ここではPoincaré-Lefschetzの双対定理を記述・証明するための準備として
を行い、その性質を調べます。局所系について詳しくは3.1.2節と4.1.1節を参照。また、$R$ 加群の局所系には各ファイバーの同型類が点の取り方に依存しないことを課します。
特異チェイン複体の係数を $R$ 加群の局所系に一般化します。$X$ を位相空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とし、以下の設定を行います。
この設定のもと、$R$ 加群のチェイン複体 $(S_{\bullet}(X; \mathcal{M}), \partial)$ を以下のように定めます。
これが実際にチェイン複体になっていることはのちの議論から明らかになるのでいったん保留とします定義から直接計算してもよいのですが、きちんと書き下すとそれなりに大変なので回避します。そのため、以下でチェイン複体と呼んでも系4.2.3で実際にチェイン複体であることを示すまでは単に次数付き $R$ 加群とその自己準同型の対を扱っているにすぎないことに注意。。
位相空間 $X$ と $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ に対して上記のようにして定まるチェイン複体 $(S_{\bullet}(X; \mathcal{M}), \partial)$ を $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ を係数とする特異チェイン複体や $\mathcal{M}$ 係数の特異チェイン複体といい、単に $S_{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表す。そのhomology群を $\mathcal{M}$ 係数の特異homology群といい $H_{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表す。
局所系係数の特異チェイン複体に関する重要事項として、これが $R$ 加群の局所系の圏 $\LocSyswc{R}$ から $R$ 加群のチェイン複体の圏 $\Chwc{R}$ への関手を定めること、通常の $R$ 加群を係数とする場合の自然な拡張になっていることを確認します。まず、$R$ 加群の局所系の圏 $\LocSyswc{R}$ は
として与えます$X$ 上の準同型 $F : \mathcal{M}\to f^{*}\mathcal{N}$ との対 $(f, F)$ として射を定義しても同じです。ただし、その場合の射の合成は連続写像 $f : X\to Y$, $g : Y\to Z$ と $X, Y$ 上の準同型 $F : \mathcal{M}\to f^{*}\mathcal{N}$, $G : \mathcal{N}\to g^{*}\mathcal{L}$ に対して\[(g, G)\circ (f, F) := (g\circ f, f^{*}G\circ F)\]として定めます。こちらを採用したほうがこの後の特異コチェイン複体の場合とそろってよいかもしれません。。また、以下では射 $(f, F)$ のことを準同型と呼ぶことにします。準同型 $(f, F) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられると、準同型 $F\sigma(e_{0}) : M_{\sigma}\to N_{f_{*}\sigma}$ を単に $F_{\sigma}$ と書くことにして、チェイン写像 $F_{\sharp} : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(Y; \mathcal{N})$ が\[F_{\sharp}\left(\sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma\right) := \sum_{\sigma}F_{\sigma}(a_{\sigma})f_{*}\sigma\]により定まります。これが実際にチェイン写像であることは、任意の $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ と $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ に対して\begin{eqnarray*}F_{\sharp}(\partial(a_{\sigma}\sigma)) & = & F_{\sharp}\left((\theta_{\sigma})_{*}(a_{\sigma})(\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{k}(-1)^{l}a_{\sigma}(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k})\right) \\& = & F_{\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k}}((\theta_{\sigma})_{*}(a_{\sigma}))(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{k}(-1)^{l}F_{\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k}}(a_{\sigma})(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{l}^{k}) \\& = & (\theta_{f_{*}\sigma})_{*}(F_{\sigma}(a_{\sigma}))(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{k}(-1)^{l}F_{\sigma}(a_{\sigma})(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{l}^{k}) \\& = & \partial (F_{\sigma}(a_{\sigma}f\circ \sigma)) = \partial (F_{\sharp}(a_{\sigma}\sigma))\end{eqnarray*}であることからよいです。合成に関する結合則なども明らかであり、関手 $S_{\bullet} : \LocSyswc{R}\to \Chwc{R}$ が定まります。従って、局所系係数においても特異homology群の間に関手性を持つ準同型\[F_{*} : H_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to H_{\bullet}(Y; \mathcal{N})\]が誘導されます。
通常の $R$ 加群を係数とする場合の自然な拡張であることを確かめます。位相空間の圏 $\Top$ と $R$ 加群の圏 $\Modwc{R}$ の直積 $\Top\times \Modwc{R}$ はその対象 $(X, M)$ に $M$ をファイバーとする $X$ 上の自明な $R$ 加群の局所系 $\underline{M}_{X}$ を対応させる関手 $\Top\times \Modwc{R}\to \LocSyswc{R}$ を包含関手として圏 $\LocSyswc{R}$ の部分圏とみなせることに注意します。
位相空間と $R$ 加群の対 $(X, M)$ に対してチェイン複体 $S_{\bullet}(X, M)$ および $S_{\bullet}(X, \underline{M}_{X})$ を対応させる関手は自然同値である。
対 $(X, M)$ に対して準同型 $T_{X, M} : S_{\bullet}(X, M)\to S_{\bullet}(X, \underline{M}_{X}) : \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma\mapsto \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma$ を取ります。これは明らかに次数付き $R$ 加群としての同型です。境界準同型を保つことも単体ごとに\begin{eqnarray*}T_{X, M}(\partial(a_{\sigma}\sigma)) & = & T_{X, M} \left(\sum_{l = 0}^{l}(-1)^{l}a_{\sigma}(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k})\right) \\& = & (\theta_{\sigma})_{*}(a_{\sigma})(\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{l}(-1)^{l}a_{\sigma}(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k}) \\& = & \partial (T_{X, M}(a_{\sigma}\sigma))\end{eqnarray*}であるのでよいです。自然変換であることも容易であり、この対応により $2$ つの関手が自然同値であることが従います。
ここまでは対 $(S_{\bullet}(X, \mathcal{M}), \partial)$ がチェイン複体であることの証明は保留していたので、この命題4.2.2の証明はあくまでも次数付き $R$ 加群とその自己準同型の対を対象とする圏への関手としての自然同値を示したにすぎませんが、そこまでが分かれば対 $(S_{\bullet}(X, \mathcal{M}), \partial)$ が実際にチェイン複体であることが確かめられ、命題4.2.2の証明も完了します。
局所系係数の特異チェイン複体 $(S_{\bullet}(X, \mathcal{M}), \partial)$ は実際にチェイン複体である。
特異 $k$ 単体 $\sigma$ と $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ を取ります。標準 $k$ 単体 $\Delta^{k}$ の可縮性から引き戻し $\sigma^{*}\mathcal{M}$ は単純であり、同型 $\sigma^{*}\mathcal{M}\cong \underline{M}_{\Delta^{k}}$ と命題4.2.2より対 $(S_{\bullet}(\Delta^{k}, \sigma^{*}\mathcal{M}), \partial)$ はチェイン複体です。明らかな準同型 $\sigma_{*} : \sigma^{*}\mathcal{M}\to \mathcal{M}$ による誘導準同型 $\sigma_{\sharp} : S_{\bullet}(\Delta^{k}, \sigma^{*}\mathcal{M})\to S_{\bullet}(X, \mathcal{M})$ を取れば\[\partial(\partial(a_{\sigma}\sigma)) = \partial(\partial(\sigma_{\sharp}(a_{\sigma}\Id_{\Delta^{k}}))) = \sigma_{\sharp}(\partial(\partial(a_{\sigma}\Id_{\Delta^{k}}))) = 0\]です。
連続写像 $f : X\to Y$ と $Y$ 上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{N}$ が与えられたとき、引き戻し $f^{*}\mathcal{N}$ からの準同型 $f_{*} : f^{*}\mathcal{N}\to \mathcal{N}$ が明らかな対応により定まりますが、この準同型による誘導チェイン写像 $S_{\bullet}(X; f^{*}\mathcal{N})\to S_{\bullet}(Y; \mathcal{N})$ を単に $f_{\sharp}$ で表すことにします。
空間対 $(X, A)$ と $X$ 上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ が与えられたとき、包含写像 $i : A\to X$ による誘導チェイン写像 $i_{\sharp} : S_{\bullet}(A, \mathcal{M}|_{A})\to S_{\bullet}(X; \mathcal{M})$ を包含写像と考え、通常と同じく商チェイン複体 $S_{\bullet}(X; \mathcal{M})/S_{\bullet}(A, \mathcal{M}|_{A})$ を空間対 $(X, A)$ の $\mathcal{M}$ 係数の特異チェイン複体 $S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ と定めます。そのhomology群は $H_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ と書きます。通常と同じく空間対のhomology完全系列や三対のhomology完全系列が存在します。
$X$ を弧状連結な基点付き空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とます。基点 $x_{0}$ 上のファイバー $M_{x_{0}}$ にはmonodromy作用による左 $\pi_{1}(X, x_{0})$ 作用が定まります。この設定のもと、同型\[H_{0}(X; \mathcal{M})\cong M_{x_{0}}/\langle \alpha\cdot a - a\mid a\in M_{x_{0}}, \ \alpha\in \pi_{1}(X, x_{0})\rangle\]が成立します。明らかに、一般には弧状連結成分ごとの直和として計算されます。
連続曲線 $c : I\to X$ と特異 $1$ 単体は同一視します。また、各 $x\in X$ に対して $x_{0}$ を $x$ につなぐ連続曲線 $c_{x}$ を固定します。定義から直ちに\[H_{0}(X; \mathcal{M})\cong \bigoplus_{x\in X}M_{x}/\langle \partial(a_{\tau}\tau)\mid \tau\in C(\Delta^{1}, X), \ a_{\tau}\in M_{\tau}\rangle\]です。任意の特異 $1$ 単体 $\tau$ と $a_{\tau}\in M_{\tau}$ に対して\[\partial(a_{\tau}\tau) = \partial(([\overline{c_{\tau(e_{1})}}]\cdot [\tau])_{*}(a_{\tau})c_{\tau(e_{1})} + ([\overline{c_{\tau(e_{0})}}])_{*}(a_{\tau})(\overline{c_{\tau(e_{1})}}\cdot \tau\cdot c_{\tau(e_{0})}) + a_{\tau}\overline{c_{\tau(e_{0})}})\]であることに注意して\begin{eqnarray*}&& \langle \partial(a_{\tau}\tau)\mid \tau\in C(\Delta^{1}, X), \ a_{\tau}\in M_{\tau}\rangle \\& = & \langle \partial(ac)\mid a\in M_{x_{0}}, \ c\in C((I, 0, 1), (X, x_{0}, x_{0}))\rangle + \langle \partial(ac_{x})\mid a\in M_{x_{0}}, \ x\in X\rangle \\& = & \langle (\alpha\cdot a - a)x_{0}\mid a\in M_{x_{0}}, \ \alpha\in \pi_{1}(X, x_{0})\rangle + \langle ([c_{x}])_{*}(a)x - ax_{0}\mid a\in M_{x_{0}}, \ x\in X\setminus \{x_{0}\}\rangle\end{eqnarray*}が成立し、よって、同型\[\bigoplus_{x\in X}M_{x}/\langle \partial(a_{\tau}\tau)\mid \tau\in C(\Delta^{1}, X), \ a_{\tau}\in M_{\tau}\rangle \cong M_{x_{0}}/\langle \alpha\cdot a - a\mid a\in M_{x_{0}}, \ \alpha\in \pi_{1}(X, x_{0}))\rangle\]が成立します。これより主張の同型が従います。
続いて、$R$ 加群の局所系を係数とする特異コチェイン複体を構成します。$X$ を位相空間、$\mathcal{M}$ をその上の $R$ 加群の局所系とします。チェイン複体のときと同じ設定のもとで $R$ 加群のコチェイン複体 $(S^{\bullet}(X; \mathcal{M}), \delta)$ を以下のように定めます。
実際にコチェイン複体になっていることは、チェイン複体の場合と同様に、通常の $R$ 加群を係数とする場合の自然な拡張であることを確かめる過程で確認されるので保留とします。
位相空間 $X$ と $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ に対して上記のようにして定まるコチェイン複体 $(S^{\bullet}(X; \mathcal{M}), \delta)$ を $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ を係数とする特異コチェイン複体や $\mathcal{M}$ 係数の特異コチェイン複体といい、単に $S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表す。そのcohomology群を $\mathcal{M}$ 係数の特異cohomology群といい $H^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表す。
チェイン複体のときのように圏 $\LocSyswc{R}^{*}$ を
