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数学ノートについて
3.4 冪零群・可解群
3.4.1 冪零群

冪零群を導入し、その性質を調べます。

定義3.4.1
(中心列)

$G$ を群とする。$G$ の部分群の増大列\[e = H_{0}\leq H_{1}\leq \dots\leq H_{n} = G\]であって常に $[G, H_{i + 1}]\leq H_{i}$ であるものを $G$ の中心列 $($central series$)$ という。

補題3.4.2
(中心列の性質)

$G$ を群、$\{H_{i}\}_{0\leq i\leq n}$ をその中心列とする。次が成立する。

(1) $H_{i}\triangleleft G$.
(2) $H_{i + 1}/H_{i}\triangleleft Z(G/H_{i})$.
(3) $H_{i + 1}/H_{i}$ は可換群である。
証明

(1) $i = 0$ の場合は自明です。$i\geq 1$ の場合 $[G, H_{i}]\leq H_{i - 1}\leq H_{i}$ であり、これは任意の $h\in H_{i}$ に対してそのどの共役元も $H_{i}$ に属すことを意味するので $H_{i}$ の正規性が従います。

(2) $h\in H_{i + 1}$ を取ります。$[G, H_{i + 1}]\leq H_{i}$ より任意の $g\in G$ に対して $[gH_{i}, hH_{i}] = [g, h]H_{i} = H_{i}$ です。これは $hH_{i}\in Z(G/H_{i})$ を意味します。

(3) 中心の可換性と(2)より明らか。

定義3.4.3
(冪零群)

中心列を持つ群を冪零群という。

冪零群の特徴付けに次の昇中心列と降中心列を用いるものが知られています。

定義3.4.4
(昇中心列・降中心列)

$G$ を群とする。

(1) $U_{0} := e$ とし、$U_{i}$ まで定まったとき射影 $\pi_{i} : G\to G/U_{i}$ を用いて $U_{i + 1} := \pi_{i}^{-1}(Z(G/U_{i}))$ とすることで定まる $G$ の部分群の増大列\[e = U_{0}\leq U_{1}\leq \dots\leq U_{n}\leq \dots\]を昇中心列 $($upper central series$)$ という。
(2) $L_{0} := G$, $L_{i + 1} := [G, L_{i}]$ とすることで定まる $G$ の部分群の減少列\[G = L_{0}\geq L_{1}\geq \dots\geq L_{n}\geq \dots\]を降中心列 $($lower central series$)$ という。
補題3.4.5

$G$ を群、$N$ をその正規部分群、$\pi : G\to G/N$ を射影とする。このとき、\[\pi^{-1}(Z(G/N)) = \{h\in G\mid {}^{\forall}g\in G, \ [g, h]\in N\}\]が成立する。

証明

これは\begin{eqnarray*}h\in \pi^{-1}(Z(G/N)) & \Leftrightarrow & hN\in Z(G/N) \\& \Leftrightarrow & {}^{\forall}g\in G, \ [gN, hN] = N \\& \Leftrightarrow & {}^{\forall}g\in G, \ [g, h]N = N \\& \Leftrightarrow & {}^{\forall}g\in G, \ [g, h] \in N\end{eqnarray*}よりよいです。

補題3.4.6
(昇中心列の性質)

$G$ を群、$\{U_{i}\}_{i\in\N}$ をその昇中心列とする。次が成立する。

(1) 常に $U_{i}\triangleleft G$ であり、特に昇中心列は必ず定義される。
(2) $U_{i + 1} = \{h\in G\mid {}^{\forall}g\in G, \ [g, h]\in U_{i}\}$.
(3) $[G, U_{i + 1}]\triangleleft U_{i}$.
証明

