群は何かしらの集合・空間の変換を記述する際に用いられ、それは群作用として整備されます。
$G$ を群、$X$ を集合とする。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。各 $g\in G$ に対して左作用 $L$ の $\{g\}\times X$ への制限 $L_{g} : X\to X : x\mapsto g\cdot x$ を $g$ による左移動という。右作用 $R$ についても同様に写像 $R_{g} : X\to X : x\mapsto x\cdot g$ を右移動という。
群作用は表現の言葉で言い換えることが可能です。
$G$ を群、$X$ を集合とする。準同型 $\rho : G\to \Aut(X) := \Bij(X, X)$ を群 $G$ の集合 $X$ 上の表現群 $G$ から線型空間 $V$ の自己同型群 $GL(V)$ への準同型のことを線形表現と呼び、通常は表現といったらこの線型表現のこと指すかと思います。ここでは線型空間に限らない対象の自己同型群への準同型もその対象上の表現と呼ぶことにします。(nLabのcategory of representationsのページ見た感じではそういう用法も許容されるだろうという判断。)もしくは置換表現集合の自己同型群 $\Aut(X)$ が対称群 $S(X)$ に同一視されることから。と呼ぶ。
$G$ を群、$X$ を集合とする。
上記の対応は可逆であり、群 $G$ の集合 $X$ への左作用と群 $G$ の集合 $X$ 上の表現は一対一に対応する。
(1) 明らかに $L_{e} = \Id_{X}$ です。また、任意の $g, h\in G$ に対して常に\[(L_{g}\circ L_{h})(x) = g\cdot (h\cdot x) = (gh)\cdot x = L_{gh}(x)\]であることから $L_{gh} = L_{g}\circ L_{h}$ です。よって、$\rho_{L}$ は $\Map(X, X)$ へのモノイド準同型です。モノイド準同型において単元 $($可逆元$)$ は単元に移るこの場合、任意の $g\in G$ に対して $\rho_{L}(g)\rho_{L}(g^{-1}) = \rho_{L}(g^{-1})\rho_{L}(g) = \rho_{L}(e) = L_{e} = \Id_{X}$ です。ので $\Aut(X)$ への写像として定まっています。よって、$\rho_{L}$ は群準同型です。
(2) まず、任意の $x\in X$ に対して $e\cdot x = \rho_{L}(e)(x) = \Id_{X}(x) = x$ です。また、任意の $g, h\in G$, $x\in X$ に対して $(gh)\cdot x = \rho_{L}(gh)(x) = (\rho_{L}(g)\circ \rho_{L}(h))(x) = \rho_{L}(g)(h\cdot x) = g\cdot (h\cdot x)$ です。よって、$L$ は左作用です。
残りも明らかです。
関連する用語を整備します。主に左作用についてのみ考えますが、右作用でも同様です。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。
(1) 反射律は $x\in X$ に対して $x = e\cdot x$ であることから、対称律は $x\sim y$ に対して $y = g\cdot x$ を満たす $g\in G$ を取れば $x = g^{-1}\cdot (g\cdot x) = g^{-1}\cdot y$ であることから、推移律は $x\sim y\sim z$ に対して $y = g\cdot x$, $z = h\cdot y$ を満たす $g, h\in G$ を取れば $z = hg\cdot x$ であることからよいです。
(2) 明らかです。
右作用 $R : X\times G\to X$ が与えられたときも同様に同値関係が定まり、軌道なども考えることができます。右作用による商集合は $X/G$ により表します。左作用による商集合はこの右作用による商集合 $X/G$ と区別する必要がある場合には $G\backslash X$ で表されますが、その必要がない場合は $X/G$ と書いてしまうことも多いです。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。
固定化群 $\Stab_{G}(x)$ は実際に群である。
まず、明らかに $e\in \Stab_{G}(x)$ です。任意の $g_{1}, g_{2}\in \Stab_{G}(x)$ に対して $(g_{2}g_{1})\cdot x = g_{2}\cdot (g_{1}\cdot x) = g_{2}\cdot x = x$ なので $g_{2}g_{1}\in \Stab_{G}(x)$ です。また、任意の $g\in \Stab_{G}(x)$ に対して $g^{-1}\cdot x = g^{-1}\cdot (g\cdot x) = x$ なので $g^{-1}\in \Stab_{G}(x)$ です。よって、固定化群 $\Stab_{G}(x)$ は実際に群になります。
基本事実として次のことが成立します。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。次は同値である。
容易です。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。次は同値である。
容易です。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) $g\in G\setminus \{e\}$ とします。仮定よりある $x\in X$ が存在して $g\cdot x\neq e\cdot x = x$ です。よって、この $x$ に対して $g\notin \Stab_{G}(x)$ です。$g$ は任意なので $\bigcap_{x\in X}\Stab_{G}(x)\subset \{e\}$ です。逆の包含関係は自明であり、$\bigcap_{x\in X}\Stab_{G}(x) = \{e\}$ が成立します。
