幾何学において重要な対象となるファイバー束とベクトル束の導入を行います。ここでは考える空間から空集合を除外しますが、細かいことなので明示はしません。
まず、ベクトル束よりも一般的な概念であるファイバー束を導入します。
$F, E, B$ を位相空間、$\pi : E\to B$ を連続全射とする。
ファイバー束 $\pi : E\to B$ と局所自明化 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda}), (U_{\mu}, \varphi_{\mu})$ が与えられているとします。このとき、$U_{\lambda\mu} := U_{\lambda}\cap U_{\mu}$ とおくとして、同相写像\[\psi_{\mu\lambda} := (\varphi_{\mu}|_{\pi^{-1}(U_{\lambda\mu})})\circ (\varphi_{\lambda}|_{\pi^{-1}(U_{\lambda\mu})})^{-1} : U_{\lambda\mu}\times F\to U_{\lambda\mu}\times F\]が得られますが、これは各点 $x\in U_{\lambda\mu}$ ごとにファイバー $F$ の自己同相写像を与えており、その対応により写像\[g_{\mu\lambda} : U_{\lambda\mu}\to \Homeo(F) : x\mapsto (a\mapsto (\varphi_{\mu}|_{E_{x}})\circ (\varphi_{\lambda}|_{E_{x}})^{-1}(a))\]が得られます。この $g_{\mu\lambda}$ を変換関数 $($transition function$)$ といいます。命題2.10.30で考えた写像\[\adj : C(U_{\lambda\mu}\times F, F)\to C(U_{\lambda\mu}, C(F, F)) : f\mapsto (x\mapsto f|_{\{x\}\times F})\]を用いて $g_{\mu\lambda} = \adj(\pr_{2}\circ \psi_{\mu\lambda})$ と表せることから、$\Homeo(F)$ にコンパクト開位相を与えるとして、この $g_{\mu\lambda}$ は連続写像になります。
$B$ の開被覆となるような局所自明化の族 $\{(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられたとします。各 $\lambda, \mu\in \Lambda$ ごとに上記のように変換関数 $g_{\mu\lambda}$ を取ることで族 $\{g_{\mu\lambda}\}_{\lambda, \mu\in\Lambda}$ が得られますが、これは以下の性質を持ちます。ただし、$g_{\mu\lambda}, g_{\nu\mu}$ に対して $U_{\lambda\mu\nu} := U_{\lambda}\cap U_{\mu}\cap U_{\nu}$ 上で定まる写像 $g_{\nu\mu}\cdot g_{\mu\lambda} : U_{\lambda\mu\nu}\to \Homeo(F)$ を\[(g_{\nu\mu}\cdot g_{\mu\lambda})(p) := g_{\nu\mu}(p)\circ g_{\mu\lambda}(p)\]と定めておきます。
(ii)は $g_{\mu\lambda}$ と $g_{\lambda\mu}$ が各点ごとに逆写像を与えていることを意味し、(iii)は $U_{\lambda\mu\nu}$ 上で $g_{\nu\mu}\cdot g_{\mu\lambda} = g_{\nu\lambda}$ であることとも言い換えられます。また、(iii)の性質はコサイクル条件と呼ばれます。
ファイバー束と局所自明化による被覆が与えられると上記のように変換関数の族が得られることが分かりましたが、逆に、変換関数の族を与えることでファイバー束 $($であってもとの変換関数の族を与えるもの$)$ を構成できることが非常に重要です。ただし、ファイバー $F$ は局所コンパクトHausdorff空間と仮定し、従って、命題2.10.30より上記の写像 $\adj$ は全単射であるとしておきます。
$F$ を局所コンパクトHausdorff空間、$B$ を位相空間、$\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $B$ の開被覆とし、$U_{\lambda\mu} := U_{\lambda}\cap U_{\mu}$, $U_{\lambda\mu\nu} := U_{\lambda}\cap U_{\mu}\cap U_{\nu}$ と定めておく。さらに、連続写像の族 $\{g_{\mu\lambda} : U_{\lambda\mu}\to \Homeo(F)\}_{\lambda, \mu\in\Lambda}$ が与えられ、上で述べた性質を満たしているとする。
ここで、直和空間 $\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\times F\subset B\times F\times \Lambda$ 上の同値関係 $\sim$ を\[(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu) :\Leftrightarrow x_{\lambda} = x_{\mu}, \ a_{\mu} = g_{\mu\lambda}(x_{\lambda})(a_{\lambda})\]により与え、その商空間を $E$ とおく。次が成立する。
$\sim$ が実際に同値関係になっていることは念のため示しておきます。反射律は $(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)$ に対して $g_{\lambda\lambda}(x_{\lambda})(a_{\lambda}) = \Id_{F}(a_{\lambda}) = a_{\lambda}$ なのでよいです。対称律は $(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)$ に対して $g_{\lambda\mu}(x_{\mu})(a_{\mu}) = g_{\lambda\mu}(x_{\mu})(g_{\mu\lambda}(x_{\lambda})(a_{\lambda})) = \Id_{F}(a_{\lambda}) = a_{\lambda}$ なのでよいです。推移律は $(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\sim (x_{\nu}, a_{\nu}, \nu)$ に対して $g_{\nu\lambda}(x_{\lambda})(a_{\lambda}) = g_{\nu\mu}(x_{\mu})(g_{\mu\lambda}(x_{\lambda})(a_{\lambda})) = g_{\nu\mu}(x_{\mu})(a_{\mu}) = a_{\nu}$ なのでよいです。