として与えます。こちらも射 $(f, \overline{F})$ のことを準同型と呼ぶことにします。準同型 $(f, \overline{F}) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられると、準同型 $\overline{F}\sigma(e_{0}) : N_{f^{*}\sigma}\to M_{\sigma}$ を単に $\overline{F}_{\sigma}$ と書くことにして、コチェイン写像 $F^{\sharp} : S^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ が\[F^{\sharp}v(\sigma) := \overline{F}_{\sigma}(v(f_{*}\sigma))\]により定まります。これが実際にコチェイン写像であることは、任意の $v\in S^{k}(Y; \mathcal{N})$ と $X$ の特異 $k + 1$ 単体 $\sigma$ に対して\begin{eqnarray*}\delta F^{\sharp}v(\sigma) & = & (\overline{\theta_{\sigma}})_{*}(F^{\sharp}v(\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1})) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}F^{\sharp}v(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}) \\& = & (\overline{\theta_{\sigma}})_{*}(\overline{F}_{\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1}}(v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1}))) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}\overline{F}_{\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}}(v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1})) \\& = & \overline{F}_{\sigma}((\overline{\theta_{f_{*}\sigma}})_{*}(v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1}))) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}\overline{F}_{\sigma}(v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1})) \\& = & \overline{F}_{\sigma}\left((\overline{\theta_{f_{*}\sigma}})_{*}(v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1})) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}v(f\circ \sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1})\right) \\& = & F^{\sharp}\delta v(\sigma)\end{eqnarray*}であることからよいです。合成に関する結合則なども明らかであり、関手 $S^{\bullet} : \LocSyswc{R}^{*}\to \CoChwc{R}$ が定まります。従って、局所系係数においても特異cohomology群の間に関手性を持つ準同型\[F^{*} : H^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to H^{\bullet}(X; \mathcal{M})\]が誘導されます。
通常の $R$ 加群を係数とする場合の自然な拡張であることも確かめます。
位相空間と $R$ 加群の対 $(X, M)$ に対してコチェイン複体 $S^{\bullet}(X, M)$ および $S^{\bullet}(X, \underline{M}_{X})$ を対応させる関手は自然同値である。
対 $(X, M)$ に対して準同型 $T_{X, M} : S^{\bullet}(X, M)\to S^{\bullet}(X, \underline{M}_{X})$ を次数ごとの自然な同型\[S^{k}(X; M) = \Hom(S_{k}(X; R), M)\cong \prod_{\sigma\in C(\Delta^{k}, X)}M = S^{k}(X; \underline{M}_{X})\]により取ります。余境界準同型を保つことも任意の $u\in S^{k}(X; M)$ と特異 $k + 1$ 単体 $\sigma$ に対して\begin{eqnarray*}\delta T_{X, M}u(\sigma) & = & (\overline{\theta_{\sigma}})_{*}(T_{X, M}u(\sigma\circ \varepsilon_{0}^{k + 1})) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}T_{X, M}u(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}) \\& = & \sum_{l = 0}^{k + 1}(-1)^{l}u(\sigma\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}) = \delta u(\sigma) = T_{X, M}\delta u(\sigma)\end{eqnarray*}であるのでよいです。自然変換であることも容易であり、この対応により $2$ つの関手が自然同値であることが従います。
局所系係数の特異コチェイン複体 $(S^{\bullet}(X, \mathcal{M}), \delta)$ は実際にコチェイン複体である。
$k$ 次コチェイン $u\in S^{k}(X; \mathcal{M})$ と特異 $k + 2$ 単体 $\sigma$ を取ります。同型 $\sigma^{*}\mathcal{M}\cong \underline{M}_{X}$ と命題4.2.7より対 $(S^{\bullet}(\Delta^{k + 2}, \sigma^{*}\mathcal{M}), \delta)$ はコチェイン複体です。明らかな準同型 $\overline{\sigma}_{*} : \sigma^{*}\mathcal{M}\to \sigma^{*}\mathcal{M}$ による誘導準同型 $\sigma^{\sharp} : S^{\bullet}(X, \mathcal{M})\to S^{\bullet}(\Delta^{k + 2}, \sigma^{*}\mathcal{M})$ を取れば\[\delta\delta u(\sigma) = \overline{\sigma}_{\Id_{\Delta^{k + 2}}}(\delta\delta u(\sigma)) = \sigma^{\sharp}\delta\delta u(\Id_{\Delta^{k + 2}}) = \delta\delta\sigma^{\sharp} u(\Id_{\Delta^{k + 2}}) = 0\]です。
連続写像 $f : X\to Y$ と $Y$ 上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{N}$ が与えられたとき、明らかな準同型 $\overline{f}_{*} : f^{*}\mathcal{N}\to f^{*}\mathcal{N}$ によって誘導コチェイン写像 $S^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X; f^{*}\mathcal{N})$ が得られますが、これを単に $f^{\sharp}$ で表すことにします。
空間対 $(X, A)$ と $X$ 上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ が与えられたとき、包含写像 $i : A\to X$ による誘導コチェイン写像 $i^{\sharp} : S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S^{\bullet}(A; \mathcal{M}|_{A})$ が定まり全射ですが、この核 $\Ker i^{\sharp}$ を空間対 $(X, A)$ の $\mathcal{M}$ 係数の特異コチェイン複体 $S^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ と定めます。そのcohomology群は $H^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ と書きます。通常と同じく空間対のcohomology完全系列や三対のcohomology完全系列が存在します。
$X$ を弧状連結な基点付き空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とます。基点 $x_{0}$ 上のファイバー $M_{x_{0}}$ にはmonodromy作用による左 $\pi_{1}(X, x_{0})$ 作用が定まります。この設定のもと、同型\[H^{0}(X; \mathcal{M})\cong \{a\in M_{x_{0}}\mid {}^{\forall}\alpha\in \pi_{1}(X, x_{0}), \ \alpha\cdot a = a\}\]が成立します。明らかに、一般には弧状連結成分ごとの直積として計算されます。
各 $x\in X$ に対して $x_{0}$ を $x$ につなぐ道のhomotopy類 $\gamma_{x}$ を固定します。準同型\[H^{0}(X; \mathcal{M})\to \{a\in M_{x_{0}}\mid {}^{\forall}\alpha\in \pi_{1}(X, x_{0}), \ \alpha\cdot a = a\} : [u]\mapsto u(x_{0}),\]\[\{a\in M_{x_{0}}\mid {}^{\forall}\alpha\in \pi_{1}(X, x_{0}), \ \alpha\cdot a = a\}\to H^{0}(X; \mathcal{M}) : a\mapsto [u : x\mapsto (\gamma_{x})_{*}(a)]\]が定まり互いに逆を与えていることから主張の同型が従います。
今後の議論では特に使いませんが、弧状連結かつ局所弧状連結な位相空間 $X$ であって普遍被覆空間 $\tilde{\pi} : \tilde{X}\to X$ を持つものに対してはその $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ を係数とする特異チェイン複体が普遍被覆空間 $\tilde{X}$ を用いて構成されます。以下、適当に基点 $x_{0}, \tilde{x}_{0}$ を固定し、基本群 $\pi_{1}(X, x_{0})$ を $\pi_{1}$ と略記します。
まず、普遍被覆空間 $\tilde{X}$ が主 $\pi_{1}$ 束の構造を持つことから $\tilde{X}$ の特異 $k$ 単体全体からなる集合 $C(\Delta^{k}, \tilde{X})$ には自由な右 $\pi_{1}$ 作用が定まり、それを生成系とする $\Z$ 係数の特異チェイン複体 $S_{\bullet}(\tilde{X}; \Z)$ には右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群のチェイン複体の構造が定まります具体的には、$\tilde{X}$ の特異チェイン $\tilde{c} = \sum_{\tilde{\sigma}}\tilde{a}_{\tilde{\sigma}}\tilde{\sigma}$ と $\Z[\pi_{1}]$ の元 $m = \sum_{\alpha\in \pi_{1}}n_{\alpha}\alpha$ に対して\[\tilde{c}\cdot m = \sum_{\tilde{\sigma}}\sum_{\alpha\in \pi_{1}}n_{\alpha}\tilde{a}_{\tilde{\sigma}}(\tilde{\sigma}\cdot \alpha)\]として積が定まります。右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群のチェイン複体であるというのは $\Z[\pi_{1}]$ の元による $($右からの$)$ 積と境界準同型 $\partial$ が可換ということですが、これは構成から明らかです。。そして、基点 $x_{0}$ に対応する $R$ 加群 $\mathcal{M}x_{0}$ を単に $M$ と表すことにして、これをmonodromy表現 $\rho_{\mathcal{M}, x_{0}} : \pi_{1}\to \Aut (M)$ によって左 $\Z[\pi_{1}]$ 加群とみなすことにします。これにより $R$ 加群のチェイン複体\[S_{\bullet}(\tilde{X}, \Z)\otimes_{\Z[\pi_{1}]} M\]が定まります。空間対 $(X, A)$ に対しても、$\tilde{A} := \tilde{\pi}^{-1}(A)$ とおいて、$S_{\bullet}(\tilde{A}; \Z)$ が同じく右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群のチェイン複体の構造を持つので商チェイン複体 $S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z)$ もそうなり、$R$ 加群のチェイン複体\[S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}, \Z)\otimes_{\Z[\pi_{1}]} M\]が定まります。これが上で構成した $\mathcal{M}$ 係数の特異チェイン複体 $S_{\bullet}(X; \mathcal{M})$ に $R$ 加群のチェイン複体として同型であることが確かめられます。
$X$ を弧状連結かつ局所弧状連結かつ普遍被覆空間 $\tilde{\pi} : \tilde{X}\to X$ を持つ位相空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とする。空間対 $(X, A)$ に対して $R$ 加群のチェイン複体の自然な同型\[S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\cong S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z)\otimes_{\Z[\pi_{1}]} M\]が成立する。
$\tilde{X}$ の各特異単体 $\tilde{\sigma}$ に対して基点 $\tilde{x}_{0}$ を点 $\tilde{\sigma}(e_{0})$ につなぐ一意な道のhomotopy類 $\tilde{\gamma}_{\tilde{\sigma}}\in \Pi(\tilde{X}; \tilde{x}_{0}, \tilde{\sigma}(e_{0}))$ を取り、その押し出し $\tilde{\pi}_{*}\tilde{\gamma}_{\tilde{\sigma}}\in \Pi(X; x_{0}, \tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}(e_{0}))$ を $\gamma_{\tilde{\sigma}}$ と表すことにします。各 $\alpha\in \pi_{1}$ に対して $\gamma_{\tilde{\sigma}\cdot \alpha} = \gamma_{\tilde{\sigma}}\cdot \alpha$ が成立します $($補足3.4.33$)$。$\Z[\pi_{1}]$ バランス写像 $\varphi : S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z)\times M\to S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ を\[\varphi(\tilde{\sigma}, m) := (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}\in M_{\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}}\]により定めます。実際に $\Z[\pi_{1}]$ バランス写像であることは任意の $\tilde{\sigma}\in C(\Delta^{k}, \tilde{X})$, $m\in M$, $\alpha\in \pi_{1}$ に対して\begin{eqnarray*}\varphi(\tilde{\sigma}\cdot \alpha, m) & = & (\gamma_{\tilde{\sigma}\cdot \alpha})_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}(\tilde{\sigma}\cdot \alpha) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}}\cdot \alpha)_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma} \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(\alpha\cdot m)\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma} \\& = & \varphi(\tilde{\sigma}, \alpha\cdot m)\end{eqnarray*}であることから容易に確かめられます。従って、普遍性より次数付き $R$ 加群の準同型\[\tilde{\varphi} : S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z)\otimes_{\Z[\pi_{1}]} M\to S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\]が誘導されます。また、任意の $\tilde{\sigma}\in C(\Delta^{k}, \tilde{X})$, $m\in M$ に対して\begin{eqnarray*}\tilde{\varphi}(\partial (\tilde{\sigma}\otimes m)) & = & \tilde{\varphi}\left(\sum_{l = 0}^{k}(-1)^{l}(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k})\otimes m\right) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{0}^{k}})_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{k}(-1)^{l}(\gamma_{\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k}})_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k}) \\& = & (\theta_{\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}}\cdot \gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(m)((\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma})\circ \varepsilon_{0}^{k}) + \sum_{l = 1}^{k}(-1)^{l}(\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(m)((\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma})\circ \varepsilon_{l}^{k}) \\& = & \partial((\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(m)\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}) \\& = & \partial(\tilde{\varphi}(\tilde{\sigma}\otimes m))\end{eqnarray*}であるので $R$ 加群のチェイン写像になっています。あとはこれが全単射であることを示せば $R$ 加群のチェイン複体としての同型が従いますが、これは射影 $\tilde{\pi}$ が全単射\[C(\Delta^{k}, \tilde{X})/\pi_{1}\to C(\Delta^{k}, X),\]\[C(\Delta^{k}, \tilde{A})/\pi_{1}\to C(\Delta^{k}, A)\]を誘導することから $S_{k}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z)$ は集合 $C(\Delta^{k}, X)\setminus C(\Delta^{k}, A)$ で生成する自由な右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群とみなせるので明らかです。
