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4.3 Riemann積分

あまり観念的な説明はせず、淡々とRiemann積分を構成し、微積分学の基本定理などの基本事実を紹介します。ひたすら理論的な整備だけして、具体的な関数の積分計算例については4.4節でまとめます。

4.3.1 Riemann積分の構成
超直方体とその分割

Riemann積分を導入するための準備として超直方体とその分割について言葉や記号を導入します。

まずは有界閉区間の分割を導入します。

定義4.3.1
(有界閉区間の分割)

有界閉区間 $J = [a, b]$ が与えられているとする。

(1) $J$ の有限部分集合であって両端点が属すものを区間 $J$ の分割と呼ぶ。
(2) $J$ の分割 $D, E$ が与えられ $D\subset E$ を満たしているとき、$E$ は $D$ の細分であるという。
(3) $J$ の分割 $D_{1}, \dots, D_{n}, E$ が与えられ $E$ が各 $D_{k}$ の細分であるとき、$E$ は $D_{1}, \dots, D_{n}$ の共通細分であるという。
(4) $J$ の分割全体からなる族を $\mathcal{D}(J)$ により表すことにする。

区間 $J = [a, b]$ の分割 $D$ はその各元を小さい順に並べることで狭義単調増加列 $a = x_{0} < x_{1} < \dots < x_{n} = b$ として表すことができ、これにより小区間の族 $[x_{0}, x_{1}], [x_{1}, x_{2}], \dots, [x_{n - 1}, x_{n}]$ と自然な対応付けが可能です。そこで、分割 $D$ をこれら小区間の族とも考えることにします。

以下、$\R^{m}$ の有界閉超直方体といったら有界閉区間 $J_{1}, \dots, J_{m}$ の直積 $\prod_{k = 1}^{m}J_{k}$ のことを指すとします。

有界閉超直方体の分割を導入します。

定義4.3.2
(有界閉超直方体の分割)

有界閉超直方体 $R = \prod_{k = 1}^{m}J_{k}$ の分割とは、各成分の有界閉区間 $J_{k}$ の分割 $D_{k}$ たちの組 $(D_{k})_{1\leq k\leq m}$ のことをいう。

細分、共通細分についても有界閉区間の場合と同様に定める。また、有界閉超直方体 $R$ の分割全体からなる族を $\mathcal{D}(R)$ により表すことにする。

有界閉超直方体 $R = \prod_{k = 1}^{m}J_{k}$ の分割 $D = (D_{k})_{1\leq k\leq m}$ は各 $D_{k}$ を小区間の族と思って\[\left\{\prod_{k = 1}^{m}I_{k}\relmid I_{k}\in D_{k} \ (1\leq k\leq m)\right\}\]で表される小超直方体の族とも考えることにします。

一般の有界閉超直方体 $R = \prod_{k = 1}^{m}J_{k} = \prod_{k = 1}^{m}[a_{k}, b_{k}]$ に対してその体積 $\vol(R)$ を\[\vol(R) := \prod_{k = 1}^{m}(b_{k} - a_{k})\]により定義し、直径 $\diam(R)$ を\[\diam(R) := \max_{1\leq k\leq m}(b_{k} - a_{k})\]により定義します標準的な距離に関する直径として $\diam(R) := \left(\sum_{k = 1}^{m}(b_{k} - a_{k})^{2}\right)^{1/2}$ と定義しても問題ないですが、計算の簡略化のためこう定めることにします。。そして、有界閉超直方体 $R$ の分割 $D$ に対し、小超直方体の族と思って、その直径 $\diam(D)$ を\[\diam(D) := \max_{S\in D}\diam(S)\]により定めます。

有界閉超直方体上のRiemann積分の構成

有界閉超直方体上で定義された有界関数についてのRiemann積分を構成します。

定義4.3.3
(過剰和・不足和)

有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ と $R$ の分割 $D$ が与えられているとする。

(1) 総和 $\underset{S\in D}{\sum}\vol(S)\cdot \underset{x\in S}{\sup}f(x)$ を過剰和といい、ここでは $\overline{S}(f, D)$ により表す。
(2) 総和 $\underset{S\in D}{\sum}\vol(S)\cdot \underset{x\in S}{\inf}f(x)$ を不足和といい、ここでは $\underline{S}(f, D)$ により表す。
定義4.3.4
(上積分・下積分)

有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ が与えられているとする。

(1) $\overline{\int}_{R}f(x)dx := \underset{D\in \mathcal{D}(R)}{\inf}\overline{S}(f, D)$ を $f$ の上積分という。
(2) $\underline{\int}_{R}f(x)dx := \underset{D\in \mathcal{D}(R)}{\sup}\underline{S}(f, D)$ を $f$ の下積分という。
命題4.3.5

必ず $\underline{\int}_{R}f(x)dx\leq \overline{\int}_{R}f(x)dx$ が成立する。

証明

有界閉超直方体 $R$ の任意の分割 $D, E$ に対して $\underline{S}(f, D)\leq \overline{S}(f, E)$ なので$D, E$ の共通細分 $F$ を取って\[\underline{S}(f, D)\leq \underline{S}(f, F)\leq \overline{S}(f, F)\leq \overline{S}(f, E)\]を確認すればよいです。、順に上限と下限を取って主張の不等式を得ます。

定義4.3.6
(Riemann積分)

有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ が与えられているとする。

(1) $f$ が $R$ 上Riemann可積分もしくは単に可積分とは、その上積分と下積分の値が等しいことと定める。
(2) $f$ が $R$ 上Riemann可積分のとき、その上積分 $($もしくは同じことだが下積分$)$ の値を $\int_{R}f(x)dx$ により表し、$f$ の $R$ 上の積分、積分値、定積分などと呼ぶ。
例4.3.7
(定義から直接計算できるRiemann積分の例)

(a) 関数 $f(x) := x$ は区間 $[0, 1]$ 上でRiemann可積分であり、積分値は $\tfrac{1}{2}$ です。
(b) 例1.8.14のDirichlet関数 $f$ に対して $\underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ かつ $\overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 1$ が分かり、これは区間 $[0, 1]$ 上ではRiemann可積分ではありません。
(c) 例1.8.15のThomae関数 $f$ に対して $\underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ かつ $\overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ が分かり、これは区間 $[0, 1]$ 上でRiemann可積分です。積分値は $0$ です。
証明

(a) 区間 $[0, 1]$ を $n$ 等分する分割を $D_{n}$ とおきます。このとき\[\underline{S}(f, D_{n}) = \dfrac{n(n - 1)}{2n^{2}}, \quad \overline{S}(f, D_{n}) = \dfrac{n(n + 1)}{2n^{2}}\]なので\[\dfrac{1}{2}\leq \underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx\leq \overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx\leq \dfrac{1}{2}\]であり、これより $\underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = \overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = \tfrac{1}{2}$ です。

(b) どのような分割 $D\in \mathcal{D}([0, 1])$ に対しても $\underline{S}(f, D) = 0$ かつ $\overline{S}(f, D) = 1$ であり、よって、$\underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ かつ $\overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 1$ です。

(c) どのような分割 $D\in \mathcal{D}([0, 1])$ に対しても $\underline{S}(f, D) = 0$ であり、よって、$\underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ です。また、区間 $[0, 1]$ を $n^{3}$ 等分する分割を $D_{n}$ として、$f(x) > 1/n$ となる $x$ が高々 $n^{2}$ 個であることから小区間 $S\in D_{n}$ であって $f(x) > 1/n$ となる $x$ を元に持つものは高々 $2n^{2}$ 個であるので\[\overline{S}(f, D_{n})\leq \dfrac{2n^{2}}{n^{3}}\cdot 1 + \dfrac{n^{3} - 2n^{2}}{n^{3}}\cdot \dfrac{1}{n} = \dfrac{3}{n}\]と評価でき、この下限を取って $\overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx\leq 0$ が従います。$0 = \underline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx\leq \overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx$ と合わせて $\overline{\int}_{[0, 1]}f(x)dx = 0$ が従います。

与えられた関数のRiemann可積分性を調べるにはその上積分と下積分を計算することになりますが、その際に強力なDarbouxの定理を紹介します。

有界閉超直方体 $R$ と写像 $\varPhi : \mathcal{D}(R)\to \R$ が与えられたとします。$\varPhi(D)$ が分割 $D$ の直径を小さくしていくに連れて一様にある値 $I$ に収束する、つまり、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、任意の分割 $D$ ついて $\diam(D) < \delta$ ならば $|\varPhi(D) - I| < \varepsilon$ となることを\[\lim_{\diam(D)\to 0}\varPhi(D) = I\]で表すとします。例えば、写像 $\varPhi, \varPsi : \mathcal{D}(R)\to \R$ が与えられたとして、もし極限 $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}\varPhi(D)$ と $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}\varPsi(D)$ が存在すれば極限 $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}(\varPhi(D) + \varPsi(D))$ も存在して\[\lim_{\diam(D)\to 0}(\varPhi(D) + \varPsi(D)) = \lim_{\diam(D)\to 0}\varPhi(D) + \lim_{\diam(D)\to 0}\varPsi(D)\]が成立したり、極限が存在したうえで常に $\varPhi(D)\leq \varPsi(D)$ が成立していれば\[\lim_{\diam(D)\to 0}\varPhi(D)\leq \lim_{\diam(D)\to 0}\varPsi(D)\]が成立したりと、数列の極限について成立していた基本事項がこちらでも成立します。また、極限 $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}\varPhi(D)$ の存在は\[\lim_{r\to 0}\inf_{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}\varPhi(D) = \lim_{r\to 0}\sup_{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}\varPhi(D)\]と同値です。

定理4.3.8
(Darbouxの定理)

有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ に対して次が成立する。

(1) $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}\overline{S}(f, D) = \overline{\int}_{R}f(x)dx$.
(2) $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}\underline{S}(f, D) = \underline{\int}_{R}f(x)dx$.
証明

(1) まず、明らかに\[\overline{\int}_{R}f(x)dx\leq \lim_{r\to 0}\inf_{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}\overline{S}(f, E)\]です。あとは任意に分割 $E\in \mathcal{D}(R)$ を取って\[\lim_{r\to 0}\sup_{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}\overline{S}(f, D)\leq \overline{S}(f, E)\]を示せば $E$ についての下限を取って\[\lim_{r\to 0}\sup_{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}\varPhi(D)\leq \overline{\int}_{R}f(x)dx\]が得られるので主張の極限と等式が得られます。

任意に分割 $D, E\in \mathcal{D}(R)$ を取ります。$D$ に属す小超直方体であって $E$ に属す小超直方体のうちいずれかに含まれているもの全体を $D'$ とおきます。明らかに\[\sum_{S\in D'}\vol(S)\cdot \sup_{x\in S}f(x) + \sum_{S\in D\setminus D'}\vol(S)\cdot \inf_{x\in R}f(x)\leq \overline{S}(f, E)\]です。また、$E$ に属す小超直方体の辺の長さとしてあり得る最小値を $l$ とおけば、$E$ の各辺は高々 $N := \lfloor \diam(D)/l\rfloor$ 個の小区間に分割されており、このことから\[\sum_{S\in D\setminus D'}\vol(S)\leq m(N - 1)\cdot \diam(D)\diam(E)^{m - 1}\]という評価が得られます。よって、\begin{eqnarray*}\overline{S}(f, D) & \leq & \sum_{S\in D'}\vol(S)\cdot \sup_{x\in S}f(x) + \sum_{S\in D\setminus D'}\vol(S)\cdot \sup_{x\in R}f(x) \\& \leq & \overline{S}(f, E) + \sum_{S\in D\setminus D'}\vol(S)\cdot (\sup_{x\in R}f(x) - \inf_{x\in R}f(x)) \\& \leq & \overline{S}(f, E) + m(N - 1)\cdot \diam(D)\diam(E)^{m - 1}\cdot (\sup_{x\in R}f(x) - \inf_{x\in R}f(x))\end{eqnarray*}という評価が得られます。$D$ は任意だったので\[\underset{\substack{D\in \mathcal{D}(R) \\ \diam(D) < r}}{\sup}\overline{S}(f, D)\leq \overline{S}(f, E) + r\cdot m(N - 1)\cdot \diam(E)^{m - 1}\cdot (\sup_{x\in R}f(x) - \inf_{x\in R}f(x))\]であり、この $r\to 0$ とする極限を取れば目的の不等式が得られます。

(2) (1)と同じです。

系4.3.9

有界閉超直方体 $R = \prod_{k = 1}^{m}J_{k}$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ と $R$ の分割の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N}$ であって $\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D_{n}) = 0$ を満たすもに対して次が成立する。

(1) $\underset{n\to\infty}{\lim}\overline{S}(f, D_{n}) = \overline{\int}_{R}f(x)dx$.
(2) $\underset{n\to\infty}{\lim}\underline{S}(f, D_{n}) = \underline{\int}_{R}f(x)dx$.
証明

定理4.3.8よりただちに従います。

命題4.3.10

有界閉超直方体 $R = \prod_{k = 1}^{m}J_{k}$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ に対して次は同値である。

(1) $f$ はRiemann可積分である。
(2) 任意の $R$ の分割の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N}$ に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D_{n}) = 0$ ならば $\underset{n\to\infty}{\lim}\overline{S}(f, D_{n}) = \underset{n\to\infty}{\lim}\underline{S}(f, D_{n})$ が成立する。
(3) 任意の $R$ の分割の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N}$ に対して $\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D_{n}) = 0$ ならば $\underset{n\to\infty}{\lim}(\overline{S}(f, D_{n}) - \underline{S}(f, D_{n})) = 0$ が成立する。
(4) $\underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\inf}(\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D)) = 0$ が成立する。
(5) $\underset{\diam(D)\to 0}{\lim}(\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D)) = 0$ が成立する。
証明

