可測関数と測度空間上の積分について導入していきます。
一般に、可測空間の間の写像の可測性が位相空間の間の連続写像と同様に定義されます。
$(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ を可測空間とする。写像 $f : X\to Y$ であって任意の $B\in \mathcal{N}$ に対して $f^{-1}(B)\in \mathcal{M}$ を満たすものを $(\mathcal{M}, \mathcal{N})$-可測写像や単に可測写像と呼ぶ。
明らかに、可測写像どうしの合成は再び可測写像になります。また、可測写像になることを確かめるためには終域に与えた $\sigma$ 加法族の適当な生成系の元に対して逆像が可測集合になることを確かめれば十分です。
$(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ を可測空間とし、$\mathcal{N}$ は $Y$ の部分集合族 $\mathcal{F}$ により生成する $\sigma$ 加法族であるとする。写像 $f : X\to Y$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) 自明です。
(2) ⇒ (1) $\mathcal{G} = \{B\in \mathcal{N}\mid f^{-1}(B)\in \mathcal{M}\}$ が $\mathcal{N}$ に一致することを示せばよいですが、仮定から $\mathcal{G}$ は $\mathcal{N}$ の生成系 $\mathcal{F}$ を含むので、$\mathcal{G}$ が $\sigma$ 加法族になることを示せば十分です。$\varnothing\in \mathcal{G}$ は明らか。$E\in \mathcal{G}$ に対して $E^{c}\in \mathcal{G}$ であることは $f^{-1}(E^{c}) = (f^{-1}(E))^{c}$ と $f^{-1}(E)\in \mathcal{M}$ から。列 $\{E_{n}\}_{n\in\N}\subset \mathcal{G}$ に対して $\bigcup_{n\in\N}E_{n}\in \mathcal{G}$ であることは $f^{-1}\left(\bigcup_{n\in\N}E_{n}\right) = \bigcup_{n\in\N}f^{-1}(E_{n})$ と各 $n\in \N$ に対して $f^{-1}(E_{n})\in \mathcal{M}$ であることから。従って、$\mathcal{G}$ は $\sigma$ 加法族であり、$\mathcal{N}$ に一致します。
$(X, \mathcal{O}_{X})$, $(Y, \mathcal{O}_{Y})$ を位相空間とする。連続写像 $f : X\to Y$ はそれぞれの位相から生成されるBorel集合族を与えて得られる可測空間 $(X, \sigma(\mathcal{O}_{X}))$, $(Y, \sigma(\mathcal{O}_{Y}))$ の間の写像として可測である。
命題4.6.2から明らかです。
$(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ を可測空間、$\mathcal{N}$ は完全正規空間 $($定義2.3.33$)$ を定める開集合系 $\mathcal{O}$ から生成する $\sigma$ 加法族とする。このとき、各点収束する可測写像の列 $\{f_{n} : X\to Y\}_{n\in\N}$ の極限 $f : X\to Y$ は可測である。(距離空間が完全正規空間なことを思い出しておくといい。)
$Y$ の開集合 $V$ に対して $f^{-1}(V)\in \mathcal{M}$ を示せばよいです。$Y$ の完全正規性から開集合列 $\{V_{m}\}_{m\in\N}$ であって $V = \bigcup_{m\in\N}V_{m}$ かつ常に $\overline{V_{m}}\subset V$ を満たすものが取れます例えば、完全正規性から連続関数 $h : Y\to [0, 1]$ であって $h^{-1}(0) = V^{c}$ を満たすものが取れるので、$V_{m} := h^{-1}((\tfrac{1}{m + 1}, 1])$ とすればよいです。。次を示します。
(i) $x\in f^{-1}(V)$ とします。$x\in f^{-1}(V_{m})$ となる $m\in \N$ を取ります。この $m$ に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}f_{n}(x)\in V_{m}$ であり、つまりは $x\in \underset{n\to\infty}{\varliminf}f_{n}^{-1}(V_{m})$ です。よって、$x\in \bigcup_{m\in\N}\underset{n\to\infty}{\varliminf}f_{n}^{-1}(V_{m})$ です。
(ii) $x\in \bigcup_{m\in\N}\underset{n\to\infty}{\varliminf}f_{n}^{-1}(V_{m})$ とします。ある $m\in \N$ に対して $x\in \underset{n\to\infty}{\varliminf}f_{n}^{-1}(V_{m})$ であり、この $m$ に対して $f(x)\in \overline{V_{m}}\subset V$ です。よって、$x\in f^{-1}(V)$ です。
以上により $f^{-1}(V) = \bigcup_{m\in\N}\underset{n\to\infty}{\varliminf}f_{n}^{-1}(V_{m})\in \mathcal{M}$ です。
可測写像の制限は可測です。
$(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ を可測空間とする。可測写像 $f : X\to Y$ に対してその制限 $g : A\to B$ は可測写像である。ただし、$A, B$ は可測空間としての $X, Y$ の制限 $(A, \mathcal{M}|_{A})$, $(B, \mathcal{N}|_{B})$ と考える。
自明です。(連続写像の制限が連続というのと全く同じ。)
$(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ を可測空間とする。写像 $f : X\to Y$ と $X$ の可測集合による可算被覆 $\{X_{n}\}_{n\in\N}$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) 命題4.6.5より明らかです。
(2) ⇒ (1) 任意の $B\in \mathcal{N}$ に対して $f^{-1}(B) = \bigcup_{n\in\N}(f|_{X_{n}})^{-1}(B)\in \mathcal{M}$ です。
可測空間 $(X, \mathcal{M})$, $(Y, \mathcal{N})$ が与えられたとき、直積集合 $X\times Y$ に対して矩形全体からなる部分集合族 $\mathcal{M}\times \mathcal{N} := \{A\times B\subset X\times Y\mid A\in \mathcal{M}, \ B\in \mathcal{N}\}$ で生成する $\sigma$ 集合族 $\mathcal{M}\otimes \mathcal{N} := \sigma(\mathcal{M}\times \mathcal{N})$ を与えることで直積可測空間 $(X\times Y, \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})$ が構成されましたが、これは次の普遍性を持ちます。
$(X, \mathcal{M})$, $(Y_{1}, \mathcal{N}_{1})$, $(Y_{2}, \mathcal{N}_{2})$ を可測空間とする。写像 $f_{1} : X\to Y_{1}$, $f_{2} : X\to Y_{2}$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) $\pr_{1}^{-1}(\mathcal{N}_{1}) := \{B_{1}\times Y_{2}\mid B_{1}\in \mathcal{N}_{1}\}$, $\pr_{2}^{-1}(\mathcal{N}_{2}) := \{Y_{1}\times B_{2}\mid B_{2}\in \mathcal{N}_{2}\}$ とおくとき、$\mathcal{N}_{1}\otimes \mathcal{N}_{2}$ は $\pr_{1}^{-1}(\mathcal{N}_{1})\cup \pr_{2}^{-1}(\mathcal{N}_{2})$ で生成しています。従って、$f_{1}, f_{2}$ が可測写像であるとき、命題4.6.2と各 $B_{1}\in \mathcal{N}_{1}$ に対して\[(f_{1}, f_{2})^{-1}(B_{1}\times Y_{2}) = f_{1}^{-1}(B_{1})\in \mathcal{M}\]であること、および、各 $B_{2}\in \mathcal{N}_{2}$ に対して\[(f_{1}, f_{2})^{-1}(Y_{1}\times B_{2}) = f_{2}^{-1}(B_{2})\in \mathcal{M}\]であることから $(f_{1}, f_{2})$ の可測性が従います。
(2) ⇒ (1) 射影 $\pr_{1}, \pr_{2}$ の可測性と可測写像どうしの合成が可測であることからただちに従います。
