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数学ノートについて
2.3 カップ積・キャップ積
2.3.1 Eilenberg-Zilberの定理

位相空間 $X, Y$ について直積空間の特異チェイン複体 $S_{\bullet}(X\times Y; R)$ は $S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R)$ に同型ではないですが、自然にchain homotopy同値となることを確認したいと思います。このことが確かめられれば、Künnethの公式 $($定理1.3.11$)$ から $X\times Y$ の $($PID係数の$)$ 特異homology群が $X, Y$ の特異homology群から計算される $($定理2.3.6$)$ ことになります。

定理2.3.1
(Eilenberg-Zilberの定理)

$X, Y$ を位相空間とする。自然なチェイン写像\[\rho : S_{\bullet}(X\times Y; R)\to S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R),\]\[\kappa : S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R)\to S_{\bullet}(X\times Y; R)\]であって、互いにchain homotopy逆写像でありかつ任意の点 $x\in X$, $y\in Y$ $($特異 $0$ 単体と同一視する$)$ に対して\[\rho((x, y)) = x\otimes y, \ \kappa(x\otimes y) = (x, y)\]を満たすものが存在する。また、このようなチェイン写像 $\rho, \kappa$ は自然なchain homotopyの違いを除いて一意である。$($ここではこれらのチェイン写像をEilenberg-Zilber写像と呼ぶことにする$\rho$ をAlexander-Whitney写像、$\kappa$ をEilenberg-Zilber写像と呼ぶことが多いかもしれません。ここでは[J. F. Davis and P. Kirk, Lecture Notes in Algebraic Topology]の用法にならって両方ともEilenberg-Zilber写像と呼び、Alexander-Whitney写像といったら2.3.2節で考える具体的なチェイン写像のことを指すとします。。$)$

この定理の証明のために非輪状モデル定理 $($定理2.3.3$)$ を明示的に紹介しておきます。また、写像の合成を表す記号 $\circ$ や写像を適用する元を囲う括弧はところどころ省略しています。少し用語を準備します。

定義2.3.2

(1) 圏 $\mathcal{C}$ とその対象からなる集合 $\mathcal{M}$ との対 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ をモデル付き圏という。単に $\mathcal{C}$ とも書くことにする。また、対象 $M\in \mathcal{M}$ をモデル対象という。
(2) モデル付き圏 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ から $R$ 加群の圏 $\Modwc{R}$ への共変関手 $T : \mathcal{C}\to \Modwc{R}$ が与えられているとする。この $T$ に対して共変関手 $\tilde{T} : \mathcal{C}\to \Modwc{R}$ を以下により与える。
(i) 各対象 $C\in \ob_{\mathcal{C}}$ に対し、$\tilde{T}(C)$ は集合\[\bigsqcup_{M\in\mathcal{M}}\{(\varphi, m)\mid \varphi\in \hom_{\mathcal{C}}(M, C), \ m\in T(M)\}\]により生成する自由加群である。
(ii) 各射 $f\in \hom_{\mathcal{C}}(C, D)$ に対し、$\tilde{T}(f)$ は $\tilde{T}(f)(\varphi, m) = (f\circ \varphi, m)$ により与えられる。
自然変換 $\varPhi : \tilde{T}\to T$ を\[\varPhi(C) : \tilde{T}(C)\to T(C) : (\varphi, m) \mapsto T(\varphi)m\]により与える射 $f\in \hom_{\mathcal{C}}(C, D)$ に対して $\varPhi(D)\tilde{T}(f)(\varphi, m) = T(f\circ \varphi)m = T(f)\varPhi(C)(\varphi, m)$ なので確かに自然変換です。。自然変換 $\varPsi : T\to \tilde{T}$ であって $\varPhi\varPsi : T\to T$ が恒等変換となるものが存在するとき、関手 $T$ は表現可能であるといい、$\varPsi$ は $\varPhi$ の表現であるという。
(3) 圏 $\mathcal{C}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K$ は各対象 $C\in \ob_{\mathcal{C}}$ に対して $K(C)$ の $q$ 次部分群 $K(C)_{q}$ を対応させることで圏 $\mathcal{C}$ から $R$ 加群の圏 $\Modwc{R}$ への共変関手の列 $\{K_{q}\}_{q\in \Z}$ へ分解し、境界準同型も同様に自然変換 $\{\partial_{q} : K_{q}\to K_{q - 1}\}_{q\in \Z}$ へと分解する。そこで、圏 $\mathcal{C}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ と自然変換の列 $f = \{f_{q} : K_{q}\to L_{q}\}_{q\in \Z}$ が与えられ、常に $\partial_{q}f_{q} = f_{q - 1}\partial_{q}$ を満たしているとき、この自然変換 $f : K\to L$ を単にチェイン写像と呼ぶことにする単に $\Chwc{R}$ への共変関手の間の自然変換をチェイン写像と呼ぶということをくどく言っているだけです。次数ごとばらして考えたときに通常のチェイン写像と同様の形で表されていることだけ注意。
(4) 圏 $\mathcal{C}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ とチェイン写像 $f, g : K\to L$ が与えられているとする。自然変換の列 $D = \{D_{q} : K_{q}\to L_{q + 1}\}_{q\in \Z}$ であって常に $\partial_{q + 1}D_{q} + D_{q - 1} \partial_{q} = g_{q} - f_{q}$ を満たすものを単にchain homotopyと呼ぶことにする。
定理2.3.3
(非輪状モデル定理Ⅰ)

モデル付き圏 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ とチェイン写像 $f : K\to L$ が次数 $n - 1$ 以下まで与えられているとする。もし、任意の $q \geq n$ に対して $K_{q}$ が表現可能かつ任意の $q\geq n - 1$ とモデル対象 $M\in \mathcal{M}$ に対して $H_{q}(L(M)) = 0$ を満たしているならば、$f$ は全次数で定義されたチェイン写像に拡張する。また、この拡張はchain homotopyの違いを除いて一意である。

証明

[S. Eilenberg and S. MacLane, Acyclic Models]をもとに証明します。

次のことを示せばよいです。

(step 1) モデル付き圏 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ とチェイン写像 $f : K\to L$ が次数 $n - 1$ 以下まで与えられているとする。さらに、$K_{n}$ が表現可能かつ $H_{n - 1}(L(M)) = 0$ が任意のモデル対象 $M\in \mathcal{M}$ に対して成立しているとき、チェイン写像 $f$ は次数 $n$ まで拡張される。
(step 2) モデル付き圏 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ とチェイン写像 $f, g : K\to L$ が与えられているとする。また、$f$ を $g$ に結ぶchain homotopy $D$ が次数 $n - 1$ 以下まで与えられているとする。さらに、$K_{n}$ が表現可能かつ $H_{n}(L(M)) = 0$ が任意のモデル対象 $M\in \mathcal{M}$ に対して成立しているとき、chain homotopy $D$ は次数 $n$ まで拡張される。

(step 1) 仮定より $\partial_{n - 1}f_{n - 1}\partial_{n} = f_{n - 2}\partial_{n - 1}\partial_{n} = 0$ であり、モデル対象 $M\in \mathcal{M}$ と元 $m\in K_{n}(M)$ に対して $f_{n - 1}\partial_{n}m\in L_{n - 1}(M)$ は $L(M)$ の $n - 1$ 次サイクルですが、仮定の $H_{n - 1}(L(M)) = 0$ から $n - 1$ 次バウンダリです。そこで、各 $m\in M$ に対して $\partial_{n}(d(m)) = f_{n - 1}\partial_{n}m$ を満たす $d(m)\in L_{n}(M)$ を選んでおきます。

