可微分多様体に対してその向き付け可能性を定義し、いくつかその同値な条件を整理します。前提とする一般のベクトル束の向きについては予備知識 9.3.2節を参照。また、$\R^{n}$ には標準的な基底 $e_{1}, \dots, e_{n}$ から定まる標準的な向き $[e_{1}, \dots, e_{n}]$ を考えます。
可微分多様体の向きを次で定めます。
可微分多様体 $M$ に対し、その接束 $TM$ が向き付け可能であるとき、$M$ は向き付け可能であるという。向きを固定したとき、向き付けられているという。接束 $TM$ の向きを $M$ の向きともいう。
向き付けられた可微分多様体の座標近傍に対して、それが向きを保つか反転するかということを定義しておきます。
$M$ を向き付けられた可微分多様体とし、座標近傍 $(U, \varphi)$ が与えられているとする。この座標近傍が標準的に定める接束の局所自明化 $TM|_{U}\to U\times \R^{m}$ がファイバーごとに向きを保つとき座標近傍 $(U, \varphi)$ を向きを保つ座標近傍といい、ファイバーごとに向きを反転するとき座標近傍 $(U, \varphi)$ は向きを反転する、もしくは逆にするという$U$ が連結ならば必ず向きを保つか反転するかいずれかに決まります。連結でないときは連結成分ごとに向きを保つか反転するか考えることになります。。
可微分多様体の向き付け可能性について、すぐに分かる同値条件をまとめておきます。
$n\geq 2$ とする。$n$ 次元可微分多様体 $M$ に対して次は同値である。
座標近傍の終域側のモデルとして下半空間 $\Rm^{n} := \{(x_{1}, \dots, x_{n})\mid x_{n}\leq 0\}$ も許容すれば $n = 1$ の場合にも成立する。
(1) ⇔ (2) 可微分多様体の向き付け可能性の定義から。
(2) ⇔ (3) 予備知識 命題9.2.32と予備知識 命題9.2.33により接束と余接束は同型。
(3) ⇔ (4) 予備知識 命題9.3.19と予備知識 命題9.3.20から、余接束が向き付け可能であることとその $n$ 階外積が自明束であることとは同値。
(2) ⇒ (5) 予備知識 命題9.3.19より $TM$ の局所自明化による被覆であって変換関数の各点での値が常に $GL^{+}(n; \R)$ にあるようなものが存在します。必要であれば適切に取り直すことでいずれも連結な座標近傍上の局所自明化としてよいです。ここで取った局所自明化 $TU\to U\times \R^{n}$ が与える $TU$ の向き$\R^{n}$ の標準的な基底が定める向きから誘導される向き。と $($適当に固定した$)$ 座標近傍の定める標準的な局所自明化 $TU\to U\times \R^{n}$ の誘導する $TU$ 上の向きを考えるとき、予備知識 命題9.3.21によりそれは一致するか逆であるかのどちらかです。これらが一致するときはそのまま、逆であるときは局所座標系に対して第 $1$ 成分の反転 $(x_{1}, \dots, x_{n - 1}, x_{n})\mapsto (-x_{1}, \dots, x_{n - 1}, x_{n})$ を合成$n \geq 2$ の場合は第 $1$ 成分の反転は上半空間を上半空間に $($微分同相に$)$ 移し、$n = 1$ の場合は上半空間を下半空間に移します。$n = 1$ の場合の追加の仮定はここの議論のためだけに使用しています。また、閉区間 $[0, 1]$ を考えると、これは向き付け可能ですが、下半空間なしに(5)の条件を満たす座標近傍系は取れないことが示されます。することで一致するもので置き換えれば、それが欲しかった座標近傍系になります。
(5) ⇒ (2) 予備知識 命題9.3.19から。
$n\geq 2$ とし、$M$ を向き付けられた $n$ 次元可微分多様体とする。$M$ の座標近傍系であって各座標近郷がいずれも向きを保つものが存在する。座標近傍の終域側のモデルとして下半空間 $\Rm^{n}$ も許容すれば $n = 1$ の場合にも成立する。
各点の周りで連結な座標近傍を取ります。それぞれ向きを保つか反転するか決まりますが、反転するものについては第 $1$ 成分を反転したもので置き換えれば全て向きを保つ座標近傍になります。
向き付け可能および不可能な多様体の例を挙げます。(証明は省略…一部は時間があるときに埋めたいです)
$M$ を $n$ 次元可微分多様体とします。その $n$ 次微分形式 $\omega\in \Omega^{n}(M)$ であって零点を持たないものを $M$ の体積形式といいます。命題2.3.3によれば $M$ が向き付け可能なことと $M$ に体積形式が存在することとは同値です。
$M$ の連結な座標近傍 $(U, \varphi)$ による体積形式 $\omega$ の局所表示は $0$ を値に取らない $C^{\infty}$ 級関数 $f : U\to \R\setminus \{0\}$ を用いて\[\omega = fdx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n}\]と表されます。ここで標準的な局所自明化 $TM|_{U}\to U\times \R^{n}$ を取り、各 $p\in U$ に対して $T_{p}M$ の向きを $f(p) > 0$ ならば同型 $T_{p}M\cong \R^{n}$ が向きを保つように定め、$f(p) < 0$ ならば向きを反転するように定めます。これによる各点の向きは座標近傍の取り方には依らず決まっており、$M$ の向きを与えます。