直積可測空間の不変性は任意有限個の直積に対しても同様に成立します。また、一般に可測空間の族 $\{(X_{\lambda}, \mathcal{B}_{\lambda})\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられたとき、直積集合 $\prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}$ 上の $\sigma$ 加法族 $\bigotimes_{\lambda\in\Lambda}\mathcal{B}_{\lambda}$ を\[\bigotimes_{\lambda\in\Lambda}\mathcal{B}_{\lambda} := \sigma\left(\left\{\pr_{\lambda}^{-1}(B_{\lambda})\subset \prod_{\lambda\in\Lambda}X_{\lambda}\relmid \lambda\in\Lambda, \ B_{\lambda}\in \mathcal{B}_{\lambda}\right\}\right)\]により与えることで一般の直積可測空間が定義でき、普遍性を持ちます。(もちろん、有限個の範囲では逐次直積を取っていく構成に一致します。)
可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上で定義された拡張実数や複素数を値に取る関数について考えます。表現の簡略化のため、関数 $f : X\to \overline{\R}$ が拡張実数 $a\in \overline{\R}$ に対して常に $f(x) > a$ を満たすことを単に $f > a$ と書いたり、関数 $f, g : X\to \overline{\R}$ に対して常に $f(x)\leq g(x)$ が成立することを単に $f\leq g$ と書いたり、他にも同様の表記を行うことにします。さらに、集合 $X$ の部分集合 $E$ と関数 $f : X\to \overline{\R}$ と拡張実数 $a\in \overline{\R}$ に対して記号 $E(f > a)$ で $E$ の部分集合 $\{x\in E\mid f(x) > a\}$ を表したり、関数 $f, g : X\to \C$ に対して記号 $E(f = g)$ で $E$ の部分集合 $\{x\in E\mid f(x) = g(x)\}$ を表したりといった表記をすることにします。
そして、終域に相当する補完実直線 $\overline{\R}$ や複素数体 $\C$ 含むEuclid空間 $\R^{m}$ にはその標準的な位相の定めるBorel集合族を与えて可測空間とみなし、そのときの可測関数は始域側の $\sigma$ 加法族を強調して $\mathcal{M}$-可測関数とも呼ぶことにします。また、補完実直線に値を取る関数も単に実数値関数と呼ぶことにします。そして、$0\cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) = 0$ と考えることにします。
まず、基本的な事実として次が成立します。
可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上定義された実数値関数 $f : X\to \overline{\R}$ に対して次は同値である。
(1) ⇔ (2) 命題4.6.2と $\overline{\R}$ のBorel集合族の生成系として $\{(a, +\infty]\mid a\in \overline{\R}\}$ が取れることから分かります。
他も同様です。
$\R^{m}$ に値を取る場合は成分ごとに可測性を見ればよいです。
可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上定義されたベクトル値関数 $f = (f_{1}, \dots, f_{m}) : X\to \R^{m}$ に対して次は同値である。
可測関数どうしの和や積などが再び可測であることは終域に定まる基本的な演算の可測性から確かめられます。複素数体 $\C$ おける加法や乗法などの演算はその連続性から直ちに可測と分かりますが、補完実直線についても次が確かめられます。
Borel集合族を与えた補完実直線 $\overline{\R}$ について次が成立する。
(1) (2) (4) (5) (6) よく見ると連続なので可測です。
(3) $(\pm\infty, 0)$ および $(0, \pm\infty)$ の $4$ 点を除いた開集合 $($可測集合$)$ 上では連続であり可測です。もちろんこの $4$ 点においても可測なので、命題4.6.6と合わせて全体で可測です。
従って、関数の可測性も基本的な演算で保たれます。
$\K = \overline{\R}, \C$ とし、可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上定義された可測関数 $f, g : X\to \K$ とスカラー $a, b\in \K$ が与えられたとする。次が成立する。
可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上定義された実数値可測関数 $f, g : X\to \overline{\R}$ が与えられたとする。次が成立する。
対 $(f, g)$ の可測性にだけ注意すれば、いずれも補題4.6.11の可測写像との合成なので可測写像です。
可測空間 $(X, \mathcal{M})$ 上定義された実数値可測関数列 $\{f_{n} : X\to \overline{\R}\}_{n\in\N}$ が与えられたとする。次が成立する。
(1) $g_{n} := \max\{f_{0}, \dots, f_{n}\}$ として広義単調増加な可測関数列 $\{g_{n}\}_{n\in\N}$ が得られます。これは各点収束するので極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}g_{n}$ は系4.6.4より可測です。$\underset{n\to\infty}{\lim}g_{n} = \underset{n\in\N}{\sup}f_{n}$ なので $\underset{n\in\N}{\sup}f_{n}$ は可測です。
(2) (1)と同様です。
(3) (1)より $g_{n} := \underset{n\leq k}{\sup}f_{k}$ として広義単調減少な可測関数列 $\{g_{n}\}_{n\in\N}$ が得られます。これは各点収束するので極限 $\underset{n\to\infty}{\lim}g_{n}$ は系4.6.4より可測です。$\underset{n\to\infty}{\lim}g_{n} = \underset{n\in\N}{\varlimsup}f_{n}$ なので $\underset{n\in\N}{\varlimsup}f_{n}$ は可測です。
(4) (3)と同様です。
(5) 系4.6.4の特別な場合です。既に使ってます。
次のようにもう少し一般的な形でも考えられます。
$X$ を可測空間、$Y$ を可分な位相空間とし、$X\times Y$ 上で定義された実数値関数 $f(y, x)$ が与えられ、各 $y\in Y$ ごと $f(x, y)$ は $x$ の関数として可測かつ各 $x\in X$ ごと $f(x, y)$ は $y$ の関数として連続とする。次が成立する。
(1) $Y$ の高々可算な稠密部分集合 $B$ を取ります。各 $x\in X$ に対して\[\sup_{y\in Y}f(x, y) = \sup_{y\in B}f(x, y)\]なので左辺は $x$ の関数としては高々可算個の可測関数たちの上限になり、可測関数です。
(2) (1)と同様です。
$X$ を可測空間、$Y$ を第一可算公理を満たす可分な位相空間とし、$Y$ の集積点 $b$ と $X\times (Y\setminus \{b\})$ 上で定義された実数値関数 $f(x, y)$ が与えられ、各 $y\in Y\setminus \{b\}$ ごと $f(x, y)$ は $x$ の関数として可測かつ各 $x\in X$ ごと $f(x, y)$ は $y$ の関数として連続とする。次が成立する。
(1) $b$ の高々可算な開近傍基を単調減少列 $\{U_{n}\}_{n\in\N}$ に取ります。各 $n\in \N$ に対して $U_{n}\setminus \{b\}$ は可分であり、関数\[g_{n}(x) := \sup_{y\in U_{n}\setminus \{b\}}f(x, y)\]は命題4.6.15より可測関数です。$n$ に関して単調なので極限 $g(x) := \underset{n\to\infty}{\lim}g_{n}(x)$ が存在して可測関数になりますが、この $g(x)$ が $\underset{y\to b}{\varlimsup}f(x, y)$ です。
(2) (1)と同じです。
(3) 極限が存在する点は上極限と下極限が一致する点として特徴付けられ、よって、極限が存在する点全体 $A$ は可測集合です。また、極限値より定まる $A$ 上の関数は上極限・下極限の制限なので可測関数です。
$U$ を $\R^{n}$ の開集合、$f : U\to \R$ を連続関数とする。次が成立する。
簡単のために $U = \R^{n}$ として示しますが、一般にも局所的に同様の議論をしながら命題4.6.6を使うだけです。
(1) 関数 $F(x, t) := \tfrac{f(x + tv) - f(x)}{t}$ に対して命題4.6.16を適用すればよいです。
(2) $f$ の $1$ 階偏微分が全て存在する点全体を $X$ とします。(1)より $X$ は可測集合であり、関数 $J : X\to M(1, n; \R)$ を\[J(x) := (\partial_{x_{1}}f(x), \dots, \partial_{x_{n}}f(x))\]により定めるとこれは可測です。関数 $F : X\times (\R^{n}\setminus \{0\})\to \R$ を\[F(x, y) := \dfrac{|f(x + y) - f(x) - J(x)\cdot y|}{|y|}\]により定め、これに命題4.6.16を適用すればよいです。