(1) 任意の $(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda), (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\in \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\times F$ に対して\[(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\Rightarrow \pr_{B}(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda) = x_{\lambda} = x_{\mu} = \pr_{B}(x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\]なので商空間の普遍性より連続写像 $\pi : E\to B$ が誘導されます。全射性は明らかです。
(2) まず、任意の $(x, a, \lambda), (x', a', \lambda)\in U_{\lambda}\times F\times \{\lambda\}$ に対して\[(x, a, \lambda)\sim (x', a', \lambda)\Rightarrow x = x', \ a' = g_{\lambda\lambda}(x)(a) = \Id_{F}(a) = a\Rightarrow (x, a, \lambda) = (x', a', \lambda)\]であることから各 $p_{\lambda}$ は単射です。各 $\lambda, \mu\in \Lambda$ に対して\[V_{\lambda}^{\mu} := p_{\lambda}^{-1}(\Img p_{\lambda}\cap \Img p_{\mu}) = U_{\lambda\mu}\times F\times \{\lambda\}\]とおき、$p_{\lambda}$ の制限 $q_{\lambda}^{\mu} : V_{\lambda}^{\mu}\to p_{\lambda}(V_{\lambda}^{\mu})$ を取ります。写像 $\psi_{\mu\lambda} := (q_{\mu}^{\lambda})^{-1}\circ q_{\lambda}^{\mu} : U_{\lambda\mu}\times F\to U_{\lambda\mu}\times F$ は具体的に\[\psi_{\mu\lambda}(x, a) = (x, g_{\mu\lambda}(x)(a)) = (x, \adj^{-1}(g_{\mu\lambda})(x, a))\]と表すことができ連続です。同様に $\psi_{\lambda\mu}$ も連続であり、各 $\psi_{\mu\lambda}$ は $U_{\lambda}\times F\times \{\lambda\}$ と $U_{\mu}\times F\times \{\mu\}$ それぞれの開集合の間の同相写像になっています。よって、補題2.7.32より $p_{\lambda}$ は開埋め込みです。
対 $(U_{\lambda}, p_{\lambda}^{-1} : \Img p_{\lambda}\to U_{\lambda}\times F)$ が局所自明化であることを示します。まず、$\pr_{B} = \pi\circ p$ より $\pi|_{\pi^{-1}(U_{\lambda})} = \pr_{1}\circ p_{\lambda}^{-1}$ です。
あとは $\Img p_{\lambda} = \pi^{-1}(U_{\lambda})$ を示せばよいですが、$\Img p_{\lambda}\subset \pi^{-1}(U_{\lambda})$ は自明であり、この逆の包含関係を示せばよいです。$e\in \pi^{-1}(U_{\lambda})$ とします。$(x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\in \pi^{-1}(e)$ を取ります。$x_{\mu}\in U_{\lambda\mu}$ なので $g_{\lambda\mu}(x_{\mu})$ を取ることができ、明らかに $(x_{\lambda}, g_{\lambda\mu}(x_{\mu})(a_{\mu}), \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)$ なので $e\in \Img p_{\lambda}$ です。よって、$\pi^{-1}(U_{\lambda})\subset \Img p_{\lambda}$ です。
(3) 構成から明らかです。
また、あらかじめ与えられたファイバー束 $E$ から変換関数の族を構成し、そこから命題9.1.5によって新たにファイバー束 $E'$ を構成したとき、これらは互いに束同型になります。
$\pi : E\to B$ を $F$ をファイバーとするファイバー束、$\{(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $B$ の開被覆となるような局所自明化の族とする。この族から定まる変換関数の族を用いて命題9.1.5より新たなファイバー束 $\pi' : E'\to B$ を構成する。このとき、$E, E'$ は互いに $($底空間成分を保ってつまり、底空間の間に定まる写像が恒等写像であるようなものによって。$)$ 束同型である。