(2) ⇒ (3) $g\neq h\in G$ とします。仮定より $h^{-1}g\notin \Stab_{G}(x)$ を満たす $x\in X$ が取れます。この $x$ に対して $L_{g}(x) = g\cdot x \neq h\cdot x = L_{h}(x)$ であり、$L_{g}\neq L_{h}$ が従います。よって、表現 $\rho_{L}$ は単射です。
(3) ⇒ (1) $g\neq h\in G$ とします。仮定より $L_{g}\neq L_{h}$ であり、ある $x\in X$ が存在して $L_{g}(x)\neq L_{h}(x)$ です。この $x$ に対して $g\cdot x\neq h\cdot x$ です。よって、左作用 $L$ は効果的です。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。次が成立する。
(1) 任意の $h\in \Stab_{G}(x)$ に対して $ghg^{-1}\cdot (g\cdot x) = gh\cdot x = g\cdot x$ より $ghg^{-1}\in \Stab_{G}(g\cdot x)$ であり、$g\Stab_{G}(x)g^{-1}\subset \Stab_{G}(g\cdot x)$ です。また、この包含関係を使うことで\[\Stab_{G}(g\cdot x) = g(g^{-1}\Stab_{G}(g\cdot x)g)g^{-1}\subset g\Stab_{G}(g^{-1}g\cdot x)g^{-1} = g\Stab_{G}(x)g^{-1}\]です。よって、$\Stab_{G}(g\cdot x) = g\Stab_{G}(x)g^{-1}$ です。
(2) 写像 $\varphi : G/\Stab_{G}(x)\to \Orb_{G}(x) : g\Stab_{G}(x)\to g\cdot x$ が全単射であることを示せばよいです。well-definedであることは明らかです。全射であることは $x'\in \Orb_{G}(x)$ に対して $x' = g\cdot x$ を満たす $g\in G$ を取れば $\varphi(g\Stab_{G}(x)) = g\cdot x = x'$ なのでよいです。単射性を示します。$g, h\in G$ であって $\varphi(g\Stab_{G}(x)) = \varphi(h\Stab_{G}(x))$ を満たすものを取ります。$g\cdot x = h\cdot x$ であり、$h^{-1}g\in \Stab_{G}(x)$ です。よって、$g\Stab_{G}(x) = h\Stab_{G}(x)$ が従い $\varphi$ の単射性が分かりました。
(3) (2)の結果を使い、$|G| = |G/\Stab_{G}(x)|\times |\Stab_{G}(x)| = |\Orb_{G}(x)|\times |\Stab_{G}(x)|$ です。
(4) これは\begin{eqnarray*}\sum_{x\in X}|\Stab_{G}(x)| & = & \sum_{x\in X}|\{(g', x')\in G\times X\mid g'\cdot x' = x', \ x' = x\}| \\& = & |\{(g', x')\in G\times X\mid g'\cdot x' = x'\}| \\& = & \sum_{g\in G}|\{(g', x')\in G\times X\mid g'\cdot x' = x', g' = g\}| \\& = & \sum_{g\in G}|\Fix_{X}(g)|\end{eqnarray*}です。
$G$ を群、$X$ を集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。
(1) 推移性から $|X| = |\Orb_{G}(x)|$ であることと命題3.2.15からそうです。
(2) 完全代表系 $S\in X$ を取れば自由性より写像 $G\times S\to X : (g, s)\mapsto g\cdot s$ は全単射です。よって、\[|X| = |G|\times |S| = |G|\times |X/G|\]です。
$G$ を有限群、$X$ を有限集合とし、左作用 $L : G\times X\to X$ が与えられているとする。等式\[|X/G| = \dfrac{1}{|G|}\sum_{g\in G}|\Fix_{X}(g)|\]が成立する。
各 $x\in X$ に対して\[\sum_{g\in G}|\Fix_{\Orb_{G}(x)}(g)| = \sum_{x'\in \Orb_{G}(x)}|\Stab_{G}(x')| = |\Orb_{G}(x)|\times |\Stab_{G}(x)| = |G|\]であることに注意します。$S$ を軌道分解の完全代表系として、\begin{eqnarray*}\sum_{g\in G}|\Fix_{X}(g)| & = & \sum_{g\in G}\left|\bigsqcup_{x\in S}\Fix_{\Orb_{G}(x)}(g)\right| \\& = & \sum_{g\in G}\sum_{x\in S}|\Fix_{\Orb_{G}(x)}(g)| \\& = & \sum_{x\in S}\sum_{g\in G}|\Fix_{\Orb_{G}(x)}(g)| \\& = & \sum_{x\in S}|G| = |X/G|\times |G| \\\end{eqnarray*}と計算できます。
群 $G$ の自身への作用としては左右の移動から定まるもの以外に次の共役作用が重要です。
$G$ の自身への左作用 $G\times G\to G : (g, h)\mapsto ghg^{-1}$ を共役作用といいます。同様に、$G$ の冪集合 $2^{G}$ へ左作用 $G\times 2^{G}\to 2^{G} : (g, S)\mapsto gSg^{-1}$ やその部分群全体からなる部分集合 $\SubGp(G)$ への制限 $G\times \SubGp(G)\to \SubGp(G) : (g, H)\mapsto gHg^{-1}$ が定まり、これらも共役作用と呼びます。共役作用による軌道は共役類と呼ばれます。
共役作用を用いて定義される正規化群と中心化群について触れておきます。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。