$\mathcal{M}$ 係数の特異コチェイン複体についても考えます。monodromy表現 $\rho_{\mathcal{M}, x_{0}}$ が $M$ に定める左作用を右作用で言い換えることで右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群と考えたものを $\overline{M}$ と表すことにします。これにより右 $\Z[\pi_{1}]$ 加群のコチェイン複体\[\Hom_{\Z[\pi_{1}]}(S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z), \overline{M})\]が定まり、これが上で構成した $\mathcal{M}$ 係数の特異コチェイン複体 $S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ に $R$ 加群のコチェイン複体として同型であることが確かめられます。
$X$ を弧状連結かつ局所弧状連結かつ普遍被覆空間 $\tilde{\pi} : \tilde{X}\to X$ を持つ位相空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とする。空間対 $(X, A)$ に対して $R$ 加群のコチェイン複体の自然な同型\[S^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\cong \Hom_{\Z[\pi_{1}]}(S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z), \overline{M})\]が成立する。
命題4.2.11の証明の冒頭で導入した記号を使います。$R$ 加群の準同型\[\varphi : \Hom_{\Z[\pi_{1}]}(S_{\bullet}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z), \overline{M})\to S^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\]を各 $v\in \Hom_{\Z[\pi_{1}]}(S_{k}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z), \overline{M})$, $\sigma\in C(\Delta^{k}, X)$ に対して $\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}$ を満たす $\tilde{\sigma}\in C(\Delta^{k}, \tilde{X})$ を固定して\[\varphi(v)(\sigma) := (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(v(\tilde{\sigma}))\in M_{\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}}\]と定めます。これが $\tilde{\sigma}$ の取り方によらないことは任意の $\alpha\in \pi_{1}$ に対して\begin{eqnarray*}(\gamma_{\tilde{\sigma}\cdot \alpha})_{*}(v(\tilde{\sigma}\cdot \alpha)) & = & (\gamma_{\tilde{\sigma}}\cdot \alpha)_{*}(v(\tilde{\sigma})\cdot \alpha) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}}\cdot \alpha)_{*}(\alpha_{*}^{-1}(v(\tilde{\sigma}))) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(v(\tilde{\sigma})) \\\end{eqnarray*}であることからよいです。また、任意の $v\in \Hom_{\Z[\pi_{1}]}(S_{k}(\tilde{X}, \tilde{A}; \Z), \overline{M})$, $\tilde{\sigma}\in C(\Delta^{k}, \tilde{X})$ に対して\begin{eqnarray*}\varphi(\delta v)(\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}) & = & (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(\delta v(\tilde{\sigma})) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(v(\partial \tilde{\sigma})) \\& = & (\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}\left(v\left(\sum_{l = 0}^{k + 1}(-1)^{l}\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}\right)\right) \\& = & \sum_{l = 0}^{k + 1}(-1)^{l}(\gamma_{\tilde{\sigma}})_{*}(v(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k + 1})) \\& = & (\overline{\theta_{\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}}})_{*}(\gamma_{\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{0}^{k + 1}})_{*}(v(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{0}^{k + 1})) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}(\gamma_{\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}})_{*}(v(\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k + 1})) \\& = & (\overline{\theta_{\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}}})_{*}(\varphi(u)(\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{0}^{k + 1})) + \sum_{l = 1}^{k + 1}(-1)^{l}\varphi(u)(\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma}\circ \varepsilon_{l}^{k + 1}) \\& = & \delta\varphi(u)(\tilde{\pi}_{*}\tilde{\sigma})\end{eqnarray*}であるので $\varphi$ は $R$ 加群のコチェイン写像です。そして、全単射であることも容易に確かめられ同型です。
通常の $R$ 加群係数で成立していた多くの事実は局所系係数でも成立します。ここでは以下を確認します。
証明には通常の場合に構成したプリズム作用素や重心細分作用素などの自然な準同型が局所系係数の場合に一意に拡張することを用います。状況によって少し形は異なりますが、その拡張の存在と一意性の議論はほぼ共通となるため、以下の形でまとめておきます。
ただし、以下の設定を行うとします。
$R$ 係数で考えた次数付き $R$ 加群としての自然な準同型 $\varphi' : S_{\bullet}(X; R)\to S_{\bullet - l}(X; R)$ は局所系係数における自然な準同型 $\varphi$ へ一意に拡張する。つまり、次数付き $R$ 加群としての特異チェイン複体を対応させる関手 $S_{\bullet}$ からそれ自身への自然変換 $S_{\bullet}\to S_{\bullet - l}$ が位相空間の圏 $\Top$ において与えられたとき、それは $R$ 加群の局所系の圏 $\LocSyswc{R}$ へ一意に拡張する。
次数に関する議論は明らかなので省略します。位相空間 $X$ とその上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ に対し、写像\[\varphi : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet - l}(X; \mathcal{M})\]を $X$ の各特異 $k$ 単体 $\sigma$ と $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ に対して\[\varphi(a_{\sigma}\sigma) := \overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}}))\]として定めます。自明な局所系 $\underline{M}_{X}$ が係数の場合については通常の $R$ 加群が係数の場合との同一視のもとで\[\varphi(\sigma\otimes a_{\sigma}) = \varphi'(\sigma)\otimes a_{\sigma}\]と表示され、少なくとも $\Top\times \Modwc{R}$ までの自然な拡張になっていることは明らかです。次のことを確認します。
(i) 任意の $a_{\sigma}, b_{\sigma}\in M_{\sigma}$ と $r, s\in R$ に対して準同型\[(\overline{r}, \overline{s}) : R\to R\oplus R : t\mapsto (rt, st),\]\[\overline{a_{\sigma}} + \overline{b_{\sigma}} : R\oplus R\to M_{\sigma} : (u, v)\mapsto a_{\sigma}u + b_{\sigma}v\]の誘導する図式
の上側の可換性に注意して\begin{eqnarray*}\varphi((ra_{\sigma} + sb_{\sigma})\sigma) & = & \overline{ra_{\sigma} + sb_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}})) \\& = & ((\overline{a_{\sigma}} + \overline{b_{\sigma}})\sigma_{\sharp}\circ (\overline{r}, \overline{s})(\Id_{\Delta^{k}})_{\sharp})(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}})) \\& = &(\overline{a_{\sigma}} + \overline{b_{\sigma}})\sigma_{\sharp}(\varphi((r, s)\Id_{\Delta^{k}})) \\& = & (\overline{a_{\sigma}} + \overline{b_{\sigma}})\sigma_{\sharp}(r\cdot \varphi((1, 0)\Id_{\Delta^{k}}) + s\cdot \varphi((0, 1)\Id_{\Delta^{k}})) \\& = & r\cdot \overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}})) + s\cdot \overline{b_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}})) \\& = & r\cdot \varphi(a_{\sigma}\sigma) + s\cdot \varphi(b_{\sigma}\sigma) \\\end{eqnarray*}です。よって、$\varphi$ は準同型です。
(ii) 準同型 $(f, F) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとして、$X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ と $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ ごとに次のような図式を考えればよいです。$\Id_{\Delta^{k}}\in S_{k}(\Delta^{k}; R)$ の行き先についての可換性内側の四角形が図式として可換であることはまだ示しておらず、あくまでも $\varphi$ の定義から分かる $\Id_{\Delta^{k}}$ の行き先についての可換性を使っていることに注意。ちなみに、この部分の可換性はここで示した自然性と $\varphi$ が $\varphi'$ の拡張であることを合わせて確認されます。から $F_{\sharp}(\varphi(a_{\sigma}\sigma)) = \varphi(F_{\sharp}(a_{\sigma}\sigma))$ です。
(iii) $\varphi$ を $\varphi'$ の自然な拡張とします。$\varphi$ の自然性から $X$ の任意の特異 $k$ 単体 $\sigma$ と $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ に対して\[\varphi(a_{\sigma}\sigma) = \varphi(\overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\Id_{\Delta^{k}})) = \overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi(\Id_{\Delta^{k}}))\]であり、また、$\varphi$ が $\varphi'$ の拡張であることから\[\varphi(a_{\sigma}\sigma) = \overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}}))\]です。これは冒頭の定義に一致しており、自然な拡張 $\varphi$ の一意性が従います。
(1) 拡張であることはで命題4.2.2示しています。
(2) 自然な準同型 $\partial'\varphi' = \varphi'\partial'$ の自然な拡張の一意性から $\partial\varphi = \varphi\partial$ です。
(3) 自然な準同型 $\psi' - \varphi' - (D'\partial' + \partial'D') = 0$ の自然な拡張の一意性から $\psi - \varphi - (D\partial + \partial D) = 0$ です。
特異コチェイン複体に対しても同様です。
$R$ 係数で考えた次数付き $R$ 加群としての自然な準同型 $\varphi' : S_{\bullet}(X; R)\to S_{\bullet - l}(X; R)$ が与えられたとする。通常の双対により定まる $R$ 加群係数における自然な準同型 $(\varphi')^{\sharp} : S^{\bullet - l}(X; M)\to S^{\bullet}(X; M)$ は局所系係数における自然な準同型 $\varphi^{\sharp}$ へ一意に拡張する。
標準 $k$ 単体 $\Delta^{k}$ の $l$ 番目の頂点を $e_{l}^{k}$ で表すとします。$\Delta^{k}$ の特異 $k - l$ 単体 $\tau$ に対して頂点 $e_{0}^{k}$ と $\tau(e_{0}^{k - l})$ をつなぐ一意な道のhomotopy類 $\gamma_{\tau}\in \Pi(\Delta^{k}; e_{0}^{k}, \tau(e_{0}^{k - l}))$ が取れます。また、コチェイン $u\in S^{k}(X; \mathcal{M})$ に対し、$X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ による引き戻し $\sigma^{\sharp}u\in S^{k - l}(\Delta^{k}; \sigma^{*}\mathcal{M})$ を同型\[S^{k - l}(\Delta^{k}; \sigma^{*}\mathcal{M})\cong S^{k - l}(\Delta^{k}; M_{\sigma}) = \Hom(S_{k - l}(\Delta^{k}; R), M_{\sigma})\]による同一視のもと $\Hom(S_{k - l}(\Delta^{k}; R), M_{\sigma})$ の元とみなしたものを $\sigma^{\natural}u$ で表すとします。具体的には、$\Delta^{k}$ の特異 $k - l$ 単体 $\tau$ ごと $\sigma^{\natural}u(\tau) = (\sigma_{*}\overline{\gamma_{\tau}})_{*}(u(\sigma\circ \tau))\in M_{\sigma}$ として定まる準同型です。