写像 $p : \bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\times F\to E$ を $\varphi_{\lambda}^{-1} : U_{\lambda}\times F\to \pi^{-1}(U_{\lambda})\subset E$ たちの直和とします。これは開写像であり商写像になっています。変換関数の族から定まる命題9.1.5の同値関係 $\sim$ について\[(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda)\sim (x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\Leftrightarrow p(x_{\lambda}, a_{\lambda}, \lambda) = p(x_{\mu}, a_{\mu}, \mu)\]が成立するため、各種普遍性より可逆な束写像 $E\leftrightarrows E'$ が誘導されます。
ファイバー束の切断をその射影の切断として定めます。
ファイバー束 $\pi : E\to B$ 対し、連続写像 $s : B\to E$ であって $\pi\circ s = \Id_{B}$ となるものを切断 $($section$)$ という。切断全体からなる集合を $\Gamma(E)$ と書く。
$\pi : E\to B$ を $F$ をファイバーとするファイバー束、$s$ をその切断とします。
ファイバー束の例を証明無しですが挙げたいと思います。
実射影空間 $\RP^{n}$ は $\R^{n + 1}\setminus \{0\}$ 上の同値関係 $\sim$ を\[(x_{0}, \dots, x_{n})\sim (y_{0}, \dots, y_{n}) :\Leftrightarrow {}^{\exists}r\in \R\setminus \{0\} \text{ s.t. } (y_{0}, \dots, y_{n}) = r\cdot (x_{0}, \dots, x_{n})\]と定めたときの商空間でした。商写像の単位球面 $S^{n}$ への制限により $S^{0} \ (= \{+1, -1\})$ 束 $S^{n}\to \RP^{n}$ が得られ、特に、$n = 1$ の場合には $\RP^{1}\cong S^{1}$ という事実から $S^{0}$ 束 $S^{1}\to S^{1}$ が得られます。
複素射影空間 $\RP^{n}$ は $\C^{n + 1}\setminus \{0\}$ 上の同値関係 $\sim$ を\[(z_{0}, \dots, z_{n})\sim (w_{0}, \dots, w_{n}) :\Leftrightarrow {}^{\exists}\xi\in \C\setminus \{0\} \text{ s.t. } (w_{0}, \dots, w_{n}) = \xi\cdot (z_{0}, \dots, z_{n})\]と定めたときの商空間でした。商写像の単位球面 $S^{2n + 1}$ への制限により $S^{1}$ 束 $S^{2n + 1}\to \CP^{n}$ が得られ、特に、$n = 1$ の場合には $\CP^{1}\cong S^{2}$ という事実から $S^{1}$ 束 $S^{3}\to S^{2}$ が得られます。
ベクトル束を導入します。これはファイバー束であってファイバーごとに線型空間の構造を持つ、いわば、位相空間でパラメータ付けされた線型空間の族のことです。係数体は実数体 $\R$ と複素数体 $\C$ について考えます。
$\K = \R, \C$ とし、いずれについても数ベクトル空間 $\K^{n}$ には通常の位相を考えるとする。
ここで「 $\K$ ベクトル束の」と付けたのはファイバー束の場合との区別のためで、これは混乱の恐れがなければ通常省略することにします。
ここではベクトル束の束写像を単に定義9.1.2の可換性 $f\circ \pi_{1} = \pi_{2}\circ \tilde{f}$ とファイバーごと線型性で定めておきますが、実際に現れる状況は
のいずれかが多く、両方とも扱うようなテキストではそれぞれに個別の用語を与えているものもあります。例えば、[河澄 トポロジーの基礎]では(i)に対して束写像、(ii)に対して準同型という用語を当てています服部先生の「多様体」にならったらしいですが、そこまでは確認せず。また、ここでいう束写像に対しては $\K$ 線型写像という用語を当てているようです。。
$\K = \R, \C$ とします。$\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ と $B$ の被覆となるような局所自明化の族 $\{(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられると変換関数の族 $\{g_{\mu\lambda} : U_{\lambda\mu}\to \Homeo(\K^{n})\}$ が得られますが、ファイバーごとの変換は $\K$ 線型同型であるため、終域は $GL(n; \K)$ で取り換えられます。$1$ つ注意なのは、この終域の取り換えによって各変換関数の連続性が崩れないことで、それは次から分かります。
$\K$ 係数 $n$ 次正方行列全体からなる空間 $M(n; \K)$ に $n^{2}$ 次元 $K$ ベクトル空間としての標準的な位相を考え、連続写像の空間にはコンパクト開位相を考える。写像 $\iota : M(n; \K)\to C(\K^{n}, \K^{n})$ を各 $A\in M(n; \K)$ と $v\in \K^{n}$ に対して $\iota(A)(v) = Av$ であるように定めるとき、この写像 $\iota$ は位相的埋め込みである。従って、その制限より埋め込み $GL(n; \K)\to \Homeo(\K^{n})$ が得られる。
写像 $\iota$ の連続性とその $($連続な$)$ 左逆写像の存在を確認すればよいです。
まず、$\iota$ は命題2.10.30で考えた写像\[\adj : C(M(n; \K)\times \K^{n}, \K^{n})\to C(M(n; \K), C(\K^{n}, \K^{n}))\]による連続写像 $\varphi : M(n; \K)\times \K^{n}\to \K^{n} : (A, v)\mapsto Av$ の像 $\adj(\varphi)$ に $($写像として$)$ 一致しているので連続です。