ここで、自然変換 $\Lambda : \tilde{K}_{n}\to L_{n}$ を各対象 $C\in \ob_{\mathcal{C}}$ に対して準同型\[\Lambda(C) : \tilde{K}_{n}(C)\to L_{n}(C) : (\varphi, m)\mapsto L_{n}(\varphi)d(m)\]を与えることで定めます。実際に自然変換であることは任意の $\psi\in \hom_{\mathcal{C}}(C, D)$ に対して\begin{eqnarray*}L_{n}(\psi)\Lambda(C)(\varphi, m) & = & L_{n}(\psi)L_{n}(\varphi)d(m) = L_{n}(\psi\varphi)d(m) \\& = & \Lambda(D)(\psi\varphi, m) = \Lambda(D)\tilde{K}_{n}(\psi)(\varphi, m)\end{eqnarray*}であるので従います。このとき、\begin{eqnarray*}\partial_{n}\Lambda(C)(\varphi, m) & = & \partial_{n}L_{n}(\varphi)d(m) = L_{n - 1}(\varphi)\partial_{n}(d(m)) \\& = & L_{n - 1}(\varphi)f_{n - 1}\partial_{n}m = f_{n - 1}K_{n - 1}(\varphi)\partial_{n}m = f_{n - 1}\partial_{n}K_{n}(\varphi)m \\& = & f_{n - 1}\partial_{n}\varPhi(C)(\varphi, m),\end{eqnarray*}ただし $\varPhi : \tilde{K}_{n}\to K_{n}$ は表現可能性の定義 $($定義2.3.2$)$ で考えた自然変換、であり、$\partial_{n}\Lambda = f_{n - 1}\partial_{n}\varPhi$ です。

$\varPhi$ の表現 $\varPsi : K_{n}\to \tilde{K}_{n}$ を取り、$f_{n} = \Lambda\varPsi$ により定めます。このとき、\[\partial_{n}f_{n} = \partial_{n}\Lambda\varPsi = f_{n - 1}\partial_{n}\varPhi\varPsi =f_{n - 1}\partial_{n}\]より $f_{n}$ はチェイン写像としての $n$ 次への拡張になっています。

(step 2) 仮定より\begin{eqnarray*}\partial_{n}(g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n}) & = & \partial_{n}g_{n} - \partial_{n}f_{n} - \partial_{n}D_{n - 1}\partial_{n} \\& = & g_{n - 1}\partial_{n} - f_{n - 1}\partial_{n} - (g_{n - 1} - f_{n - 1} - D_{n - 2}\partial_{n - 1})\partial_{n} \\& = & 0\end{eqnarray*}なので、モデル対象 $M\in \mathcal{M}$ と元 $m\in K_{n}(M)$ に対して $(g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})m\in L_{n}(M)$ は $L(M)$ の $n$ 次サイクルですが、仮定の $H_{n}(L(M)) = 0$ から $n$ 次バウンダリです。そこで、各 $m\in M$ に対して $\partial_{n + 1}(e(m)) = (g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})m$ を満たす $e(m)\in L_{n + 1}(M)$ を選んでおきます。

ここで、自然変換 $\Gamma : \tilde{K}_{n}\to L_{n + 1}$ を各対象 $C\in \mathcal{C}$ に対して準同型\[\Gamma(C) : \tilde{K}_{n}(C)\to L_{n + 1}(C) : (\varphi, m)\mapsto L_{n + 1}(\varphi)e(m)\]を与えることで定めます。このとき、\begin{eqnarray*}\partial_{n + 1}\Gamma(C)(\varphi, m) & = & \partial_{n + 1}L_{n + 1}(\varphi)e(m) = L_{n}(\varphi)\partial_{n + 1}(e(m)) \\& = & L_{n}(\varphi)(g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})m \\& = & (g_{n}K_{n}(\varphi) - f_{n}K_{n}(\varphi) - D_{n - 1}K_{n - 1}(\varphi)\partial_{n})m \\& = & (g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})K_{n}(\varphi)m \\& = & (g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})\varPhi(C)(\varphi, m)\end{eqnarray*}であり、$\partial_{n + 1}\Gamma = (g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})\varPhi$ です。

$\varPhi$ の表現 $\varPsi : K_{n}\to \tilde{K}_{n}$ を取り、$D_{n} = \Gamma\varPsi$ により定めます。このとき、\[\partial_{n + 1}D_{n} = \partial_{n + 1}\Gamma\varPsi = (g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n})\varPhi\varPsi = g_{n} - f_{n} - D_{n - 1}\partial_{n}\]より $D_{n}$ はchain homotopyとしての $n$ 次への拡張になっています。

非輪状モデル定理は次の形で述べられることが多いです。

定理2.3.4
(非輪状モデル定理Ⅱ)

モデル付き圏 $(\mathcal{C}, \mathcal{M})$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への共変関手 $K, L$ が与えられ、以下の条件が満たされているとする。

(i) $q < 0$ において $K_{q} = L_{q} = 0$.
(ii) $q \geq 0$ において $K_{q}$ は表現可能である。
(iii) 任意のモデル対象 $M\in \mathcal{M}$ に対して $L(M)$ は非輪状チェイン複体homology群の $0$ 次以外の項が自明なチェイン複体のこと。である。

このとき、任意の自然変換 $h : H_{0}\circ K\to H_{0}\circ L$ に対してチェイン写像 $f : K\to L$ であってhomology群の $0$ 次の誘導準同型が $h$ に一致するものが自然なchain homotopyの違いを除いて一意に存在する。この定理におけるモデル対象は非輪状モデルと呼ばれる。

証明

各チェイン複体 $K(C), L(C)$ を $-1$ 次において\[\dots\to K_{1}(C)\to K_{0}(C)\to H_{0}(K(C))\to 0,\]\[\dots\to L_{1}(C)\to L_{0}(C)\to H_{0}(L(C))\to 0\]と置き換え、準同型 $f_{-1} = h : K_{-1}\to L_{-1}$ に対して定理2.3.3を適用すればよいです。

補足2.3.5
(非輪状モデル定理はhomology代数学の基本定理の拡張)

$K_{n}$ が表現可能、つまり、$\varPhi\varPsi = \Id$ を満たす自然変換 $\varPsi$ が存在するという条件は各対象 $C\in \mathcal{C}$ に対して自然な直和分解\[\tilde{K}_{n}(C)\cong K_{n}(C)\oplus \Ker \varPhi\]を与え、各 $K_{n}(C)$ が射影加群であることを意味します $($命題1.2.2$)$。従って、定理2.3.4の形の非輪状モデル定理においては非輪状モデル $M\in \mathcal{M}$ ごとにhomology代数学の基本定理 $($定理1.2.16$)$ そのものになっています。homology代数学の基本定理におけるチェイン写像の構成は結局のところ射影加群 $K_{n}(M)$ に適当な $R$ 加群を直和して自由 $R$ 加群とすればその普遍性によって上手く準同型 $f_{n}$ を取ることができるというものですが、非輪状モデル定理における仮定はこの手続きを全て自然に実行するためのものと思えます。