解析学でよく考えるのは始域をEuclid空間 $\R^{n}$ やその開集合として $\R, \C$ に値を取る関数です。終域側にはBorel集合族を与えるとして、始域側にLebesgue可測集合族を与えた場合の可測関数はLebesgue可測関数、Borel集合族を与えた場合の可測関数はBorel可測関数と呼ばれます。
以下では与えられた集合 $X$ の部分集合 $A$ の定義関数を $\chi_{A}$ で表すとします。また、引き続き $0\cdot (\pm\infty) = (\pm\infty) = 0$ と考えます。
$(X, \mathcal{M})$ を可測空間とする。互いに非交叉な容易に分かるように、この互いに非交叉という条件はあっても無くても変わりません。可測集合 $E_{1}, \dots, E_{n}$ と実数 $a_{1}, \dots, a_{n}$ を用いて\[f = \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\chi_{E_{k}}\]と表される関数 $f : X\to \R$ を単関数と呼ぶ。また、このような互いに非交叉な可測集合この形の表示を単関数表示よ呼ぶ。
容易に確かめられるように、単関数全体からなる集合は可測集合の定義関数 $\chi_{E}$ たちから定数倍と加法により生成する線型空間の構造が入り、また、単関数どうしの和・差・積は再び単関数です。
可測関数の積分を構成するためにを重要なのは、一般の非負値可測関数 $f : X\to [0, +\infty]$ が単関数により近似されることです。
$(X, \mathcal{M})$ を可測空間、$f : X\to [0, +\infty]$ を非負値可測関数とする。$($各点ごとに$)$ 広義単調増加な非負値単関数列 $\{f_{n} : X\to [0, +\infty)\}_{n\in\N}$ であって $f$ に各点収束するものが存在する。
各 $n\in \N$ に対して関数 $f_{n}$ を\[f_{n}(x) := \left\{\begin{array}{ll}\lfloor 2^{n}f(x)\rfloor/ 2^{n} & (f(x) < n) \\n & (f(x)\geq n)\end{array}\right.\]により定めます。これにより定まる列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ 広義単調増加かつ $f$ に各点収束することは初等的な評価から容易に従います。あとは各 $f_{n}$ が単関数になっていることを示せばよいですが、具体的に\[f_{n} = \sum_{k = 0}^{n\cdot 2^{n} - 1}\dfrac{k}{2^{n}}\chi_{f^{-1}([k/2^{n}, (k + 1)/2^{n}))} + n\chi_{f^{-1}([n, +\infty])}\]と書けるのでよいです。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上定義された非負値単関数 $f = \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\chi_{E_{k}}$ に対する積分 $\int_{X}fd\mu$ を\[\int_{X}fd\mu := \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\mu(E_{k})\]により定義します。自明ですが、定義値が単関数の表示の仕方によらないことの確認は必要です。
非負値単関数 $f : X\to [0, +\infty)$ が $2$ つの単関数表示 $f = \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\chi_{E_{k}} = \sum_{l = 1}^{m}b_{l}\chi_{F_{l}}$ を持つとき\[\sum_{k = 1}^{n}a_{k}\mu(E_{k}) = \sum_{l = 1}^{m}b_{l}\mu(F_{l})\]が成立する。
$\sum_{k = 1}^{n}a_{k}\mu(E_{k}) = \sum_{k = 1}^{n}\sum_{l = 1}^{m}a_{k}\mu(E_{k}\cap F_{l}) = \sum_{l = 1}^{m}\sum_{k = 1}^{n}b_{l}\mu(E_{k}\cap F_{l}) = \sum_{l = 1}^{m}b_{l}\mu(F_{l})$.
明らかな性質として次があります。
非負値単関数 $f, g : X\to [0, +\infty)$ と非負実数 $a, b\in [0, +\infty)$ に対して\[\int_{X}af + bgd\mu = a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu\]が成立する。
それぞれ $f = \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\chi_{E_{k}}$, $g = \sum_{l = 1}^{m}b_{l}\chi_{F_{l}}$ という単関数表示を持つとすれば\begin{eqnarray*}a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu & = & a\sum_{k = 1}^{n}a_{k}\mu(E_{k}) + b\sum_{k = 1}^{m}b_{k}\mu(F_{k}) \\& = & a\sum_{k = 1}^{n}\sum_{l = 1}^{m}a_{k}\mu(E_{k}\cap F_{l}) + b\sum_{l = 1}^{m}\sum_{k = 1}^{n}b_{l}\mu(E_{k}\cap F_{l}) \\& = & \sum_{k = 1}^{n}\sum_{l = 1}^{m}(aa_{k} + bb_{l})\mu(E_{k}\cap F_{l}) \\& = & \int_{X}af + bg d\mu\end{eqnarray*}です。
非負値単関数 $f, g : X\to [0, +\infty)$ であって $f\leq g$ を満たすものに対して\[\int_{X}fd\mu\leq \int_{X}gd\mu\]が成立する。
$\int_{X}fd\mu \leq \int_{X}fd\mu + \int_{X}(g - f)d\mu = \int_{X}gd\mu$.
可測集合 $E\subset X$ 上の積分 $\int_{E}fd\mu$ も\[\int_{E}fd\mu := \sum_{k = 1}^{n}a_{k}\mu(E_{k}\cap E)\]により定義できます。これは測度空間を $E$ に制限した $(E, \mathcal{M}|_{E}, \mu|_{E})$ において先に導入した全体集合上の積分 $\int_{E}f|_{E}d\mu|_{E}$ と一致します。そして、次が成立します。
非負値単関数 $f : X\to [0, +\infty)$ と互いに非交叉な可測集合 $E_{1}, \dots, E_{n}$ に対し、$E := \bigsqcup_{k = 1}^{n}E_{k}$ とおけば\[\int_{E}fd\mu = \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}fd\mu\]が成立する。
容易です。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ が与えられたとして、$X$ 上定義された非負値可測関数 $f : X\to [0, +\infty]$ に対し、$0\leq g\leq f$ を満たす単関数 $g : X\to [0, +\infty)$ 全体からなる集合を $\mathcal{S}(f)$ と表すことにして、$f$ の積分 $\int_{X}fd\mu$ を\[\int_{X}fd\mu := \sup_{g\in \mathcal{S}(f)}\int_{X}gd\mu\]により定めます。$f$ が単関数の場合に先程考えた単関数の積分値に一致することは自明です。
基本的な事実として次があり、これから非負値可測関数の積分の別の定義が得られます。
関数 $f : X\to [0, +\infty]$ に各点収束する広義単調増加な非負値単関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ に対して\[\int_{X}fd\mu = \lim_{n\to\infty}\int_{X}f_{n}d\mu\]が成立する。
$\underset{n\to\infty}{\lim}\int_{X}f_{n}d\mu\leq \underset{g\in \mathcal{S}(f)}{\sup}\int_{X}gd\mu$ は自明。逆の不等式を導くためには各 $g\in \mathcal{S}(f)$ に対して $\int_{X}gd\mu\leq \underset{n\to\infty}{\lim}\int_{X}f_{n}d\mu$ を示せばよいです。
正実数 $\varepsilon > 0$ を固定して\[A_{n} := \{x\in X\mid g(x) - \varepsilon < f_{n}(x)\}\]と定めます。$\underset{n\to\infty}{\lim}A_{n} = X$ です。また、$g$ の単関数表示 $\sum_{k = 1}^{m}b_{k}\chi_{E_{k}}$ を $0 < b_{1} < \dots < b_{m}$ であるように取ります。そして、$E := \bigsqcup_{k = 1}^{m} E_{k}$ とおきます。次の場合に分けて示します。