可微分多様体 $M$ に体積形式 $\omega$ が与えられたときは通常このようにして定まる向きにより $M$ を向き付けられた可微分多様体と考えます。座標近傍であって $\omega$ の局所表示に用いた $C^{\infty}$ 級関数 $f$ が常に正値を取るものが向きを保つ座標近傍であり、$f$ が常に負値を取るものが向きを反転する座標近傍です。
$M$ を可微分多様体とし、$p\in M$ に対して接空間 $T_{p}M$ の向きからなる $2$ 元集合を $O_{p}$ と書くことにします。$M$ の座標近傍 $(U, \varphi)$ は接束 $TM$ の局所自明化 $TM|_{U}\to U\times \R^{n}$ を自然に定めました。$\R^{n}$ の $2$ つの向きと $\Z^{\times} = \{\pm 1\}$ を標準的な向きが $+1$ に対応するように同一視するとして、ファイバーごとの同型 $T_{p}M\cong \R^{n}$ から全単射\[\psi : \bigsqcup_{p\in U}O_{p}\to U\times \Z^{\times}\]が誘導されます。$\Z^{\times}$ には離散位相を考えるとして、直和集合 $\hat{M} := \bigsqcup_{p\in M}O_{p}$ にはこのような写像 $\psi$ たちを局所自明化とするような $M$ 上の主 $\Z^{\times}$ 束の構造が一意に定まり、向きの二重被覆 $($orientation double cover$)$ と呼ばれます。
実際、$2$ つの座標近傍 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})$, $(U_{\mu}, \varphi_{\mu})$ が与えられたとき、そこから誘導される全単射 $\psi_{\lambda}, \psi_{\mu}$ が $U_{\lambda\mu} := U_{\lambda}\cap U_{\mu}$ 上定める変換関数 $g_{\mu\lambda} : U_{\lambda\mu}\to \Z^{\times}$ は座標変換のJacobi行列式の符号により与えられ、局所定値になっており、コサイクル条件も明らかに満たされるため主 $\Z^{\times}$ 束を定めます。
もちろん、$\hat{M}$ は自然に可微分多様体になります。
さて、向きの二重被覆 $\hat{M}$ から $M$ への射影を $\pi$ で表すとして、各 $\hat{p}\in O_{p}\subset \hat{M}$ について微分写像 $(\pi_{*})_{\hat{p}} : T_{\hat{p}}\hat{M}\to T_{p}M$ は同型なので、この同型を介して $\hat{p}$ 自体を $T_{\hat{p}}\hat{M}$ の向き $o_{\hat{p}}$ として与えることができます。これより接束 $T\hat{M}$ の向きが定まります。
向きの二重被覆 $\hat{M}$ に対し、上記のようにして定まる向きの族 $\{o_{\hat{p}}\}_{\hat{p}\in\hat{M}}$ は $T\hat{M}$ の向きである。
$M$ の座標近傍 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})$ を取ります。写像 $i_{+}, i_{-} : U_{\lambda}\to U_{\lambda}\times \Z^{\times}$ を符号同順で $i_{\pm}(p) := (p, \pm 1)$ と定めます。$(i_{\pm}(U_{\lambda}), \varphi_{\lambda}\circ (i_{\pm})^{-1})$ は $\hat{M}$ の座標近傍であり、その定める局所自明化 $T\hat{M}|_{i_{\pm}(U_{\lambda})}\to i_{\pm}(U_{\lambda})\times \R^{n}$ は添字の符号によってファイバーごとに向きを保つか反転する局所自明化になっています。よって、$\{o_{\hat{p}}\}_{\hat{p}\in\hat{M}}$ は $\hat{M}$ の向きです。
$M$ を可微分多様体とし、$\pi : \hat{M}\to M$ をその向きの二重被覆とする。このとき、次は同値である。
(1) ⇒ (2) 命題2.3.3を用いて、座標近傍系 $\mathcal{U} = \{(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって、その任意の座標変換 $f_{\mu\lambda}$ に対して各点でのJacobi行列式が正値となるものを取ります。このとき、向きの二重被覆の構成における変換関数 $g_{\mu\lambda}$ は常に値 $+1$ を取る定数関数 $\cst_{+1}$ です。よって自明です。
(2) ⇒ (1) 命題2.3.7により $\hat{M}$ は向き付け可能なので、切断を一つ固定すれば $\hat{M}$ の向きから $M$ の向きが誘導されます。
$M$ が連結な場合はさらに次が成立します。
$M$ を連結可微分多様体とし、$\pi : \hat{M}\to M$ をその向きの二重被覆とする。このとき、次は同値である。
(1) ⇔ (2)すでに示しました。
(2) ⇒ (3) $\Z_{2}$ には離散位相を入れていたので不連結です。