(1) 帰納法より示します。$U_{0}\triangleleft G$ は自明です。$U_{i}\triangleleft G$ であったとき、剰余群 $G/U_{i}$ とそこへの射影 $\pi_{i} : G\to G/U_{i}$ が定まり、正規部分群の準同型による逆像である $U_{i + 1} := \pi_{i}^{-1}(Z(G/U_{i}))$ はまた正規部分群です。よって、常に $U_{i}\triangleleft G$ が成立します。

(2) 補題3.4.5から明らかです。

(3) (2)より $[G, U_{i + 1}]\leq U_{i}$ であり、正規部分群どうしの交換子群が正規であることから正規性も従います。

命題3.4.7

$G$ を群とする。次は同値である。

(1) $G$ は冪零である。
(2) $G$ の昇中心列 $\{U_{i}\}_{i\in\N}$ がある $n\in \N$ において $U_{n} = G$ となる。
(3) $G$ の降中心列 $\{L_{i}\}_{i\in\N}$ がある $n\in \N$ において $L_{n} = e$ となる。
証明

(1) ⇒ (2) 中心列 $\{H_{i}\}_{0\leq i\leq n}$ を取ります。昇中心列 $\{U_{i}\}_{i\in\N}$ と任意の $0\leq i\leq n$ に対して $U_{i}\geq H_{i}$ が成立することを示します。まず、$U_{0}\geq H_{0}$ は自明です。$U_{i}\geq H_{i}$ が分かっているとき、$[G, H_{i + 1}]\leq H_{i}\leq U_{i}$ から任意の $h\in H_{i + 1}$, $g\in G$ に対して $[g, h]\in U_{i}$ であることが分かり、補題3.4.6より\[H_{i + 1}\leq \{h\in G\mid {}^{\forall}g\in G, \ [g, h]\in U_{i}\} = U_{i + 1}\]です。よって、帰納法から全ての $0\leq i\leq n$ に対して $U_{i}\geq H_{i}$ です。特に、$U_{n}\geq H_{n} = G$ です。

(2) ⇒ (1) 補題3.4.6からただちに従います。

(1) ⇒ (3) 中心列 $\{H_{i}\}_{0\leq i\leq n}$ を取ります。降中心列 $\{L_{i}\}_{i\in\N}$ と任意の $0\leq i\leq n$ に対して $L_{i}\leq H_{n - i}$ が成立することを示します。まず、$L_{0}\leq H_{n}$ は自明であり、$L_{i}\leq H_{n - i}$ が分かっているとき\[L_{i + 1} = [G, L_{i}]\leq [G, H_{n - i}]\leq H_{n - (i + 1)}\]です。よって、帰納法から全ての $0\leq i\leq n$ に対して $L_{i}\leq H_{n - i}$ です。特に、$L_{n}\leq H_{0} = e$ です。

(3) ⇒ (1) 降中心列 $\{L_{i}\}_{i\in\N}$ と $L_{n} = e$ となる $n\in \N$ を取れば列\[e = L_{n}\leq L_{n - 1}\leq \dots\leq L_{0} = G\]が中心列になります。

補足3.4.8

群 $G$ の任意の中心列 $\{H_{i}\}_{0\leq i\leq n}$ に対し、$\{U_{i}\}_{i\in\N}$ と $\{L_{i}\}_{i\in\N}$ をそれぞれ昇中心列、降中心列とすれば常に\[L_{n - i}\leq H_{i}\leq U_{i}\]が成立します。このことから、昇中心列と降中心列が共に最も短い中心列を与えることが分かります。

冪零性を調べる際の基本的事実として次を確かめておきます。

命題3.4.9

次が成立する。

(1) 可換群は冪零である。
(2) 冪零群の部分群は冪零である。
(3) 冪零群の剰余群は冪零である。
(4) 冪零群どうしの直積は冪零である。
証明

(1) 可換群 $G$ を取ります。降中心列 $\{L_{i}\}_{i\in\N}$ に対して可換性から $L_{1} = [G, G] = e$ です。

(2) 冪零群 $G$ とその部分群 $G'$ を取ります。それぞれの降中心列 $\{L_{i}\}_{i\in\N}$, $\{L'_{i}\}_{i\in\N}$ に対して常に $L'_{i}\leq L_{i}$ であることは明らかであり、$L_{n} = e$ を満たす $n\in \N$ を取ればこの $n$ に対して $L'_{n} = e$ が成立します。よって、$G'$ は冪零です。

