ベクトル束の分類定理 $($定理9.4.18$)$ を証明します。多様体論の基礎的な事実は仮定します。
$n, k\geq 0$ とし、$\R^{n + k}$ の $n$ 次元部分空間全体からなる集合を $G_{n, k}(\R)$ により表すとします。これは $n, k$ の一方でも $0$ の場合は一点集合であり、$n, k\geq 1$ の場合は明らかな方法で直交群による推移的な左作用 $O(n + k)\curvearrowright G_{n, k}(\R)$ を与えると部分空間 $\R^{n}\times \{0\}\subset \R^{n + k}$ の固定化群が $O(n)\times O(k)$ なので左 $O(n + k)$ 集合としての同一視\[G_{n, k}(\R)\cong O(n + k)/(O(n)\times O(k))\]が得られます。各 $A\in O(n + k)$ はその最初の $n$ 個の列ベクトルの張る部分空間を代表します。$G_{n, k}(\R)$ はこの同一視のもと定まる位相に関して位相多様体になっており、無向実Grassmann多様体や単に実Grassmann多様体と呼ばれます。
ここではさらに具体的な $C^{\omega}$ 級座標近傍系を与えることで実解析的多様体の構造が定まることを確認します一般にLie群の閉部分Lie群による剰余空間には自然な実解析的多様体の構造が定まるという事実があり、そこからも分かることではあります。。少し補題を用意しますが、ここで $GL(n + k; \R)$ の部分群 $G$ を明らかな左作用 $GL(n + k; \R)\curvearrowright G_{n, k}(\R)$ に関する部分空間 $\R^{n}\times \{0\}\subset \R^{n + k}$ の固定化群具体的には $n + k$ 次実正則行列であって左下 $k$ 行 $n$ 列が零行列であるもの全体からなる部分群です。として定めておきます。
$n, k\geq 1$ とする。次が成立する。
よって、同相\[G_{n, k}(\R)\cong GL(n + k; \R)/G\]による同一視のもと $G_{n, k}(\R)$ は連結なコンパクトHausdorff空間である。$($もちろん、各 $A\in GL(n + k; \R)$ はその最初の $n$ 個の列ベクトルの張る部分空間を代表する。$)$
$n, k\geq 1$ とする。次が成立する。
よって、補題9.4.1の同一視をするとして、無向実Grassmann多様体 $G_{n, k}(\R)$ はこの座標近傍系によって連結かつコンパクトな $nk$ 次元実解析的多様体になる。
(1) 包含写像\[i : M(k, n; \R)\to M(k, n; \R)\times G : A\mapsto (A, I_{n + k})\]と明らかな作用による商空間への射影\[\pi' : M(k, n; \R)\times G\to (M(k, n; \R)\times G)/G\]と $C^{\infty}$ 級写像\[\xi_{P} : M(k, n; \R)\times G\to GL(n + k; \R) : (A, B)\mapsto \iota_{P}(A)B\]を取り、次の図式を考えます。
次が容易に確かめられます。
$\xi_{P}$ が開埋め込みであることを示します。$\xi_{P}$ が $(n + k)^{2}$ 次元可微分多様体の間の写像であることから単射なはめ込みであることを示せばよく、これは具体的な表示\[\xi_{P}\left(A, \left[\begin{array}{cc}Q & R \\O_{k, n} & S\end{array}\right]\right)= P\left[\begin{array}{cc}I_{n} & O_{n, k} \\A & I_{k}\end{array}\right]\left[\begin{array}{cc}Q & R \\O_{k, n} & S\end{array}\right]= P\left[\begin{array}{cc}Q & R \\AQ & AR + S\end{array}\right]\]を持つことから容易に確かめられます。
$\tilde{\xi}_{P}$ が開埋め込みであることを示します。まず、$\xi_{P}$ の制限 $M(k, n; \R)\times G\to \Img \xi_{P}$ が $G$ 同変な同相写像であることから商空間の間の同相 $(M(k, n; \R)\times G)/G\cong (\Img \xi_{P})/G$ が従います。商空間 $(\Img \xi_{P})/G$ は集合として部分空間 $\pi(\Img \xi_{P})\subset GL(n + k; \R)/G$ に一致しますが、商写像の制限 $\pi|_{\Img \xi_{P}} : \Img \xi_{P}\to \pi(\Img \xi_{P})$ が商写像であること $($商写像 $\pi$ が開写像であることと命題2.7.19$)$ から両者の位相は一致します。これより $\tilde{\xi}_{P}$ は埋め込みです。