(3) ⇒ (2) $\hat{M}$ は不連結とします。まず、$\hat{M}$ の連結成分 $U$ に対して $\pi(U)$ は閉かつ開なので $\pi(U) = M$ です。そこで、$\hat{M}$ の相異なる連結成分 $U_{+}, U_{-}$ を取り、さらに、$($必ずしも連続とは限らない$)$ 切断 $s_{+}, s_{-} : M\to \hat{M}$ であって $\Img s_{\pm}\subset U_{\pm}$ となるものを取ります。いま、$U_{+}\cap U_{-} = \varnothing$ なので、各 $p\in M$ に対して $s_{+}(p)\neq s_{-}(p)$ であり、各ファイバーが $2$ 元集合であることより集合として $\hat{M} = \Img s_{+}\sqcup \Img s_{-}$ となります。また、$\Img s_{\pm} = U_{\pm}$ でもあります。これらの切断が連続であることは各 $p\in M$ に対して $U_{\pm}$ が $s_{\pm}(p)$ の近傍を含むことから分かります。よって、$U_{\pm}$ はそれぞれ $M$ に同相であり、$\hat{M}$ と $U_{+}\sqcup U_{-}$ は同相です。よって、$\pi : \hat{M}\to M$ はファイバー束として自明です。明らかに主 $\Z_{2}$ 束としても自明です
向き付けられた $n$ 次元可微分多様体 $M$ について、その境界 $\partial M$ には次で向きが定まります。
境界 $\partial \Rp^{n}$ の向きを $(-1)^{n}[\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n - 1}}]$ により定める$\R^{n}$ および $\Rp^{n}$ の各点には接ベクトル $\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n}}$ からなる標準的な向き $[\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n}}]$ が定まっていると考えます。ここで定めた境界 $\partial \Rp^{n}$ の向きに対して外向き法ベクトルを最初に加えることでもとの $\R^{n}$ の向きが復元されます。。向き付けられた $n$ 次元可微分多様体 $M$ に対し、$\partial M$ の向きを $M$ の向きを保つ座標近傍が境界に誘導する向き、もしくは、向きを逆にする座標近傍が境界に誘導する向きを反転したものと定める予備知識 命題9.3.21によれば連結な座標近傍を取ればそのように取れます。。$n = 1$ のとき、これより定まる符号部分 $\pm(-1)^{n} = \mp 1$ を形式的に向きとして与える。
$M$ を向き付けられた可微分多様体とする。その境界 $\partial M$ には定義2.3.10による向きが定まり、向き付けられた可微分多様体になる。
まず、各 $p\in\partial M$ に対して $T_{p}\partial M$ の向きがwell-definedに定まっていることを示します。$p\in \partial M$ の周りの $($連結な$)$ 座標近傍 $(U_{\lambda}, x_{1}, \dots, x_{n})$ と $(U_{\mu}, y_{1}, \dots, y_{n})$ を取ります。それぞれが向きを保つかどうかで $4$ 通りありますが、ここでは前者は向きを保ち、後者は向きを反転する場合のみ示します。他は同様に示されます。定義よりそれぞれが境界に誘導する向きは $(-1)^{n}[\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n - 1}}]$, $(-1)^{n + 1}[\partial_{y_{1}}, \dots, \partial_{y_{n - 1}}]$ なので $[\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n - 1}}] = -[\partial_{y_{1}}, \dots, \partial_{y_{n - 1}}]$ を示せばよいです。座標変換 $f_{\mu\lambda}$ の定めるJacobi行列 $\left[\dfrac{\partial y_{i}}{\partial x_{j}}\right]_{1\leq i, j\leq n}$ は境界上では
を満たしているので $\det\left[\dfrac{\partial y_{i}}{\partial x_{j}}\right]_{1\leq i, j\leq n - 1} < 0$ が分かり、これは $[\partial_{x_{1}}, \dots, \partial_{x_{n - 1}}] = -[\partial_{y_{1}}, \dots, \partial_{y_{n - 1}}]$ を意味します。よって、境界 $\partial M$ の各点において向きがwell-definedに定まることが分かりました。
これが $\partial M$ の向きを定めていることは、$M$ の向きを保つもしくは反転する座標近傍が誘導する境界の座標近傍がそのまま $\partial M$ の向きを保つもしくは向きを反転する $($必ずしも同順ではないので注意$)$ 座標近傍であることから分かります。
ここでは向き付けられた可微分多様体上のコンパクト台を持つ微分形式に対してその積分を定義し、関連して重要なStokesの定理を紹介します。まずは多様体上の微分形式に対する積分のモデルとして、Euclid空間 $\R^{n}$ のコンパクト台を持つ $n$ 次微分形式に対する積分を整備します。
