付加構造を持つファイバー束と密接に関係する主束を導入します。
$G$ を位相群とする。
主 $G$ 束の $2$ つの $($$G$ 同変な$)$ 局所自明化 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda}), (U_{\mu}, \varphi_{\mu})$ の間の変換について考えます。この局所自明化から定まる同相写像\[\psi_{\mu\lambda} := (\varphi_{\mu}|_{U_{\lambda\mu}})\circ (\varphi_{\lambda}|_{U_{\lambda\mu}})^{-1} : U_{\lambda\mu}\times G\to U_{\lambda\mu}\times G\]は右 $G$ 同変なので具体的に\[\psi_{\mu\lambda}(x, h) = \psi_{\mu\lambda}(x, e)\cdot h = (x, \pr_{2}(\psi(x, e)))\cdot h = (x, \pr_{2}(\psi(x, e))\cdot h)\]と書けます。これはファイバーごとの変換が左移動で書けることを意味し、$\psi_{\mu\lambda}$ から得られる変換関数 $g_{\mu\lambda}$ の終域は左移動全体からなる自己同相群 $\Homeo(G)$ の部分空間に取ることができますが、これは標準的な方法で $G$ と同相だったので $($補足9.1.17$)$、結局は変換関数の終域を $G$ に取ることができます。また、具体的には $g_{\mu\lambda}(x) = \pr_{2}(\psi(x, e))$ と書くことができます。従って、主 $G$ 束の局所自明化の族からは $G$ 自身を終域とする変換関数の族が得られます。
逆に、連続写像 $g : U\to G$ が右 $G$ 同変な同相写像\[\psi : U\times G\to U\times G : (x, h)\mapsto (x, g(x)\cdot h)\]を与えることから、$G$ を終域とする変換関数の族から主 $G$ 束が構成されることも分かります。
基本的な事実として、局所的な切断と局所自明化は一対一対応します。
$\pi : P\to B$ を主 $G$ 束とし、開集合 $U\subset B$ を固定する。$U$ 上の局所自明化全体からなる集合を $\mathcal{A}$ とおく。各切断 $s\in \Gamma(P|_{U})$ に対して同相写像 $U\times G\mapsto P|_{U} : (x, g)\mapsto s(x)\cdot g$ の逆写像は局所自明化 $\varphi_{s}$ を与え、これから定まる写像 $\Gamma(P|_{U})\to \mathcal{A} : s\mapsto \varphi_{s}$ は全単射である。
非自明なのは局所的な切断 $s$ に対して $\varphi_{s}^{-1}$ が同相写像になることの確認です。そのためには各 $y\in U$ 上のファイバーの開近傍における同相性を確認すればよいです。$y$ の自明化開近傍 $V\subset U$ を取り、その上の局所自明化 $\varphi' : P|_{V}\to V\times G$ を固定し、合成 $\psi := \varphi'\circ (\varphi_{s}^{-1}|_{V\times G})$ を考えます。この $\psi$ の定める変換関数 $g : V\to G$ は自明な切断 $t : V\to V\times G : z\mapsto (z, e_{G})$ を用いて $g = \pr_{2}\circ \psi\circ t$ と表せるため連続であり、$\psi^{-1}$ の定める変換関数はそこに連続写像 $\inv : G\to G : g\mapsto g^{-1}$ を合成したものなので連続です。よって、$\psi$ は同相写像です。$\varphi'$ が同相写像なので $\varphi_{s}^{-1}|_{V\times G}$ も同相写像です。
主束は $($大域的な$)$ 切断を持てば自明である。
主 $G$ 束 $\pi : P\to B$ と連続表現 $\rho : G\to GL(n; \R)$ が与えられると、そこからベクトル束が構成されます。
主 $G$ 束 $\pi : P\to B$ と連続準同型 $\rho : G\to GL(n; R)$ が与えられたとする。また $\R^{n}$ には標準的な左 $GL(n; \R)$ 作用が与えられているとする。このとき、商空間\[P\times_{\rho}\R^{n} := P\times \R^{n}/((p, v)\sim (pg, \rho(g^{-1})v) : g\in G)\]はベクトル束になる。また、元の主 $G$ 束の局所自明化はベクトル束の局所自明化を誘導し、ベクトル束側の変換関数は主 $G$ 束側の変換関数と $\rho$ との合成により与えられる。これを主 $G$ 束 $P$ に同伴するベクトル束 $($associated bundle$)$ という。