左逆写像 $\psi : C(\K^{n}, \K^{n})\to M(n; \K)$ を構成します。$e_{1}, \dots, e_{n}$ を $\K^{n}$ の標準基底とします。包含写像 $i_{k} : \{e_{k}\}\to \K^{n}$ による引き戻し\[(i_{k})^{*} : C(\K^{n}, \K^{n})\to C(\{e_{k}\}, \K^{n})\]は連続であり、一般の一点空間 $\{p\}$ と位相空間 $X$ に対して写像 $C(\{p\}, X)\to X : f\mapsto f(p)$ が同相写像であることから終域は $\K^{n}$ と同一視され、よって、連続写像\[\psi : C(\K^{n}, \K^{n})\to \prod_{k = 1}^{n}\K^{n}\cong M(n; \K) : f\mapsto \left[\begin{array}{ccc}(i_{1})^{*}(f) & \dots & (i_{n})^{*}(f)\end{array}\right]\]が得られます。これは明らかに $\iota$ の左逆写像です。
ここでは関係ないですが、ついでに近い話として、位相群 $G$ の各元に左移動を対応させる写像\[L : G\to C(G, G) : g\mapsto (L_{g} : h\mapsto g\cdot h)\]は位相的埋め込みになります。
補題9.1.16とほぼ同じ要領で $L$ の連続性と左逆写像の存在を確かめられます。(コンパクト開位相の定義からも容易に確認可能です。)
まず、積 $\mu : G\times G\to G$ の連続性から $L = \adj(\mu)\in C(G, C(G, G))$ です。また、引き戻し\[i^{*} : C(G, G)\to C(\{e\}, G)\cong G\]は連続であり、これが $L$ に対する左逆写像です。
逆に、$GL(n; \K)$ に値を取る $($連続な$)$ 変換関数の族が与えられるとそこから $\K$ ベクトル束が得られことは容易でしょう。ただし、ファイバーごとの線型構造には商を取る前の直和空間 $\bigsqcup_{\lambda\in\Lambda}U_{\lambda}\times \K^{n}$ のファイバーごとの線型構造から誘導されるものを取ります。
重要なのは、変換関数の終域の位相群を適当に設定することでファイバーごとに付加構造を持ったファイバー束が得られることで、その位相群はそのファイバー束の構造を規定するため構造群と呼ばれます。特に重要なベクトル束の付加構造については9.3.1節でもう少しだけ詳しく扱います。
ここでは $\K$ ベクトル束のファイバーとして具体的に数ベクトル空間 $\K^{n}$ を固定していますが、より抽象的に $($標準的な位相を与えた$)$ $\K$ 線型空間 $V$ をファイバーと考えることも多いです。その場合、変換関数の終域は $GL(V)$ になります。しかし、$V$ の基底を固定することで定まる標準的な $($位相込みの$)$ 同型 $V\cong \K^{n}$ によって同一視できるため、両者に本質的な差はありません。
さて、$\K$ ベクトル束 $E_{1}, E_{2}\to B$ に対して束準同型 $f : E_{1}\to E_{2}$ とそれぞれの開集合 $U$ 上の局所自明化 $(U, \varphi_{1}), (U, \varphi_{2})$ が与えられると連続写像\[U\times \K^{n_{1}}\xrightarrow{\varphi_{1}^{-1}} E_{1}|_{U}\xrightarrow{f} E_{2}|_{U}\xrightarrow{\varphi_{2}} U\times \K^{n_{2}}\]が得られ、変換関数と同様にして束準同型の局所表示として連続写像 $h : U\to M(n_{2}, n_{1}; \K)$ が得られます。このことと構造群 $GL(n; \K)$ が位相群であること $($逆元を対応させる写像 $\inv$ が連続であること$)$ から次の基本的事実が分かります。
$\K$ ベクトル束 $E_{1}, E_{2}\to B$ と束準同型 $f : E_{1}\to E_{2}$ が与えられたとする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 自明です。
(2) ⇒ (1) 明らかに $f$ は全単射であり、問題となるのは逆写像 $f^{-1}$ の連続性のみです。$E_{1}, E_{2}$ の階数はともに $n$ としてよいです。共通の自明化開集合 $U$ 上でそれぞれの局所自明化 $\varphi_{1}, \varphi_{2}$ を固定して局所表示 $h : U\to M(n; \K)$ を取れば仮定から終域は $GL(n; \K)$ で取り換えられ、連続写像 $\inv\circ h$ が得られます。ここで、逆写像の制限 $f^{-1}|_{E_{2}|_{U}} : E_{2}|_{U}\to E_{1}|_{U}$ は合成 $\varphi_{1}\circ (f^{-1}|_{E_{2}|_{U}})\circ \varphi_{2}^{-1}$ が\[(\varphi_{1}\circ (f^{-1}|_{E_{2}|_{U}})\circ \varphi_{2}^{-1})(x, u) = (x, (\inv\circ h)(x)(u))\]と表されることから連続です。これより逆写像 $f^{-1}$ の連続性が分かります。
一般のファイバー束では同様の主張は成立せず、恒等写像上の束写像 $f : E_{1}\to E_{2}$ であってファイバーごとに同相写像を定めるが束同型写像ではないものが存在します。
例えば、局所コンパクトHausdorff空間 $F$ であってその自己同相群 $\Homeo(F)$ がコンパクト開位相に関して位相群にはならない $($従って、逆元を対応させる写像 $\inv$ が連続でない$)$ ものを取れば、束写像\[\varPhi : \Homeo(F)\times F\to \Homeo(F)\times F : (\xi, x)\mapsto (\xi, \xi(x))\]がそうなります。
またまた命題2.10.30を使います。
$F$ の局所コンパクトHausdorff性から評価写像 $\ev : \Homeo(F)\times F\to F : (\xi, x)\mapsto \xi(x)$ は連続であり、$\varPhi$ は束写像になっています。また、写像 $\adj : C(\Homeo(F)\times F, F)\to C(\Homeo(F), C(F, F))$ が定まりますが、もし $\varPhi^{-1}$ が束写像 $($連続写像$)$ になっているとすると連続写像 $\adj(\pr_{2}\circ \varPhi^{-1})\in C(\Homeo(F), C(F, F))$ を取ることができ、これは各自己同相写像に逆写像を対応させる $($仮定から連続ではない$)$ 写像 $\inv$ であるので矛盾です。