Euclid空間 $\R^{n}$ の開集合 $U$ におけるコンパクト台を持つ $n$ 次微分形式 $\omega = fdx_{1}\wedge\dots\wedge dx_{n}\in \Omega^{n}(U)$ に対してその積分 $\int_{U}\omega$ を\[\int_{U}\omega := \int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}fdx_{1}\dots dx_{n}\]により定める。
Euclid空間 $\R^{n}$ の開集合 $U, V$ とコンパクト台を持つ $n$ 次微分形式 $\omega\in\Omega^{n}(V)$、向きを保つ微分同相 $\varphi : U\to V$ が与えられているとする。このとき、\[\int_{U}\varphi^{*}\omega = \int_{V}\omega\]が成立する。また、向きを反転する微分同相 $\varphi : U\to V$ に対しては\[\int_{U}\varphi^{*}\omega = -\int_{V}\omega\]が成立する。
$\varphi$ が向きを保つとします。$U$ の座標を $x_{1}, \dots, x_{n}$ とし、$V$ の座標を $y_{1}, \dots, y_{n}$ とする。$\omega = fdy_{1}\wedge\dots\wedge dy_{n}$ とおくとき\[\varphi^{*}\omega = f\circ\varphi\cdot |\det J_{\varphi}|dx_{1}\wedge\dots\wedge dx_{n}\]です。多重積分の座標変換公式より\[\int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}f\circ\varphi\cdot |\det J_{\varphi}| dx_{1}\dots dx_{n} = \int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}fdy_{1}\dots dy_{n}\]なので\[\int_{U}\varphi^{*}\omega = \int_{V}\omega\]となります。
$\varphi$ が向きを反転する場合、$\varphi$ と $x_{1}$ 成分反転との合成により向きを保つ場合に帰着できまが、この反転において $d(-x_{1}) = -dx_{1}$ より積分値が $-1$ 倍されるので従います。
可微分多様体上の積分を次で定めます。
$n\geq 1$ とし、向き付けられた可微分多様体 $M^{n}$ とcompact台を持つ $n$-form $\omega\in \Omega^{n}(M)$ が与えられているとする。このとき、$M$ 上の微分形式 $\omega$ の積分を、向きを保つか反転するくどいと思うので以降このことは省略します。座標近傍による開被覆 $\{(U_{\lambda},\varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ とそれに従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を $1$ つ固定したうえで\[\int_{M}\omega := \sum_{\lambda}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}\omega)\]とすることで定める。ただし、$\sign\varphi_{\lambda}\in\{\pm 1\}$ は $\varphi_{\lambda}$ が向きを保つとき $+1$、反転するとき $-1$ を取るとする。
$n = 0$ の場合、各点 $p\in M$ に与えられた向き $($符号$)$ を $\sign p$ と書くことにして、コンパクト台を持つ $f\in\Omega^{0}(M) = C(M)$ の積分を\[\int_{M}f := \sum_{p\in M}\sign p\cdot f(p)\]と定める。
微分形式の積分の定義において向きを反転する座標近傍および符号 $\sign$ の考慮を入れたのは $n = 1$ の場合にも座標近傍のモデルとして標準的な向きを与えた $\Rp^{n}$ のみを考える場合のためです。$n\geq 2$ とするか座標近傍の終域側のモデルとして下半空間 $\Rm^{n}$ を許容すれば、系2.3.4より座標近傍として向きを保つものだけを考えればよくなるのでこの部分の考慮は不要になります。(し、普通はそうします。)
この定義は次のように開被覆と $1$ の分割の取り方に依らないことを示すことで正当化されます。
この積分値 $\int_{M}\omega$ は座標近傍による開被覆 $\{(U_{\lambda},\varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ とそれに従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ の取り方によらない。