そこで、準同型\[\varphi^{\sharp} : S^{\bullet - l}(X; \mathcal{M})\to S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\]をコチェイン $u\in S^{k - l}(X; \mathcal{M})$ と $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ に対して\[\varphi^{\sharp}u(\sigma) := \sigma^{\natural}u(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}}))\in M_{\sigma}\]として定めます。次のことを確認します。
(i) 明らかです。
(ii) 準同型 $(f, \overline{F}) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとします。$\varphi'(\Id_{\Delta^{k}}) = \sum_{i = 1}^{p}r_{i}\tau_{i}$ と表し、一意な道のhomotopy類 $\alpha_{i}:= \gamma_{\tau_{i}}\in \Pi(\Delta^{k}; e_{0}^{k}, \tau_{i}(e_{0}^{k - l}))$ を取ります。コチェイン $v\in S^{k - l}(Y; \mathcal{N})$ と $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ に対して\begin{eqnarray*}F^{\sharp}\varphi^{\sharp}v(\sigma) & = & \overline{F}_{\sigma}(\varphi^{\sharp}v(f_{*}\sigma)) \\& = & \overline{F}_{\sigma}((f_{*}\sigma)^{\natural}v(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}}))) \\& = & \overline{F}_{\sigma}\left((f_{*}\sigma)^{\natural}v\left(\sum_{i = 1}^{p}r_{i}\tau_{i}\right)\right) \\& = & \overline{F}_{\sigma}\left(\sum_{i = 1}^{p}r_{i}\cdot ((f\circ \sigma)_{*}\overline{\alpha_{i}})_{*}(v(f\circ \sigma\circ \tau_{i}))\right) \\& = & \sum_{i = 1}^{p}r_{i}\cdot \overline{F}_{\sigma}(((f\circ \sigma)_{*}\overline{\alpha_{i}})_{*}(v(f\circ \sigma\circ \tau_{i}))) \\& = & \sum_{i = 1}^{p}r_{i}\cdot (\sigma_{*}\overline{\alpha_{i}})_{*}(\overline{F}_{\sigma\circ \tau_{i}}(v(f\circ \sigma\circ \tau_{i}))) \\& = & \sum_{i = 1}^{p}r_{i}\cdot (\sigma_{*}\overline{\alpha_{i}})_{*}(F^{\sharp}v(\sigma\circ \tau_{i})) \\& = & \sigma^{\natural}F^{\sharp}v(\varphi'(\Id_{\Delta^{k}})) \\& = & \varphi^{\sharp}F^{\sharp}(\sigma)\end{eqnarray*}であり、$\varphi^{\sharp}$ は自然です。
(iii) 明らかです。
(iv) 明らかです。
まずは誘導準同型のhomotopy不変性について確認します。以下、位相空間 $X, Y$ とそれぞれの上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}, \mathcal{N}$ が与えられたとき、直積 $X\times Y$ 上の $R$ 加群の局所系 $\pr_{1}^{*}\mathcal{M}\otimes \pr_{2}^{*}\mathcal{N}$ を $\mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N}$ により表すとします。
互いにhomotopicな準同型 $(f_{0}, F_{0}), (f_{1}, F_{1}) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとき、chain homotopy同値\[(F_{0})_{\sharp}\sim (F_{1})_{\sharp} : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(Y; \mathcal{N})\]が成立し、誘導準同型について\[(F_{0})_{*} = (F_{1})_{*} : H_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to H_{\bullet}(Y; \mathcal{N})\]が成立する。
また、互いにhomotopicな準同型 $(f_{0}, \overline{F_{0}}), (f_{1}, \overline{F_{1}}) : (X, \mathcal{M})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとき、cochain homotopy同値\[(F_{0})^{\sharp}\sim (F_{1})^{\sharp} : S^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\]が成立し、誘導準同型について\[(F_{0})^{*} = (F_{1})^{*} : H^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to H^{\bullet}(X; \mathcal{M})\]が成立する。
$i_{X, t} : X\to X\times I : x\mapsto (x, t)$ と連続写像を定めるとして、自然なチェイン写像 $(i_{X, 0})_{\sharp}, (i_{X, 1})_{\sharp} : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(X\times I; \mathcal{M}\hatotimes \underline{R}_{I})$ をつなぐ自然なchain homotopy\[P_{X, \mathcal{M}} : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet + 1}(X\times I; \mathcal{M}\hatotimes \underline{R}_{I})\]が $R$ 係数のときに構成したプリズム作用素 $($補題2.1.10$)$ の補題4.2.13による一意な拡張として取れます。実際にchain homotopyであることは系4.2.14から従います。従って、準同型 $(f_{0}, F_{0}), (f_{1}, F_{1})$ をつなぐhomotopy $(f, F) : (X\times I, \mathcal{M}\hatotimes \underline{R}_{I})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとき、$(i_{X, 0})_{\sharp}\sim (i_{X, 1})_{\sharp}$ より\[(F_{0})_{\sharp} = F_{\sharp}\circ (i_{X, 0})_{\sharp}\sim F_{\sharp}\circ (i_{X, 1})_{\sharp} = (F_{1})_{\sharp}\]が成立します。
コチェイン複体については補題4.2.15と同様の構成によって $i_{X, 0}^{\sharp}$ を $i_{X, 1}^{\sharp}$ につなぐ自然なcochain homotopy $P_{X, \mathcal{M}}^{\sharp} : S^{\bullet}(X\times I; \mathcal{M}\hatotimes \underline{R}_{I})\to S^{\bullet - 1}(X; \mathcal{M})$ が得られるので、準同型 $(f_{0}, \overline{F_{0}}), (f_{1}, \overline{F_{1}})$ をつなぐhomotopy $(f, \overline{F}) : (X\times I, \mathcal{M}\hatotimes \underline{R}_{I})\to (Y, \mathcal{N})$ が与えられたとき\[(F_{0})^{\sharp} = (i_{X, 0})^{\sharp}\circ F^{\sharp}\sim (i_{X, 1})^{\sharp}\circ F^{\sharp} = (F_{1})^{\sharp}\]が成立します。
切除定理やMayer-Vietoris完全系列について考えます。いくつか記号を導入します。位相空間 $X$ とその部分空間 $A, B$ に対し、部分チェイン複体 $S_{\bullet}(A; \mathcal{M}) + S_{\bullet}(B; \mathcal{M})\subset S_{\bullet}(X; \mathcal{M})$ を $S_{\bullet}(A + B; \mathcal{M})$ で表し、直積 $\prod_{\sigma\in C(\Delta^{k}, A)\cup C(\Delta^{k}, B)}M_{\sigma}$ に $S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ 同様の余境界準同型を与えて得られるコチェイン複体を $S^{\bullet}(A + B; \mathcal{M})$ により表すとします。相対版も空間対の場合と同様に定義し、それぞれ $S_{\bullet}(X, A + B; \mathcal{M})$ および $S^{\bullet}(X, A + B; \mathcal{M})$ で表すとします。部分空間の族に対しても同様に考えます。また、局所系の部分空間への制限の記号は煩わしいので省略することがあります。
位相空間 $X$ とその部分集合族 $\{A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が与えられているとする。内点集合からなる族 $\{\Int A_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}$ が $X$ の開被覆であるとき、包含写像の誘導するチェイン写像\[\iota : S_{\bullet}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}; \mathcal{M}\right)\to S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\]はchain homotopy同値である。また、制限の誘導するコチェイン写像\[\iota^{\sharp} : S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S^{\bullet}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}; \mathcal{M}\right)\]はcochain homotopy同値である。
補題4.2.13より $R$ 係数で構成した重心細分作用素 $\sd$ とそれを恒等チェイン写像 $1$ につなぐchain homotopy $D$ は局所系係数に拡張します。$X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ に対して $m(\sigma)$ で $\sd_{k}^{m}(\sigma)\in S_{k}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}; R\right)$ を満たす最小の非負整数を表すとして、準同型 $\tilde{D} : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet + 1}(X; \mathcal{M})$ を\[\tilde{D}_{k}(a_{\sigma}\sigma) := \sum_{0\leq j < m(\sigma)}D_{k}\circ \sd_{k}^{j}(a_{\sigma}\sigma)\]により定義します。そして、準同型 $\varphi : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}; \mathcal{M}\right)$ を $\varphi := 1 + \partial\circ \tilde{D} + \tilde{D}\circ \partial$ により定めます。$\varphi$ がきちんと定義されていてチェイン写像になっていることが通常 $($命題2.2.5$)$ と同様の計算により確かめられ、$\tilde{D}$ は $1$ を $\iota\circ \varphi$ につなぐchain homotopyです。また、明らかに $\varphi\circ \iota = 1$ なので $\iota$ はchain homotopy同値写像です。
コチェイン複体の場合は準同型 $\tilde{D}^{\sharp} : S^{\bullet + 1}(X; \mathcal{M})\to S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ をコチェイン $u\in S^{k + 1}(X; \mathcal{M})$ と $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ に対して\[\tilde{D}_{k}^{\sharp}u(\sigma) := \sum_{0\leq j < m(\sigma)}(\sd_{k}^{\sharp})^{j}D_{k}^{\sharp}u(\sigma)\]であるように定義し、これを用いて準同型 $\varphi^{\sharp} : S^{\bullet}\left(\sum_{\lambda\in\Lambda}A_{\lambda}; \mathcal{M}\right)\to S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ を $\varphi^{\sharp} = 1 + \tilde{D}^{\sharp}\circ \partial^{\sharp} + \partial^{\sharp}\circ \tilde{D}^{\sharp}$ により定めれば同様に確認できます。
空間対 $(X, A)$ と部分集合 $U$ が与えられ $\overline{U}\subset \Int A$ を満たしているとき、包含写像 $i : X\setminus U\to X$ は同型\[i_{*} : H_{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; \mathcal{M})\cong H_{\bullet}(X, A; \mathcal{M}),\]\[i^{*} : H^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\to H^{\bullet}(X\setminus U, A\setminus U; \mathcal{M})\]を誘導する。
$X$ を位相空間、$A_{1}, A_{2}$ をその部分空間とし、$X = \Int A_{1}\cup \Int A_{2}$ が満たされているとする。このとき、自然な完全系列\[\dots\to H_{n}(A_{1}\cap A_{2})\xrightarrow{(i_{1*}, -i_{2*})} H_{n}(A_{1})\oplus H_{n}(A_{2})\xrightarrow{j_{1*} + j_{2*}} H_{n}(X)\xrightarrow{\Delta} H_{n - 1}(A_{1}\cap A_{2})\to \dots\]\[\dots\to H^{n}(X)\xrightarrow{(j_{1}^{*}, j_{2}^{*})} H^{n}(A_{1})\oplus H^{n}(A_{2})\xrightarrow{i_{1}^{*} - i_{2}^{*}} H^{n}(A_{1}\cap A_{2})\xrightarrow{\Delta} H^{n + 1}(X)\to \dots\]が存在する。ただし、係数は $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ とし、$i_{1}, i_{2}, j_{1}, j_{2}$ は包含写像とする。
自然な短完全系列\[0\to S_{\bullet}(A_{1}\cap A_{2})\xrightarrow{(i_{1\sharp}, -i_{2\sharp})} S_{\bullet}(A_{1})\oplus S_{\bullet}(A_{2})\xrightarrow{j_{1\sharp} + j_{2\sharp}} S_{\bullet}(A_{1} + A_{2})\to 0\]のhomology完全系列と同型\[H_{\bullet}(X)\cong H_{\bullet}(A_{1} + A_{2})\]から従います。cohomology群についても同様です。
$X$ を位相空間、$(U_{1}, V_{1}), (U_{2}, V_{2})$ を $X$ の開集合による空間対とする。このとき、自然な完全系列\[\dots\to H_{n}(U_{1}\cap U_{2}, V_{1}\cap V_{2})\xrightarrow{(i_{1*}, -i_{2*})}\begin{array}{c}H_{n}(U_{1}, V_{1}) \\ \oplus \\ H_{n}(U_{2}, V_{2})\end{array}\xrightarrow{j_{1*} + j_{2*}} H_{n}(U_{1}\cup U_{2}, V_{1}\cup V_{2})\xrightarrow{\Delta} H_{n - 1}(U_{1}\cap U_{2}, V_{1}\cap V_{2})\to \dots\]\[\dots\to H^{n}(U_{1}\cup U_{2}, V_{1}\cup V_{2})\xrightarrow{(j_{1}^{*}, j_{2}^{*})}\begin{array}{c}H^{n}(U_{1}, V_{1}) \\ \oplus \\ H^{n}(U_{2}, V_{2})\end{array}\xrightarrow{i_{1}^{*} - i_{2}^{*}} H^{n}(U_{1}\cap U_{2}, V_{1}\cap V_{2})\xrightarrow{\Delta} H^{n + 1}(U_{1}\cup U_{2}, V_{1}\cup V_{2})\to \dots\]が存在する。ただし、係数は $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ とし、$i_{1}, i_{2}, j_{1}, j_{2}$ は包含写像とする。