(i) $\mu(A_{0})\leq \mu(E) < + \infty$ と $\underset{n\to\infty}{\lim}A_{n}^{c} = \varnothing$ から $\underset{n\to\infty}{\lim}\mu(A_{n}^{c}) = 0$ なので、適当に大きな $n_{0}\in \N$ に対して $\mu(A_{n_{0}}^{c}) < \varepsilon$ です。このとき、\begin{eqnarray*}\int_{X}gd\mu & = & \int_{A_{n_{0}}\cap E}gd\mu + \int_{A_{n_{0}}^{c}\cap E}g d\mu \\& \leq & \int_{A_{n_{0}}\cap E}f_{n_{0}} + \varepsilon d\mu + \int_{A_{n_{0}}^{c}\cap E}b_{m} d\mu \\& \leq & \int_{X}f_{n_{0}}d\mu + \int_{E}\varepsilon d\mu + \int_{A_{n_{0}}^{c}}b_{m}d\mu \\& \leq & \lim_{n\to\infty}\int_{X}f_{n}d\mu + \varepsilon \mu(E) + b_{m}\mu(A_{n_{0}}^{c}) \\& \leq & \lim_{n\to\infty}\int_{X}f_{n}d\mu + (\mu(E) + b_{m})\varepsilon\end{eqnarray*}です。$\varepsilon$ は任意なので $\int_{X}gd\mu\leq \underset{n\to\infty}{\lim}\int_{X}f_{n}d\mu$ です。
(ii) $\underset{n\to\infty}{\lim}A_{n}\cap E = E$ なので $\underset{n\to\infty}{\lim}\mu(A_{n}\cap E) = + \infty$ です。$0 < \varepsilon < b_{1}$ に取っていたとすれば\[(b_{1} - \varepsilon)\mu(A_{n}\cap E)\leq \int_{A_{n}\cap E}g - \varepsilon d\mu\leq \int_{X}f_{n}d\mu\]であり、$n$ について極限を取って $\underset{n\to\infty}{\lim}\int_{X}f_{n}d\mu = +\infty$ です。
非負値単関数の積分と同様に次が成立します。
非負値可測関数 $f, g : X\to [0, +\infty]$ と非負実数 $a, b\in [0, +\infty)$ に対して\[\int_{X}af + bgd\mu = a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu\]が成立する。
命題4.6.20より $f, g$ に各点収束する広義単調増加な非負値単関数列 $\{f_{n}\}_{n\in\N}$ と $\{g_{n}\}_{n\in\N}$ を取れば\begin{eqnarray*}a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu & = & a\lim_{n\to\infty}\int_{X}f_{n}d\mu + b\lim_{n\to\infty}\int_{X}g_{n}d\mu \\& = & \lim_{n\to\infty}\left(a\int_{X}f_{n}d\mu + b\int_{X}g_{n}d\mu\right) \\& = & \lim_{n\to\infty}\int_{X}af_{n} + bg_{n}d\mu \\& = & \int_{X}af + bg d\mu\end{eqnarray*}です。$3$ つ目の等式は命題4.6.22を使っています。
非負値可測関数 $f, g : X\to [0, +\infty]$ であって $f\leq g$ を満たすものに対して\[\int_{X}fd\mu\leq \int_{X}gd\mu\]が成立する。
$\mathcal{S}(f)\subset \mathcal{S}(g)$ と積分の定義から従います。
可測集合 $E\subset X$ 上の積分 $\int_{E}fd\mu$ も\[\int_{E}fd\mu := \int_{X}f\cdot \chi_{E}d\mu\]により定義でき、次が成立します。
非負値可測関数 $f : X\to [0, +\infty]$ と互いに非交叉な可測集合 $E_{1}, \dots, E_{n}$ に対し、$E := \bigsqcup_{k = 1}^{n}E_{k}$ とおけば\[\int_{E}fd\mu = \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}fd\mu\]が成立する。
自明です。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上で定義された実数値可測関数 $f : X\to \overline{\R}$ に対する積分 $\int_{X}fd\mu$ は $f$ を非負値関数\[f_{+} := \max\{f, 0\} : x\mapsto \max\{f(x), 0\},\]\[f_{-} := \max\{-f, 0\} : x\mapsto \max\{-f(x), 0\}\]との差 $f = f_{+} - f_{-}$ に分解したうえで\[\int_{X}fd\mu := \int_{X}f_{+}d\mu - \int_{X}f_{-}d\mu\]により定義します。注意が必要なのは $\int_{X}f_{+}\mu = \int_{X}f_{-}d\mu = +\infty$ の場合には定義されないことで、その場合は通常考慮しません。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上で定義された実数値関数 $f : X\to \overline{\R}$ が与えられたとする。
このときの $\int_{X}fd\mu := \int_{X}f_{+}d\mu - \int_{X}f_{-}d\mu$ を $f$ の積分、定積分、積分値などと呼ぶ。
さらに可測集合 $E\subset X$ が与えられたとする。
このときの $\int_{E}fd\mu := \int_{X}f\cdot \chi_{E}d\mu$ を $f$ の $E$ 上の積分、定積分、積分値などと呼ぶ。
積分の記号として、変数を明示して\[\int_{E}f(x)d\mu, \ \int_{E}f(x)dx\]などとも表すことにする。
もちろん、非負値可測関数に対しては非負値可測関数について考えた積分値に一致します。その他、簡単に分かることを確かめます。
可測集合 $E\subset X$ と $E$ 上で定積分を持つ実数値関数 $f : X\to \overline{\R}$ が与えられたとする。
(1) $(f\cdot \chi_{F})_{+}\leq (f\cdot \chi_{E})_{+}$, $(f\cdot \chi_{F})_{-}\leq (f\cdot \chi_{E})_{-}$ であるので\[\int_{X}(f\cdot \chi_{F})_{+}(x)d\mu\leq \int_{X}(f\cdot \chi_{E})_{+}(x)d\mu,\]\[\int_{X}(f\cdot \chi_{F})_{-}(x)d\mu\leq \int_{X}(f\cdot \chi_{E})_{-}(x)d\mu\]が成立し、右辺上下の少なくとも一方が有界値であることから左辺上下の少なくとも一方は有界値を取り、つまりは $f$ は $F$ 上で定積分を持ちます。
(2) (1)の評価において、右辺上下がともに有界値であることから左辺上下もともに有界値を取り、つまりは $f$ は $F$ 上可積分です。
実数値関数 $f : X\to \overline{\R}$ と互いに非交叉な可測集合 $E_{1}, \dots, E_{n}$ が与えられたとする。また、$E := \bigsqcup_{k = 1}^{n}E_{k}$ とおく。次が成立する。
(1) 計算すると\begin{eqnarray*}\int_{E}fdx & = & \int_{E}f_{+}d\mu - \int_{E}f_{-}d\mu \\& = & \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}f_{+}d\mu - \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}f_{-}d\mu \\& = & \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}d\mu\end{eqnarray*}です。
(2) $\int_{E}f_{\pm}d\mu = \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}f_{\pm}d\mu$ ですが、仮定からどちらか一方は有界値であり、$f$ は $E$ 上で定積分を持ちます。
(3) $\int_{E}f_{\pm}d\mu = \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}f_{\pm}d\mu$ ですが、これらはともに各 $E_{k}$ 上の可積分性から有界値であり、$f$ は $E$ 上可積分です。
定積分を持つ実数値可測関数 $f, g : X\to \overline{\R}$ であって $f\leq g$ を満たすものに対して\[\int_{X}fd\mu\leq \int_{X}gd\mu\]が成立する。