$\tilde{\xi}_{P}$ が開埋め込みであることを示すためにあとは開写像であることを示せばよく、そのためには $\Img \tilde{\xi}_{P}\subset GL(n + k; \R)/G$ が開集合であればよいですが、これは $\Img \xi_{P} = \pi^{-1}(\Img \tilde{\xi}_{P})\subset GL(n + k; \R)$ が開集合であることから従います。
以上より $\psi_{P} = \pi\circ \xi_{P}\circ i = \tilde{\xi}_{P}\circ \pi'\circ i$ は開埋め込みです。
(2) 各 $P\in GL(n + k; \R)$ に対して $U_{P}$ が $\pi(P)$ の開近傍になります。
(3) $\varphi_{P}, \varphi_{Q}$ の間の座標変換 $f_{QP} : \varphi_{P}(U_{P}\cap U_{Q})\to \varphi_{Q}(U_{P}\cap U_{Q})$ を取ります。行列 $A\in \varphi_{P}(U_{P}\cap U_{Q})$ に対して $\psi_{P}(A) = \psi_{Q}(f_{QP}(A))$ であり、ある $X\in G$ が存在して $\iota_{P}(A)X = \iota_{Q}(f_{QP}(A))$ です。簡単な変形より\[Q^{-1}P\left[\begin{array}{cc}I_{n} & O_{n, k} \\A & I_{k}\end{array}\right]X= \left[\begin{array}{cc}I_{n} & O_{n, k} \\f_{QP}(A) & I_{k}\end{array}\right]\]が得られます。これを\[Q^{-1}P = \left[\begin{array}{cc}R_{11} & R_{12} \\R_{21} & R_{22}\end{array}\right],\ X = \left[\begin{array}{cc}X_{11} & X_{12} \\O_{k, n} & X_{22}\end{array}\right]\]と表すとして書き下すと\[\left[\begin{array}{cc}R_{11} + R_{12}A & R_{12} \\R_{21} + R_{22}A & R_{22}\end{array}\right]\left[\begin{array}{cc}X_{11} & X_{12} \\O_{k, n} & X_{22}\end{array}\right]= \left[\begin{array}{cc}I_{n} & O_{n, k} \\f_{QP}(A) & I_{k}\end{array}\right]\]です。$(R_{11} + R_{12}A)X_{11} = I_{n}$ から $X_{11} = (R_{11} + R_{12}A)^{-1}$ が必要になり、よって、$f_{QP}(A) = (R_{21} + R_{22}A)X_{11} = (R_{21} + R_{22}A)(R_{11} + R_{12}A)^{-1}$ です。つまり、$f_{QP}$ は各成分を変数とする関数として実解析的です。
無向実Grassmann多様体について次が成立します。
直交補空間を対応させる写像 $T : G_{n, k}(\R)\to G_{k, n}(\R)$ は $C^{\omega}$ 級同相写像である。
命題9.4.2の記号を使いますが、区別のために $G_{k, n}(\R)$ に対応するものは $U'_{P}$ や $\varphi'_{P}$ と表すことにします。
$\psi_{I_{n + k}}(A)$ の代表する $G_{n, k}(\R)$ の点は $\iota_{I_{n + 1}}(A)$ の最初の $n$ 個の列ベクトルの張る空間です。そこで、各 $A\in M(k, n; \R)$ に対して行列 $X\in M(n, k; \R)$ であって行列\[\left[\begin{array}{cc}I_{n} & X \\A & I_{k}\end{array}\right]\]の最初の $n$ 個の列ベクトルの張る空間と最後の $k$ 個の列ベクトルの張る空間が直交するようなものを返す写像 $\tau : M(k, n; \R)\to M(n, k; \R)$ を取ります。これは一意かつ $C^{\omega}$ 級写像として定まります具体的には $\tau(A) = -A^{T}$ です。。