(1) ⇔ (2) 系4.3.9より明らかです。

(2) ⇒ (3) 自明です。

(3) ⇒ (2) 系4.3.9より(2)の両辺の収束性は保証されることに注意すれば自明です。

(3) ⇒ (4) 自明です。

(4) ⇒ (1) これは\begin{eqnarray*}\overline{\int}_{R}f(x)dx - \underline{\int}_{R}f(x)dx & = & \underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\inf}\overline{S}(f, D) - \underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\sup}\underline{S}(f, D) \\& = & \underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\inf}\overline{S}(f, D) + \underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\inf}(-\underline{S}(f, D)) \\& \leq & \underset{D\in\mathcal{D}(R)}{\inf}(\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D)) = 0\end{eqnarray*}よりよいです。

(1) ⇔ (5) 定理4.3.8より明らかです。

補足4.3.11
(Riemann和による積分の定義)

有界閉超直方体 $R$ 上で定義された有界関数 $f : R\to \R$ が与えられているとします。$R$ の分割 $D$ に対して各小超直方体 $S\in D$ の点 $\xi_{S}$ を取ることで得られる族 $\xi = (\xi_{S})_{S\in D}$ を $D$ の代表系と呼ぶことにして、$R$ の分割 $D$ とその代表系 $\xi$ に対して定まる和\[S(f, D, \xi) := \sum_{S\in D}\vol(S)\cdot f(\xi_{S})\]はRiemann和と呼ばれます。Riemann和 $S(f, D, \xi)$ が分割 $D$ の直径を小さくしていくに連れて一様にある値 $I$ に収束する、つまり、任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある正実数 $\delta > 0$ が存在し、任意の分割 $D$ とその代表系 $\xi$ について $\diam(D) < \delta$ ならば $|S(f, D, \xi) - I| < \varepsilon$ となることを\[\lim_{\diam(D)\to 0}S(f, D, \xi) = I\]で表し、この極限が存在することでRiemann可積分性を定義することがあります。その場合の積分値はもちろん極限値 $I$ です。

常に\[\underline{S}(f, D)\leq S(f, D, \xi)\leq \overline{S}(f, D)\]であることと定理4.3.8から定義4.3.6の意味での可積分性はこのRiemann和による可積分性を導き、また、常に\[\overline{S}(f, D) = \sup_{\xi\in \prod_{S\in D}S}S(f, D, \xi),\]\[\underline{S}(f, D) = \inf_{\xi\in \prod_{S\in D}S}S(f, D, \xi)\]であることに注意すればRiemann和による可積分性は定義4.3.6の意味での可積分性を導きます。もちろん、積分値はどちらの意味で考えても同じです。

補足4.3.12
(区分求積法)

区間 $[a, b]$ 上で定義されたRiemann可積分関数 $f(x)$ に対して\[\lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n}\sum_{k = 0}^{n - 1}f\left(a + (b - a)\dfrac{k}{n}\right) = \int_{[a, b]}f(x)dx\]が成立し、区分求積法と呼ばれます。左辺の極限の中身が代表系を各小区間の左端点から取ったRiemann和に対応していることに注意すれば成立は明らかです。

有界部分集合上のRiemann積分の構成

Riemann積分を考える関数の始域を有界閉超直方体から少し一般化します。まず、次のことが成立します。

命題4.3.13

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上で定義された有界関数 $f : E\to \R$ が与えられたとする。$E$ を含む有界閉超直方体 $R, R'$ を考え、$f$ を $R\setminus E$ 上で常に $0$ を値に取るように拡張した関数を $f_{R}$ とし、$R'\setminus E$ 上で常に $0$ を値に取るように拡張した関数を $f_{R'}$ とする。次が成立する。

(1) $\overline{\int}_{R}f_{R}(x)dx = \overline{\int}_{R'}f_{R'}(x)dx$.
(2) $\underline{\int}_{R}f_{R}(x)dx = \underline{\int}_{R'}f_{R'}(x)dx$.
(3) $f_{R}$ が可積分であることと $f_{R'}$ が可積分であることとは同値である。
(4) $f_{R}, f_{R'}$ が可積分な場合には\[\int_{R}f_{R}(x)dx = \int_{R'}f_{R'}(x)dx\]が成立する。
証明

(1) 超直方体 $R$ の分割の列 $\{D_{n}\}_{n\in\N}$ と $R'$ の分割の列 $\{D'_{n}\}_{n\in\N}$ を次の条件を満たすように取ります。

$\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D_{n}) = 0$.
$\underset{n\to\infty}{\lim}\diam(D'_{n}) = 0$.
小超直方体の族としての共通部分 $D''_{n} := D_{n}\cap D'_{n}$ は超直方体 $R'' := R\cap R'$ の分割を与える。

このとき、$f_{R''}$ を $f_{R}, f_{R'}$ と同様に定めるとして、過剰和について\[|\overline{S}(f_{R}, D_{n}) - \overline{S}(f_{R''}, D''_{n})|\leq 2m\cdot (\diam(R'') + 2\diam(D_{n}))^{m - 1}\diam(D_{n})\cdot \sup_{x\in E}|f(x)|,\]\[|\overline{S}(f_{R'}, D'_{n}) - \overline{S}(f_{R''}, D''_{n})|\leq 2m\cdot (\diam(R'') + 2\diam(D'_{n}))^{m - 1}\diam(D'_{n})\cdot \sup_{x\in E}|f(x)|\]が分かります$R''$ に外側から接する小超直方体 $S\in D_{n}, D'_{n}$ にわたる評価をしているだけです。系4.3.9に注意して $n\to \infty$ とする極限を考えれば\[\overline{\int}_{R}f_{R}(x)dx = \overline{\int}_{R''}f_{R''}(x)dx = \overline{\int}_{R'}f_{R'}(x)dx\]が従います。

(2) (1)と同様です。

(3) (4) もう明らかです。

従って、一般の有界部分集合 $E$ 上で定義された有界関数 $f$ に対する上極限、下極限、可積分性および積分値を $f$ を $E$ を含む有界閉超直方体 $R$ に自明に拡張して得られる関数に関するそれらで定義できます。積分値は $\int_{E}f(x)dx$ により表します。

また、始域の部分集合上の積分も定義できます。$\R^{m}$ の部分集合 $E$ 上定義された関数 $f : E\to \R$ が与えられたとして、$f$ が $E$ の有界部分集合 $A$ 上Riemann可積分であることを制限 $f|_{A} : A\to \R$ が $($有界かつ$)$ 可積分であることと定義し、$f$ の $A$ 上の積分値を $\int_{A}f|_{A}(x)dx$ で定義して単に $\int_{A}f(x)dx$ で表すことにします。

有界部分集合の体積

Riemann積分により $\R^{m}$ の一部の部分集合に体積を考えることができます。

定義4.3.14
(Riemann体積確定集合)

$\R^{m}$ の有界部分集合 $A$ はその定義関数 $\chi_{A}$ が $A$ 上可積分のときRiemann体積確定集合と呼ぶ。その積分値を $A$ の体積やJordan測度と呼び $\vol(A)$ などで表す。(もちろん、有界閉超直方体に対しては各辺の長さの積に等しく、今まで考えていた通りの値になります。)

ベクトル値関数の積分

$\R^{m}$ の部分集合 $E$ 上で定義されたベクトル値関数 $f : E\to \R^{k}$ に対する積分は成分ごとの積分として考えることができます。つまり、$f = (f_{1}, \dots, f_{k})$ と実数値関数 $f_{1}, \dots, f_{k}$ の組で表されるとして、$f$ がRiemann可積分であることを全ての $1\leq i\leq k$ に対して $f_{i}$ がRiemann可積分であることにより定義し、積分値については\[\int_{E}f(x)dx = \left(\int_{E}f_{1}(x)dx, \dots, \int_{E}f_{k}(x)dx\right)\]と考えます。例えば、複素数値関数に対する積分は実部と虚部に分けて考えます。

4.3.2 Riemann積分の性質
可積分関数どうしの演算
補題4.3.15

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上定義された有界関数 $f, g : E\to \R$ に対して\[\underline{\int}_{E}f(x)dx + \underline{\int}_{E}g(x)dx\leq \underline{\int}_{E}(f + g)(x)dx\leq \overline{\int}_{E}(f + g)(x)dx\leq \overline{\int}_{E}f(x)dx + \overline{\int}_{E}g(x)dx\]が成立する。

証明

$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を取ります。超直方体 $R$ の分割 $D$ に対して\[\underline{S}(f, D) + \underline{S}(g, D)\leq \underline{S}(f + g, D)\leq \overline{S}(f + g, D)\leq \overline{S}(f, D) + \overline{S}(g, D)\]であることから、これらの $\diam(D)\to 0$ とした極限を考えればDarbouxの定理より主張が得られます。

命題4.3.16

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f, g : E\to \R$ と実数 $a, b\in \R$ に対して $af + bg$ もRiemann可積分であり\[\int_{E}af(x) + bg(x)dx = a\int_{E}f(x)dx + b\int_{E}g(x)dx\]が成立する。

証明

係数倍と和に分けて、つまり、$b = 0$ の場合と $a = b = 1$ の場合を示します。$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を取っておきます。

$b = 0$ の場合、$a\geq 0$ ならば\[\overline{\int}_{R}af(x)dx = \inf_{D\in\mathcal{D}(R)}\overline{S}(af, D) = \inf_{D\in\mathcal{D}(R)}a\overline{S}(f, D) = a\inf_{D\in\mathcal{D}(R)}\overline{S}(f, D) = a\overline{\int}_{R}f(x)dx\]\[\underline{\int}_{R}af(x)dx = \sup_{D\in\mathcal{D}(R)}\underline{S}(af, D) = \sup_{D\in\mathcal{D}(R)}a\underline{S}(f, D) = a\sup_{D\in\mathcal{D}(R)}\underline{S}(f, D) = a\underline{\int}_{R}f(x)dx\]であり、$a\leq 0$ ならば\[\overline{\int}_{R}af(x)dx = \inf_{D\in\mathcal{D}(R)}\overline{S}(af, D) = \inf_{D\in\mathcal{D}(R)}a\underline{S}(f, D) = a\sup_{D\in\mathcal{D}(R)}\underline{S}(f, D) = a\underline{\int}_{R}f(x)dx\]\[\underline{\int}_{R}af(x)dx = \sup_{D\in\mathcal{D}(R)}\underline{S}(af, D) = \sup_{D\in\mathcal{D}(R)}a\overline{S}(f, D) = a\inf_{D\in\mathcal{D}(R)}\overline{S}(f, D) = a\overline{\int}_{R}f(x)dx\]であり、いずれの場合も上積分と下積分は $a\int_{R}f(x)dx$ に一致します。

$a = b = 1$ の場合、補題4.3.15と $f, g$ の可積分性から直ちに分かります。

命題4.3.17

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f, g : E\to \R$ が与えられたとする。次が成立する。

(1) $\max\{f, g\}$ はRiemann可積分である。
(2) $\min\{f, g\}$ はRiemann可積分である。
(3) $|f|$ はRiemann可積分である。
証明

(1) 一般に集合 $X$ 上で定義された有界関数 $f, g : X\to \R$ に対して\[\max\{\inf_{x\in X}f(x), \inf_{x\in X}g(x)\}\leq \inf_{x\in X}\max\{f(x), g(x)\}\leq \sup_{x\in X}\max\{f(x), g(x)\} = \max\{\sup_{x\in X}f(x), \sup_{x\in X}g(x)\}\]であること最初の不等式は単に\[\inf_{x\in X}f(x), \inf_{x\in X}g(x)\leq \inf_{x\in X}\max\{f(x), g(x)\}\]であることから。あとは自明です。と\[\max\{\sup_{x\in X}f(x), \sup_{x\in X}g(x)\} - \max\{\inf_{x\in X}f(x), \inf_{x\in X}g(x)\}\leq (\sup_{x\in X}f(x) - \inf_{x\in X}f(x)) + (\sup_{x\in X}g(x) - \inf_{x\in X}g(x))\]であることもしも $\underset{x\in X}{\sup}g(x)\leq \underset{x\in X}{\sup}f(x)$ であれば左辺は $\underset{x\in X}{\sup}f(x) - \underset{x\in X}{\inf}f(x)$ 以下であるし、$\underset{x\in X}{\sup}f(x)\leq \underset{x\in X}{\sup}g(x)$ であれば左辺は $\underset{x\in X}{\sup}g(x) - \underset{x\in X}{\inf}g(x)$ 以下です。から\[\sup_{x\in X}\max\{f(x), g(x)\} - \inf_{x\in X}\max\{f(x), g(x)\}\leq (\sup_{x\in X}f(x) - \inf_{x\in X}f(x)) + (\sup_{x\in X}g(x) - \inf_{x\in X}g(x))\]です。

よって、$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を取ったとして、超直方体 $R$ の分割 $D$ に対して\[\overline{S}(\max\{f, g\}, D) - \underline{S}(\max\{f, g\}, D)\leq (\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D)) + (\overline{S}(g, D) - \underline{S}(g, D))\]であり、$f, g$ のRiemann可積分性から右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ に収束するので左辺もそうなり、$\max\{f, g\}$ の可積分性が従います。

(2) $\min\{f, g\} = -\max\{-f, -g\}$.

(3) $|f| = \max\{f, -f\}$.