$f_{+}\leq g_{+}$ と $g_{-}\leq f_{-}$ を満たすことと系4.6.27から\[\int_{X}fd\mu = \int_{X}f_{+}d\mu - \int_{X}f_{-}d\mu\leq \int_{X}g_{+}d\mu - \int_{X}g_{-}d\mu = \int_{X}gd\mu\]です。
定積分を持つ実数値可測関数 $f : X\to \overline{\R}$ に対して\[\left|\int_{X}fd\mu\right|\leq \int_{X}|f|d\mu\]が成立する。
$-|f|\leq f\leq |f|$ であることから\[-\int_{X}|f|d\mu\leq \int_{X}fd\mu\leq \int_{X}|f|d\mu\]であり、これは主張の不等式を意味します。
実数値関数 $f : X\to \overline{\R}$ に対して次は同値である。
(1) ⇔ (2) 明らかです。
(1) ⇒ (3) $|f|_{+} = f_{+} + f_{-}$, $|f|_{-} = 0$ であり、$f$ の可積分性から\[\int_{X}|f|_{+}d\mu = \int_{X}f_{+}d\mu + \int_{X}f_{-}d\mu < +\infty\]であるので $|f|$ は可積分です。
(3) ⇒ (1) $f$ が可測であることから $\int_{X}f_{+}d\mu$ と $\int_{X}f_{-}d\mu$ が意味を持ち、$|f|$ の可積分性と $f_{\pm}\leq |f|$ であることから\[\int_{X}f_{\pm}d\mu\leq \int_{X}|f|d\mu < +\infty\]です。よって、$f$ は可積分です。
実数値可測関数 $f : X\to \overline{\R}$ と非負値可積分関数 $g : X\to [0, +\infty]$ が与えられ、$|f|\leq g$ を満たすとする。このとき、$f$ も可積分である。
$g$ の可積分性はただちに $|f|$ の可積分性を導き、$f$ の可測性と合わせて $f$ は可積分です。
次が成立します。
実数値可測関数 $f, g : X\to \overline{\R}$ と実数 $a, b\in \R$ が与えられ、$af + bg$ が関数として定まっているとする$af + bg$ が定まっているという仮定は、符号同順で $af(x) = \pm\infty$ かつ $bg(x) = \mp\infty$ となる点を除外するためです。ただ、ここで考える状況ではそのような点全体からなる集合は零集合であり、4.6.3節で説明する通り、測度空間上の積分を考える上では無視できる些末な問題です。。次が成立する。
まず、一般に定積分を持つ可測関数 $h : X\to \overline{\R}$ と実数 $c\in \R$ に対して $ch$ が再び定積分を持ち\[\int_{X}ch d\mu = c\int_{X}h d\mu\]が成立することは明らかです。よって、最初から $a = b = 1$ として示せばよいです。
(1) 省略します。(2)と同様ですが、真面目に証明するとそこそこ煩雑です。
(2) $A := X(f + g\geq 0)$, $B := X(f + g < 0)$ と定めれば\[(f + g)_{+} = (f + g)|_{A} = f_{+}|_{A} - f_{-}|_{A} + g_{+}|_{A} - g_{-}|_{A},\]\[(f + g)_{-} = -(f + g)|_{B} = -(f_{+}|_{B} - f_{-}|_{B} + g_{+}|_{B} - g_{-}|_{B})\]であり、非負値可測関数の積分に対する結果から\[\int_{X}(f + g)_{+}d\mu + \int_{X}f_{-}|_{A}d\mu + \int_{X}g_{-}|_{A}d\mu = \int_{X}f_{+}|_{A}d\mu + \int_{X}g_{+}|_{A}d\mu,\]\[\int_{X}(f + g)_{-}d\mu + \int_{X}f_{+}|_{B}d\mu + \int_{X}g_{+}|_{B}d\mu = \int_{X}f_{-}|_{B}d\mu + \int_{X}g_{-}|_{B}d\mu\]です。$f, g$ の可積分性から上下ともに現れた積分の右 $4$ つは有界値であり、$\int_{X}(f + g)_{\pm}d\mu$ も有界値です。よって、$f + g$ は可積分です。等式については上記を整理して\begin{eqnarray*}\int_{X}f + gd\mu & = &\int_{X}(f + g)_{+}d\mu - \int_{X}(f + g)_{-}d\mu \\& = & \int_{X}f_{+}|_{A}d\mu + \int_{X}g_{+}|_{A}d\mu - \int_{X}f_{-}|_{A}d\mu - \int_{X}g_{-}|_{A}d\mu \\& + & \int_{X}f_{+}|_{B}d\mu + \int_{X}g_{+}|_{B}d\mu - \int_{X}f_{-}|_{B}d\mu - \int_{X}g_{-}|_{B}d\mu \\& = & \int_{X}f_{+}d\mu - \int_{X}f_{-}d\mu + \int_{X}g_{+}d\mu - \int_{X}g_{-}d\mu \\& = & \int_{X}fd\mu + \int_{X}gd\mu\end{eqnarray*}なのでよいです。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上で定義された複素数値関数 $f : X\to \C$ が与えられたとします。これは実部と虚部 $\re f, \im f : X\to \R$ を用いて $f = \re f + \sqrt{-1}\im f$ という形に表せますが、そこで、この実部 $\re f$ と $\im f$ がともに可積分な場合に $f$ の積分 $\int_{X}fd\mu$ を\[\int_{X}fd\mu = \int_{X}\re f d\mu + \sqrt{-1}\int_{X}\im f d\mu\]と定義します。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上で定義された複素数値関数 $f : X\to \C$ が与えられたとする。
このときの $\int_{X}fd\mu := \int_{X}\re f d\mu + \sqrt{-1}\int_{X}\im f d\mu$ を $f$ の積分、定積分、積分値なとど呼ぶ。
さらに可測集合 $E\subset X$ が与えられたとする。
このときの $\int_{E}fd\mu := \int_{X}f\cdot \chi_{E}d\mu$ を $f$ の $E$ 上の積分、定積分、積分値なとど呼ぶ。
積分の記号として、変数を明示して\[\int_{E}f(x)d\mu, \ \int_{E}f(x)dx\]などとも表すことにする。
基本的なことを並べておきます。
可測集合 $E\subset X$ と $E$ 上で可積分な複素数値関数 $f : X\to \C$ が与えられたとする。任意の可測集合 $F\subset E$ に対して $f$ は $F$ 上可積分である。
$\re f$ と $\im f$ は $E$ 上可積分ですが、命題4.6.30よりこれらは $F$ 上でも可積分であり、よって、$f$ は $F$ 上可積分です。
複素数値関数 $f : X\to \C$ と互いに非交叉な可測集合 $E_{1}, \dots, E_{n}$ が与えられたとする。また、$E := \bigsqcup_{k = 1}^{n}E_{k}$ とおく。次は同値である。
また、これらが成立するとき\[\int_{E}fd\mu = \sum_{k = 1}^{n}\int_{E_{k}}fd\mu\]が成立する。
複素数値関数 $f : X\to \C$ に対して次は同値である。
命題3.2.54などを使う。
(1) ⇒ (2) $f$ の可測性は自明。$|f|$ も可測であり、$|f|\leq |\re f| + |\im f|$ であることと $\re f, \im f$ の可積分性から $\int_{X}|f|d\mu$ は有界値を取り、つまりは $|f|$ は可積分です。
(2) ⇒ (1) $f$ の可測性から $\int_{X}(\re f)_{\pm}d\mu$ と $\int_{X}(\im f)_{\pm}d\mu$ はいずれも意味を持ちます。$|\re f|\leq |f|$ と $|\im f|\leq |f|$ が成立することと $|f|$ の可積分性から $\int_{X}(\re f)_{\pm}d\mu$ と $\int_{X}(\im f)_{\pm}d\mu$ はいずれも有界値であり、$\re f$ と $\im f$ は可積分です。つまり、$f$ は可積分です。
複素数値可測関数 $f : X\to \C$ と非負値可積分関数 $g : X\to [0, +\infty]$ が与えられ、$|f|\leq g$ を満たすとする。このとき、$f$ も可積分である。
$g$ の可積分性はただちに $|f|$ の可積分性を導き、$f$ の可測性と合わせて $f$ は可積分です。
複素数値可積分関数 $f, g : X\to \C$ と複素数 $a, b\in \C$ に対して $af + bf$ は可積分であり\[\int_{X}af + bgd\mu = a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu\]が成立する。
$af + bg$ の可測性はよく、$|af + bf|\leq |a||f| + |b||g|$ であることと $f, g$ の可積分性から $af + bg$ は可積分です。