行列\[Q := \left[\begin{array}{cc}O & I_{n} \\I_{k} & O\end{array}\right]\in O(n + k)\]を取るとして、$\iota'_{Q}(\tau(A)) = \left[\begin{smallmatrix}\tau(A) & I_{n} \\I_{k} & O_{k, n}\end{smallmatrix}\right]$ の最初の $k$ 個の列ベクトルの張る空間が $\iota_{I_{n + k}}(A) = \left[\begin{smallmatrix}I_{n} & O_{n, k} \\A & I_{k}\end{smallmatrix}\right]$ の最初の $n$ 個の列ベクトルの張る空間の直交補空間です。つまり、座標近傍 $\varphi_{I_{n + k}}, \varphi'_{Q}$ に関する局所表示は $\tau$ になります。より一般に $P\in O(n + k)$ に対して座標近傍 $\varphi_{P}, \varphi'_{PQ}$ に関する局所表示も $\tau$ になります。よって、$T$ は $C^{\omega}$ 級同相写像です。
包含写像 $i : \R^{n + k}\times \{0\}\to \R^{n + k + 1}$ は $($$C^{\omega}$ 級の$)$ 埋め込み $G_{n, k}(\R)\to G_{n, k + 1}(\R)$ を誘導する。
ここから定まる帰納系の帰納極限 $\underset{k}{\varinjlim}G_{n, k}(\R)$ を無限次元 $($無向$)$ 実Grassmann多様体といい、$G_{n}(\R)$ により表す。これは自然に無限次元実線型空間 $\R^{\infty} := \underset{k}{\varinjlim}\R^{n + k}$ の $n$ 次元部分空間全体からなる空間と考えられる。
$n, k\geq 0$ とし、$\R^{n + k}$ の向き付けられた $n$ 次元部分空間全体からなる集合を $\tilde{G}_{n, k}(\R)$ により表すとします。これは $n, k$ の一方でも $0$ の場合は二点集合であり、$n, k\geq 1$ の場合は明らかな方法で特殊直交群による推移的な左作用 $SO(n + k)\curvearrowright \tilde{G}_{n, k}(\R)$ を与えると標準的な向きを与えた部分空間 $\R^{n}\times \{0\}\subset \R^{n + k}$ の固定化群が $SO(n)\times SO(k)$ なので左 $SO(n + k)$ 集合としての同一視\[\tilde{G}_{n, k}(\R)\cong SO(n + k)/(SO(n)\times SO(k))\]が得られます。$\tilde{G}_{n, k}(\R)$ はこの同一視のもと定まる位相に関して位相多様体になっており、有向実Grassmann多様体と呼ばれます。
こちらも無向実Grassmann多様体の場合と同様にして実解析的多様体の構造が定まることが確認できます。ただし、ここで $GL^{+}(n + k; \R)$ の部分群 $G^{+}$ を明らかな左作用 $GL^{+}(n + k; \R)\curvearrowright \tilde{G}_{n, k}(\R)$ に関する標準的な向きを与えた部分空間 $\R^{n}\times \{0\}\subset \R^{n + k}$ の固定化群具体的には $n + k$ 次実正則行列であって左下 $k$ 行 $n$ 列が零行列かつ左上の $n$ 次正方行列が $GL^{+}(n; \R)$ に属しかつ右下の $k$ 次正方行列 $GL^{+}(k; \R)$ に属すもの全体からなる部分群です。として定めておきます。
$n, k\geq 1$ とする。次が成立する。
よって、同相\[\tilde{G}_{n, k}(\R)\cong GL^{+}(n + k; \R)/G^{+}\]による同一視のもと $\tilde{G}_{n, k}(\R)$ は連結なコンパクトHausdorff空間である。$($もちろん、各 $A\in GL^{+}(n + k; \R)$ はその最初の $n$ 個の列ベクトルの張る部分空間にその $n$ 個の列ベクトルからなる基底の定める向きを与えたものを代表する。$)$
$n, k\geq 1$ とする。次が成立する。
よって、補題9.4.6の同一視をするとして、有向実Grassmann多様体 $\tilde{G}_{n, k}(\R)$ はこの座標近傍系によって連結かつコンパクトな $nk$ 次元実解析的多様体になる。
有向実Grassmann多様体について次が成立します。
向きも考慮して直交補空間を対応させる$(V, o)\in \tilde{G}_{n, k}(\R)$ に対して $(W, o')\in \tilde{G}_{k, n}(\R)$ であって $W = V^{\bot}$ かつ $o\oplus o'$ が $\R^{n + k}$ の標準的な向きに一致するようなものを対応させる。写像 $\tilde{T} : \tilde{G}_{n, k}(\R)\to \tilde{G}_{k, n}(\R)$ は $C^{\omega}$ 級同相写像である。