$G$ を群、$H, K$ をその部分群とする。次が成立する。
(1) (2) (3) いずれも正規化群の定義から明らかです。
(4) $\SubGp(G)$ への共役作用に関する $H$ の軌道 $\Orb_{G}(H)$ が共役類であること、$H$ の固定化群が $N_{G}(H)$ であること、命題3.2.15による等式 $|G/\Stab_{G}(H)| = |\Orb_{G}(H)|$ を合わせて従います。
$G$ を群、$H$ をその部分群とする。次が成立する。
(1) まず、定義から明らかに $Z_{G}(H)\leq N_{G}(H)$ であり、\begin{eqnarray*}Z_{G}(H) & = & \{g\in G\mid {}^{\forall}h\in H, \ gh = hg\} \\& = & \{g\in N_{G}(G)\mid {}^{\forall}h\in H, \ gh = hg\} = Z_{N_{G}(H)}(H)\end{eqnarray*}です$H\leq N_{G}(H)$ より $Z_{N_{G}(H)}(H)$ が定義されていることには注意。。
$H\triangleleft N_{G}(H)$ より写像 $i : N_{G}(H)\to \Aut(H) : g\mapsto (i_{g} : h\mapsto ghg^{-1})$ が定まり、これは明らかに準同型です。また、$\Ker i = Z_{N_{G}(H)}(H)$ も容易に確かめられ、以上より $Z_{G}(H)\triangleleft N_{G}(H)$ が分かります。
(2) (1)において $H = G$ としたものです。
(3) 各元に共役変換を対応させる写像 $i : G\to \Inn(G) : g\mapsto (i_{g} : h\mapsto ghg^{-1})$ は全射準同型ですが、(1)のときと同様に $\Ker i = Z(G)$ であり、同型定理より $G/Z(G)\cong \Inn(G)$ です。
(4) 定義より $Z(G) = \{g\in G\mid {}^{\forall}h\in G, \ gh = hg\}$ であることに注意すれば明らかです。
$G$ を群、$Q$ をその部分群とする。部分群 $H\leq N_{G}(Q)$ に対して $HQ$ は $N_{G}(Q)$ の部分群であり、$Q\triangleleft HQ$ および $H\cap Q\triangleleft H$ が成立する。そして、同型 $HQ/Q\cong H/H\cap Q$ が成立する。
第二同型定理 $($命題3.1.73$)$ からただちに従います。
$G$ を群とし、共役作用に関する軌道分解における完全代表系 $S$ を取ります。等号\[|G| = \sum_{x\in S}^{m}|\Orb_{G}(x)| = |Z(G)| + \sum_{x\in S\setminus Z(G)}|\Orb_{G}(x)| = |Z(G)| + \sum_{x\in S\setminus Z(G)}(G : \Stab_{G}(x))\]が成立し、類等式と呼ばれます。もし $G$ が有限群であれば命題3.2.15より $|\Orb_{G}(x)|$ たちは全て位数 $|G|$ の約数になります。
群 $G$ による推移的な作用を持つ左 $G$ 集合を単に推移的な左 $G$ 集合とも呼ぶことにします。ここでは推移的な左 $G$ 集合が $G$ の部分群の共役類によって分類されること、より正確には、次に定義する $G$ 同型による同型類が群 $G$ の部分群の共役類と適切な対応により一対一対応することを示します。
$G$ を群、$X, Y$ を左 $G$ 集合とする。写像 $f : X\to Y$ が $G$ 同変もしくは $G$ 写像であるとは、任意の $g\in G$ と $x\in X$ に対して $f(g\cdot x) = g\cdot f(x)$ を満たすことと定める。全単射な $G$ 同変写像を $G$ 同型写像や単に $G$ 同型と呼ぶ。左 $G$ 集合 $X, Y$ の間に $G$ 同型写像が存在するとき $X$ と $Y$ は $G$ 同型であるといい $X\cong_{G} Y$ や単に $X\cong Y$ などで表す。
$G$ 同変写像どうしの合成や $G$ 同型写像の逆写像が再び $G$ 同変であること、$G$ 同型がその他の同型概念と同様に反射律・対称律・推移律をみたすことは容易に確認できます。いくつか補題を用意します。
$G$ を群、$X$ を推移的な左 $G$ 集合とする。
(1) 推移的なので $g\in G$ であって $x' = g\cdot x$ を満たすものが取れます。命題3.2.15より $\Stab_{G}(x') = g\Stab_{G}(x)g^{-1}$ なので固定化群 $\Stab_{G}(x)$, $\Stab_{G}(x')$ は互いに共役です。
(2) $H = g\Stab_{G}(x_{0})g^{-1}$ を満たす $g\in G$ を取ります。$x = g\cdot x_{0}$ に対して $H = \Stab_{G}(x)$ です。
$G$ を群、$X, Y$ を左 $G$ 集合とし、$X$ の左作用は推移的とする。次が成立する。
(1) $x\in X$ とします。推移的なので $x = g\cdot x_{0}$ を満たす $g\in G$ が取れます。よって、$f(x) = f(g\cdot x_{0}) =g\cdot f(x_{0}) = g\cdot f'(x_{0}) = f'(g\cdot x_{0}) = f'(x)$ です。以上により $f = f'$ です。
(2) 各 $x\in X$ に対して $x = g\cdot x_{0}$ を満たす $g\in G$ を用いて $f(x) := g\cdot y_{0}$ と定めます。つぎのことを示せばよいです。
(i) $g_{1}, g_{2}\in G$ であって $g_{1}\cdot x_{0} = g_{2}\cdot x_{0}$ を満たすものを取ります。$g_{2}^{-1}g_{1}\cdot x_{0} = x_{0}$ であるので $g_{2}^{-1}g_{1}\in \Stab_{G}^{X}(x_{0})$ であり、仮定から $g_{2}^{-1}g_{1}\in \Stab_{G}^{Y}(y_{0})$ です。よって、$g_{1}\cdot y_{0} = g_{2}\cdot y_{0}$ です。以上により $f$ はwell-definedです。