等式については実部と虚部に分けて計算するだけです。具体的には\begin{eqnarray*}\int_{X}\re(af + bg)d\mu & = & \int_{X}(\re a\cdot \re f - \im a\cdot \im f + \re b\cdot \re g - \im b\cdot \im g)d\mu \\& = & \re a \int_{X}\re f d\mu - \im a \int_{X}\im f d\mu + \re b \int_{X}\re g d\mu - \im b \int_{X}\im g d\mu \\& = & \re a\cdot \re \int_{X}f d\mu - \im a\cdot \im \int_{X}f d\mu + \re b\cdot \re \int_{X}g d\mu - \im b\cdot \im \int_{X}g d\mu \\& = & \re\left(a\int_{X}f d\mu\right) + \re\left(b\int_{X}g d\mu\right), \\\int_{X}\im(af + bg)d\mu & = & \int_{X}(\re a\cdot \im f + \im a\cdot \re f + \re b\cdot \im g + \im b\cdot \re g)d\mu \\& = & \re a \int_{X}\im f d\mu + \im a \int_{X}\re f d\mu + \re b \int_{X}\im g d\mu + \im b \int_{X}\re g d\mu \\& = & \re a\cdot \im \int_{X}f d\mu + \im a\cdot \re \int_{X}f d\mu + \re b\cdot \im \int_{X}g d\mu + \im b\cdot \re \int_{X}g d\mu \\& = & \im\left(a\int_{X}f d\mu\right) + \im\left(b\int_{X}g d\mu\right)\end{eqnarray*}から\begin{eqnarray*}\int_{X}af + bg d\mu & = & \int_{X}\re(af + bg)d\mu + \sqrt{-1}\int_{X}\im(af + bg)d\mu \\& = & \re\left(a\int_{X}f d\mu\right) + \re\left(b\int_{X}g d\mu\right) + \sqrt{-1}\im\left(a\int_{X}f d\mu\right) + \sqrt{-1}\im\left(b\int_{X}g d\mu\right) \\& = & a\int_{X}fd\mu + b\int_{X}gd\mu\end{eqnarray*}です。(まあ、書き下すにしても普通に係数倍と和に分けて示すほうがいいでしょうね。)
複素数値可積分関数 $f : X\to \C$ に対して\[\left|\int_{X}fd\mu\right|\leq \int_{X}|f|d\mu\]が成立する。
$I := \int_{X}fd\mu$ が $0$ のときは自明なので $I\neq 0$ とします。$a := \overline{I}/I$ と定めると $\int_{X}afd\mu$ は $|\int_{X}fd\mu|$ に等しく、\[\left|\int_{X}fd\mu\right| = \int_{X}af d\mu = \int_{X}\re(af)\mu\leq \int_{X}|\re(af)|d\mu\leq \int_{X}|f|d\mu\]です。
Lebesgue測度空間 $(\R^{n}, \mathcal{L}^{n}, \mu^{n})$ やその可測集合上で定義された可測関数に対する積分はLebesuge積分と呼ばれます。ただし、テキストによってはこれまで考えてきた一般の測度空間上の積分も含めてLebesgue積分と呼ぶことがあるようです。
測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ と $X$ 上の命題関数 $P(x)$ が与えられたとして、ある $\mu$-零集合 $N$ を除いた全ての $x\in X\setminus N$ に対して $P(x)$ が真となるとき、ほとんど全ての $x\in E$ で $P(x)$ が成立する、ほとんどいたるところ $P(x)$ が成立するなどといい\[P(x) \ \mu\text{-a.e.}, \quad \ P(x) \ \mu\text{-a.a.}\]などで表しますa.e.はalmost everywhereの略、a.a.はalmost allの略。。可測集合 $E$ 上で考えてもよく、ある $\mu$-零集合 $N$ を除いた全ての $x\in E\setminus N$ に対して $P(x)$ が真となるとき、$E$ 上ほとんど全ての $x\in E$ で $P(x)$ が成立する、$E$ 上ほとんどいたるところ $P(x)$ が成立するなどといい\[P(x) \ \mu\text{-a.e.} \ x\in E, \quad P(x) \ \mu\text{-a.a.} \ x\in E\]などで表します。混乱の恐れがなければ適当な略記もします。
例えば、関数 $f, g : X\to Y$ が与えられたとして、$f$ と $g$ がほとんどいたるところ一致するとは、ある $\mu$-零集合 $N$ が存在して全ての $x\in N^{c}$ に対して $f(x) = g(x)$ が成立することであり、これを $f = g \ \text{a.e.}$ と書きます。
積分を考えるときは次が重要です。
複素数値可測関数 $f, g : X\to \C$ に対して次は同値である。
(1) ⇒ (2) 広義単調増加な非負値単関数列 $\{h_{n} : X\to \R\}_{n\in\N}$ であって $|g - f|$ に収束するものを取ります。$h_{n}\leq |g - f|$ であり、$0\leq \int_{X}h_{n}d\mu\leq \int_{X}|g - f|d\mu = 0$ となり、$\int_{X}h_{n}d\mu = 0$ です。非負値単関数の積分の定義を見れば $\mu(X(h_{n} > 0)) = 0$ が分かります。$X(f\neq g) = X(|g - f| > 0) = \underset{n\to\infty}{\lim}X(h_{n} > 0)$ なので $\mu(X(f\neq g)) = \underset{n\to\infty}{\lim}\mu(X(h_{n} > 0)) = 0$ です。
(2) ⇒ (1) 任意の $h\in \mathcal{S}(|g - f|)$ に対して\[\mu(X(h > 0))\leq \mu(X(|g - f|)) = \mu(X(f\neq g)) = 0\]から $\int_{X}hd\mu = 0$ が分かります。よって、$\int_{X}|g - f|d\mu = \underset{h\in\mathcal{S}(|g - f|)}{\sup}\int_{X}hd\mu = 0$ となります。
ほとんどいたるところ一致する複素数値可測関数 $f, g : X\to \C$ に対して次が成立する。
補題4.6.45より $\int_{X}g - fd\mu = 0$ であることと $g = f + (g - f)$ より分かります。
$\K = \C, \R$ とします。測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ 上で定義された $\K$ 値可測関数全体からなる空間を $\mathcal{L}_{\K}(X, \mathcal{M}, \mu)$ で表し、その中でほとんどいたるところ $0$ を値に取るもの全体を $\mathcal{L}_{\K, 0}(X, \mathcal{M}, \mu)$ で表すとします。$\mathcal{L}_{\K}(X, \mathcal{M}, \mu)$ は明らかな加法と係数倍によって $\K$ 線型空間になり、$\mathcal{L}_{\K, 0}(X, \mathcal{M}, \mu)$ はその部分空間になります。また、ここでは商空間 $\mathcal{L}_{\K}(X, \mathcal{M}, \mu)/\mathcal{L}_{\K, 0}(X, \mathcal{M}, \mu)$ を $L_{\K}(X, \mathcal{M}, \mu)$ で表すとします。ただし、よくやるように混乱の恐れがなければ $L_{\K}(X)$ や $L(\mu)$ などの略記もすることにします。
以下では $\K = \C$ として測度空間 $(X, \mathcal{M}, \mu)$ も固定して考えることにします。$($$\K = \R$ の場合も同様に議論できます。$)$
系4.6.46は $L(X)$ の同値類に属する関数たちが一斉に全て可積分かそうでないかに決まってしまうこと意味し、よって、その同値類が可積分であるということをその適当に取った代表元が可積分であることによって定義することができます。さらに系4.6.46は $L(X)$ の可積分な同値類に属する関数の積分値が全て一致することを意味し、その積分値を同値類の積分値として定義することができます。
可積分関数の空間を考察する際には零集合上の値の違いは無視してしまうと扱いが非常によくなるため、通常はこの商を取った $L(X)$ がどのような空間かを見ていくことになります。ここで、$L(X)$ の元はもちろん関数ではないですが、普通はそこの区別を記号や用語レベルでは行わず、$L(X)$ の元 $f$ を可測関数と読んだり $f$ の積分を $\int_{X}fd\mu$ で表したりします。(とはいえ、本当は同値類にはなるので、「代表元の取り方によらない」といった類の議論は裏で必要になる。)
商空間 $L(X)$ を考えることでまず得られる恩恵は、可積分関数の空間に自然にノルムを導入できることです。ここではより一般に $p$ 乗可積分関数と $L^{p}$ 空間を導入します。
実数値可測関数 $f : X\to \overline{\R}$ に対してその本質的上限 $\esssup f$ を\[\esssup f := \sup\{a\in \R\mid \mu(X(f > a)) > 0\}\]と定める。