包含写像 $i : \R^{n + k}\times \{0\}\to \R^{n + k + 1}$ は $($$C^{\omega}$ 級の$)$ 埋め込み $\tilde{G}_{n, k}(\R)\to \tilde{G}_{n, k + 1}(\R)$ を誘導する。
ここから定まる帰納系の帰納極限 $\underset{k}{\varinjlim}\tilde{G}_{n, k}(\R)$ を無限次元有向実Grassmann多様体といい、$\tilde{G}_{n}(\R)$ により表す。これは自然に無限次元実線型空間 $\R^{\infty} := \underset{k}{\varinjlim}\R^{n + k}$ の向き付けられた $n$ 次元部分空間全体からなる空間と考えられる。
無向実Grassmann多様体との関係としては次が重要です。
向きを忘れることで定まる写像 $\tau_{n, k} : \tilde{G}_{n, k}(\R)\to G_{n, k}(\R)$ は二重被覆 $($離散的な二点空間をファイバーとするファイバー束$)$ である。
各 $V\in G_{n, k}(\R)$ に対して $\#\tau_{n, k}^{-1}(V) = 2$ であることは明らか。あとは各 $P\in GL^{+}(n + k; \R)$ に対して $\varphi_{P}^{-1} = \tau_{n, k}\circ \tilde{\varphi}_{P}^{-1}$ であることから容易に確かめられます。
複素Grassmann多様体 $G_{n, k}(\C)$ は $\C^{n + k}$ の $n$ 次元部分空間全体からなる集合と定義され、$n, k\geq 1$ の場合には\[G_{n, k}(\C)\cong U(n + k)/(U(n)\times U(k))\]という同一視から位相を与えます。
こちらについては複素多様体の構造が定まることが確認できます。証明は無向実Grassmann多様体に実解析的多様体の構造を与えたのと全く同様です。
複素Grassmann多様体 $G_{n, k}(\C)$ はコンパクトかつ連結な $nk$ 次元複素多様体である。
基本的な性質についても無向実Grassmann多様体と同様のことが成立します。
直交補空間を対応させる写像 $T : G_{n, k}(\C)\to G_{k, n}(\C)$ は双正則写像である。
包含写像 $i : \C^{n + k}\times \{0\}\to \C^{n + k + 1}$ は $($正則な$)$ 埋め込み $G_{n, k}(\C)\to G_{n, k + 1}(\C)$ を誘導する。
ここから定まる帰納系の帰納極限 $\underset{k}{\varinjlim}G_{n, k}(\C)$ を無限次元複素Grassmann多様体といい、$G_{n}(\C)$ により表す。これは自然に無限次元複素線型空間 $\C^{\infty} := \underset{k}{\varinjlim}\C^{n + k}$ の $n$ 次元部分空間全体からなる空間と考えられる。
Grassmann多様体上にはその各点の代表する線型空間をファイバーとするベクトル束が定まり標準ベクトル束と呼ばれます。具体的には、無向実Grassmann多様体および複素Grassmann多様体については、積束 $\underline{\K^{n + k}}_{G_{n, k}(\K)}\to G_{n, k}(\K)$ の部分空間\[E_{n, k}(\K) := \{(V, v)\mid V\in G_{n, k}(\K), \ v\in V\}\]への制限 $\gamma_{n, k}(\K) : E_{n, k}(\K)\to G_{n, k}(\K)$ として定まります。有効実Grassmann多様体についても同様に積束 $\underline{\R^{n + k}}_{\tilde{G}_{n, k}(\R)}\to \tilde{G}_{n, k}(\R)$ の部分空間\[\tilde{E}_{n, k}(\R) := \{((V, o), v)\mid V\in \tilde{G}_{n, k}(\R), \ v\in V\}\]への制限 $\tilde{\gamma}_{n, k}(\R) : \tilde{E}_{n, k}(\R)\to \tilde{G}_{n, k}(\R)$ として定まりますが、加えて点 $(V, o)\in \tilde{G}_{n, k}(\R)$ 上のファイバー $V$ には向き $o$ を与えて向き付けられたベクトル束と考えます。
これらがきちんとベクトル束になっていることは容易に確かめられます。
上で構成した標準ベクトル束は実際にベクトル束になっている。また、有向実Grassmann多様体上の標準ベクトル束についてはきちんと向き付けられている。