ここでは $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ の切断全体からなる集合を $\Gamma_{\K}(E)$ で表し、$\K = \R$ の場合は単に $\Gamma(E)$ とも書くことにします。この切断の集合には各ファイバーごとの線型構造から $C(B, \K)$ 加群の構造が定まります。そこで加法単位元にあたるものが次の零切断です。
$\pi : E\to B$ を $\K$ ベクトル束とする。各 $x\in B$ に対してその上のファイバーの原点を対応させる写像 $s_{0} : B\to E$ は $($連続な$)$ 切断である。これを零切断 $($zero-section$)$ という。
局所自明化を取れば各点での連続性が分かり、切断です。
$C(B, \K)$ 加群の構造は具体的に次で与えられます。
$\pi : E\to B$ を $\K$ ベクトル束とする。切断全体からなる集合 $\Gamma_{\K}(E)$ に\[+ : \Gamma_{\K}(E)\times \Gamma_{\K}(E)\mapsto \Gamma_{\K}(E) : (s, t)\to (s + t : x\mapsto s(x) + t(x)),\]\[\cdot : C(B, \K)\times \Gamma_{\K}(E)\mapsto \Gamma_{\K}(E) : (f, s)\to (f\cdot s : x\mapsto f(x)\cdot s(x))\]として演算を定める。$\Gamma_{\K}(E)$ はこれら演算について $C(B, \K)$ 加群になる。
まずは各演算が定まっていることですが、$s + t$ や $f\cdot s$ の各点での連続性を確認すればよく、これは局所自明化を取って各切断を局所的に $\K^{n}$ への連続写像と同一視すれば明らかです。$C(B, \K)$ 加群になっていることも容易です。
次の局所枠は局所的に基底の族を連続を与えるもので、本質的には局所自明化と同等です。
$\pi : E\to B$ を $\K$ ベクトル束、$U$ を $B$ の開集合とする。$U$ 上の切断の列 $e_{1}, \dots, e_{n}$ であって各 $x\in U$ に対して $e_{1}(x), \dots, e_{n}(x)\in E_{x}$ が $E_{x}$ の基底となっているものを $U$ 上の局所枠 $($local frame$)$ という。$U = B$ の場合は $($大域的な$)$ 枠という。
$\pi : E\to B$ を $\K$ ベクトル束、$U$ を $B$ の開集合とする。$U$ 上の局所自明化全体からなる集合 $\mathcal{P}$ と $U$ 上の局所枠全体からなる集合 $\mathcal{Q}$ は写像\[\varPhi : \mathcal{P}\to \mathcal{Q} : \varphi\mapsto (e_{1} := (x\mapsto \varphi^{-1}(e_{1}^{\std}(x))), \dots, e_{n} := (x\mapsto \varphi^{-1}(e_{n}^{\std}(x))))\]により一対一対応する。ただし、$e_{1}^{\std}, \dots, e_{n}^{\std}$ は\[e_{k}^{\std} : U\to U\times \K^{n} : x\mapsto (x, (0, \dots, 0, \overset{k}{\check{1}}, 0, \dots, 0))\]により定まる積束 $\underline{\R^{n}}_{U}\to U$ の標準的な枠である。
$U$ 上の局所枠 $e_{1}, \dots, e_{n}$ が与えられたとき、同相写像\[\psi : U\times \K^{n}\to E|_{U} : (x, (t_{1}, \dots, t_{n}))\mapsto \sum_{k = 1}t_{k}e_{k}(x)\in E_{x}\subset E|_{U}\]の逆写像が局所自明化を与えており、この対応により定まる写像 $\varPsi : \mathcal{Q}\to \mathcal{P}$ が $\varPhi$ の逆写像になっています。
$\pi : E\to B$ を $\K$ ベクトル束とする。次は同値である。
$\pi : E\to B$ を階数 $1$ の $\K$ ベクトル束とする。次は同値である。
多様体論の初歩的事項などなど多少の事実を認めるとして、ベクトル束の例をいくつか挙げておきます。
単位円周 $S^{1}\subset \R^{2}$ を考えます。$S^{1}$ の開被覆 $\{U_{p} := S^{1}\setminus \{(-1, 0)\}, U_{q} := S^{1}\setminus \{(+1, 0)\}\}$ を取ります。部分集合 $W_{+}, W_{-}\subset S^{1}$ を\[W_{+} := \{(x, y)\in S^{1}\mid x > 0\},\]\[W_{-} := \{(x, y)\in S^{1}\mid x < 0\}\]と定めるとして $U_{p}\cap U_{q} = W_{+}\sqcup W_{-}$ です。変換関数 $g_{qp}^{+}, g_{qp}^{-} : W_{+}\sqcup W_{-} \to \R^{\times} = GL(1; \R)$ を\[g_{qp}^{\pm}(x) := \left\{\begin{array}{ll}+1 & (x\in W_{+}) \\\pm 1 & (x\in W_{-})\end{array}\right.\]により定めることでそれぞれから $S^{1}$ 上の実直線束 $\pi_{\pm} : L_{\pm}\to S^{1}$ が得られます。次が分かります。
ちなみに、$L_{+}$ はアニュラス $S^{1}\times \R$ に、$L_{-}$ はのMöbiusの帯に実ベクトル束の構造を与えたものになっています。
(a) 連続写像 $s_{p} : U_{p}\to \R$, $s_{q} : U_{q}\to \R$ を $1$ に値を取る定値写像とすると $W_{+}\sqcup W_{-}$ 上で $s_{q} = g_{qp}^{+}\cdot s_{p}$ を満たし、これが大域的に零点を持たない切断 $s : S^{1}\to L_{+}$ を与えます。