(ii) 明らかです。
(iii) (1)から従います。
$G$ を群、$X, Y$ を推移的な左 $G$ 集合とする。$X, Y$ のそれぞれの各点の固定化群の共役類が一致していれば $G$ 同型 $X\cong Y$ が成立する。
点 $x\in X$, $y\in Y$ を固定します。固定化群 $\Stab_{G}(x)$ と $\Stab_{G}(y)$ は共役であり、$\Stab_{G}(y) = g\Stab_{G}(x)g^{-1}$ を満たす $g\in G$ が取れます。$\Stab_{G}(g\cdot x) = \Stab_{G}(y)$ であり、$x' := g\cdot x$ とおくとして、補題3.2.27から $G$ 同変写像 $f : X\to Y$ であって $f(x') = y$ を満たすものと $f' : Y\to X$ であって $f'(y) = x'$ を満たすものが取れます。$f'\circ f$ は $x'$ を保つので恒等写像 $\Id_{X}$ であり、$f\circ f'$ は $y$ を保つので恒等写像 $\Id_{Y}$ です。よって、$f, f'$ は $G$ 同型写像であり、$G$ 同型 $X\cong Y$ が成立します。
以上をまとめて目標の分類定理が得られます。
$G$ を群とする。次は互いに一対一対応する。
ただし、(1)から(2)の対応は推移的な左 $G$ 集合に対して各点の固定化群の共役類を対応させる対応により誘導される。
まず、補題3.2.26より推移的な左 $G$ 集合における各点の固定化群の共役類は点の取り方によらず一意です。推移的な左 $G$ 集合であって互いに $G$ 同型なものには明らかに同じ共役類が対応し、推移的な左 $G$ 集合の同型類全体から $G$ の部分群の共役類全体への対応が定まります。
逆の対応は群 $G$ の部分群の共役類 $O$ に対してその代表元 $H$ による左剰余集合 $G/H$ の代表する同型類を対応せることにより取ります。これがwell-definedであることを確認します。$H, K\in O$ を取ります。左剰余集合 $G/H$ および $G/K$ は推移的な左 $G$ 集合であり、それぞれの $H, K$ の固定化群はそれ自身なので共役です。系3.2.28より $G$ 同型 $G/H\cong G/K$ が成立し、well-definedであることが分かりました。これらの対応が互いに逆を与えていることは容易です。
推移的な左 $G$ 集合は既約表現の同値類によっても分類されます。いくつか用語を整備します。
まず、次から左 $G$ 集合の同型類全体と集合上の表現の同値類全体が一対一に対応することが分かります。
$G$ を群、$X, Y$ を左 $G$ 集合、$\rho_{X}, \rho_{Y}$ を命題3.2.5により対応する表現とする。全単射 $\varphi : X\to Y$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) 任意の $g\in G$, $y\in Y$ に対して\[\rho_{Y}(g)(y) = g\cdot y = g\cdot \varphi(\varphi^{-1}(y)) = \varphi(g\cdot \varphi^{-1}(y)) = (\varphi\circ \rho_{X}(g)\circ \varphi^{-1})(y)\]であり $\rho_{Y} = \varphi_{*}\circ \rho_{X}$ が成立しています。
(2) ⇒ (1) $\varphi$ が $G$ 同変であることを示せばよいです。$g\in G$, $x\in X$ を取ります。$\varphi\circ \rho_{X}(g) = \rho_{Y}(g)\circ \varphi$ なので\[\varphi(g\cdot x) = \varphi(\rho_{X}(g)(x)) = \rho_{Y}(g)(\varphi(x)) = g\cdot \varphi(x)\]です。よって、$\varphi$ は $G$ 同変です。
次はその対応の部分対応として推移的なものと既約なものが一対一対応することを意味します。
$G$ を群、$X$ を左 $G$ 集合、$\rho$ を命題3.2.5により対応する表現とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 空でない部分表現 $\rho' : G\to \Aut(X')$ が取れたとき、任意の $x\in X$ に対して点 $x'\in X'$ と $x = g\cdot x'$ を満たす $g\in G$ を取ることができ、これらについて $\rho'(g)(x') = \rho(g)(x') = x\in X'$ が成立します。よって、$\rho' = \rho$ であり、$\rho$ は既約です。
(2) ⇒ (1) 任意の $x\in X$ に対して $X' := \{\rho(g)(x)\mid g\in G\}$ への制限として空でない部分表現 $\rho' : G\to \Aut(X')$ が取れますが、既約性から $X' = X$ であり、これは $X$ への作用の推移性を意味します。
定理3.2.29も含め、以上をまとめることで次の分類定理が得られます。
$G$ を群とする。次は互いに一対一対応する。
一般の左 $G$ 集合の分類は推移的な左 $G$ 集合の同型類ごとにそれと同型な軌道の数 $($濃度$)$ を数えて比較することにより述べることができます。また、表現の言葉に直すと、軌道分解が表現の既約分解(ここでは定義しません)に対応することに注意して、既約表現の同値類ごとにそれと同値な既約成分の数を数えて比較することで述べられます。
有限群の構造を調べるための強力な定理にSylowの定理があります。
$p$ を素数とする。位数が $p$ の冪である有限群を $p$ 群と呼ぶ。非負整数 $r$ と $p$ と互いに素な正整数 $q$ を用いて位数が $p^{r}q$ で表される有限群 $G$ における位数 $p^{r}$ の部分群をSylow $p$ 部分群と呼ぶ。
$G$ を有限群、$p$ を素数とする。また、$G$ の位数は非負整数 $r$ と $p$ と互いに素な正整数 $q$ を用いて $p^{r}q$ で表されるとする。