局所自明化を具体的に取ればよいですが、例えば、命題9.4.2の記号を用いて写像\[U_{P}\times \K^{n}\to E_{n, k}(\K) : (V, u)\mapsto (V, \iota_{P}(\varphi_{P}(V))\cdot (u\oplus (\overset{k}{\overbrace{0, \dots, 0}})))\]を取れば、これが $U_{P}$ 上の局所自明化 $($の逆写像$)$ になります。
次が成立します。
階数 $n$ の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ と非負整数 $k$ が与えられているとする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 束同型 $E\oplus F\cong \underline{\K^{n + k}}_{B}$ を固定し、$E\subset \underline{\K^{n + k}}_{B}$ とみなします。各ファイバー $E_{x}$ は $\K^{n + k}$ の $n$ 次元部分空間と考えられます。写像 $f : B\to G_{n, k}(\K) : x\mapsto E_{x}$ を取ればこれについて以下が分かります。
(i) 各点 $x\in B$ のある開近傍上での連続性を確かめればよいです。$x$ の十分小さな開近傍 $U$ 上の $\underline{\K^{n + k}}_{B}$ の局所枠 $s_{1}, \dots, s_{n + k}$ をその最初の $n$ 個の切断が $E$ の局所枠であるように取ります。連続写像 $h : U\to GL(n + k; \K)$ を $h(y)$ の第 $l$ 列ベクトルが $s_{l}(y)$ であるように定めれば、命題9.4.2の射影 $\pi$ を用いて、$f = \pi\circ h$ なので $f$ は $U$ 上連続です。
(ii) 自明です。
(2) ⇒ (3) 直交射影 $\underline{\K^{n + k}}_{G_{n, k}(\K)}\to E_{n, k}(\K)$ を引き戻せばよいです。
(3) ⇒ (1) 直和分解 $\underline{\K^{n + k}}_{B} = \Ker g\oplus (\Ker g)^{\bot}$ があること自明束には常に標準的なRiemann計量やHermite計量が入り、部分束には直交補空間束が取れました。と制限 $g|_{(\Ker g)^{\bot}} : (\Ker g)^{\bot}\to E$ が束同型であることから $F := \Ker g$ とすれば $E\oplus F$ が自明束です。
(3) ⇒ (4) 全射束準同型 $g : \underline{\K^{n + k}}_{B}\to E$ により積束 $\underline{\K^{n + k}}_{B}$ の枠を押し出して得られる切断たちを取ればよいです。
(4) ⇒ (3) 束準同型 $g : \underline{\R^{n + k}}_{B}\to E$ を\[g(x, t_{1}, \dots, t_{n + k})\mapsto \sum_{l = 1}^{n + k}t_{l}s_{l}(x)\in E_{x}\]と定めればこれは全射です。
標準的な包含写像 $\K^{n + k}\times \{0\}\subset \K^{n + k + 1}$ は標準ベクトル束に関する可換図式
を誘導し、ここから得られる帰納系の帰納極限として無限次元Grassmann多様体上の新たな $\K$ ベクトル束\[\gamma_{n}(\K) : E_{n}(\K)\to G_{n}(\K)\]が得られます各点の周りで局所自明化が存在することについて、これは $G_{n, k}(\K)$ におけるコンパクト近傍上の局所自明化を $G_{n, k + 1}(\K)$ におけるコンパクト近傍上の局所自明化に拡張できることからその帰納極限として構成できます。。これを普遍ベクトル束といいます。
普遍ベクトル束は次の形のパラコンパクトHausdorff空間上のベクトル束の同型類の分類を与えます。
$B$ をパラコンパクトHausdorff空間とする。写像\[\varPhi_{\K} : [B, G_{n}(\K)]\to \Vect_{\K}^{n}(B) : [f]\mapsto [f^{*}E_{n}(\K)]\]は全単射である。このため、$G_{n}(\K)$ のことを階数 $n$ の $\K$ ベクトル束の分類空間といい、階数 $n$ の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ に対して束同型 $E\cong f^{*}E_{n}(\K)$ を与える連続写像 $f : B\to G_{n}(\K)$ を分類写像という。
まず、写像が定まっていることは引き戻しのhomotopy不変性 $($定理9.2.44$)$ からよく、あとは全射性と単射性をそれぞれ確認すればよいです。
まずは単射性から。少し補題を用意します。