(3) 一般に群 $G$ とその正規部分群 $N_{1}, N_{2}$ が与えられたとき、$\pi_{1} : G\to G/N_{1}$, $\pi_{2} : G\to G/N_{2}$ を射影として、$N_{1}\leq N_{2}$ ならば $\pi_{1}^{-1}(Z(G/N_{1}))\leq \pi_{2}^{-1}(Z(G/N_{2}))$ であることが補題3.4.5よりただちに分かります。

冪零群 $G$ とその正規部分群 $N$ を取り、剰余群 $G/N$ が冪零であることを示します。$\pi : G\to G/N$ を剰余群への射影とします。$G, G/N$ の昇中心列 $\{U_{i}\}_{i\in \N}$, $\{U'_{i}\}_{i\in\N}$ を取り、$\pi_{i} : G\to G/U_{i}$, $\pi'_{i} : G/N\to (G/N)/U'_{i}$ を射影とします。まず明らかに $\pi^{-1}(U'_{0})\geq U_{0}$ であり、もし $\pi^{-1}(U'_{i})\geq U_{i}$ が分かっていれば最初の注意と同型 $G/\pi^{-1}(U'_{i})\cong (G/N)/U'_{i}$ より\begin{eqnarray*}U_{i + 1} = \pi_{i}^{-1}(Z(G/U_{i})) & \leq & (\pi'_{i}\circ \pi)^{-1}(Z(G/\pi^{-1}(U'_{i}))) \\& = & (\pi'_{i}\circ \pi)^{-1}(Z((G/N)/U'_{i})) = \pi^{-1}(U'_{i + 1})\end{eqnarray*}です。よって、帰納法より常に $\pi^{-1}(U'_{i})\geq U_{i}$ が成立し、$U_{n} = G$ となる $n\in \N$ に対して $U'_{n} = G/N$ となります。以上より $G/N$ は冪零です。

(4) 一般の群 $G, H$ とそれぞれの部分群 $G', H'$ に対して $[G\times H, G'\times H'] = [G, G']\times [H, H']$ が成立することに注意すれば、冪零群どうしの直積の降中心列がどこかで自明になることは明らかです。

有限群に対する冪零性の有名な特徴付けを紹介しておきます。$1$ つ補題を用意します。

補題3.4.10

$G$ を冪零群、$H$ をその真部分群とする。$H$ の正規化群 $N_{G}(H)$ は $H$ より真に大きい。

証明

$G$ の中心列 $\{H_{i}\}_{0\leq i\leq n}$ を取ります。$k$ を $H_{i}\leq H$ を満たす最大の $i$ に取ります$H$ が真部分群なので $k < n$ です。。$k$ の取り方から元 $g\in H_{k + 1}\setminus H$ が取れます。$H_{k + 1}/H_{k}\leq Z(G/H_{k})$ であることから\[gHg^{-1} = g\left(\bigcup_{h\in H}hH_{k}\right)g^{-1} = \left(\bigcup_{h\in H}ghg^{-1}H_{k}\right) = \left(\bigcup_{h\in H}hH_{k}\right) = H\]であり、$H$ に属さない元 $g$ が正規化群 $N_{G}(H)$ に属すことになり、これは $H\lneq N_{G}(H)$ を意味します。

命題3.4.11

$G$ を有限群とする。次は同値である。

(1) $G$ は冪零である。
(2) $G$ のSylow $p$ 部分群は全て正規である。
(3) $G$ はSylow $p$ 部分群の直積に分解する。
(4) $G$ は $p$ 部分群の直積に分解する。
証明