(1) まずはSylow $p$ 部分群の存在を示します。ちょうど $p^{r}$ 個の元からなる $G$ の部分集合全体からなる集合族を $\mathcal{S}$ とおき、左移動による左作用 $G\curvearrowright \mathcal{S}$ を考えます。$p\not\mid |\mathcal{S}|$ より$|\mathcal{S}| = \comb{p^{r}q}{p^{r}} = \prod_{k = 0}^{p^{r} - 1}\tfrac{p^{r}q - k}{p^{r} - k}$ であること、各 $0\leq k < p^{r}$ に対して $p^{r}q - k$ と $p^{r} - k$ それぞれの素因数分解における $p$ の指数が一致していることから従います。ある $S\in \mathcal{S}$ に対して $p\not\mid |\Orb_{G}(S)|$ が成立します。この $S$ について $p^{r}\mid |G|/|\Orb_{G}(S)| = |\Stab_{G}(S)|$ です。また、$\Stab_{G}(S)$ は $S$ への自由作用を定めることから $|\Stab_{G}(S)|\mid |S| = p^{r}$ が成立します。以上により $|\Stab_{G}(S)| = p^{r}$ であり、Sylow $p$ 部分群の存在が確かめられました。
主張を示します。$H$ を $p$ 部分群とします。Sylow $p$ 部分群 $P$ を固定し、その共役類を $\mathcal{P}$ とおきます。$|\mathcal{P}| = |G|/|N_{G}(P)|$ と $P\leq N_{G}(P)$ から $p\not\mid |\mathcal{P}|$ です。$H$ の $\mathcal{P}$ への共役作用を考えます。$H$ 軌道の濃度は $|H|$ の約数、つまり $p$ の冪に限られるため、$p\not\mid |\mathcal{P}|$ と合わせて唯一の元からなる $H$ 軌道が存在します。その代表元を $Q$ とおけば $H\leq N_{G}(Q)$ であり、命題3.2.23より
が成立します。後者の同型から $|HQ| = |H/H\cap Q|\times |Q|$ は $p$ の冪であり、$|HQ|\mid |G| = p^{r}q$ と $p\not\mid q$ を合わせて $|HQ|\leq p^{r}$ が分かります。また、$|Q|\mid |HQ|$ より $|HQ|\geq p^{r}$ です。以上により $|HQ| = |Q|$ であり、これは $H\leq Q$ を意味します。つまり、この $Q$ が $H$ を含むSylow $p$ 部分群です。
(2) $H, P$ をSylow $p$ 部分群とします。(1)の議論により $P$ に共役かつ $H$ を含むSylow $p$ 部分群 $Q$ が存在します。その $Q$ について $|Q| = p^{r} = |H|$ であることから $Q = H$ であり、よって、$H, P$ は互いに共役です。
(3) Sylow $p$ 部分群全体からなる部分集合族を $\mathcal{P}$ で表すとします。$H\in \mathcal{P}$ を固定します。(2)より $\mathcal{P}$ は $H$ の共役類です。Sylow $p$ 部分群 $Q\in \mathcal{P}$ が共役作用 $H\curvearrowright \mathcal{P}$ に関して $|\Orb(Q)| = 1$ を満たすならば(1)と同様の議論により $H\leq Q$ であり、$|Q| = |H|$ より $Q = H$ です。つまり、共役作用 $H\curvearrowright \mathcal{P}$ に関する軌道は $H$ が代表するものみ濃度が $1$ であり、その他のSylow $p$ 部分群の代表する軌道の濃度は $2$ 以上の $|H| = p^{r}$ の約数、つまり、$p$ の倍数です。これより $|\mathcal{P}|\equiv 1 \mod p$ が従います。
計算上のテクニックとして次も重要です。
$G$ を有限群、$p$ を素数とする。また、$G$ の位数は非負整数 $r$ と $p$ と互いに素な正整数 $q$ を用いて $p^{r}q$ で表されるとする。$G$ のSylow $p$ 部分群の個数 $n_{p}$ について $n_{p}\mid q$ が成立する。
Sylow $p$ 部分群全体からなる部分集合族 $\mathcal{P}$ への共役作用 $G\curvearrowright \mathcal{P}$ はSylowの定理より推移的です。適当に取ったSylow $p$ 部分群 $P\in \mathcal{P}$ に対して $|\mathcal{P}| = |G|/|N_{G}(P)| = p^{r}q/|N_{G}(P)|$ が成立しますが、$P\leq N_{G}(P)$ より $p^{r}\mid |N_{G}(P)|$ であり、$n_{p} = |\mathcal{P}|$ は $q$ の約数になります。
群作用やSylowの定理の応用としていくつか特定の位数を持つ有限群の同型類を決定してみます。いくつか必要な補題を準備します。
$p$ 群 $G$ の中心 $Z(G)$ は自明群ではない。
共役作用 $G\curvearrowright G\setminus \{e\}$ を考えます。$p\not\mid |G\setminus \{e\}|$ であり、各軌道の濃度が $p$ の冪であることと合わせてこの共役作用が固定点 $p\in G\setminus \{e\}$ を持つことが分かります。この $p$ について $p\in Z(G)$ であり、中心は自明群ではありません。
$p, q$ を素数とする。次が成立する。
任意の群 $G$ において指数 $2$ の部分群は正規部分群である。
$H$ を指数 $2$ の部分群とします。部分集合族として $G/H = \{H, G\setminus H\} = H\backslash G$ なので $H$ は正規です $($命題3.1.52$)$。
では、分類していきます。
$p$ を素数とするとき、位数 $p^{2}$ の群 $G$ は $\Z_{p^{2}}$ もしくは $\Z_{p}^{2}$ に同型です。特に可換です。