階数 $n$ の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ と束写像 $h : E\to \K^{\infty}$ であってファイバーごとに単射を定めるものが与えられているとする。次の図式を可換にする束写像 $\tilde{f} : E\to E_{n}(\K)$ が存在する。
底空間の間の写像 $g : B\to G_{n}(\K) : x\mapsto f(E_{x})$ を取ります。対 $\tilde{f} := (g\circ \pi, h) : E\to G_{n}(\K)\times \K^{\infty}$ は $E_{n}(\K)$ に値を取り、明らかに $h = \pr_{2}\circ \tilde{f}$ です。この $\tilde{f}$ が束写像であればよいですが、そのためには $g$ の連続性のみ確かめれば十分です。
点 $x_{0}\in B$ を取り、その適当な自明化開近傍 $U$ 上での連続性を示せばよいです。まず、自明化開近傍 $U$ を任意に取ります。$E$ の $U$ 上の局所自明化 $\varphi : E|_{U}\to U\times \K^{n}$ を取り、$e_{1}, \dots, e_{n}$ を $\K^{n}$ の標準基底として、合成 $h\circ \varphi^{-1} : U\times \K^{n}\to \K^{\infty}$ の $U\times \{e_{k}\}$ への制限を $s_{k}$ で表すとします。非負整数 $m\in \N$ を $s_{1}(x_{0}), \dots, s_{n}(x_{0})$ が最初の $n + m$ 成分のみで一次独立であるように取り、そこに $m$ 個のベクトル $v_{n + 1}, \dots, v_{n + m}\in \K^{n + m}$ を追加して $\K^{n + m}$ の基底を与えるようにします。連続写像 $S : U\to \underset{k}{\varinjlim}M(n + m; \K)$ を $S(x)$ の最初の $n$ 列が $s_{1}(x), \dots, s_{n}(x)$ かつその次の $m$ 列が $\K^{\infty}$ の元とみなした $v_{n + 1}, \dots, v_{n + m}$ かつ残りの対角成分が $1$ かつその他の成分が $0$ であるように取ります。必要であれば $U$ を小さく取り直すことで終域を $\underset{k}{\varinjlim}GL(n + k; \K)$ とします。命題9.4.2の射影 $\pi : GL(n + k; \K)\to G_{n, k}(\K)$ の帰納極限として連続写像 $\varPi : \underset{k}{\varinjlim}GL(n + k; \K)\to G_{n}(\K)$ が定まり $($命題2.7.42$)$、$g = \varPi\circ S$ なので $g$ は連続です。
$\K^{\infty}$ の標準基底を $e_{0}, e_{1}\dots, e_{k}, \dots$ で表すとする。次が成立する。
階数 $n$ の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ と束写像 $\tilde{f}_{0}, \tilde{f}_{1} : E\to E_{n}(\K)$ であってファイバーごと同型を定めるものが与えられているとする。この $\tilde{f}_{0}, \tilde{f}_{1}$ が底空間の間に定める写像 $f_{0}, f_{1} : B\to G_{n}(\K)$ がhomotopicであることを示せばよいです。射影 $\pr_{2} : E_{n}(\K)\to \K^{\infty}$ との合成 $h_{i} := \pr_{2}\circ \tilde{f}_{i} : E\to \K^{\infty}$ を取り、ファイバーごと単射を定める束写像のhomotopy $H : E\times I\to \K^{\infty}$ であって $h_{0}$ を $h_{1}$ につなぐものが存在すれば、その $H$ から補題9.4.19のリフトとして得られる束写像 $\tilde{H} : E\times I\to E_{n}(\K)$ が底空間の間に定める連続写像 $B\times I\to G_{n}(\K)$ が $f_{0}$ を $f_{1}$ につなぐhomotopyです。