では、Eilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ を証明します。

証明

位相空間の対の圏 $\Top^{2}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への関手 $K, L$ を対象については\[K : (X, Y)\mapsto \tilde{S}_{\bullet}(X\times Y),\]\[L : (X, Y)\mapsto \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)}\]と定義し $($ただし、$X, Y$ のいずれかが空の場合は自明なチェイン複体を対応させる$)$、射については明らかな形で定義することで与えます。ただし、$\widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)}$ は $S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)$ に添加写像\[\varepsilon : S_{0}(X)\otimes S_{0}(Y)\to R : x\otimes y\mapsto \varepsilon(x)\cdot \varepsilon(y)\]を与えることで定まる添加チェイン複体とします。また、$\Top^{2}$ はモデル $\mathcal{M}$ を\[\mathcal{M} = \{(\Delta^{k}, \Delta^{l})\mid k, l\in \N\}\]により与えることでモデル付き圏と考えます。

次の順で示します。

(i) $q\geq 0$ に対して $K_{q}$ は表現可能である。
(ii) $q\geq 0$ に対して $L_{q}$ は表現可能である。
(iii) 任意の $q\geq 0$ と $M\in \mathcal{M}$ に対して $H_{q}(K(M)) = 0$ である。
(iv) 任意の $q\geq 0$ と $M\in \mathcal{M}$ に対して $H_{q}(L(M)) = 0$ である。
(v) 定理の主張が成立する。

(i)自然変換 $\varPsi : K_{q}\to \tilde{K}_{q}$ を各対象 $(X, Y)\in \Top^{2}$ に対して準同型 $K_{q}(X, Y) = \tilde{S}_{q}(X\times Y)\to \tilde{K}_{q}(X, Y)$ を\[\sigma\mapsto ((\sigma_{X}, \sigma_{Y}), d),\]ただし $\sigma$ は $X\times Y$ の特異 $q$ 単体、$\sigma_{X} : \Delta^{q}\to X, \sigma_{Y} : \Delta^{q}\to Y$ はその各成分への射影との合成、$d : \Delta^{q}\to \Delta^{q}\times \Delta^{q}$ は対角写像正確に言えば、これを特異 $q$ 単体として $K(\Delta^{q}, \Delta^{q}) = \tilde{S}_{q}(\Delta^{q}, \Delta^{q})$ の元とみなしたものです。、とすることで定めます。実際にこれが自然変換となることは、射 $(f, g) : (X, Y)\to (Z, W)$ と任意の $X\times Y$ の特異 $q$ 単体 $\sigma$ に対して\begin{eqnarray*}\varPsi(Z, W)K_{q}(f, g)\sigma & = & \varPsi(Z, W)((f\times g)\circ \sigma) = ((f\circ \sigma_{X}, g\circ \sigma_{Y}), d) \\& = & \tilde{K}_{q}(f, g)((\sigma_{X}, \sigma_{Y}), d) = \tilde{K}_{q}(f, g)\varPsi(X, Y)\sigma\end{eqnarray*}であることからよいです。また、表現可能性の定義 $($定義2.3.2$)$ と同様に構成される自然変換 $\varPhi : \tilde{K}_{q}\to K_{q}$ に対して\[\varPhi(X, Y)\varPsi(X, Y) : \sigma\mapsto \varPhi(X, Y)((\sigma_{X}, \sigma_{Y}), d) = (\sigma_{X}\times \sigma_{Y})\circ d = \sigma\]が常に成立することより $\varPhi\varPsi$ は恒等変換であり、よって、$K_{q}$ は表現可能です。

(ii)自然変換 $\varPsi : L_{q}\to \tilde{L}_{q}$ を各対象 $(X, Y)\in \Top^{2}$ に対して準同型 $L_{q}(X, Y) = (\widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)})_{q}\to \tilde{L}_{q}(X, Y)$ を\[\sigma^{k}\otimes \tau^{l}\mapsto ((\sigma^{k}, \tau^{l}), \Id_{\Delta^{k}}\otimes \Id_{\Delta^{l}}),\]ただし $k + l = q$ とし、$\sigma$ は $X$ の特異 $k$ 単体、$\tau$ は $Y$ の特異 $l$ 単体、とすることで定めます。実際にこれが自然変換となることは、射 $(f, g) : (X, Y)\to (Z, W)$ と $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma^{k}$、$Y$ の特異 $l = q - k$ 単体 $\tau^{l}$ に対して\begin{eqnarray*}\varPsi(Z, W)L_{q}(f, g)\sigma\otimes \tau & = & \varPsi(Z, W)(f\circ \sigma\otimes g\circ \tau) = ((f\circ \sigma, g\circ \tau), \Id_{\Delta^{k}}\otimes \Id_{\Delta^{l}}) \\& = & \tilde{L}_{q}(f, g)((\sigma, \tau), \Id_{\Delta^{k}}\otimes \Id_{\Delta^{l}}) = \tilde{L}_{q}(f, g)\varPsi(X, Y)\sigma\otimes \tau\end{eqnarray*}であることからよいです。自然変換 $\varPhi : \tilde{L}_{q}\to L_{q}$ に対して $\varPhi\varPsi$ が恒等変換になることは明らかであり、$L_{q}$ は表現可能です。

(iii)$M = (\Delta^{k}, \Delta^{l})\in \mathcal{M}$ に対し、$\Delta^{k}\times \Delta^{l}$ が可縮空間であることから\[H_{\bullet}(K(M)) = \tilde{H}_{\bullet}(\Delta^{k}\times \Delta^{l}) = 0\]です。

(iv)$M = (\Delta^{k}, \Delta^{l})\in \mathcal{M}$ に対し、$\Delta^{k}$ と $\Delta^{l}$ が可縮空間であることから $S_{\bullet}(\Delta^{k})$, $S_{\bullet}(\Delta^{l})$ はそれぞれチェイン複体\[\cdots\to 0\to 0\to \overset{0}{\check{R}}\to 0\to\cdots\]にchain homotopicであり、命題1.3.9より $S_{\bullet}(\Delta^{k})\otimes S_{\bullet}(\Delta^{l})$ もそうです。よって、$L(M) = \widetilde{S_{\bullet}(\Delta^{k})\otimes S_{\bullet}(\Delta^{l})}$ はチェイン複体\[\cdots\to 0\to 0\to \overset{0}{\check{R}}\to R\to 0\to\cdots\]にchain homotopicなので $H_{\bullet}(L(M)) = 0$ です。

(v)$0$ 次における自然変換 $\rho_{0} : K_{0}\to L_{0}$ と $\kappa_{0} : L_{0}\to K_{0}$ を主張の通り、$\tilde{S}_{0}(X\times Y)$ の生成系 $\{(x, y)\mid x\in X, y\in Y\}$ と $(\widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)})_{0}$ の生成系 $\{x\otimes y\mid x\in X, y\in Y\}$ の間の明らか $1$ 対 $1$ 対応を用いて構成すれば、非輪状モデル定理 $($定理2.3.3$)$ からこれらは全次数で定義されたチェイン写像 $\rho : K\to L$, $\kappa : L\to K$ に拡張します。$\kappa_{0}\rho_{0} : K_{0}\to K_{0}$ と $\rho_{0}\kappa_{0} : L_{0}\to L_{0}$ が恒等変換であることから、また非輪状モデル定理より、$\kappa\rho$ は $K$ の恒等チェイン写像にchain homotopicかつ $\rho\kappa$ も $L$ の恒等チェイン写像にchain homotopicとなります。よって、$\rho$ と $\kappa$ は互いにchain homotopy逆写像になっています。また、この拡張 $\rho, \kappa$ がchain homotopyの違いを除いて一意であることも非輪状モデル定理から直ちに分かります。