自然な短完全系列\[0\to S_{\bullet}(U_{1}\cap U_{2}, V_{1}\cap V_{2})\xrightarrow{(i_{1\sharp}, -i_{2\sharp})} S_{\bullet}(U_{1}, V_{1})\oplus S_{\bullet}(U_{2}, V_{2})\xrightarrow{j_{1\sharp} + j_{2\sharp}} S_{\bullet}(U_{1} + U_{2}, V_{1} + V_{2})\to 0\]のhomology完全系列を考えます。自然な短完全系列の間の射
についてhomology完全系列を取り、5項補題を用いることで同型\[H_{\bullet}(U_{1}\cup U_{2}, V_{1}\cup V_{2})\cong H_{\bullet}(U_{1} + U_{2}, V_{1} + V_{2})\]が得られるので主張の自然な短完全系列が従います。
cohomology群については、自然な短完全系列\[0\to S^{\bullet}(U_{1} + U_{2}, V_{1} + V_{2})\xrightarrow{(j_{1}^{\sharp}, j_{2}^{\sharp})} S^{\bullet}(U_{1}, V_{1})\oplus S^{\bullet}(U_{2}, V_{2})\xrightarrow{i_{1}^{\sharp} - i_{2}^{\sharp}} S^{\bullet}(U_{1}\cap U_{2}, V_{1}\cap V_{2})\to 0\]のcohomology完全系列とhomology群の場合と同様にして分かる同型\[H^{\bullet}(U_{1}\cup U_{2}, V_{1}\cup V_{2})\cong H^{\bullet}(U_{1} + U_{2}, V_{1} + V_{2})\]から従います。
$X$ を位相空間、$V_{1}, V_{2}$ をその開集合とする。このとき、自然な完全系列\[\dots\to H_{n}(X, V_{1}\cap V_{2})\xrightarrow{i_{1*} \oplus (-i_{2*})} H_{n}(X, V_{1})\oplus H_{n}(X, V_{2})\xrightarrow{j_{1*} + j_{2*}} H_{n}(X, V_{1}\cup V_{2})\xrightarrow{\Delta} H_{n - 1}(X, V_{1}\cap V_{2})\to \dots\]\[\dots\to H^{n}(X, V_{1}\cup V_{2})\xrightarrow{j_{1}^{*}\oplus j_{2}^{*}} H^{n}(X, V_{1})\oplus H^{n}(X, V_{2})\xrightarrow{i_{1}^{*} - i_{2}^{*}} H^{n}(X, V_{1}\cap V_{2})\xrightarrow{\Delta} H^{n + 1}(X, V_{1}\cup V_{2})\to \dots\]が存在する。
命題4.2.21において $U_{1} = U_{2} = X$ としたものです。
Eilenberg-Zilberの定理 $($定理2.3.1$)$ は次の形に一般化されます。
$X, Y$ を位相空間、$\mathcal{M}, \mathcal{N}$ をそれぞれの上の $R$ 加群の局所系とする。自然なチェイン写像\[\rho : S_{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\to S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y; \mathcal{N}),\]\[\kappa : S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to S_{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]であって、互いにchain homotopy逆写像でありかつ任意の点 $x\in X$, $a_{x}\in M_{x}$, $y\in Y$, $b_{y}\in N_{y}$ に対して\[\rho((a_{x}\otimes b_{y})(x, y)) = a_{x}x\otimes b_{y}y, \ \kappa(a_{x}x\otimes b_{y}y) = (a_{x}\otimes b_{y})(x, y)\]を満たすものが存在する。このようなチェイン写像 $\rho, \kappa$ は自然なchain homotopyの違いを除いて一意である。
まず、通常の $R$ 係数でのEilenberg-Zilber写像 $\rho', \kappa'$ が与えられたとして
を確認し、その後で
を確かめればよいです。
(i) (ii) 補題4.2.13と同様の事実、$R$ 係数で考えた自然な準同型\[\varphi' : S_{\bullet}(X\times Y; R)\to S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R),\]\[\psi' : S_{\bullet}(X; R)\otimes S_{\bullet}(Y; R)\to S_{\bullet}(X\times Y; R)\]が局所系係数における自然な準同型 $\varphi, \psi$ に一意に拡張することから従います。$\varphi, \psi$ は具体的には\[\varphi((a_{\sigma}\otimes b_{\tau})(\sigma, \tau)) = ((\overline{a_{\sigma}}\sigma_{\sharp}\otimes \overline{b_{\tau}}\tau_{\sharp})\circ \varphi')((\Id_{\Delta^{k}}, \Id_{\Delta^{k}})),\]\[\psi(a_{\sigma}\sigma\otimes b_{\tau}\tau) = ((\overline{a_{\sigma}}\sigma\hatotimes \overline{b_{\tau}}\tau)_{\sharp}\circ \psi')(\Id_{\Delta^{k}}\otimes \Id_{\Delta^{l}})\]により与えられます。ただし、$\overline{a_{\sigma}}\sigma\hatotimes \overline{b_{\tau}}\tau$ は準同型 $\overline{a_{\sigma}}\sigma : \underline{R}_{\Delta^{k}}\to \mathcal{M}$, $\overline{b_{\tau}}\tau : \underline{R}_{\Delta^{l}}\to \mathcal{N}$ の誘導する準同型 $\underline{R}_{\Delta^{k}}\hatotimes \underline{R}_{\Delta^{l}}\to \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N}$ です。
(iii) 主張の条件を満たす自然なチェイン写像 $\rho_{0}, \rho_{1}$ が与えられたとき、その $R$ 係数の場合への制限 $\rho_{0}', \rho_{1}'$ が $R$ 係数の場合のEilenberg-Zilber写像であることに注意して、その間の自然なchain homotopyを局所系係数の場合に拡張することで $\rho_{0}$ を $\rho_{1}$ につなぐchain homotopyが得られます。$\kappa$ についても同様です。
ここで得られた局所系係数のEilenberg-Zilber写像 $\rho, \kappa$ に対し、誘導準同型\[\rho_{*} : H_{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\to H_{\bullet}(S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y; \mathcal{N})),\]\[\kappa_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y; \mathcal{N}))\to H_{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]は $\rho, \kappa$ の取り方にはよらず標準的に定まっており、また、互いに逆を与えており同型です。
従って、局所系係数においてもKünnethの公式が得られます。
$R$ をPIDとする。$X, Y$ を位相空間、$\mathcal{M}, \mathcal{N}$ をそれぞれの上の $R$ 加群の局所系とし、少なくとも一方のファイバーは自由 $R$ 加群とする。このとき、次の短完全系列が存在し、$($自然ではないが$)$ 分解する。\[0\to \bigoplus_{p + q = n}H_{p}(X; \mathcal{M})\otimes H_{q}(Y; \mathcal{N})\to H_{n}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\to\bigoplus_{p + q = n - 1}\Tor_{1}^{R}(H_{p}(X; \mathcal{M}), H_{q}(Y; \mathcal{N}))\to 0.\]特に、$H_{\bullet}(X; \mathcal{M})$, $H_{\bullet}(Y; \mathcal{N})$ のうち一方が自由加群ならば自然な同型\[H_{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N}) \cong H_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes H_{\bullet}(Y; \mathcal{N})\]が成立する。
通常 $($定理2.3.6$)$ と全く同様です。
また、$R$ 係数で考えたEilenberg-Zilber写像 $\rho'$ からはコチェイン写像\[\rho^{\sharp} : S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S^{\bullet}(Y; \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が補題4.2.15の証明で考えたのと同様の表示\[\rho^{\sharp}(u\otimes v)((\sigma, \tau)) = (\sigma^{\natural}u\otimes \tau^{\natural}v)(\rho'((\Id_{\Delta^{k}}, \Id_{\Delta^{k}})))\in M_{\sigma}\otimes N_{\tau}\]により構成され、その誘導準同型\[\rho^{*} : H^{\bullet}(S^{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S^{\bullet}(Y; \mathcal{N}))\to H^{\bullet}(X\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]は $\rho'$ の取り方によらず標準的です。
特異 $n$ 単体 $\sigma : \Delta^{n}\to X$ に対して特異 $p$ 単体 $\sigma\rfloor_{p}$ と特異 $q$ 単体 $\sigma\lfloor_{q}$ を\[\sigma\rfloor_{p} : \Delta^{p}\to X : (t_{0}, \dots. t_{p})\mapsto \sigma(t_{0}, \dots. t_{p}, 0, \dots, 0),\]\[\sigma\lfloor_{q} : \Delta^{q}\to X : (t_{0}, \dots. t_{q})\mapsto \sigma(0, \dots, 0, t_{0}, \dots. t_{q})\]として定めるとき、$R$ 係数でのAlexander-Whitney写像 $\rho : S_{\bullet}(X\times Y)\to S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)$ とは $X\times Y$ の各特異 $n$ 単体 $(\sigma, \tau)$ に対して\[\rho((\sigma, \tau)) := \sum_{p + q = n}\sigma\rfloor_{p}\otimes \tau\lfloor_{q}\]として定まる自然なチェイン写像でした $($2.3.2節$)$。
標準 $k$ 単体 $\Delta^{k}$ において頂点 $e_{0}$ を $e_{l}$ につなぐ一意な道のhomotopy類を $\theta^{l}$ とおき、その特異 $k$ 単体 $\sigma : \Delta^{k}\to X$ による押し出し $\sigma_{*}\theta^{l}\in \Pi(X; \sigma(e_{0}), \sigma(e_{l}))$ を $\theta_{\sigma}^{l}$ で表すとすれば、この $\rho$ の局所系係数への拡張は各特異 $n$ 単体 $(\sigma, \tau)$ と $a_{\sigma}\otimes b_{\tau}\in M_{\sigma}\otimes N_{\tau}$ に対して\[\rho((a_{\sigma}\otimes b_{\tau})(\sigma, \tau)) = \sum_{p + q = n}a_{\sigma}\sigma\rfloor_{p}\otimes (\theta_{\tau}^{p})_{*}(b_{\tau})\tau\lfloor_{q}\]と表示されます。この $\rho$ から定まるコチェイン写像 $\rho^{\sharp}$ についても $p + q$ コチェイン $u\otimes v\in S^{p}(X; \mathcal{M})\otimes S^{q}(Y; \mathcal{N})$ と特異 $p + q$ 単体 $(\sigma, \tau)$ に対して\[\rho^{\sharp}(u\otimes v)((\sigma, \tau)) = u(\sigma\rfloor_{p})\otimes (\overline{\theta_{\tau}^{p}})_{*}(v(\tau\lfloor_{q}))\]として表示されます。
クロス積 $\times_{\mathrm{top}}$ が通常と同様に構成されます。まずはhomology群の場合から考えます。空間対 $(X, A), (Y, B)$ とそれぞれの上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}, \mathcal{N}$ が与えられているとします。Eilenberg-Zilber写像 $\kappa$ は\[\kappa(S_{\bullet}(X; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(B; \mathcal{N}) + S_{\bullet}(A; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y; \mathcal{N}))\subset S_{\bullet}(X\times B\cup A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]を満たすのでチェイン写像\[\kappa : S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y, B; \mathcal{N})\to S_{\bullet}((X, A)\times (Y, A); \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]を誘導し、homology群について準同型\[\kappa_{*} : H_{\bullet}(S_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes S_{\bullet}(Y, A; \mathcal{N}))\to H_{\bullet}((X, A)\times (Y, A); \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が得られます。ここに代数的なクロス積 $\times_{\mathrm{alg}}$ を合成して位相的なクロス積\[\times_{\mathrm{top}} := \kappa_{*}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes H_{\bullet}(Y, B; \mathcal{N})\to H_{\bullet}((X, A)\times (Y, B); \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が定まります。
cohomology群の場合にはコチェイン写像 $\rho^{\sharp}$ を用います。コチェイン $u\in S^{k}(X, A; \mathcal{M})$, $v\in S^{l}(Y, B; \mathcal{N})$ と $X\times B$ および $A\times Y$ の特異 $k + l$ 単体 $(\sigma, \tau)$ に対して常に $\rho^{\sharp}(u\otimes v)((\sigma, \tau)) = 0$ であることからコチェイン写像\[\rho^{\sharp} : S^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes S^{\bullet}(Y, B; \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X\times Y, X\times B + A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が誘導され、cohomology群について準同型\[\rho^{*} : H^{\bullet}(S^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes S^{\bullet}(Y, B; \mathcal{N}))\to H^{\bullet}(X\times Y, X\times B + A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が得られます。仮定として制限によるコチェイン写像\[\iota^{\sharp} : S^{\bullet}(X\times B\cup A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\to S^{\bullet}(X\times B + A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]がcochain homotopy同値とすると、短完全系列の間の射