命題4.3.18

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f, g : E\to \R$ に対して $fg$ もRiemann可積分である。

証明

一般に実数値関数 $h$ に対して $h_{+} := \max\{h, 0\}$, $h_{-} := \max\{-h, 0\}$ と定めるとすれば\[fg = (f_{+} - f_{-})(g_{+} - g_{-}) = f_{+}g_{+} - f_{+}g_{-} - f_{-}g_{+} + f_{-}g_{-}\]であるので最初から $f, g$ は非負値可積分関数として $fg$ の可積分性を示せばよいです。

$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を取ります。超直方体 $R$ の分割 $D$ に対して\begin{eqnarray*}\overline{S}(fg, D) - \underline{S}(fg, D) & = & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}f(x)g(x) - \inf_{x\in S}f(x)g(x)) \\& \leq & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}f(x)\sup_{x\in S}g(x) - \inf_{x\in S}f(x)\inf_{x\in S}g(x)) \\& = & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}f(x)(\sup_{x\in S}g(x) - \inf_{x\in S}g(x)) + (\sup_{x\in S}f(x) - \inf_{x\in S}f(x))\inf_{x\in S}g(x)) \\& \leq & \sup_{x\in R}f(x)(\overline{S}(g, D) - \underline{S}(g, D)) + \sup_{x\in R}g(x)(\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D)) \\\end{eqnarray*}と評価でき、$f, g$ のRiemann可積分性から右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ に収束するので左辺もそうなり、$fg$ の可積分性が従います。

命題4.3.19

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f : E\to \R$ に対して $1/f$ は有界関数として定まっていればRiemann可積分である。

証明

まず、$f$ は常に正値を取るとして示します。このとき $1/f$ が有界関数として定まっているというのは\[0 < \inf_{x\in E}f(x)\leq \sup_{x\in E}f(x) < +\infty\]と同値です。$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を固定します。正実数 $0 < r < \underset{x\in E}{\inf}f(x)$ を取れば $\chi_{E} = r^{-1}\min\{f, r\}$ より $E$ はRiemann体積確定集合であり、$R\setminus E$ もRiemann体積確定集合です。そこで、$f$ を $R\setminus E$ 上で常に $1$ を取るように拡張した関数 $g : R\to \R$ もRiemann可積分です。この $g$ に対して $1/g$ がRiemann可積分であることを示せばRiemann体積確定集合である $E$ 上で $1/f \ (= 1/g)$ の可積分性が従います。

超直方体 $R$ の分割 $D$ に対して\begin{eqnarray*}\overline{S}(1/g, D) - \underline{S}(1/g, D) & = & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}1/g(x) - \inf_{x\in S}1/g(x)) \\& = & \sum_{S\in D}\vol(S)(1/\inf_{x\in S}g(x) - 1/\sup_{x\in S}g(x)) \\& = & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}g(x) - \inf_{x\in S}g(x))/(\sup_{x\in S}g(x)\inf_{x\in S}g(x)) \\& \leq & \dfrac{1}{(\underset{x\in R}{\inf}g(x))^{2}}(\overline{S}(g, D) - \underline{S}(g, D))\end{eqnarray*}と評価でき、$g$ のRiemann可積分性から右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ に収束するので左辺もそうなり、$1/g$ の可積分性が従います。

一般には、$f_{+} := \max\{f, 0\}$, $f_{-} := \max\{-f, 0\}$ とおいて $($それぞれ正値を取る範囲に制限した$)$ $f_{\pm}$ に上記の結果を適用して $1/f_{\pm}$ の可積分性が分かるので、$1/f = 1/f_{+} - 1/f_{-}$ も可積分です。

系4.3.20

$\R^{m}$ の有界部分集合 $A$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f : A\to \R$ と $A$ に含まれるRiemann体積確定集合 $B$ が与えられているとする。このとき、$f$ は $B$ 上Riemann可積分である。

証明

$f|_{B} = f\cdot \chi_{B}$ は $A$ 上可積分であり、$B$ の外では常に $0$ を値に取ることから $B$ 上可積分です。

命題4.3.21

$\R^{m}$ の部分集合 $E$ 上定義された関数 $f : E\to \R$ と $E$ の有界部分集合 $A, B$ が与えられ、$f$ は $A, B$ それぞれの上でRiemann可積分とする。次が成立する。

(1) 和集合 $A\cup B$ 上 $f$ はRiemann可積分である。
(2) 共通部分 $A\cap B$ 上 $f$ はRiemann可積分である。
(3) 等式\[\int_{A\cup B}f(x)dx = \int_{A}f(x)dx + \int_{B}f(x)dx - \int_{A\cap B}f(x)dx\]が成立する。
証明

(1) $f_{+} := \max\{f, 0\}$, $f_{-} := \max\{-f, 0\}$ と定めれば\[f|_{A\cup B} = f_{+}|_{A\cup B} - f_{-}|_{A\cup B} = \max\{f_{+}|_{A}, f_{+}|_{B}\} - \max\{f_{-}|_{A}, f_{-}|_{B}\}\]であり、$f|_{A\cup B}$ はRiemann可積分です。

(2) (3) $f|_{A\cup B} = f|_{A} + f|_{B} - f|_{A\cap B}$ より明らかです。

系4.3.22

Riemann体積確定集合 $A, B$ に対して次が成立する。

(1) 和集合 $A\cup B$ はRiemann体積確定集合である。
(2) 共通部分 $A\cap B$ はRiemann体積確定集合である。
(3) 等式\[\vol(A\cup B) = \vol(A) + \vol(B) - \vol(A\cap B)\]が成立する。
(4) 差集合 $A\setminus B$ はRiemann体積確定集合である。
証明

(1) (2) (3) 命題4.3.21より明らか。

(4) $\chi_{A\setminus B} = \chi_{A\cup B} - \chi_{B}$ よりそうです。

基本的な積分値評価

積分値の評価について基本的なことを書いておきます。

命題4.3.23

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上で定義された有界関数 $f, g : E\to \R$ に対して常に $f(x)\leq g(x)$ ならば\[\overline{\int}_{E}f(x)dx\leq \overline{\int}_{E}g(x)dx,\]\[\underline{\int}_{E}f(x)dx\leq \underline{\int}_{E}g(x)dx\]が成立する。特に $f, g$ がRiemann可積分ならば\[\int_{E}f(x)dx\leq \int_{E}g(x)dx\]が成立する。

証明

自明です。

系4.3.24

$\R^{m}$ のRiemann体積確定集合 $E$ 上で定義された有界関数 $f : E\to \R$ に対して\[\inf_{x\in E}f(x)\cdot \vol(E)\leq \underline{\int}_{E}f(x)dx\leq \overline{\int}_{E}f(x)dx\leq \sup_{x\in E}f(x)\cdot \vol(E)\]が成立する。特に $f$ がRiemann可積分ならば\[\inf_{x\in E}f(x)\cdot \vol(E)\leq \int_{E}f(x)dx\leq \sup_{x\in E}f(x)\cdot \vol(E)\]が成立する。

証明

$\underset{y\in E}{\inf}f(y)\cdot \chi_{E}(x)\leq f(x)\leq \underset{y\in E}{\sup}f(y)\cdot \chi_{E}(x)$ から従います。

系4.3.25

$\R^{m}$ の有界部分集合 $E$ 上で定義された有界関数 $f, g : E\to \R$ が与えられ、$f$ がRiemann可積分かつ $\vol(\{x\in E\mid f(x)\neq g(x)\}) = 0$ を満たせば $g$ もRiemann可積分であり\[\int_{E}g(x)dx = \int_{E}f(x)dx\]が成立する。

証明

一般に体積 $0$ の集合 $A$ 上で定義された有界関数 $h$ は\[0 = \inf_{x\in A}h(x)\cdot \vol(A)\leq \underline{\int}_{A}h(x)dx\leq \overline{\int}_{A}h(x)dx\leq \sup_{x\in A}h(x)\cdot \vol(A) = 0\]という評価によりRiemann可積分であり、その積分値は $0$ です。よって、$g = f + (g - f)$ はRiemann可積分であり主張の等式も成立します。

ベクトル値のRiemann可積分関数については次が重要です。

命題4.3.26

ベクトル値Riemann可積分関数 $f : E\to \R^{k}$ に対して\[\left|\int_{E}f(x)dx\right|\leq \int_{E}|f(x)|dx\]が成立する。

証明

前提として、$|f|$ の可積分性は容易。

$v := \int_{E}f(x)dx$ とおきます。$v = 0$ の場合は自明なので $v\neq 0$ とします。すると\[\left|\int_{E}f(x)dx\right| = \left\langle\dfrac{v}{|v|}, \int_{E}f(x)dx\right\rangle = \int_{E}\left\langle\dfrac{v}{|v|},f(x) \right\rangle dx\leq \int_{E}|f(x)|dx\]です。

一様収束極限の積分

一様収束するRiemann可積分関数列に対して積分と極限は交換可能です。

命題4.3.27
(積分と極限の交換)

$\R^{m}$ のRiemann体積確定集合 $E$ 上定義されたRiemann可積分関数列 $\{f_{n} : E\to \R\}_{n\in\N}$ が関数 $f : E\to \R$ に一様収束するとするとき、$f$ はRiemann可積分であり\[\lim_{n\to\infty}\int_{E}f_{n}(x)dx = \int_{E}f(x)dx\]が成立する。

証明

常に $f_{n}(x) - \|f_{n} - f\|_{\infty}\leq f(x)\leq f_{n}(x) + \|f_{n} - f\|_{\infty}$ であることから\[\int_{E}f_{n}(x)dx - \|f_{n} - f\|_{\infty}\cdot \vol(E)\leq \underline{\int}_{E}f(x)dx\leq \overline{\int}_{E}f(x)dx\leq \int_{E}f_{n}(x)dx + \|f_{n} - f\|_{\infty}\cdot \vol(E)\]と評価できます。この $n\to \infty$ とした極限を取ればよいです。

連続関数の可積分性

超直方体上で定義された連続関数はRiemann可積分です。より一般に次が成立します。

命題4.3.28

$\R^{m}$ のRiemann体積確定集合 $E$ 上定義された有界連続関数 $f : E\to \R$ はRiemann可積分である。

証明

まず、$E$ が有界閉超直方体 $R$ の場合を示します。$R$ の分割 $D$ に対して\begin{eqnarray*}\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D) & = & \sum_{S\in D}\vol(S)(\sup_{x\in S}f(x) - \inf_{x\in S}f(x)) \\& \leq & \sum_{S\in D}\vol(S)\cdot \sup_{\substack{x, y\in R \\ |y - x|\leq \sqrt{m}\diam(D)}}|f(y) - f(x)|\end{eqnarray*}と評価でき、$f$ の一様連続性から右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ であり、左辺についても極限は $0$ に収束します。よって、この場合の $f$ は可積分です。

一般に示します。$E$ を含む有界閉超直方体 $R$ を固定します。超直方体 $R$ の分割 $D$ に対してその部分集合 $P_{D}, Q_{D}$ を\[P_{D} := \{S\in D\mid S\subset E\}\]\[Q_{D} := \{S\in D\setminus P_{D}\mid S\cap E\neq \varnothing\}\]と定め、$E$ の部分集合 $A_{D} := \bigcup_{S\in P_{D}}S$, $B_{D} := E\setminus A_{D}$ を取ります。$A_{D}, B_{D}$ はいずれもRiemann体積確定集合です。

このとき\[\vol(B_{D})\leq \sum_{S\in Q_{D}}\vol(S) = \overline{S}(\chi_{E}, D) - \underline{S}(\chi_{E}, D)\]ですが、$E$ がRiemann体積確定集合であることから右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ に収束するので左辺もそうです。そして、補題4.3.15より\[\overline{\int}_{E}f(x)dx - \underline{\int}_{E}f(x)dx \leq \overline{\int}_{A_{D}}f(x)dx - \underline{\int}_{A_{D}}f(x)dx + \overline{\int}_{B_{D}}f(x)dx - \underline{\int}_{B_{D}}f(x)dx\]ですが、$f$ が $A_{D}$ 上でRiemann可積分なこと$E$ が有界閉超直方体の場合の結果から $f$ は各 $S\in P_{D}$ 上でRiemann可積分であり、あとは命題4.3.21を使えばいいです。に注意して\[\overline{\int}_{E}f(x)dx - \underline{\int}_{E}f(x)dx \leq \overline{\int}_{B_{D}}f(x)dx - \underline{\int}_{B_{D}}f(x)dx\leq \vol(B_{D})\cdot (\sup_{x\in E}f(x) - \inf_{x\in E}f(x))\]と評価できます。ここで右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限が $0$ に収束することから左辺は $0$ であり、$f$ の $E$ 上のRiemann可積分性が従います。

補足4.3.29

Lebesgue測度・積分について整備を進めることでRiemann可積分性の連続性を用いた特徴付けが記述できます。正確には定理4.6.59を参照。

系4.3.30

$\R^{m}$ のRiemann体積確定閉集合 $E$ と位相空間 $Y$ との直積上で定義された連続関数 $f : E\times Y\to \R$ が与えられたとする。関数 $g : Y\to \R$ を\[g(y) := \int_{E}f(x, y)dx\]と定めることができ、この $g$ は連続である。

証明

$\vol(E) = 0$ のときは自明なので $\vol(E) > 0$ として示します。$E$ はRiemann体積確定であることから有界であり、加えて閉集合としているのでコンパクトです。よって、命題4.3.28より $g$ は定まっています。任意に取った点 $y_{0}\in Y$ における $g$ の連続性を示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$f$ の連続性から $E\times Y$ の部分集合\[U := \{(x, y)\in E\times Y\mid |f(x, y) - f(x, y_{0})| < \varepsilon/\vol(E)\}\]は開集合であり、$E$ のコンパクト性から $y_{0}\in Y$ の開近傍 $V$ であって $E\times V\subset U$ となるものが取れます。各 $y\in V$ に対して\[|g(y) - g(y_{0})| = \left|\int_{E}f(x, y)dx - \int_{E}f(x, y_{0})dx\right|\leq \int_{E}|f(x, y) - f(x, y_{0})|dx < \varepsilon\]です。正実数 $\varepsilon > 0$ は任意だったので、$g$ は $y_{0}$ において連続です。