ここまで添加チェイン複体に対して考えてきましたが、$-1$ 次の項 $($添加写像の部分$)$ を無視すれば特異チェイン複体に対する結果が従っていることに注意。

2.3.2 Alexander-Whitney写像

Eilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ におけるチェイン写像 $\rho : S_{\bullet}(X\times Y)\to S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)$ は次のように明示的に構成することができます。まず、一般の特異 $n$ 単体 $\sigma : \Delta^{n}\to X$ に対して特異 $p$ 単体 $\sigma\rfloor_{p}$ と特異 $q$ 単体 $\sigma\lfloor_{q}$ を\[\sigma\rfloor_{p} : \Delta^{p}\to X : (t_{0}, \dots. t_{p})\mapsto \sigma(t_{0}, \dots. t_{p}, 0, \dots, 0),\]\[\sigma\lfloor_{q} : \Delta^{q}\to X : (t_{0}, \dots. t_{q})\mapsto \sigma(0, \dots, 0, t_{0}, \dots. t_{q})\]として定めておきます。$\varepsilon_{l}^{k}$ によって標準 $k$ 単体のちょうど $l$ 番目の頂点をとばす面写像を表すとすれば、それぞれ $\sigma\rfloor_{p} = \sigma\circ \varepsilon_{n}^{n}\circ \dots\circ \varepsilon_{p + 1}^{p + 1}$, $\sigma\lfloor_{q} = \sigma\circ \varepsilon_{0}^{n}\circ \dots\circ \varepsilon_{0}^{q + 1}$ です。そして、位相空間 $X, Y$ に対してチェイン写像 $\rho : S_{\bullet}(X\times Y)\to S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)$ を各特異 $n$ 単体 $(\sigma, \tau)$ に対して\[\rho((\sigma, \tau)) = \sum_{p + q = n}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{q}\]とすることで定義します。この写像をAlexander-Whitney写像といいます。

これが実際にEilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ におけるチェイン写像を与えていることは

実際にチェイン写像になっていること
$0$ 次において $\rho((x, y)) = x\otimes y$ であること
自然であること

を確認すればよいですが、これは最初以外自明です。ということで、この $\rho$ がチェイン写像となっていることを確認します。

詳細

$\sigma$ を $X\times Y$ の特異 $n$ 単体とします。まず、定義通りに書き下すことで\begin{eqnarray*}\partial\rho(\sigma) & = & \partial \sum_{p = 0}^{n}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p} \\& = & \sum_{p = 0}^{n}(\partial(\sigma\rfloor_{p})\otimes \tau\lfloor_{n - p} + (-1)^{p}\sigma\rfloor_{p}\otimes \partial(\tau\lfloor_{n - p})) \\& = & \sum_{p = 1}^{n}\sum_{i = 0}^{p}(-1)^{i}\sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{i}^{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = 0}^{n - p}(-1)^{p + i}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p}\circ \varepsilon_{i}^{n - p} \\\end{eqnarray*}です。そして、

$\sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{i}^{p} = (\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p - 1} \ (0\leq i\leq p)$
$\sigma\rfloor_{p} = (\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p} \ (p < i\leq n)$
$\tau\lfloor_{n - p} = (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p} \ (0\leq i < p)$
$\tau\lfloor_{n - p}\circ \varepsilon_{i - p}^{n - p} = (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \ (p\leq i\leq n)$

を用いて変形すれば\begin{eqnarray*}& = & \sum_{p = 1}^{n}\sum_{i = 0}^{p - 1}(-1)^{i}(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p - 1}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p} \\&& + \sum_{p = 1}^{n}(-1)^{p}\sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{p}^{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = 1}^{n - p}(-1)^{p + i}(\sigma\circ \varepsilon_{p + i}^{n})\rfloor_{p}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{p + i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}(-1)^{p}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p}\circ \varepsilon_{0}^{n - p} \\\end{eqnarray*}であり、あとは添字の取る範囲をずらして整理することで\begin{eqnarray*}& = & \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = 0}^{p}(-1)^{i}(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = p + 1}^{n}(-1)^{i}(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}(-1)^{p + 1}\sigma\rfloor_{p + 1}\circ \varepsilon_{p + 1}^{p + 1}\otimes \tau\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}(-1)^{p}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p}\circ \varepsilon_{0}^{n - p} \\& = & \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = 0}^{n}(-1)^{i}(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}(-1)^{p + 1}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p - 1} \\&& + \sum_{p = 0}^{n - 1}(-1)^{p}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{n - p - 1} \\& = & \sum_{p = 0}^{n - 1}\sum_{i = 0}^{n}(-1)^{i}(\sigma\circ \varepsilon_{i}^{n})\rfloor_{p}\otimes (\tau\circ \varepsilon_{i}^{n})\lfloor_{n - p - 1} \\& = & \rho\partial(\sigma)\end{eqnarray*}です。

2.3.3 直積空間についてのKünnethの公式

Eilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ の帰結として、Eilenberg-Zilber写像 $\kappa : S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R)\to S_{\bullet}(X\times Y; R)$ はどれも互いにchain homotopy同値であるので、homology群の間に標準的標準的とは、一定の手続きによって何かしらが一意に構成されるという感じの意味。この場合、Eilenberg-Zilber写像 $\kappa$ を任意に固定してその誘導準同型を取る、という手続きによって一意にhomology群の間の同型が定まっており、このことを指して標準的といっています。また、Eilenberg-Zilber写像自体は取り方によるので、この意味では標準的ではないです。かつ自然な同型\[\kappa_{*} = (\rho_{*})^{-1} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y); R)\to H_{\bullet}(X\times Y; R)\]を定めます。これにより、Künnethの公式 $($定理1.3.11$)$ を直積空間に適用できる形で書けるようになります。

定理2.3.6
(特異homology群に関するKünnethの公式)

係数環 $R$ はPIDとする。位相空間 $X, Y$ に対して次の短完全系列が存在し、$($自然ではないが$)$ 分解する。\[0\to \bigoplus_{p + q = n}H_{p}(X; R)\otimes H_{q}(Y; R)\to H_{n}(X\times Y; R)\to\bigoplus_{p + q = n - 1}\Tor_{1}^{R}(H_{p}(X; R), H_{q}(Y; R))\to 0.\]特に、$H_{\bullet}(X; R)$, $H_{\bullet}(Y; R)$ のうち一方が自由加群ならば同型\[H_{\bullet}(X\times Y; R) \cong H_{\bullet}(X; R)\otimes H_{\bullet}(Y; R)\]が成立する。

証明

Künnethの公式 $($定理1.3.11$)$ より短完全系列\[0\to \bigoplus_{p + q = n}H_{p}(X)\otimes H_{q}(Y)\to H_{n}(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y))\to\bigoplus_{p + q = n - 1}\Tor_{1}^{R}(H_{p}(X), H_{q}(Y))\to 0\]が得られるので、あとはEilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ による自然な同型\[H_{n}(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y))\cong H_{n}(X\times Y)\]で真ん中を置き換えれば従います。

定義2.3.7

位相空間 $X$ に対し、その特異homology群 $H_{\bullet}(X; \Z)$ が各次数において有限生成加群であるとき、$X$ を有限型のhomology群を持つ空間と呼ぶ。また、$H_{\bullet}(X; \Z)$ 自体が有限生成加群であるときは有限生成なhomology群を持つ空間と呼ぶ。空間対 $(X, A)$ に対しても同様に定める。