についてcohomology群の完全系列を取って5項補題を適用することで同型\[H^{\bullet}((X, A)\times (Y, B); \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\cong H^{\bullet}(X\times Y, X\times B + A\times Y; \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が従います。この仮定のもと、この同型と代数的なクロス積 $\times_{\mathrm{alg}}$ を合成して位相的なクロス積\[\times_{\mathrm{top}} := \rho^{*}\circ \times_{\mathrm{alg}} : H^{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\otimes H^{\bullet}(Y, B; \mathcal{N})\to H^{\bullet}((X, A)\times (Y, B); \mathcal{M}\hatotimes \mathcal{N})\]が定まります。
通常のクロス積と同様に結合則などが確かめられます。homology群の場合のみ書いておきます。
$(X, A), (Y, B), (Z, C)$ を空間対、$\mathcal{M}, \mathcal{N}, \mathcal{L}$ をそれぞれの上の $R$ 加群の局所系とする。
(1) $R$ 係数のクロス積の場合の証明 $($命題2.3.13$)$ で構成したチェイン写像\[\mu := \kappa\circ(\kappa\otimes \Id): S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z)\xrightarrow{\kappa\otimes \Id} S_{\bullet}(X\times Y)\otimes S_{\bullet}(Z)\xrightarrow{\kappa} S_{\bullet}(X\times Y\times Z),\]\[\nu := \kappa\circ(\Id\otimes \kappa): S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y)\otimes S_{\bullet}(Z)\xrightarrow{\Id\otimes \kappa} S_{\bullet}(X)\otimes S_{\bullet}(Y\times Z)\xrightarrow{\kappa} S_{\bullet}(X\times Y\times Z)\]および $\mu, \nu$ をつなぐchain homotopyの局所系係数への自然な拡張を考えればよいです。
(2) (1)と同様に、$R$ 係数のクロス積の場合の証明で構成したチェイン写像などの局所系係数への自然な拡張を考えればよいです。
カップ積は通常と同じく、クロス積が定義できているという前提で、対角写像 $\Delta : (X, A\cup B)\to (X, A)\times (X, B)$ による引き戻しを用いて\[\smallsmile : H^{p}(X, A; \mathcal{M})\times H^{q}(X, B; \mathcal{N})\to H^{p + q}(X, A\cup B; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N}) : ([u], [v])\mapsto \Delta^{*}([u]\times [v])\]と定義できます。次のことが成立します。
$X$ を位相空間、$A, B, C$ を $X$ の部分空間、$\mathcal{M}, \mathcal{N}, \mathcal{L}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とし、以下ではいずれの状況でもカップ積は定義されていることを仮定する。
通常 $($命題2.3.15$)$ と同様です。
キャップ積を構成します。まず、位相空間 $X$ とその上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}, \mathcal{N}$ 対してチェインレベルでのキャップ積\[\smallfrown : S^{q}(X; \mathcal{M})\times S_{p + q}(X; \mathcal{N})\to S_{p}(X; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})\]が、補足4.2.25のAlexander-Whitney写像 $\rho$ を用いて、各 $q$ コチェイン $u\in S^{q}(X; \mathcal{M})$ と特異 $p + q$ 単体 $\sigma$ に対して\[u\smallfrown (a_{\sigma}\sigma) := ((\overline{\theta_{\sigma}^{p}})_{*}(u(\sigma\lfloor_{q}))\otimes a_{\sigma})\sigma\rfloor_{p}\]として定義されます。これは通常と同様にcohomology群とhomology群の間のキャップ積を誘導します。
任意の $u\in S^{q}(X; \mathcal{M})$, $c\in S_{p + q}(X; \mathcal{N})$ に対して\[\partial(u\smallfrown c) = (-1)^{p}\delta u\smallfrown c + u\smallfrown \partial c\]が成立する。よって、特異チェイン複体に対するキャップ積はペアリング\[\smallfrown : H^{q}(X; \mathcal{M})\times H_{p + q}(X; \mathcal{N})\to H_{p}(X; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N}) : ([u], [c])\mapsto [u\smallfrown c]\]を誘導する。
通常 $($命題2.3.16$)$ と同様です。
相対版でも同様です。$X$ の部分空間 $A, B$ が与えられたとして、任意のコチェイン $u\in S^{q}(X, A; \mathcal{M})$ と $A$ および $B$ の特異 $p + q$ 単体 $\sigma$ に対して $u\smallfrown \sigma\in S_{p}(B; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})$ であることに注意すれば相対版のキャップ積\[\smallfrown : S^{q}(X, A; \mathcal{M})\times S_{p + q}(X, A + B; \mathcal{N})\to S_{p}(X, B; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})\]が誘導され、キャップ積\[\smallfrown : H^{q}(X, A; \mathcal{M})\times H_{p + q}(X, A + B; \mathcal{N})\to H_{p}(X, B; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})\]が得られます。包含写像の誘導するチェイン写像 $\iota : S_{\bullet}(A + B; \mathcal{N})\to S_{\bullet}(A\cup B; \mathcal{N})$ がchain homotopy同値という仮定のもとでは同型\[H_{\bullet}(X, A + B; \mathcal{N})\cong H_{\bullet}(X, A\cup B; \mathcal{N})\]が成立し、これによる同一視のもと相対版のキャップ積\[\smallfrown : H^{q}(X, A; \mathcal{M})\times H_{p + q}(X, A\cup B; \mathcal{N})\to H_{p}(X, B; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})\]が定まります。
局所系係数におけるKronecker積\[\langle\cdot, \cdot\rangle : H^{p}(X, A;\mathcal{M})\times H_{p}(X, A; \mathcal{N})\to H_{0}(X; \mathcal{M}\otimes \mathcal{N})\]が $\langle[u], [c]\rangle := [u]\smallfrown [c]$ により定義されます。
基本的な性質も通常同様に成立します。
$X$ を位相空間、$A, B, C$ を $X$ の部分空間、$\mathcal{M}, \mathcal{N}, \mathcal{L}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とし、以下ではいずれの状況でもカップ積・キャップ積は定義されていることを仮定する。
通常 $($命題2.3.17$)$ と同様です。
相対CW複体 $(X, A)$ とその上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ が与えられたとき、通常 $($2.4.4節を参照$)$ と同様に\[C_{k}(X, A; \mathcal{M}) = H_{k}(X^{k}, X^{k - 1}; \mathcal{M})\]として $\mathcal{M}$ 係数の胞体チェイン複体 $C_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})$ が定義され次の同型が示されます。証明は通常の場合と同じです。
相対CW複体 $(X, A)$ に対し、胞体写像上の局所系の準同型に関して自然な同型\[H_{\bullet}(C_{\bullet}(X, A; \mathcal{M}))\cong H_{\bullet}(X, A; \mathcal{M})\]が存在する。
位相多様体に対して基本類を定める際の補助的な特異homology群の亜種として局所有限homology群を構成します。以下、位相空間 $X$ の特異 $k$ 単体 $\sigma$ に対して $|\sigma|$ でその像 $\sigma(\Delta^{k})$ を表し、$R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ を係数とする $X$ の特異 $k$ 単体の形式的無限和 $c = \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma\in \prod_{\sigma \in C(\Delta^{k}, X)}M_{\sigma}$ に対して $|c|$ で部分集合 $\bigcup_{\sigma, \ a_{\sigma}\neq 0}|\sigma|$ を表すとします。また、局所コンパクトHausdorff空間のみ扱います。
$X$ を局所コンパクトHausdorff空間、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とする。
テキストによっては形式的無限和 $\sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma$ が局所有限であることを任意のコンパクト集合 $K$ に対して $a_{\sigma}\neq 0$ かつ $|\sigma|\cap K\neq \varnothing$ となる特異単体が高々有限であることにより定義するものがあります。局所コンパクトHausdorff空間であれば両者は同値になることが容易に確認できます。
実際にチェイン複体になることの確認として $\partial\circ \partial = 0$ であることは明らかですが、チェインが無限和であるため、そもそも境界準同型自体が定義されていることは確認する必要があります。
局所有限チェイン複体 $(S_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M}), \partial)$ は実際にチェイン複体である。
局所有限な特異 $k$ チェイン $c = \sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma\in S_{k}^{\lf}(X; \mathcal{M})$ を取り、次のことを確かめればよいです。
(i) 特異 $k - 1$ 単体 $\tau$ を面に持つ特異 $k$ 単体 $\sigma$ であって $a_{\sigma}\neq 0$ であるものが高々有限個であることを示せばよいです。$|\tau|$ の点 $x$ を取り、この $x$ の開近傍 $U$ であって $a_{\sigma}\neq 0$ を満たす特異 $k$ 単体 $\sigma$ と高々有限個しか交わらないものを取ります。$\tau$ を面にもつ特異 $k$ 単体は $U$ とも交わるため、$a_{\sigma}\neq 0$ かつ $\tau$ を面にもつ特異 $k$ 単体 $\sigma$ は高々有限個です。よって、$\partial c$ は形式無限和として定義されています。
(ii) $\partial c = \sum_{\tau}b_{\tau}\tau$ とおきます。点 $x\in X$ に対し、その開近傍 $U$ であって $a_{\sigma}\neq 0$ を満たす特異 $k$ 単体 $\sigma$ と高々有限個しか交わらないものを取り、その個数を $m$ とおきます。$U$ と交わる特異 $k - 1$ 単体 $\tau$ であって $b_{\tau}\neq 0$ であるものは $a_{\sigma}\neq 0$ かつ $U$ と交わる特異 $k$ 単体 $\sigma$ の面に限られるため、高々 $m(k + 1)$ 個しか存在しません。よって、$\partial c$ は局所有限です。
局所コンパクトHausdorff空間 $X$ に対してそのコンパクト部分集合全体からなる部分集合族を $\mathcal{K}_{X}$ で表すとします。これは包含関係に関して有向集合をなし、各 $L\subset K\in \mathcal{K}_{X}$ に対して恒等写像による誘導チェイン写像\[S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(X, X\setminus L; \mathcal{M})\]を考えることでチェイン複体の射影系が得られます。そして、局所有限チェイン複体が以下のように通常の特異チェイン複体の射影極限として表示されることが確かめられます。
$X$ を局所コンパクトHausdorff空間とする。$X$ の局所有限チェイン複体に対して自然な同型\[S_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M}) \cong \varprojlim_{K\in \mathcal{K}_{X}}S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\]が成立する。さらに、$\mathcal{K}_{X}$ の増大列 $\{K_{m}\}_{m\in \N}$ であって $\bigcup_{m\in\N}K_{m} = X$ かつ常に $K_{m - 1}\subset \Int K_{m}$ を満たすものを取るとき、Milnor完全系列\[0\to {\varprojlim_{m}}^{1} H_{\bullet + 1}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to H_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})\to \varprojlim_{m}H_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to 0\]が成立する。
各 $K\in \mathcal{K}_{X}$ に対し、チェイン写像 $S_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ を各局所有限な特異チェイン $\sum_{\sigma}a_{\sigma}\sigma$ に対して $|\sigma|\subset X\setminus K$ を満たす特異単体の係数のみ $0$ で置き換えた特異チェインを対応させることで与えますこれが実際に $S_{k}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ の元を定めている、つまり、有限和になっていることは補足4.2.33の同値性から従います。。そして、射影極限の普遍性からチェイン写像 $S_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})\to \underset{K}{\varprojlim}S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ を取ります。このチェイン逆写像は $\left(c_{K} = \sum_{\sigma} a_{K, \sigma}\sigma\right)_{K\in \mathcal{K}_{X}}\in \underset{K}{\varprojlim}S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ に対して局所有限な特異チェイン $c = \sum_{\sigma} a_{\sigma}\sigma\in S_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})$ を特異単体 $\sigma$ ごと $|\sigma|\cap K\neq \varnothing$ となる $K\in \mathcal{K}_{X}$ を選んで $a_{\sigma} := a_{K, \sigma}$ として定めればよいです。$K$ の取り方によらないことは容易であり、局所有限性も各点に相対コンパクト開近傍が存在することから確かめられます。よって、自然な同型が従います。