よって、その意味で $h_{0}$ と $h_{1}$ がhomotopicであることを示せばよいです。補題9.4.20のhomotopy $\xi, \eta$ を用いて\[h_{0} = \xi_{0}\circ h_{0}\sim \xi_{1}\circ h_{0},\]\[h_{1} = \eta_{0}\circ h_{1}\sim \eta_{1}\circ h_{1}\]ですが、各 $x\in B$ に対して $(\xi_{1}\circ h_{0})(E_{x})\cap (\eta_{1}\circ h_{1})(E_{x}) = \{0\}$ であるので $\xi_{1}\circ h_{0}$ を $\eta_{1}\circ h_{1}$ につなぐ $($ファイバーごとに単射を定める$)$ 束写像のhomotopy $H' : E\to \K^{\infty}$ が補題9.4.20のhomotopy $\mu$ を用いて\begin{eqnarray*}H'(x, v, t) & := & \mu((\xi_{1}\circ h_{0})(x, v), (\eta_{1}\circ h_{1})(x, v), t) \\& = & (1 - t)(\xi_{1}\circ h_{0})(x, v) + t(\eta_{1}\circ h_{1})(x, v)\end{eqnarray*}により定まり $\xi_{1}\circ h_{0}\sim \eta_{1}\circ h_{1}$ です。以上により $h_{0}\sim h_{1}$ です。
続いて全射性。一つ補題を用意します。
パラコンパクトHausdorff空間 $B$ 上の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ に対し、$B$ の自明化開集合による被覆であって高々可算なものが存在する。
ほぼ[ミルナー, スタシェフ 特性類講義]の補題5.9の証明から。
自明化開集合による $B$ の開被覆 $\{U_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。ただし、必要であれば空集合を付け加えて添字集合 $\Lambda$ は無限集合としておきますこの後の $U(M)$ の定義において $\Lambda\setminus M = \varnothing$ となることを回避するためだけの処置。。この開被覆に従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。そして、$($空でない$)$ 有限部分集合 $M\subset \Lambda$ に対して部分集合 $U(M)\subset B$ を\[U(M) := \{x\in B\mid \min_{\mu\in M}h_{\mu}(x) > \max_{\mu\in \Lambda\setminus M}h_{\mu}(x)\}\]により定め、各正整数 $n\in \Np$ に対して $U_{n}$ を\[U_{n} := \bigcup_{M\subset \Lambda, \ \#M = n}U(M)\]と定めます。以下のことが容易に確かめられます。
ここで、各 $n$ 元部分集合 $M\subset \Lambda$ に対する $U(M)$ 上の局所自明化たちを取ることで $U_{n}$ 上の局所自明化が構成でき、$U_{n}$ は自明化開集合です。よって、$\{U_{n}\}_{n\in \Np}$ が自明化開集合による可算開被覆です。
階数 $n$ の $\K$ ベクトル束 $\pi : E\to B$ に対して束写像 $\tilde{f} : E\to E_{n}(\K)$ であってファイバーごと同型を定めるものが存在することを示せばよいです。補題9.4.21より局所自明化による高々可算な開被覆 $\{(U_{k}, \varphi_{k})\}_{k\in \N}$ を取ります。これに従属する $1$ の分割 $\{g_{k}\}_{k\in \N}$ を取り、各 $k\in \N$ に対して束写像 $h_{k} : E\to \K^{n}$ を\[h_{k}(x, v) := \left\{\begin{array}{ll}g_{k}(x)(\pr_{2}\circ \varphi_{k})(x, v) & (x\in U_{k}) \\0 & (x\notin U_{k})\end{array}\right.\]により定め、これを用いて束写像 $h : E\to \K^{\infty}$ を\[h(x, v) := (h_{0}(x, v)), h_{1}(x, v), \dots )\in (\K^{n})^{\infty}\cong \K^{\infty}\]により定めます。この $h$ についての補題9.4.19のリフトが目的の束写像です。
有向実標準ベクトル束についてもまったく同様にして有向実普遍ベクトル束\[\tilde{\gamma}_{n}(\R) : \tilde{E}_{n}(\R)\to \tilde{G}_{n}(\R)\]が構成され、次の分類定理が成立します。ただし、$\widetilde{\Vect}_{\R}^{n}(B)$ により $B$ 上の階数 $n$ の向き付けられた実ベクトル束の同型類全体からなる集合を表すとします。
$B$ をパラコンパクトHausdorff空間とする。写像\[\tilde{\varPhi}_{\R} : [B, \tilde{G}_{n}(\R)]\to \widetilde{\Vect}_{\R}^{n}(B) : [f]\mapsto [f^{*}\tilde{E}_{n}(\R)]\]は全単射である。