(1) ⇒ (2) 素数 $p$ を固定し、対応するSylow $p$ 部分群 $P$ を取り、これが正規部分群であることを示します。$N_{G}(N_{G}(P)) = N_{G}(P)$ を示せば補題3.4.10より $N_{G}(P) = G$ が従うのでこれを示します。$g\in N_{G}(N_{G}(P))$ を取ります。$N_{G}(gPg^{-1}) = gN_{G}(P)g^{-1} = N_{G}(P)$ であり、$gPg^{-1}\leq N_{G}(P)$ ですが、$P$ は $N_{G}(P)$ の唯一のSylow $p$ 部分群なので $gPg^{-1} = P$ です。よって、$g\in N_{G}(P)$ であり、$N_{G}(N_{G}(P))\leq N_{G}(P)$ です。逆の包含関係は自明です。

(2) ⇒ (3) $|G|$ の素因数分解に現れる相異なる素数を $p_{1}, \dots, p_{n}$ とおき、$G$ のSylow $p_{i}$ 部分群を $P_{i}$ とおきます。$i\neq j$ に対し、明らかに $P_{i}\cap P_{j} = \{e\}$ であり、$P_{i}, P_{j}$ の正規性から任意の $g_{i}\in P_{i}$, $g_{j}\in P_{j}$ に対して $g_{i}g_{j} = g_{j}g_{i}$ が成立します$g_{j}g_{i}^{-1}g_{j}^{-1}\in P_{i}$ と $g_{i}g_{j}g_{i}^{-1}\in P_{j}$ から $g_{i}g_{j}g_{i}^{-1}g_{j}^{-1}\in P_{i}\cap P_{j} = \{e\}$ です。。このことから直積 $P := \prod_{i = 1}^{n}P_{i}$ からの準同型 $\varphi : P\to G$ が各 $P_{i}\leq P$ を $P_{i}\leq G$ に恒等的に移すように定まります。各 $i$ に対して $|P_{i}| = |\varphi(P_{i})|\mid|\Img \varphi|$ であることから $|G|\mid |\Img \varphi|$ であり、$\varphi$ が全単射 $($同型$)$ であることが分かります。よって、$G$ はSylow $p$ 部分群の直積に分解します。

(3) ⇒ (1) 冪零群どうしの直積が冪零であるので、$G$ が $p$ 群の場合に示せばよいです。$p$ 群の中心が常に非自明なこと $($補題3.2.38$)$ に注意すれば昇中心列は $G$ に一致するまで狭義に増加し、有限性から必ずどこかで $G$ に一致します。

(3) ⇔ (4) 自明です。

例3.4.12
(対称群・交代群と冪零性)

対称群 $S_{n}$・交代群 $A_{n}$ の冪零性について次が成立します。

(1) $S_{n}$ が可解であることと $n\leq 2$ であることとは同値。
(2) $A_{n}$ が可解であることと $n\leq 3$ であることとは同値。
証明

有限群がSylow $p$ 群の直積に分解している場合、各素数 $p$ に対してSylow $p$ 部分群は一意であり、位数が $p$ の元たち $($それら全体でなくともよい$)$ により生成する部分群はそのSylow $p$ 部分群の部分群になることから $p$ 群であることに注意します。

(1) $n\leq 2$ においては $S_{n}$ は可換なので冪零です。$n\geq 3$ においては $S_{n}$ が位数 $2$ の元 $($互換$)$ で生成することと $S_{n}$ の位数が $2$ の冪でないことから冪零ではないです。

(3) $n\leq 3$ においては $A_{n}$ は可換なので冪零です。$n\geq 4$ においては $A_{n}$ が位数 $3$ の元で生成することと $A_{n}$ の位数が $3$ の冪でないことから冪零ではないです。

3.4.2 可解群

可解群についてまとめます。

定義3.4.13
(正規列)