主張の増大列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ は包含関係による有向集合としての $\mathcal{K}_{X}$ の中で共終予備知識 定義1.3.34参照。なので同型\[\underset{K}{\varprojlim}S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\cong \underset{m}{\varprojlim}S_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\]が従います。各 $i\leq j$ に対して包含写像による誘導チェイン写像\[S_{\bullet}(X, X\setminus K_{j}; \mathcal{M})\to S_{\bullet}(X, X\setminus K_{i}; \mathcal{M})\]が全射なので、列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ に関する射影系はMittag-Leffler条件 $($命題1.4.15$)$ を満たし、$\underset{m}{\varprojlim}^{1}S_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M}) = 0$ が成立します。よって、Milnor完全系列 $($命題1.4.18$)$\[0\to {\varprojlim_{m}}^{1}H_{\bullet + 1}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to H_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})\to \varprojlim_{m}H_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to 0\]が成立します。
コンパクト部分集合 $K\in \mathcal{K}_{X}$ に対して特異コチェイン複体 $S^{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ は $S^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ の部分チェイン複体ですが、これらの和として定まる部分チェイン複体 $\bigcup_{K\in \mathcal{K}_{X}}S^{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ をここでは $S_{\cpt}^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表し、コンパクト台のコチェイン複体と呼びます。その元はコンパクト台を持つコチェインと呼びます。また、コンパクト台のコチェイン複体のcohomology群は $H_{\cpt}^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ により表すとし、コンパクト台のcohomology群と呼びます。
コンパクト台のコチェイン複体 $S_{\cpt}^{\bullet}(X; \mathcal{M})$ は帰納極限 $\underset{K\in \mathcal{K}_{X}}{\varinjlim}S^{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})$ に同型なので、cohomology関手と帰納極限の可換性 $($命題1.4.16$)$ より同型\[H_{\cpt}^{\bullet}(X; \mathcal{M})\cong \underset{K\in \mathcal{K}_{X}}{\varinjlim}H^{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\]が成立します。コンパクト台のcohomology群のMayer-Vietoris完全系列など、その他の性質については[服部 位相幾何学]を参照。
$X$ を $n$ 次元位相多様体、$\mathcal{M}$ を $X$ 上の $R$ 加群の局所系とします。ここでは $X$ が境界を持たない場合の
および、$X$ がコンパクトな場合の
を $q\geq n$ において計算します。結論から言うと、$q > n$ に対してはいずれも自明であり、$q = n$ に対しては被覆空間とみなした局所系 $\mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}$ の切断たちからなる $R$ 加群として表示されます。
いくつか記号を導入します。一般に、境界を持たない位相多様体 $X$ とその部分空間 $A$ および $X$ 上の $R$ 加群の局所系 $\mathcal{M}$ が与えられたとき、$A$ 上で定義された切断 $s : A\to \mathcal{M}$ 全体からなる集合を $\Gamma(A; \mathcal{M})$ により表し、そのうちコンパクト台を持つ以下では主に $A$ が閉集合の場合を扱います。その場合、$s\in \Gamma(A; \mathcal{M})$ の台 $\supp s := \Cl(\{x\in A\mid s(x)\neq 0\})$ は $X, A$ どちらにおける閉包と考えても変わりません。もの全体からなる部分集合を $\Gamma_{0}(A; \mathcal{M})$ により表すとします。これらには明らかな方法で $R$ 加群の構造を定めます。
また、部分集合 $B\subset A\subset X$ に対して\[\xi_{B, A} : H_{n}(X, X\setminus A; \mathcal{M})\to H_{n}(X, X\setminus B; \mathcal{M}),\]\[\eta_{B, A} : \Gamma(A; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\to \Gamma(B; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\]をそれぞれ恒等写像の誘導する準同型と切断の制限から定まる準同型と定めます。そして、各 $\alpha\in H_{n}(X, X\setminus A; \mathcal{M})$ と $x\in A$ に対し、自然な同型\[H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \mathcal{M})\cong H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \Z)\otimes M_{x}\]による同一視のもともう少し書き下すと、$x$ の開近傍 $U$ を制限 $\mathcal{M}|_{U}$ が単純であるように取り、切除同型、命題4.2.2による同一視、普遍係数定理による同型を合わせて\begin{eqnarray*}H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \mathcal{M}) & \cong & H_{n}(U, U\setminus \{x\}; \mathcal{M}|_{U}) \\ & \cong & H_{n}(U, U\setminus \{x\}; M_{x}) \\ & \cong & H_{n}(U, U\setminus \{x\}; \Z)\otimes M_{x} \\ & \cong & H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \Z)\otimes M_{x}\end{eqnarray*}と合成したものです。もちろん、$U$ の取り方にはよりません。、$\xi_{x, A}(\alpha)$ を局所系 $\mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}$ の $x$ 上のファイバーの元と見なすことで写像\[\varrho_{A}(\alpha) : A\to \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M} : x\mapsto \xi_{x, A}(\alpha)\]を定めます。任意の $x\in B\subset A\subset X$ に対して\[\varrho_{B}(\xi_{B, A}(\alpha))(x) = \xi_{x, B}\circ \xi_{B, A}(x) = \xi_{x, A}(x) = \varrho_{A}(\alpha)(x)\]であることから常に $\varrho_{B}(\xi_{B, A}(\alpha)) = \varrho_{A}(\alpha)|_{B}$ です。さらに $A$ が閉集合の場合、ここで定めた $\varrho_{A}(\alpha)$ は連続かつコンパクト台を持つことが示され、準同型\[\varrho_{A} : H_{n}(X, X\setminus A; \mathcal{M})\to \Gamma_{0}(A; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\]が得られます。以下、混乱の恐れがない場合には添字や $\xi_{B, A}$ など省略することがあります。
$A$ が閉集合の場合、写像 $\varrho_{A}(\alpha) : A\to \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}$ は連続かつコンパクト台を持つ。
$c\in S_{n}(X, X\setminus A; \mathcal{M})$ を $\alpha$ の代表元とします。任意の $x\in X\setminus |c|$ に対し、$c$ は $S_{n}(X, X\setminus \{x\}; \mathcal{M})$ の中で $0$ なので $\varrho(\alpha)(x) = 0$ です。$|c|$ はコンパクト閉集合であるので $\varrho(\alpha)$ はコンパクト台を持ちます。
点 $x\in A$ における連続性を示します。$|\partial c|$ は $X\setminus A$ に含まれるコンパクト集合であり、その $X\setminus A$ における相対コンパクト開近傍 $W$ が取れます。点 $x\in A$ の閉近傍 $D$ であってある局所座標 $\varphi : U\to V$ によって $\R^{n}$ の単位閉球体に移されるものを取ります。包含写像による可換図式
から $\varrho_{D}(\alpha)|_{A\cap D} = \varrho_{A}(\alpha)|_{A\cap D}$ であり、$\varrho_{D}(\alpha)$ の連続性が示されれば $\varrho_{A}(\alpha)$ の $x$ における連続性が従います。
$D$ の閉近傍 $D'\subset U$ であって $($さっきの$)$ 座標近傍 $\varphi$ によって原点を中心とする閉球体に移るものを取り、同相写像 $\sigma : \Delta^{n}\to D'$ を取ります。$H_{n}(X, X\setminus D; \mathcal{M})$ の元としての $\alpha$ はある $a_{\sigma}\in M_{\sigma}$ を用いて $a_{\sigma}\sigma$ により代表されます。各 $x'\in D$ に対して $\varrho_{D}(\alpha)(x')\in H_{n}(X, X\setminus \{x'\}; \Z)\otimes M_{x'}$ は $\sigma$ の代表するhomology類 $o_{x'}\in H_{n}(X, X\setminus \{x'\}; \Z)$ と道のhomotopy類 $\gamma_{x'}\in \Pi(D'; \sigma(e_{0}), x')$ を用いて $o_{x'}\otimes (\gamma_{x'})_{*}(a_{\sigma})$ により表されるので $\varrho_{D}(\alpha)$ は連続です。
$X$ のコンパクト集合 $D$ であって局所座標により $\R^{n}$ の単位閉球体に移せるようなものに対する $\varrho_{D}$ が同型であることは明らかですが、一般の閉集合 $A$ に対しても $\varrho_{A}$ が同型であることが示されます。そのための補題を用意します。
$X$ を境界を持たない $n$ 次元位相多様体とする。$X$ のコンパクト集合全体からなる集合族を $\mathcal{K}_{X}$、閉集合全体からなる集合族を $\mathcal{F}_{X}$ で表すとする。$X$ の閉集合に関する条件 $P$ は次の条件を満たせば全ての閉集合に対して真である。
以下の順に示します。
(step 1) 部分複体としての $K$ の胞体の数に関する帰納法により示されます。全ての $l - 1$ 個以下の胞体からなる有限部分複体に対して真であるとしたとき、ちょうど $l$ 個の胞体を持つ有限部分複体 $K$ に対し、$\dim K$ 次元の胞体 $e$ を $1$ つ選んで $A = K\setminus e$, $B = \overline{e}$ とおけば、帰納法の仮定から $P(A), P(A\cap B)$ は真であり、(i)から $P(B)$ も真です。よって、(ii)より $P(A\cup B)$ も真です。
(step 2) 各正整数 $m\in \Np$ について、$\R^{n}$ に一辺 $1/m$ の超立方体による格子状の胞体構造を与え、$K$ を含む最小の部分複体を $K_{m}$ とおきます。$K = \bigcap_{m\in \Np}K_{m}$ であるので(step 1)と(iii)より $P(K)$ は真です。
(step 3) $K$ のコンパクト性により有限コンパクト被覆 $\{K_{i}\}_{1\leq i\leq m}$ であって各 $K_{i}$ がある座標近傍に含まれるものが存在します。この被覆の濃度に関する帰納法により示されます。実際、$m - 1$ 個からなる被覆を持つ場合について示されたとき、$K$ の有限コンパクト被覆 $\{K_{i}\}_{1\leq i\leq m}$ が取れたとして、$P(K\cap K_{m}), P\left(K\cap K_{m}\cap \bigcup_{1\leq i\leq m - 1}K_{i}\right)$ は(step 2)より真、$P\left(K\cap \bigcup_{1\leq i\leq m - 1}K_{i}\right)$ は帰納法の仮定より真です。よって、(ii)より $P(K)$ は真です。
(step 4) $X$ のコンパクト集合の増大列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ を $\bigcup_{m\in\N}K_{m} = X$ かつ常に $K_{m - 1}\subset \Int K_{m}$ を満たすように取ります $($予備知識 命題2.6.28$)$。$K_{-1} := \varnothing$ とおき、各 $m\in \N$ に対して $L_{m} := A\cap (K_{m}\setminus \Int K_{m - 1})$ と定めます。$\mathcal{K}_{X}$ の列 $\{L_{2m}\}_{m\in\N}$, $\{L_{2m + 1}\}_{m\in\N}$, $\{L_{m}\cap L_{m + 1}\}_{m\in\N}$ はいずれも互いに非交叉かつ局所有限な $\mathcal{K}_{X}$ の列であり、また、(step 3)より各 $P(L_{2m}), P(L_{2m + 1}), P(L_{m}\cap L_{m + 1})$ は真なので(iv)より $P\left(\bigcup_{m\in\N}L_{2m}\right), P\left(\bigcup_{m\in\N}L_{2m + 1}\right), P\left(\bigcup_{m\in\N}L_{m}\cap L_{m + 1}\right)$ は真です。よって、(ii)より $P(A)$ は真です。
補題4.2.39と全く同様に、$X$ のコンパクト部分集合に関する条件 $P$ は次の条件を満たせば全てのコンパクト部分集合に対して真です。
では、目標の同型を示します。
$X$ を境界を持たない $n$ 次元位相多様体、$A$ を $X$ の閉集合とする。このとき、同型\[H_{q}(X, X\setminus A; \mathcal{M})\cong \left\{\begin{array}{ll}\Gamma_{0}(A; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}) & (q = n) \\0 & (q > n)\end{array}\right.\]が成立する。ただし、$q = n$ における同型は $\varrho_{A}$ による。
主張の条件について補題4.2.39の(i)から(iv)を示せばよいです。
(i) 自明です。
(ii) 相対版のMayer-Vietoris完全系列を含む可換図式
において $\varrho_{A}\times \varrho_{B}, \varrho_{A\cap B}$ が同型であることと図式の下側も完全であることから $\varrho_{A\cup B}$ は同型です。
また、$q > n$ において $H_{q}(X, X\setminus (A\cup B); \mathcal{M}) = 0$ であることは相対版のMayer-Vietoris完全系列から直ちに従います。
(iii) $K := \bigcap_{m\in\N}K_{m}$ とおき、以下のことを確認すればよいです。
(step 1) $K$ と交わらない特異単体 $\sigma$ に対してある非負整数 $m_{\sigma}\in \N$ が存在し、任意の $m > m_{\sigma}$ に対して $|\sigma|$ は $K_{m}$ と交わりません空でないコンパクト閉集合の広義単調減少列の極限が空でないことと $\lim_{m\to +\infty}(|\sigma|\cap K_{m}) = \varnothing$ から従います。。従って、特異チェイン複体について同型\[S_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\cong \underset{m}{\varinjlim}S_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\]が従い、homology関手と帰納極限の可換性 $($命題1.4.16$)$ より同型\[H_{\bullet}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\cong \underset{m}{\varinjlim}H_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\]が成立します。
(step 2) 各 $s_{m}\in \Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})$ に対して制限 $s_{m}|_{K}$ を対応させる準同型について帰納極限の普遍性を用いることで準同型\[\varphi : \underset{m}{\varinjlim}\Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\to \Gamma_{0}(K; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\]が定まります。この準同型が全単射であることを示せばよいです。