$p\in [1, +\infty]$ とする。
$p\in [1, +\infty]$ とする。$p$ 乗可積分な $\K$ 値可測関数全体からなる $L_{\K}(X, \mathcal{M}, \mu)$ の部分空間を $L^{p}$ 空間と呼び $L_{\K}^{p}(X, \mathcal{M}, \mu)$ により表す。$L^{p}(X)$ や $L^{p}(\mu)$ などとも略記する。
$L^{p}$-ノルムにより $L^{p}$ 空間 $L^{p}(X)$ はBanach空間になります。完備性については定理4.7.17に回すとして、ここではノルム空間になっていることを確かめます。このことを示すためにいくつかの基本的な不等式評価を用意します。ただし、以下では $(+\infty)^{-1} = 0$ と考えることにします。
各 $p\in [1, +\infty]$ に対して $L^{p}(X)$ は複素線型空間である。
任意の $a\in \C$ と $f\in L^{p}(X)$ に対して $\|af\|_{p} = |a|\|f\|_{p} < +\infty$ であるので係数倍に関しては閉じています。あとは $f, g\in L^{p}(X)$ に対して $f + g\in L^{p}(X)$ を示せばよいです。$p = +\infty$ のときは明らかなので $p < +\infty$ とします。可測関数 $h := \max\{|f|, |g|\}$ を取ります。$|f + g| \leq 2h$ かつ\[\int_{X}h^{p}d\mu = \int_{X}\max\{|f|^{p}, |g|^{p}\}d\mu \leq \int_{X}|f|^{p}dx + \int_{X}|g|^{p}d\mu < +\infty\]なので\[\int_{X}|f + g|^{p}d\mu \leq 2^{p}\int_{X}h^{p}d\mu < +\infty\]となり、$f + g\in L^{p}(X)$ が分かります。
$p, q\in [1, +\infty]$ かつ $p^{-1} + q^{-1} = 1$ とする。任意の $f, g\in L(X)$ に対して不等式\[\|fg\|_{1}\leq \|f\|_{p}\|g\|_{q}\]が成立する。特に $f\in L^{p}(X)$, $g\in L^{q}(X)$ であれば $fg\in L^{1}(X)$ が成立する。
$p, q$ のうち一方が $+\infty$ の場合は容易なので $p, q\in (1, +\infty)$ とします。$\|f\|_{p} = 0$ または $\|g\|_{q} = 0$ のときは $f$ または $g$ がほとんどいたるところ $0$ を値に取るため $fg$ もそうであり、$\|fg\|_{1} = 0$ となるため主張の等式が成立します。また、$\|f\|_{p} = +\infty$ または $\|g\|_{q} = +\infty$ の場合も明らかに成立します。そこで $\|f\|_{p}, \|g\|_{q}$ はいずれも $0, +\infty$ ではないとします。任意の実数 $r\in [1, +\infty)$, $a\in \R$ と $h\in L^{r}(U)$ に対して $ah\in L^{r}(U)$ かつ $\|ah\|_{r} = |a|\|h\|_{r}$ が成立しているので $\|f\|_{p} = \|g\|_{q} = 1$ として $\|fg\|_{1}\leq 1$ を示せばよいですが、これは\begin{eqnarray*}\|fg\|_{1} & = & \int_{X}|f||g|d\mu \\& \leq & \int_{X}(p^{-1}|f|^{p} + q^{-1}|g|^{q})d\mu \\& = & p^{-1}\int_{X}|f|^{p}d\mu + q^{-1}\int_{X}|g|^{q}d\mu \\& = & p^{-1} + q^{-1} = 1\end{eqnarray*}より分かります。途中の不等式に任意の非負実数 $a, b \geq 0$ に対して $ab\leq a^{p}p^{-1} + b^{q}q^{-1}$ だったこと $($補題1.7.6の証明$)$ を使っています。
次が成立する。(ここでは使わないけどついでに…)
(1) $r = \infty$ のときは $p = q = \infty$ なので明らかです。$r\in [1, \infty)$ のとき、$(p/r)^{-1} + (q/r)^{-1} = 1$ とHölder不等式 $($命題4.6.51$)$ より\[\|fg\|_{r}^{r} = \||f|^{r}|g|^{r}\|_{1} \leq \||f|^{r}\|_{p/r}\||g|^{r}\|_{q/r} = \|f\|_{p}^{r}\|g\|_{q}^{r}\]です。
(2) (1)が $n = 2$ の場合です。残りは帰納法から、$n$ ではよいとして $n + 1$ に対して示します。$f := \prod_{k = 1}^{n + 1}f_{k}$, $f' := \prod_{k = 1}^{n}f_{k}$ とおきます。$\sum_{k = 1}^{n + 1}p_{k}^{-1} = r^{-1}$ を整理して $\sum_{k = 1}^{n}p_{k}^{-1} = (p_{n + 1}r/(p_{n + 1} - r))^{-1}$ であり、帰納法の仮定から\[\|f'\|_{p_{n + 1}r/(p_{n + 1} - r)}\leq \prod_{k = 1}^{n}\|f_{k}\|_{p_{k}}\]ですが、ここで $f', f_{n + 1}$ に $n = 2$ の場合を適用して\[\|f\|_{r} = \|f'f_{n + 1}\|_{r}\leq \|f'\|_{p_{n + 1}r/(p_{n + 1} - r)}\|f_{n + 1}\|_{p_{n + 1}}\leq \prod_{k = 1}^{n + 1}\|f_{k}\|_{p_{k}}\]です。
$p\in [1, +\infty]$ とする。任意の $f, g\in L(X)$ に対して不等式\[\|f + g\|_{p}\leq \|f\|_{p} + \|g\|_{p}\]が成立する。
$p = 1, \infty$ のときは明らかなので $p\in (1, \infty)$ とします。また、$\|f\|_{p} = +\infty$ または $\|g\|_{p} = +\infty$ の場合も明らかなのでいずれも有界値とします。この場合は命題4.6.50より $f + g\in L^{p}(X)$ です。
まず、$q^{-1} := 1 - p^{-1} = (p - 1)/p$ とすれば\[\int_{X}|f + q|^{q(p - 1)}d\mu = \int_{X}|f + g|^{p}d\mu < \infty\]であり、$|f + g|^{p - 1}\in L^{q}(X)$ です。Hölder不等式 $($命題4.6.51$)$ より\[\int_{X}|f + g|^{p - 1}|f|d\mu \leq \left(\int_{X}|f + g|^{q(p - 1)}d\mu\right)^{1/q}\left(\int_{X}|f|^{p}d\mu\right)^{1/p} = \|f + g\|_{p}^{p - 1}\|f\|_{p},\]\[\int_{X}|f + g|^{p - 1}|g|d\mu \leq \left(\int_{X}|f + g|^{q(p - 1)}d\mu\right)^{1/q}\left(\int_{X}|g|^{p}d\mu\right)^{1/p} = \|f + g\|_{p}^{p - 1}\|g\|_{p}\]なので\begin{eqnarray*}\|f + g\|_{p}^{p} & = & \int_{X}|f + g|^{p}d\mu \\& \leq & \int_{X}|f + g|^{p - 1}|f|d\mu + \int_{X}|f + g|^{p - 1}|g|d\mu \\& \leq & \|f + g\|_{p}^{p - 1} (\|f\|_{p} + \|g\|_{p})\end{eqnarray*}です。$\|f + g\|_{p} < +\infty$ に注意して主張の不等式を得ます。
各 $p\in [1, +\infty]$ に対して $L^{p}(X)$ は $L^{p}$-ノルムに関するノルム空間である。
基本的な事実として、数え上げ測度に関する積分は総和と同等です。
$(X, 2^{X}, \mu)$ を数え上げ測度 $($例4.5.3$)$ を与えた測度空間とする。関数 $f : X\to \C$ に対して次は同値である。
さらに、いずれかが成立していれば\[\int_{X}fd\mu = \sum_{x\in X}f(x)\]が成立する。
関数 $f, |f|$ の可積分性が同値であったことと族 $\{f(x)\}_{x\in X}, \{|f(x)|\}_{x\in X}$ の総和可能性が同値であったこと $($命題1.9.29$)$ から、関数 $|f|$ の可積分性と族 $\{|f(x)|\}_{x\in X}$ の総和可能性が同値であることを示せばよいです。任意の有限部分集合 $A\subset X$ に対して\[\int_{A}|f|d\mu = \sum_{x\in A}|f(x)|\]であることから\[\sup_{g\in \mathcal{S}(|f|)}\int_{X}gd\mu = \sup_{A\subset X, \ \#A < +\infty}\int_{A}|f|d\mu = \sup_{A\subset X, \ \#A < +\infty}\sum_{x\in A}|f(x)|\]ですが、左辺の有界性が $|f|$ の可積分性、右辺の有界性が $\{|f(x)|\}_{x\in X}$ の総和可能性を意味する $($命題1.9.29$)$ ので、これら同値です。