(b) 零点を持たない切断 $s$ がを存在したとして矛盾を導きます。制限 $s_{p} := s|_{U_{p}}, s_{q} := s|_{U_{q}}$ を $L_{-}$ の構成から定まる局所自明化によって $\R$ への連続関数とみなします。$W_{+}\sqcup W_{-}$ 上で $s_{q} = g_{qp}^{-}\cdot s_{p}$ という関係式があるため\[s_{q}(0, +1)s_{q}(0, -1) = g_{qp}^{-}(0, +1)s_{p}(0, +1)g_{qp}^{-}(0, -1)s_{p}(0, -1) = -s_{p}(0, +1)s_{p}(0, -1)\]です。しかし、中間値の定理と $s_{p}, s_{q}$ が零点を持たないことから $s_{p}(0, +1)$ と $s_{p}(0, -1)$ の符号および $s_{q}(0, +1)$ と $s_{q}(0, -1)$ の符号は一致しており、これは矛盾です。
Riemann球面 $\hat{\C} = \C\sqcup \{\infty\}$ を考えます。$\hat{\C}$ の開被覆 $\{U_{p} := \hat{\C}\setminus \{\infty\}, U_{q} := \hat{\C}\setminus \{0\}\}$ を取ります。$U_{p}\cap U_{q} = \C^{\times} = \C\setminus \{0\}$ です。変換関数 $g_{qp}^{n} : \C^{\times}\to \C^{\times} = GL(1; \C)$ を\[g_{pq}^{n}(z) = z^{n}\]により定めることでそれぞれから $\hat{\C}$ 上の複素直線束 $\pi_{n} : L_{n}\to \hat{\C}$ が得られます。次が分かります。
homotopy論 $($特に基本群$)$ に関する事実を少し使用します。
(a) $n = m$ ならば $L_{n}\cong L_{m}$ は自明なのでその逆を示します。同型 $f : L_{n}\to L_{m}$ が取れたとします。各 $k = n, m$ と $r = p, q$ について $L_{k}$ の $U_{r}$ 上の局所自明化 $\varphi_{r}^{k} : L_{k}|_{U_{r}}\to U_{r}\times \C$ を $L_{k}$ の構成から明らかに定まるものに取ります。各 $r = p, q$ について次の図式を可換にする同相写像 $\theta_{r}$ が一意に定まり、さらに、変換関数を定めたのと同様に連続写像 $h_{r} : U_{r}\to \C^{\times}$ が得られます。
局所自明化 $\varphi_{p}^{k}, \varphi_{q}^{k}$ の定める変換 $\psi_{qp}^{k} : \C^{\times}\times \C\to \C^{\times}\times \C$ を用いて表される次の図式は可換であり、よって、$h_{q}\cdot g_{qp}^{n} = g_{qp}^{m}\cdot h_{p}$ です。
ここで $U_{p}, U_{q}$ の可縮性から $h_{p}, h_{q}$ は定値写像にhomotopicであり、$\C^{\times}$ の弧状連結性からより強く常に $1\in \C^{\times}$ を値に取る定値写像にhomotopicと分かります。よって、$g_{qp}^{n}\sim g_{qp}^{m}$ です。標準的な同一視\[[\C^{\times}, \C^{\times}]\cong [S^{1}, S^{1}]\cong [S^{1}, S^{1}]_{0} = \pi_{1}(S^{1})\cong \Z\]のもと、$g_{pq}^{k}$ の代表するhomotopy類は $k\in \Z$ に対応するため $n = m$ が従います。
(b) まずは $|n| = |m|$ ならば $L_{n}\cong L_{m}$ を示します。$n = m$ の場合は自明なので一般に $L_{k}\cong L_{-k}$ であることを示します。(a)の証明中の記号 $\varphi_{r}^{k}, \psi_{qp}^{k}$ を使います。同相写像 $\xi : U_{r}\times \C\to U_{r}\times \C$ を $\xi(z, w) := (z, \overline{w})$ により定め、$L_{k}$ の $U_{r}$ 上の局所自明化 $\tilde{\varphi}_{r}^{k}$ を $\tilde{\varphi}_{r}^{k} := \xi\circ \varphi_{r}^{k}$ に取ります。この新たな局所自明化から定まる同相写像 $\tilde{\psi}_{qp}^{k} : \C^{\times}\times \C \to \C^{\times}\times \C$ は図式
を可換にすることから\[\tilde{\psi}_{qp}^{k}(z, w) = (z, \overline{z^{k}\overline{w}}) = (z, |z|^{2k}z^{-k}w)\]という表示を持ち$\overline{z} = |z|^{2}z^{-1}$ に注意。、その定める変換関数 $\tilde{g}_{qp}^{k}$ は $\tilde{g}_{qp}^{k}(z) = |z|^{2k}z^{-k}$ と表されます。$\hat{\C}$ の閉被覆 $\{F_{p}, F_{q}\}$ を\[F_{p} := \{z\in \hat{\C}\mid |z|\leq 1\},\]\[F_{q} := \{z\in \hat{\C}\mid |z|\geq 1\}\]に取ります。この閉被覆と変換関数の制限 $\tilde{g}_{qp}^{k}|_{S^{1}}$ から開被覆からベクトル束を作るのと同じ要領でベクトル束が得られますが、それは当然 $L_{k}$ に同型ですもとの開被覆と新しい局所自明化から得られるベクトル束が $L_{k}$ に束同型なことは系9.1.6から。新たに作った局所自明化について、閉被覆から作ったものと開被覆から作ったものが束同型であることは明らかな包含写像 $(F_{p}\sqcup F_{q})\times \C\to (U_{p}\sqcup U_{q})\times \C$ が商空間として定まるベクトル束の間の同相写像を誘導することから分かります。。ここで $S^{1} = \{z\in \C^{\times}\mid |z| = 1\}$ 上 $\tilde{g}_{qp}^{k} = g_{qp}^{-k}$ であることから $L_{-k}$ にも束同型と分かり、束同型 $L_{k}\cong L_{-k}$ が得られます。