まずは単射性から。切断 $s_{m}\in \Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})$, $s_{l}\in \Gamma_{0}(K_{l}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})$ であって $\varphi([s_{m}]) = \varphi([s_{l}])$ を満たすものを取ります。$s_{m}|_{K} = s_{l}|_{K}$ です。対称性から $l > m$ とおきます。$A := \{x\in K_{l}\mid s_{m}(x) = s_{l}(x)\}$ は $K_{l}$ における $K$ の開近傍です。$\lim_{i\to +\infty} K_{i}\setminus A = \varnothing$ と空でないコンパクト閉集合の減少列の極限が空でないことより、ある非負整数 $p\geq l$ が存在して $K_{p}\subset A$ であり、従って、$s_{m}|_{K_{p}} = s_{l}|_{K_{p}}$ です。これは $[s_{m}] = [s_{l}]$ を意味し、$\varphi$ は単射です。
続いて全射性。切断 $s\in \Gamma_{0}(K; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})$ を取ります。その像 $s(K)\subset \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}$ のコンパクト近傍の減少列 $\{L_{m}\}_{m\in \N}$ であって極限が $s(K)$ であるものを取りますEuclid空間のコンパクト部分集合 $L$ に対してはその $1/(m + 1)$ 閉近傍を $L_{m}$ として列を取ればその極限が $L$ になります。$s(K)$ に対しては座標近傍に含まれるコンパクト部分集合による有限和に分解してそれぞれに $L$ と同様の構成をすればよいです。。射影 $\pi : \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}\to X$ を取り、$A_{m} := \{x\in X\mid \#(\pi^{-1}(x)\cap L_{m})\geq 1\}$ とおきます。各 $A_{m}$ はコンパクト閉集合であり、また、極限 $\lim_{m\to +\infty}A_{m} = \varnothing$ が成立します。よって、ある非負整数 $p$ について $\pi|_{L_{p}}$ は単射、従って、埋め込みですコンパクト空間からHausdorff空間への連続単射は埋め込みでした。。その像は $K$ の近傍であり、ある $K_{q}$ はそこに含まれ、$s$ は $K_{q}$ における切断 $s_{q}$ に拡張し $\varphi([s_{q}]) = s$ を満たします。以上により $\varphi$ は全射です。
(step 3) 容易です。
(iv) 互いに非交叉かつ局所有限な $\mathcal{K}_{X}$ の列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ であって各 $K_{m}$ について主張が成立しているものを取ります。$K := \bigcup_{m\in\N}K_{m}$ とおきます。列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ に対してこれを分離する互いに非交叉な開近傍列 $\{U_{m}\}_{m\in\N}$ を取れば各 $K_{m}$ のコンパクト近傍 $L_{m}$ を $i < m$ に対して $L_{i}\cap L_{m} = \varnothing$ かつ $i > m$ に対して $L_{m}\cap K_{i} = \varnothing$ であるように添字の小さいほうから順に取っていきます。仮定から $\bigcup_{i < m}L_{i}\cup \bigcup_{i > m}K_{i}$ が $K_{m}$ とは交わらない閉集合であることに注意。そして、$U_{m} := \Int L_{m}$ とおけばよいです。、切除同型\[H_{q}(X, X\setminus K; \mathcal{M})\cong \bigoplus_{m\in\N} H_{q}(U_{m}, U_{m}\setminus K_{m}; \mathcal{M})\]が成立します。同様の同型\[\Gamma_{0}(K; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\cong \bigoplus_{m\in\N} \Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\]も容易に確かめられます。各 $K_{m}$ に対する結果から $K$ についても主張は成立します。
このことから示したかった結果が得られます。
$X$ を $n$ 次元位相多様体とする。
(1) 命題4.2.41から従います。
(2) $X$ のコンパクト部分集合の増大列 $\{K_{m}\}_{m\in\N}$ であって $\bigcup_{m\in\N}K_{m} = X$ かつ常に $K_{m - 1}\subset \Int K_{m}$ を満たすものを取ります。命題4.2.35の短完全系列\[0\to {\varprojlim_{m}}^{1} H_{\bullet + 1}H(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to H_{\bullet}^{\lf}(X; \mathcal{M})\to \varprojlim_{m}H_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to 0\]と $H_{q + 1}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})$ が $q\geq n$ において自明であること $($命題4.2.41$)$ から同型\[H_{q}^{\lf}(X; \mathcal{M})\cong \left\{\begin{array}{ll}\underset{m}{\varprojlim}H_{q}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M}) & (q = n) \\0 & (q > n)\end{array}\right.\]が成立します。明らかに同型\[\varprojlim_{m}\varrho_{K_{m}} : \varprojlim_{m}H_{\bullet}(X, X\setminus K_{m}; \mathcal{M})\to \varprojlim_{m}\Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\]が成立し、あとは準同型\[\Gamma(X; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})\cong \varprojlim_{m}\Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}) : s\mapsto (s|_{K_{m}})_{m\in\N}\]が同型であることを示せばよいです。単射性は自明であり、全射性も $(s_{m})_{m\in\N}\in \varprojlim_{m}\Gamma_{0}(K_{m}; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M})$ に対して $s(x) = s_{m}(x) \ (x\in K_{m})$ とすることで常に $s|_{K_{m}} = s_{m}$ を満たす切断がwell-definedに取れるのでよいです。よって、同型です。
(3) 境界 $\partial X$ のカラー近傍 $\partial X\times [0, 1]$ を固定します。このとき、\begin{eqnarray*}H_{n}(X, \partial X; \mathcal{M}) & \cong & \varprojlim_{m}H_{n}(X, \partial X\times [0, \tfrac{1}{m}); \mathcal{M}) \\& \cong & \varprojlim_{m}H_{n}(\Int X, \partial X\times (0, \tfrac{1}{m}); \mathcal{M}) \\& \cong & H_{n}^{\lf}(\Int X; \mathcal{M}) \\& \cong & \Gamma(\Int X; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}) \\& \cong & \Gamma(X; \mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{M}) \\\end{eqnarray*}です。
特に重要なのが次の同型であり、Poincaré-Lefschetzの双対定理において中心的な役割を果たす基本類が定義されます。
$X$ を連結 $n$ 次元位相多様体とする。
これらの生成元を $X$ の基本類と呼び、$[X], [X, \partial X]$ で表す。ここでは $\mu_{X}, \mu_{X, \partial X}$ とも表す。また、それぞれ非連結な場合にも連結成分ごとの生成元の和として基本類を定める。
同型 $\mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{O}_{X}\cong \underline{\Z}_{X}$ と定理4.2.42から従います。
簡単のため閉位相多様体を考えます。局所homology群の生成元 $o_{x}\in H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \Z)$ はその取り方によらず一意に $H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \Z)\otimes H_{n}(X, X\setminus \{x\}; \Z)$ の生成元 $o_{x}\otimes o_{x}$ を定めます。これを $1\in \Z$ に移すようにして標準的に同型 $\mathcal{O}_{X}\otimes \mathcal{O}_{X}\cong \underline{\Z}_{X}$ を固定することが可能です。そして、向きの局所系を係数とした基本類 $[X]\in H_{n}(X; \mathcal{O}_{X})$ を恒等的に $1$ を取る切断として標準的に取ることが可能です。
コンパクトな連結 $n$ 次元位相多様体に対し、$\Z_{2}$ 係数ではその向き付け可能性によらず同型\[H_{n}(X, \partial X; \Z_{2})\cong \Z_{2}\]が成立し、その生成元は $X$ の $\mathrel{\mathrm{mod}} 2$ 基本類と呼ばれます。
以下、基本類について成立する事実を並べますが、いずれも明らかです。
$X, Y$ をコンパクトな連結位相多様体とする。$X, Y$ の基本類 $\mu_{X, \partial X}, \mu_{Y, \partial Y}$ のクロス積 $\mu_{X, \partial X}\times \mu_{Y, \partial Y}$ は $X\times Y$ の基本類である。
境界を持つコンパクトな連結 $n$ 次元位相多様体 $X$ に対し、対 $(X, \partial X)$ のhomology完全系列における連結準同型\[\partial_{*} : H_{n}(X, \partial X; \mathcal{O}_{X})\to H_{n - 1}(\partial X; \mathcal{O}_{\partial X})\]による $X$ の基本類 $\mu_{X, \partial X}$ の像 $\partial_{*}(\mu_{X, \partial X})$ は境界 $\partial X$ の基本類である。
コンパクトな連結位相多様体に対して次は同値である。
簡単のため閉位相多様体のみ扱います。ここでは位相多様体が向き付けられているということをその向きの局所系への切断であって各点ごと生成元が対応するものを $1$ つ固定することで定義していましたが $($定義4.1.20$)$、一般的には $\Z$ 係数についての基本類を $1$ つ固定した状況をそう呼ぶことが多く、ここでもその意味でも考えます。というのは、同型 $\varrho_{X} : H_{n}(X; \Z)\to \Gamma(X; \mathcal{O}_{X})$ によって向きと基本類が一対一に対応しており、応用上は基本類の方がよく現れるからです。
写像度についても少しまとめます。
$X, Y$ を向き付けられたコンパクトな連結 $n$ 次元位相多様体とする。連続写像 $f : (X, \partial X)\to (Y, \partial Y)$ に対し、ある整数 $d\in \Z$ が存在して $f_{*}(\mu_{X, \partial X}) = d\mu_{Y, \partial Y}$ が成立するが、この整数 $d$ を連続写像 $f$ の写像度と呼ぶ。$\deg f$ により表す。
以下、簡単のため主に閉位相多様体で考えますが境界を持っても同じです。次の性質は明らかでしょう。
写像度のhomotopy不変性についてはもう少し一般に次の形で成立します。
$X_{0}, X_{1}, Y$ を向き付けられた連結 $n$ 次元閉位相多様体とし、連続写像 $f_{i} : X_{i}\to Y \ (i = 0, 1)$ が与えられているとする。もし、$\partial W = X_{1}\sqcup \overline{X_{0}}$ を満たす向き付けられたコンパクトな連結 $n + 1$ 次元位相多様体 $W$ が存在し、$f_{0}, f_{1}$ が連続写像 $F : W\to Y$ 拡張するならば $\deg f_{0} = \deg f_{1}$ が成立する。
空間対 $(W, \partial W)$ のhomology完全系列における連結準同型 $\partial_{*}$ に対して $\partial_{*}(\mu_{W, \partial W}) = \mu_{X_{1}} - \mu_{X_{0}}$ が成立することに注意します。連結準同型の自然性を連続写像 $F : (W, \partial W)\to (Y, Y)$ について用いて計算すると\begin{eqnarray*}(\deg f_{1} - \deg f_{0})\mu_{Y} & = & (f_{1})_{*}(\mu_{X_{1}}) - (f_{0})_{*}(\mu_{X_{0}}) \\ & = & (\partial F)_{*}(\mu_{X_{1}} - \mu_{X_{0}}) \\& = & ((\partial F)_{*}\circ \partial_{*})(\mu_{W, \partial W}) \\& = & (\partial_{*}\circ F_{*})(\mu_{W, \partial W}) \\& = & 0\end{eqnarray*}です。等式の最後は $F_{*}(\mu_{W, \partial W})\in H_{n + 1}(Y, Y; \Z) = 0$ から従います。
$X, Y$ を向き付けられた連結 $n$ 次元閉位相多様体とし、連続写像 $f : X\to Y$ が与えられているとする。もし、$X$ を境界に持つ向き付けられたコンパクトな連結 $n + 1$ 次元位相多様体 $W$ と $f$ の $W$ への拡張が存在するならば $\deg f = 0$ が成立する。
写像度は次の事実から計算できることがあります。
$X, Y$ を向き付けられた連結 $n$ 次元閉位相多様体とし、連続写像 $f : X\to Y$ が与えられているとする。また、固定した基本類から各点 $x\in X$, $y\in Y$ に定まる局所的な向きを $o_{X, x}, o_{Y, y}$ のように表し、局所homology群の間の誘導準同型は $(f_{*})_{x}$ で表すとする。点 $y_{0}\in Y$ に対し、逆像 $f^{-1}(y_{0})\subset X$ が離散的であれば\[\sum_{x\in f^{-1}(y_{0})}(f_{*})_{x}(o_{X, x}) = \deg f\cdot o_{Y, y_{0}}\]が成立する。さらに、各 $x\in f^{-1}(y_{0})$ において $f$ が局所的な同相を定めているとき、各点ごと向きを保つかどうかにより定まる符号 $\sign (f_{*})_{x}$ を用いて\[\deg f = \sum_{x\in f^{-1}(y_{0})}\sign (f_{*})_{x}\]が成立する。
$X$ を向き付けられた連結 $n$ 次元閉位相多様体、$\pi : \hat{X}\to X$ を被覆度 $d$ の被覆空間とする。このとき、$\deg \pi = d$ が成立する。ただし、$\hat{X}$ の向きは射影の誘導する準同型 $\mathcal{O}_{\hat{X}}\to \mathcal{O}_{X}$ による $X$ の向きの引き戻しとして与える。
円周 $S^{1}$ を複素数体 $\C$ における単位円周とみなし、整数 $d\in \Z$ に対して自身への連続写像 $f_{d} : S^{1}\to S^{1} : z\mapsto z^{d}$ を取ります。明らかに $\deg f_{d} = d$ です。任意の $d, d'$ に対して $f_{d'}\circ f_{d} = f_{dd'}$ であり、この場合には確かに $\deg f_{d'}\circ f_{d} = \deg f_{d}\cdot \deg f_{d'}$ が成立しています。
また、この $f_{d}$ に $n - 1$ 回懸垂を施すことで得られる写像 $S^{n - 1}f_{d} : S^{n}\to S^{n}$ については懸垂同型の自然性から $\deg S^{n - 1}f_{d} = d$ が従います。
$X, Y$ を向き付けられた連結 $n$ 次元可微分閉多様体、$f : X\to Y$ を $C^{\infty}$ 級写像とします。Sardの定理より存在の保証される $f$ の正則値 $y\in Y$ を取るとき、各 $x\in f^{-1}(y)$ ごと微分写像 $(df)_{x} : T_{x}X\to T_{y}Y$ は線型同型であり、与えた向きに従って符号 $\sign (df)_{x}$ が考えられます。この総和 $\sum_{x\in f^{-1}(x)}\sign (df)_{x}$ は正則値 $y$ の取り方によらず一定であることが示されもちろん、ここで行った基本類を用いた議論を経由せずです。詳細は[ミルナー 微分トポロジー講義]を参照。、$C^{\infty}$ 級写像に対してはよくこれを写像度として定義します。$\sign (df)_{x}$ は命題4.2.54で考えた符号 $\sign (f_{*})_{x}$ に一致し、従って、命題4.2.54の公式と合わせて位相多様体で考えた写像度に一致することが分かります。
写像度に関連する有名な事実として次のHopfの定理があります。証明は[ミルナー 微分トポロジー講義]にあります。
$X$ を向き付けられた連結 $n$ 次元可微分閉多様体とする。$C^{\infty}$ 級写像 $f, g : X\to S^{n}$ に対して次は同値である。
以上です。
特になし。
参考文献
更新履歴