もしも位数 $p^{2}$ の元が存在すれば明らかに $G\cong \Z_{p^{2}}$ なので、位数 $p^{2}$ の元が存在しない場合に $G\cong \Z_{p}^{2}$ であることを示します。その場合、単位元以外の元の位数は必ず $p$ であることに注意します。補題3.2.38より中心 $Z(G)$ は非自明であり、その位数 $p$ の巡回部分群 $N$ を取ることができます。明らかに $N\triangleleft G$ です。任意に元 $h\in G\setminus N$ を取ると、それは位数 $p$ の巡回部分群 $H$ を生成し、$N\cap H = \{e\}$ を満たします。よって、$G$ は半直積 $G = N\rtimes H$ に分解します。準同型 $\varphi : Z_{p}\cong H\to \Aut(N)\cong \Z_{p - 1}$ は自明なものに限られるので同型 $G = N\times H\cong \Z_{p}^{2}$ が従います。
$p < q$ を相異なる素数とするとき、次が成立します。
よって、位数 $pq$ の群 $G$ は $p\not\mid q -1$ の場合は必ず直積 $\Z_{p}\times \Z_{q}$ に同型、$p\mid q - 1$ の場合はその可換性によって直積 $\Z_{p}\times \Z_{q}$ もしくは同型の違いを除いて一意な非自明な半直積 $\Z_{q}\rtimes \Z_{p}$ のいずれかに同型です。
(1) Sylow $q$ 部分群の個数 $n_{q}$ はSylowの定理よりある整数 $k\in \Z$ を用いて $n_{q} = qk + 1$ と表されます。系3.2.37より $n_{q}\mid p$ であり、$1\leq n_{q} = qk + 1\leq p < q$ が分かります。よって、$n_{q} = 1$ であり、Sylow $q$ 部分群 $Q$ は唯一かつ正規です。Sylow $p$ 部分群 $P$ を任意に取ります。$p\mid |PQ|$ かつ $q\mid |PQ|$ かつ $p, q$ が互いに素であることから $pq\mid |PQ|$ であり、$G = PQ$ が分かります。また、$|P\cap Q|\mid |P| = p$ かつ $|P\cap Q|\mid |Q| = q$ かつ $p, q$ が互いに素であることから $|P\cap Q|\mid 1$ であり、$P\cap Q = \{e\}$ が分かります。以上により $G$ は半直積 $Q\rtimes P\cong \Z_{q}\rtimes \Z_{p}$ に分解します。
(2) 非自明な準同型 $\varphi : \Z_{p}\to \Aut(\Z_{q})\cong \Z_{q - 1}$ が存在するとすると、$|\Img \varphi| = p$ なので $p = |\Img \varphi|\mid |\Z_{q - 1}| = q - 1$ です。逆に、$p\mid q - 1$ であれば非自明な準同型 $\varphi : \Z_{p}\to \Aut(\Z_{q})\cong \Z_{q - 1} : k\mapsto k\tfrac{q - 1}{p}$ を取ることができます。
(3) 補題3.2.39よりある $\beta\in \Aut(\Z_{p})$ が存在して $\psi = \varphi\circ \beta^{-1}$ が成立します。このことと命題3.1.96から主張の同型が従います。
事実として、位数 $8$ の有限群 $G$ は次のいずれかに同型です。
可換群の場合は有限生成Abel群の分類定理から(i)から(iii)のいずれかに同型になることが容易に確かめられます。あとは次のことを確認すればよいです。
(a) まず、$G$ が位数 $4$ の元を持つことを背理法により示します。もし $G$ が位数 $4$ の元を持たないとすると、各元の位数は $1$ か $2$ になり、よって、任意の $g\in G$ に対して $g^{-1} = g$ が成立します。$G$ の非可換性から $gh\neq hg$ を満たす元 $g, h\in G$ が取れますが、この $g, h$ に対して $(gh)^{2} = ghg^{-1}h^{-1}\neq e$ でありこれは矛盾です。
$\Z_{4}$ に同型な部分群 $N$ を取ります。補題3.2.40より $N\triangleleft G$ です。仮定より $N$ に含まれない位数 $2$ の部分群 $H$ が存在し、これが $N\triangleleft G$, $N\cap H = \{e\}$, $NH = G$ を満たすので $G$ は非自明な半直積 $N\rtimes H$ に分解します。また、$\Aut(\Z_{4})\cong \Z_{2}$ より非自明な半直積 $\Z_{4}\rtimes \Z_{2}$ は一意であり、$G$ が(iv)に同型であることが分かります。
(b) 唯一の位数 $2$ の元を $a$ とおきます。$e, a$ 以外の $6$ つの元は全て位数 $4$ であり、また、それらは互いに逆元になる $3$ つのペアに分けられます。それぞれから片方を選んで $b, c, d$ とおきます。これら $a, b, c, d, e$ の間の関係式として
が容易に示され$b^{2}, c^{2}, d^{2}$ の位数は $2$ なので仮定から $a$ に一致します。また、$bc$ は $e, a, b^{\pm 1}, c^{\pm 1}$ のいずれでもないので $bcd = d^{\pm 1}d\in \{e, a\}$ です。、適当な順番で $b, c, d$ を $i, j, k\in Q_{8}$ に対応させることで同型 $G\cong Q_{8}$ が得られます。
応用上は位相空間への群作用であったり、さらには変換群に位相が入っている状況も多く、その場合の事実を少し整備します。
位相を与えられた群 $G$ であって積 $G\times G\to G : (g, h)\mapsto gh$ および各元にその逆元を対応させる写像 $G\to G : g\mapsto g^{-1}$ がともに連続であるものを位相群と呼ぶ。
以下では位相空間としてコンパクトな位相群をコンパクト位相群、Hausdorffな位相群をHausdorff位相群というように呼ぶことにします。
まず、位相群であることの言い換えとして次があります。
位相を与えられた群 $G$ について次は同値である。
(1) ⇒ (2) $\lambda = \mu\circ (\Id_{G}\times \inv)$.