局所自明化 $\varphi : P|_{U}\to U\times G$ は同相写像\[(P\times_{\rho}\R^{n})|_{U} = P|_{U}\times_{\rho}\R^{n} \cong (U\times G)\times_{\rho}\R^{n}\]を誘導し、また、連続写像\[\xi : U\times \R^{n}\to U\times G\times \R^{n} : (x, v)\mapsto (x, e_{G}, v),\]\[\eta : U\times G\times \R^{n}\to U\times \R^{n} : (x, g, v)\mapsto (x, \rho(g)v)\]がそれぞれ可逆な連続写像\[(U\times G)\times_{\rho} \R^{n}\leftrightarrows U\times \R^{n}\]を誘導するのでこれらの合成として局所自明化が得られます。よって、$P\times_{\rho} \R^{n}$ はベクトル束です。
$P$ の局所自明化 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda}), (U_{\mu}, \varphi_{\mu})$ の誘導する $P\times_{\rho} \R^{n}$ の局所自明化の定める $(U_{\lambda}\times G)\times_{\rho}\R^{n}$ から $(U_{\mu}\times G)\times_{\rho}\R^{n}$ への変換は\[(U_{\lambda\mu}\times G)\times_{\rho}\R^{n}\to (U_{\lambda\mu}\times G)\times_{\rho}\R^{n} : [x, e_{G}, v]\mapsto [x, g_{\mu\lambda}(x), v] = [x, e_{G}, \rho(g_{\mu\lambda}(x))v]\]により表され、つまり、得られたベクトル束の変換関数は元の変換関数と $\rho$ との合成として得られます。
$G$ を位相群とし、連続準同型 $\rho : G\to GL(n; \R)$ を固定する。
一般の $n$ 次元実線型空間 $V$ に対してその枠 $($順序基底$)$ 全体からなる集合を $\Fr V$ により表すとします。$\Fr V$ には通常 $V^{n} = \overset{n}{\overbrace{V\times\dots \times V}}$ の部分空間としての位相を与えます。$\Fr V$ には連続な右 $GL(n; \R)$ 作用が\[(v_{1}, \dots, v_{n})\cdot [a_{ij}]_{1\leq i, j\leq n} = \left(\sum_{k = 1}^{n}a_{k1}v_{k}, \dots, \sum_{k = 1}^{n}a_{kn}v_{k}\right)\]により定まります。
さて、実ベクトル束 $\pi : E\to B$ に対して各ファイバーごとに枠全体 $\Fr E_{x}$ を考え、それら全てを束ねた $\bigsqcup_{x\in B}\Fr E_{x}$ に適切に位相を与えて局所自明化 $E|_{U}\to U\times \R^{n}$ が全単射 $\bigsqcup_{x\in U}\Fr E_{x}\to U\times \Fr \R^{n}$ を誘導するので、そこから誘導される位相を与えます。主 $GL(n; \R)$ 束が得られますが、これを枠束 $($frame bundle$)$ といい $\Fr E$ や $GL(E; \R)$ により表します。同伴束との同型 $\Fr E\times_{\rho}\R^{n}\cong E$ も明らかであり、よって、実ベクトル束には常に $GL(n; \R)$ 構造が入ります。
さらに、位相空間 $B$ 上の実ベクトル束 $E$ に対してこの枠束を用いた $GL(n; \R)$ 構造を与える対応は同型類レベルの対応\[\Vect_{\R}^{n}(B)\to \Vect_{GL(n; \R)}(B)\]を定め、$GL(n; \R)$ 構造付き実ベクトル束から $GL(n; \R)$ 構造を忘れる対応からはその逆対応\[\Vect_{GL(n; \R)}(B)\to \Vect_{\R}^{n}(B)\]を定め、つまり、これら対応は全単射になります。
位相群 $G, H$ と連続準同型 $\sigma : H\to G$ が与えられているとする。主 $G$ 束 $P$ に対して $H$ 構造、つまり、主 $H$ 束 $Q$ と束同型 $Q\times_{\sigma}G\to P$ の対を与えることを構造群 $G$ の $H$ への縮小 $($reduction$)$ という$H\leq G$ でない場合も縮小というのは微妙な気もしますが、そういうようです。(私はそう教わった、というだけですが…) 。