系2.3.8

係数環 $R$ はPIDとする。位相空間 $X_{1}, \dots, X_{n}$ の $R$ 係数特異homology群はいずれも自由加群であるとする。このとき、直積空間 $Y = X_{1}\times \dots\times X_{n}$ の特異homology群も自由である。さらに、$X_{1}, \dots, X_{n}$ がいずれも有限型のhomology群を持つならば $Y$ もそうであり、$H_{q}(Y; R)$ の階数 $\rk(H_{q}(Y; R))$ は形式的冪級数\[\prod_{k = 1}^{n}\left(\sum_{l}\rk(H_{l}(X_{k}; R))t^{l}\right)\]の $q$ 次の係数に等しい。

証明

仮定より\[H_{\bullet}(Y)\cong \bigotimes_{k = 1}^{n}H_{\bullet}(X_{k})\]なので全て明らかです。

ちょっとだけ具体的な多様体に対して計算してみます。

例2.3.9

(a) $S^{3}\times S^{1}$ の特異homology群は\[H_{q}(S^{3}\times S^{1}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0, 1, 3, 4)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]です。
(b) $\RP^{3}\times S^{1}$ の特異homology群は\[H_{q}(\RP^{3}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z_{2} & (q = 1)\\0 & (q = 2)\\\Z & (q = 3)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]より\[H_{q}(\RP^{3}\times S^{1}; \Z)\cong \left\{\begin{array}{ll}\Z & (q = 0)\\\Z\oplus \Z_{2} & (q = 1) \\\Z_{2} & (q = 2) \\\Z & (q = 3)\\\Z & (q = 4)\\0 & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]です。
(c) $n$ 次元トーラス $T^{n}$ の $q$ 次特異homology群の階数は多項式 $(t + 1)^{n}$ の $q$ 次の係数に等しいので二項定理より\[H_{q}(T^{n}; \Z)\cong \Z^{\comb{n}{q}}\]です。
2.3.4 クロス積・カップ積・キャップ積

Eilenberg-Zilber写像を用いることで位相空間のhomology群、cohomology群についての積演算がいくつか導入されます。特にカップ積、キャップ積は双対定理や交叉理論において基本的な役割を担う重要な演算です。

クロス積

まずはクロス積から。

定義2.3.10
(クロス積)

(1) チェイン写像のテンソル積により定まっていたクロス積 $($命題1.3.10$)$\[\times_{\mathrm{alg}} : H_{\bullet}(X; R)\otimes H_{\bullet}(Y; R)\to H_{\bullet}(S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R); R)\]とEilenberg-Zilber写像による標準的な同型\[\kappa_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R); R)\to H_{\bullet}(X\times Y; R)\]との合成\[\times_{\mathrm{top}} = \kappa_{*}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H_{\bullet}(X; R)\otimes H_{\bullet}(Y; R)\to H_{\bullet}(X\times Y; R)\]もクロス積という。単に $\times$ と書く。
(2) cohomology群についても同様に、クロス積\[\times_{\mathrm{alg}} : H^{\bullet}(X; R)\otimes H^{\bullet}(Y; R)\to H^{\bullet}(S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R); R)\]とEilenberg-Zilber写像による標準的な同型\[\rho^{*} : H^{\bullet}(S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R); R)\to H^{\bullet}(X\times Y; R)\]との合成\[\times_{\mathrm{top}} = \rho^{*}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H^{\bullet}(X; R)\otimes H^{\bullet}(Y; R)\to H^{\bullet}(X\times Y; R)\]もクロス積という。単に $\times$ と書く。
補足2.3.11

Künnethの公式 $($定理2.3.6$)$ の前半部分\[H_{\bullet}(X; R)\otimes H_{\bullet}(Y; R)\to H_{\bullet}(X\times Y; R)\]はクロス積に一致しています。$($代数的なKünnethの公式についてそうでした。補足1.3.12参照。$)$

クロス積は空間対の積に対しても定義できる $($ただし、cohomology群については少し注意が必要$)$ ことを見ます。空間対 $(X, A), (Y, B)$ に対してその積を\[(X, A)\times (Y, B) = (X\times Y, X\times B\cup A\times Y)\]により定めるとします。$($この空間対の積についての結合則は明らかでしょう。$)$

補題2.3.12

(1) 空間対 $(X, A), (Y, B)$ に対してEilenberg-Zilber写像 $\kappa : S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R)\to S_{\bullet}(X\times Y; R)$ はチェイン写像\[\kappa : S_{\bullet}(X, A; R)\otimes S_{\bullet}(Y, B; R)\to S_{\bullet}((X, A)\times (Y, B); R)\]を誘導する。対 $\{X\times B, A\times Y\}$ が切除的ならば、これはhomology群の間の同型\[\kappa_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(X, A; R)\otimes S_{\bullet}(Y, B; R))\to H_{\bullet}((X, A)\times (Y, B); R)\]を誘導する。
(2) 空間対 $(X, A), (Y, B)$ に対して対 $\{X\times B, A\times Y\}$ が切除的ならば、Eilenberg-Zilber写像はcohomology群の間の自然な同型\[\kappa^{*} : H^{\bullet}((X, A)\times (Y, B); R)\to H^{\bullet}(S_{\bullet}(X, A; R)\otimes S_{\bullet}(Y, B; R); R)\]を誘導する。
証明

(1) チェイン写像を誘導することは\[S_{\bullet}(X, A)\otimes S_{\bullet}(Y, B)\cong S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)/(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y))\]と\[\kappa(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y))\subset S_{\bullet}(X\times B\cup A\times Y)\]から分かります。

対 $\{X\times B, A\times Y\}$ が切除対の場合にhomology群の間の同型を誘導することを示します。まず、Eilenberg-Zilber写像 $($自然な写像であることに注意$)$ の制限として\[\rho : S_{\bullet}(X\times B) + S_{\bullet}(A\times Y)\to S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y),\]\[\kappa : S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y)\to S_{\bullet}(X\times B) + S_{\bullet}(A\times Y)\]がhomotopy同値写像であることが分かるので、このことと仮定の切除対から同型\[H_{\bullet}(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y))\cong H_{\bullet}(X\times B\cup A\times Y)\]が成立します。チェイン複体の短完全系列の間の射

から得られるhomology完全系列の間の射に対して5項補題を用いれば主張の同型が分かります。

(2) homology群の場合と同様に同型\[H^{\bullet}(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(B) + S_{\bullet}(A)\otimes S_{\bullet}(Y))\cong H^{\bullet}(X\times B\cup A\times Y)\]が得られるので、今度はcohomology完全系列の間の射に対して5項補題を用いれば主張の同型が分かります。

ということで、チェイン複体のテンソル積に関するクロス積\[\times_{\mathrm{alg}} : H_{\bullet}(X, A; R)\otimes H_{\bullet}(Y, B; R)\to H_{\bullet}(S_{\bullet}(X, A)\otimes S_{\bullet}(Y, B); R),\]\[\times_{\mathrm{alg}} : H^{\bullet}(X, A; R)\otimes H^{\bullet}(Y, B; R)\to H^{\bullet}(S_{\bullet}(X, A)\otimes S_{\bullet}(Y, B); R)\]との合成により空間対に関するクロス積\[\times_{\mathrm{top}} = \kappa_{*}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H_{\bullet}(X, A; R)\otimes H_{\bullet}(Y, B; R)\to H_{\bullet}((X, A)\times(Y, B); R),\]\[\times_{\mathrm{top}} = (\kappa^{*})^{-1}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H^{\bullet}(X, A; R)\otimes H^{\bullet}(Y, B; R)\to H^{\bullet}((X, A)\times(Y, B); R)\]が定義されます。ただし、cohomology群の場合には $\kappa^{*}$ は誘導されるものの、さらにこれが同型であること $($$(\kappa^{*})^{-1}$ が存在すること$)$ が必要なため、クロス積の構成に対 $\{X\times B, A\times Y\}$ が切除対であるという仮定を使っていることには注意。$($$A, B$ の一方でも空ならクロス積は定義されます$)$