等式について、いずれも実部虚部・正負に分けて計算すればよいことから、最初から $f$ は非負値として\[\int_{X}fd\mu = \sup_{g\in \mathcal{S}(f)}\int_{X}gd\mu = \sup_{A\subset X, \ \#A < +\infty}\sum_{x\in A}f(x) = \sum_{x\in X}f(x)\]なのでよいです。
$\R^{n}$ に $p$-ノルムを与えることでノルム空間が作れましたが、これは $\R^{n}$ の元を集合 $\{0, 1, \dots, n - 1\}$ 上で定義された関数と解釈して数え上げ測度に関する $L^{p}$-ノルムを考えたものに同じです。次に定義する $l^{p}$ 空間は $\R^{n}$ 上の $p$-ノルム空間を数列の空間に拡張したものに相当します。
$\N$ 上の数え上げ測度に関する $L^{p}$ 空間 $L_{\K}^{p}(\N, 2^{\N}, \mu)$ を $l^{p}$ 空間と呼び、ここでは $l^{p}_{\K}$ や単に $l^{p}$ で表す。
Riemann積分との関係について少しまとめます。Riemann積分関連の用語や記号については4.3節を参照。
最初に使う補題だけ用意しておきます。
有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ と $R$ の分割の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N}$ であって常に $D_{n + 1}$ が $D_{n}$ の細分になっていて $\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D_{n}) = 0$ を満たすものが与えられたとする。各 $n\in \N$ に対して関数 $g_{n}, h_{n} : R\to \R$ を\[g_{n}(x) := \left\{\begin{array}{ll}\underset{y\in S}{\inf}f(y) & (x\in \Int S \ (S\in D_{n})) \\f(x) & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[h_{n}(x) := \left\{\begin{array}{ll}\underset{y\in S}{\sup}f(y) & (x\in \Int S \ (S\in D_{n})) \\f(x) & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]と定め、$g := \underset{n\in\N}\sup g_{n}$, $h := \underset{n\in\N}\inf h_{n}$ と定める。さらに、関数 $\underline{f}, \overline{f} : R\to \R$ を\[\underline{f}(x) := \lim_{r\to +0}\inf_{|y - x| < r}f(y),\]\[\overline{f}(x) := \lim_{r\to +0}\sup_{|y - x| < r}f(y)\]と定める。あと、$F := \bigcup_{n\in\N}\bigcup_{S\in D_{n}}\partial S$ と定める。このとき、次が成立する。
(1) 構成から明らかに $g_{n}\leq f\leq h_{n}$ であり、あとは左辺の上限と右辺の下限を取ればよいです。
(2) (3) 容易です。
(4) $x\in R\setminus F$ とします。各 $n\in N$ に対してある $S_{n}\in D_{n}$ であって $x\in \Int S_{n}$ を満たすものが一意に存在し、$\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(S_{n}) = 0$ が成立します。各 $r > 0$ に対して十分に大きい $n\in \N$ を取れば $S_{n}$ は $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体に含まれるので\[\inf_{|y - x| < r}f(y)\leq g_{n}(x)\]であり、このことから $\underline{f}(x) = \underset{r\to +0}{\lim}\underset{|y - x| < r}{\inf}f(y)\leq g(x)$ が従います。また、各 $n\in \N$ に対して十分に小さい $r > 0$ を取れば $x$ を中心とする半径 $r$ の開球体は $S_{n}$ に含まれるので\[g_{n}(x)\leq \inf_{|y - x| < r}f(y)\]であり、このことから $g(x)\leq \underset{r\to +0}{\lim}\underset{|y - x| < r}{\inf}f(y) = \underline{f}(x)$ が従います。以上により $\underline{f}(x) = g(x)$ です。
(5) (4)と同様です。
(6) 構成から明らかに $f$ が $x$ において下半連続であることと $\underline{f}(x) = f(x)$ であることとは同値であり、$f$ が $x$ において上半連続であることと $\overline{f}(x) = f(x)$ であることとは同値です。よって、$f$ が $x$ において連続であることと $\underline{f}(x) = \overline{f}(x)$ とは同値です。(4)と(5)よりこれは $x\in R\setminus F$ に対しては $g(x) = h(x)$ と同値です。
(7) 各小超直方体の境界 $\partial S$ は零集合であり、それらの可算和である $F$ も零集合です。
まず、Riemann可積分関数はLebesgue可積分であり、積分値は一致します。
有界閉超直方体 $R$ 上で定義されたRiemann可積分関数 $f : R\to \R$ はLebesgue可積分であり、等式\[\int_{R}fdx = \int_{R}fd\mu\]が成立する。ただし、左辺でRiemann積分、右辺でLebesgue積分を表すとする。
補題4.6.57の記号をそのまま使います。
各 $n\in \N$ に対して $\int_{R}g_{n}d\mu$ は不足和 $\underline{S}(f, D_{n})$ であり、$\int_{R}h_{n}d\mu$ は過剰和 $\overline{S}(f, D_{n})$ です。そして、$f$ のRiemann可積分性よりこれらの $n\to \infty$ とした極限値はいずれも $\int_{R}fdx$ です。よって、\[\int_{R}fdx = \lim_{n\to\infty}\int_{R}g_{n}d\mu\leq \int_{R}gd\mu\leq \int_{R}hd\mu\leq \lim_{n\to\infty}\int_{R}h_{n}d\mu = \int_{R}fdx\]であり、\[\int_{R}|h - g|d\mu = 0\]です。$g$ と $h$ はほとんどいたるところ一致し、もちろん $g\leq f\leq h$ の評価から $f$ ともそうです。よって、$f$ は可測関数であり、あとは\[\int_{R}fdx = \int_{R}gd\mu\leq \int_{R}fd\mu\leq \int_{R}hd\mu = \int_{R}fdx\]から $f$ のLebesgue可積分性と積分値の一致が従います。
Riemann可積分関数は次の特徴付けを持ちます。
有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ に対して次は同値である。
補題4.6.57の記号をそのまま使います。
(1) ⇒ (2) 定理4.6.58の証明で示した通り $g$ と $h$ はほとんどいたるところ一致します。よって、補題4.6.57より $f$ ほとんどいたるところ連続です。
(2) ⇒ (1) 補題4.6.57より $g$ と $h$ はほとんどいたるところ一致します。そして、非負関数列 $\{h_{n} - g_{n}\}_{n\in\N}$ は広義単調減少かつほとんどいたるところ $0$ に各点収束します。ここで任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対して\[0\leq \int_{R}h_{n} - g_{n}d\mu\leq \varepsilon\cdot \mu(R(h_{n} - g_{n} \leq \varepsilon)) + 2\sup_{x\in R}|f(x)|\cdot \mu(R(h_{n} - g_{n} > \varepsilon))\]と評価できることと $\underset{n\to\infty}{\lim}\mu(R(h_{n} - g_{n} > \varepsilon)) = 0$ から $0\leq \underset{n\to\infty}{\lim}\int_{R}h_{n} - g_{n}d\mu\leq \varepsilon\cdot \mu(R)$ と評価でき、$\underset{n\to\infty}{\lim}\int_{R}h_{n} - g_{n}d\mu = 0$ です。$\int_{R}g_{n}d\mu$ が不足和 $\underline{S}(f, D_{n})$ で $\int_{R}h_{n}d\mu$ は過剰和 $\overline{S}(f, D_{n})$ であったので、これは下積分と上積分が一致することを意味します。つまり、$f$ はRiemann可積分です。
$\R^{m}$ の有界部分集合 $A$ に対して次は同値である。
$A$ の定義関数 $\chi_{A}$ の不連続点全体からなる集合はその境界 $\partial A$ です。よって、定理4.6.59から同値性が従います。
以上です。
特になし。
参考文献
更新履歴