ベクトル束 $E$ と $G$ 構造 $(P, \xi : P\otimes_{\rho} \R^{n}\to E)$ と構造群 $G$ の $H$ への縮小 $(Q, \eta : Q\times_{\sigma} G\to P)$ が与えられると $E$ の $H$ 構造が主 $H$ 束 $Q$ と束同型\[Q\times_{\rho\circ \sigma}\R^{n}\cong (Q\times_{\sigma} G)\times_{\rho} P\cong P\times_{\rho} \R^{n}\cong E\]の対として定まります。
ファイバーのモデルとする $\R^{n}$ に $S$ 構造と呼ばれる何かしらの付加構造が固定されているとして、実ベクトル束 $\pi : E\to B$ の $S$ 構造は次の状況で定式化できます。
例えば、Riemann計量 $($定義9.2.28$)$ は各ファイバーに内積を与えるもので、局所自明化も標準的な内積を与えた $\R^{n}$ に合うように取れました $($補題9.2.29$)$。
一般に $S$ 構造を持つ実ベクトル束が与えられると後者の条件から終域が $\Aut_{S}(\R^{n})$ である変換関数の族が作られ、そこから主 $\Aut_{S}(\R^{n})$ 束が定まります。逆に、主 $\Aut_{S}(\R^{n})$ 束が与えられるとその同伴束として実ベクトル束が得られますが、もとの主 $\Aut_{S}(\R^{n})$ 束の局所自明化から誘導される同伴束側の局所自明化の間の変換がファイバーごと $S$ 同型なので、同伴束には自然に $S$ 構造が定まることになります。そして、同型類に落として考えればこれら対応は可逆なことが容易に確かめられ、従って、実ベクトル束に対する付加構造はその構造の自己同型群を構造群とする主束によって言い換えられることになります。
例として、構造群が実一般線型群の部分群の場合に対応する付加構造をまとめます。(向きについてはこの後すぐに導入)
構造群 | ファイバーに入る構造 |
$GL(n; \C)$ | 複素構造 |
$O(n)$ | 内積 |
$U(n)$ | 複素構造とHermite内積 |
$GL^{+}(n; \R)$ | 向き |
$SO(n) \ (= O(n)\cap GL^{+}(n; \R))$ | 内積と向き |
$GL(k; \R)\times GL(n - k; \R)$ | 直和分解 |
ベクトル束の向きを導入しますが、その前に前提となる $($有限次元$)$ 実線型空間の向きについてまとめます。ただし、\[GL^{+}(n; \R) := \{A\in GL(n; \R)\mid \det A > 0\}\]と記号を定めておきます。
$V$ を $n$ 次元実線型空間とし、$\Fr V$ で $V$ の枠全体からなる集合を表すとする。
$(V, o_{V})$, $(W, o_{W})$ を向き付けられた $n$ 次元実線型空間とし、線型同型 $f : V\to W$ が与えられているとする。全単射\[f_{*} : O_{V}\to O_{W} : [v_{1}, \dots, v_{n}]\mapsto [f(v_{1}), \dots, f(v_{n})],\]\[f^{*} : O_{W}\to O_{V} : [w_{1}, \dots, w_{n}]\mapsto [f^{-1}(w_{1}), \dots, f^{-1}(w_{n})]\]がwell-definedに定まるが、もし $f_{*}(o_{V}) = o_{W}$ であるとき $f$ は向きを保つといい、$f_{*}(o_{V}) = -o_{W}$ であるとき向きを反転する $($もしくは逆にする$)$ という。
$(V^{n}, o_{V}), (W^{m}, o_{W})$ を向き付けられた実線型空間とする。直和空間 $V\oplus W$ の向き $o_{V}\oplus o_{W}$ を以下のように定める。
そして、向き付けられた実線型空間どうしの直和を\[(V, o_{V})\oplus (W, o_{W}) := (V\oplus W, o_{V}\oplus o_{W})\]と定める。
$V$ を $n$ 次元実線型空間とします。$\R^{+} := \{x\in \R\mid x > 0\}$ と定めるとして、$\left(\bigwedge^{n}V\setminus \{0\}\right)/\R^{+}$ の元を $V$ の向きとして定義することも可能です。定義9.3.12の定義との対応は $n\geq 1$ の場合には写像\[\Fr V\to \bigwedge^{n}V\setminus \{0\} : (v_{1}, \dots, v_{n})\mapsto v_{1}\wedge \dots\wedge v_{n}\]の誘導する全単射 $O_{V}\to \left(\bigwedge^{n}V\setminus \{0\}\right)/\R^{+}$ により、$n = 0$ の場合も $\left(\bigwedge^{n}V\setminus \{0\}\right)/\R^{+} = (\R\setminus \{0\})/\R^{+}\cong \{+1, -1\}$ と同一視して与えられます。