クロス積の基本的な性質として次があります。homology群でもcohomology群についても同様 $($クロス積が定義されているかの確認はいる$)$ なのでhomology群についてのみ述べます。

命題2.3.13

$(X, A), (Y, B), (Z, C)$ を空間対とする。

(1) 任意の $[a]\in H_{p}(X, A; R)$, $[b]\in H_{q}(Y, B; R)$, $[c]\in H_{r}(Z, C; R)$ に対して\[([a]\times [b])\times [c] = [a]\times ([b]\times [c])\in H_{p + q + r}((X, A)\times (Y, B)\times (Z, C); R)\]が成立する。
(2) 同相写像 $T : X\times Y\to Y\times X : (x, y)\mapsto (y, x)$ を考えるとき、任意の $[a]\in H_{p}(X, A; R)$, $[b]\in H_{q}(Y, B; R)$ に対して\[T_{*}([a]\times [b]) = (-1)^{pq}[b]\times [a]\in H_{p + q}((Y, B)\times (X, A); R)\]が成立する。
証明

簡単のために $A = B = C = \varnothing$ として示します。

(1) 位相空間の $3$ 組の圏 $\Top^{3}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への関手 $K, L$ を\[K : (X, Y, Z)\mapsto \tilde{S}_{\bullet}(X\times Y\times Z),\]\[L : (X, Y, Z)\mapsto \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z)}\]により定め $($ただし、$X, Y, Z$ のいずれかが空の場合は自明なチェイン複体を対応させる$)$、チェイン写像 $($自然変換$)$ $\mu, \nu : L\to K$ を\[\mu = \kappa\circ(\kappa\otimes \Id): \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z)}\xrightarrow{\kappa\otimes \Id} \widetilde{S_{\bullet}(X\times Y)\otimes S_{\bullet}(Z)}\xrightarrow{\kappa} \tilde{S}_{\bullet}(X\times Y\times Z),\]\[\nu = \kappa\circ(\Id\otimes \kappa): \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z)}\xrightarrow{\Id\otimes \kappa} \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y\times Z)}\xrightarrow{\kappa} \tilde{S}_{\bullet}(X\times Y\times Z)\]により定めます。これがchain homotopicであることを非輪状モデル定理 $($定理2.3.3$)$ から示します。

$\Top^{3}$ にはモデル $\mathcal{M}$ を\[\mathcal{M} = \{(\Delta^{k}, \Delta^{l}, \Delta^{m})\mid k,l,m\in \N\}\]により与えることでモデル付き圏 $(\Top^{3}, \mathcal{M})$ とします。このとき、関手 $L$ が各次数で表現可能であることがEilenberg-Zilberの定理の証明における表現可能性の証明と同様に示され、また、任意のモデル対象 $M\in \mathcal{M}$ に対して $H_{q}(K(M)) = 0$ であることも標準単体の可縮性から明らかです。$\mu_{0} = \nu_{0}$ に注意すれば非輪状モデル定理 $($定理2.3.3$)$ により $\mu$ と $\nu$ はchain homotopicです。よって、\[\mu_{*} = \nu_{*} : H(S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z))\to H_{\bullet}(X\times Y\times Z)\]です。

図式

を考えます。左上の可換性は $($代数的な$)$ クロス積の定義から明らか、右下の可換性はさっき示したことです。残りの右上と左下は $($代数的な$)$ クロス積の自然性から可換です。よって、これは可換図式になっているので位相空間に対するクロス積の結合則が示されました。

(2) $\Top^{2}$ から $\Chwc{R}$ への関手 $K, L$ を\[K : (X, Y)\mapsto \tilde{S}_{\bullet}(Y\times X),\]\[L : (X, Y)\mapsto \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)}\]として定めます。自然なチェイン写像\[\Theta : S_{p}(X)\otimes S_{q}(Y)\to S_{q}(Y)\otimes S_{p}(X) : a\otimes b\mapsto (-1)^{pq}b\otimes a\]を用いてチェイン写像 $($自然変換$)$ $\mu, \nu : L\to K$ を\[\mu = \kappa\circ \Theta : \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)}\xrightarrow{\Theta} \widetilde{S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(X)}\xrightarrow{\kappa} \tilde{S}_{\bullet}(Y\times X)\]\[\nu = T_{\sharp}\circ \kappa : \widetilde{S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)}\xrightarrow{\kappa} \tilde{S}_{\bullet}(X\times Y)\xrightarrow{T_{\sharp}} \tilde{S}_{\bullet}(Y\times X)\]により定めます。$0$ 次において\[\mu(x\otimes y) = (y, x) = \nu(x\otimes y)\]が成立しているので、非輪状モデル定理 $($定理2.3.3$)$ よりこの $\mu$ と $\nu$ はchain homotopicであり、以下の図式は可換です。

よって、$[a]\in H_{p}(X)$, $[b]\in H_{q}(Y)$ に対して\[T_{*}([a]\times [b]) = T_{*}(\kappa_{*}[a\otimes b]) = \kappa_{*}(\Theta_{*}([a\otimes b])) = \kappa_{*}((-1)^{pq}[b\otimes a]) = (-1)^{pq}[b]\times [a]\]です。

カップ積

続いて、カップ積を定義します。

定義2.3.14

$X$ を位相空間、$A, B\subset X$ を部分集合、$\{X\times B, A\times X\}$ は切除対であるとする。cohomology群のクロス積\[\times : H^{\bullet}(X, A; R)\otimes H^{\bullet}(X, B; R)\to H^{\bullet}((X, A)\times (X, B); R)\]の対角写像\[\Delta : (X, A\cup B)\to (X, A)\times (X, B)\]による引き戻し\[\smallsmile : H^{\bullet}(X, A; R)\otimes H^{\bullet}(X, B; R)\to H^{\bullet}(X, A\cup B; R) : ([a], [b])\mapsto \Delta^{*}([a]\times [b])\]をカップ積 $($cup product$)$ という。

クロス積の自然性からカップ積も明らかに自然であり、つまり、連続写像 $f : X\to Y$ と任意の $[u], [v]\in H^{\bullet}(Y; R)$ に対して $f^{*}([u]\smallsmile [v]) = f^{*}([u])\smallsmile f^{*}([v])$ となっています。さらに、カップ積は次の性質を持ちます。これにより位相空間 $X$ の特異cohomology群 $H_{\bullet}(X; R)$ に次数付き環構造が定まることは重要です。

命題2.3.15

$X$ を位相空間、$A, B, C$ を $X$ は部分空間とし、以下ではいずれの状況でもカップ積は定義されていることを仮定する。

(1) 任意の $[u]\in H^{p}(X, A; R)$, $[v]\in H^{p}(X, B; R)$, $[w]\in H^{r}(X, C; R)$ に対して\[([u]\smallsmile [v])\smallsmile [w] = [u]\smallsmile ([v]\smallsmile [w])\in H^{p + q + r}(X, A\cup B\cup C; R)\]が成立する。
(2) 任意の $[u]\in H^{p}(X, A; R)$, $[v]\in H^{p}(X, B; R)$ に対して\[[v]\smallsmile [u] = (-1)^{pq}[u]\smallsmile [v]\in H^{p + q}(X, A\cup B; R)\]が成立する。
(3) ある元 $1_{X}\in H^{0}(X; R)$ が存在し、任意の $[u]\in H^{p}(X, A; R)$ に対して\[1_{X}\smallsmile [u] = [u]\smallsmile 1_{X} = [u]\in H^{p}(X, A; R)\]を満たす。また、このような元 $1_{X}$ は自然、つまり、任意の連続写像 $f : X\to Y$ に対して $f^{*}(1_{Y}) = 1_{X}$ を満たす。
証明