微分との交換

Riemann積分と微分の交換について少し紹介しますLebesgue積分の一般論を整備する途中で、ここで述べるものより一般的な、微分版Lebesgue収束定理 $($系4.7.15$)$ を示しています。。最初に簡単な補題を用意します。

補題4.3.31

位相空間 $X$ と開区間 $J$ との直積上で定義された連続関数 $f(x, t)$ が与えられ、導関数 $\partial _{t}f$ が存在して連続とする。固定した $s\in J$ に対して関数 $h : X\times J\to \R$ を\[h(x, t) := \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{f(x, t) - f(x, s)}{t - s}& (t\neq s) \\\partial_{t}f(x, s) & (t = s)\end{array}\right.\]と定めるとき、この $h$ は連続である。

証明

関数 $g : X\times J\to \R$ を\[g(x, t) := f(x, t) - f(x, s) - \partial_{t}f(x, s)(t - s)\]と定めます。任意に正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。導関数 $\partial_{t}g$ は連続に定まっており、$X\times \{s\}$ 上では常に $0$ を値に取るので、次の条件を満たす $X\times \{s\}$ の開近傍 $W$ が取れます。

任意の $(x, t)\in W\setminus (X\times \{s\})$ に対して $|\partial_{t}g(x, t)| < \varepsilon$ が成立する。
任意の $x\in X$ に対して $J_{x} := (\{x\}\times J)\cap W$ は開区間である。

ここで、各 $(x, t)\in W\setminus (X\times \{s\})$ に対し、平均値の定理 $($定理4.1.14$)$ よりある実数 $0 < \theta < 1$ であって\[g(x, t) - g(x, s) = \partial_{t}g(x, s + \theta(t - s))(t - s)\]を満たすものが存在しますが、$W$ の取り方から $(x, s + \theta(t - s))\in W\setminus (X\times \{s\})$ であり\[|g(x, t) - g(x, s)| < \varepsilon |t - s|\]です。よって、$W\setminus (X\times \{s\})$ 上で\[\left|\dfrac{f(x, t) - f(x, s)}{t - s} - \partial_{t}f(x, s)\right| = \left|\dfrac{g(x, t) - g(x, s)}{t - s}\right| < \varepsilon\]と評価できます。正実数 $\varepsilon > 0$ は任意だったことから $h$ の連続性が従います。

次が成立します。

命題4.3.32
(Riemann積分と微分との交換)

$\R^{m}$ のRiemann体積確定閉集合 $E$ と位相空間 $Y$ と開区間 $J$ との直積上で定義された連続関数 $f(x, y, t)$ が与えられ、導関数 $\partial _{t}f$ が存在して連続とする。関数 $g : Y\times J\to \R$ を\[g(y, t) := \int_{E}f(x, y, t)dx\]と定めるとき、導関数 $\partial_{t}g$ が存在して連続かつ\[\partial_{t}g(y, t) = \int_{E}\partial_{t}f(x, y, t)dx\]が成立する。

証明

$s\in J$ を固定し、関数 $h : E\times Y\times J\to \R$ を\[h(x, y, t) := \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{f(x, y, t) - f(x, y, s)}{t - s}& (t\neq s) \\\partial_{t}f(x, y, s) & (t = s)\end{array}\right.\]と定めると補題4.3.31より連続であり、系4.3.30を適用すれば\[\int_{E}h(x, y, t)dx = \left\{\begin{array}{ll}\dfrac{g(y, t) - g(y, s)}{t - s}& (t\neq s) \\\int_{E}\partial_{t}f(x, y, s)dx & (t = s)\end{array}\right.\]は連続であり、$g$ は $Y\times \{s\}$ 上で変数 $t$ に関して微分可能かつ主張の等式を満たします。$s\in J$ は任意だったので $Y\times J$ 上でもそうです。最後に、導関数 $\partial_{t}g$ の連続性は系4.3.30から従います。

多重積分

多変数関数の積分は変数ごとの積分の繰り返しで求められます。

事実4.3.33

$\R^{p}\times \R^{q}$ の有界閉超直方体 $R = S\times T$ 上定義された関数 $f : R\to \R$ が次の条件を満たすとする。

(i) $f$ は $R$ 上可積分である。
(ii) 各 $x\in S$ に対して制限 $f|_{\{x\}\times T}$ は $T$ 上可積分である。

このとき、$\int_{T}f(x, y)dy$ は $S$ 上可積分であり\[\int_{R}f(z)dx = \int_{S}\int_{T}f(x, y)dydx\]が成立する。

さらに次の条件を満たすとする。

(iii) 各 $y\in T$ に対して制限 $f|_{S\times \{y\}}$ は $S$ 上可積分である。

このとき、$\int_{S}f(x, y)dx$ は $T$ 上可積分であり\[\int_{S}\int_{T}f(x, y)dydx = \int_{T}\int_{S}f(x, y)dxdy\]が成立する。

証明

Lebesgue積分の意味でFubiniの定理 $($4.7.2節$)$ としてより一般的に示します。ここで考えているRiemann積分の意味では[杉浦 解析入門]の第Ⅳ章の定理7.1を参照。

変数変換公式

多変数関数の積分の変数変換公式を紹介だけします。一変数の場合は置換積分の形で定理4.3.46で示します。

事実4.3.34
(変数変換公式)

$\R^{m}$ の開集合 $U$ 上定義された $($$U$ において$)$ コンパクト台を持つRiemann可積分関数 $f : U\to \R$ と $C^{1}$ 級同相写像 $\varphi : V\to U$ に対し、$|\det J_{\varphi}|(f\circ \varphi)$ は $V$ 上でRiemann可積分かつ\[\int_{U}f(x)dx = \int_{V}|\det J_{\varphi}(y)|(f\circ \varphi)(y)dy\]が成立する。

証明

Lebesgue積分の意味での変数変換公式 $($定理4.7.57$)$ として示します。ここで考えているRiemann積分の意味では[杉浦 解析入門]の第Ⅶ章を参照ただし、応用上十分な連続関数に制限して考えていたり、多変数関数の広義積分にも対応できる形式であったりと、大きく異なる定式化をしています。

補足4.3.35
(極座標変換による変数変換公式)

極座標変換に用いる $C^{\infty}$ 級写像 $\varphi(r, \theta) := (r\cos\theta, r\sin\theta)$ のJacobi行列式は\[\det J_{\varphi}(r, \theta) = \left|\begin{array}{cc}\cos\theta & \sin\theta \\-r\sin\theta & r\cos\theta\end{array}\right| = r\]と計算できます。よって、$\R^{2}$ の原点を中心とする半径 $a$ の閉球体 $D_{a}^{2}$ 上で定義されたRiemann可積分関数 $f(z = (x, y))$ の積分は極座標変換により\[\int_{D_{a}^{2}}f(z)dz = \int_{0}^{a}\int_{0}^{2\pi}r\cdot f(r\cos\theta, r\sin\theta)d\theta dr\]と変形できます。

特に、関数 $f(x, y)$ が関数 $g(r)$ を用いて $f(x, y) = g(\sqrt{x^{2} + y^{2}})$ と表される場合には\[\int_{D_{a}^{2}}f(z)dz = \int_{0}^{a}\int_{0}^{2\pi}rg(r)d\theta dr = 2\pi\int_{0}^{a}rg(r)dr\]と $1$ 変数関数の積分に帰着できるため有効なことが多いです。

4.3.3 一変数関数の積分

一変数関数の積分について基本的なことを整備します。

区間上の積分の記法

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ に対してその区間 $[a, b]$ 上の積分値は $($存在すれば$)$ 通常\[\int_{a}^{b}f(x)dx\]のように表します。そして、この表記においては $a\leq b$ という制約があるように思えますが、それは煩わしいので $a\geq b$ の場合にも\[\int_{a}^{b}f(x)dx := -\int_{b}^{a}f(x)dx\]と定めておきます。この規約の正当性は次のことから納得できます。

命題4.3.36

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ と点 $a, b, c\in J$ に対して等式\[\int_{a}^{c}f(x)dx = \int_{a}^{b}f(x)dx + \int_{b}^{c}f(x)dx\]が成立する。ただし、両辺の積分値は定まっているとする。

証明

$a, b, c$ の順序関係であり得るパターンすべてに対して確認すればよいです。

不定積分

まず、不定積分を次の形で定義します。(いくつか流儀がある。)

定義4.3.37
(不定積分)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ に対し、関数 $F : J\to \R$ であって任意の $a, b\in J$ に対して\[\int_{a}^{b}f(x)dx = F(b) - F(a)\]を満たすものを $f$ の不定積分と呼び、$\int f(x)dx$ で表す。

関数 $f$ の不定積分 $F$ が得られたとき、定積分 $\int_{a}^{b}f(x)dx$ を $[F(x)]_{a}^{b}$ という表記することがあります。具体的には $[F(x)]_{a}^{b} = F(b) - F(a)$ です。

不定積分についての基本的な性質をまとめます。

命題4.3.38
(不定積分の構成)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ が与えられ、$J$ に含まれる任意の有界閉区間上でRiemann可積分であるとする。点 $a\in J$ を取り、関数 $F : J\to \R$ を\[F(x) := \int_{a}^{x}f(x)dx\]により定めるとき、この $F$ は $f$ の不定積分である。

証明

命題4.3.36より任意の $b, c\in J$ に対して\[\int_{b}^{c}f(x)dx = \int_{a}^{c}f(x)dx - \int_{a}^{b}f(x)dx = F(c) - F(b)\]です。

命題4.3.39
(不定積分の局所Lipschitz連続性)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ に対してその不定積分 $F$ は局所Lipschitz連続である。

証明

命題4.3.26より任意の $a \leq b\in J$ に対して\[|F(b) - F(a)| = \left|\int_{a}^{b}f(x)dx\right|\leq \int_{a}^{b}|f(x)|dx\leq \sup_{a\leq x\leq b}|f(x)|(b - a)\]です。よって、各点の十分小さい近傍においてLipschitz連続です。

命題4.3.40
(不定積分の定数の差を除いた一意性)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ とその不定積分 $F, G$ に対して、差 $G - F$ は定数関数である。

証明

任意の $a, b\in J$ に対して\[(G - F)(b) - (G - F)(a) = (G(b) - G(a)) - (F(b) - F(a)) = \int_{a}^{b}f(x)dx - \int_{a}^{b}f(x)dx = 0\]であり、$(G - F)(a) = (G - F)(b)$ です。

補足4.3.41
(積分定数)

関数 $f$ に対してその不定積分 $F$ を $1$ つ固定すればそこに定数 $C$ を加えて得られる関数 $F + C$ は全て不定積分であり、命題4.3.40より不定積分はそのような関数 $F + C$ たちで尽きます。与えられた関数 $f$ に対する不定積分を求めるとき、具体的に $1$ つ見つけた不定積分 $F$ にこのちょうど定数だけの不定性を込めて\[\int f(x)dx = F(x) + C\]と表します。このときの定数 $C$ は積分定数と呼ばれます。

微積分学の基本定理

微分と積分の関係として重要な微積分学の基本定理を証明します。一つ用語を用意します。

定義4.3.42
(原始関数)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ に対し、関数 $F : J\to \R$ であって各点微分可能かつ $F' = f$ を満たすものを $f$ の原始関数と呼ぶ。

定理4.3.43
(微積分学の基本定理)

次が成立する。

(1) 区間 $J$ 上で定義された連続関数 $f : J\to \R$ に対し、その不定積分 $F$ は各点微分可能であり $F' = f$ を満たす。つまり、連続関数の不定積分は原始関数である。
(2) 区間 $J$ 上で定義された各点微分可能関数 $F : J\to \R$ に対し、その導関数 $F'$ が $J$ に含まれるどの有界閉区間上でもRiemann可積分ならば任意の $a, b\in J$ に対して\[F(b) - F(a) = \int_{a}^{b}F'(x)dx\]が成立する。つまり、可積分関数の原始関数は不定積分である。
証明

(1) 各 $x_{0}\in J$ において\[\left|\dfrac{F(x_{0} + h) - F(x_{0})}{h} - f(x_{0})\right| = \left|\dfrac{1}{h}\int_{x_{0}}^{x_{0} + h}f(x) - f(x_{0})dx\right|\leq \sup_{|x - x_{0}|\leq |h|}|f(x) - f(x_{0})| \to 0 \ (h\to 0)\]です。(議論では $x_{0}$ における連続性しか使っていないので、一般の可積分関数 $f$ に対してその連続点において $F'(x_{0}) = f(x_{0})$ ということも分かる。)

(2) 区間 $[a, b]\subset J$ を取ります。その分割 $D$ に対し、それを列 $a = x_{0} < x_{1} < \dots < x_{n} = b$ だと思って、各 $0\leq k\leq n - 1$ に対して平均値の定理より\[\inf_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}F'(x)(x_{k + 1} - x_{k})\leq F(x_{k + 1}) - F(x_{k})\leq \sup_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}F'(x)(x_{k + 1} - x_{k})\]なので\[\sum_{k = 0}^{n - 1}\inf_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}F'(x)(x_{k + 1} - x_{k})\leq F(b) - F(a)\leq \sum_{k = 0}^{n - 1}\sup_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}F'(x)(x_{k + 1} - x_{k})\]です。左辺は不足和 $\underline{S}(F', D)$ で、右辺は過剰和 $\overline{S}(F', D)$ です。これが任意の分割に対して成立することと $F'$ の可積分性より\[F(b) - F(a) = \int_{a}^{b}F'(x)dx\]です。

系4.3.44

$C^{r}$ 級関数の不定積分は $C^{r + 1}$ 級である。

部分積分と置換積分

微積分学の基本定理の応用として、部分積分公式と置換積分公式をよく使う形で整備します。

まずは部分積分から。

定理4.3.45
(部分積分公式)