$G$ を群とする。$G$ の部分群の増大列\[e = H_{0}\leq H_{1}\leq \dots\leq H_{n} = G\]であって常に $H_{i}\triangleleft H_{i + 1}$ であるものを $G$ の正規列という。剰余群 $H_{i + 1}/H_{i}$ が常に可換群である場合は $G$ のAbel正規列という。

定義3.4.14
(可解群)

Abel正規列を持つ群を可解群という。

命題3.4.15

$G$ を群とする。次は同値である。

(1) $G$ は可解である。
(2) $D^{0}G := G$, $D^{i + 1}G := [D^{i}G, D^{i}G]$ と定めるとき、ある非負整数 $n\in \N$ であって $D^{n}G = e$ となるものが存在する。
証明

(1) ⇒ (2) Abel正規列 $e = H_{0}\leq \cdots\leq H_{n} = G$ を取ります。常に $D^{i}G\leq H_{n - i}$ であることを帰納法により示します。$i = 0$ の場合は自明です。$D^{i}G\leq H_{n - i}$ が成立しているとき、$H_{n - (i + 1)}\triangleleft H_{n - i}$ かつ $H_{n - i}/H_{n - (i + 1)}$ が可換であることから\[[H_{n - i}, H_{n - i}]\leq H_{n - (i + 1)}\]であり、一般に群 $K\leq H$ に対して $[K, K]\leq [H, H]$ が成立することと帰納法の仮定より\[D^{i + 1}G = [D^{i}G, D^{i}G]\leq [H_{n - i}, H_{n - i}]\]であるので $D^{i + 1}G\leq H_{n - (i + 1)}$ が従います。よって、常に $D^{i}G\leq H_{n - i}$ が成立し $i = n$ として $D^{n}G = e$ が得られます。

(2) ⇒ (1) $D^{n}G = e$ となる $n\in \N$ を固定して $H_{i} := D^{n - i}G$ と定めればAbel正規列が得られます。

命題3.4.16

次が成立する。

(1) 可換群は可解である。
(2) 可解群の部分群は可解である。
(3) 可解群の剰余群は可解である。
(4) 可解群どうしの半直積は可解である。
(5) 群の短完全系列 $e\to N\to G\to H\to e$ において、$G$ が可解であることと $N, H$ が可解であることとは同値である。
証明

(1) $e = H_{0}\leq H_{1} = G$ がAbel正規列を与えます。

(2) 可解群 $G$ とその部分群 $H$ を取ります。ある $n\in \N$ が存在して $D^{n}G = e$ ですが、常に $D^{i}H\leq D^{i}G$ であることからこの $n$ に対して $D^{n}H = e$ です。よって、$H$ は可解です。

(3) 可解群 $G$ とその正規部分群 $N$ を取ります。$G$ のAbel正規列 $e = H_{0}\leq \cdots\leq H_{n} = G$ を取ります。列\[H_{0}N/N\leq H_{1}N/N\leq \dots H_{n}N/N\]が剰余群 $G/N$ のAbel正規列になることを示せばよいです。$H_{0}N/N = e$ と $H_{n}N/N = G/N$ は明らか。常に $H_{i}N/N\triangleleft H_{i + 1}N/N$ である $($正規列である$)$ ことも明らか。また、包含写像 $H_{i + 1}\to H_{i + 1}N$ が全射準同型 $H_{i + 1}/H_{i}\to (H_{i + 1}N/N)/(H_{i}N/N)$ を誘導することと $H_{i + 1}/H_{i}$ の可換性から $(H_{i + 1}N/N)/(H_{i}N/N)$ は可換です。よって、Abel正規列であることが確かめられました。