(1) $(\Delta\times \Id_{X})\circ \Delta = (\Id_{X}\times \Delta)\circ \Delta : X\to X^{3} : x\mapsto (x, x, x)$ に注意すれば、\begin{eqnarray*}([u]\smallsmile [v])\smallsmile [w] & = & \Delta^{*}([u]\times [v])\smallsmile [w] \\& = & \Delta^{*}(\Delta^{*}([u]\times [v])\times [w]) \\& = & \Delta^{*}(\Delta\times \Id_{X})^{*}([u]\times [v]\times [w]) \\& = & \Delta^{*}(\Id_{X}\times \Delta)^{*}([u]\times [v]\times [w]) \\& = & \Delta^{*}([u]\times \Delta^{*}([v]\times [w])) \\& = & [u]\smallsmile \Delta^{*}([v]\times [w]) \\& = & [u]\smallsmile ([v]\smallsmile [w])\end{eqnarray*}です。

(2) $[v]\smallsmile [u] = \Delta^{*}([v]\times [u]) = (-1)^{pq}\Delta^{*}([u]\times [v]) = (-1)^{pq}[u]\smallsmile [v]$ です。

(3) $X = \varnothing$ のときは自明。$X\neq \varnothing$ のとき、添加写像 $\varepsilon : S_{0}(X)\to R$ はコサイクルであり、cohomology群の元 $[\varepsilon]\in H^{0}(X; R)$ を定めます。これが主張の元であることを示します。

$\rho$ をAlexander-Whitney写像とします。$[\varepsilon]\smallsmile [u]$ は $\Delta^{\sharp}\rho^{\sharp}(\varepsilon\otimes u)\in S^{\bullet}(X, A)$ の代表する元ですが、任意の特異 $p$ 単体 $\sigma$ に対して\[(\Delta^{\sharp}\rho^{\sharp}(\varepsilon\otimes u))(\sigma) = (\varepsilon\otimes u)(\rho\Delta_{\sharp}\sigma) = (\varepsilon\otimes u)\left(\sum_{i = 0}^{p} \sigma\rfloor_{i}\otimes \sigma\lfloor_{p - i}\right) = u(\sigma)\]なので $\Delta^{\sharp}\rho^{\sharp}(\varepsilon\otimes u) = u$ であり $[\varepsilon]\smallsmile [u] = [u]$ です。$[u]\smallsmile [\varepsilon] = [u]$ も同様。よって、$[\varepsilon]$ が主張の $1_{X}$ です。自然性は添加写像 $\varepsilon$ の自然性から明らかです。

キャップ積

$\Delta : X\to X\times X$ を対角写像、$\rho : S_{\bullet}(X\times X; R)\to S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(X; R)$ をAlexander-Whitney写像とします。特異チェイン複体に対するキャップ積とは、チェイン写像 $\rho\circ \Delta_{\sharp} : S_{\bullet}(X; R)\to S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(X; R)$ による縮約\[S^{q}(X; R)\otimes S_{p}(X; R)\otimes S_{q}(X; R)\to S_{p}(X; R) : u\otimes c\otimes c'\mapsto u(c')\cdot c\]の引き戻しから定まる双線型写像\[\smallfrown : S^{q}(X; R)\times S_{p + q}(X; R)\to S_{p}(X; R) : (u, \sigma)\mapsto u\smallfrown \sigma = u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\]のことで、この表示の通り、各特異 $p + q$ 単体 $\sigma$ をその後ろ側からコチェイン $u\in S^{q}(X; R)$ によって評価するものです。

命題2.3.16

$p\geq 1$ のとき$p = 0$ のとき右辺が未定義のため。$($もちろん左辺は $0$ です。$)$ まあ、形式的に零写像として定義してもいいかもしれないけど、ここでは明示的に場合分けで対応します。、任意の $u\in S^{q}(X; R)$, $c\in S_{p + q}(X; R)$ に対して\[\partial(u\smallfrown c) = (-1)^{p}\delta u\smallfrown c + u\smallfrown \partial c\]が成立する。よって、特異チェイン複体に対するキャップ積はペアリング\[\smallfrown : H^{q}(X; R)\times H_{p + q}(X; R)\to H_{p}(X; R) : ([u], [c])\mapsto [u\smallfrown c]\]を誘導する。これは $p = 0$ でも定義される。これもキャップ積という。

証明

等式は $c$ が特異 $p + q$ 単体 $\sigma$ の場合に示せば十分です。各項を計算すると、\begin{eqnarray*}\partial(u\smallfrown \sigma) & = & u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \partial\sigma\rfloor_{p} = \sum_{i = 0}^{p}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{i}^{p} \\\delta u\smallfrown \sigma & = & \delta u(\sigma\lfloor_{q + 1})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1} = u(\partial \sigma\lfloor_{q + 1})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1} \\& = & \sum_{i = 0}^{q + 1}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q + 1}\circ \varepsilon_{i}^{q + 1})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1} \\& = & u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{p}^{p} + \sum_{i = 1}^{q + 1}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q + 1}\circ \varepsilon_{i}^{q + 1})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1} \\u\smallfrown \partial \sigma & = & u\smallfrown \left(\sum_{i = 0}^{p + q}(-1)^{i}\sigma\circ\varepsilon_{i}^{p + q}\right) = \sum_{i = 0}^{p + q}(-1)^{i}u((\sigma\circ \varepsilon_{i}^{p + q})\lfloor_{q})\cdot (\sigma\circ \varepsilon_{i}^{p + q})\rfloor_{p - 1} \\& = & \sum_{i = 0}^{p - 1}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q})\cdot (\sigma\circ \varepsilon_{i}^{p + q})\rfloor_{p - 1} + \sum_{i = p}^{p + q}(-1)^{i}u((\sigma\circ \varepsilon_{i}^{p + q})\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1} \\& = & \sum_{i = 0}^{p - 1}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{i}^{p} + \sum_{i = 1}^{q + 1}(-1)^{i + p - 1}u(\sigma\lfloor_{q + 1}\circ \varepsilon_{i}^{q + 1})\cdot \sigma\rfloor_{p - 1}\end{eqnarray*}なので\[(-1)^{p}\delta u\smallfrown \sigma + u\smallfrown \partial \sigma = (-1)^{p}u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{p}^{p} + \sum_{i = 0}^{p - 1}(-1)^{i}u(\sigma\lfloor_{q})\cdot \sigma\rfloor_{p}\circ \varepsilon_{i}^{p} = \partial (u\smallfrown \sigma)\]です。

任意の $[u]\in H^{q}(X)$, $[c]\in H_{p + q}(X)$ に対して $\partial(u\smallfrown c) = 0$ であり、また、別の代表元 $u', c'$ を取るとき $\delta v = u - u'$, $\partial b = c - c'$ となる $v, b$ を取れば\[\partial((-1)^{p - 1}v\smallfrown c + u'\smallfrown b) = \delta v\smallfrown c + u'\smallfrown \partial b = u \smallfrown c - u'\smallfrown c'\]なので、cohomology群とhomology群の間のキャップ積が $[u]\smallfrown [c] = [u\smallfrown c]$ によりwell-definedに定義されます。$p = 0$ の場合は直接計算によります結論としては連結成分ごとのKronecker積に一致します。