区間 $[a, b]$ 上定義された $C^{1}$ 級関数 $f, g : [a, b]\to \R$ に対し、等式\[\int_{a}^{b}f'(x)g(x)dx = [f(x)g(x)]_{a}^{b} - \int_{a}^{b}f(x)g'(x)dx\]が成立する。

証明

$(fg)' = f'g + fg'$ より $fg$ は $f'g + fg'$ の原始関数です。明らかに $f'g$ と $fg'$ はRiemann可積分であり、微積分学の基本定理 $($定理4.3.43$)$ より\[[f(x)g(x)]_{a}^{b} = \int_{a}^{b}f'(x)g(x)dx + \int_{a}^{b}f(x)g'(x)dx\]です。

続いて置換積分について。

定理4.3.46
(置換積分公式Ⅰ)

区間 $[a, b]$ 上定義された連続関数 $f : [a, b]\to \R$ と $C^{1}$ 級関数 $\varphi : [c, d]\to [a, b]$ に対し、等式\[\int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}f(x)dx = \int_{c}^{d}\varphi'(y)(f\circ \varphi)(y)dy\]が成立する。

証明

$f$ の不定積分 $F$ は $C^{1}$ 級であり、$(F\circ \varphi)' = \varphi'\cdot (f\circ \varphi)$ より $F\circ \varphi$ が $\varphi'\cdot (f\circ \varphi)$ の原始関数です。明らかに $\varphi'\cdot (f\circ \varphi)$ はRiemann可積分であり、微積分学の基本定理 $($定理4.3.43$)$ より\[\int_{c}^{d}\varphi'(y)(f\circ \varphi)(y)dy =[F\circ \varphi(y)]_{c}^{d} = F(\varphi(d)) - F(\varphi(c)) = \int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}f(x)dx\]です。

また、そうそう使わないと思いますが、より一般的な仮定でも置換積分公式が成立します。

定理4.3.47
(置換積分公式Ⅱ)

区間 $[a, b]$ 上定義されたRiemann可積分関数 $f : [a, b]\to \R$ と連続関数 $\varphi : [c, d]\to [a, b]$ であってあるRiemann可積分関数 $\psi : [c, d]\to \R$ の不定積分であるものに対し、$\psi\cdot (f\circ \varphi)$ は区間 $[c, d]$ 上Riemann可積分であり、等式\[\int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}f(x)dx = \int_{c}^{d}\psi(y)(f\circ \varphi)(y)dy\]が成立する。

証明

次の流れで示します。

(step 1) 一般に、常に正値を取るRiemann可積分関数 $g : [c, d]\to \R$ に対してその不定積分 $G$ は狭義単調増加である。
(step 2) $\psi$ が常に正値を値に取る場合に主張が成立する。
(step 3) 一般に主張が成立する。

(step 1) 広義単調増加なことは自明。ある正の長さを持つ閉区間 $J\subset [c, d]$ 上において $G$ が定数関数になっていたとして矛盾を導きます。まずこのとき、以下のような閉区間の減少列 $\{J_{n}\}_{n\in\N}$ が取れます。

$J_{0}\subset J$.
各 $J_{n}$ は正の長さを持つ。
各 $J_{n}$ 上で常に $g(y)\leq 2^{-n}$ が成立する。

実際、$J_{n}$ まで取れているとして、$\int_{J_{n}}g(y)dy = 0$ に注意して $J_{n}$ の分割 $D$ を $\overline{S}(g, D)\leq 2^{-(n + 1)}\vol(J_{n})$ に取れば、ある $S\in D$ 上で常に $g(y)\leq 2^{-(n + 1)}$ となるので、この $S$ を $J_{n + 1}$ として取れます。

$\bigcap_{n\in\N}J_{n}$ は空でないコンパクト閉集合の減少列の極限なので空ではなく、その点において $g$ は $0$ 以下なので、これは仮定に矛盾です。

(step 2) (step 1)より $\varphi$ は $[c, d]$ から $[\varphi(c), \varphi(d)]$ への順序を保つ全単射です。よって、$[c, d]$ の分割 $D = \{y_{0}, \dots, y_{n}\}$ に対して $[\varphi(c), \varphi(d)]$ の分割 $\varphi(D) = \{\varphi(y_{0}), \dots, \varphi(y_{n})\}$ が定まり、この対応はそれぞれの分割全体の間の全単射 $\varphi_{*} : \mathcal{D}([c, d])\to \mathcal{D}([\varphi(c), \varphi(d)])$ を定めます。

分割 $D = \{y_{0}, \dots, y_{n}\}\in \mathcal{D}([c, d])$ に対して関数 $g_{D}, h_{D} : [\varphi(c), \varphi(d)]\to \R$ を\[g_{D}(x) := \left\{\begin{array}{ll}\underset{z\in S}{\inf}f(z) & (x\in \Int S \ (S\in \varphi(D))) \\f(x) & (\text{otherwise})\end{array}\right.,\]\[h_{D}(x) := \left\{\begin{array}{ll}\underset{z\in S}{\sup}f(z) & (x\in \Int S \ (S\in \varphi(D))) \\f(x) & (\text{otherwise})\end{array}\right.\]と定めます。常に $g_{D}(x)\leq f(x)\leq h_{D}(x)$ であり、また、$\psi$ が常に正値を取ることから常に\[\psi(y)\cdot g_{D}(\varphi(y))\leq \psi(y)\cdot f(\varphi(y))\leq \psi(y)\cdot h_{D}(\varphi(y))\]です。分割 $D = \{y_{0} < \dots < y_{n}\}\in \mathcal{D}([c, d])$ に対して\begin{eqnarray*}\int_{c}^{d}\psi(y)\cdot h_{D}(\varphi(y))dy & = & \sum_{k = 0}^{n - 1}\int_{y_{k}}^{y_{k + 1}}\psi(y)\cdot h_{D}(\varphi(y))dy \\& = & \sum_{k = 0}^{n - 1}\int_{y_{k}}^{y_{k + 1}}\psi(y)\cdot \sup_{\varphi(y_{k})\leq x\leq \varphi(y_{k + 1})}f(x)dy \\& = & \sum_{k = 0}^{n - 1}(\varphi(y_{k + 1}) - \varphi(y_{k}))\cdot \sup_{\varphi(y_{k})\leq x\leq \varphi(y_{k + 1})}f(x) \\& = & \overline{S}(f, \varphi(D))\end{eqnarray*}であり、同様に\[\int_{c}^{d}\psi(y)\cdot g_{D}(\varphi(y))dy = \underline{S}(f, \varphi(D))\]です。よって、\[\underline{S}(f, \varphi(D))\leq \underline{\int}_{c}^{d}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy\leq \overline{\int}_{c}^{d}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy\leq \overline{S}(f, \varphi(D))\]と評価できます。$f$ はRiemann可積分なので $\psi\cdot (f\circ \varphi)$ のRiemann可積分性と主張の等式が従います。

(step 3) 関数 $A : [c, d]\to \R$ を\[A(y) := \varlimsup_{z\to y}|\psi(z) - \psi(y)|\]と定め、部分集合 $K\subset [c, d]$ を\[K := [c, d]\setminus (\Int\{y\in [c, d]\mid \psi(y) > 0\}\cup \Int\{y\in [c, d]\mid \psi(y) < 0\})\]と定めます。ただし、$\Int$ は $[c, d]$ における内部を表すとします。以下が成立します。

(i) $\overline{\int}_{c}^{d}A(y)dy = 0$.
(ii) 各 $y\in K$ に対して $|\psi(y)|\leq A(y)$ が成立する。
(iii) 任意の閉区間 $[s, t]\subset [c, d]$ に対して\[\left|\overline{\int}_{s}^{t}\psi(y)f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(s)}^{\varphi(t)}f(x)dx\right|\leq 4(t - s)\cdot \sup_{a\leq x\leq b}|f(x)|\cdot \sup_{s\leq y\leq t}A(y)\]という評価が成立する。

(i) 分割 $D = \{y_{0} < \dots < y_{n}\}\in \mathcal{D}([c, d])$ に対して\begin{eqnarray*}\overline{\int}_{c}^{d}A(y)dy & = & \sum_{k = 0}^{n - 1}\overline{\int}_{y_{k}}^{y_{k + 1}}A(y)dy \\& \leq & \sum_{k = 0}^{n - 1}(y_{k + 1} - y_{k})\cdot (\sup_{y_{k}\leq y\leq y_{k + 1}}\psi(y) - \inf_{y_{k}\leq y\leq y_{k + 1}}\psi(y)) \\& = & \overline{S}(\psi, D) - \underline{S}(\psi, D)\end{eqnarray*}であり、$\diam(D)\to 0$ とする極限を考えて $\overline{\int}_{c}^{d}A(y)dy = 0$ です。

(ii) $|\psi(y)| > A(y)$ を満たす $y\in [c, d]$ の十分小さい近傍において $\psi$ の符号は一定であり、$y\in \Int\{y\in [c, d]\mid \psi(y) > 0\}$ もしくは $y\in \Int\{y\in [c, d]\mid \psi(y) < 0\}$ が成立し、$y\notin K$ です。対偶を取って $y\in K$ ならば $|\psi(y)|\leq A(y)$ です。

(iii) 正実数 $\varepsilon > 0$ を固定します。(ii)より $K\cap [s, t]$ の $[s, t]$ における開近傍 $U$ であって $U$ 上常に $|\psi(y)| < 2\underset{s\leq z\leq t}{\sup}A(z) + \varepsilon$ を満たすものが取れます。$[s, t]$ の開被覆 $\{U, [s, t]\setminus K\}$ に対するLebesgue数 $\delta > 0$ を取り、$[s, t]$ の分割 $D$ を $\diam(D) < \delta$ に取ります。各小区間 $S\in D$ は $[s_{S}, t_{S}]$ の形に表されるとします。各 $S\in D$ は $S\subset U$ または $S\subset [s, t]\setminus K$ のいずれかを満たし、もし後者であれば $S$ 上で $\psi$ の符号が一定であることと(step 2)から\[\int_{s_{S}}^{t_{S}}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy = \int_{\varphi(s_{S})}^{\varphi(t_{S})}f(x)dx\]が成立します(step 2)では $\psi$ が常に正の場合しか示してませんが、常に負の場合も同じです。。よって、\begin{eqnarray*}\left|\overline{\int}_{s}^{t}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(s)}^{\varphi(t)}f(x)dx\right| & \leq & \sum_{S\in D}\left|\overline{\int}_{s_{S}}^{t_{S}}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(s_{S})}^{\varphi(t_{S})}f(x)dx\right| \\& = & \sum_{S\in D, \, S\cap K\neq \varnothing}\left|\overline{\int}_{s_{S}}^{t_{S}}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(s_{S})}^{\varphi(t_{S})}f(x)dx\right| \\& \leq & \sum_{S\in D, \, S\cap K\neq \varnothing}2\int_{s_{S}}^{t_{S}}|\psi(y)|dy \cdot \sup_{a\leq x\leq b}|f(x)| \\& \leq & 2(t - s)\cdot (2\sup_{s\leq y\leq t}A(y) + \varepsilon)\cdot \sup_{a\leq x\leq b}|f(x)| \\\end{eqnarray*}です。$\varepsilon > 0$ は任意に小さく取れるので目的の不等式が得られます。

では、主張を示します。まず、任意の分割 $D\in \mathcal{D}([c, d])$ に対し、そこに属す小区間 $S$ が $[c_{S}, d_{S}]$ で表されるとして、\begin{eqnarray*}\left|\overline{\int}_{c}^{d}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}f(x)dx\right| & \leq & \sum_{S\in D}\left|\overline{\int}_{c_{S}}^{d_{S}}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy - \int_{\varphi(c_{S})}^{\varphi(d_{S})}f(x)dx\right| \\& \leq & 4\sup_{a\leq x\leq b}|f(x)|\cdot \sum_{S\in D}(d_{S} - c_{S})\sup_{y\in S}A(y) \\& \leq & 4\sup_{a\leq x\leq b}|f(x)|\cdot \overline{S}(A, D)\end{eqnarray*}と評価できることと(i)より上積分について\[\overline{\int}_{c}^{d}\psi(y)\cdot f(\varphi(y))dy = \int_{\varphi(c)}^{\varphi(d)}f(x)dx\]です。下積分についても同様の等式が得られ、よって、主張が成立します。

補足4.3.48

置換積分公式は関係式 $x = \varphi(y)$ とその微分 $\tfrac{dx}{dy} = \varphi'(y)$ から定まる形式的な関係式 $dx = \varphi'(y)dy$ による置き換えを実行したものと解釈できます。

広義積分

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ が与えられ、$f$ は $J$ に含まれる任意の有界閉区間上でRiemann可積分とします。$J$ の端点の周りで $f$ が有界でない場合や、そもそも $J$ が非有界な場合は $J$ 上で普通の意味でのRiemann積分は取れませんが、有界閉区間上の積分値の極限として正当化できる場合があります。

定義4.3.49
(広義積分)

区間 $J$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ が与えられ、$f$ は $J$ に含まれる任意の有界閉区間上でRiemann可積分とする。

(1) 区間 $J$ が半開区間 $[a, b)$ もしくは $(a, b]$ のとき $($$a = -\infty$ や $b = +\infty$ でもよい$)$、極限 $\underset{x\to a}{\lim}\int_{a}^{x}f(t)dt$ もしくは $\underset{x\to a}{\lim}\int_{x}^{b}f(t)dt$ が存在すればその値を $f$ の $J$ 上の広義積分といい\[\int_{a}^{b}f(x)dx\]で表す。
(2) 区間 $J$ が開区間 $(a, b)$ のとき $($$a = -\infty$ や $b = +\infty$ でもよい$)$、適当に固定した点 $c\in J$ に対して半開区間 $(a, c]$ および $[c, b)$ 上の広義積分の和 $\int_{a}^{c}f(x)dx + \int_{c}^{b}f(x)dx$ が定まっていればその値を $f$ の $J$ 上の広義積分といい\[\int_{a}^{b}f(x)dx\]で表す。(もちろん $c$ の取り方には依存しない。)
(3) $f$ の広義積分が存在して有界値であるとき、$f$ の広義積分は収束するもしくは $f$ は広義可積分であるという。$f$ の広義積分が存在して正もしくは負の無限大であるとき、$f$ の広義積分は正もしくは負の無限大に発散するという。