逆を示します。(a)と全く同様にして $\theta_{r}, h_{r}$ を取ります。$h_{q}\cdot g_{qp}^{n} = g_{qp}^{m}\cdot h_{p}$ です。$U_{p}, U_{q}$ の可縮性と\[h_{q}(1) = (h_{q}\cdot g_{qp}^{n})(1) = (g_{qp}^{m}\cdot h_{p})(1) = h_{p}(1)\]から $h_{p}, h_{q}$ はともにある定値写像 $c : \C^{\times}\to GL(2; \R)$ にhomotopicです。従って、$c\cdot g_{qp}^{n}\cdot c^{-1}\sim g_{qp}^{m}$ ですが、標準的な同一視\[[\C^{\times}, GL(2; \R)]\cong [S^{1}, O(2)]\cong [S^{1}, S^{1}]\cong [S^{1}, S^{1}]_{0} = \pi_{1}(S^{1})\cong \Z\]のもと$O(n)\subset GL(n; \R)$ が強変位レトラクトであることに注意。、$c\cdot g_{qp}^{n}\cdot c^{-1}$ の代表するhomotopy類は $\pm n\in \Z$ のいずれかに対応し$h_{p}(1)$ が $GL(n; \R)$ のどの連結成分に属すかに応じて $c$ は単位行列もしくはその $(2, 2)$ 成分の符号を反転させた行列に値を取るとしてよく、すると $S^{1}$ 上では $c\cdot g_{qp}^{n}\cdot c^{-1} = g_{qp}^{\pm n}$ と計算でき、homotopy類が $S^{1}$ への制限で決まることから $\pm n$ が対応します。、$g_{qp}^{m}$ の代表するhomotopy類は $m\in \Z$ に対応するため $|n| = |m|$ が分かります。
ここでは $n$ 次元球面 $S^{n}$ を $\R^{n}$ の一点コンパクト化 $\hat{\R^{n}} = \R^{n}\sqcup \{\infty\}$ と考え、その閉被覆 $\{F_{p}, F_{q}\}$ を\[F_{p} := \{x\in S^{n}\mid |x|\leq 1\},\]\[F_{q} := \{x\in S^{n}\mid |x|\geq 1\}\]により定めます。連続関数 $g_{qp} : S^{n - 1} = F_{p}\cap F_{q}\to GL(m; \R)$ が与えられるとそこから $S^{n}$ 上の階数 $m$ の実ベクトル束が構成されますがこのように $2$ つの閉球体上の積束を貼り合わせて球面上のファイバー束を構成することをclutching constructionというようです。、その同型類は $g_{qp}$ の代表するhomotopy類により決まります。よって、homotopy集合からベクトル束の同型類の集合への写像\[\varPhi_{\R} : [S^{n - 1}, GL(m; \R)]\to \Vect_{\R}^{m}(S^{n})\]が定まり、全射になることが示されます単射になるとは限らず、それは例9.1.28の結果から分かります。。複素ベクトル束についても同様に写像\[\varPhi_{\C} : [S^{n - 1}, GL(m; \C)]\to \Vect_{\C}^{m}(S^{n})\]が定まり、こちらについては全単射になることが示されます。
より一般に、パラコンパクトHausdorff空間 $X$ に対してその懸垂を $SX$ で表すとして同様の構成により全単射\[[X, GL(m; \C)]\to \Vect_{\C}^{m}(SX)\]が定まります。
まずは $\varPhi_{\C}$ について考えます。$\varPhi_{\C}$ が定まっていることを示します。互いにhomotopicな連続写像 $g_{0}, g_{1} : S^{n - 1}\to GL(m; \C)$ を取り、それらから定まるベクトル束 $E_{0}, E_{1}\to S^{n}$ を考え、これらが互いに同型であることを示します。$g_{0}$ を $g_{1}$ につなぐhomotopy $g : S^{n - 1}\times I\to GL(m; \C)$ を取り、さらに、連続写像 $h : S^{n - 1}\times I\to GL(m; \C)$ を\[h(x, t) := g(x, t)^{-1}g_{0}(x)\]により定めます。制限 $h|_{S^{n - 1}\times \{0\}}$ が定値写像であることから連続写像 $\tilde{h} : F_{p}\to GL(m; \C)$ を常に\[h(x, t) = \tilde{h}(tx)\]であるように定義できます。この $\tilde{h}$ を用いて同相写像 $\tilde{\xi} : F_{p}\times \C^{m}\to F_{p}\times \C^{m}$ を\[\tilde{\xi}(x, v) = (x, \tilde{h}(x)(v))\]と定めます。構成から $S^{1}$ 上で $\tilde{\xi} = \psi_{0}\circ \psi_{1}^{-1}$ です。$\psi_{0}, \psi_{1}$ で $E_{0}, E_{1}$ を作るときの貼り合わせ方を指定する同相写像を表すとして、次の図式は可換です。
これは同相写像 $\tilde{\xi}\coprod \Id : F_{p}\times \C^{m}\sqcup F_{q}\times \C^{m}\to F_{p}\times \C^{m}\sqcup F_{q}\times \C^{m}$ が束同型 $E_{0}\to E_{1}$ を誘導することを意味します。よって、$\varPhi_{\C}$ が定まります。
$\varPhi_{\C}$ の逆写像 $\varPsi_{\C} : \Vect_{\C}^{m}(S^{n})\to [S^{n - 1}, GL(m; \C)]$ を構成します。階数 $m$ の複素ベクトル束 $\pi : E\to S^{n}$ が与えられたとします。事実として $F_{p}, F_{q}$ 上の局所自明化 $\varphi_{p}, \varphi_{q}$ を取ることができ可縮なパラコンパクトHausdorff空間上のベクトル束が自明束に限ることから。これは定理9.2.44で示されます。、それらから貼り合わせ方を指定する同相写像 $\psi_{qp} : S^{n - 1}\times \C^{m}\to S^{n - 1}\times \C^{m}$ と変換関数 $g_{qp} : S^{n - 1}\to GL(m; \C)$ が定まります。この $g_{qp}$ の代表するhomotopy類が $E$ の同型類で決まることが示されれば同型類 $[E]$ にhomotopy類 $[g_{qp}]$ を対応させる写像として $\varPsi_{\C}$ が定まります。