(2) ⇒ (1) $\inv = \lambda|_{\{e\}\times G}$, $\mu = \lambda\circ (\Id_{G}\times \inv)$.
次は自明ですが重要です。
$G$ を位相群とする。次が成立する。
位相群の剰余群も位相群です。
$G$ を位相群、$H$ をその部分群とする。射影 $\pi :G\to G/H$ は開写像である。ただし、左剰余集合 $G/H$ には商位相を考える。
任意の開集合 $U\subset G$ に対して $\pi^{-1}(\pi(U)) = U\cdot H$ であり、$\pi(U)$ は $G/H$ の開集合です。よって、射影 $\pi$ は開写像です。
$G$ を位相群、$H$ をその正規部分群とする。剰余群 $G/H$ は商位相に関して位相群になる。
写像 $\lambda : G\times G\to G : (g_{1}, g_{2})\mapsto g_{1}g_{2}^{-1}$, $\lambda' : G/H\times G/H\to G/H : ([g_{1}], [g_{2}])\mapsto [g_{1}g_{2}^{-1}]$ と射影 $\pi : G\to G/H$ により次の可換図式を得られます。
$\pi\times \pi$ が開写像であることから、$G/H$ の任意の開集合 $U'$ に対して ${\lambda'}^{-1}(U') = (\pi\times \pi)((\pi\circ \lambda)^{-1}(U'))$ は開集合であり、$\lambda'$ の連続性が従います。よって、剰余群 $G/H$ は位相群になります。
分離公理分離公理については2.3節を参照。ここでは $T_{1} + T_{3}$ によって正則性を定義しています。について、位相群がもし $T_{0}$ ならば完全正則であることが知られています。ここでは正則性までを確認しておきます完全正則性までは[D. Dikranjan, Introduction to Topological Groups]を参照。用語の使い方がここと異なるので注意。。
$G$ を位相群とする。単位元 $e\in G$ の開近傍 $U$ に対して $e$ の開近傍 $V$ であって $V\cdot V\subset U$ を満たすものが存在する。($V\subset U$ も勝手に成立する。)
$\mu^{-1}(U)$ に含まれる $(e, e)\in G\times G$ の開近傍 $W_{1}\times W_{2}$ を取り、$V := W_{1}\cap W_{2}$ と定めれば\[V\cdot V\subset W_{1}\cdot W_{2} = \mu(W_{1}\times W_{2})\subset \mu(\mu^{-1}(U))\subset U\]です。
位相群 $G$ は常に $T_{3}$ 空間である。
点 $g\in G$ と $g$ の属さない閉集合 $A\subset G$ を取り、これらを分離する開集合 $U, V$ を構成します。$g$ の開近傍 $P$ であって $A$ と交わらないものを取ります。単位元 $e\in G$ の開近傍 $P\cdot g^{-1}$ に対して補題3.2.51を用いて $Q\cdot Q\subset P\cdot g^{-1}$ を満たす $e$ の開近傍 $Q$ を取り、$U := Q\cdot g$, $V := Q^{-1}\cdot A$ と定めます。この $U, V$ が $g, A$ それぞれの開近傍であることは自明です。$U\cap V\neq \varnothing$ を背理法より示します。元 $h\in U\cap V$ を取ります。ある $a\in A$, $q_{1}, q_{2}\in Q$ が存在して $h = q_{1}g = q_{2}^{-1}a$ です。$a = q_{2}q_{1}g\in P\cdot g^{-1}\cdot g = P$ であり、これは $P$ の取り方に矛盾します。以上より、$U, V$ が $g, A$ を分離する開集合であることが分かり、$G$ は $T_{3}$ 空間です。
位相群 $G$ は $T_{0}$ 空間ならば正則空間である。
次の順に示します。
(step 1) 相異なる $2$ 点 $g, h\in G$ を取り、このうち $h$ のみが属するような開集合を構成します。$T_{0}$ であることからどちらか一方のみを含む開集合 $U$ が取れます。もし $h\in U$ であればこれがそうであり、$g\in U$ であれば $L_{g}\circ \inv\circ L_{h^{-1}}(U)$ がそうです。
(step 2) $T_{1}$ であることから $1$ 点集合 $\{e\}$ は閉集合です。写像 $\lambda : G\times G\to G : (g, h)\mapsto g^{-1}h$ の連続性から対角線集合 $\Delta_{G} = \lambda^{-1}(e)\subset G\times G$ は閉集合であり、これは $G$ のHausdorff性を意味します $($命題2.3.10$)$。
(step 3) (step 1)と補題3.2.52よりよいです。
次の結果、特に位相群の閉部分群による剰余がHausdorff空間になることは応用上極めて重要です。
$G$ を位相群、$H$ をその部分群とする。次は同値である。
(1) ⇒ (2) 明らかです。