座標近傍による開被覆 $\{(U_{\lambda},\varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$, $\{(V_{\lambda'}, \psi_{\lambda'})\}_{\lambda'\in\Lambda'}$ とこれらに従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$, $\{k_{\lambda'}\}_{\lambda'\in\Lambda'}$ をそれぞれ取ります。このとき、\begin{eqnarray*}\sum_{\lambda}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}\omega) & = & \sum_{\lambda, \lambda'}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda(U_{\lambda})}}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}k_{\lambda'}\omega) \\& = & \sum_{\lambda, \lambda'}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda}\cap V_{\lambda'})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}k_{\lambda'}\omega) \\& = & \sum_{\lambda, \lambda'}\sign\psi_{\lambda'}\int_{\psi_{\lambda'}(U_{\lambda}\cap V_{\lambda'})}(\psi_{\lambda'}^{-1})^{*}(h_{\lambda}k_{\lambda'}\omega) \\& = & \sum_{\lambda, \lambda'}\sign\psi_{\lambda'}\int_{\psi_{\lambda'}(V_{\lambda'})}(\psi_{\lambda'}^{-1})^{*}(h_{\lambda}k_{\lambda'}\omega) \\& = & \sum_{\lambda'}\sign\psi_{\lambda'}\int_{\psi_{\lambda'}(V_{\lambda'})}(\psi_{\lambda'}^{-1})^{*}(k_{\lambda'}\omega)\end{eqnarray*}です$3$ つ目の等号は命題2.3.13から。。
では、Stokesの定理を説明します。
$M^{n}$ を向き付けられた可微分多様体とし、$i : \partial M\to M$ を包含写像とする。コンパクト台を持つ $n - 1$ 次微分形式 $\omega\in\Omega^{n - 1}(M)$ に対して\[\int_{\partial M}i^{*}\omega = \int_{M}d\omega\]が成立する。
座標近傍による開被覆 $\mathcal{U} = \{(U_{\lambda},\varphi_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ であって各 $\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})$ が $\Rp^{n}$ の開集合であるものを取り、各座標近傍 $(U_{\lambda}, \varphi_{\lambda})$ が誘導する境界 $\partial M$ の座標近傍を $(\partial U_{\lambda}, \partial\varphi_{\lambda})$ と書くことにします。境界での向きの定め方により $\sign\partial\varphi_{\lambda} = \sign\varphi_{\lambda}(-1)^{n}$ が成立していることに注意します。さらに、開被覆 $\mathcal{U}$ に従属する $1$ の分割 $\{h_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ を取ります。$M$ 上の積分については\begin{eqnarray*}\sum_{\lambda}d(h_{\lambda}\omega) & = & \sum_{\lambda}(dh_{\lambda}\wedge \omega + h_{\lambda}d\omega) \\& = & \sum_{\lambda}(dh_{\lambda}\wedge \omega) + \sum_{\lambda}h_{\lambda}d\omega \\& = & \left(\sum_{\lambda}dh_{\lambda}\right)\wedge \omega + \sum_{\lambda}h_{\lambda}d\omega = \sum_{\lambda}h_{\lambda}d\omega\end{eqnarray*}であることから\[\int_{M}d\omega = \sum_{\lambda}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}d(h_{\lambda}\omega)\]であり、$\partial M$ 上の積分については\[\int_{\partial M} i^{*}\omega = \sum_{\lambda}\sign\partial\varphi_{\lambda}\int_{\partial\varphi_{\lambda}(\partial U_{\lambda})}(\partial\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(i^{*}(h_{\lambda}\omega))\]です。よって、各 $\lambda\in\Lambda$ に対して\[\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}d(h_{\lambda}\omega) = \sign\partial\varphi_{\lambda}\int_{\partial\varphi_{\lambda}(\partial U_{\lambda})}(\partial\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(i^{*}(h_{\lambda}\omega))\]を示せば十分です。