与えられた関数が広義可積分かどうかに関して以下が基本的です。

命題4.3.50
(Cauchyの条件)

区間 $J = [a, b)$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ が与えられ、$f$ は $J$ に含まれる任意の有界閉区間上でRiemann可積分とする。このとき、次は同値である。

(1) $f$ は広義可積分である。
(2) 任意の正実数 $\varepsilon > 0$ に対してある $c\in J$ が存在し、任意の $c < s < t < b$ に対して\[\left|\int_{s}^{t}f(x)dx\right| < \varepsilon\]が成立する。
証明

自明です。

命題4.3.51
(絶対可積分条件)

区間 $J = [a, b)$ 上で定義された関数 $f : J\to \R$ が与えられ、$f$ は $J$ に含まれる任意の有界閉区間上でRiemann可積分とする。もし $|f|$ が広義可積分ならば $f$ も広義可積分である。$f$ がこの仮定を満たすとき絶対可積分であるという。

証明

自明です。

単調関数の可積分性
命題4.3.52

有界閉区間 $J$ 上定義された広義単調増加 $($減少$)$ 関数 $f : J\to \R$ はRiemann可積分である。

証明

広義単調増加な場合について示します。区間 $J$ の分割 $D$ に対し、それを狭義単調増加列 $x_{0} < x_{1} < \dots < x_{n}$ と思って\begin{eqnarray*}\overline{S}(f, D) - \underline{S}(f, D) & = & \sum_{k = 0}^{n - 1}(x_{k + 1} - x_{k})(\sup_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}f(x) - \inf_{x_{k}\leq x\leq x_{k + 1}}f(x)) \\& = & \sum_{k = 0}^{n - 1}(x_{k + 1} - x_{k})(f(x_{k + 1}) - f(x_{k})) \\& \leq & \sum_{k = 0}^{n - 1}\diam(D)(f(x_{k + 1}) - f(x_{k})) \\& = & \diam(D)(f(x_{n}) - f(x_{0}))\end{eqnarray*}と評価できます。この右辺の $\diam(D)\to 0$ とした極限は $0$ に収束するので左辺も $0$ に収束し、$f$ のRiemann可積分性が従います。

連続曲線の長さ

有界閉区間 $J = [a, b]$ の分割 $D$ は狭義単調増加列 $a = x_{0} < x_{1} < \dots < x_{n} = b$ として表せましたが、ここでは区間 $J$ の各分割 $D\in \mathcal{D}(J)$ に対してこのように定まる列を $t_{D, 0}, t_{D, 1}, \dots, t_{D, n(D)}$ で表すとします。

連続曲線の長さを次で定義します。

定義4.3.53
(連続曲線の長さ)

有界閉区間 $J$ 上定義された連続曲線 $c : J\to \R^{m}$ に対し、その長さ $L(c)$ を\[L(c) := \sup_{D\in\mathcal{D}(J)}\sum_{k = 0}^{n(D) - 1}|c(t_{D, k + 1}) - c(t_{D, k})|\]により定める。

連続曲線の長さはパラメータの取り換えにより不変です。

命題4.3.54
(パラメータの取り換えと長さ)

有界閉区間 $I, J$ と $J$ 上定義された連続曲線 $c : J\to \R^{m}$ と同相写像 $\varphi : I\to J$ に対して\[L(c\circ \varphi ) = L(c)\]が成立する。

証明

有界閉区間の分割をその区間の部分集合だと思って、同相写像 $\varphi$ は全単射 $\varphi_{*} : \mathcal{D}(I)\to \mathcal{D}(J) : D\mapsto \varphi(D)$ を定めます。任意の $D\in \mathcal{D}(I)$ に対して\[\sum_{k = 0}^{n(D) - 1}|(c\circ \varphi)(t_{D, k + 1}) - (c\circ \varphi)(t_{D, k})| = \sum_{k = 0}^{n(\varphi(D)) - 1}|c(t_{\varphi(D), k + 1}) - c(t_{\varphi(D), k})|\]であるので$n(\varphi(D)) = n(D)$ であり、$\varphi$ が単調増加ならば常に $\varphi(t_{D, k}) = t_{\varphi(D), k}$ であるし、単調減少ならば常に $\varphi(t_{D, k}) = t_{\varphi(D), n(D) - k}$ です。当然 $L(c\circ \varphi) = L(c)$ です。

命題4.3.55
($2$ 点間を最短でつなぐ連続曲線は線分)

$x_{0}, x_{1}\in \R^{m}$ を始点と終点とする連続曲線 $c : J\to \R^{m}$ に対して $L(c)\geq |x_{1} - x_{0}|$ が成立する。また、等号成立には $\Img c$ が $x_{0}, x_{1}$ を結ぶ線分に一致する必要がある。

証明

容易です。

有界閉区間上で定義された連続曲線が $C^{1}$ 級であるとは、端点においては片側微分を考えるとして、各点微分可能かつその導関数が連続であることとします。$C^{1}$ 級曲線 $c : J\to \R^{m}$ の長さは速度の積分 $\int_{J}|c'(t)|dt$ で求められます。証明のための補題を用意します。

補題4.3.56

有界閉区間 $J = [a, b]$ 上定義された $C^{1}$ 級曲線 $c : J\to \R^{m}$ に対して\[\int_{a}^{b}|c'(t)|dt \leq |c(b) - c(a)| + (b - a)\cdot \underset{x, y\in J}{\sup}|c'(y) - c'(x)|\]が成立する。

証明

$C^{1}$ 級曲線 $\tilde{c} : J\to \R^{m}$ を\[\tilde{c}(t) := c(t) - c(a) - \dfrac{c(b) - c(a)}{b - a}(t - a)\]に取ります。$\underset{x, y\in J}{\sup}|\tilde{c}'(y) - \tilde{c}'(x)| = \underset{x, y\in J}{\sup}|c'(y) - c'(x)|$ であることと\begin{eqnarray*}\int_{a}^{b}|c'(t)|dt & = & \int_{a}^{b}\left|\tilde{c}'(t) + \dfrac{c(b) - c(a)}{b - a}\right|dt \\& \leq & \int_{a}^{b}|\tilde{c}'(t)| + \left|\dfrac{c(b) - c(a)}{b - a}\right|dt& = & \int_{a}^{b}|\tilde{c}'(t)|dt + |c(b) - c(a)|\end{eqnarray*}より\[\int_{a}^{b}|\tilde{c}'(t)|dt\leq (b - a)\cdot \underset{x, y\in J}{\sup}|\tilde{c}'(y) - \tilde{c}'(x)|\]を示せばよく、そのためには\[\sup_{t\in J}|\tilde{c}'(t)|\leq \sup_{x, y\in J}|\tilde{c}'(y) - \tilde{c}'(x)|\]を示せばよいです。

$|\tilde{c}'(t_{0})| = \underset{t\in J}{\sup}|\tilde{c}'(t)|$ となる $t_{0}\in J$ を取ります。$C^{1}$ 級写像 $F(t) := \langle\tilde{c}(t), \tilde{c}'(t_{0})\rangle$ は $F(b) = F(a)$ を満たし、平均値の定理よりある $t_{1}\in J$ が存在して\[0 = F'(t_{1}) = \langle\tilde{c}'(t_{1}), \tilde{c}'(t_{0})\rangle\]となります。この $t_{0}, t_{1}$ について $|\tilde{c}'(t_{1}) - \tilde{c}'(t_{0})|\geq |\tilde{c}'(t_{0})| = \underset{t\in J}{\sup}|\tilde{c}'(t)|$ であり、欲しかった不等式が得られます。

命題4.3.57
($C^{1}$ 級曲線の長さ)

有界閉区間 $J$ 上定義された $C^{1}$ 級曲線 $c : J\to \R^{m}$ に対して\[L(c) = \int_{J}|c'(t)|dt\]が成立する。特に有界閉区間上で定義された $C^{1}$ 級曲線の長さは有界値である。

証明

まず、$J$ の任意の分割 $D$ に対して\[\sum_{k = 0}^{n(D) - 1}|c(t_{D, k + 1}) - c(t_{D, k})| = \sum_{k = 0}^{n(D) - 1}\left|\int_{t_{D, k}}^{t_{D, k + 1}}c'(t)dt\right|\leq \sum_{k = 0}^{n(D) - 1}\int_{t_{D, k}}^{t_{D, k + 1}}|c'(t)|dt = \int_{J}|c'(t)|dt\]なので、この上限を取って\[L(c)\leq \int_{J}|c'(t)|dt\]です。

逆向きの不等式を示します。正実数 $\varepsilon > 0$ を取ります。$c'$ の一様連続性から正実数 $\delta > 0$ であって任意の $x, y\in J$ に対して $|y - x| < \delta$ ならば $|c'(y) - c'(x)| < \varepsilon$ となるものを取り、区間 $J$ の分割 $D$ であって $\diam(D) < \delta$ を満たすものを取ります。このとき、補題4.3.56を用いて\begin{eqnarray*}\int_{J}|c'(t)|dt - \varepsilon\cdot \vol(J) & = & \sum_{k = 0}^{n(D) - 1}\int_{t_{D, k}}^{t_{D, k + 1}}|c'(t)|dt - \varepsilon\cdot (t_{D, k + 1} - t_{D, k}) \\& \leq & \sum_{k = 0}^{n(D) - 1}|c(t_{D, k + 1}) - c(t_{D, k})|\leq L(c)\end{eqnarray*}と評価できます。$\varepsilon > 0$ は任意なので\[\int_{J}|c'(t)|dt\leq L(c)\]が得られます。

補足4.3.58
($C^{1}$ 級曲線の表現方法ごとの長さ)

平面 $\R^{2}$ 上の連続曲線は連続写像 $c : J\to \R^{2}$ として表す以外に

(a) 直交座標系における連続関数 $f : J\to \R$ のグラフ $y = f(x)$,
(b) 極座標系における原点からの距離 $r$ を回転角 $\theta$ をパラメータとして表した連続関数 $r : J\to \R$

として表す方法が代表的です。それぞれもし $C^{1}$ 級であれば長さは\[\int_{J}\sqrt{1 + (f'(x))^{2}}dx,\]\[\int_{J}\sqrt{(r'(\theta))^{2} + (r(\theta))^{2}}d\theta\]で表されます。

証明

(a) $C^{1}$ 級曲線 $c(x) := (x, f(x))$ の長さなので\[L(c) = \int_{J}|c'(x)|dx = \int_{J}\sqrt{1 + (f'(x))^{2}}dx\]です。

(b) $C^{1}$ 級曲線 $c(\theta) := (r(\theta)\cos\theta, r(\theta)\sin\theta)$ の長さなので\begin{eqnarray*}L(c) = \int_{J}|c'(\theta)|d\theta & = & \int_{J}\sqrt{(r'(\theta)\cos\theta - r(\theta)\sin\theta)^{2} + (r'(\theta)\sin\theta + r(\theta)\cos\theta)^{2}}d\theta \\& = & \int_{J}\sqrt{(r'(\theta))^{2} + (r(\theta))^{2}}d\theta\end{eqnarray*}です。

例4.3.59
(空間充填曲線)

事実として単位区間 $I := [0, 1]$ から単位正方形 $I^{2}$ への連続全射が存在し、$($単位正方形に対する$)$ 空間充填曲線と呼ばれます。Peano曲線と呼ばれるものが最初に見つかった例でとても有名です。空間充填曲線 $c : I\to I^{2}$ の長さ $L(c)$ は正の無限大であるため、$C^{1}$ 級には取れません。

証明

空間充填曲線 $c$ は終域 $I^{2}$ において間隔 $1/n$ で格子状に並ぶ $(n + 1)^{2}$ 個の点を全て通ります。それらのうちどの $2$ 点をつなぐにも最低 $1/n$ の長さを要することから\[L(c)\geq \dfrac{(n + 1)^{2} - 1}{n} = n + 2\]という評価が得られ、$n$ は任意に大きく取れるので $L(c) = +\infty$ です。

命題4.3.60

有界閉区間 $J$ 上定義された $C^{1}$ 級曲線 $c : J\to \R^{m}$ と $C^{1}$ 級曲線の列 $\{c_{n} : J\to \R^{m}\}_{n\in\N}$ が与えられ、$c_{n}$ は $c$ に各点収束し、$c'_{n}$ は $c'$ に一様収束するとする。このとき\[L(c) = \lim_{n\to\infty}L(c_{n})\]が成立する。

証明

$|c'_{n}|$ は $|c'|$ に一様収束するので命題4.3.27より\[\lim_{n\to\infty}L(c_{n}) = \lim_{n\to\infty}\int_{J}|c'_{n}(t)|dt = \int_{J}|c'(t)|dt = L(c)\]です。

4.3.4 複素積分
区分的 $C^{1}$ 級曲線

$C^{1}$ 級曲線たちを端点でつなぎ合わせて得られる連続曲線を区分的 $C^{1}$ 級曲線といいます。正確に述べると、連続曲線 $c : J\to \R^{m}$ が区分的 $C^{1}$ 級であるとは、$J$ の分割 $D$ であって各 $S\in D$ に対して制限 $c|_{S}$ が $C^{1}$ 級になるものが存在することです区分的 $C^{1}$ 級曲線 $($関数$)$ は分野や目的によってそこそこ異なる定義が採用されることがあります。例えば、Fourier解析においては不連続点を持つ関数も含む形で定義されます。。もちろん、区分的 $C^{1}$ 級曲線たちを端点でつなぎ合わせて得られる曲線も区分的 $C^{1}$ 級です。

