル束 が与えられたとする。次が成立する。
(1)
標準的な埋め込み を用いて定まる写像は 加群の同型である。
(2)
写像は 加群の同型である。
双対束 や 束 なども位相版と全く同様に構成できます。次の束同型が成立します。
可微分多様体 上のベクトル束 が与えられているとする。次の自然な束同型が存在する。
可微分多様体 上のベクトル束 から への束準同型全体からなる 加群を で表すとして、次が成立します。
可微分多様体 上のベクトル束 が与えられているとする。次の 加群は互いに自然に同型である。
可微分多様体 上のベクトル束 が与えられたとする。 加群の自然な同型が存在する。
対称積 や外積 については次が成立します。ただし、 を可換環、 を 加群として、 上の 値 次 多重線型 形式全体、対象形式全体、交代形式全体からなる 加群をそれぞれ , , で表すとします。
可微分多様体 上のベクトル束 が与えられているとする。このとき、次の 加群の同型が成立する。
滑らかなファイバー束 と可微分多様体 からの 級写像 が与えられたとします。位相空間は位相多様体であり、包含写像 を 級埋め込み 定義3.2.1 とするような可微分構造が一意に定まり、第 成分への射影と合わせて滑らかなファイバー束になります。滑らかなベクトル束でも同じです。
滑らかなベクトル束について、滑らかなhomotopyによる引き戻しの不変性が成立します。証明の流れは位相版と同様です。
を可微分多様体、 を滑らかなベクトル束とする。 に対して区間端点への制限 , は束同型である。
を滑らかなベクトル束とし、 を可微分多様体とする。 級写像 に対して引き戻し の同型類は の 連続なhomotopy類のみで決定される。
Grassmann多様体 や分類空間、分類写像については予備知識 9.4節を参照。
可微分多様体 から無限次元Grassmann多様体 への連続写像 が与えられたとき、その相対コンパクト開集合への制限はある に値を取ります 予備知識 命題2.7.38。そこで、そのような制限 が常に 級であることによって 自身が 級であることを定義します。
分類写像の構成を追えば、滑らかなベクトル束 に対する分類写像 を 級に取れることは容易に確かめられます。よって、互いに位相的に束同型な つの滑らかなベクトル束は、それらの滑らかな分類写像どうしをつなぐ連続なhomotopyをWhitneyの近似定理 定理1.3.9 を用いて滑らかなもので取り換えて直接は使えないですが、方針としては、 をコンパクト集合の増大列 であって常に を満たすもので被覆して、順に の開近傍で滑らかにする近似を繰り返していけばよいです。から引き戻すことで、実は滑らかに束同型になっていることが従います。
また、可微分多様体上の位相的なベクトル束は、再びWhitneyの近似定理からその分類写像を 級写像につなぐhomotopyを取って引き戻すことで、滑らかなベクトル束と位相的に束同型であることが従います。
よって、可微分多様体上の滑らかなベクトル束の 滑らかな束同型による 分類は位相的なベクトル束の 位相的な束同型による 分類と同等であることが分かります。
以上です。
参考文献
[1]
志賀浩二 多様体論Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1976)
更新履歴
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2021/05/02
一部に説明追加。誤字を修正。
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2022/11/02
cyclic conditionからコサイクル条件 cocycle condition へ用語を修正。(普段から後者を使っているはずなんだけど…)
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2024/11/02
タイトルを「ベクトル束」から「滑らかなベクトル束」に変更。
全体的に内容・構成を変更。参考文献を追加。