向きの直和については外積\[\wedge : \left(\bigwedge^{n}V\setminus \{0\}\right)\times \left(\bigwedge^{m}W\setminus \{0\}\right)\to \left(\bigwedge^{n + m}(V\oplus W)\setminus \{0\}\right)\]による誘導写像\[\left(\bigwedge^{n}V\setminus \{0\}\right)/\R^{+}\times \left(\bigwedge^{m}W\setminus \{0\}\right)/\R^{+}\to \left(\bigwedge^{n + m}(V\oplus W)\setminus \{0\}\right)/\R^{+}\]から定義でき、これは先ほどの同一視のもとで定義9.3.14に定めた直和に一致します。
直和の順番の取り換えについて、向きが保たれないことがあることには少し注意です。
$(V^{n}, o_{V}), (W^{m}, o_{W})$ を向き付けられた実線型空間とする。自然な同型 $T : V\oplus W\to W\oplus V : v\oplus w\mapsto w\oplus v$ は次元の積 $nm$ が偶数なら向きを保ち、奇数ならば向きを反転する。つまり、$T_{*}(o_{V}\oplus o_{W}) = (-1)^{nm}o_{W}\oplus o_{V}$ が成立する。
$o_{V} = [v_{1}, \dots, v_{n}]$, $o_{W} = [w_{1}, \dots, w_{m}]$ と表すとして\begin{eqnarray*}T_{*}(o_{V}\oplus o_{W}) & = & T_{*}([v_{1}\oplus 0, \dots, v_{n}\oplus 0, 0\oplus w_{1}, \dots, 0\oplus w_{1}]) \\& = & [0\oplus v_{1}, \dots, 0\oplus v_{n}, w_{1}\oplus 0, \dots, w_{m}\oplus 0]\end{eqnarray*}ですが、この表示から隣り合う成分どうしの取り換えをちょうど $nm$ 回実行して\[[w_{1}\oplus 0, \dots, w_{m}\oplus 0, 0\oplus v_{1}, \dots, 0\oplus v_{n}]\]という表示が得られ、これは $o_{W}\oplus o_{V}$ に等しいです。隣り合う成分どうしの取り換えが向きが反転することに注意すれば主張が従います。
複素線型空間に標準的に向きが定まることは重要です。
$V$ を $n$ 次元複素線型空間とする。$V$ の複素線型空間としての基底 $v_{1}, \dots, v_{n}$ は実線型空間としての基底 $v_{1}, \sqrt{-1}v_{1}, \dots v_{n}, \sqrt{-1}v_{n}$ を定めるが、この定める向きは複素線型空間としての基底 $v_{1}, \dots, v_{n}$ の取り方によらない。
主張の対応から連続写像 $\Fr_{\C}V\to \Fr_{\R}V$ が誘導されますが、$\Fr_{\C}V$ の連結性からその像は $\Fr_{\R}V$ の片方の連結成分に含まれ、つまり、もとの複素線型空間としての既定の取り方によらずに向きが定まります。
では、ベクトル束の向きを導入します。
向き付け可能性の特徴付けとして次は基本的です。
階数 $n \geq 1$ のベクトル束 $\pi : E\to B$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) $E$ の向きを固定し、定義から存在が保証されている向きを保つ局所自明化たちによる開被覆を取ります。このとき、局所自明化たちの間の変換は各ファイバーごと向きを保つので変換関数は $GL^{+}(n; \R)$ に値を取ります。
(2) ⇒ (1) $E$ の局所自明化による開被覆であって変換関数 $g_{\mu\lambda}$ が常に $GL^{+}(n; \R)$ に値を取るものを取れば、各ファイバーに対してその向きを各局所自明化が向きを保つようにwell-definedに定義できます。
(2) ⇒ (3) $E$ の局所自明化による開被覆であって変換関数 $g_{\mu\lambda}$ が常に $GL^{+}(n; \R)$ に値を取るものを取れば、その変換関数により主 $GL^{+}(n; \R)$ 束 $P$ を構成できます。包含写像 $\rho : GL^{+}(n; \R)\to GL(n; \R)$ を取れば同伴束 $P\times_{\rho}\R^{n}$ はもとの $E$ に束同型であり、$GL^{+}(n; \R)$ 構造を定めます。
(3) ⇒ (2) 命題9.3.6よりそうです。