区分的 $C^{1}$ 級閉曲線は有界閉区間 $J = [a, b]$ 上で定義された連続写像 $c : J\to \R^{m}$ であって $c(a) = c(b)$ を満たすものとして定義できますが、閉曲線を円周 $S^{1}$ 上で定義された連続写像 $\tilde{c} : S^{1}\to \R^{m}$ と考えたい場合には、あらかじめ有界閉区間 $J$ と同相 $J/\partial J\cong S^{1}$ を固定しているとして、商写像 $\pi : J\to J/\partial J$ との合成 $\tilde{c}\circ \pi$ が区分的 $C^{1}$ 級であることにより $\tilde{c}$ が区分的 $C^{1}$ 級閉曲線であることを定義します。$($誘導位相・商写像について詳しくは2.7節を参照。$)$

例4.3.61
(区分的 $C^{1}$ 級曲線の例)

(a) 平面上の折れ線を端点の一方から他方へ一定速度でたどる曲線は区分的 $C^{1}$ 級曲線です。
(b) 平面上の多角形や扇形の境界を一定速度で $1$ 周する曲線は区分的 $C^{1}$ 級閉曲線です。

次は区分的 $C^{1}$ 級なパラメータ変換で区分的 $C^{1}$ 級という性質が保たれることを含みます。

命題4.3.62

$J, J'$ を有界閉区間とし、区分的 $C^{1}$ 級曲線 $\varphi : J'\to J$ と区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c : J\to \R^{m}$ が与えられたとする。次が成立する。

(1) $c$ の微分不可能な点全体からなる集合を $A$ として、$\varphi^{-1}(A)$ の連結成分が高々有限個であれば合成 $c\circ \varphi$ は区分的 $C^{1}$ 級である。
(2) $J'$ の分割 $D'$ であって各 $S'\in D'$ に対して制限 $\varphi|_{S'}$ が広義単調となるものが存在すれば合成 $c\circ \varphi$ は区分的 $C^{1}$ 級である。
(3) $\varphi$ が同相写像であれば合成 $c\circ \varphi$ は区分的 $C^{1}$ 級である。
証明

(1) $\varphi^{-1}(A)$ の各連結成分上で $c$ が一定値を取ることに注意すれば容易です。

(2) (1)よりただちに従います。

(3) 区間の間の同相写像が狭義単調であることと(2)より従います。

補足4.3.63

(a) 区分的 $C^{1}$ 級曲線どうしの合成 $c\circ \varphi$ は必ずしも区分的 $C^{1}$ 級になるとは限らず、例えば、$\varphi(t) := t^{3}\sin(1/t)$, $c(t) := |t|$ を考えれば $(c\circ \varphi)(t)$ は $t = 0$ の近くで無数に微分不可能な点を持ち、これを適当な有界閉区間上で考えて反例が得られます。
(b) 有界閉区間の間の区分的 $C^{1}$ 級な同相写像 $\varphi : J'\to J$ に対し、その逆写像 $\varphi^{-1}$ は区分的 $C^{1}$ 級とは限りません。例えば、$\varphi(t) := t^{3}$ を適当な有界閉区間で考えればよいです。
複素線積分と積分経路

複素数体 $\C$ の開集合 $U$ 上で定義された複素数値連続関数 $f : U\to \C$ と区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c : J\to U$ に対し、$f$ の $c$ の沿った積分 $\int_{c}f(z)dz$ を\[\int_{c}f(x)dz := \int_{J}f(c(t))c'(t)dt\]により定めます。これを複素積分と言ったり、曲線に沿った積分であることを強調して複素線積分や単に線積分と言ったりします。また、$C^{1}$ 級曲線 $c$ のことは積分経路とも言います。

複素線積分の積分値はパラメータの取り換えで保たれ、正確に言えば、有界閉区間の間の狭義単調増加かつ区分的 $C^{1}$ 級な同相写像 $\varphi : J'\to J$ に対して\[\int_{c}f(z)dz = \int_{c\circ \varphi}f(z)dx\]が成立します。実際、$J = [a, b]$, $J' = [a', b']$ だったとして、$t = \varphi(u)$ とする置換積分により\begin{eqnarray*}\int_{c\circ \varphi}f(z)dz & = & \int_{a'}^{b'}f((c\circ \varphi)(u))(c\circ \varphi)'(u)du \\& = & \int_{a'}^{b'}((f\circ c)\cdot c')(\varphi(u))\varphi'(u)du = \int_{a}^{b}f(c(t))c'(t)dt = \int_{c}f(z)dz \\\end{eqnarray*}です。注意として、もし $\varphi$ が狭義単調減少とすると、$3$ つ目の等号で符号が反転するために積分値に $-1$ 倍の違いが生じます。

状況によっては複数の区分的 $C^{1}$ 級曲線の和を積分経路として考えたい場合があり典型的なのが、積分経路が多角形や扇形の境界である場合に角で切って線分や弧に分割することです。、その場合の表記として、区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c_{1}, c_{2}, \dots, c_{n}$ たちの形式的な和 $\sum_{k = 1}^{n}c_{k} = c_{1} + c_{2} + \cdots + c_{n}$ に沿った複素線積分を\[\int_{\sum_{k = 1}^{n}c_{k}}f(z)dz := \sum_{k = 1}^{n}\int_{c_{k}}f(z)dz\]と定めます。さらには曲線ごとに整数の重み $m_{1}, m_{2}, \dots, m_{n}$ をつけて\[\int_{\sum_{k = 1}^{n}m_{k}c_{k}}f(z)dz = \sum_{k = 1}^{n}m_{k}\int_{c_{k}}f(z)dz\]と定めます。

積分値がパラメータの取り換えで保たれるという事実は、区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c$ と狭義単調増加かつ区分的 $C^{1}$ 級な同相写像 $\varphi$ に対し、積分経路として扱う限りにおいて $c\circ \varphi = c$ と思ってよいことを意味します。また、$\varphi$ が狭義単調減少な場合には $c\circ \varphi = -c$ と考えられます。さらに、区分的 $C^{1}$ 級曲線どうしのつなぎ合わせに対応して、例えば、区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c_{1}, c_{2}, \dots, c_{n}$ をつなぎ合わせて区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c$ が得られるとしたときに $c = \sum_{k = 1}^{n}c_{k}$ という関係式があると思うと便利でしょう。

補足4.3.64
(線分や図形の境界に沿った複素線積分)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された複素数値連続関数 $f : U\to \C$ が与えられているとします。

(a) $U$ に含まれる線分に沿って、その端点の一方 $z_{0}$ から他方 $z_{1}$ に向かって考える $f$ の複素線積分を $\int_{z_{0}}^{z_{1}}f(z)dz$ で表すとします。具体的には\[\int_{z_{0}}^{z_{1}}f(z)dz = \int_{0}^{1}f((1 - t)z_{0} + tz_{1})(z_{1} - z_{0})dz\]です。
(b) $U$ に含まれる図形 $T$ が与えられたとして、その境界 $\partial T$ に沿った $f$ の複素線積分を $\int_{\partial T}f(z)dz$ で表すとします。もちろん、境界 $\partial T$ が素朴な意味で「図形 $T$ を囲む閉曲線」になっていないと意味をなさないため、図形 $T$ としては多角形や扇形など単純なものを考えます。そして、その上で境界をどの向きに $1$ 周するか指定しておく必要もあります。図形が非連結であったり穴の開いた形状の場合は境界は複数の閉曲線からなりますが、この場合の向きは一番外側の閉曲線から順に反時計回り、時計回り、反時計回り…と交互に取っていくのが普通です可微分多様体の向き $($詳しくは多様体論 2.3.1節を参照$)$ について知っているとして説明すると、これは図形 $T$ を向き付けられた $2$ 次元多様体と解釈し、境界 $\partial T$ にそこから誘導される向きを与えるのと同じです。ちなみに、一番外側を反時計回りに正とするのは、図形 $T$ の向きを複素数体の標準的な向きから定めた場合に誘導される向きと一致させるためです。(まあ、そこはそうしなければいけないという程の話ではないですが、向きを交互に入れ換える点についてはこの後のGoursatの定理の拡張 $($補足4.3.68$)$ が上手くいくために重要です。)
図4.3.1 : 図形の境界に沿った積分経路
補足4.3.65
(弧長に関する線積分)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された複素数値連続関数 $f : U\to \C$ が与えられているとします。区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c : [a, b]\to U$ に対して\[\int_{c}f(z)|dx| := \int_{a}^{b}f(c(t))|c'(t)|dt\]と定め、これを $f$ の $c$ に沿った弧長に関する線積分と呼びます。明らかに\[\left|\int_{c}f(z)dz\right|\leq \int_{c}|f(z)||dz|\]が成立します。

Cauchyの積分定理

複素線積分についての重要定理にCauchyの積分定理と呼ばれるものがあり、様々な定式化がなされていますが、ここでは定理4.3.71の形で証明します。Cuachyの積分公式 $($定理4.3.72$)$ も確かめます。

まず、基本的な補題として、複素微分の意味での原始関数が存在すればそれが不定積分になることを確かめておきます。

補題4.3.66

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された連続関数 $f : U\to \C$ が与えられ、原始関数 $F$ が存在したとする。このとき、任意の区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c : [a, b]\to U$ に対して\[\int_{c}f(z)dz = F(c(b)) - F(c(a))\]が成立する。

証明

$\tfrac{d}{dt}(F(c(t))) = F'(c(t))c'(t)$ と微積分学の基本定理 $($定理4.3.43$)$ の成分ごとの適用から従います。

次はCauchyの積分定理の原型に相当します。

命題4.3.67
(Goursatの定理)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された正則関数 $f : U\to \C$ と $U$ に含まれる三角形 $T$ が与えられたとする。このとき、\[\int_{\partial T}f(z)dz = 0\]が成立する。

証明

以下の手続きにより三角形の列 $\{T_{n}\}_{n\in\N}$ を取ります。

$T_{0} = T$ とする。
$T_{n}$ を各辺の中点を結ぶ線分によって $4$ つの三角形 $T_{n, 1}, \dots, T_{n, 4}$ に分割するとして、そのうちで $|\int_{\partial T_{n, k}}f(z)dz|$ が最も大きいもののうち $1$ つを $T_{n + 1}$ とする。

各 $T_{n, k}$ の境界の向きは反時計回り正に取るとして、形式的には $\partial T_{n} = \sum_{k = 1}^{4}\partial T_{n, k}$ であるので\[\int_{\partial T_{n}}f(z)dz = \sum_{k = 1}^{n}\int_{\partial T_{n, k}}f(z)dz\]が分かります。

図4.3.2 : $T_{n}$ の内部を通る経路は相殺されて境界分のみが残る

よって、各 $n\in \N$ に対して\[\left|\int_{\partial T_{n}}f(z)dz\right| = \left|\sum_{k = 1}^{n}\int_{\partial T_{n, k}}f(z)dz\right|\leq 4\left|\int_{\partial T_{n + 1}}f(z)dz\right|\]であり、常に\[\left|\int_{\partial T}f(z)dz\right|\leq 4^{n}\left|\int_{\partial T_{n}}f(z)dz\right|\]です。

共通部分 $\bigcap_{n\in\N}T_{n}$ は $1$ 点集合であり、その点を $z_{0}$ とします。正実数 $\varepsilon > 0$ を取り、$z_{0}$ の開近傍 $U_{0}$ をその上で常に\[|f(z) - f(z_{0}) - f'(z_{0})(z - z_{0})|\leq \varepsilon|z - z_{0}|\]となるように取ります。$T_{n}\subset U_{0}$ となる $n\in \N$ を取ると\[\left|\int_{\partial T_{n}}f(z)dz\right| = \left|\int_{\partial T_{n}}f(z) - f(z_{0}) - f'(z_{0})(z - z_{0})dz\right|\leq \varepsilon L(\partial T_{n})^{2}\]と評価でき$1$ 次関数に対しては原始関数が取れるので\[\int_{\partial T_{n}}f(z_{0}) + f'(z_{0})(z - z_{0})dz = 0\]です。、\[\left|\int_{\partial T}f(z)dz\right|\leq 4^{n}\left|\int_{\partial T_{n}}f(z)dz\right|\leq 4^{n}\varepsilon L(\partial T_{n})^{2} = \varepsilon L(\partial T)^{2}\]です。正実数 $\varepsilon$ は任意に取れるので主張の等式が得られます。

補足4.3.68

命題4.3.67はもう少し過程を弱めても成立し、例えば、三角形 $T$ は一般の多角形 $($穴が空いているものも可$)$ でよく、関数 $f$ も連続かつ高々有限個の点を除いて正則としてよいです。

詳細

まず、与えられた多角形 $T$ から複素微分不可能な点の近傍を除いた多角形 $T'$ を取ります。$T'$ をいくつかの三角形 $T'_{1}, \dots, T'_{n}$ に分割し地味にここが大変。多角形の頂点が全て格子点になる格子を取り $($正方格子である必要はない$)$、その格子に従って多角形を分割すると、ひとつひとつは凸多角形になるので(格子の一つの長方形の中で複数になることはある)、あとはそれらを三角形に分割すればよいです。、各 $T'_{n}$ に対して命題4.3.67を適用することで\[\int_{\partial T'}f(z)dz = \sum_{k = 1}^{n}\int_{\partial T'_{k}}f(z)dz = 0\]が分かります。

図4.3.3

$T$ から取り除く近傍の周長を小さく取ることで $|\int_{\partial T}f(z)dz - \int_{\partial T'}f(z)dz|$ はいくらでも小さくできるので、この場合も\[\int_{\partial T}f(z)dz = 0\]が得られます。

系4.3.69
(原始関数の存在)