(2) ⇒ (1) $G/H$ が $T_{1}$ 空間であることは明らか。$T_{3}$ 空間であることを示します。$G/H$ の点 $g\cdot H$ とそれを元に持たない閉集合 $B$ を取ります。補題3.2.52の証明のように点 $g\in G$ と閉集合 $A := \pi^{-1}(B)\subset G$ を分離する開近傍 $U := Q\cdot g$, $V := Q^{-1}\cdot A$ を取ります。$A\cdot H = A$ より $V\cdot H = V$ であり、これと $U\cap V = \varnothing$ を合わせて $UH\cap VH = \varnothing$ が分かります。$\pi(U)$, $\pi(V)$ が $g\cdot H$ と $B$ を分離する開集合です。
位相群 $G$ の位相空間 $X$ への作用 $L : G\times X\to X$ であって連続なものを連続作用といいます。位相込みで考えることが明らかな場合は単に作用ということもあります。
連続作用 $L : G\times X\to X$ に関する左移動 $L_{g} : X\to X : x\mapsto g\cdot x$ は常に同相写像である。
一般の位相空間 $X, Y, Z$ に対して写像 $\adj : C(X\times Y, Z)\to C(X, C(Y, Z)) : f\mapsto (x\mapsto f|_{\{x\}\times Y})$ が定まり、$Y$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば全単射であったこと $($命題2.10.30$)$ を思い出せば、連続作用 $L : G\times X\to X$ が与えられるとただちに連続な表現 $\rho := \adj(L) : G\to \Homeo(X)$ が得られ、もしも $X$ が局所コンパクトHausdorff空間ならば連続な表現 $\rho : G\to \Homeo(X)$ から連続作用 $L := \adj^{-1}(\rho) : G\times X\to X$ が定まります。
位相空間への群作用による商空間の性質について少し書いておきます。
$G$ を群、$X$ を位相空間、$L : G\times X\to X$ を作用とする。次は同値である。
商写像 $\pi : X\to X/G$ による商空間 $X/G$ の各点の逆像が作用による軌道であることに注意すれば明らかです。
$G$ を群、$X$ を位相空間、$L : G\times X\to X$ を作用とする。射影 $\pi : X\to X/G$ は開写像である。
補題3.2.49と同じです。任意の開集合 $U\subset X$ に対して $\pi^{-1}(\pi(U)) = G\cdot U$ であり、$\pi(U)$ は $X/G$ の開集合です。
$G$ をコンパクト位相群、$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$L : G\times X\to X$ を連続作用とする。このとき、商空間 $X/G$ は局所コンパクトHausdorff空間である。
まずはHausdorff性を示します。$A, B\subset X$ を相異なる軌道とします。$A, B$ はコンパクト空間 $G$ の連続像なのでコンパクトです。Hausdorff空間における非交叉なコンパクト部分集合は分離可能であり、$A, B$ の開近傍 $U, V$ であって互いに非交叉なものが取れます。$U' := \bigcap_{g\in G}g\cdot U$, $V' := \bigcup_{g\in G}g\cdot V$ とおくとき次が示されます。
このことから $\pi(U'), \pi(V')$ が $A, B\in X/G$ を分離する開集合であることが分かり、$X/G$ のHausdorff性が従います。
(i) 点 $u\in U'$ を取り、これが $U'$ の内点であることを示します。各 $g\in G$ に対し、$u\in g\cdot U$ であることに注意して、$(g^{-1}, u)\in G\times X$ の $L^{-1}(U)$ に含まれる開近傍を $V_{g}\times W_{g}$ の形に取ります。$\{V_{g}\}_{g\in G}$ は $G$ の開被覆であり、有限個の $g_{1}, \dots, g_{n}$ を選んで有限部分被覆 $V_{g_{1}}, \dots, V_{g_{n}}$ が得られます。$W := \bigcap_{1\leq k\leq n}W_{g_{k}}$ は $X$ の開集合であり、全ての $g\in G$ に対して $W\subset g\cdot U$ を満たす各 $g\in G$ ごと $g^{-1}\in V_{g_{k}}$ となる $k$ が存在して $g^{-1}\cdot W\subset V_{g_{k}}\cdot W_{g_{k}}\subset U$ です。ので $W\subset U'$ です。これが $u$ の $U'$ に含まれる開近傍であり、$u$ は $U'$ の内点です。
(ii) (iii) (iv) 容易です。
局所コンパクト性を示します。点 $A\in X/G$ とその開近傍 $W$ を取ります。$a\in A$ のコンパクト閉近傍 $K$ であって $K\subset \pi^{-1}(W)$ を満たすものを取れば $\pi(K)$ が $W$ に含まれる $A\in X/G$ のコンパクト閉近傍です$\pi(K)\subset W$ は自明。近傍であることは射影 $\pi$ が開写像であることから。コンパクト閉であることはコンパクト空間からHausdorff空間への連続像であることから。。よって、$X/G$ は局所コンパクトです。
以上です。
特になし。
参考文献
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