(4) 半直積 $N\rtimes H$ は短完全系列 $e\to N\to N\rtimes H\to H\to e$ を与えるので(5)より従います。

(5) $G$ が可解ならばその部分群である $N$ および剰余群である $H$ は可解です。$N, H$ が可解とします。それぞれのAbel正規列\[e\leq N_{0}\leq N_{1}\leq \cdots N_{n} = N,\]\[e\leq H_{0}\leq H_{1}\leq \cdots H_{m} = H\]と射影 $\pi : G\to G/N\cong H$ を取ります。増大列\[N_{0}\leq \dots \leq N_{n} = \pi^{-1}(H_{0})\leq \dots \leq \pi^{-1}(H_{m})\]が $G$ のAbel正規列を与えることを示します。$N_{0} = e$ と $\pi^{-1}(H_{m}) = G$ は明らかです。あと非自明なのは $\pi^{-1}(H_{i})\triangleleft \pi^{-1}(H_{i + 1})$ と $\pi^{-1}(H_{i + 1})/\pi^{-1}(H_{i})$ の可換性ですが、前者は準同型による逆像を取る操作が正規性を保つこと $($命題3.1.62$)$ から、後者は同型定理を用いて\[\pi^{-1}(H_{i + 1})/\pi^{-1}(H_{i})\cong (\pi^{-1}(H_{i + 1})/N)/(\pi^{-1}(H_{i})/N) \cong H_{i + 1}/H_{n}\]となることからよいです。

補足3.4.17

Abel正規列 $\{H_{i}\}_{i\in\N}$ は各 $0\leq i < n$ に対して短完全系列\[e\to H_{i}\to H_{i + 1}\to H_{i + 1}/H_{i}\to e\]を与え、つまり、群が可解であることは自明群から始めてAbel群の拡大を繰り返して得られる群であることと言い換えられます。

命題3.4.18
(冪零群の可解性)

冪零群は可解群である。

証明

補題3.4.2より中心列はAbel正規列です。

例3.4.19
(対称群・交代群と可解性)

対称群 $S_{n}$・交代群 $A_{n}$ の可解性について次が成立します。

(1) $S_{n}$ が可解であることと $n\leq 4$ であることとは同値。
(2) $A_{n}$ が可解であることと $n\leq 4$ であることとは同値。
証明

(1) 各 $n$ に対して短完全系列 $e\to A_{n}\to S_{n}\to \Z_{2}\to e$ の存在から $S_{n}$ の可解性と $A_{n}$ の可解性とは同値であり、(2)に帰着します。

(2) 可解群の部分群が可解であることに注意すれば、次のことを示せば十分です。

(i) $A_{4}$ は可解群である。
(ii) $A_{5}$ は可解群ではない。

(i) 部分集合\[H := \left\{e,\left(\begin{array}{cc}1 & 2\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}3 & 4\end{array}\right),\left(\begin{array}{cc}1 & 3\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}2 & 4\end{array}\right),\left(\begin{array}{cc}1 & 4\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}2 & 3\end{array}\right)\right\}\subset A_{4}\]が可換な正規部分群になるこが直接計算により確かめられ、これがAbel正規列\[e \leq H\leq A_{4}\]を与えます。$|A_{4}/H| = 3$ から $A_{4}/H\cong \Z_{3}$ であることは注意。

(ii) $1, 2, 3, 4, 5$ の任意の並び替え $a, b, c, d, e$ に対して\[\left[\left(\begin{array}{ccc}a & d & c\end{array}\right),\left(\begin{array}{ccc}c & b & e\end{array}\right)\right]= \left(\begin{array}{ccc}a & b & c\end{array}\right)\]であることと $A_{n}$ が $\left(\begin{array}{ccc}a & b & c\end{array}\right)$ の形に表されるの元たちによって生成されること $($補足3.3.31$)$ から $[A_{5}, A_{5}] = A_{5}$ であり、全ての $i\in \N$ に対して $D^{i}A_{5} \neq e$ です。

3.4.3 組成列と単純群

(そのうち少し書きます。)

以上です。

メモ

特になし。

参考文献

[1] 堀田良之 代数入門–群と加群– 裳華房 (1987)

更新履歴

2023/07/02
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