星型開集合 $U\subset \C$ 上で定義された高々有限個の点を除いて正則な連続関数 $f : U\to \C$ が与えられたとする。$U$ の中心 $z_{0}$ を固定し、関数 $F : U\to \C$ を\[F(w) := \int_{z_{0}}^{w}f(z)dz\]により定めるとき、$F$ は $f$ の原始関数である。

証明

任意に $z_{1}\in U$ を固定し、$F$ が $z_{1}$ において複素微分可能かつ $F'(z_{1}) = f(z_{1})$ を満たすことを示します。$z_{1}$ の凸開近傍 $U_{1}\subset U$ を取ります。任意の $w\in U_{1}$ に対して $z_{0}, z_{1}, w$ を頂点とする三角形 $T$ は $U$ に含まれ、命題4.3.67補足4.3.68より\[0 = \int_{\partial T}f(z)dz = \int_{z_{0}}^{z_{1}}f(z)dz + \int_{z_{1}}^{w}f(z)dz + \int_{w}^{z_{0}}f(z)dz\]です。これを整理して\[F(w) - F(z_{1}) = \int_{z_{1}}^{w}f(z)dz\]であり、ここから\[\dfrac{|F(w) - F(z_{1}) - f(z_{1})(w - z_{1})|}{|w - z_{1}|} = \dfrac{\left|\int_{z_{1}}^{w}f(z) - f(z_{1})dz\right|}{|w - z_{1}|}\leq \sup_{0\leq t\leq 1}|f((1 - t)z_{1} + tw) - f(z_{1})|\]という評価が得られます。右辺の $w\to z_{1}$ とした極限は $0$ であり、つまり、$F$ は $z_{1}$ において複素微分可能かつ $F'(z_{1}) = f(z_{1})$ を満たします。

では、Cauchyの積分定理の証明ですが、これは次のより一般的な事実から分かります。

定理4.3.70
(複素線積分のhomotopy不変性)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された高々有限個の点を除いて正則な連続関数 $f : U\to \C$ が与えられたとする。

(1) 互いに端点を保ってhomotopicな区分的 $C^{1}$ 級曲線 $c_{0}, c_{1} : J\to U$ に対して\[\int_{c_{0}}f(z)dz = \int_{c_{1}}f(z)dz\]が成立する。
(2) 互いにhomotopicな区分的 $C^{1}$ 級閉曲線 $c_{0}, c_{1} : S^{1}\to U$ に対して\[\int_{c_{0}}f(z)dz = \int_{c_{1}}f(z)dz\]が成立する。
証明

(1) $i = 0, 1$ それぞれについて、$c_{i}$ の微分不可能な点全体からなる集合を $A_{i}$ として、狭義単調増加な $C^{1}$ 級写像 $\varphi_{i} : J\to J$ を各 $t\in \varphi_{i}^{-1}(A_{i})$ に対して $\varphi'_{i}(t) = 0$ であるように取ります。合成 $c_{i}\circ \varphi_{i}$ は $C^{1}$ 級曲線であり、また、$c_{i}$ と端点を保ってhomotopicです。もちろん、$f$ の $c_{i}, c_{i}\circ \varphi_{i}$ に沿った積分値は一致します。そこで、最初から $c_{0}, c_{1}$ は $C^{1}$ 級曲線だったとして示せばよいです。

$c_{0}$ を $c_{1}$ につなぐ端点を保つhomotopy $H : J\times [0, 1]\to U$ を取ります。事実として、この $H$ の第 $1$ 成分を固定して得られる曲線、第 $2$ 成分を固定して得られる曲線がどれも $C^{1}$ 級曲線になるように取れます畳み込み積分による円滑化くらいまで知っていれば(書き下すのは大変でも方針レベルでは)容易に構成できます。大道具ですが、Whitneyの近似定理 $($多様体論 定理1.3.9$)$ に頼ってもいいでしょう。

$U$ に含まれる有界開円盤全体を $\mathcal{V}$ とおき、長方形 $J\times [0, 1]$ の開被覆 $\{H^{-1}(V)\mid V\in \mathcal{V}\}$ に関するLebasgue数 $\delta > 0$ を取り $($補題2.8.20$)$、さらに、$J\times [0, 1]$ の分割 $D$ を各小長方形 $S\in D$ の通常の距離に関する直径が $\delta$ 未満になるように取ります。

制限 $H|_{\partial(J\times [0, 1])}$ や各 $S\in D$ に対する制限 $H|_{\partial S}$ は $U$ に値を取る区分的 $C^{1}$ 級閉曲線になりますが、それぞれに上手く向きを与えて\[H|_{\partial(J\times [0, 1])} = \sum_{S\in D}H|_{\partial S}\]であるようにしておきます。各 $S\in D$ に対して $V\in \mathcal{V}$ であって $H(S)\subset V$ となるものが取れますが、系4.3.69より $V$ 上で $f$ の原始関数が取れるので\[\int_{H|_{\partial S}}f(z)dz = 0\]が得られます。これより\[\int_{H|_{\partial(J\times [0, 1])}}f(z)dz = \sum_{S\in D}\int_{H|_{\partial S}}f(z)dz = 0\]であり、あとは左辺の積分経路について $H|_{\partial (J\times [0, 1])} = \pm(c_{1} - c_{0})$ であることから\[\int_{c_{1}}f(z)dz - \int_{c_{0}}f(z)dz = 0\]です。

(2) (1)と同様に示せます。

定理4.3.71
(Cauchyの積分定理)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された高々有限個の点を除いて正則な連続関数 $f : U\to \C$ が与えられたとする。null-homotopicな区分的 $C^{1}$ 級閉曲線 $c : S^{1}\to U$ に対して\[\int_{c}f(z)dz = 0\]が成立する。

証明

定理4.3.70より明らかです。

Cauchyの積分公式を示します。

定理4.3.72
(Cauchyの積分公式)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された正則関数 $f : U\to \C$ と $w\in U$ に対して\[f(w) = \dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)}{z - w}dz\]が成立する。ただし、$D$ は $U$ に含まれる閉円盤であって $w$ を内点に持つとし、境界 $\partial D$ の向きは反時計回りに正とする。

証明

正実数 $r > 0$ を $w$ を中心とする半径 $r$ の閉円盤 $D_{r}(w)$ が $D$ に含まれるように取ります。積分経路は $\partial D_{r}(w)$ に置き換えて計算すればよいです。以下の等式を示します。

(i) $\int_{\partial D_{r}(w)}\tfrac{1}{z - w}dz = 2\pi\sqrt{-1}$.
(ii) $\int_{\partial D_{r}(w)}\tfrac{f(z) - f(w)}{z - w}dz = 0$.

これらが示されれば、(i)の $f(w)$ 倍と(ii)を足して $2\pi\sqrt{-1}$ で割れば主張の等式が得られます。

(i) 境界 $\partial D_{r}(w)$ を $c(t) := w + r(\cos t + \sqrt{-1}\sin t)$ とパラメータ付けして計算すると\[\int_{\partial D_{r}(w)}\dfrac{1}{z - w}dz = \int_{0}^{2\pi}\dfrac{-\sin t + \sqrt{-1}\cos t}{\cos t + \sqrt{-1}\sin t}dt =\int_{0}^{2\pi}\sqrt{-1}dz = 2\pi \sqrt{-1}\]です。

(ii) $\tfrac{f(z) - f(w)}{z - w}$ が $z$ の関数として $w$ において連続に拡張すること、$w$ を除いた各点で複素微分可能であることとCauchyの積分定理 $($定理4.3.71$)$ より従います。

正則関数の解析性

Cauchyの積分公式から $($$1$ 変数の$)$ 正則関数は任意回数複素微分可能なことが分かります。

命題4.3.73
(正則関数の $n$ 階導関数)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された正則関数 $f : U\to \C$ が与えられたとする。$f$ は無限回複素微分可能であり、その $n$ 階導関数 $f^{(n)}$ と $U$ に含まれる閉円盤 $D$ とその内点 $w$ に対して\[f^{(n)}(w) = \dfrac{n!}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)}{(z - w)^{n + 1}}dz\]が成立する。

証明

$n = 0$ の場合はCauchyの積分公式 $($定理4.3.72$)$ です。$n$ 階導関数について存在と等式が示されたとして、$n + 1$ 階導関数について存在と等式を示せば数学的帰納法より主張が従います。$U$ に含まれる閉円盤 $D$ とその内点 $w, w_{0}$ に対して\begin{eqnarray*}\dfrac{f^{(n)}(w) - f^{(n)}(w_{0})}{w - w_{0}} & = & \dfrac{1}{w - w_{0}}\dfrac{n!}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)}{(z - w)^{n + 1}} - \dfrac{f(z)}{(z - w_{0})^{n + 1}}dz \\& = & \dfrac{1}{w - w_{0}}\dfrac{n!}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)((z - w_{0})^{n + 1} - (z - w)^{n + 1})}{(z - w)^{n + 1}(z - w_{0})^{n + 1}}dz \\& = & \dfrac{n!}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)\sum_{k = 0}^{n}(z - w_{0})^{k}(z - w)^{n - k}}{(z - w)^{n + 1}(z - w_{0})^{n + 1}}dz \\\end{eqnarray*}です。最後の項の被積分関数について $w\to w_{0}$ とする極限を考えると一様に $(n + 1)\frac{f(z)}{(z - w_{0})^{n + 2}}$ に収束するので、命題4.3.27より\[\lim_{w\to w_{0}}\dfrac{f^{(n)}(w) - f^{(n)}(w_{0})}{w - w_{0}} = \dfrac{(n + 1)!}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D}\dfrac{f(z)}{(z - w_{0})^{n + 2}}dz\]が得られます。これが $n + 1$ 階導関数の存在と等式を意味します。

系4.3.74

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された関数 $f : U\to \C$ が与えられ、点 $z_{0}\in U$ において連続かつその除外近傍上で正則とする。このとき、$f$ は $z_{0}$ においても複素微分可能である。

証明

$z_{0}$ のある開近傍上で原始関数 $F$ を取ることができ、これは正則関数なので無限回複素微分可能です。よって、その導関数である $f$ は $z_{0}$ において複素微分可能です。

定理4.3.75
(正則関数は複素解析関数)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された正則関数 $f : U\to \C$ は各点 $z_{0}\in U$ において\[f(z) = \sum_{n = 0}^{\infty}\dfrac{f^{(n)}(z_{0})}{n!}(z - z_{0})^{n}\]とTaylor展開可能である。つまり、正則関数は複素解析関数である。

証明

$z_{0}$ を中心とする半径 $r > 0$ の閉円盤 $D_{r}(z_{0})$ を $U$ に含まれるように取ります。命題4.3.73より\begin{eqnarray*}f(w) - \sum_{k = 0}^{n}\dfrac{f^{(k)}(z_{0})}{k!}(w - z_{0})^{k} & = & \dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D_{r}(z_{0})}\dfrac{f(z)}{z - w}dz - \sum_{k = 0}^{n}\dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D_{r}(z_{0})}\dfrac{f(z)(w - z_{0})^{k}}{(z - z_{0})^{k + 1}} \\& = & \dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D_{r}(z_{0})}f(z)\left(\dfrac{1}{z - w} - \dfrac{1}{z - z_{0}}\dfrac{1 - (\tfrac{w - z_{0}}{z - z_{0}})^{n + 1}}{1 - \tfrac{w - z_{0}}{z - z_{0}}}\right)dz \\& = & \dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D_{r}(z_{0})}\dfrac{f(z)}{z - w}\left(\dfrac{w - z_{0}}{z - z_{0}}\right)^{n + 1}dz\end{eqnarray*}と計算できます。正実数 $0 < r' < r$ を取り $M := \underset{z\in \partial D_{r}(z_{0})}{\max}|f(z)|$ とおけば、各 $w\in D_{r'}(z_{0})$ に対して\[\left|\dfrac{1}{2\pi\sqrt{-1}}\int_{\partial D_{r}(z_{0})}\dfrac{f(z)}{z - w}\left(\dfrac{w - z_{0}}{z - z_{0}}\right)^{n + 1}\right|\leq \dfrac{Mr}{r - r'}(r'/r)^{n + 1}\]と評価でき、これは $z_{0}$ の近くで一様に $\sum_{k = 0}^{n}\tfrac{f^{(k)}(z_{0})}{k!}(w - z_{0})^{k}\to f(w) \ (n\to \infty)$ であることを意味します。

定理4.3.76
(Moreraの定理)

開集合 $U\subset \C$ 上で定義された連続関数 $f : U\to \C$ が与えられ、$U$ に含まれる任意の三角形 $T$ に対して\[\int_{\partial T}f(z)dz = 0\]が成立するとする。このとき、$f$ は複素解析関数である。

証明

系4.3.69の証明の要領で $U$ の各点の周りで原始関数が構成できます。それらは定理4.3.75より複素解析関数であり、当然 $f$ もそうです。

以上です。

メモ

いろいろ詰め込んではいるけど、モチベーション不足でところどころ説明薄かったり…結局、Lebesgue積分について書くなら二度手間だしね。とはいえ、Riemann積分は構成に難しい準備が不要かつ基本的な定積分の計算には十分使えるというメリットもあって、全く無視できるものとも思わないのでざっと書くことにしました。(さすがに、Riemann積分の多重積分とか多変数版の変数変換公式まで証明書く気起こらずさぼってますが。)

あと、基本的に思い付きの証明してるだけなので、整理できたりもっといい方針はあると思う。

参考文献

[1] 杉浦光夫 解析入門Ⅰ,Ⅱ 東京大学出版会 (1980)
[2] L. V. アールフォルス (笠原乾吉 訳) 複素解析 現代数学社 (1982)
[3] Richard J. Bagby, The Substitution Theorem for Riemann Integrals, Real Anal. Exchange 27(1) (2001/2002), pp.309-314

更新履歴

2025/11/02
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