$(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}\omega)$ が\[(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}\omega) = \sum_{k = 1}^{n}f_{k}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{k - 1}\wedge dx_{k + 1}\wedge\dots\wedge dx_{n}\]と表されるとします。このとき、\[(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}d(h_{\lambda}\omega) = d(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(h_{\lambda}\omega) = \sum_{k = 1}^{n}(-1)^{k - 1}\dfrac{\partial f_{k}}{\partial x_{k}}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n},\]\[(\partial\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(i^{*}(h_{\lambda}\omega)) = f_{n}|_{\partial\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n - 1}\]です。$1\leq k\leq n - 1$ に対して\[\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}\dfrac{\partial f_{k}}{\partial x_{k}}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n} = \int_{0}^{\infty}\int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}\left(\int_{-\infty}^{\infty}\dfrac{\partial f_{k}}{\partial x_{k}}dx_{k}\right)dx_{1}\dots dx_{n} = 0\]なので、\begin{eqnarray*}\sign\varphi_{\lambda}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}(\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}d(h_{\lambda}\omega) & = & \sign\varphi_{\lambda}\sum_{k = 1}^{n}(-1)^{k - 1}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})} \dfrac{\partial f_{k}}{\partial x_{k}}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n} \\& = & \sign\varphi_{\lambda}(-1)^{n - 1}\int_{\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}\dfrac{\partial f_{n}}{\partial x_{n}}dx_{1}\wedge\dots \wedge dx_{n} \\& = & \sign\varphi_{\lambda}(-1)^{n - 1}\int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}\left(\int_{0}^{\infty}\dfrac{\partial f_{n}}{\partial x_{n}}dx_{n}\right)dx_{1}\dots dx_{n - 1} \\& = & \sign\varphi_{\lambda}(-1)^{n} \int_{-\infty}^{\infty}\dots\int_{-\infty}^{\infty}f_{n}|_{\partial\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}dx_{1}\dots dx_{n - 1} \\& = & \sign\partial\varphi_{\lambda} \int_{\partial\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})} f_{n}|_{\partial\varphi_{\lambda}(U_{\lambda})}dx_{1}\wedge\dots\wedge dx_{n - 1} \\& = & \sign\partial\varphi_{\lambda}\int_{\partial\varphi_{\lambda}(\partial U_{\lambda})}(\partial\varphi_{\lambda}^{-1})^{*}(i^{*}(h_{\lambda}\omega))\end{eqnarray*}です。よって示されました。
以上です。
些末な理由で微分形式の積分の定義に符号入れてしまってよくないなーとは思ってます。
参考文献
更新履歴