キャップ積も空間対で考えることができ、$X$ を位相空間、$\{A, B\}$ を $X$ における切除対とすると\[\smallfrown : H^{q}(X, A; R)\times H_{p + q}(X, A\cup B; R)\to H_{p}(X, B; R)\]が定義できます。というのは、まず、チェインレベルで $u\in S^{q}(X, A; R)$, $c \in S_{p + q}(A; R) + S_{p + q}(B; R)$ に対して\[c = \sum_{\sigma\in C(\Delta^{p + q}, A)}a_{\sigma}\sigma + \sum_{\tau\in C(\Delta^{p + q}, B)}b_{\tau}\tau\]とおけば\[u\smallfrown c = 0 + \sum_{\tau}b_{\tau}u(\tau\lfloor_{q})\tau\rfloor_{p}\in S_{p}(B; R)\]なので、キャップ積は\[S^{q}(X, A; R)\times S_{p + q}(X; R)/(S_{p + q}(A; R) + S_{p + q}(B; R))\to S_{p}(X, B; R)\]を誘導します。よって、命題2.3.16をこの場合に繰り返すことでhomology群について\[H^{q}(X, A; R)\times H_{p + q}(S_{\bullet}(X; R)/(S_{\bullet}(A; R) + S_{\bullet}(B; R)); R)\to H_{p}(X, B; R)\]が定まり、あとは $\{A, B\}$ が切除対という仮定から定まる自然な同型\[H_{p + q}(S_{\bullet}(X; R)/(S_{\bullet}(A; R) + S_{\bullet}(B; R)); R)\cong H_{p + q}(X, A\cup B; R)\]により置き換えれば上記の空間対にたいするキャップ積が得られます。

キャップ積について次が成立します。

命題2.3.17

$X$ を位相空間、$A, B, C$ を $X$ は部分空間とし、以下ではいずれの状況でもカップ積・キャップ積は定義されていることを仮定する。

(1) 任意の $[u]\in H^{q}(X, A; R)$, $[v]\in H^{r}(X, B; R)$, $[c]\in H_{p + q + r}(X, A\cup B\cup C; R)$ に対して\[([u]\smallsmile [v])\smallfrown [c] = [u]\smallfrown ([v]\smallfrown [c])\in H_{p}(X, C; R)\]が成立する。
(2) $\langle\cdot, \cdot\rangle$ をKronecker積とするとき、任意の $[u]\in H^{p}(X, A; R)$, $[v]\in H^{q}(X, B; R)$, $[c]\in H_{p + q}(X, A\cup B; R)$ に対して\[\langle [u]\smallsmile [v], [c]\rangle = \langle [u], [v]\smallfrown [c]\rangle\in R\]が成立する。
(3) 任意の $[c]\in H_{p}(X, A; R)$ に対して\[1_{X}\smallfrown [c] = [c]\in H_{p}(X, A; R)\]が成立する。ただし、$1_{X}$ は $X$ の単位cohomology類 $($標準的な添加写像 $\varepsilon$ の代表する類 $[\varepsilon]\in H^{0}(X; R)$$)$ とする。
(4) 任意の連続写像 $f : X\to Y$ と $[u]\in H^{q}(Y)$, $[c]\in H_{p + q}(X)$ に対して\[f_{*}(f^{*}([u])\smallfrown [c]) = [u]\smallfrown f_{*}([c])\in H_{p}(Y)\]が成立する。
証明

(1) $c = \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma$ とすれば、\begin{eqnarray*}([u]\smallsmile [v])\smallfrown[c] & = & (\Delta^{*}\rho^{*}[u\otimes v])\smallfrown [c] \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}(\Delta^{\sharp}\rho^{\sharp}(u\otimes v))(\sigma\lfloor_{q + r})\sigma\rfloor_{p}\right] \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}(u\otimes v)(\rho\Delta_{\sharp}\sigma\lfloor_{q + r})\sigma\rfloor_{p}\right] \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}u((\sigma\lfloor_{q + r})\rfloor_{q})v((\sigma\lfloor_{q + r})\lfloor_{r})\sigma\rfloor_{p}\right] \\{}[u]\smallfrown ([v]\smallfrown [c]) & = & [u]\smallfrown \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}v(\sigma\lfloor_{r})\sigma\rfloor_{p + q}\right] \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}u((\sigma\rfloor_{p + q})\lfloor_{q})v(\sigma\lfloor_{r})(\sigma\rfloor_{p + q})\rfloor_{p}\right] \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}u((\sigma\lfloor_{q + r})\rfloor_{q})v((\sigma\lfloor_{q + r})\lfloor_{r})\sigma\rfloor_{p}\right]\end{eqnarray*}です。

(2) $c = \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma$ とおけば、(1)とほぼ同じ計算により両辺ともに\[\sum_{\sigma}a_{\sigma}u(\sigma\rfloor_{p})v(\sigma\lfloor_{q})\]となります。

(3) $1_{X}\smallfrown [c] = [\varepsilon\smallfrown c] = [c]$ です。

(4) 計算すると\begin{eqnarray*}f_{*}(f^{*}([u])\smallfrown [c]) & = & f_{*}([f^{\sharp}u\smallfrown c]) \\& = & f_{*}\left(\left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}f^{\sharp}u(\sigma\lfloor_{q})\sigma\rfloor_{p}\right]\right) \\& = & \left[\sum_{\sigma}a_{\sigma}u(f_{\sharp}\sigma\lfloor_{q})f_{\sharp}\sigma\rfloor_{p}\right] \\& = & \left[u\smallfrown f_{\sharp}c\right] = [u]\smallfrown f_{*}([c])\end{eqnarray*}です。

補足2.3.18

このノートではKronecker積を $H^{p}\times H_{p}$ の順で定義していたのでキャップ積についても $H^{q}\times H_{p + q}$ の順で定義しましたが、そのKronecker積を $H_{p}\times H^{p}$ と定義するようなテキストではキャップ積は $H_{p + q}\times H^{p}$ の形で定義されるかと思います。さらにはチェインレベルでのキャップ積の定義もいくつか流儀があり、それによって各所で符号の違いが生じるので注意。

以上です。

メモ

特になし。

参考文献

[1] 服部晶夫 位相幾何学Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 岩波書店 (1977-1979)
[2] James F. Davis and Paul Kirk, Lecture Notes in Algebraic Topology, AMS, GSM 35 (2001)
[3] S. Eilenberg and S. MacLane, Acyclic Models, Amer. J. Math. 75 (1953), pp. 189-199.
[4] S. Eilenberg and J. A. Zilber, On Products of Complexes, Amer. J. Math. 75 (1953), pp. 200-204.

更新履歴

2021/11/02
新規追加
2022/10/02
積空間を直積空間に修正。
2022/12/17
多くの誤植(参考文献の誤り含む)を修正。表記についての説明を追加。
積空間がまだ残っていたので直積空間に修正。
2023/01/02
軽微な誤植を修正。
2023/02/02
一部の表現を修正。非輪状モデル定理について通常の定式化と補足を追加。
2023/04/02
Eilenberg-Zilber写像という用語についての注釈を追加。
Alexander-Whitney写像の構成に用いた記号を $\sigma_{p}, \sigma^{q}$ から $\sigma\rfloor_{p}, \sigma\lfloor_{q}$ へ変更。
Alexander-Whitney写像が実際にチェイン写像であることの証明を修正。いちいち成分ごとの射影を取っていたせいで分かりづらかった。
キャップ積の流儀についての補足を修正。一部の表現を修正。誤植を修正。