命題9.4.11の二重被覆 $\tau_{n, k}$ の帰納極限として二重被覆 $\tau_{n} : \tilde{G}_{n}(\R)\to G_{n}(\R)$ が定まり、向きを考慮しないベクトル束としての束同型\[\tilde{E}_{n}(\R)\cong \tau_{n}^{*}E_{n}(\R)\]が成立します。
標準的な全単射 $\Vect_{\R}^{n}(B)\to \Vect_{GL(n; \R)}(B)$ がありました $($例9.3.9$)$。そして、普遍ベクトル束に $GL(n; \R)$ 構造を与えたとして、パラコンパクトHausdorff空間 $B$ に対して全く同様に全単射\[\varPhi_{GL(n; \R)} : [B, G_{n}(\R)]\to \Vect_{GL(n; \R)}(B),\]が定まります。これと同様にして全単射\[\varPhi_{GL(n; \C)} : [B, G_{n}(\C)]\to \Vect_{GL(n; \C)}(B),\]\[\varPhi_{GL^{+}(n; \R)} : [B, \tilde{G}_{n}(\R)]\to \Vect_{GL^{+}(n; \R)}(B)\]が定まります。
パラコンパクトHausdorff空間上の実ベクトル束は必ずRiemann計量を持ち $($命題9.2.32$)$、Riemann計量を与えた $2$ つの実ベクトル束は実ベクトル束として束同型ならばRiemann計量込みで束同型でした $($補題9.2.34$)$。このことはパラコンパクトHausdorff空間 $B$ 上の実ベクトル束に対してRiemann計量を与える対応が全単射\[\Vect_{\R}^{n}(B)\to \Vect_{O(n)}(B)\]を誘導することを意味します。そして、定理9.4.18の実ベクトル束の分類はRiemann計量込みで考えても全く同じ、つまり、普遍ベクトル束 $\gamma_{n}(\R) : E_{n}(\R)\to G_{n}(\R)$ に標準的な方法でRienamm計量 $($従って $O(n)$ 構造$)$ を与えるとして、写像\[\varPhi_{O(n)} : [B, G_{n}(\R)]\to \Vect_{O(n)}(B) : [f]\mapsto [f^{*}E_{n}(\R)]\]が全単射であることが分かります。
さらに、同様にして全単射\[\varPhi_{U(n)} : [B, G_{n}(\C)]\to \Vect_{U(n)}(B),\]\[\varPhi_{SO(n)} : [B, \tilde{G}_{n}(\R)]\to \Vect_{SO(n)}(B)\]が定まります。
補足9.3.8の標準的な全単射 $\Prin_{GL(n; \K)}(B)\to \Vect_{GL(n; \K)}(B)$ と補足9.4.24からパラコンパクトHausdorff空間 $B$ に対して全単射\[[B, G_{n}(\K)]\to \Prin_{GL(n; \K)}(B) : [f]\mapsto [f^{*}(\Fr E_{n}(\K))]\]が容易に確かめられます。
より一般に、位相群 $G$ に対し、主 $G$ 束 $\gamma_{G} : EG\to BG$ であって任意に取った $($性質のよいパラコンパクトHausdorff空間やCW複体に制限して考えることが多い。$)$ 位相空間 $B$ 上の主 $G$ 束をこの要領で分類する、つまり、全単射\[\varPhi_{G} : [B, BG]\to \Prin_{G}(B) : [f]\mapsto [f^{*}EG]\]を定めるようなものを普遍主 $G$ 束といい、その底空間 $BG$ のことは主 $G$ 束の $($もしくは位相群 $G$ の$)$ 分類空間といいます。また、与えられた $B$ 上の主 $G$ 束 $P$ に対して束同型 $P\cong f^{*}EG$ を与えるような連続写像 $f : B\to BG$ は分類写像といいます。
上の例で言えば、普遍主 $GL(n; \K)$ 束は普遍ベクトル束の枠束 $\Fr E_{n}(\K)$、分類空間は無限次元Grassmann多様体 $G_{n}(\K)$ となります。$G = GL^{+}(n; \R), O(n), U(n), SO(n)$ の場合も同様です。
ということで、分類空間の例として以下が得られます。
また、より具体的な例として以下があります。(前 $2$ つは上の特別な場合、後ろ $3$ つはここでは詳しくは触れない。)
固定した位相群 $G$ に関する分類空間は位相的には一意ではありませんが、$($パラコンパクトHausdorff空間のみ考えるとすれば$)$ そのhomotopy型は一意です。(なので、$BS^{1} = \CP^{\infty}$ みたいな書き方は多少不正確なのだけど、細かいことは気にせずそう書いてしまうことも多いです。)
以上です。
分類空間の一般的な話は別で書く予定ではあります。
参考文献
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