互いに束同型な階数 $m$ の複素ベクトル束 $E_{0}, E_{1}\to S^{n}$ を取ります。各 $i = 0, 1$ について $E_{i}$ から先程のようにして写像 $\varphi_{p}^{i}, \varphi_{q}^{i}, \psi_{qp}^{i}, g_{qp}^{i}$ を取ります。さらに固定した束同型 $f : E_{0}\to E_{1}$ から各 $r = p, q$ について例9.1.28の証明と同様に写像 $\theta_{r} : U_{r}\times \C^{m}\to U_{r}\times \C^{m}$ と $h_{r} : S^{n - 1}\to GL(m; \C)$ を取ります。あとも例9.1.28の証明と同様で、$h_{q}\cdot g_{qp}^{0} = g_{qp}^{1}\cdot h_{p}$ が成立すること、$h_{p}, h_{q}$ がともに単位行列に値を取る定値写像にhomotopicであることから $g_{qp}^{0}\sim g_{qp}^{1}$ が従います。よって、写像 $\varPsi_{\C}$ が定まります。
$\varPhi_{\C}$ と $\varPsi_{\C}$ が互いに逆写像であることは明らかです。
$\varPhi_{\R}$ について、これが定まることは $\varPhi_{\C}$ と全く同様に分かり、全射性は $S^{n}$ 上のベクトル束が必ず $F_{p}, F_{q}$ 上の局所自明化を持つことからただちに従います。
一般のバラコンパクトHausdorff空間 $X$ について、懸垂 $SX$ が錐 $CX$ を $2$ つ貼り合わせた空間であることとこの場合に錐 $CX$ が可縮なパラコンパクトHausdoeff空間であること可縮性は錐の一般的性質。パラコンパクトHausdorff空間であることはパラコンパクトHausdorff空間 $X$ と局所コンパクトなパラコンパクトHausdorff空間である区間 $I$ の直積 $X\times I$ がパラコンパクトHausdorff空間であること $($命題2.9.22$)$ とパラコンパクトHausdorff空間について閉集合を一点につぶした空間が再びパラコンパクトHausdorff空間であること $($系2.9.31$)$ からよいです。からその上のベクトル束が常に自明であること $($定理9.2.44で確認する$)$ に注意すれば同じことです。
接束の形式的な構成 $($多様体論 例1.4.4$)$ に従うとして、Riemann球面 $\hat{\C}$ の接束を調べてみます。$\hat{\C}$ の座標近傍系を $2$ つの局所座標\[\varphi_{p} : U_{p} := \hat{\C}\setminus \{\infty\}\to \C : z\mapsto z,\]\[\varphi_{q} : U_{q} := \hat{\C}\setminus \{0\}\to \C : z\mapsto z^{-1}\]から取るとき、座標変換 $f_{qp} : \C^{\times}\to \C^{\times}$ は $f_{qp}(z) = z^{-1}$ で表されるので変換関数 $g_{qp}$ はその複素微分 $g_{qp}(z) = -z^{-2}$ で表されます。つまり、例9.1.28の記号を用いれば複素直線束として $T\hat{\C}\cong L_{-2}$ です変換関数の定数倍の違いは局所自明化の適当な取り換えによってキャンセルできます。。
$n$ 次元実射影空間 $\RP^{n} = (\R^{n + 1}\setminus \{0\})/\R^{\times}$ の各点 $x$ にはその代表元の生成する $1$ 次元の部分空間 $l_{x}\subset \R^{n + 1}$ を対応させることができます。そこで、$\RP^{n}\times \R^{n + 1}$ の部分空間\[E_{1, n}(\R) := \{(x, v)\in \RP^{n}\times \R^{n + 1}\mid x\in \RP^{n}, v\in l_{x}\}\]からの射影 $\gamma_{1, n}(\R) : E_{1, n}(\R)\to \RP^{n}$ として実直線束が得られます。これをtautological line bundleといいます。複素射影空間 $\CP^{n}$ についても同様に複素直線束 $\gamma_{1, n}(\C) : E_{1, n}(\C)\to \CP^{n}$ が得られます。これらが実際にベクトル束になっていることの証明はより一般的な普遍ベクトル束を構成する際 $($命題9.4.16$)$ に行います。ここの記号についてもそちらから持ってきています。
例として $1$ 次元複素射影空間 $\CP^{1}$ 上のtautological line bundleを調べてみます。$\CP^{1}$ は少なくとも一方が $0$ ではない $2$ つの複素数の比 $[z : w]$ を用いて\[\CP^{1} = \{[z : w] \mid (z, w)\in \C^{2}\setminus \{0\}\}\]と表せたことを思い出し、その開被覆 $\{U_{p}, U_{q}\}$ を\[U_{p} := \CP^{1}\setminus \{[1 : 0]\} = \{[z : 1] \mid z\in \C\},\]\[U_{q} := \CP^{1}\setminus \{[0 : 1]\} = \{[1 : w] \mid w\in \C\}\]により取ります。それぞれの上の切断\[s_{p} : [z : 1]\mapsto ([z : 1], z, 1)\in U_{p}\times \C^{2}\]\[s_{q} : [1 : w]\mapsto ([1 : w], 1, w)\in U_{q}\times \C^{2}\]を考えます。これらは局所枠、従って、局所自明化を定めており、その間の変換関数 $g_{qp}$ は定義通りに\[g_{qp}([z : 1]) : \C\to E_{[z : 1]} = E_{[1 : z^{-1}]}\to \C : 1\mapsto (z, 1) = z\cdot (1, z^{-1})\mapsto z\]と追えます。つまり、例9.1.28の記号を用いれば複素直線束として $E_{1, 1}(\C)\cong L_{1}$ です$f([z : 1]) := z$, $f([1 : 0]) := \infty$ により定まる正則同相 $f : \CP^{1}\to \hat{\C}$ による同一視を行っています。このとき変換関数 $g_{qp}$ は $g_{qp}(z) = z$ と表されます。。
特になし。
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