(1) ⇒ (4) $E$ の向きを固定します。各 $x\in B$ に対し、$E_{x}$ に定めた向きを代表する基底 $e_{1}, \dots, e_{n}$ を $1$ つ取り、$(\mathcal{A}^{n}E)_{x}$ の向きを $e_{1}\wedge\dots\wedge e_{n}$ の代表する向きにより定めます。明らかに基底の取り方によらず向きを定めます。いま、$E$ の向きを保つ局所自明化 $E|_{U}\to U\times \R^{n}$ を取れば、この $n$ 階外積により $\mathcal{A}^{n}E$ の $U$ における局所自明化 $\mathcal{A}^{n}E|_{U}\to \mathcal{A}^{n}\underline{\R}_{U}^{n} \cong U\times \R$ を与えます。これが向きを保つことは $\mathcal{A}^{n}E$ の向きの定義より明らかです。
(4) ⇒ (1) $\mathcal{A}^{n}E$ に向きを固定します。各 $x\in B$ に対して $E_{x}$ の向きを $e_{1}\wedge\dots \wedge e_{n}$ が $(\mathcal{A}^{n}E)|_{x}$ に与えた向きに一致するような基底 $e_{1}, \dots, e_{n}$ の定める向きとして与えます。各 $x\in B$ の周りで向きを保つ局所自明化を構成すればよいです。$E_{x}$ の基底 $s_{1}(x), \dots, s_{n}(x)$ を $E_{x}$ に与えた向きを代表するものに取ります。この基底を $x$ の開近傍 $U$ 上の局所枠 $s_{1}, \dots, s_{n}$ に拡張します。$s := s_{1}\wedge\dots \wedge s_{n}$ は $\mathcal{A}^{n}E$ の局所枠を定め、その連続性と $s(x)$ の定める向きが $(\mathcal{A}^{n}E)|_{x}$ に与えた向きに一致していることから $x$ の十分小さい開近傍 $U'$ の各点 $x'$ で $s(x')$ の定める向きが $(\mathcal{A}^{n}E)_{x'}$ に与えた向きに一致します。これは局所枠 $s_{1}, \dots, s_{n}$ の定める局所自明化が $U'$ 上で向きを保つことを意味します。
また、底空間が位相多様体やCW複体の場合に使える特徴付けとして次も基本的です。
底空間 $B$ がパラコンパクトHausdorff空間である実直線束 $\pi : E\to B$ に対して次は同値である。
よって、底空間についてのこの仮定のもと、階数 $n$ のベクトル束 $E$ に対して $E$ が向き付け可能であることと $n$ 階外積 $\mathcal{A}^{n}E$ が自明であることとは同値である。
(1) ⇒ (2) $E$ の向きを固定します。各 $x\in B$ に対してその開近傍 $U_{x}$ とその上の局所枠 $e_{x}$ であって向きを保つ局所自明化を誘導するものを取ります。さらに、開被覆 $\{U_{x}\}_{x\in B}$ に従属する $1$ に分割 $\{h_{x}\}_{x\in B}$ を取り、$E$ の切断 $s := \sum_{x\in B}h_{x}e_{x}$ を取ります。$s$ は零点を持たず、これが大域的な枠を定めるため $E$ は自明です。
(2) ⇒ (1) 自明ならば向き付け可能であることは自明です。
残りは命題9.3.19から従います。
ベクトル束に定まる向きの数について。
底空間 $B$ が連結な向き付け可能なベクトル束 $E$ には向きがちょうど $2$ つ存在する。
$E$ の $2$ つの向き $\mathfrak{o}_{E} = \{o_{x}\}_{x\in B}$, $\mathfrak{o}'_{E} = \{o'_{x}\}_{x\in B}$ に対して部分集合 $A := \{x\in B\mid o_{x} = o'_{x}\}$ は開かつ閉であり、$B$ の連結性から $A = \varnothing$ または $A = B$ です。よって、$E$ の向きはある $1$ 点における向きのみで決まり、高々 $2$ つしか持ちえません。仮定より $E$ は向きを持ちますが、それとは異なる反対の向きも存在するので向きをちょうど $2$ つ持つことになります。
基本的な事実として複素ベクトル束は向き付け可能です。
複素ベクトル束はファイバーごと命題9.3.17の標準的な向きを与えることで向き付けられる。
自明です。
その他、ついでに次のことも紹介しておきます。
階数 $2$ の実ベクトル束がRiemann計量と向きを持てば複素ベクトル束の構造が入る。特にパラコンパクトHausdorff空間上の階数 $2$ の向き付け可能な実ベクトル束には複素ベクトル束の構造が入る。
仮定より $SO(2)$ 構造を持ち、これは部分群としては $U(1)\leq GL(1; \C)$ に一致します。よって、複素ベクトル束の構造が入ります。
以上です。
特になし。
参考文献
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